サキュバス化催眠アプリ 〜巨乳黒髪眼鏡の図書委員の彼女に〜 作:Rオウ
第10話 ガール・ミーツ・ボーイ
朝の光がカーテンを明るく染め上げて、少し肌寒い室温がむしろお布団の温かさを至福のものにしている。
微睡みの中、瞼が少しだけ開いて……気付いたらぬくもりに包まれて目を閉じている。
それを繰り返しながら身体がお布団の中に溶け込んでいく。
「はふぅ……」
天国だ。
ここはきっと天国なのだ。
「
ダイニングの方でお母さんが何か言ってるけど、お布団の魔力には抗えないのだ。
だから5分。あと5分でいいからお布団に包まれていたい。
だけど無情にもお布団がばさっと捲られてしまう。
「もう、お姉ちゃん、さっさと起きなよ!」
「イヤ」
「いや、じゃないでしょ? 今日高校の入学式だって忘れてない? 困るのはお姉ちゃんなんだよ!?」
妹の
お布団に包まれて惰眠を貪るより大事なことなんて何もない。
「ん? 入学……式?」
「そうだよ、今日は4月8日。高校の入学式でしょ?」
「あっ! あぁっ!?」
ガバっと跳ね起きる。
そうだった、今日は入学式だった!
なんで忘れてたの、私っ!
「ほら、ここなんかすごい寝癖になってるよ? 昨日の夜、なんにも考えずにそのまま寝たんでしょ? 直すの大変だよ、コレ」
「あわわ、そんなことより起きなきゃ!」
◇◇◇◇◇◇
ダイニングのテーブルにはお母さんが用意した朝食が並んでいた。
お父さんはもうとっくに会社に出かけてしまったようで姿が見えない。ダイニングにはお母さんと妹の翠しかいない。
お母さんも働いててお父さんと共働きなんだけど、今日は私の入学式のために休みを貰っているのだ。
「んっんっんっ」
牛乳の入ったコップを傾けて胃に流し込む。
寝癖が付いて乱れた髪は背後に立った翠がドライヤーで直してくれてる。
「ぷはっ」
牛乳を飲み干してからテーブルに並んでいる朝食を手当たり次第口の中に放り込む。
時間がないので朝食抜き、というのはありえない。最近妙にお腹が空くので朝食はとても大事なのだ。
栄養たっぷりの食べ物を胃に収めておかないと、なぜか落ち着かない。
「いい青子。今日から高校生だけど、16歳の誕生日まであと半年しかないんだから、高校ですぐにでも
「またその話? もう分かってるって何度も言ったでしょ」
鶏の胸肉のサラダにドレッシングをぶちまけて口に運ぶ。
「分かってるように見えないんだよ。お姉ちゃん、ほんと危機感無いよね? このままだと本当に
「翠なんか12歳でちゃんと
テーブルで向かい合わせに座ってるお母さんが、頬に手を当ててため息をついた。
「あーもう、うるさいうるさい」
「お姉ちゃんってさぁ? より好みし過ぎてるんだよ。そこらへん歩いてる男子の中から適当に選べとまでは言わないけどさ。中学の時、何人かお姉ちゃんのこと好いてるっぽい男子いたでしょ? なんで全員フッちゃうかなぁ」
「……だってピンっとこなかったし」
「だからそれが面食いっていうのよ?」
お母さんが呆れたように言う。
「お、お母さんだって
「っ!?」
お母さんの顔色が変わった。
「ち、違います。お母さんはちゃんと中学の時から
「タイミング? お父さんに催眠アプリ使うように仕向けて襲わせたくせに!」
「な、なんてこと言うの!? いえ、なんで知ってるの!?」
「お父さんからこの前聞き出したもん」
「あぁ……あ、
お母さんが珍しく狼狽えてる。
いつも私ばっかり責められてるけど、お母さんだって私と同じなのに上から目線が酷過ぎるのだ。
「ねぇ、お母さん。私もお父さんからソレ教えて貰ったけど?」
横から翠がトドメを刺した。
「ぎゃああああっ! あの人は、ほんとにあの人は!」
「それに町会長さんからも昔話で、お母さんが作ったアレでたくさんの子が
更に追い打ちをかける。
「あぁ、止めて止めて! それ黒歴史なの。お母さんを虐めないで」
「ねー、話がすっごい逸れてってるよ? お母さんの話じゃなくてお姉ちゃんが高校で
ドライヤーとブラシで寝癖を直してくれてる翠が呆れてる。
