※この作品はR-18です。

性奴隷と長身巨乳リョナグロ背徳性癖倒錯ふたなりが純愛に堕ちるまでの話   作:PP→KP

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時系列:かつての「私」②と③の間


「後輩」の話(上)

「せ、先輩……いくら何でも不味いっすよ……っ!」

 

 8月の深夜、俺こと「御堂筋(みどうすじ) 武志(たけし)」は職場の先輩である「千堂(せんどう) 萬廣(まひろ)」さんに対してそんな情けない声を出していた。

 

「ふむ、まあ確かに不味い行いではあるな」

 

 俺の言葉にしたり顔で頷く先輩。憂いを帯びた切れ長の目を僅かに伏せれば、長い睫毛によるものか影が差す。物憂げに唇を人差し指で触れているのも、これほどまでに整った顔の人がやると絵になるとしか言いようがない。

 きれいに切りそろえられた黒髪は職場の女性の中でも短めだが、むしろそのさっぱりした髪型がより一層その顔の小ささを際立たせているようにも見えた。

 

 少しだけ目線を下に向ける。細身ではあるが健康的な身体はシンプルながらも一通り高品質そうな衣服に身を包んでいて、集団で尚も目立つ彼女という記号を構築する一助になっていた。

 そんな細い体に不釣り合いとも取れるほどに胸元は大きく歪み、前に突き出ている。その、かなりデカい。彼女の芯の通った立ち振舞いと、長く靭やかな脚を支えるきゅっと締まった丸いお尻もあって、下手な女優が道を譲ってしまうような美しさだ。

 

 

 そんな美しさとかっこよさに溢れた憧れの先輩は今──パンツとショーツを膝下まで降ろしており、綺麗に整えられた陰毛に包まれた女性器を露出させていた。────街の中心部から離れた、池のある公園の、雑木林の中で。

 

 

「あの、先輩!マジでヤバイですって!」

 

 小声で伝える。正直滅茶苦茶慌てている。

 事の起こりは今日の「遊び」の日。偶然先輩の開いていたパソコンを見てしまった俺を見た先輩が、ちょうどいいからと外へと誘ったのだ。

 今日は外に行こう、なんていうからその、ホテルとかそっちに行くのかなって勝手に思っていたのだが……まさか文字通りの外だとは思わなかったのだ。

 

「そうはいうがな、お前も外でヤることに賛成したじゃないか」

「それは家の外って意味だと思ってて……!」

 

 屋外って意味じゃないんですけど!?

 

「……そうか。ああ、わかったよ」

 

 やれやれ、と肩をすくめて首を振る先輩。やれやれって言いたいのは俺の方なんですけど……。

 なんて思っている俺の目の前で、先輩はその整えられたきれいな白い指を、自分の股間に這わせて──。

 

「んっ、ふっ、んぅっ……」

「!?!?!?」

 

 人がいないとは言え完全な屋外で、近くには街灯もあって手元が見えるような場所で──いきなりオナニーし始めたのだ、俺の目の前で。

 ちゅく、ちゅく、と淫蕩な音がなる。ぴちゃ、と糸のように垂れた愛液が彼女の脱いだショーツに滴痕を付けていく。

 

「お、前は、そこで見ててくれ、よ?んっ、はぁ、気持ちいい……!」

「────」

 

 先輩はそのまま昂ぶるままに自分の胸をもみ始めた。パリッとしたシャツの下にある圧倒的な重量感のそれが変形していくのが外から見てもはっきり分かってしまうほど。

 

「ほら、見てみろ……ノーブラなんだ。シャツの下からでも私の乳首が勃っているのがわかるだろ?ふふ、触っても良いんだぞ?」

 

 ぐにぃ、と変形させた胸の先がつんと尖って、シャツ越しにその場所を如実に示してくる。

 そんな余りにも淫靡な姿に、もう生理的に俺のチンコがビキビキと硬くなってしまう。

 

「…………っ、せ、先輩……っ!」

「…………ほら、良いんだぞ?」

 

 そう言いながら、彼女は背を向け、木に手をついて腰を俺に突き出してくる。シャツのボタンを外し、ぶるんとその大きな胸を外気に晒す。

 だめだ、と分かっていても、その誘いに抗うことなんてできるわけもなく。俺はジッパーを下ろして、先輩が伸ばした手に乗っていたコンドームを着けて……。

 

「すいま、せん、先輩……挿入(い)れますっ」

 

 結局我慢できずに、俺は街灯に照らされた白い身体にずぶりとチンコをねじ込んだ。

 ぬぷぷ、と滑らかに押し込まれていく。先輩が前戯していたこともあってそのままスムーズにセックスに移行してしまった。

 

「あっ、あっ、あぁんっ!」

「っ、くぅ、先輩、声、落として……っ!」

 

 やばい、屋外で誰かが聞いているかもと思うだけで得体の知れない情動が胸の奥から湧き上がってしまって腰が止まらない。

 パンパンパンと先輩の丸い尻と俺の腰がぶつかって、汗とか愛液とかが僅かに飛び散る。

 

「……っ、んぅ……っ。おま、えな、そう言いながら、乳首を弄るなよ……気持ちいいだろ……っ」

「あっ、す、すいませ……っ」

 

 ヤバい、頭が性欲に支配されていて思わずぶるんぶるんと揺れていたデカい先輩の胸を揉んで、乳首を摘んでしまっていた。

 いや言い訳させてほしい。先輩の家で立ちバックするときはそうしてあげると喜んでくれたからいつもの癖でヤッてしまっただけなんだ。

 それにほら、嬌声を押し殺したその口端から漏れ出るくぐもった呻きもまた非常に色っぽくて、少しだけ涙が浮かぶその目が下から見上げてくる顔も唆るとしか言いようがない。だからその、我慢できなかったんだ。

 

「まったく、お前、は……そんな悪い後輩は、こうだ……っ」

「っ、先輩、そんなに強く締め付けると……っ!」

 

 そしてそんなエロい俺に負けないと言わんばかりに、先輩は俺のチンコが出入りしているアソコを一層強く絞め上げてきた。ヤバい、全体が強くこすられて滅茶苦茶気持ちいい……っ!

