※この作品はR-18です。

性奴隷と長身巨乳リョナグロ背徳性癖倒錯ふたなりが純愛に堕ちるまでの話   作:PP→KP

43 / 56
「長女」の話(中)

 翌朝。

 未使用と言う割に埃も被ってないふわふわのベッド(ちょっと荒目だけど良い羽毛を使ってるみたいだった。聞けば走歌鳥(キンナリー)の産毛を使うのが習わしなんだとか)で快適な目覚めを迎えた私は、村ではどういったことを皆がやっているのかを確認していた。

 この村は肥沃な草原がそばにあるので、それを使って遊牧的に家畜を育てるのが主流なんだそう。実際、昼日中だとみんな外に出て家畜たちを放牧している。そのためか牧羊犬もいっぱい居て、私を見て尻尾を振って近寄ってきてくれてすごく可愛らしい。

 

「可愛い……よーしよーし……っは!?」

 

 ワシャワシャ犬を撫で回していたところで、違うそうじゃなかったと慌てて頭を振り、気まずげに見ていた飼い主さんに向かってこほんと咳払いをした。

 

「ええと、はい。今の生活で何か気になることとか、そういうことってありますか?」

「気になること、ですか?」

 

 小首を傾げる飼い主さん。何で迷子の貴族様がそんな事を聞くんだろう、そんなふうに不思議に思っているんだろう。

 私が今やっているのは、まあ有り体に言えばナマの声を聞くとかそういうやつだ。この村は今回の領内の巡視の範囲外だったけど、どうせこの村に滞在するのだからついでになにがしかの収穫が欲しいところだった。

 

「うーん、特に無いですねぇ。うちらこうやって農業やって食うもん拵えて、行商や旅人から聞いたものを見に行く時についでに馬やら鳥やらを市場に卸して、それで酒とかタバコとか買って。そんな感じで十分な暮らしが出来てるもんで」

「そういうものなんですか」

 

 そんなんで満足するんだろうか?と思ったけど、それはいわゆる都会っ子な私の傲慢なのかなあ……なんて思わなくもない。

 とはいえそんな言葉だけ聞いて「はいそうですか」で終わらせるのもなあ、と思ったので追加の質問をしてみることにしてみた。

 

「じゃあ、今の領主様や代官様について何か思うことってありますか?」

 

 ……いや、自分が貴族だからってこの聞き方は不味かったのでは?こんなふうに聞いたら絶対ちゃんと答えてくれないよね?

 

「今の領主様?多分良い方ですよ……って、会ったこと無いんですがね。20年以上前に戦争で領主様が変わったんですけど、結局何ら変わりない生活送れてますし」

「なるほど、それは良かったですね」

「ええ。家畜を育てて、草原を走って、そうして家に帰る。そういう生活をずっと送れているのはお上の方々が素晴らしいからだって思ってます」

 

 幸いというか、そこまで深く考えるほどに世間に浸ってなかったらしくあけすけに答えてくれた。次からもうちょっとちゃんと取り繕うやり方を考えなきゃ……。

 それはともかく、割と好印象な解答ではあった……けど、これって前の領主でも同じ感想だったってことだよね?うーん、家畜を育てて資金源にしている半遊牧民的な村みたいだけど、そもそも自活できて街に行くのは嗜好品を求めるときぐらいらしいし、根本的にこの村だけでほとんど完結しているってことなんだろうか。

 

「あぁ、でも1つだけ……悪いってことじゃないんですが」

「?」

 

 と、ふと遠くを見るように目を細めた飼い主さんは少しだけ言うべきか逡巡して、やがて口を開いた。

 

「うちの親父、領主様変わった時に奴隷にされて、王都まで連れてかれちまったんですよね。幸いというか、馬の躾がうまいヒトだったからそこそこの家で家畜管理を任されて、今じゃもう奴隷じゃないそうなんですが……うちら馬は居ても金も何もないし、王都の親父にはもう会えないんだろうなって思うとそれだけが少しだけ心残りですね」

「…………そうですか。あの、色々教えてくれてありがとうございました」

「いえいえ、よくあることですんで。自分らの話でお貴族様の知りたいことが知れたなら良かったです」

 

 飼い主さんの言葉に言葉に詰まりながらもどうにかお礼を告げれば、相手は嘘偽り無く「良かった」と言ってくれた。すこしだけ心に棘が刺さったような気分だ。

 領主が変わったのは20年以上前。とすると、お父様が戦争でバリバリ働いていたときだ。今は代替わりして領主になったこともあってあまり戦争には出ていないお父様だけど、私が生まれる前や子供の頃は今よりずっとずっと戦場に出ていた。

 きっと領土争いの結果としてこの村は家の領地として編入されて、その時に技能のある人とかを王都に奴隷として連れてったんだろう。この草原は肥沃だし、奴隷たちの代わりに自領のヒトを入れて勢力として染めておきたいって思惑もあったのかも知れない。

 

 でも、その結果として家族が離れ離れになってしまったのだとしたら。20年前にはまだまだ子供だっただろう眼の前のヒトと同じくらいのときの私が、理不尽にお父様やお母様と引き離されてしまったら……果たして私は、飼い主さんのように、この村のように立ち直れていただろうか。

 かつて性奴隷だったお母様が、他の誰かに奴隷として連れて行かれてひどい目にあっていたとしたら、私は今の私にはなれていなかったのではないだろうか。

 

 よ(・)く(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)だ。それは間違いない。でも……そのよくあることの恩恵ばかり受けている私が、その被害を受けてばかりいる彼らに賢しげに諭すなんて出来るわけもなくて、ただ言葉を濁しているばかりだ。

 

(……こういうヒト達ひとりひとり全員を慮った政治なんて出来ない、ていうのはわかってたつもりだったけど)

 

 不思議そうな目線を向けてくる飼い主さんに別れを告げて、また村の中を歩き出す。その間もずっとなんとも言えない申し訳無さを感じながら、私は村での1日を過ごしていった。

 

 

 泊めてもらっていたザカリーの家に戻る。すでにザカリーのご両親も家に戻っていたようで、お母さんが料理をしているところだった。

 この村は周りが草原ということで木が少ないことからまとまった薪の確保が難しく、風呂場のある家自体が珍しい。それはこの家も同じで、基本的には井戸水を汲んで、布を浸して、それで身体を拭くんだとか。お風呂に入るのは週に1回かそこら、大衆浴場が開くのでそこで入るらしい。

 

 で、お風呂が開くのは明後日ということで。私は先んじて洗い場を使わせてもらえることになった。

 

(うーん、申し訳ないってことばっかりだなあ)

 

 貴族だからせめて最初に、ということなんだろう。きれいな布を渡されて少し申し訳無さそうにするお母さんを見るとわたしの方が心苦しくなってしまう。

 服を脱ぎ捨て、畳んで端に寄せて。そうして全裸になった身体を水を染み込ませた布で拭いていく。肌から伝わる冷たさに身を震わせながら、私はこの家のことを考えていた。

 

(……未使用の、少し小さめのベッド。丁寧に整えられていたし、きっと毎日掃除しているんだろうな)

 

 恐らく奴隷として家族が連れて行かれたんだろう。ザカリーが躊躇していたのもそういった家族の姿を見てきたから、そう考えれば辻褄が合う。

 だからといってベッドを使わない訳にはいかない。自分で言うのもアレだけど蝶よ花よと育てられた身の自覚があるので道具も何もない野宿が出来るとも思えないし、一応これでもこの領地の領主の娘なのだ。そんな私を寝床があるのに適当に野宿させたなんて話になれば後々の問題になってもおかしくはない。それにベッドふわふわで気持ちよかったし……。

