性奴隷と長身巨乳リョナグロ背徳性癖倒錯ふたなりが純愛に堕ちるまでの話 作:PP→KP
「恐らくだけど、前世の娘と君は単なる憎悪だけの関係ではないだろうね」
当主様の言葉に、私はゆっくりと震えながら顔をあげる。
「……その、それはどういうことでしょう」
「言葉通りだよ。憎んで、歪んで、殺したいって思われてるのは間違いないけど、きっとそれだけじゃあない」
言葉通り、なんて言われても困ってしまう。
基本的に好かれるようなことを前世で行った……ことはまあ、ある。だがそれはあくまで犯罪に手を染める前の、好きだった人が生きていた頃の話だ。
私を憎み、殺意を抱くような相手となれば、それはきっと私が一方的な復讐心の元で引き起こした連続殺人に巻き込まれた人のはずだ。であればそんな犠牲者が抱くとすれば、それは復讐心ではないのか?怒りではないのか?
「うーん、まあ大分複雑にねじれ曲がってるとは思うけどさ。ただ、殺したい相手をわざわざ犯す必要なんて無いだろ?尊厳を凌辱するなんて理由もあるかもしれないけど、その度にわざわざ蘇生して、憎いだけの相手を長い時間を掛けて『犯すことで殺す』なんて特異な殺し方に拘る必要なんてこれっぽっちもない」
……まあ、それはたしかに不思議ではあった。
私を殺す時、彼女は基本的に最後まで犯し甚振って──
やろうと思えば暴力で簡単に殺すことも出来るだろうし、何なら性行為でだって彼女の膂力なら私を物理的に貫いて殺すことだって可能だろう。性的快楽と合わせて殺す、というだけでも犯しながら首を絞めたり、抱きしめて物理的に潰したりだってできる筈だ。
なのに、執拗に
「だから、私に単なる嫌悪や憎悪以外も抱いている、ということですか」
「そういうことさ」
納得はあまり出来ないが、しかしそう言われればそうなのかもしれない、と思えてしまう
むむ、と唸る私に苦笑する当主様。その苦笑顔はどこか彼女を彷彿とさせるものであり、やはり親子なのだなと思わせてくれる。
「淫魔っていう種族はさ。基本的に相手の好意とか快楽とか、そういった感情を食べて生きる種族だ。まあ厳密に言えば感情をたべるというか、感情から生まれたエネルギーを吸収するという感じだけどね」
「……ええと?」
当主様が急に淫魔の解説を始めたことで訝しげな目を向ける。今までの話の流れから淫魔の説明に入る必要があったのか。
「取り敢えず聞いてくれ。で、その性質上淫魔の捕食っていうのは相手を気持ちよくすることになるわけだ。だから、淫魔は生態的に、本能的に『交わりたい相手』に合わせて大なり小なり性器の強度や形、大きさを変えることが出来るんだよね」
「え?ですがその、主は……」
言われるがままに聞いていたが、流石に今の話を聞いて浮かんだ疑問を思わず口に出す。
私の言葉に、当主様はしたり顔で頷いた。
「そう。ウチの娘が昇格するときに生えたちんちんは最初からかなりデカかったんだよ。王の徴って言って、女性の淫魔が上位種に昇格したときに生えるものなんだけど……普通は男と変わらない、常識的な大きさ・機能のはずなんだ。記録を見る限り」
「あ、はい」
あけすけ過ぎる。見た目の神秘性を大きく損なうぐらいにこの当主様は物事を軽く聞こえるように語る天才なのかもしれない。
それはともかく、王の徴。女性の淫魔が上位種に昇格した際に生える男性器。てっきり特別なものだから他のペニスと違うのかと思っていたが……当主様曰く、あくまで彼女が特別であるらしい。というか大きさの記録が残ってるのか……。
「最初は大型の魔人や獣人が性癖なのかなあって思ったんだけどね。でもまあ、君を買ってきたことではっきりわかった。あの娘は本能的に、交わりたい相手、好意を得たい相手を殺したい、殺意を抱く相手として見ている」
「……異常な射精量も、頑丈な性器も。相手を──憎いだけではない私を犯したい、殺したいという前世からの思いがあったから、ということですか」
私の言葉に、我が意を得たりと当主様が深く頷いた。
「まあそういうことさ。そもそもの話として、戦場に出ることもあるあの娘が殺したい、倒したいと思う相手なんてまあ結構居ただろうに、異常な性欲を見せたなんて話はこれっぽっちも聞かなかったからね。あの娘だって嫌いなだけの相手に興奮なんてしないよ」
だから、どれほど歪であれ前世の愛についても精査したほうが良い──そう、当主様は言葉を締めくくった。
