※この作品はR-18です。

性奴隷と長身巨乳リョナグロ背徳性癖倒錯ふたなりが純愛に堕ちるまでの話   作:PP→KP

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多分IF物はこれで終わり。BADでもないENDのIFです。
分岐点:かつての「私」①


IF④「彼」の話

「っあー、終わった終わった……」

 

 肩をゴキゴキと鳴らして、作業着をロッカーに掛ける。

 細やかな機械部品……に使われる更に小さく市販されていないような形状の金具を作って納品するっていういわゆる孫請けがメインの中小企業としか言えない職場で、定時を1時間過ぎたあたりで漸く今日の作業が終わったことに安堵した。

 

「おう、ご苦労さん」

「うっす、課長もお疲れ様です」

 

 同じく残っていた課長が方をぽんと叩いて労ってくる。

 課長とは言うものの20人もいないうちの会社、中間管理職であっても機械イジって作業するなんてよくある話で、その上で役員に話するための資料まで作らにゃならないんだから大変なもんだ。きっと今日もこれから部屋戻って書類づくりに励むんだろう。

 

「そういや一文字、お前今週末の飲みに出るんだよな?」

「え?はい、そのつもりっすけど……」

 

 課長の質問の意図がわからずどういうことだろうと首を傾げる。せっかく飲める機会なんだし参加したいところだったんだけど……。

 

「いやほら、家族参加の有無を聞いてなかったろ。人数も調整必要だし確認しとこうと思ってな」

「ああー……そう、ですね」

 

 だが次の言葉で疑問が氷解した。

 ウチの社是は「アットホームな職場」とかいう一周回ってブラックの象徴みたいなモンなのだが、社長はこれを大真面目に掲げているらしく飲みの場とかだと家族参加OKとしているのだ。それも社員は自腹だが社員の家族は3人まで会社で受け持つ大盤振る舞いっぷりだ。

 そんなんで大丈夫なのかと思わなくもないが、まあそれはそれ、安上がりに御馳走を楽しめるならと家族参加する社員も珍しくはない。

 

「そうですね、今日帰ったら確認してみます」

「おっ、そうかい。いやあ珍しいな、お前普段は一人で参加だしな」

「次もそうなるかもですけどね……嫁さん、忙しいんで」

 

 忙しい、というのはマジだ。いつ休んでるんだろうってぐらい仕事しているのに家事にも精力的なんだから性質が悪い。いつかぶっ倒れそうで怖いんだが、あれで本人がピンピンしてるのが恐ろしいところだ。若いってすげーわ。

 それに諸般の事情もあり今まで家族を参加させることはなかったが……今はそういった事情も多少緩和されていることもあり、参加は可能かもしれない。なら、とりあえず確認は必要だろう。

 

(まあ、本当は連れていきたいとは思わねえけどな……)

 

 実のところ断ってくれないかな、とは思ってる。色んな意味で人前に出したくはないタイプの嫁だ。だがきっと嬉々として参加しようとするんだろう。その姿が今から目に浮かぶほどだ。

 ならばと家族参加可能な飲み会がある、ということを黙ってたら……きっと、その時は飲み込みはするだろうが、次以降に根回しして無理矢理参加してきそうでもっと恐ろしい。

 

 だからとりあえず誘うだけは誘おう。後は野となれ山となれだ。

 

 俺はやや投げやり気味な覚悟を決めつつ、その日は会社を後にしたのだった。

 

 

 

 ──────

 

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 ──

 

 ─

 

 

 

 「俺」こと一文字 零司は、この40年の人生の大半を碌でもない過ごし方をした。いやまあ誰が悪いかって言えば俺なんだが……。

 

 まずガキの時分。まあクソガキで勉強したがらない。兼業農家だったがあまり農地もでかいもんじゃなく、金を稼ぐために単価高い作物を作るために親がいっつも苦労してたのを覚えている。だからこそそんな苦労するようなことはしたくないからって手伝いもサボって遊んでばかりだった。

 んでまあ、結局おっつかずに廃農した。あんだけ広い農地は荒れ放題になり、遊び場代わりにしていた倉庫にも近寄らないように厳命された。大体俺が中学に上がるかどうか、ぐらいのときだったか。

 そんときは自分の世界が削られたみたいで、妙に反抗的になってた。いわゆる反抗期ってやつだ……まあガラス割ったりバイク盗んだりはしなかったけど。

 

 そんな人間だから頭も悪くて、んで金もないから大学も無理だろうってんで工業高校に行かされて。一通りのことは学びはしたけど、不況からの就職難もあってフリーターで食いつなぐことになって。