 せめてこうやって身を綺麗にしておこうと思う。ベッドをなるべく汚さないようになるべく丁寧に体を洗っておくことがきっと今の私に出来ることだろう、うん。

 そう思って、あまり慣れていない浄化の魔法を使って水と布を浄化していく。普段は家の者に洗ってもらってたからこういう魔法を使ったことがなかったのが悔やまれる。今回の旅路で便利だからって教えてもらったけど、ちゃんと覚えてれば身体から何から綺麗にできたかも知れないのに……。

 

 村のこと、戦争のこと、魔法のこと、奴隷のこと……そんないろんなことに悩んでいたからだろうか。普段なら感情知覚で気付ける筈のことに気付くことが出来なかったのは。

 

「さて、身体を拭くか……っ!?」

「え……あ、ザカリー?ごめんなさいね、使ってたわ」

 

 いけない、とぼんやり思った。ちゃんと綺麗にしなきゃって思いばっかり先行して、ずっと洗い場を専有しているじゃないか。農業とかでいっぱい汗を掻いているだろう彼らにこそ必要な場所だって言うのに。

 

「ちょっと待っててね、すぐに出るから────」

 

 

「────っし、失礼しましたっ!」

 

 

 バァン、とど派手な音を立てて洗い場の扉が勢いよく閉ざされた。外にはザカリーの混乱した気配。

 突然のことに目を白黒させた私の脳裏に、向こうから強い感情が流れ込んでくる。これは──恥ずかしさと、困惑と、それから──性欲。

 

「あ、そっか。裸だったもんね私」

 

 素で気づいていなかった。いや言い訳させて欲しい。普段から半分くらい放り出してるおっぱいとお尻に今更恥も何もないし、公共の場ならともかく家の中だったので全然気にしてなかったのだ。そもそも年下の男の子に裸を見られたくらいで動じるような私じゃない。淫魔だし。

 でも、そっか。私の裸を見て興奮してるのか……。

 

「…………んふふ」

 

 これは……ちょっと良い思いをさせてあげて助けてもらった恩を返しつつ貴族に好印象を持たせるチャンスなのでは?なんならついでに美味しい感情も得られるダブルチャンスなのでは?

 自他ともに認める楽観主義の私は、さっきまでの悶々とした悩みをいい感じに転嫁できる矛先を見つけたことでニヤリとほくそ笑んだ。

 

 

 

「もう入っていいいよー」

 

 と、そんな風に声をかける。淫魔は感情とかいうよくわかんないものから生まれる栄養を摂取できる。つまりその発生源が近くに居ればそこから薄く栄養が流れてくるためすぐに分かるのだ。この感情察知能力と精神干渉魔法に優れている種族特徴はある程度の知的生物相手には不意打ちからの搦手を通しやすいこともあって、迷宮(ダンジョン)攻略とかでも案外重宝するそうな。

 それはともかく、つまりザカリーが今もすぐ外に居ることは把握済み。興奮を頑張って鎮めようとしながら、順番を待っていることはお見通しだ。

 

「……は、入ります……って!?」

 

 で、恐る恐る入ってきた彼が見たのは、相変わらず一糸纏わない私。思わず逃げようとする彼の逃げ道を塞ぐように羽を使って回り込んだ私は、そのまま後ろ手に扉を閉めて鍵をかけた。

 

「ふっふっふ……ねえ、ちょっとだけ一緒にお話しよ?」

「え、えええ……?」

 

 目を逸らしてる。可愛い。

 じりじりと壁に追い詰めて、そのまんまぎゅっと抱きついてあげる。むにゅうと私のデカいおっぱいが押し付けられて、真っ赤な顔になったザカリーがぎゅっと目を瞑ったのが見えた。

 

「……ねえ、ザカリー。私、きっとあなた達の大切な物を使わせてもらっているのよね」

「!それは……その……」

 

 言い淀む。まあ肯定はできないだろう。身分の差っていうのは残酷だ……お母様的にはこれでも緩いほうらしいけど。

 

「良いの。肯定も否定もしなくて良い。私がそう思ってるだけ、ただそれだけよ」

 

 ごくり、とつばを飲み込む音が聞こえる。興奮と恐怖の感情が私に伝わる。貴族を辱めたってなったらあとが怖いって感情は自然だし、それでもなお私に全裸で抱きつかれて興奮するのはもっともっと当然だ。

 まあ、怖がられているのはしょうがない。それよりも興奮してくれているなら十分だ。

 

「だから、これはお礼。ふふふ、あったかくて、柔らかいでしょ?」

 

 170cmを超える私よりも少しだけ上背のある細身ながら筋肉質なザカリーの胸に、全部を曝け出した私の115cmQカップのおっぱいを擦り付ける。麻の服のザラザラした感触が乳首を刺激して気持ちいい。

 出会って1日の男に全裸で抱きついてるなんて我ながら頭がゆだってるのかなと思うけど、そこまで変な気もしない。お父様やお母様、ケイトやクリスだったらまず出来ないしやらないだろうなと思うと……私って思ったより淫乱だったのかな?

 

(……いや、でも淫魔ってこういうもんだよね。たまたまうちの家族が貞淑なだけで)

 

 職場でお父様がお母様をリモートセックスしてガンガン膣内射精(なかだし)してても囃し立てるし、なんなら昼休憩時にこっそり廊下の隅で会話が盛り上がったからってだけでヤッてたりする。下の者だけで行く飲み会で選ぶ店は基本的に本番有りの娼館併設型のキャバレーというのが男女問わず淫魔のスタンダードだ。

 うちの家族が貞淑というのだって、善政を敷いていることで色んな人から出会い頭に好意を向けられるから感情の栄養に困ってない部分が大きい。逆に言えば只の一官吏やそこらの一般人でしかない淫魔にとってはヤることと食事はほぼ同義なのだ。なんなら行きずりの立ちんぼをすればお金がもらえてお腹も満たされるってことで食事より優先されるきらいすらある。淫魔同士なら(射精とかで魔力を使いすぎなければ)お互いの腹を満たしつつ気持ち良い事に浸れるんだし。

 

 ともかく。だからこうやって、開放的な気分で抱きついて、しなだれて、はしたなくおっぱいを押し付けて乳首のこすれる感触に甘イキしそうなのだって、そういう感情による栄養が得られるからしょうがないよね。これは淫魔の本能なんだよ、うん。

 

 顔を真赤にした彼から伝わるドキドキという心臓の鼓動が気持ちいい。このまま彼の思いを貪りたい……そう思いながらも、流石にこれ以上は不味いよねと自制する。あくまでちょっと良い思いをさせて、そのうえで私という貴族に好印象を持ってもらうことが目的だ。私の身体に恥ずかしいところは微塵もない(おっぱいがでかすぎるのはちょっと邪魔だけどそれだけだ)が、だからって大安売りしすぎるのは良くない。

 

「ふふ。はい、おーしまい。ありがとうね、私の身勝手なお礼に付き合ってくれて」

「え……あ、いえ、その、はい……」

 

 残念なような、ホッとしたような彼の表情。その顔も何故か放っておけないように思えてしまって、やっぱりもう少しだけ……なんて考えそうになるところを思いとどまる。

 

 ぱっと離れてさっと服を着て、去り際にもう一度だけ、さっきと違って優しくハグをしてから部屋に戻る。やっぱり真っ白に整えられたベッドの毛布にぽすりを身を横たえながら、ふと部屋に備えてあった鏡台を見た。

 小さい子供用の簡素な鏡台に映る私は、水を浴びてたっていうのにほんのりと頬の赤みが増していた気がした。

 