 少しでも楽しませたい、なんて脆い理性が自分の性欲という名の本能に一方的にボコボコにされてしまった俺は、じゅぷっ!じゅぷっ!と大きなストロークでピストンのペースを上げていって……そして。

 

「うっ、せ、先輩、俺、もう──っ!」

 

 俺はあっけなく限界に達して、情けなく先輩に懇願するような声を出してしまった。

 

「い、いぞ、私も、──っ」

 

 そんな情けなさそうな顔をしていただろう俺を見上げた先輩は、どこか気持ちよさそうに笑って。自分から腰を押し付けて、ぎゅうっと膣を一気に締めてきて──そして、そのダメ押しの責めにはとてもじゃないが耐えきれなくて。

 

 

「っく、あっ──射精(で)る……っ」

「イ、くぅ……っ」

 

 

 コンドームを嵌めてることを忘れているかのように先輩の奥までチンコを押し付けた俺は、セックスを始めて数分でびゅく、びゅる、と情けなく射精してしまったのだった……初体験の日よりも早漏で情けないな、俺……。

 

 

 

 

「で、何で急にこんな、外で、その……」

「青姦したか、か?」

 

 ふむ、と僅かに考え込む先輩。身だしなみはコトが済んで直ぐに整え終わっていたので、今はしっかり着込んでいる。胸を放り出していて手もグチョグチョに濡れていたのにマジで早いあたり本当に用意周到で、この人青姦するために態々準備を整えていたんだとしか思えないんだけど……。

 

「まあ、青姦する準備が出来たから試してみたかった、というのが第一だな。お前との身体との付き合いも1年半は続いているだろ?あまりマンネリ化するのもな……」

「えぇ……」

 

 この人ドラマのかっこいい警官に憧れていたって言っておきながら性欲に忠実すぎないか?いや誘惑に負けて青姦してしまった身で言うのもアレだけど……。

 

「でも実際、随分と出したじゃないか。1回の射精量としては過去有数じゃないか?」

「うっ、いや確かにその、緊張感が興奮に変わった感はありますけども……!」

 

 ほーらな、なんて言いながら俺がさっきまで嵌めていたコンドームをぷらぷらと揺らす。確かに凄い出た感じがあるけど、だからってそうやって見せびらかすようにするのは止めてくれませんか……っ!

 

「ふふ。野外露出とかもそうだけどな、背徳感があるが故に一層興奮するというのはある種の心理的リアクタンスが働いている状況になるんだ」

「しん……えっと?」

「心理的リアクタンス。ざっくりいうと『行動を制限されると抵抗したくなる』という心理現象だな。『やるな』と言われるとやりたくなったりするだろ?そういう心理的作用全般を指す言葉さ」

 

 唐突にドヤ顔でうんちくを語られた。やっぱり色々知ってるんだなあって言う感嘆と一緒に、自分の学の無さが露見しているようで少しだけ劣等感も覚えてしまう。

 

「はー……先輩よく知ってますね、そういうこと」

「こういう専門用語とかをそれっぽく並べると青姦も心理現象を巧みに利用した高度なプレイと思わせられるかと思って調べていたんだ」

「俺の関心返してくださいよ」

 

 まさかの理由に嫉妬心とかが湧き出ていた俺の醜い心が先輩のより酷い心に接したことで浄化されていくようだ。いつものことだけどこの人のエロに懸ける情熱はどこから来るんだ。

 

「まあそんなわけで、人は駄目と言われると抵抗したくなるものだ。野外露出も青姦も法的には宜しくはないが、だからこそ燃え上がるということだな」

「はぁ……。と、ともかく戻りましょう!」

 

 いつまでも一緒にいて誰かに噂されたりしても困る。いや俺は困らないしなんなら彼女とかそういうふうに見られて外堀埋められたりしないかなあ~とか思ってるけど……っ!

 でも、多分先輩は困る。わざわざ身体だけの付き合いって明言する彼女は、1年半ほど前に飲み会の後で襲われた時に「失恋して誰かに受け止めて欲しかった」なんて言っていた。そんな彼女の心の傷に寄り添えるって名目で今も、その、肉体関係を持ち続けているんだから。だからせめて、この人の心を徒に掻き乱すようなことはしたくなかった。

 

「ああ、そうだな……ふふ、まあ、車まではゆっくり戻ろうか」

「っ、……はい」

 

 そんな俺の葛藤に気付いたのか、蠱惑的な笑みで俺を魅了してくる先輩。

 4つ年上の、頼りになる先輩。そんな人に心の奥まで見透かされて、あまつさえ気を使われているようで……。だけど、そんな申し出に抗えない俺は、やっぱり頼れない後輩だよなあ、なんて思った。

 

 

 

──────

 

────

 

──

 

─

 

 

 

「……それで、今回の事件の被害者がこの人か」

「ですね。背中をナイフで一突き、って感じですけど……」

 

 そんなことを思い出してしまったのは、今回の事件現場がその時とよく似た公園だったからかも知れない。流石に被害者の苦悶の顔を見てしまえばそんな記憶を想起したままではいられなかったけれども。

 現場は池のある公園。都心からはそれなりに離れた、雑木林の目立つ所謂自然公園的な場所だった。

 

 被害者は昨日深夜より行方不明になっていた「山本(やまもと) 俊英(としひで)(34)」さん。上豆油(かみご)製薬株式会社の社員で営業部営業課所属。昨日の夜に課の飲み会に参加しており、その帰宅途中に行方不明になっていた。そして翌日である今日の昼頃、公衆トイレを利用しようとしていた男性が遠くの茂みに不審な影を見つけ、テロとかの爆発物とかじゃないだろうかと不安に思い通報したところ……背中をナイフで刺された山本さんの遺体が見つかった、ということになる。

 

「推定死亡時刻は深夜23時~翌1時の間。司法解剖しないと確定には至らんだろうが、死因はおそらく失血死だろうな」

 

 先輩が現場を荒らさないように慎重に遺体を確認する。

 血がべっとりついたナイフも、苦痛の中で死んだであろう顔も。人の命が無惨に奪われたことを象徴しているようで……正直、見ていて辛い。暗闇の中で誰の助けもなく死んだ彼は一体どれほど恐ろしかったんだろうかと思うと遣る瀬無い。

 

「容疑者は……昨晩山本氏が参加したという飲み会で帰り道が一緒だった面々だな。4名か」

「ナイフの指紋とかは……」

「まだ採取はしていない。出てくるならそれで良いんだが……」

 

 そう言いながら、物憂げな表情で容疑者のリストをめくる先輩。

 

 今回の事件。事件発生時に被害者の山本さんと同じタイミングで同じ場所に居たのは同社営業課の「白尾(しらお) 修司(しゅうじ)(32)」、「安藤(あんどう) 易雄(やすお)(43)」、「安田(やすだ) 汐里(しおり)(22)」、「知念(ちねん) 彩(あや)(33)」の4名だ。全員それなりに親しかったようで、駅の方向が一緒だからと伴だって歩いて帰っていたようだ。

 

「昨晩の内に行方不明届が出ていないな……。昨晩は誰も気にしてなかったが、今日に入ってから会社に来ていないということで届出があったということか」

「はい。昨日の帰りに容疑者の1人である白尾さんと公園のトイレに行ったそうです。その、大きい方だった白尾さんに先に帰るって言って出てったからてっきり先に帰ったと思っていた、と」