「ほら、これで大丈夫だよお姉ちゃん」
「あ、ありがと」
「ほら、お母さんも。もう出かけないと入学式に遅れちゃうよ? 受付とかすごく並ぶでしょ?」
「え、ええ……そうね」
ちょっと言い過ぎたかも知れない。
この雰囲気のままお母さんと高校の入学式に行くのはなかなか気まずい。
「あの……お母さんごめんなさい」
「いいわよ、別に。ギリギリだったのは……事実だし」
◇◇◇◇◇◇
夕暮れの残光が雲を薄赤く染める頃、お父さんが帰宅してきた。
私と翠はリビングのソファに座りってTVを見ながら母さんと話してるところだった。
「あ、お父さんおかえり〜」
「ただいま。青子、今日入学式行けなくてごめんな。それで、どうだった?」
心配そうな視線を私に向けてきた後、お父さんはお母さんに顔を向けて尋ねた。
「入学式は無事に終わったんだけどね」
お母さんは肩を竦めながらため息をついた。
そう、入学式なんかよりもっと大切なことが起こったのだ。
是非ともお父さんに聞いてもらいたい。
「お父さん、聞いて聞いて! あのね、とうとう見つけたの、私の
テーブルを手でパンと叩く。小気味よく鳴った音がリビングに響く。
だめだ、この嬉しさはこの程度では表現できない。
「え? 初日で!? ほんとに? いくらなんでも早すぎない?」
「一日どころか、半日でそんな関係になれるわけないでしょ。青子が勝手にその男の子を番認定してるだけなのよ」
「……あぁ、なんだそういうことか。びっくりした」
お父さんが鞄を置きながら、明らかにホッとした表情を浮かべてる。
着替えないでネクタイを緩めながらお母さんの隣に座り、私の方を見て言う。
「まあ、お父さんとしては焦って変な男を捕まえるより、青子にはじっくり探して欲しいと思ってるんだ」
「じっくり構えてた結果が今なんじゃないの? 朝も言ったけどお姉ちゃんは危機感が無さすぎるのよ」
翠が手に顎を乗せて冷めた目で言い放った。
「まあそうかも知れないけど、翠は翠でちょっと早すぎだったんじゃないかなぁって……お父さん割りとショックだったし……」
「でも裕二さん。番の儀式は成人になる16歳までに済ませないとダメなのは知ってるでしょ?」
「……知ってるけどさ。一般社会通念とは少しズレてるところがちょっと受け入れがたいと言うか」
「最近は普通の子たちも高校生くらいになれば割りとしてるでしょ?」
「まあ、他所のお子さんはそうだとしても自分の娘のことだとなかなか……」
「お父さんだって15歳の時にお母さんとしたでしょ? 番の儀式」
お父さんとお母さんは学校の同級生なのだ。
お母さんが15歳で番の儀式をしたなら当然お父さんも同じ歳でしてる。
「まあ……ね。若かったとはいえ、褒められた行動ではないどころか、完全に犯罪……くっ。お父さんは人として過ちを」
お父さんの眉毛が持ち上がって眉間にぎゅっとシワが寄った。
そして顔を顰めたまま、お父さんの口から後悔の
「裕二さん、そういうのはもういいので」
「……そういうわけにはいかんだろう」
「裕二さん?」
「あ、はい」
お母さんが優しく微笑むとお父さんがいつものように黙り込んだ。
「……ところで、青子たちに私たちの馴れ初めを話したみたいですね?」
「え? あぁ……まぁ、その……」
お母さんがお父さんの手を握って引っ張り上げながら立ち上がった。
「ちょっとお話をしたいので寝室に行きましょうか?」
「待って、ちょっと待ってくれ
「裕二さん?」
「あ、はい」
有無を言わさずお母さんがお父さんを寝室へ連行しようとしてる。
もう見慣れた光景なのでスルーしつつ、忘れないうちに聞いておく。
「お母さん、晩ごはん先に食べていい? 冷蔵庫の中にお寿司入ってるでしょ」
「裕二さんとのお話は手早く済ませるから、みんなで食べましょう。青子の入学祝いなんですから」
「んー、分かった。じゃあ準備だけしておくね」
◇◇◇◇◇◇
「それで、その青子が見初めたという
ダイニングのテーブルに広げたお寿司をみんなで食べながら、話題は当然
「名前は