 

 

 翌日。昨日の件もあって恥ずかしそうに目をそらすザカリーが面白かったので彼の仕事を手伝うことにした。

 

「ねえザカリー。貴方、今日は何をするの?」

 

 ここに来たときと同様にザカリーの走歌鳥(キンナリー)に相乗りさせてもらって、彼の首に腕を回して体を寄せる。昨日みたいにドキドキしてくれるかな?と思ったけど厚手の革を着込んでいたのでよくわからなかった。残念。

 

「ええっと、鳥たちを放牧に出して、今日の餌場に誘導します」

「ふぅん」

 

 一度食べられた草原が元に戻るのには数日掛かるからある程度ローテーションをする、というのは子供の頃に領地の勉強をした時に教育係に教えてもらったから知っていた。恐らく昨日の餌場だったであろう場所を見れば小さな芽しか出ていないけど、あれも数日で他の草と変わらない背丈まで伸びるはずだ。

 ……お母様と一緒にこういう牧草とかの生態の勉強をしてたとき、お母様はしきりに首を傾げてたけどあれはなんだったんだろう。

 

 しかし誘導、となれば私が手伝えることはある。

 

「それじゃあ、私が魔法で誘導しようか?」

「魔法で、ですか?」

「ええ、私なら鳥たちの心に干渉して、ここの範囲だけに居るようにって指示を出せると思うのだけど」

 

 精神干渉は私の十八番だ。昇格者(ハイランダー)のお父様譲りの魔力の多さ(流石にお父様ほど多くはない)を使うことで亜竜相手でも魔法を通すことが出来る。そこらの淫魔じゃ出来ない芸当で、魔法の実技なら聖都の高校でも上位の評価を貰えていたぐらいには技術もあると自負している。

 ザカリーは少しだけ思案している。多分最初に出会ったときに墓噛り(ニーズヘッグ)に魔法を使っていたことを思い出したのだろう。

 ややあって、彼はこくりと頷いた。

 

「それなら、その……御面倒でなければお願いしてもいいですか、アビゲイル様」

「…………」

 

 むぅ、と頬をふくらませる。

 

「どうかされましたか……って、ああ、お名前をお呼びするのは不敬でしたね、申し訳……」

「……名前くらい良いわよ別に。全然呼んでいいわ」

「はあ……」

 

 もっと砕けた話し方をして欲しい。昨日あんな事をしたんだから、もう少し親密な雰囲気を出してくれても良いんじゃないだろうか。

 駄目だなあ、どうにもザカリー相手だと調子が狂っている。なんでだろう。不思議だ。

 

「まあいいわ、それじゃいくわよ……えーい!」

 

 詠唱なんて省略だ。淫魔にとってこんな魔法は息をするように出来る(※お父様除く)のだから。掌が光り魔力が放射され、鳥たちが一斉に指定の方向へと走っていく。それを追って私とザカリーの乗った鳥も走り出した。

 

「おお……犬の手伝いもなしにこれだけ簡単に……すごいです、アビゲイル様!」

「そ、そう……?ふふ、もっと褒めていいのよ!褒めそやしていいのよ!」

 

 あまりにも純粋な感嘆の感情を言葉どおりに向けてくるものだから、ついつい顔がほころんでしまう。

 貴族相手だと大なり小なり建前と感情が別れているヒトが多い中、ザカリー含むこの村のヒト達は朴訥とした素直な心を向けてくるから好きだなあ。

 

「ええ、本当にすごいです!これで今日の作業が一気に楽になります!」

 

 ウキウキとした様子で走歌鳥(キンナリー)を駆るザカリー。ふんふんと鼻歌まで歌い出す始末だ。妙にうまい。その喜びようが気になったので質問してみた。

 

「そんなに楽になるの?」

「そりゃもう!普段は群れが散ったり勝手に遠くに行ったり次の日以降の餌場に食いつかないようにしたりと忙しいですからね」

 

 聞けば、普段は自分の走歌鳥(キンナリー)なり馬なりにのって犬を使って群れを纏めながら餌を食わせているらしい。放牧中ずっと見張っていないといけないから大変みたい。

 だけど今日は私の魔法で鳥たちはエリアを守って規則正しい食事に取り掛かっている。そうすると一気に手間が減ってくるから、その間はゆっくり休めると喜んでいた。

 

「……ねえ、聞いても良い?」

「?はい、わたs「俺」……俺、が答えられることなら……」

 

 どうせ暇になったのなら、ということで草原に隣り合って座る。その折、少しだけ聞いておきたいことがあったのだ。

 

「ザカリーのご両親、私を見てすぐに部屋に泊まる許可をくれたわよね。……あれって、何でかわかる?」

 

 元の部屋の持ち主は十中八九奴隷にされたのだろう。帰ってくるときのことを考えて部屋を綺麗にしていたのも今となっては想像に難くない。

 でも、だとしたらもう少し泊めることをためらうんじゃないか?って思うようになったのだ。

 

「それは……すいません、俺にも正確なところはわかんないんです。父さんも母さんもあの部屋のことは大切にしてて、俺がガキの頃に興味本位で入ったらこっぴどく怒られちゃったこともあるぐらいで。……だから、多分推測なんですけど」

「いいわ、教えて」

 

 本当は聞き出すのは良くないだろうとは思うのだけど、だけど気になるのだ。彼らみたいな不幸なヒト達を作るような行いの上に生きている私としては、せめて彼らが受けた不幸を心に刻んでおかないといけないのだという一種の義務感も混じっていたかも知れない。

 そんな私の思いに気付いたのかはわからないけど、真剣な顔をしたザカリーは一呼吸置いて口を開いた。

 

 

「……あそこの部屋、俺の姉の部屋だったみたいなんです」

 

 

 ザカリーが言うには、自分が生まれる前に奴隷にされたお姉さんがいたとのことだ。彼と同じ黒髪で、仕事しやすいようにとショートカットにしていたんだそう。

 子供の頃に奴隷にされたから、今どうなっているかはわからない。だけどちゃんと元気していたら、大人になっていたら……今の私みたいに、黒髪ショートの女性になって居たんじゃないか、って思えたのかも知れない。

 

「……だから、私を受け入れたのね」

「その、両親を責めないでいただけませんか。貴人様と庶民の子を勝手に同一視するなんて、恥知らずなこととは思うんですが……」

「責めないわよ、寧ろこちらこそごめんなさいね。そんなセンシティブなところに押し入ってしまって」

 

 はーあ、と思わず草原に寝転ぶ。まあ十中八九そんなことだろうとは思ってたけどさ。

 ……ザカリーの両親は白髪が目立っていたが、ザカリー自身はまだ若い。あまり整えられてないのに張りのある若さを感じる黒髪は私と同世代以下なんじゃないかな、多分。そしてそれはつまりザカリーはある程度年齢を重ねた両親の元に遅くに生まれた子供だったってことだ。

 

(働き手がいなくなって、年を取ってからのことを考えると子供を作らなきゃいけなかったのね。……となると、ザカリーのお姉さんが最初の子供ってことかぁ)

 

 もしもさらに上の兄姉が居たのなら、言い方は悪いがザカリーを作る必要はなかった。この村の住民の生活は基本が自給自足で、医者のいる街も比較的遠いことを考えると出産も結構な大事だから、他に跡継ぎが居るなら無理に子供を作る方が危険だ。

 にも関わらず命がけでザカリーを産んだということは、それだけ夫婦にとって状況が切迫していたってことだと思う、多分。

 

 ……そして、きっとその娘さんのことは溺愛していたんだ。

 

