サキュバス化催眠アプリ 〜巨乳黒髪眼鏡の図書委員の彼女に〜 作:Rオウ
── 月曜日 ──
週が明けて、二日ぶりに会った青子さんの様子がすごく変だ。
朝からずっと上の空と言うか。ぼーっと物思いに耽ってたり時々思い出したように顔が真っ赤になるし。
照れながら自分の机を手でパンパンと叩いたりしてる。挙動不審過ぎる。
「ねぇ青子さん、どうしたの? なんか今日変だよ?」
「え? そ、そうかな?」
昼休み、机をくっつけて青子さんと弁当を食べながら、朝から思ってたことを直接聞いてみた。
「うん、なんかそわそわしてるっていうか」
実はそわそわだけじゃなくて、デヘヘって感じで顔が破滅的に時々崩れてしまってることまでは言わないほうが良いだろうな。
多分自覚してないだろうし。
「これが私の普通だけど?」
今はキリっと澄ました顔をして怪訝そうな目で僕を見てる。顔は真っ赤だけど。
「そう?」
まあ女子の場合は体調とかの微妙な問題に関係してたらアレだし突っ込まない方が良いか。
そんなに引っ張るようなネタでもないし。
箸を伸ばして青子さんの弁当箱から唐揚げを一つ摘まみ、口に放り込む。
「うん、美味しい。青子さんは料理が上手だよね」
こう言うといつも青子さんは「ありがと」って返してくれるのに今日はなぜか胡乱な目で僕を見ている。
やっぱりいつもと違うな、青子さん。
「そうだ、ヒロくん。私ちょっとトイレに行ってくるね」
「ん? ああ、どうぞ?」
お弁当を食べ終えたので机を元の位置に戻してると青子さんがそう言った。
彼女がそんなことを僕に言うのは珍しいな。
「N棟の3階のトイレに行くつもりなの。知ってる? 昼休みだとそのトイレは誰も使ってないの」
「へー、そうなんだ?」
「周りの教室も使われてないから誰もいないんだよ?」
「へー」
「付いて来てもいいよ?」
「え? なんで?」
男女で連れションってあんまり聞いたこと無いな。
音を聞かれたくないだろうし。
だけど、青子さんは僕の返事を聞いたら少しがっかりしたようだ。
時々青子さんが何考えてるのか分からないことがあるけど、今日はそれだな。
── 火曜日 ──
昼休みは図書室のカウンターで本の貸出返却対応をする。
図書委員の普通のお仕事だ。
図書室を開いてすぐは貸出や返却処理が集中するけど、その時間が過ぎれば割と暇になる。
もちろん僕の隣には青子さんが座っているので、僕にとってはご褒美タイム以外の何物でもない。
教室と違って図書室は静かなので勉強熱心な生徒や僕たちみたいに本が好きな生徒が机に座って自習したり本を読んでたりする。
まあそういう生徒も昼休みが終わる少し前には教室に引き上げちゃうので、昼休みが終わる頃には青子さんと二人っきりになれる。誰もいないからクラスメイトの目を気にせずに雑談したりできるので僕にとっては楽しみな時間だ。
「──あの人って3年かな?」
あの先輩はいつも昼休みが残り10分を切ったら引き上げるんだけど、今日は珍しく残って自習し続けてる。真面目で勉強家なんだな。
だけど青子さんはさっきからすごく機嫌が悪い。昼休みが始まってから時間が経つに連れて加速度的に彼女の機嫌が悪くなっていってる。
彼女がここまで機嫌が悪くなるのは珍しいな。
あ、もしかして?
「青子さん、用事があるなら先に教室に戻ってていいよ? 僕が最後まで残ってるから」
「ううん? よ、用事なんかないから大丈夫よ」
「そう? 教室でなにか用事があるからそんなに焦ってるんじゃないの?」
よく見れば彼女は機嫌が悪いというよりそわそわしていた。
「あ、焦ってなんか無いよ。普通だし」
「ふーん」
机で自習していた先輩がちらりと僕たちの方を見た。
おっと、五月蠅かったか。
図書室では静かに、だな。
……結局その先輩は昼休みの終わる2分前まで自習し続けていたので僕たちも教室に帰るのはギリギリになってしまった。
「チッ……さっさと帰ればいいのに……」
なんか、青子さんが悪態をついたような気がしたけどきっと空耳だ。
青子さんが舌打ちなんかするわけ無いし。
── 水曜日 ──
青子さんが今日も朝からイライラしている。
もしかして生理なのだろうか?
今週に入ってから青子さんの雰囲気がいつもと違ってたし、そういうことだったのかな。
重いとすごく苦しいと聞く。青子さんは重い方なのだろうか?