「ほー、ヒロシくんというのか」
お父さんがお寿司を皿に取りながら、私の話に相槌をうっている。
「もう聞き飽きた」
翠がうんざりしたように横から口を挟み、トロを二貫皿に取った。
「まぁまぁ」
「写真もちゃんと撮ってあるの。ほら、これが彼の写真!!」
お父さんにスマホの画面が見えるように差し出した。
教室で、中学からの友人らしき男子と話してる鬼頭くんをこっそり隠し撮りしたやつだ。
翠が横からスマホの画面を覗き込み、呆れながら酷いことを言う。
「……お姉ちゃんてさあ? ほんと身の程知らずだよね?」
「ほう……この子が鬼頭くんか。うん、真面目そうな子だね?」
うんうん、お父さんは翠と違ってちゃんと見てくれてる。
「えっ!? お父さん、感想それだけ? 遠慮しないでお姉ちゃんにガンって言ってやってよ」
呆れ顔の翠がお父さんを焚き付けてる。翠の私への当たりがなぜかやたら強い。
一体何が気に入らないのか。
「ガンって何がだい? 写真を見た限りごく普通の男の子のようだけど、まあ穏やかそうな雰囲気があるし、いい子そうではあるよね。のんびりした青子とはお似合いかもしれないな。見た目の第一印象だけだけどね」
「えぇ? お父さん目がおかしいんじゃない?」
「ほらぁ、やっぱり翠の方がおかしいんだって」
私の理想は別に高くない。
ごく普通の男子で、心にピンと来るだけでいいのだ。
そもそも鬼頭くんは別に目を引くようなイケメンではない。まあブサイクでもないし、ちょっと顎と鼻のラインが整ってるかなとは思うけど。あと瞳もすごく綺麗だとは思う、睫毛が男子にしては長いし。
「そんなことないって! そうだ、お母さんはどう思う!?」
もくもくとお寿司を食べていたお母さんがチラリと鬼頭くんの画像に視線を向ける。
翠もそうだけど、お母さんにももう何度も見せている。
「まぁねぇ……その……なんというか」
なぜか歯切れが悪い。
「ようやく青子が見つけた番候補に色々と言いたくないけど……お母さんもちょっと青子は図々しいかなって……」
「ずっ、図々しい!?」
私から顔を背けながらお母さんが酷いことを言う。
実の娘に向かって図々しいなんて言葉、普通使う!?
どういうこと!?
「んん? 文子、図々しいってどういうことだい? まあ、青子はちょっと……いや、かなりのんびり屋さんなところがあるけど、見た目だけなら可愛らしい方だと思うんだが。なにより私たちの娘じゃないか」
「そうだよ、お母さん酷くない? 朝は番候補見つけてこいって言ったくせに、見つけてきたら図々しいって言われたらすっごい傷つくんだけど」
「私だって自分の娘がこんなに面食いだったとは思わなかったし……」
「だよね! お姉ちゃんって怠けて番見つけてこなかったんじゃなくて超イケメン好きだったと判明!」
「そんなことない! そんなことないよ!?」
翠の言いがかりが酷すぎる。
イケメン好きじゃないのに!
「文子も翠もちょっと変じゃないか? このヒロシくん、普通の容姿にしか見えないんだけど?」
「………………」
お父さんがそう言うと、お母さんも翠も黙り込んだ。
なんでこんなことで平行線になるのかほんと分かんない。
お母さんと翠の男性の好みの部分に鬼頭くんがクリティカルヒットでもカマしてるのかなぁと思いながら好物のイカの握りをパクっと頬張った。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
土曜日のお昼過ぎ。
お父さんお母さんと私の三人で、町会長さんのお家を訪ねてバスを乗り継いで隣町までやってきた。
妹は
書類を提出するだけなので私も行く必要はないと思うんだけど、無理やり連れてこられた。
町会長さんに心配かけたんだからちゃんと面前で報告しなさいだって。
「ほら、町会長さんのお宅に着いたんだから、膨れっ面は止めなさい」
お母さんから注意されたので、慌てて両手て頬をパチパチと叩いてリセットする。
「でも相変わらず凄い家だよね」
門構えからして違う。こういうのって数寄屋門って言うんだっけ?