 今でもベッドも部屋も丁寧に掃除していた彼ら夫婦は、きっと今もずっと娘の帰りを待っている。

 似た髪型で黒髪の成人女性。たったそれだけの共通点しかない私のことを(貴族だからどこかに泊めなければならないという理由有りきだろうけど)泊めてくれたのも、きっとそういった理由があったから。娘が帰ってきてほしくて、帰ってきた家を夢想したくて、だから優しく泊めてくれているんだ。

 

「…………」

「えっ、えっと……?」

 

 もぞ、と座っているザカリーに寄りかかって目を閉じる。

 

 もう色々と申し訳ない、そんな思いが日に日に募っていく。そんな私に優しくしていく彼ら村の人達の助けになってあげたい、そういう感情が自分の胸を内から叩く。

 色々と思いが巡る頭を整理したくて、力強い背中に自分を預け、草原の風と草の靡く音だけを頼りに意識を沈める。

 

「~~♪」

 

 鼻歌が聞こえる。私が無言で目を閉じたから寝ようとしているとでも思ったんだろうか、子守唄を鼻歌で歌う器用な真似をしている。

 

(あれ、なんで私はこれを子守唄だって思ったんだっけ……)

 

 脳裏に幼い頃の記憶がよぎる。大好きなお母様と一緒に勉強をして、お風呂に入って。お父様が来ない日だから居てもいいって言われたから、石でできた地下牢に置かれたベッドで一緒に寝て……寝るまでの間に聞いていた、母の歌声。

 

(……お母様が歌ってたときとは、ぜんぜん違う。鼻歌だし、リズムもちょっと外れてるし……というか、いくら寝そうだからって子守唄はないんじゃないの……まあ、いいけどさ……)

 

 まったくもう、と思いつつもどうにも無性に懐かしくて、口元に小さな弧を描きながら。私はまるで子供だった頃のように、夢の中へと落ちていった。

 

 

 

 3日目。同じようにザカリーの手伝いをしようと思ったが、そのついで(でもないけど)に他の人達の家畜についても放牧の出発前に魔法を使うことにした。昨日ザカリーの家の家畜に使ったときは上手くいったし、だったら他の人の分もというザカリーたってのお願いだったので張り切って魔法を掛けてあげた。

 銘々の放牧地に向かう村人たちの家畜を見送ってから、私とザカリーも自分達の家畜に付き添って今日の放牧地へと向かう。昨日より少し離れた、今日の中では一番遠い牧草地だ。

 

「今日も俺と一緒でいいんですか?」

「うん、良いよ。ザカリーは嫌?」

「い、いえそういうわけではないのですが、てっきりこう初日みたいに色々な場所を見て回るものかと……」

 

 慌てて説明するザカリーの様子が面白くて、いけないと思っててもくすりと笑ってしまう。彼らからすれば大事なんだろうなとは思うんだけどね……身振り手振りが大きくて。

 

「あれは暇つぶしみたいなものだからね」

「なるほど……」

 

 暇つぶし、と言うには語弊があるけど。でもお仕事として聞いているなんて言っちゃったら初日に聞いた人が不安になりそうだし、それにあくまで迎えを待っている間に何か収穫が欲しい、ぐらいの感覚だからやっぱり暇つぶしみたいなもんだ。

 そうして、今日の牧草地に到着した。青々と茂った牧草は立派に育っていて、なんでも暫く使っていなかった場所らしい。

 

「じゃあなんで今日はここを使うことにしたの?」

「いや、その……ええと、アビゲイル様をご不快にさせたら申し訳ないのですが……」

「……良いわよ、怒んないし不快にならないわ。話して」

 

 裸まで見せたザカリーに必死に不慣れな遜りをされる方が個人的にはつらいんだけど……でも言う訳にはいかない。

 そんな内心を知ってか知らずか、私に話すよう促されたことでザカリーは口を開いた。

 

「ええと、普段は逃げないように見張ったり群れが散り散りになったときに応援が必要だったりするので、あまり拠点から離れられないんです。だから放牧も群れ同士で喧嘩が起きないギリギリまで詰めた状態でやらないといけなくて……。でもアビゲイル様の魔法があれば、群れを取りまとめることが簡単になるので……」

「遠くの広々とした牧草地で悠々と育てられる、ってわけね。なるほど」

 

 普段使わない牧草地なら自由に食べさせたりしても今後の育成に大きな影響も出ないだろうし、普段より広範囲に放牧できれば家畜達のストレスも減って良いとのことだ。

 私という貴族を便利に使っているように見えるからかどうにも恐縮気味なザカリーだが、彼らの世話になっている身としてはむしろバンバン使っていいと思う。うちの家は貴族を保護したついでに自発的な協力をしてもらった事を指して民を罰するようなことはしないし……。

 

「まあいいわ。それじゃ今日は何をするの?」

「それなんですけど、時間が出来ることは分かってたので母の手伝いも兼ねて小物作りをしようかと」

 

 そう言って取り出したのは革と小さいナイフだった。

 

「それは?」

「大蛇……ニーズヘッグ?に殺された馬の革です。せめて革細工にして売り物にできれば、ということで最近女衆で手を付け始めているんですが、犠牲になった馬も多くて。鞣しは終わったんでゆっくりやっても良いんですが共同倉庫を圧迫しちゃうし、早めにお金に変えたいんですよ」

 

 そういって彼はちまちまと作業を始める。溝を彫って、穴を開けて太い糸を通して刺繍して……本当に器用だ。昔お裁縫や刺繍をお母様に教えてもらった時に指を刺した身としては女子力で負けてる気がしてちょっと悔しい。

 

「すごい細やかな刺繍ね……お母様の手伝いということだったけど、前にもやったことがあるの?」

「そうですね。本当なら母が姉に継がせる予定だったものだったんです。いや、実際に姉は子供の内に全部覚えちゃったそうなんですが、その……。それで、姉が居ないから俺が結婚した時に嫁に継がせることになるんですけど……何分遅くに出来た息子だから、もしかしたら嫁さんが出来ても継がせる前に腕が衰えてちゃんと継がせられないかもってことで、俺に教えてくれるようになったんです」

「そう……なのね」

 

 ここでも姉、そして奴隷。何を聞いても自分に突き刺さってきそうで迂闊なことが言えない気がする。いや突き刺さるぐらいなら良いんだけど、こういうことを話させると彼の顔も暗くなってしまって、それが辛い。

 

「……ねえ、私も教えてもらって良い?」

「えぇっ!!?!!?!」

 

 そんな顔をさせてしまったことがつらくて、どうにか少しでも手伝いたいと思って申し出てみたんだけど……そしたらザカリーはやたらびっくりした様子でバッと顔をあげた。ほんのり頬が染まっている。

 なにかおかしなこと言ったっけ……って思って、ふとさっきの彼の言葉を思い出した。

 

『……それで、姉が居ないから俺が結婚した時に嫁に継がせることになるんですけど……』

 

『俺が結婚した時に嫁に継がせる』

 

 

『"嫁"に継がせる』

 

 

「えっ、あっ、いや、その、違うの、違うのよ!?そう、そういう意味じゃなくってね、その、少しでも手伝えないかなって、そ、それだけだったの!」

 

 やばい、自分の顔が赤くなってる気がする……っ!違う、本当に違うの。単に罪滅ぼしってだけで、決してその、遠回しな告白というわけでは…………っ!!