男子の僕では本質的には理解できないだろうし、かといって気を使うのもどうなんだろ?
実は最近、ノンデリって言葉を知った。
デリカシーが無いことをそう呼ぶみたいだ。
生理の話題を出すとか気を使うのもノンデリにあたるのだろうか?
生理であることを知られるのが嫌な女子もいるだろうし。
うーん。
きっと僕は普段通りにしていた方が良いんじゃないだろうか。
そしてソレとは気付かれない程度に気を使うとか。
というわけで、イライラしてる青子さんを刺激しないように近づかないようにする。
なあに、休み時間は大抵スマホで『小説を読みましょう』でブクマしてる作品の続きを読んでるんだ。
青子さんと話す時間をいつもよりほんのちょっと削るだけだ。
椅子に座ってスマホで小説読んでるとなぜか視線がチクチク刺さってくるな。
椅子に座ってスマホでネット小説を読んでるだけの僕が注目を浴びるわけがないんだけど。
……顔をスマホに向けたまま、こっそりと視線の主を探す。
なんだ、青子さんだったか。
なんか物凄い目で僕のスマホを見ている。
型落ちの格安スマホなので、たいしたものじゃないんだけど。
もしかして今僕の読んでる作品に興味があるのだろうか?
── 木曜日 ──
「ヒロくん、今日一緒に帰らない?」
今日も朝から機嫌が悪かった青子さんが僕に話しかけてきた。
ホームルームも終わったし、帰宅部の僕たちはもう家に帰るだけだ。
「…………青子さんの帰る方向って僕と正反対だからいつものように校門でお別れだよね?」
教室を出て校門までは毎日青子さんと一緒に帰ってるのだ。
そこで僕は東へ、青子さんは西へ向かって歩いて家に帰ってる。
僕たちは二人とも徒歩通学なのだ。
「そうなんだけど、たまには二人で寄り道しない?」
「寄り道?」
「うん。学校の南に松原公園があるでしょ?」
「あったっけ? あー…………かなり遠いけどあったな。辺鄙な場所だから誰も使ってないし、遊具も無いから子供も滅多にいないところじゃなかった?」
「そう、そこ!」
「あんなとこ行って何するの? バブル期に都市計画失敗した時の名残りって言われてるとこだよね。寂れてて周りにお店もなんにもないし、無駄に大きな公衆トイレくらいしか無いでしょ。それよりも寄り道なら本屋巡りしない? 駅前の本屋の傍にマクドあるし」
「そ、それも良いけど、でもそれだと周りに人が一杯いるし……」
青子さんが僕の目を見てはなぜか目を逸らすのを繰り返す。
顔もなぜか赤くなってる。
「……周りに人がいたらなんかまずいの?」
「ううん、全然まずくないけど。まずいとか一言も言ってないけど?」
青子さんのほっぺたがぷくっと膨れた。
眼鏡の奥に微かに見える青子さんの琥珀色の綺麗な瞳にほんの僅かに剣呑な光が混じる。
あ、ちょっと怒っちゃったかな?
「ごめんごめん、そうだよね、僕が勝手に言っただけだったね。でも青子さんと一緒に本屋巡りしたいってのは本当だよ」
「あぁうん…………そうね。私もヒロくんと本屋さん巡りしたいなって」
「じゃあ今日は一緒に寄り道しようか? きっと楽しいよ」
── 金曜日 ──
「しゃあっ!!」
朝、登校してきた青子さんが教室に入ってくるなり、やけに気合の入った声を出した。
なに? プロレスラーなの?
青子さんの違った一面が見れて僕は楽しい。
最初は大人しい本好きの女の子と思ってたけど、彼女はそんな単純な言葉では括れない。
彼女の新しい一面を知る度に僕は彼女をもっと好きになっていってる。
「おはよう、青子さん。今朝随分気合が入ってるね? なんか合戦前の武士みたい。昨日の夜、歴史小説でも読んだの?」
「え? そんなことないよ? 普通だし」
「そうだよね、普通普通」
だめだ、彼女を見てるだけで僕は腹の底から楽しくなってくる。
◇◇◇◇◇◇
放課後になったので、図書室のカウンターの中で青子さんと並んで座っている。
金曜日の放課後の図書係は僕と青子さんなのだ。
週末に家で読む本を借りて帰る生徒が若干いるくらいなので、図書室を開いて10分もすれば僕たちを除いて誰もいなくなる。
なので金曜日の夕方の図書係は本棚の整理整頓とかをやったりして閉館まで時間を潰したりする。
「もう誰もいなくなっちゃったね」
「ん、そうだね」
二人で図書室の棚を一つ一つチェックして回る。
「あのねヒロくん。管理の遠藤先生には本棚の整理で今日は時間がかかるって伝えてあるの」
「あ、そうなんだ」
「そしたら遠藤先生、今日は先に帰るから図書室を締めたら職員室の鍵BOXに返しておいてくれだって」
「ふーん、じゃあ今日は最後まで青子さんと二人きりだね」
本棚から三冊ほど本を抜いて正しい場所へ移動させる。
確かにいつもより本棚の整理に時間がかかりそうだ。
「うん……この時間だと生徒ももう来ないだろうし、先生も帰っちゃったから二人きりだね」
「静かでいいね」
「うん」
……なぜだろう。
今日は久しぶりに彼女の機嫌が元に戻り、朝からニコニコしていた青子さんが段々と不機嫌になってきたぞ?