ちゃんと自分を振り返るんだよ、と別れ際に伝えられて当主様との面談が終わった。
言われてみれば当然だが、興奮するには興奮するだけの理由があると言うのは間違いない。であれば、ある程度は愛憎入り交じる相手だろうという話にもまあ、納得できる部分はある。
……だが、そうだとしても──私が苦しめた人間で、私を好きな人間なんていたのか?という思いは常に脳にこびりついている。
「というか、犯して殺すことに拘るほど歪むことって何だ……?」
地味に悩ましいのがこの点だ、と私はずっと考えていた。
単に前世の私を知って殺したいって人間なら結構な数が居るだろうとは思っているし、そう思っている人間に惨殺されることはしょうがないことだろう。逆に前世の私を知っていれば犯したいって思う人間も居るのかも知れない。だがそのどちらもを目的とする人間にはパッと思い至るような心当たりがない。
というかもし私が誰かに好かれていたとして、そういった相手を私の復讐に巻き込んだ事を恨んだとして、だ。果たしてその人間は私を犯して殺すことに拘るようになるのかという話である。愛憎入り交じるにしたってその結果生まれた手段があまりにも独特すぎる。
だが現に私を犯して殺すことに執着する彼女が居る以上、何をどう言い繕おうとそういう思考に至った誰かが居たということになるわけで。
(……となれば、どうにか思い出さないといけないか)
原因が過去の私である以上、死ぬ理由を知るためには過去の私に問いただす必要がある。
普段の地下牢、白いベッドにぽすりと身体を横たえて。私は過去のことについて、少しずつ思い出すことにした。
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かつての私が生まれたのは、まあまあ普通の街だった。政令指定都市や中核市などの要件を満たす程ではないが、駅前ビルや商店街がそれなりに発展し、近いと言うほどでもないが23区間内へも鈍行列車で30分と少しあれば行ける街。
父は30台後半に差し掛かろうとするタイミングで大学教授になった天才で、母はそれなりに名の知れた企業で働いていたが父との結婚を期に退職。そんな家庭で、結婚1年目に生まれたのが私だった。
父が大学教授であったこと、母が自分が厳しい教育を受けて有名な私大を卒業したことから、必然親の教育は厳しいものとなった。
大都市圏にまあまあ近いこともあり、小さい内から有名なところへ入れようという思いがあったのだろう。あるいは、両親はどちらも頭が良かったこともあって「出来て当然」の事ができなかった私が手を抜いている、サボっていると見たのかも知れないが。
ともかく、私が受けていた教育というものはまあ酷いものだった。勉強させるために幼稚園児であった私を無理やり机に縛り付けて問題を解かせたり、答えを間違うたび、悩んで時間を消費する度に頭を叩かれた。酷い時には問題が解けるまで冬の寒空の下に部屋着で放り出されたこともあった。
下手に富裕層で都心に比べれば地価も安かった我が家は、それなりに広い敷地の周囲を庭木で囲っていた。そのせいか外に放置されても周辺の人間が気付くことは難しく、私が虐待を受けているという事実が露呈しないまま時間だけが過ぎていった。
父母への恐怖が膨らむあまり大声で泣いて助けを呼ぶことも出来ず、震えながら許しを請うことでどうにか死なずに済んだ、そんな思い出したくもないような幼少期を送る羽目になった。そのくせ両親は顔も外面も良かったこともあり、周囲にそんな教育を悟らせていなかったものだからたちが悪い。
小学校は辛うじて父母の希望するところへ入学できたものの、皆についていけるように、と教育は更に苛烈になり。私は父母に恐怖と諦観を持つようになっていた。もうどうにもならない絶対的な存在として、ずっと指示に従い続けた。
家に帰るのが嫌で、下校をなるべく遠回りに、叱られない程度に遅く帰るようにして居た私は────ある、一つの事件に巻き込まれた。
当時10歳の私が居たのは、確か街外れの公園か何かだったと思う。友人が居た訳では無い。ただ家に戻るまでの時間調節のためにブランコをひとり寂しく漕いでいた。
日が傾いてきて、そろそろ帰らないと不味いなと思い始めた矢先のこと。とぼとぼと歩き始め、公園と道路の境目に来た辺りで──急に目の前に車が止まった。