 

 んで、馬鹿な俺はとんでもなく馬鹿なことに、もう犯罪でもして一攫千金するしかねえ、なんて思っちまった。

 

 高卒フリーターの分際でいっちょ前に将来に思い悩みすぎた、ってのはあるとは思う。その頃に親も死んじまって色々とストレスが嵩んだも原因なんだろうけど、それでもまだ他にやりようはあったんだろうにまさに馬鹿の考え休むに似たりってやつだな。

 悪いことに、家から多少離れたとこに頭いい金持ちのガキが通う高級私立の小学校があった。んでその学校に通うガキで、冒険でもしたいのか集団登下校から外れて1人で帰っているヤツが居た。高そうで立派な制服を着たガキが外れの公園で一人ぼっちでぼんやりしてる姿を何度も見たとき、俺はこのチャンスを活かすべきだなんてマジで馬鹿としか言いようのない考えを持ってしまったわけだ。

 

 まあ、結局そのガキを攫って身代金を……なんて犯罪は頓挫して。収監された。懲役12年だ。馬鹿だ馬鹿だとは思うがこれが本当に馬鹿の極みだとしか言えない話だろ。23歳で捕まって、35まで牢屋の中に居たんだぞ?

 当然ながら世間様の目は厳しいなんてもんじゃなあなかった。働き盛り、自分を売れる時期もまるまる牢屋で使い潰した俺は、児童誘拐なんていう重い前科を背負っておっさんになって社会に改めて出る羽目になったわけだ。

 

 その後、どうやって生きたもんかと思ってたところで昔の友人の伝手を辿って働き口を紹介してくれた。ニッチな部品メーカーで昨今の売り手市場の中じゃあまり魅力的でもなく求人に募集もなかったそうだ。だとしても前科者の俺が普通に面接したらやっぱり落とされただろうし、そこは旧友に感謝するしかない。

 

 社員寮に入った俺は、小さな部品を扱う人によってはしょぼいと言うかもしれない、だけど俺にとっては大切な仕事を遮二無二頑張った。刑務所で服役中も似たようなことを真面目にやってた事もあって、慣れてからは目立った失敗もなく、少しずつその会社に溶け込んでいくことが出来た。前科者だからと白い目で見てくる奴が居なくなるなんてことはなかったけど、それでも俺が真面目に働いてるってとこを見て接し方を変えてくれる人だっていた。

 

「おう一文字、お前最近頑張ってるじゃねえか。その調子で頼むぜ」

「っ、うっす!」

 

 なんて、軽い口調で年嵩の先輩に肩をぽんと叩かれたとき、三十路後半のおっさんだった俺は柄にもなく声が震えて目が潤んだ。俺だって、誰かに認めて貰えるんだって思った。今ならあのガキの気持ちもわかる、なんて柄にもなく考えてしまうぐらいには。……いや、それがいけなかったのかもなあ。

 

「~♪」

 

 そんでまあ、浮かれて鼻歌しながら社員寮から移り住んだ安いアパートに帰ったら。

 

 

「……ふ、ふふふ。久しぶりだね」

 

「……は?」

 

 

 見覚えのない若い女が、引っ越したばかりのはずの、ボロアパートの俺の部屋の前で待っていた。

 

 満面の笑みで話しかけられて、浮かれてた心臓が凍りついたような気分だったよ、マジで。

 

 

 

 ──────

 

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 ─

 

 

 

「せーの、かんぱーい!」

『カンパーイ!』

 

 課長の御発声を皮切りに、飲み放題が始まった。

 2時間4千円のコース料理が運ばれながら、俺は普段飲む発泡酒と違う生ビールの味をじっくり味わう。よくわかんないけど美味い気がするんだよなあ、生。

 最初は少しずつ席で飲んで、ジョッキお代りする頃には課長や部長、社長なんかに注ぎに行ったりした。……周りがそうしているからそうしてる、ぐらいのもんだけど。

 

「あれ?一文字よ、おめえ嫁さんと娘さんが来るんじゃなかったっけか?」

 

 返杯をうけた俺の周りに家族らしき人が居なかったということで社長が不思議そうに首を傾げた。この社長、俺みたいな平社員の家族で誰が来るのかまで覚えてるのか。普段からよく話しかけてくれる気さくな人だけどやっぱすげえなって思う。

 