赤く染まっていたカーテンがいつの間にか陰り始めていた。
図書室に一緒に入った時はあんなに上機嫌だった青子さんが、西の空に消えていく太陽光と反比例するように彼女の赤かった顔がなぜか青くなっていく。
おかしいな。てっきり生理が終わったのだと思ってたんだけど。
僕の顔を
そして時間が経つにつれて加速度的に不機嫌になっていく。
僕がなにかしてしまったのだろうか?
だけど心当たりがない。
いつもより時間のかかった本棚の整理もやがて終わり、カウンターの中で彼女と一緒に椅子に座る。
後は閉館まで時間を潰すだけだ。
冬眠から目が覚めたばかりのヒグマのような雰囲気を醸し出し始めた青子さんを刺激しないように、ポケットからスマホをそーっと取り出して操作し始めると、なぜか彼女の身体がビクンと反応した。
不自然なくらい背筋をピンと伸ばして緊張している。
身構えていると言った方が近いかも知れない。
まるでこの後、人生で一番大切なことが起こるとでも思ってるような緊張の仕方だ。
どうしてここまで緊張しているのか分からないけど、さっきまで彼女の機嫌は相当悪かったので、話しかけるのもなんだか怖い。
毎日青子さんと話をして、彼女のことをかなり理解したつもりでいたけど、今週に入ってからの彼女はよく分からない。まあ分からない彼女も魅力的ではあるんだけど。
彼女の整った横顔をチラリと見て目の保養をしてから『小説を読みましょう』の作品の続きを静かに読み始める。
図書室の壁にかかった時計のカチカチカチと小さく時を刻む音が図書室の静かな空間に染み込んでいく。
「………………」
「──っ!!」
彼女がいきなり手を振り上げてカウンターのテーブルをドンっと叩いた。
木製のカウンターテーブルが衝撃を受けてビリビリと振動する。
僕は作品の世界に没入しかけていた所だったので、驚いて青子さんを見た。
「ど、どうしたの青子さん?」
「ヒロくん! 今二人きりだよね!?」
「う、うん、そうだね」
「私に何かして欲しいことがあるんじゃないの!?」
「青子さんに?」
僕が手に持ったままのスマホを顔を真っ赤にした青子さんがチラチラ見ている。
二人きりなのに、彼女を放ったらかしにして小説を読んでいたのがまずかったか。
いやバカか、僕は。
まずいに決まってるじゃないか。
「あ、あぁそうだね……えっと」
スマホの画面を見る。
お互いに今ハマってる作品の感想を言い合うとか、作品を教え合うとかした方が良かったのか。
多分そうだ。
きっとそうだ。
「あー…………そうだ、青子さん、ちょっとこのスマホの画面を見てくれる?」
その瞬間、青子さんの機嫌がぱぁっと劇的に良くなった。
不機嫌な顔から喜びが溢れた顔へ。ギャップが凄い。
「う、うん! 見せてくれる!?」
「コレなんだけど……」
僕が差し出したスマホの画面を食い気味に覗き込む青子さん。
「っ!!」
喜びが溢れた顔から超絶不機嫌な顔へ。ギャップが凄い。
ガンっ!!
図書室のカウンターを今度はグーで殴りつけた青子さんが般若の形相で僕からスマホを取り上げた。
「あ、何を!?」
「もう我慢できない! このニブチン!!」
目を吊り上げた青子さんが僕のスマホを乱暴に弄り始めるとスマホの画面が急に黄色と赤の渦巻き模様に変わった。
「あぁ!?」
それを目にした青子さんがなぜかちょっと平坦な感じのする悲鳴を上げた。
『ピンポーン! 久米青子のサキュバス化催眠に成功しました!!』
僕のスマホから音声ガイダンスのような声が鳴り響き、同時に青子さんの目から意思の光が消えてスマホを持っていた腕がだらんと垂れ下がった。
「──あっ」
そして僕は……自分のスマホにサキュバス化催眠アプリをインストールしていたことを今ようやく思い出した。