当時の私は、窓まで真っ黒な車によって道が塞がったことでびっくりして動きを止めてしまっていた。そのため、急に車のドアが開いても反応できず、降りてきた運転手の男に口を抑えられて、防犯ブザーを鳴らすまでもなく車に押し込められた。
20代前半くらいに見えた彼はいわゆる誘拐犯、無理やり力で攫ったから略取犯と表現すべきだろうか。
ロリコンの変質者だったわけではない。私立の学校の制服を着て大きな家に住んでいる私が1人で登下校していたことを知って、身代金目的で私を略取・監禁したのだ。
廃墟のような、倉庫のような建物。後で知ったが、彼の実家が農家であり、そこは農業用機械を置いておいたり泊まり込みで作業するための農業用倉庫だったらしい。
私はその作業用倉庫に荒縄で縛られ、監禁されることになった。
殴られた。蹴られた。抵抗する気がなくなるように、私は大人の男である彼からさんざんに甚振られた。
──1回だけ。蹴飛ばされてスカートがめくり上がってしまったとき、彼が僅かに情欲を抱いたのか私のことを抱き上げたことがあった。
その時は嗜好にそぐわなかったようで、結局性的なイベントは何もなかったが。ロリコンでもない彼は殴る蹴るはしても小学生を犯すなんてやるわけ無いよな、と当時の記憶を思う。抱き上げられたのも流石にスカートを直すためだっただろうし。
ともあれそんな暴力と監禁の生活だったが、私はそれが苦ではなかった。
暴力も監禁まがいも平時から受けていたというのもあるが──それ以上に、彼が勉強しようとした私を殴って止めたからだ。
彼は学がなく、高卒で、定職につこうとはしたものの振るわずフリーターだった。だからこそ私みたいな金を持っていそうな家庭で1人寂しく登下校する子供を狙ったわけだが。そんな彼だから、恵まれた環境で勉強に勤しむ私が気に食わなかったのだろう。
だが当時の私にとって、勉強なんてしなくて良いと叱りつけられるのは初めてで、そして何より嬉しい言葉だった。
勉強なんて嫌いでやりたくなくて、だからやらなくてもいいと背を(言葉と暴力で)押してくれた彼に私は一種の尊敬と言うか、嬉しさと言うか、そういった感情を抱く様になったのだ。
そして、その上で。私が彼への感情を更に大きく変える出来事があった。
私は結局、彼に止められた翌日に、再度勉強しようとした。彼への尊敬はあったが、それでも親への恐怖のほうが勝ったからだ。
そして当然のように見咎められた。言うことを聞けと殴られ、私はどうしても親が怖いんです、と気持ちを正直に吐露した。ご飯がもらえなくなる、家に入れてもらえなくなるのだ、と。
彼はぱっと見裕福で愛されていそうな私がそういう家庭に居たという事に驚愕し、同情し──勉強を見て、教えてくれるようになった。
高卒フリーターで、こう言うと問題かも知れないがあまり学歴が良いとは言えない。少なくとも私の両親とは雲泥だろう。だが、そんな彼が頑張って昔の知識を引っ張り出して、私が親から言われた課題を熟す手伝いをしてくれたのだ。
「……随分頭いいんじゃねえか?ここまでできても親に殴られたりすることなんてあるのか?」
「金持ってて頭良くて、羨ましくて……俺と違ってどうせ適当にやっても生きていけるようなガキなんだなって思って誘拐したけど……、なんてか思ってたのと違ったしよお。生まれが恵まれてりゃ人生余裕だって、そう思ってたんだけどなあ」
そうぼやく彼の姿を見て、私は彼が努力できる人間なのだと感じた。
私みたいにいやいや義務的に努力しているのとは違う、きっと自分のやりたいことがあって頑張れて、でも追いつけなかったからこうなってしまったんだ、なんてそんな事を思うようになった。
きっと私を攫ったことだって、彼なりに計画を立てて努力したんだ……なんて思いすら芽生えた。
そしてそんな彼が、私のことを頭が良いと認めてくれた。私には能力があるのだと認めてくれた。
──私のことを、信じてくれた。
それがどうしても嬉しくて。その日の夜に彼が弁当を買って「帰宅」したときも、私は笑顔で彼を受け入れた。
「ほら、弁当食え。食ったらトイレ行って寝ろよ」
「ありがとうございます。いただきます」
「……やけに素直だな、好きなものでもあったのか?」
彼が弁当を差し出して、私がすぐに受け取り、手を合わせて食事を始める。