 

 その報告された中身を見ていくら何でもそれは無いだろ……と最初は思った。だが実際は課内グループ用SNSで山本さんのアカウントからそういった発言もあり、夜も遅いし酔っていたからとその中身を信じて全員帰宅したんだそうだ。

 

「……状況的に見ればおそらく山本氏のスマートフォンを用いて犯人が発言した、と見るべきだろう」

「ですね。帰りが遅い山本さんをみんなで手分けして探していたそうだったので、誰がスマホを操作したのかまでは分かっていないみたいです。一応探し始めてから10分ぐらいしたら発言があったってことなので、単に言い忘れたまま帰ったんだなってその時は思ったそうなんですが……」

 

 この公園、自然公園と言われるだけあって木が多い。今みたいな昼なら何も問題ないんだろうけど、事件当日の夜は少し離れた広場とトイレを繋ぐ道に立っている街灯一本分の光源しか無かったはずだ。

 そんな雑木林の中をバラバラに行動していたとしたら、死体にたどり着いた犯人が操作したとしても誰がやったのかなんてわからないだろう。

 

「昨晩は新月だったことを考えても、通り魔的犯行というよりは周到な計画殺人と見るべきだろう。検死官が言うには昨夜が熱帯夜だったこともあって体温での死亡時刻推定は難しいということだ」

「昨日暑かったですもんね……」

 

 死亡推定時刻の23時というのは山本さんがトイレに行った時間がそのくらいだった、という曖昧な時間でしか無い。熱帯夜だと体温が減少する速度も遅いし、日が昇ってしまえば周囲の気温も上昇し、当然ながら体温は気温より下がらないわけで……。そうなると、死体発見時の体温から死亡時刻を推定するのは難しいだろう。

 

「そして、全員が広場にずっと残っていたわけじゃない、という話だったな」

「そうですね。白尾がトイレから戻ってくるときには全員揃っていたそうですが、トイレ中にそれぞれ別な理由で離れたりしたそうです。だからもしかしたらその間に殺した、という可能性も……」

「面倒な……酔っ払いに何を言うも無駄ではあるが、特定が難しくなるばかりだぞ」

 

 頭が痛い、とため息を吐く先輩。本当はそういうこと言っちゃいけないんだろうけど……でも言いたくなる気持ちもわかる。

 

「ああ……。一応、一番怪しいというか、タイミング的にも一番可能性が高いのは白尾だが……トイレから出てきたところは全員見ているようだからな」

「広場で待っていた人たちみんな、トイレからまっすぐ戻ってきたって言ってますね」

 

 これは全員から証言を得られている。全員共犯だとかそういうことでも無い限りは白尾さんがトイレから広場までの道を戻ってきたというのは確定だ。

 

 つまり状況を時系列順に整理するとこうなるわけだ。

 

 1、飲み会帰りで駅の方向が一緒の5人は飲み屋から駅に向かう途中で公園の中を通った。

 2、催した山本と白尾が公園の公衆トイレに2人で向かい、残り3名は広場で待った。但し各自一回は広場を1人で離れている。

 3、先に終わった山本がトイレを出て、その後白尾がトイレを出た。広場には道を通って戻ったのは確認済み。

 4、山本が戻ってこなかったので全員で手分けして探したが見つからず。

 5、山本からSNSで先に帰った旨の発言あり。遅い時間だったこともあり全員それを信じて帰宅。

 6、翌朝になっても出勤しない山本を疑問に思った職場から行方不明届が出される。

 7、昼頃、遺体発見。背中を突き刺されており、凶器のナイフが残されていた。

 

「う、う~ん……一応なんですけど、トイレで血痕の反応とかは……」

「一応一通り調査してみたそうだが……。この公園、観光目的の客が多いこともあって、水曜以外の毎日朝5時にトイレに清掃がはいるようでな」

 

 芳しくなさそうな反応を見るに、見つからなかったんだろう。犯行現場だったとしてもそうでなかったとしても、ある程度綺麗に拭き取られた上で業者の清掃が入ってしまうと流石に検出が困難ってことか。

 

「となると、鍵になるのは……凶器ですかね」

「……まあ、一応はそうなる。だがな、態々馬鹿正直に背中に突き立てたまま『証拠です!』って言わんばかりに放置するか?それ以外の目立った証拠が残っていないのに?」

 

 ですよね。

 偽装だとかミスリードだとか隠蔽工作の可能性は十分にある。自己顕示欲が強くて「こいつは殺されて当然だったんだ!」みたいなアピールなのかもしれないけれど。

 

「とは言え、だ。これ以上に現場の情報を探るにしても凶器からの情報を得るにしても鑑識の結果待ちだ。ならその間に今回の容疑者となる4名について捜査協力を求めに行くべきだろうな」

「そうなると、やっぱり白尾さんからになるんですか?」

「ああ。まあ誰が犯人だったとしても素直に言うわけもないだろうが……全員の証言から矛盾点が出てくれれば御の字だろう。待っていろ、今主任に確認してくる」

 

 そう言って、先輩は捜査主任の松井警部補の元へ向かった。

 1人残された俺はちらり、と亡くなられた山本さんの虚ろな顔を見た。

 

「……絶対、俺たちが犯人を暴いてみせます。だから、どうか安らかに……」

 

 言っても意味なんて無い、と言われたらそれまでだ。死んだ人間が幽霊になるなんてことがあったら、もっと犯罪捜査は進みやすいに決まってるんだから。

 だから、これはこの人に向けたものではなくて自分に対しての決意表明だ。警官として働いているのだから、人の悪意によって生命を奪われた犠牲者の無念を晴らしてみせるのだと、俺は他の誰でもない自分の心に誓ったのだった。

 

 

 

──────

 

────

 

──

 

─

 

 

 

「山本さんの件ですよね。ええ、私が協力できることなら何でも話しますよ!」

「助かります」

 

 今回の容疑者となる4名は、事態を重く見た会社からの自宅待機指示を受けて全員がそれぞれの自宅で待機しているとのことだった。

 だから俺と先輩の2人は順に事情聴取をすることとなったのだが……その最初の1人目である白尾さんは、まさに憤懣遣る方無いと言わんばかりに鼻息荒く俺たちを出迎えてくれた。

 

「私と山本さんは23時頃にトイレに行ったんです。残りの3人は……暗い場所で待ちたくないからって広場で待っててもらっていました。まあ、皆さんも待ち時間中に何処かに行ったみたいですけど」

「それで、その、自分は大きい方だったんで……小さい方だった山本さんが先に戻るって言ったんです。で、私はわかったって返事しましたよ」

「飲み会で出た食事が結構油っぽくてですね、私お腹弱くて……んで、多分20分ぐらい掛かったと思うんですよね。そこから皆の下に戻ったら山本さんが戻ってきてないってなりまして」

「で、皆で10分ぐらいか、もっとかな?色々探し回ったんですけど見当たらなくて……そうこうしてるあいだに山本さんから「先に帰る」ってメッセージが届いたんで、終電も近かったからみんなで帰ったんです」

 

 ……まあ、出てきた内容は凡そ既出というか推察されていた情報と合致していた。

 特に不審な点もないし、となると白尾さんはシロの可能性が高いかな……?