 

「そ、そうですよね。いやあ慌てましたよ~」

 

 私の慌てふためいた態度を見て、やたらとホッとしたような表情をするザカリー。

 いやわかる、わかるよ。急に変なことを言った貴族の女が文化の違いから生まれた失言に気付いて訂正したことで安堵したってことはわかってますとも、ええ。

 

「……あ、あれ?怒ってます?」

「怒ってないわよ」

 

 なんか釈然としないだけ!

 

「あ、そ、そうですか。ええと、その……や、やってみますか?」

 

 そんな私の態度に戦々恐々としながらも、おずおずとした態度で私に向かって革を差し出してくるザカリー。

 むぅ……と、少しだけむくれてしまうけど。でも彼の刺繍はやっぱり綺麗で、繊細で。どうしても興味が湧いてしまって、彼の言葉を受けながら刺繍や裁縫を楽しんだのだった。

 

 

 

「ふぅ、結構頑張ったんじゃないかしら、私!」

「本当にすごいですね……ちょっと教えただけなのにこんなに綺麗にできるなんて。これなら十分市場に出せますよ」

 

 ふふふ、感心の感情が心地良い。手に針を何度も刺しながらでも刺繍ができるように頑張った過去の私を褒めてやりたい。いやまあ良い感じに出来たのは昔お母様に教えてもらったやり方に似てたのもあるけど。

 私の手元にあるのは数々の革細工の小物だ。財布とか櫛入れとかベルトとか、変わったものだと工具差しみたいなのもある。ザカリーは革靴なんかも作っていたので本当にすごい

 

「で、これって幾らぐらいになるの?」

「うーん、そうですね……財布が銀貨1枚、櫛入れは銅貨10枚、ベルトは銅貨25枚……ぐらい?財布の刺繍は特に出来が良いので、多分そのぐらいにはなるかと」

 

 なるほど、そのぐらいにはなるのか。銀貨1枚、銀貨1枚……銀貨、1枚?

 

「えっ……っそ、うなのね」

「?ええ、そうですよ?」

 

 危うく「それだけ?」なんて言いそうになって慌てて言い直した。ザカリーは気付いていないようで、革細工たちを丁寧に包んで鳥鞍に括っている。

 

 自分で言うのも何だけど、私は今回の作業を結構頑張ったつもりだ。でも、この頑張った時間で貰えるのは銀貨1枚。ザカリー的にもそれが普通であるようだ。

 

(……そりゃ、わたし達はプロの職人じゃないけどさ)

 

 ザカリーから伝わる感情に嘘はない。革細工の出来が良いことをしっかり喜んでいた。だからきっとその価値の見立ても間違ってないんだろう。

 つまり、あれだけ苦労してこれだけ頑張っても得られる金銭はその程度ということだ。

 

(……領内の巡視。今回は体験だから本来の月給を日当換算して出してたから……確か、1日辺り銀貨50枚だっけか)

 

 それもお父様が「私の娘だからって甘やかす必要はない」って言い切ってきっちり新人基準の単価で設定していた。そのせいで普通に王都の屋敷や王宮で仕事してたときは愚か子供の頃のお小遣い未満にまで賃金が減らされて、しょうがないとは言えため息を吐きたくもなったものだが……。しかし今回の仕事で私が出来たことと言えば先輩の作業を真似ての聞き取りとか、皆で調査した情報の整理と領地全体の傾向の把握、精々その程度の仕事しかしていない。そんな新人官僚の仕事の1/50しか稼げないのだ、今回の財布を作る方が何倍も頑張ったのに。

 

 勿論、彼らがそれで暮らしていけるのだから問題はないと言えばない。本業は畜産で、食料は全て自給自足できる生活だから生きることに困ることはないのだ、彼らは。

 だけど、どうにも不公平な感じがする。どっちの仕事もやったからなのかな?

 

「……ねえ、ザカリー。もっと高く売ろうって思ったりしないの?」

「いやあ、売れないですよ。高い物に比べたら全然簡素ですし、品質に信用が置ける有名な職人のものでもないですし」

「そっかぁ……」

 

 あれでも簡素なのか。いや、確かに私が普段使うような財布は透かし彫りとかそういうのも使われていた気がするし、そういうのに比べたら簡素なのかも知れない。

 それでもなんか納得できないのは、きっと私の普段の仕事との差とか、そういうのが気になってるからだ。

 

「あのね、ザカリー。私、巡視吏なんだ。見習いみたいなものだけど」

 

 だから、どうしてもそれについても聞きたくなって。つい、そんな事を言ってしまった。

 

「あ……はい。そうでしょうね」

 

 えっ?

 

「い、何時から気付いてたの?」

「ええと……村で聞き込みとかしてたじゃないですか、その頃から村の皆では大体そういうもんだって思ってましたよ。ああ言う事するのってだいたい巡視吏様ですし……」

 

 貴人様が巡視吏様なのは初めてですけど……なんて付け足されたけど、そんなことよりとっくに立場がバレてたことに驚いた。

 いやでも、そりゃそうか。この村は立地的には牧草に使える大草原に面しているので大切だけど、逆に言えば場所さえ取れていれば良い。他領の密偵とかそういうのが居なければ1から10まで注視する必要もないわけで、必然巡視吏ぐらいしか様子を探ろうとしないのか。

 

「ま、まあそれは置いておいて。私の1日の賃金ってそこの財布の50倍になるんだ」

「そうなんですね……。となると銀貨で、えーと、50枚ですね。1日にそんなに貰えるんですね、すごいです」

 

 素直に褒めてくれる。自分が頑張ったって自覚のある仕事を褒めてくれるなら嬉しいけど、今回はちょっと微妙だ。

 

「うーん、それがすごくないと思ってるんだよね。巡視吏の仕事より大変って思った革細工なんだから、どうしてもっと高く売れないのかなって思っちゃったんだ」

「はあ……ええと、そもそもどういう仕事なんですか?巡視吏様って色んなところを見回ってて大変そうだな、ぐらいしか分からなくて」

 

 ザカリーは不思議そうな顔で私に聞き返してくる。なるほど、確かに巡視吏の仕事を説明しないと私の悩みがわからないかも知れない。

 そう思って、私はしっかり説明した。巡視吏がどういう領地をどう巡って、どんな情報を集めているのか(ここはある程度ぼかしたけど)。それらの情報から何を類推して、どういったことに使うのか、そのために情報をどう取り扱っていくのかetcetc……。

 

「……ってわけ。こういうきれいな細工をして、皆に使ってもらえるようなモノを作る方が何倍も大変なのに……って思っちゃって」

 

 どう思う?って意味を込めてザカリーの顔を見る。きっと私が思うように、そんな仕事で自分達より何倍も稼ぐなんてずるいって思って……。

 

「????????」

「ってあれ!?ザカリー、ザカリー!?」

 

 ……なんか、目を回してた。ヤバい、なんか知恵熱が出てるっぽい!?