木製の引き戸になぜか屋根瓦が乗ってるやつだ。
しかも道路から門まで石の階段がしばらく続いてる。
根っから庶民の私は心が怖気づくんですけど。
「私たちの先祖って西洋から流れてきたのに純日本風の建物って変じゃない?」
「こら、余計なこと言わない」
純日本家屋もそうだけど、大きな日本庭園まで揃ってて敷地自体の大きさが並ではない。
用事がなければ近づきたくない。
私は心の底まで小市民なのだ。
お父さんが門の壁に付いてるインターホンを押して名前を名乗ると、すぐに返事が返ってきた。
事前にアポイント取ってたので、相手も待ち構えていたのだろう。
電動モーターでも仕込まれてるのか、門が自動で開いて中に招き入れられた。
中庭を通り抜け、玄関で待っていたお手伝いさんにこちらへどうぞと案内されて客間らしき和室に通された。
和室と言ってもうちの家みたいにただ畳が敷いてあるだけの部屋とはワケが違う。
お父さんとお母さんの三人で座布団に座って小さくなりながらしばらく待っていると、もっのすごく綺麗に歳を取られた和服姿の年配のご婦人がやってきた。佐久場町会長さんだ。
銀髪に見えるけど白髪だよね、アレ。
なんであの歳であんなに艶があるんだろ。
昔は相当な美女だったはず、いや今でも美魔女っていうのかな?
「佐久場町会長、ご無沙汰しております」
「よくいらっしゃいました、久米家の皆さま」
町会長さん、日本舞踊でもやってるのか所作の一つ一つが丁寧で様になってる。
そして私を見てにっこり微笑む町会長さん。
……やっぱり心配されてたのだろうか?
◇◇◇◇◇◇
「この度は本当におめでとうございます。青子さんにようやく気になる男性が現れたと伺って、胸のつかえが取れたようです」
お母さんが渡した書類一式をペラペラとめくりながら町会長さんが嬉しそうな表情を浮かべてる。
番の男性は候補の段階から市役所に提出しておく必要がある。それを取りまとめているのが町会長さんで、番候補の男性が運悪くバッティングしてしまった時の調整なんかも町会長さんがやる。
「青子さんの同世代は全員すでに
「うっ……す、すみません」
やばい。
やっぱり付いてくるんじゃなかった、針の筵じゃないか。
「まさかこのまま
「い、いえそんなつもりは毛頭なくてですね……」
居心地が大変悪くなってきたので、私は俯いて畳の目を数え始める。
「分かっておりますとも。こうやって番候補の…………ん?」
「ん?」
顔を上げて佐久場町会長さんの顔を見る。
書類に不備でもあったのだろうか?