誘拐・監禁されている筈の私のそんな行動は大概気味が悪かっただろうな、と思わなくもない。でも当時の私はそんな事気にしてなかった。
「あります。好きなもの」
「そうかい、そりゃ良かった」
素気無い彼の言葉も、なんだか心に温かい。
彼の言う通り、好きなものがあった。当時の私にとって、たった2日間ぽっちの付き合いでしか無いその閉じた世界でも、私には好きなものがあった……否、好きなものが「出来た」。
全く馬鹿らしいと他人なら言うだろう、愚かな私に出来た好きなもの。
私は──当時たかが10かそこらの小娘は、「私を見て、信じて、理解してくれる『彼』」のことが、いつの間にかどうしようもないくらいに好きになっていたのだ。
「何だと!?クソっ、ふざけんな!おい待て!」
彼の罵声が倉庫に響く。私のことで脅迫していたが上手く行かなかったのだろう。
当時としてはまあまあ先進的な携帯電話に向かって叫んだがどうにもならなかったようで、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
私は、といえば。交渉で見限られた──ということは、やっぱり両親からしたら要らない人間だったんだな、という思いしか浮かばなかった。
「……取り敢えず、ここを出て場所を変えるぞ。警察が関わってくるってんならずっと同じ場所に居るのはマズイ……と思う」
「え……」
「え、じゃねえよ。おら、さっさと準備しろ!」
「は、はい!」
だから、彼にそう言われたときはとても嬉しかった。一緒に居ても良いのだと、彼は必要としてくれるのだと思った。
移動先は彼の実家だということだった。既にに彼の両親は他界しているらしく誰も住んでいないらしいからと選ばれた場所であり、私はそこで過ごすことになった。
「あの、何をすればいいですか?どうしたらその……貴方は嬉しいですか?」
自分でやるべき勉強をさっさと終わらせ、私は彼にそう聞くようになった。
彼は私が楽しそうにしていることに不気味そうな顔をしていたが、ここ数日で私が彼に対して何らかの好意を抱いていることは分かっていたのだろう。ただ呆れたように首を振った。
当時の私の感覚では、こうやって連れてこられた時点できっと彼は私になにかしてほしいに違いないという認識だった……実際には、単に誘拐してたから連れていこう、ぐらいの考え無しだったのだろうが。
彼からすれば目的が達成できない時点で私なんてほっぽって逃げればいいし、なんなら私を殺してしまえば証言も出なくて後腐れもなかっただろう。そんなことは子供の私でもわかっていた。
でも、そうしなかった。親にすら見限られた私を、彼は捨てずに連れてきた。きっと私の力が必要なんだから、私は彼の役に立ちたい──大好きな、愛する彼の力にならなくては、そう思うようになっていた。
「……ねえ。前に、私が頭が良くてお金もあるから羨ましい、って言ってたよね」
食事も終わり、彼が買ってきた歯ブラシで歯磨きも終えた私はぽつりと尋ねた。彼の家で自宅同然に(周囲から身を隠してはいたが)暮らすようになって数日、私が彼と話す時には敬語は綺麗に消えていた。
急な問いかけに、彼は怪訝そうな表情を見せた。
「言ったけど、それがどうしたよ」
「あのね、その……もし、もし警察に見つかったら、貴方だけが逮捕されちゃうんだよね」
「当たり前だろ。お前は俺が誘拐したんだから」
「じゃあ、その、ね……」
何を言い出すんだとでも言わんばかりの彼を見て、すう、と深呼吸した。
「私、貴方が出てくるまでに立派になって、お金もいっぱい貰えるようになるから。私は頭が良くてお金もあるから、きっとすごい大学に行って、立派でかっこいい大人になるから。だから、それで──貴方が自由になれたら、一緒に暮らそう?」
緊張し、少し顔を赤らめながら、それでも私はそう言い切った。
当時の私にとって画期的な、将来的には彼の役に立てるという神の一手。現実的には幼い子供の、歪んだ思慕から生まれた精一杯の告白。自分本位で、相手の心をまるで考えていない浅はかな一方通行の感情の吐露。
それを受けて、彼は目を丸くした。次いで眉間のシワをもみ、あー、と言いながら頭をガリガリと掻く。
「最近のガキはマセてんな……まあ覚えてたらな、覚えてたら」
はあ、とため息を吐いて私をあしらう彼。10以上も離れた子供の一方的な恋心なんて適当にあしらわれるのは当然で、私だって同じ立場ならなあなあで流すに違いない。