 目が虚ろになったザカリーを治すべく、私は初歩の治癒魔法と精神鑑賞魔法の応用である精神沈静化の魔法を掛ける。1分程掛けて、どうにかザカリーの正気を取り戻したのだった。

 

 

「その、失礼を承知で言ってもいいですか」

「はい」

「そちらのお仕事の方がよっぽど大変だと思います」

 

 正気を取り戻したザカリーは、私のことを一周回ってお馬鹿な子を見る目で諭してきた。

 いや、でも待って欲しい。言うほど大変じゃないんだって。こういう手芸とかのほうが絶対大変だって。

 そんな私を見て、ザカリーは真剣な顔で口を開いた。

 

「……ずっと思っていたんですけど、アビゲイル様は何か負い目でもあるのですか?その、ウチの部屋を使わせてもらっている以外に」

「負い目っていうか……奴隷とか、そういう部分を直視してこなかったから申し訳ないと言うか……」

 

 事ここに至って隠し立てしようもないということで正直に吐く。

 ……そう、結局はそこに行き着くんだ。ザカリーに、彼の家族に、そして村の人達に申し訳ない。貴族の、国の争いに巻き込まれて、家族を離れ離れにさせて。頑張って仕事をしても、雀の涙ぐらいの報酬しか貰えていないという現状を放置していたということを知ってしまって後ろめたいのだ。

 私だって本当は分かってる。家で、学校で、職場でたっくさん勉強して、実地で無理やり専門的な知識を叩き込んで。そうやって得られた知見を元に育て上げられた一端の官僚の方が社会的には希少で、重要だと扱われていることは。

 

 だけど、家畜の世話の大変さを見て、時間を掛けて手作業で工芸品を作ることを体験して……そのどれもが大変だってことを知った。知ってしまったからにはどうにかしたいと思って、それでその、自分の職を卑下したり相手を持ち上げたりして価値を高めたいって思ってメチャクチャ言ってただけだ。

 

「アビゲイル様のお気持ちは嬉しいです。ですがご自分のお仕事を卑下しないでください。俺たちからすれば貴族様たちが頑張って守ってくれているからのんびり暮らせているんですから」

「そう……わかったわ」

 

 ザカリーの励ましを受け、素直に頷く。悩んでてもしょうがない、今の私に出来ることなんてそうはない。

 だから取り敢えず、そうはない出来ることから頑張ろうと思う。差し当たっては情報をもっと集めて、整理する。いずれ代官になる(かも知れない)んだし、その時にどうにか打開策を打ち出せれば……?

 

 ぐらり、と地面が揺れた。

 

(────っ!?嘘、何で、気付かなかった──っ!)

 

 色々と悩んでいたからとは言え、揺れるぐらいに近くに寄られているのに気づけていなかった。

 

「ザカリー!私の後ろに下がって!」

「え……っ、はい!」

 

 急な揺れにあたりを見回していたザカリーは私の指示を聞いて下がる。そしてその次の瞬間に、どおん、と地面が爆ぜて地中から巨大な影が飛び出てきた。

 

 ソレは、ぱっと見る限りならミミズとか蛇とか、そういう生き物だろう。目が退化しているのかその頭部に外見にわかるような目はなく、バックリと頭部の根本まで大きく裂けた口がある。鋭い乱杭歯が閉じた口の外にはみ出ており、口内に捉えた獲物を逃さないようにしているのがありありとわかった。

 

「墓噛り(ニーズヘッグ)……っ!なんでまた……!?」

 

 巨木のような太く長い身体をうねらせて地面から這い出てきたのは、以前戦った亜竜に属する生物の「墓噛り(ニーズヘッグ)」、その成体だった。前に襲われた亜成体は全長20m、直径は2m程度だったけど……今回の成体は少なく見積もってもその倍はある。余程歳月を重ねたのだろう、その体表は巌のように頑丈な外殻に覆われていた。

 

(なんでこう立て続けに……墓噛り(ニーズヘッグ)は活動の鈍い腐肉食で、数ヶ月に1度ぐらいしか獲物を食べないって教わったのに……!)

 

 普段は殆ど動かず、匂いの届く縄張り圏内で生物が死ぬと寄ってくる。土葬がメインだった時代に墓を噛ってその下の遺体を穿(ほじく)り出すことから死者を貪る墓噛り(ニーズヘッグ)と名付けられたのだと高校の生物学の教師は言っていた。前に戦った亜成体はまだ若いからある程度活発なのかもと思ってたけど……こんな老個体ですらここまで活発に襲ってくるなんて思わなかった。

 

「まずい、このままじゃ鳥たちが……」

「──っ」

 

 放牧地にいる走歌鳥(キンナリー)たちはまだ私の魔法が掛かっている。所定の範囲から逃げないようにという洗脳は、今この状況だと捕食者から逃げられなくする檻でしか無い。幾ら普段生き物を襲うことが少ない墓噛り(ニーズヘッグ)だとしても、行動範囲が制限されている獲物ならいくらでも襲えるだろう。

 逆に言えば、そういう制限がない私達は墓噛り(ニーズヘッグ)からは逃げられる。というより、逃げる私達よりも食いでがあって逃げられない鳥が先に狙わられるから私達は安全だ、ってことなんだけど。

 

 命を優先するのなら、きっと私とザカリーはこっそり逃げるべきだ。走歌鳥(キンナリー)を犠牲にして、着の身着のまま逃げ切って、そうして村の人達に危機を知らせる。この村に来て3日目ってことは、1日もすれば領都に私がここに居るって書いた手紙が届く。そうなればあとは多少高価だろうが転移魔法でも何でも使って私を迎えに来るだろう家人達に現状を知らせれば、誰か狩人なり探索者なりお父様なりが飛んできてそうそう時間も掛からず墓噛り(ニーズヘッグ)も討伐される。それが一番安全確実なやり方だ。

 

(……でも)

 

 でも、そうするためには只でさえ減らされた彼の家畜が襲われ食われるさまを放置する必要がある。遊牧民にとっては何よりも大切な財産である家畜を放置するように命令しなくてはいけない。

 ちらり、とザカリーを見る。墓噛り(ニーズヘッグ)が走歌鳥(キンナリー)の方へずるずると巨体を引き摺っていく様子を、焦りと恐怖と……そして諦観の感情を浮かべながら、見つめている。

 

 襲われて失った馬の革で、あんなに苦労して銀貨1枚にしかならなくて、それでも出来が良かったから高く売れるって喜んでくれたザカリー。国同士の争いの結果として何もしていない娘が奴隷にされたのに、その国に仕える貴族である私を泊めてくれたザカリーの両親。彼らが生きるために必要な家畜を、財産を放置して逃げることを提案するのが、本当に正しいのか──否、本当にそれで私が納得できるのか。

 

 

(そんなの────出来るわけがない!)

 

 

「……ザカリー、よく聞いて」

「アビゲイル様?」

 

 私の心は決まった。貴族の娘として、領主の娘として正しいとはこれっぽっちも思えないけど……それでも。

 

「私が墓噛り(ニーズヘッグ)に簡単な精神干渉の魔法を掛ける。そうしたらあいつは私の方に誘導されるだろうから、その間に鳥たちを連れて逃げて」

「!?で、ですがそれじゃアビゲイル様が……っ。そうだ、この前の大蛇に自分を食わせた魔法なら……」

 

 ザカリーの言葉に、私はふるふると首を振った。

 

「あれは結構な大魔法だから、今使おうとすると絶対に気付かれちゃう。この前は皆に牽制してもらってたから通せたけど……」

「そんな……」

 

 他に何か、と考えていそうなザカリーの両肩に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。

 

「お願い」

「…………っ、わかり、ました。鳥たちを厩舎に戻したら全力で戻ってきます。だからどうか……」

「うん。大丈夫大丈夫、私、これでも淫魔族でも指折りの魔力を持ってるんだから」

 

 そもそも淫魔が戦闘に向かない種族だけど。でもこの村の人達は淫魔について詳しくないし、そうやってドヤ顔すれば騙されてくれる……と思いたい。

 そんな私の祈りが通じたかどうかは分からないが、ザカリーは覚悟を決めたように小さく頷いた。

 

 

「とりゃあ!そら、こっちだよノロマ!」

 

 一頭だけ借りた走歌鳥(キンナリー)に乗って、目の見えない墓噛り(ニーズヘッグ)を誘導するために嗅覚を乱す精神魔法を使う。

 

 ぐるん、とその巨体が大きく私の方へと向いた。きっとどこにあるかも見えない奴の鼻には今、自分の大好物(なのかは知らないけど)である腐肉の香りが漂ってきていると錯覚したことだろう。

 大きく鎌首をもたげたその姿に背筋が凍りそうな思いをしながら、私は走歌鳥(キンナリー)にしがみついた。

 

 巨大な頭部が私の元へと迫る。遠くから見ればスローに思えたかも知れない、だけど襲われている身としては壁が突撃してくるような光景だ。

 私の魔法による精神干渉を受けた走歌鳥(キンナリー)は私の思考の指示のままに駆け出し、大樹が迫るような攻撃を紙一重で交わしながら少しでも墓噛り(ニーズヘッグ)から遠ざからんと速度を上げる。そして当然、墓噛り(ニーズヘッグ)もせっかくの獲物……それも食べ慣れた腐臭のする相手を逃がすつもりはないとばかりにその巨体を大きく蛇行させながら追いかけ始めた。

 

(よし、釣れたっ!)