……なぜか固まってしまった町会長さんを、お父さんとお母さんも不思議そうに見てる。
「……ず」
「ず?」
「コホン。……失礼。少々びっくりしてしまいまして。あの、青子さん? 貴方……この男子をちゃんと勝ち取れますの?」
「勝ち取る?」
町会長さんの言葉にお母さんがフンフンと頭を上下に振って頷いているのは無視する。
「争奪戦が激しそうだなと少し心配になりまして」
「えっと、普通に……友達から始めようかなって思ってたんですけどダメでしょうか?」
出会った少年少女がゆっくりと恋に落ちていく少女漫画や小説は大好きなので、自室の本棚にかなりの蔵書があるし、Web小説のブクマは数知れない。
これから自分自身の身に実際に起こると思うとドキドキが止まらない。
「青子さん、男性とお付き合いしたことは?」
「いたら今頃番候補とかの事態になってませんけど」
「……では、学校で男子の友人とかいました?」
「いたことないですけど」
現実は厳しい。
「………………」
「………………」
「最悪、青子さんが
気の毒なことを聞いてしまったとでもいうように私から目を逸らしつつ、町会長さんが割と酷いことを言う。
「なんでっ!?」
◇◇◇◇◇◇
「あはははっ!」
ムカつく。
「傷つくんだけど?」
「ごめんねお姉ちゃん。でもお見合い相手用意してくれるなら良かったじゃない」
「お見合いとかしないし。鬼頭くんと番になってみせるから、見てなさいよ」
「でも町会長さんの言う通り難しいと思うよ。絶対ライバル多いだろうし。それにお姉ちゃん眼鏡で大分損してるから」
「この眼鏡結構気に入ってるんだけどね」
掛けていた黒縁の丸眼鏡を外す。この眼鏡に度は入っていないので外しても不便はない。
だけど外したまま外出すると大変なことになる。
「鬼頭くんの前で眼鏡外せば魅了の魔眼で一発なんだけど、それしちゃうと警察に捕まっちゃうし……それ以前にそんなことしたくないし」
サキュバスは生まれつき全員が魅了の魔眼を持っている。
日本の社会で暮らしていくのにあたって、魅了の魔眼を使うことは許されていない。
政治家とか、大きな組織の偉い人とかやりようによっては社会が大混乱に陥る。
善良な市民であろうするため、サキュバスは自ら魅了の魔眼は封印している。
成人になる前は特殊な眼鏡で魅了の効果を封じ込め、番の男性を得たらその術式の効果で魅了の魔眼は失われる。なので翠は1年前に眼鏡を外して裸眼に戻ってる。
「お姉ちゃんってすっごく綺麗な琥珀色の瞳だし、ヒロシくんに素顔をちゃんと見せられたら魅了の魔眼とか関係なしに惚れられる可能性があるとは思うんだけどね。お姉ちゃん、見た目だけは美人だし」
魅了の魔眼は個人個人で微妙に違ってて、魔眼を封じ込めるためにワンオフで作られた眼鏡には、基本構造として逆方向の波長を発生させる術式が組み込まれてる。その副作用で眼鏡をかけた私は人畜無害なごく普通の顔に見えてしまう。
中学の時は顔は普通でスタイルだけ良い女と思われてしまったらしくて、身体目当ての変な男子しか寄ってこなかった。
まあ過去のことはもう良いけど、おかげで男子との交流はほとんどなくて恋愛経験値がゼロのまま。それで鬼頭くん相手に予行演習なしでいきなり本番を始めなきゃいけないのはちょっと厳しい。
「あぁ……恋愛スキルクソ雑魚の自分が恨めしい」
「ヒロシくんが愛の力でお姉ちゃんの素顔をいきなり透視しちゃうとか」
「そんな便利な愛の力なんかあるわけないし、そもそもまだ面識すら……というか翠はどうやって淳さん捕まえたの? 淳さん大学生だし接点なかったよね?」
翠だって条件は私とそう変わらなかったはずなのに、1年前にいきなり淳さんを家族に紹介してきたのだ。
「小学校から下校中に普通に声掛けられたよ?」
「犯罪者じゃん! というかそれでOKしちゃったの?」
「うん、好みだったし」
だめだ、翠は参考にならない。
事案だし。いや、番になったからもう事案じゃないけど。
「あー、ほんとどうしよう!?」
空いているソファに頭からダイブして、バインと跳ねる。
「そりゃ速攻しかないでしょ」
「速攻?」
「ライバル出し抜くなら誰よりも早く動いて、ヒロシくんの隣の位置を既成事実化するしかないんじゃない?」
「お……おぉ!?」
「週明けすぐにでも動いた方がいいよ。入学式直後ってふわふわしてて、ヒロシくんが既に他の女子に目をつけられてたとしても初動は多分遅いし。早い者勝ちだよ、きっと」
「は、早い者勝ち!?」
ソファで上半身を起こし、翠を見る。
「恋愛なんて大抵そうでしょ。お姉ちゃん眼鏡の副作用のせいでちょっと不利だけどブスじゃないし、同じクラスなんだから、とにかく同じ部活とか同じ委員とか何でもいいから、ヒロシくんの横を定位置にしちゃえ」
やばい!
中学生の妹が百戦錬磨の恋愛神に見える!
「おぉ……神よ!」