 

「すいません、1つよろしいですか?」

「?ええ、どうぞ」

 

 なんて考えていた俺の耳に届いたのは先輩の声。

 何か矛盾点でもあったのか……?と思い、内容をしっかり記憶するべく耳を研ぎ澄ませる。

 

「あなたは前職から転職された際、今回の被害者である山本氏をOJTとして教育を受けていたそうですね。彼に付き従って行動している間、今回の3名との間に確執等があったかなどはご存知ですか?」

「確執……ですか」

 

 が、先輩が聞きたかったのは違うことであったらしい。

 確かに会社の同僚であるならそういった確執から犯行に及ぶ可能性はあるだろうし、会社側からの提供情報以外の情報として当人間の関係性も知っておくべきだろう。

 

 少しだけ俯き何かを思い出そうと悩む白尾は、やがて恐る恐る口を開いた。

 

「……そうですね。安藤さんのことなんですけど、私が来る前、確か3年くらい前までは営業課でトップの成績だったそうなんです。だけど山本さんが来てから追い抜かれちゃって、それで険悪になってて……」

 

 ぽつりぽつりと語る白尾さん。身内の恥を晒すことになっているからか、何処か悩ましげだ。

 

「んで、年上の安藤さんにネチネチと険悪な態度を取られた山本さんなんですけど、1ヶ月位前に遂に爆発しちゃって。『俺の前でばっかり口達者だけど客相手には出来ねえのかよ!』って」

「山本さんには此処でのやり方教えてもらって成績も伸びたんで悪く言いたいわけじゃないんですが……あの人、成績相応に自分に自信を持ってたのもあって、他の人と衝突することが多かったんですよ」

「一応今回の飲み会で安藤さんが謝っているのは見ましたけど……まあ、それぐらいですかね」

 

 白尾さんはそう語り終えて、少しだけ表情を曇らせた。色々助けてくれたという山本さんを悪く言ったことが嫌だったのかも知れない。

 しかし、少なくとも山本さんが殺されうるような恨みを買っている可能性があるということはわかった。であれば、他の人達からも聞き取りをして確たる動機の有無から検証していくのも良いのかも知れない。

 

「ふむ、なるほど。わかりました、ありがとうございます」

「いえいえ、山本さんには本当にお世話になっていたので私も少しでも協力したいって思ってるんです。あんまり力になれなくて申し訳ないんですが……」

 

 先輩の感謝の声に対し力不足を謝罪してくるが、むしろこっちが謝りたいと思う。さっさと犯人を見つけられればこの人たちもこうやって自宅で待たされたりしなくても済むのだとと思うと、どうにも実力不足を痛感してしまう。

 ……にしても、職場のやり方を教えてくれたOJTの先輩のために嘆いている彼に勝手に同調してしまうんだから我ながら単純だ。

 

 

 

 

「ええ、確かに自分はあいつと反目していましたし、1月前には課内で口論しちまったのは認めます」

 

 次に訪問した安藤さんの家で話を伺うと、あっさりと不仲だったことを認めた。

 

「ですがね、自分だって反省はしたんですよ。そもそも山本に営業のやり方を教えたのは自分なんです。だからあいつの言った通り、自分が追い抜かれたのは客相手にしっかりとしたトークが出来てなかったってことでしょ?」

「だから色々悩んで、こないだの飲み会でしっかり謝罪して、あいつのトークスキルを教えてもらうって約束したんです。……その夜に、あいつが殺されたってのが残念でなりませんよ」

 

 そういう安藤さんは本当に悔いているようで、辛そうに眉間を寄せて食いしばっていた。

 思わず質問が止まってしまった俺に代わって、先輩が静かに口を開いた。

 

「成る程、事情はわかりました。それでは次に確認したいこととして、当日の夜に白尾氏を待っている間に何をしていたかを教えていただきたい。それと山本氏を捜索していた時に何か不審な点はありましたか?」

「良いですよ。まず待っていた時には三次会に向かってた課長から電話があったんでちょいと離れて断り入れていたんですよ。自分、酒が残りやすいんで次の日を考えるとハシゴは出来なかったんですよね。それと不審な点、ですが……」

 

 ふむ、と悩みこむ安藤さん。やがて何かを思い出したように顔を上げた。

 

「不審ってほどじゃないんですが……。山本の奴を探していたとき、道外れて全員林の中探したでしょ。その時にメッセージが届いたんですが……1人、画面が見えなかったんですよね」

「画面が見えなかった、ですか?」

 

 どういう意味なのか分からず思わず聞き返した。

 

「ええ。当日は新月で真っ暗で、森の中はいると街灯の光も届かないってんで全員スマホのライトつけて探してたんですよ。だけどメッセージが届いたタイミングで、周り見回しても2人分しか光が見えなかったんです。多分、タイミング悪く木の影とかに入っちゃったんだとは思うんですけど……あんな暗い中でスマホのライト機能はだいぶ目立つから、それが不思議でしたかね」

「ふむ……いえ、わかりました。……最後に、その右手の人指し指。怪我をされているようですが、何かありましたか?」

 

 先輩が目ざとく安藤に質問する。確かに言われてみれば、安藤は人差し指に絆創膏を巻いていた。

 

「え?ああ、これ。お恥ずかしい話なんですがね、紙で指を結構バックリ切っちまいまして。確か3日前だったかな、皆知ってますよ」

「そうですか。態々聞いてしまいすみません。それでは、これで本日の調査は以上となります。御協力に感謝いたします」

 

 先輩がペコリと頭を下げるのに合わせて俺も頭を下げた。

 

「いやいや、どうか山本の仇を見つけて下さい……そしたら、そうだな……。自分も白尾辺りに話聞いて、トークスキルを身につけることにしますよ」

「白尾さんに……ああ、そう言えば山本さんから教わっていたんでしたっけか」

「ええ。あいつも山本に教わってからメキメキ成績伸ばしてましてね。前の企業で鳴らしてたってんで営業トークとかもよく知っているでしょうし……山本が死んじまって空いた穴は大きいですからね、追い抜かれてもいいから頭下げて協力を頼みたいと思ってます」

 

 そう呟く安藤さんは何処か寂しそうで……反目していたと言っても、やっぱり実力は認めていたってことなんだろうか。いや、そもそもライバルだから業務で反目することはあっても死んでほしいって思うことは無いんだろう。