まして誘拐犯と誘拐された子供という明らかに歪な関係で、子供側が親から歪んだ教育を受けてて変に懐いてしまったなんて察していればなおさらだ。
でもその時の私は「覚えてたら受け入れてくれる」のだと思い込んでて、およそ記憶している限り人生で一番の満面の笑みを浮かべていた。
そして、それが彼との蜜月というには短い期間の、一番大切で──最後の思い出となった。
結局、私達の逃避行はその翌日に終わった。近隣の住民から「普段使われていない家に男が居座り始めた」という通報があったからだ。
警察は当初、家主が家財整理でもしてるんだろうと判断していたらしい。だが住民感情もあるため取り敢えず確認に来たところで、停められている車両が携帯電話番号から犯人と目される男の保有車両であると判明したことで逮捕に繋がったという。
私は少しでも罪が軽くなればと思って「彼は本当は開放するつもりだった」「無理に居座っていたのは私だ」と主張したが、身体に誘拐当初の暴行の跡が残ってしまっていたことからストックホルム症候群か何かで犯人に対して好意を抱いて「しまった」のだろうと判断され、結局減刑につながることはなかった。
報道によれば、彼は懲役12年が求刑されるとのことだった。私が自分から開放されていればもっと短くて済んだのかと思うと忸怩たる思いだったが、ともあれそのまま行けば大学卒業ぐらいには彼は出所することだろう。
私は、私を見出してくれた彼に報いるために、私に恋を教えてくれた彼に好きになってもらうために自分を高めようと思った。勉強もそう、運動もそう。見た目だって気をつけなければ。死ぬほど憎たらしいが父母の見目は悪くないから、きっと磨けばそれなりにはなる筈だ。
兎にも角にも遅れを取り戻し、そして先を見据えるために勉強を遮二無二頑張った。両親になんと罵倒されようが知ったことじゃないとばかりにわからないところを聞いて、その解き方や考え方を頭に叩き込んだ。
その結果成績はみるみる上昇し、私が監禁から帰ってきてからも普段通りの対応だった両親からの態度が露骨に軟化したのを見て頭の中で散々に暴言を吐いた覚えがある。
父母も納得できるレベルの私立中学に入学後は、文武両道を目指して近所の空手教室に通うようになった。空手を選んだのは近かったことと、級や段位を取得できれば将来的に履歴書とかに書く中身が増えるから、と母に勧められたからだ。
正直に言えば母に勧められた時点で嫌ではあった。だがあの一週間の監禁生活の中で彼の為なら何でもやるという精神が構築されており、幼稚な不快感なんてさっさと殺してとにかく将来のためになることに手を出すようになっていた。
「……背が伸びてきたのは良いんだが、伸び過ぎじゃないか」
ぽつり、と中三になってすぐの健康診断の結果を見て呟く。その時の口調は小学生の時とは意図的に変えていて、いわゆる「デキる女」を目指して始めた記憶がある。
彼と暮らしていた時に見た刑事ドラマのバリバリ出来る女刑事が私の中の「デキる女」の姿だったので、それを真似して始めたのだが……いわゆるその、中二病みたいに扱われてしまったのは苦い思い出だ。結局終生変えなかったが。
それはともかく、勉強を自力でこなせるようになってからは運動・食事・睡眠をしっかり取れるようになり、今まで我慢していたかのように我が身体はすくすくと大きくなっていった。
中学校卒業時には女子としては長身の部類に入る170cmを少し超え、また15の子供とは思えない程に立派に膨らんだ胸は厚手のブレザーのボタンを弾けさせてしまい、ただでさえ大きいサイズの更にワンサイズ上を着る羽目になったほどだ。
ずっと続けていた空手の影響もあって腰はしっかりくびれているし尻も丸くキュッと引き締まり、まさに肉体美と呼べるのではないかと鏡を見る度に自画自賛していた。
……背丈については、まあ、ぎりぎり彼を追い越していないと信じてあきらめた。縮むわけでもないのだし。
また顔の造作についても磨いた甲斐があって周りからチヤホヤされるくらいだった。やや大人びて彫りが深いのもあって美少女というよりは美人系という扱いだったが、それでも両手の指で数え切れないぐらいには告白された程だ。
(これだけ告白されるってことは、きっと彼も気に入る筈……!)