「来ますけどね、ただほら、ちょっと嫁さん仕事が遅くなりそうだってことでその、仕事終わってから託児所に預けてた娘を回収して、そっから来てもらう手筈になってまして」

「なるほどな。いやほら、来れないなんてことになったら用意してもらった店に悪いから気になったんだよ」

「それは大丈夫ですよ。うちの嫁さん健啖家なんで」

「わはは、そりゃいい。ダイエットが悪いとは言わねえけど満足するまで飯を食ったほうが良いもんな」

「ははは……」

 

 社長の言葉にじとり、と事務員のねーちゃんが座った目で見つめる。明らかに油物に手を付けてないあたりダイエットにも苦労があるんだろう。あまり続けてもヤバそうだし、2,3言葉を交わして俺は自席に戻って料理を堪能することにした。

 そのまま出てきた刺し身に舌鼓を打っていたとき、がたり、と隣の席に誰か座った。

 

「や、一文字」

「後藤……先輩」

 

 狐みたいな細い目で口だけは笑いを浮かべた後藤は、俺よりも若くまだ30かそこらだ。

 だけど俺と違ってちゃんと伝手もコネもない中で就活してこの会社で働いているわけで、俺より遥かに仕事に詳しい。そんなわけで先輩と呼んでいるのだが……正直に言う、苦手だ。マジで。

 

「にしてもさあ、一文字嫁さん来るんじゃなかったの?見たかったなー、一文字と結婚するような人」

「…………」

 

 後藤、こいつは俺のことが嫌いだ。というのも、こいつは俺の前科のことを知ってるからだ。まあ後藤に限らず社員は皆知ってるだろうけど……。

 そして当然、前科者の児童誘拐犯なんて嫌われて当然だろう。なに素知らぬ顔でシャバでまともに働いてるんだって思われるだろうし、そんな前科者が働ける程度の職場なのかっていう不満もあるだろう。社会経験の少ない俺でもそれくらいはわかるので下手に言い返そうとは思わない。イラッとするけど、でも自業自得だからと納得するしか無い。前科があろうと今は頑張ってる、なんて建前が通じるわけねえって。

 

「ねえねえ、どんな人なのさ。ってかマジで今日来るの?家族来る予定だったって言って食う量増やそうとしてない?」

「そんなわけないじゃないですか。来ますって。多分そろそろ……」

 

 ネチネチと面倒くさい絡み方をされる。意地汚さとかを揶揄されているような煽りは貧乏呼ばわりされているように感じてしまって、あまり長くない俺の堪忍袋の緒が切れるんじゃないかと思ったが、それでも暴力に訴えたら悪いのは俺なわけで……ぎゅうっと指を握り込んで自制する。

 そんな俺をつまらなそうに見ていた後藤は、しかし店の入口の入店ベルがなったことでそっちを見た。

 

「あ、ほら。来たんじゃないのぉ?……って、うわ、すげー……」

「…………、あ……」

 

 俺を煽るような言葉が途中で途切れ、不思議に思って俺も顔を上げると──店の入口を開けて入ってきたのは、小さな子どもを抱えた長身の女だった。

 

 俺より少しだけ上背があるその女は、そりゃもうビックリするほど美人だった。ゆったりとした上着を持ち上げるぐらいに出るとこが凄く出ていながらもきゅっと細くくびれたタイトなパンツから伺えるシルエットはもう女優か何かと言われたほうがしっくり来るレベルだろう。なるほど、これを見て絶句したのか。

 

「あ、あの?お客様……今日は貸し切りで……」

 

 場末とは言わんが高級でもない、そんな貸し切り飲み放題状態の小規模な居酒屋には全く不釣り合いなその女の威風堂々とした立ち居振る舞いにざわつき始めた俺達を見て、店員は貸し切っている客の連れではないと判断したようだ。

 

「いや、今日この店で18時30分開始の飲み会で合っている。家族2名追加、ということで申請しているはずだし……あ」

 

 だがそんな店員の考えをバッサリと切り捨て、多少低いがそれでも美しいと言える声を居酒屋に届かせた女はキョロキョロと店内を見回し──そうして、俺と目があった。

 にんまりと笑みを浮かべ、カツカツと女性用の革靴を鳴らしながらこちらに向かってきて、そのまま俺と後藤の間に立った。

 

「え、ええっと?お姉さん、どちら様……?」

「私ですか?ええ、どちら様、と言われたら答えますよ」

 

 ぽかんとした後藤からの質問の内容が嬉しかったのだろう、笑みを余計に深くし、小さな娘を──俺に預けた。

 娘も慣れたもんだと言わんばかりに俺の胸板に頭を預けながら、突然の来訪者に静かになった店内を興味深そうに見回している。……この娘も大概母親に似た肝の座り方をしているよな、なんて思ってしまう。