 俺は最後にもう一度頭を下げて、安藤さんの家を去ったのだった。

 

 

 

 

「……捜査協力、ですか。できることなら協力しますけど……」

「感謝します。それでは当日、どのような行動を取っていましたか?」

 

 3人目、安田さんの家で先輩が質問をする。こういった場合は同性の方が良いだろうという判断だ。

 

 新卒で営業部に配置されたという安田さんは、山本さんからのOJTを受けていたという。ある意味では白尾さんの後釜と言えなくもないのかも知れない。

 ただ、会社側から貰った情報によると山本さんからパワハラを受けているのではないか、との相談があったそうなのだ。

 

「はい。といっても白尾さん以外の人と一緒で、広場で待ってて、白尾さんが戻ってきてから皆で探して……そして、メッセージが来たのでそのまま帰ったってぐらいで……」

 

 彼女の答えも安藤さんと一緒だったが、当日の行動についてはそう言う他ないだろう。暗い森の地形なんて把握できるわけがないんだから、探した場所の情報すら出すことは困難な筈だ。

 

「待っている間、一度広場を離れたそうですが……一体何を?」

「ええっと、池をぐるっと歩いてました。夜の池って暗くて神秘的だなあって……」

「それ、誰かが見ていたりは?」

「してないです……」

 

 自分のアリバイが無いことで不安になったのだろう、肩を落とす安田さん。だが先輩はそれもお構いなしに質問を続けた。

 

「わかりました。それでは次の質問ですが……当日の夜、何か気になることはありましたか?」

「気になること、ですか?ええっと……あっ、池を歩いている時に水の跳ねるバシャンって音を聞いた覚えがあります。てっきり池の鯉か何かが跳ねたのかって思ってたんですけど……ただ、今にして思うと池よりトイレの方とかそっちから聞こえたんです」

「トイレ側……となると、池に流れ込む上流の川の方でしょうか。大体の方角はわかりますか?」

「いえ……それはその、トイレ側、としかわからないんですけど……」

 

 先輩の美人だけど迫力のある顔に萎縮したのか縮こまってしまう安田さん。そんな彼女の態度に気付いているのかいないのか、ふむ、と1つ頷いた先輩は最後の質問をした。

 

「では、最後の質問になりますが……貴女は山本氏からパワハラを受けているとの相談をした、ということですが、一体どのようなことをされたのか伺っても?」

「……それ、今関係ありますか?」

 

 先輩が次の質問をしたところで、露骨に安田さんの態度が頑ななものに変わった。

 

「関係があるかどうか不明な部分も多いので、そういった人間関係についても調査しているところです。御協力頂けますか?」

「…………」

 

 悩むような顔だ。まあ協力しないと言われたらそれまでだけど……。

 たっぷり10秒押し黙った彼女は、諦めたように口を開いた。

 

「……わかりました。確かにパワハラを受けているという相談はしたんですけれど……あれはきっと、私が悪かったんです」

「私達の扱っている薬品って、基本的には試薬だとかの産業で用いる薬剤なんです。山本さんはそれらの中身をしっかり覚えた上で「必要としている企業」「望ましい薬品としての能力」「新しく出来ること」なんかをわかりやすく要点を押さえて説明する能力が抜群に上手だったんです。私はそんな彼についていって、頑張って勉強したんですけど……相手方が何を望んでいるのかっていうところの把握が上手く出来なくて、その度に山本さんに尻拭いしてもらっていたんです」

「それでその、最初は丁寧に教えてくれていたんですけれど、私の物覚えが悪かったからだんだん口調が荒くなってしまって……それで、パワハラなんじゃないかって」

「課長や安藤さんに相談したときは『そういうものだ』で流されちゃって。白尾さんは「僕も昔違うやり方で伸びなくてよく怒られてたし頑張って」って応援してくれはしてもそれだけで……。その頃は本当につらくて、それで営業事務の知念さんに相談したら知念さんが山本さんにその事を問いただしにいって、揉めちゃって……」

 

 知念さんは今回の飲み会の帰りで一緒だった内の1人だ。

 会社側からの提供資料によれば、確かに安藤さん同様に山本さんと口論になったとある。ただ安藤さんと違うのは、営業能力が1位2位でどちらも得難い人材と認識されていた2人と違って、知念さんは事務方ということで一方的に上から窘められたそうだ。

 

「知念さんには御迷惑をおかけしてしまって申し訳なく思っています。それに、そのあと暫く頑張っていたらどうにかある程度コツを掴めてきて、そうなってからは山本さんも強い物言いをしなくなったので……」

「今は隔意は無い、と……。わかりました、御協力感謝します」

「いえ、あんまり重要な情報を話せなくてごめんなさい。どうか山本さんを殺した犯人を捕まえて下さい……お願いします」

「もちろんです、最善を尽くしましょう。」

 

 全く自然な笑顔で頭を下げた先輩につられるように、何処かホッとしたような顔で頭を下げる安田さん。今までのやや威圧的な雰囲気から一転して柔らかな笑顔を自然に作って空気を変えられるのはさすがの手腕だと思う。

 

 

 

 

「山本さんね。あの人とはどうにもそりが合わなかったっていうか、いやまあ課としては必要だったのは間違いないんだけどね……」

 

 最後の1人、知念さんが山本さんの件で事情聴取に来たと聞かされた時に口にしたのはそんな言葉だった。

 

「安田さんからの相談を受けた、とのことでしたが……」

「そう。安田ちゃんだけじゃないのよ、他にも結構相談受けたわ」

 

 何処か辟易したような顔で言葉を続ける知念さん。本心から嫌っていたのか、そうでなくとも立場上対立していたんだろうか。

 

「ほら、あたしって事務職でさ。皆が営業するに当たって必要な機材やら支出情報やら備品やらを申請するんだけどね……山本さん、営業の雰囲気作りってことで結構色々な小物を買うように言ってくるのよ。んでもそれを総務とか経理に説明に行くのはあたしなわけで……まあ色々言われてね」

「そう、ですか……」

「そうなのよ」

 

 はあ、とため息を吐く彼女。結構長くなりそうだが止めたほうが良いのかな、これ……。

 

「普段からある程度対立しているからこそ、山本氏と関係が悪化したとか、あるいは山本氏を恐れている同僚にとっての駆け込み寺のようになっていた、と?」

「そんなとこよ。っても結局能力があって成績がいいあっちが優遇されて、あたしやあたしに頼ってきた子は基本上から窘められて終わっちゃうわけ。会社としても山本さんにへそ曲げられたら嫌だろうからしょうがないんだけどさ、そんなわけで山本さんが嫌いな人も結構いるんじゃない?」