まあ告白されても上の空で断り、脳内ではこんな事ばかり考えていたのだが。その後の男女関係のリカバリーにはしっかり心血注いでたから許して欲しい。
高校に入ってからは小遣いも増えたので、ファッションに手を出すようになった。
厳密に言えば同級生のちょっと遊んでる感じの子が真面目人間だった私が気になったと言って遊びに誘ったとき、私がファッションをしたことがないということで驚かれてファッションのいろはを教わったのである。
ダサい格好でもそれなりに見れる見た目の自負はあるが、出来るならかわいいにせよ綺麗にせよしっかり着飾った姿を見て欲しかったという女心だけは一丁前に持っていた。そんな当時の私はファッションというか着こなしについては研究しなくてはならないと思案していたこともあり、同級生の彼女の提案は渡りに船だった。
ちなみにそれ以降その友人とは度々遊びに行くようにのだが……これが普通に楽しかった。
思えば小学校はひとりぼっちで、中学校は自己改造に余念がなかったこともあってあまり遊んでいなかった。だから私にとってはようやく青春らしい青春と言えるわけで……ある意味では、この時期が一番充実していたと思う。
文化祭や体育祭を友だちと楽しむなど色々あった高校生活も終わり、私は国内においては最高峰の国立大学に合格を果たしていた。
余裕だったとは言えないだろう、進学校といえる我が母校でも流石にガッツリ勉強しなくては困難な程であり、久々に寝る間も惜しんで勉強したものだ。
だがその分ネームバリューはこの国に限れば最高であり、ちゃんと周りを見てやることやって卒業できれば就職先も十二分に選べる……筈だ。
これで彼との生活も……なんて、合格通知片手にそんな薔薇色の妄想にふけっていた私を見た家族はさぞ不気味に思っただろう。あんな連中に何思われても知ったことではないが。
「受刑者への面会、は──流石に無理か」
大学に通うということで一人暮らしを始めた私は、まず最初に彼に会おうと考えていた……が、当然のように失敗した。
家族の目もなくなりこれで大手を振って彼に会えると思って大学入学して少し経った日に刑務所に向かったのだが、受刑者側の精神の安定を考慮するという理由もあり加害した受刑者である彼に被害者の私が面会することは不可能と断られてしまったのである。
私と彼の間にそんな問題起きるわけが無いとは思っていたものの、ルールがルールである以上流石に私にどうにか出来ることではなかったのでしょんぼりとした気持ちのまま帰宅。
それで代わりに彼に近況報告を兼ねて手紙を書いて送ることにしたのだが、差出人を書こうところで手が止まった。そもそも彼に名前を教えてなかったことに気付いた。
もちろん、誘拐時点である程度調査はしていただろうから、彼自身は私の名前を把握していているとは思う。ただ、私からは教えていない、ということが個人的には重要だったのだ。
私自身、彼の名前を彼自身から聞いていなかったこともあり、どうせならちゃんと再開した場面でお互い名前を教え合うというシチュエーションを作ろうと思って手紙に差出人の名前を敢えて載せないことにした。先の理由もあり、被害者の私の名前で送っても受け取ってもらえないかも知れなかったし。
そんなわけで私への返信はなかったが、無難な内容に加えて約束を忘れていないことをちゃんと書いたので彼も誰が出したのか分かってくれるに違いない。かなり気合を入れて着飾った写真も入れたし、それだけでも喜んでくれた筈だ。
彼とのほんの僅かな、一方的な交流でやる気が充足された私は大学でも精力的に活動した。
勉学は元より高校で段位に手が届いた空手もサークルとして継続、ボランティアなど世間ウケが良い活動にも取り組んだ。完全に邪念まみれのギチギチな生活だったが、しかしもうすぐ理想の暮らしが待っているのだと思えば苦にはならなかった。
そんなこんなで、おおよそ順風満帆と言える人生だった。このまま行けば、きっと彼との蜜月が待っているはずだ──そう、私は信じて生きていた。