 

 あとはどうにかして大魔法を打ち込む隙を作りたい。強大な亜竜だろうが私の精神干渉を通しさえすれば、あとはその強大さを自分に向けさせることで勝てるのは実証済みだ。

 

(問題はどうやって隙を作るか、なんだけど……)

 

 巨体故に緩慢に見えるけど、あくまで見えるだけ。実際に相対すると走歌鳥(キンナリー)を誘導して躱すだけで精一杯だ。亜成体よりもデカいのに亜成体より早いんじゃないだろうか。

 一応こっちのほうが早いので早々追いつかれることはないが、だからって振り切ってもいけないのだ。もし私を見失った墓噛り(ニーズヘッグ)が他の人の元へ向かったら目も当てられないし……。

 かといって延々粘れるのかと言えばそうでもない。私じゃマトモに乗れない走歌鳥(キンナリー)に無理やり乗るために魔法を使ってる現状、いつまでもこの状況だと大魔法のための魔力を温存していられなくなっちゃう。

 

 無策で魔法の準備をしてたら気付かれて攻撃される。十分に距離を取れば墓噛り(ニーズヘッグ)に逃げられる。持久戦をしてたら魔力切れになる。これって結構八方塞がりじゃない……?

 

 一応、結構距離は取れた。だから逃しても村に行かない可能性はあるけど……。

 

(でもそもそも墓噛り(ニーズヘッグ)の成体や亜成体が立て続けに現れてるのもおかしいしなあ……村になにかあったりするのか、あるいは他に理由があるのか……どっちにしても楽観視出来ないよね)

 

 戦場の掃除屋とも呼ばれる亜竜だが、逆に言えば普通に生活している範疇で早々出現するものでもない。それがこんな場所に何度も出てくるのはちょっと不自然だ。村から離れるかもっていう希望的観測は持つべきじゃないだろう。

 

「……となると、やっぱこれしか無いかあ」

 

 痛いだろうなあ、嫌だなあ……。一応、いざというときに備えて魂の牢獄の魔法を何時でも発動できるようにしておこう。本来は魂を長期に渡って閉じ込めて痛めつけたり空いた身体を乗っ取って悪いことに使ったりとまあ碌でもない魔法なんだけど、魂さえあれば蘇生してくれるお父様を持つ私達兄弟姉妹にとっては死ぬ可能性のある状況での生存戦略として教えてもらっているのだ。使わないに越したことはないけど。

 

 そうして、万が一に備えた準備を整えたのち、私は走歌鳥(キンナリー)から飛び降りた。

 

「っ来た……!」

 

 一気に遅くなった私めがけて、とんでもない大口が迫る。顎関節なんて無いんじゃないかと言わんばかりに大きく空けた口は私が縦に3人は入りそうなほどだ。

 怖い、怖い。死ぬほど怖い。でも、そうやって恐怖を感じるのは一瞬で。

 

──その一瞬後。大質量の衝突による衝撃と、鋭い牙に刺し貫かれる痛みが全身を襲った。

 

「~~~~っっっ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

(痛い痛い痛い痛い痛い……っっ!ぐ、く、ぅ、鎮痛魔法、効いてるはずなのにぃ……っ!)

 

 事前に痛覚を錯覚させる幻覚系の鎮痛魔法を使って痛みをなるべく感じないようにしていて、それでもなおめちゃくちゃ痛い。

 お父様は戦場で何度も死ぬような目にあったりしているらしいが、こんな痛みを何度も味わってるんだろうか。お母様はお父様に犯されて膣内射精(なかだし)で身体を引き千切られて死んだことがあったはずだけど、その時もこんなに痛かったんだろうか。すごいなあ、そういう色々を乗り越えて今があるのかぁ……なんて思わず現実から意識が飛びそうになるところをどうにかこうにか抑え込む。

 

 そうして、痛い身体を無理矢理に動かす。大丈夫、最悪の状態じゃないしなんとでもなる、はずだ。

 墓噛り(ニーズヘッグ)の乱杭歯に貫かれたまま、私は気合で魔力を動かして大魔法の発動手順をなぞる。墓噛り(ニーズヘッグ)も気付いているだろうが、ワーム系の亜竜に前足は無いから牙に刺さった私をどうこうする術はない。吐息(ブレス)でも吐ければ違ったんだろうけど、少なくとも墓噛り(ニーズヘッグ)は吐息(ブレス)を吐けるタイプの亜竜じゃないからそこは安心だ。

 ぶんぶんと首を振るう動きに合わせて牙に貫かれた身体が遠心力で引き裂けそうになる中、私は1分も掛けて漸く大魔法の発動の準備を完了させた。

 

「こ……れ、で……!どう、だ!」

 

 ピカッと魔力の光が放たれ、墓噛り(ニーズヘッグ)の動きが止まる。ゆっくりと口を開け、牙から抜け落ちた私がぼとりと地面に落っこちた。めっちゃ痛い。

 やがてのそりのそりと動き出し、とぐろを巻いた墓噛り(ニーズヘッグ)は……その巨大な口で、ごり、ごき、ぐしゅ、と気色悪い音を立てて己自身を貪り始めた。

 

「はあ、はあ……やっ、た……」

 

 洗脳魔法を準備してるときに襲われて失敗するぐらいなら、いっそ襲われる前提で色々整えて覚悟を決めて襲われてから魔法を使った方が確実。そう思って捨て身の作戦を実行したけど……痛い、ってことがどれほどのものなのか私は全然理解できてなかったと文字通り痛感した。一応、治療促進の魔法も事前にかけていたし、多分死ぬことはないだろうけど……でも、痛い。すっごく痛い。

 

「早く、治癒しなきゃ……って、あ……」

 

 傷を治せば、きっと痛みも和らぐ。そう思って魔法を発動しようとして……そこでようやく、魔力が殆ど底をついていることに気付いた。

 よく考えたら当たり前だ。大型の亜竜に通せるだけの洗脳魔法も、複雑で高度な魂の牢獄の魔法も、どちらも相応に魔力を使う魔法だ。それらを複数並行で準備して、なおかつ鎮痛やら治癒促進やらを使ってるんだから魔力が枯渇するのは目に見えてる。

 つまり、私はこのまま動けない。私の拙い治癒促進の魔法じゃ傷を完全に癒やすことは出来ないだろうし、べしゃりと地面に倒れたまま、亜竜が自分を喰う音の中で痛みに耐え続けなければならない、ってことだ。なんなら迎えが遅ければそれこそ感染症で死ぬかも知れない。

 

「死んじゃうかも、しれないのかあ……嫌だなあ……嫌だよぉ……」

 