 

 話が長くなる前に先輩がさっとまとめたら、知念さんは我が意を得たりとばかりに頷いた。社内政治ってやつなのかとは思うけど……正直キャリアでもないヒラ警官の俺には縁遠そうな話だ、それこそ先輩とかなら立ち回れそうだけど。

 

「それで、貴女も嫌っていたと?」

「ん?いやあたしは別に。面倒な仕事よこすしあたしもあっちも口悪いから結構口論になるけど……ほら、山本さんって他の人にも自分の成績出るやり方を気前よく共有するから。うちの課の営業成績って結構上向いてきてて、そうなるとあたしの給料も上がるし、そんなわけで現金なもんだけどあんま嫌いになれないのよねえ」

 

 ははは、と笑う知念さん。今までの面々の中で一番カラッとしてるのはある程度の対立があったからか、あるいは直接的には自分の業務とか変わりがないから先行きについて他の人よりも不安を持っていないからかも知れない。

 

「わかりました。それでは次、昨晩広場で待っている間に一度場所を離れたそうですが、どういった理由でしたか?」

「場所を、離れた……?」

 

 首を傾げる知念さん。あれ、事前の軽微な聴取の段階ではそういった報告が来ていたような……?

 

「離れたのではないですか?安田氏と安藤氏がそのような旨の供述をしたと報告が来ていましたが」

「え?あーあー、アレだよ。広場に像があるだろ?あれってよく考えたら他の場所で似たようなの見た覚えがなくってさ、ちょうどいい機会だし見に行ったんだよ。待ってる場所から見て像の向こう側に街灯があるから、それで像の影に入っちゃって見失ったんじゃないか?」

 

 広場の像、というと確か……あのりんごを持った銅像か。他の人達が待機していた場所からそう遠くはないけど、たしかにその間には街灯がなかったから影に入ったら見えなくなるのかも知れない。誰の像なんだろう?りんごだからニュートンとか?

 

「ジョニー・アップルシードの像ですね。確かにあまり見ないものですが、おそらく自然保護のイメージとして作られたんでしょう」

「へぇえ、そんな名前だったのかいあの鍋帽子」

 

 ニュートンではなかった。鍋帽子って……確かにそんな感じの不思議な帽子だったけど……。

 ごほん、と先輩が咳払いをして空気をもとに戻す。

 

「えー……それでは最後に、待機中、捜索中で何か不審なこととかはありましたか?」

「不審なことねえ……っても、酒に酔ってたしなあ。んー……白尾さんトイレ長いな、ぐらい?熱帯夜だから早く戻ってこいよって感じてたし、それで長いって思ったのかもだけど」

「成る程、御協力に感謝します」

「いいのいいの、早く解決してね。さっき言ってた小物とか、山本さん死んじゃったしキャンセルしないといけないから早めに仕事戻りたいのよね……」

 

 ドライだなあ、なんて思いを表に出さないように俺は神妙な顔を頑張って作って頭を下げる。こういうときは先輩の表情筋の自在さに憧れるなあ……。

 

 

 

──────

 

────

 

──

 

─

 

 

 

「さて、一通り聞き取り調査が終わったわけだが……誰も彼も山本氏とは良くも悪くも縁深そうではあったな」

「そうですね……。言葉通りであれば、全員和解まではしているみたいですが……」

「そうは言っても実際に殺されているんだから、表立っての和解だけの輩が居るんだろう。だがまあ少なくとも今回の情報でわかったのは、山本氏の人物像だな」

 

 署に戻る途中のパトカー車内で、先輩はそう言って1つずつ情報を列挙していった。

 

「基本的には会社や同僚の成績も上がってほしいと考えている。全体主義と言うよりは自分に余力があるからこそ他の人にも良い想いをして欲しいって思考なんだろう。だが根底には自分のやり方や能力に対する自負がある……が、実際にそのやり方を伝えられた側の成績も向上しているのだからその自負は実績に裏付けられたものなわけだ」

 

 つらつらと語っていく先輩。今までの捜査でもそうだが、先輩は個人情報や周囲の人間との付き合いから相手のパーソナリティを理解する能力が凄い。

 

「だからこそ、自分のやり方を徹底的に指導していく。自分のやり方についてこれる相手を優遇し、ついてこれなければ軽蔑あるいは嫌悪する。知念氏が言うように、味方も敵も多く作るタイプの人間だったようだな」

「リーダーシップともとれますけど、独善的とも言えるかも知れませんね」

「独善、は言いすぎだろう。実績が出ているやり方を共有して成果を上げているのだからな。……だがまあ、自分の方が凄いと他者を下に見る傾向はあったかもな」

 

 そう言いつつも、どこか眩しいものを見るような表情を一瞬だけ浮かべた先輩。今の話で先輩が憧れる要素とかあっただろうか?

 

「先輩?」

「ん……いや、私はそこまで他者に気を配らんからな。私は自分のやりたいことを優先したがる人間だから、自分が優れているという自負ありきとは言えしっかり周囲に目を配れるのは凄いと思っただけの話だ」

 

 ああ、と思う。たしかにこの先輩、やりたいことは結構押し通すタイプだ。それこそこの前の青姦とか、コスプレしてのイメージプレイとか……。

 

「……お前、もしかして私と遊(・)ん(・)だ(・)時のことを考えてないか?」

「カンガエテナイデスヨ」

 

 表に出したつもりはないのになんで分かるんだ!?ホント鋭いなこの人……!

 

「全く……だがまあ、その件で1つ確認したいことがあるんだが手伝ってくれないか?」

「(その件?)俺は全然いいですけど……確認したいこと、ですか?」

「ああ、今日は曇りで、夜も分厚い雲に覆われると言っていただろう?だから今日の内に確認しておきたくてな」

 

 雲……ああ、なるほど。確かにそれなら今日の夜は昨晩に近い暗い夜になるだろうし犯行の状況の再現はできるのかもだ。

 先輩は頭もいいし、今回も何か気づいたのかもしれない。……俺の思考を読んだ上で「その件」で確認できることが何なのかだけはちょっと気になるけど……。

 

「わかりました、手伝いますよ」

「助かるよ。鑑識の結果もある程度出てるだろうし、その情報を確認してから行くことにしよう」

 

(そう言えば、ナイフの結果がまだだったっけか……まあ、流石に残ってる情報はないと思うけど……)

 

 遺体からは指紋含め犯行の特定に使えそうな情報は得られていない。失血死が死因というぐらいで、それこそ犯行の証拠になるのはナイフだけだったのだ。

 だからナイフの結果さえ確認できれば、すぐに先輩の言う「確認したいこと」の調査に取り掛かれるはずだと気合を入れ直した。

 

 

 

 

 