禍福は糾える縄の如し、とは言うが。かつての私の人生で、その「禍」に糾えるだけの「福」が訪れたことは──結局、首が絞まったその日まで一回も無かった。
それは、私が翌年度の研究室配属をどこに希望を出すかと食堂で頭を悩ませていたときだった。
(私でも思ったより選べそうだ……。とはいっても彼と暮らすことを前提にして考えると大手企業に繋げられそうな研究室を選びたいところだが)
自分の成績ならそれなりに選ぶ先はあるが、彼を養うことを考えれば稼げそうな将来性のある研究がしたい。だが昔からの研究を続ける歴史ある研究室はツテが豊富で、大手の一流企業を希望するなら教授の手が広い方が良いのではないかという気持ちもあった。
どちらを選ぶにせよ一長一短だが、流石にずっと先延ばしにも出来ない。食事時だと言うのに注文もせず広間のテレビの側でうんうん唸っていた──そんな私の耳に。
『──では、次のニュースです。 昨夜、府中刑務所内で受刑者同士でのトラブルにより1名の受刑者が死亡しました』
「──!」
資料を見るために俯いていた顔を勢いよく上げる。府中刑務所。彼が懲役刑を受けている刑務所だ。
(……受刑者同士のトラブル、死亡……まさか、いや、受刑者は彼以外にも沢山いるわけだし……)
彼とは関係ない只の事件の可能性のほうが遥かに高いというのに、なにか嫌な予感がして冷や汗が止まらない。
「えー、刑務所内でトラブルって何があったんだよ」
「アレだろ、思想の違いとかでさ……」
(うるさい、聞こえないだろうが……!大丈夫、大丈夫……っ)
そばで好き勝手言っている学生に腹が立つ。こっちは一言一句聞き逃したくないというのに。
怒鳴って静かにさせられるかとも思ったが、それよりニュースを聞くほうが遥かに重要だったので努めて無視してテレビに集中する。
大丈夫、彼じゃない、きっと他の彼とは違う受刑者が死んだだけ……なんて、そんな自分に言い聞かせるようにごく僅かな時間で何度も「大丈夫」をリフレインさせていた。
だけど、そんな私の願望は木端微塵に砕かれた。
『──死亡したのは、……さん33歳。この事件により、警視庁は──』
「────嘘だ」
その名前を聞いて、私は愕然とした。
だって、それは──今まで一度も呼べなかった「彼」の名前だ。信じたくなかった。年齢だって、私を誘拐したときには大学を出たばかりだったという彼と一致していたけれど、だけど同姓同名の別人だと思い込みたくて。
でも、その報道に映る「彼」の写真は、多少老け込んでいても私と一緒に居た彼のものだとすぐに分かってしまって。
ボロボロと涙が溢れてくる。急に声も泣く私に、近くの学生の目線が集中するのが分かった。でも止めようがなかった。どうしようもなく悲しくて、どうしようもなく辛くて──どうしようもなく、心に大穴が空いてしまったようだった。
なんでもないような何時もの昼下がり。学生たちの賑やかな何時もの風景。
誰もが何時もの日常を送っているその中で──本当に唐突に、私は思い描いていた日常を喪ってしまった。
私(10)→(0→10→20):人間。女。関東地方のリージョンフォーム。色々あって重い女。大抵のことは1流になれる素質がある、彼への愛情一本で東大理Iに現役合格したヤベー奴。モチベがないと一気に無気力になる人間の屑。身長171cm。100/61/91のIカップ。中学時点でGカップぐらいあったらしい。長身巨乳は作者の趣味。
彼(23→享年33):人間。男。かなり軽率に身代金誘拐をやらかしたらなんか誘拐した頭おかしいロリに激重感情を抱かれた。可愛いし将来は有望かもと一瞬思ったけど流石に欲情とかはしてなかった。逮捕から8年経ったある日に唐突にムショに手紙が来て死ぬほどビビった。死んだ。こいつが死んだことがトラウマになり私は私的な相手の名前を呼ぼうとしなくなったらしい。
彼女(33):淫魔。ふたなり。性癖をきっちり暴露されたけど今更なので問題ないです。
両親:人間。主人公の才能に気付いていたがモチベがないと腐らせるばかりの主人公に活を入れようとしたらやり過ぎた。監禁から帰ってきた後は人が変わったような努力家になって喜んでいた節穴。