 死んだらどうなるんだろう。転生者のお父様もお母様も、死んだときのことを話したことは一度もない。こんなことなら死んだらどうなるのかを聞いておけばよかった。でも、もうそんな2人とお話することも出来ないかも知れないのかな。

 一応、魂の牢獄の魔法は死んだ時に発動する、はずだ。だから大丈夫だと自分に言い聞かせて、でも失敗したら大好きな家族にも、学校で一緒に過ごした友達にも、職場の同僚にも……ザカリーにも、もう会えないんだという思いが脳裏をよぎる。そしたらどんどん怖い、悲しい方向の考えばっかり思い浮かべちゃって、痛さと相まってじわじわと涙が溢れてきてしまった。

 

「やだよう、誰か、誰かぁ……」

 

 目が潤んで視界がぼやける。血が足りないのか何なのかとても寒い。命を懸けて、不慣れな戦いを頑張って、それで、誰も見てない中で死んじゃうかも知れない。そんなの無いよ、あんまりだよ。お願い、誰か──。

 

 

「────アビゲイル様!!」

 

 

 瞬間、私の世界に温かい声が、強いヒトの感情が届いた。死にそうだった身体に、悲しさと、後悔と──私への想いが染み渡った。

 

 

「ああ、くそ、ごめんなさい、俺が、俺が言われるままに逃げたから」

 

 ぼろぼろと泣きながら、私に向かって謝ってくるザカリー。その間にも私に対する思いが溢れ出てきて、それが少しずつ私の身体を満たしていく。

 

 ──それが、どうしようもなく嬉しかった。

 

 ああ、この感情をなんて言えば良いんだろう。

 一人ぼっちで死んじゃうかもって、とっても怖くて、今までで一番さみしかった。痛みに塗れた中で、少しずつ弱っていく自分を見つめ続ける恐怖は耐え難かった。

 

 だけど。ザカリーはそんな私の元に来てくれた。一人ぼっちにしないでくれた。

 

 淫魔の性質なんて知らないだろう。感情を栄養にするなんてこと、教えてもないんだからきっとわかってない。だから、ザカリーはただ間に合わなかったってことを私に詫び続けている。私に心を砕いてくれている。

 それが、そんなことが、死ぬかも知れない恐怖と、魔力が刻一刻と減っていく絶望に耐えなくてはならなかった私にとってどれほどの助けとなっているのか、きっとザカリーは全く分かっていないんだ。

 負の感情、悲しみの思い。どっちかっていうと不味い味で、普段なら選り好んで食べるような栄養じゃないそれが、今の私にとっては甘露にも等しいものだなんて、私の身体に涙をこぼすザカリーは気付くことなんて無い。

 

 だけど、それでも、だとしても。ザカリーのその行為は、間違いなく私を救ってくれた。

 

 そうだ、ザカリーはずっと私を助けてくれていた。最初に墓噛り(ニーズヘッグ)の亜成体を足止めしてくれたときも、家を、部屋を貸してくれたときも。背中も貸してくれたし、歌も歌ってくれた。たまさか出会った私なんかのために、ずっといろいろ頑張ってくれていた。そんなザカリーのことが、私は、いつの間にか……。

 ……そして、そんな彼は、自分が成した献身に気付かないまま、私に謝り続けている。そんなのは駄目だ。彼は私を助けてくれたんだから、胸を張って欲しかった。

 

 だから、私は命の恩人である彼が胸を張れるように、1つ頼みをすることにした。

 

「……ねえ、ザカリー……。お願いがあるの」

「っ、アビゲイル様!今、村の治癒師を呼びますから喋らないで……っ!」

 

 私がかすれた声で喋ったことで、ザカリーが思わずというように私を抱え、焦ったように声を掛けてくる。その腕は力強くて、麻の服越しの体温が温かい。

 ……こうやってザカリーが感情を向けてくれることで少しずつ魔力が回復しているし、それだけ体を癒やす速度も上がっていく。このままでもいつか治りはするだろうと直感できたし、少なくとも肉体的にも精神的にも私は峠を超えていた。だから治癒師も極論いらないし、このまんまでいれば回復出来ることは分かっていた。

 

 だけど。それを押してでも私は言葉を続けた。

 

 

 

「…………私を、抱いて?」

 

 

「…………え?」

 

 

 

 ──私は、彼に私を助けられた実感を得てもらう為に、そして自分の思いを満たすために──身勝手な策を弄するコトにしたのだった。

 

 




アビゲイル・ゼヌニム(22):淫魔。女。
 おっぱいのデカさが自慢でありコンプレックス。精神干渉系の魔法に関しては国内でも有数の使い手。好きな相手なら裸を晒せる、というよりは嫌いな相手でないなら裸を見られても平気というスタンス。貴族である自分が恵まれているのだと自覚したけどこれはどっちかって言うと物価の高低や地域間格差の問題であって身分の問題ではなかったりする。ナチュラルに命を懸けて戦えるのはそうやって戦ってきた父親の姿をいろんな絵姿や魔法で撮影された動画などで見てきたから「そういうものだ」という風に幼少から認識していたことによるもので、ある意味で命の価値を理解していなかったとも言える。ただ今回死にかけたことで漸く実感したので、多分今後はもう少し慎むと思われる。なお貞操観念は治らないと言うかこれが正常(淫魔基準)。

ザカリー(16):人間。男。
 実は色々と器用な男。姉がいたのだが奴隷にされており、嫁に刺繍や革細工技術を伝える必要はあるが両親の歳も結構なものなので技術を引き継ぐ必要があったからと教えたら案外そつなくこなしていた。売り物になるレベルの民芸品を細工出来るのは普通に優秀だが、同時に民芸品レベルでしかないので価格もそれ相応。アビゲイルが出来が良いって思っているものについても「いやこのレベルだと貴族には売れないよ」って内心で思っていたりする。要するにアビゲイルの見る目がないって話。

嵐の猟犬(ハーンズハウンズ):魔獣。狩人ハーンと呼ばれる夜と嵐の魔物の使い魔。明かりのない夜に現れ、嵐を引き連れ生者を襲い、その魂を食いちぎりハーンの元へ持ち去ると言われている。狩人ハーンは鹿の角とフクロウの目を持つ狩人であり、猟犬たちを引き連れ夜闇を駆け回り明かりのない場所に住む魂を持つ生者を殺しその魂を捕食すると言われている。ハーンの数は非常に少なく、大体は猟犬だけが群れをなしてそこら辺をうろついうている。ちなみに強そうに見えるが能力は普通の猟犬+嵐というものなので本編のように日中に遭遇してもなんかちょろっと魔法を使うだけの犬でしかないので普通に追い払われる。夜だと視界不良+嵐で非常に危険なのだが焚き火1つ焚くだけで寄ってこないのでそこまで困らないとか。

墓噛り(ニーズヘッグ):魔獣。亜竜。巨大な太いヘビのような姿をしており、外にむき出した乱杭歯と退化した目が特徴的なワーム系の魔獣。屍肉・腐肉をメインで食べるが普通の生物も襲って食べられるなら食べる。本来は戦いの落ち着いた戦場などに現れ、そこに落ちている遺骸を貪っていたりする。件の草原地帯はかねてより領土争いが激しく、そのため墓噛り(ニーズヘッグ)もそれなりに潜んでいたのだが、とある昇格者(ハイランダー)が無理矢理その土地を奪取したことで餌がなくなり、それでも数十年は耐えていたのだがついに耐えきれなくなって村や嵐の猟犬(ハーンズハウンズ)を襲うようになった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。