「おお、お前たち戻ったか」

「松井警部補、お疲れ様です。ただいま帰投しました。鑑識から何か手がかりの情報はありましたか?」

 

 署に戻った俺たちは捜査主任官である松井警部補に報告に向かうついでに判明した情報の確認をした。

 とはいえ、なにかあるわけもないだろう。そう思って、俺は自分達の聴取内容を伝えようとして──。

 

 

「ああ、あった。ナイフの柄からは半分ほど消えた指紋が検出された」

 

「──指紋は今回の事件の容疑者の1人である安藤のものだった。今後、容疑者の筆頭候補として扱うことになるだろう」

 

 

 ──まさかの展開に、俺と先輩は顔を見合わせた。

 

 

「指紋が残っていた……ということですが、握った痕跡があったってことですか?それとも拭き残しがあったとか?」

「……後者だな」

 

 困惑しながらの先輩の質問に、松井警部補も眉を顰めて答えた。

 

「……あの、それはつまり」

「そうだ。被害者の服にも、顔とかにも指紋が残っていないのにナイフの柄にだけ拭き残しがあった」

「っ、偽装工作とかじゃないんすかそれって!」

 

 思わず叫んでしまう。周りの目線が集中するが、やはり皆どこか懐疑的な表情を浮かべていた。

 そして同じように懐疑的な表情を浮かべた松井警部補が、はあ、とため息を吐きながら話を続けた。

 

「まあその可能性はあるさ。でも一応拭き残しの可能性がある以上、俺たちはそれを無視できんだろう。それ以外の証拠がなければ尚の事な」

「それはっ……そう、ですけど……」

 

 多分、言っている松井警部補だってそれを証拠として断定することに心からは納得できてはいないんだろう。だけど証拠が出た以上、それを基準に調査を進めていかないと問題になるからこんなことを言わざるを得ないだけだ。

 

「とは言え、だ」

 

 と、松井警部補は俺と先輩を交互に見やる。

 

「あくまで容疑者の候補筆頭とするだけで、まだ確定したわけじゃない。捜査もあくまでメインを安藤が犯人とした前提で進めるだけで、それ以外にも証拠や、あるいは前提を覆せるのであれば話が変わってくる」

「!」

「ところでお前達。わざわざ報告に来たということは何か確認したことがあったんだろうが……この情報以外で俺に伝えておきたいことはあるか?」

 

 松井警部補の言葉に、先輩と俺はちらりと目線を交わす。先輩は一歩前に出て、松井警部補に向かって口を開いた。

 

「はい。まずは今日の事情聴取の内容からになります。それから……」

 

 

 

「なるほどな。文言で聞く限りだと白尾以外の3名はある程度の確執があったということか……」

「はい。特に安藤は営業成績でのライバル関係などもあって最も怪しいというのは間違いないでしょうが……」

 

 聴取内容を一通り効いた松井警部補は難しい顔だ。証拠が残っていて、動機もあり得る範疇。このまま行けば順当に安藤さんが逮捕されることになるだろう。

 だがその証拠が怪しいこと、そして今回の容疑者候補の中で2人の確執を知らない者がいないことを考えれば、やろうと思えば偽装して犯人を擦り付けることは不可能ではないわけで、だからこそ渋い顔をしているんだろう。

 

「それで、その安藤の発言から気になる点がありましたので、現地で確認したいと考えていますがよろしいでしょうか?」

「……まあ、安藤が第一容疑者である以上、そいつの発言内容の確認の精査のための調査は必要だし問題はない。捜査は聴取内容をまとめてからか?」

「いえ、昨日の状況が再現されている内に実施しておきたいので……雲が出ている今のうちに行きたいと思っています」

「わかった。じゃあ行って来い」

 

 松井警部補から許可が降りたことで、ペコリと頭を下げる先輩。俺も慌てて頭を下げた。

 即座に踵を返した先輩を追い、戻って早々に俺たちは再度現場へと向かうのだった。

 

 

 

 

「……先輩」

「どうした」

「先輩は安藤さんが犯人だと思いますか?」

 

 パトカーの中。俺は先輩に向かって思い切って尋ねてみた。聞かれた先輩は僅かに眉を顰めたが、それだけだ。

 

「そうだな……可能性はあるだろう。動機も証拠もある以上はな」

「ですよね……」

 

 先輩から返ってきた答えは至極当然のもので、だからこそ俺も肯定せざるを得なかった。

 やや難しいながらも殺せるタイミングがある。指紋が残った凶器がある。口論になったことも、営業成績で追い抜かれたことも全部動機になりうる。

 これだけ揃っていればまず犯人として扱われるのは間違いない、けれど…………。

 

「そう聞くからには、お前は違うと思っているんだな?」

「…………」

 

 先輩の言葉に無言で返す。違う、とまでは言い切れないが色々納得がいかないところが多い状況なのはそうなのだ。

 

「だって、遺体は殺されてすぐに見つかったとかじゃないんですよ?凶器が残っているのもその凶器に指紋があるのも不自然ですし、その割には殺すタイミングもシビアだし……」

「殺すタイミングがシビアなのは今回の全員がそうだろう」

「それはそうですけど……」

 

 今回の事件の殺すタイミングは本当にごく限られている。というのも、現状の情報の限りだと今回の事件はトイレから出た後に広場に戻ってくるまでの間に森で待ち伏せをしたか、あるいはトイレを出た山本さんが森の中から戻ってこないからと探している間に殺したということになるからだ。

 果たしてそんなことが本当に可能なのか?ということを考えるとなんとも言い難い。不可能ではないが確実に成功させるには泥酔した山本さんの行動パターンを熟知した上で運を天に任せるようなやり方にならざるを得ないだろう。

 

「……まあ、お前の危惧していることはわかる。私だって本当に安藤氏を犯人だとは思っていないさ、少なくとも今はな。だからこそ、安藤氏の証言から気になることを確認するために現地に赴いているわけだしな」

 

 あ、と思わず肺から空気が抜けたような声を出してしまった。そりゃそうだ、安藤さんが犯人だと思っているならこんな事してないよな。

 勿論、安藤さんが犯人の可能性だってあるだろう。だけど今回話を聞いた中で、安藤さんは確かに過去を反省しているように感じられたので変な証拠だけで犯人と決めつけたくなかったのだ。

 だからこそ先輩が犯人だと断定していなかったことに安堵して……そういえば、そもそも何を確認するのか聞いていなかったことを思い出した。

 

「そういえば先輩、先輩が現地で確認したいことってなんですか?」

「ん……まあ、現地に行けばわかるさ。もし間違ってたら恥ずかしいしな……」

 

 どこか気まずげに顔で頬を掻く先輩。恥ずかしいって、本当に何を確認する気なんだろう……。安藤さんの証言から現地で確認することと言えば──スマホの光が1人分見えなかったっていう内容だろうか。

 となると現地調査している他の捜査員にも協力して貰う必要があるかな……なんて思っていたら、パトカーが現場の公園に到着した。事情聴取が長引いたこともあり午後8時。分厚い雲が細い月も星空も遮っており、公園の中心部は街灯ぐらいしかまともな光源がない状態だ。

 

「よし。それじゃあお前は広場に待機して、遺体が見つかった方向全般を見ていてくれ。私は今から遺体の場所へ向かう。遺体の場所についたら数回メッセージを送るから、スマホを確認できるようにしておいてほしい」

「わかりました」

 

 先輩は現場を踏み荒らさないように慎重に歩を進め、そして雑木林の中に姿を消した。

 ぴろん、と音がなり、自分のスマホの個人連絡用グループの画面に『遺体へ到着』というメッセージが表示された。

 

(ここからじゃ見えないけど……でも広場から見えないってだけじゃ安藤の言う『1人だけ見えなかった』って条件を満たせないような……?)

 

 そう思いながら、遺体の方向と連続で表示されるメッセージを交互に眺めていることしばし、先輩が街頭に照らされた道を通って戻ってきた。

 

「何か異常はあったか?」

「いえ……確かに先輩は見えませんでしたけど、でも当時は安藤も森の中にいたわけですし、ここから見えないってだけじゃ……」

 

 と、俺が言ったことで先輩の口が弧を描いた。

 

「いや、見えなかったのなら良い」

「良いんですか?」

 

 先輩的にはこれで良かったらしい。どういうことだろうかと首を傾げたところ、先輩が少し呆れたような、だけどバツが悪そうな表情で俺を見た。

 

「……そうだな、つまり私が言いたいのは────」

 

 

 

 

「────ということだ」

「それって……」

 

 先輩の言う「確認したいこと」を聞いた俺は思わず目を見開いた。

 

「じゃあ、先輩は最初から……?」

「最初からではないさ。安藤氏の発言や知念氏の発言に着想を得たのと……いや、まあいいか」

 

 またはぐらかされた……。なんかこの件については妙に及び腰と言うか、躊躇いがちというか……一体何がそんなに気になるのかとは思うけど、本当に重要なら話してくれるとは思うので今は置いておこう。

 さて、と先輩が仕切り直すように言葉を続けた。

 

「これだけでは犯人特定には繋がらん。私の印象云々はともかく、条件としては全員イーブンなのは変わらんからな」

「そうですね……あ」

 

 ふと1つ思いついたことがある。先輩が今回調べた内容からの連想だが……確認する価値はあるかも知れない。

 

「先輩。その……俺も少し気になったことがあって、少し確認したいんですが。……その、安田さんの言っていた件なんですけど」

「着水音の件か?ふむ……もしも魚が跳ねたとかでなければ、探す範囲は限定できるとは思うが」

 

 ううん、と先輩が地図とにらめっこを始めた。

 俺も先輩の広げた地図を覗き込む。探す場所は安田さんの言う「トイレの方向」で、かつ池の上流にある川だ。

 

「……うん、ここからここまででいいだろう。他の皆にも協力を頼んでこよう」

 

 先輩が地図を蛍光ペンで塗っていく。多分さっき調べた内容やら着水音のタイミングとかから場所を絞ったんだろうけど……本当、頭の回転が早くて凄い。

 他に現場での捜査を継続していた鑑識官や他の捜査員に頼み込んで、俺たちは手分けして地味に深くなっていた川を浚っていった。

 

 そして……。

 

「……見つかったか。とりあえず鑑識に回して、あとは結果待ちと言ったところだな」

「そう、ですね」

「……どうした?何を気落ちしているんだ」

 

 俺の態度に怪訝な表情を向けてくる先輩に、俺は曖昧に笑うしか無かった。

 結局、今回の情報などは軒並み先輩が集めていたし、俺はただ後ろをついていくだけ。

 

「先輩は凄いなって、それだけです。俺ももっと頑張らないとなって」

「……川を探したのはお前の提言ありきだろうに」

「それだって、探す場所を決めたのは先輩で、そもそも着水音の方向とかを聞き出したのも先輩じゃないですか」

 

 なんとも情けないなとは思う。別に誰がどうやろうが犯人が捕まればいいし、真相が明らかにできれば十分なのに。

 だけどこうやって先輩に頼りっぱなしだと、どうにも悔しいと言うか……俺も先輩に頼られたいと思うというか……。

 

(もしそうなれば、先輩とちゃんと……)

 

 なんてことを考えている俺の頭に、ぽん、と優しく手が置かれる。

 

「お前がどう思おうが、私はお前の手柄でもあると思っている。だから胸を張れ──なんて、まだ逮捕に至ってないのに言うのもあれだけどな」

「っちょ、撫でないでくださいよ!ああもう……」

 

 がしがしと頭を撫でくりまわされ思わず飛び退く。面白そうなものを見たようにニヤニヤ笑う先輩はそれもまた似合っていて、本当に色んな意味で敵わない。

 何より、それでも先輩に褒めてもらえたことでほんのり口角が上がってしまう自分は本当に現金だな、と思ってしまったのだった。




御堂筋(みどうすじ) 武志(たけし)(24):人間。男性。後輩。
 警視庁所属の警官。捜査第一課に来てから2年目。巨乳美女な年上の先輩からの逆レ初体験から1年半ぐらい経った夏、初めての青姦体験をした。この頃には先輩のことが異性として滅茶苦茶好きなのだが、その先輩からはセフレとしてしか見られてないと思っていてなかなか言い出せないでいる。頼りになる先輩に頼ってしまうばかりで頼られたいなと思うお年頃。

千堂(せんどう) 萬廣(まひろ)(28):人間。女性。先輩。
 女優みたいな美貌で巨乳なスタイル抜群の美女であり才色兼備の変人。本編主人公の関東地方のすがた。実直な後輩を青姦に誘う悪い女。まあ本編で末路まで提示されてるんだが。一応後輩がここらへんで告白して形だけでも付き合い始めていけば絆されて復讐を止めるルートに入る可能性はあった。その場合人を駄目にするクソ重ヤンデレ女に取り憑かれることになるのでそれはそれで大変だろうけど。

山本(やまもと) 俊英(としひで)(享年34):人間。男性。営業マン。今回の被害者。
 上豆油(かみご)製薬の営業のエース。元々は先に営業成績1位だった安藤から教えを受けたのだが、生来のトークセンスと相手企業の望む要件についての把握能力の高さ故に安藤の成績を追い越し営業成績1位。押し付けがましい部分はあるけれど「そのほうがみんなの成績も上がる」という事実を認識しているが故であり、単なる自信家というわけではない。自信家の側面はあるけれど。
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