 そうして、身軽になった彼女は。そこら辺の安いはずのカジュアルウェアすらも高級品か何かと勘違いされそうなぐらいに心の通った所作で軽く礼をして、ゆっくりと口を開いた。

 

「はじめまして。私は一文字 零司の妻の、一文字 萬廣(まひろ)です。今日はお招きいただきありがとうございます。いっぱい楽しませていただきますね」

 

 一瞬の静寂。皆が皆、娘を抱いた俺と女──嫁さんの萬廣とを何度も見比べて、呆けたように口を開いて。

 その直後、居酒屋全体を揺るがすような驚愕の声がほぼ全員の口から飛び出したのだった。

 

 

 

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 ─

 

 

 

「いやあ、一文字の嫁さんがまさかこんな美人だとはねえ!おっと、ありがとう」

「いえいえ……ああ、返杯はノンアルコールでも宜しいですか?」

「え?ああそっか、子ども連れてるのに親がどっちも酔うわけにゃいかんよな。失敬失敬」

 

 面白いものを見たとでも言わんばかりに社長が笑いながら萬廣から酌を受けている。当の萬廣は返杯としてウーロン茶を受け取りながらそつなく対応している。まあ社会人経験はあっちが上だししょうがないけども。

 一通り俺の上司や同僚に酌をしたあとは、娘を連れて他の皆の家族と談笑し始めた。

 

 そんな嫁の元に向かう気にもなれず、俺はちびちびと生ビールを飲むことにした。

 

「……へぇー、随分きれいな嫁さんじゃん。なにか悪いことしたの?ってああ、悪いことはしてるんだっけな」

「やめてくださいよ、後藤先輩」

 

 で、そんな嫁の姿を見て余計に当たりが強くなる後藤。何が嫌って当たらずしも遠からずなところが嫌だ。

 俺みたいな40を迎えたおっさんがあんな若い美人を嫁にできている、という時点で大なり小なり疑われはするだろう。なにせ妻は今27歳で娘が2歳だ。逆算すれば3年前、妻が24歳の時に37歳の俺が孕ませたということになる。普通に考えれば度を越した年下趣味なわけで、お互いもう少し若ければ(何ならお互い適齢期な現状であっても)ロリコンの誹りは免れないだろう。前科が前科なだけに疑いの目で見られて当然だ。

 でもまあ、後藤はどっちかっていうと「児童誘拐をした前科者が美人で若い嫁を貰っている」っていうところがムカついてるんだろう。そりゃそうだ、俺だって逆の立場なら当て擦りたくもなる。ムカつくけど。

 

「……っ、んで、あの嫁さんはアンタの悪い事知ってんの?知らないよねえ、知ってたらあんな気立て良さそうな人が嫁に来るわけ無いもんな」

「それは……」

 

 酔っているのだろう不躾な物言いに、思わず言葉を濁す。なんと答えたものか悩む俺の反応も見ずに、後藤は席を立ってふらついた足取りで萬廣の元へと向かった。

 

「あっ、おい!」

「あんだよその口調、俺が先輩だぞ!……ねえ一文字の嫁さん、あいつが昔何やったか知ってんですか?教えてあげましょうか?」

 

「昔……?ええ、知っていますよ?」

 

 止めようとした俺の言葉を振り切り詰め寄ってくる後藤に、キョトンとした顔で言葉を返す萬廣。後藤はまさか知ってるとは思っていなかったようで、その返答に鼻白んだ。

 だが大分酔いが回っているのか、自分の想像と違った答えだったのが気に食わなかったのかムッとした表情になり、更に言葉を続けようとする。

 

「っ、ホントかよ!だってあいつは……っ!」

「おい、やめ……っ!」

 

 やめろ、それ以上言うな。そいつに、嫁さんに、萬廣に、それ以上そ(・)の(・)事(・)を言わないでくれ……っ!

 そんな俺の内心の願いも虚しく、後藤は少し溜めた後、周りにも聞こえるような大声で、決定的な一言を口にした。

 

 

「あいつは……ガキを誘拐したんだぞっ!!誘拐犯の前科者なんだぞ!」

 

「っ!」

 

 

 言った、言ってしまった。

 叫ぶようなその言葉に嫁がぽかんとした顔を見せる。娘は大きな声に驚いたのか目を見開くが、すぐにジュースに夢中になっている。

 嫁と談笑してた面々は信じられないとでも言うように俺を見て、睨むような表情を浮かべる。そりゃそうだ、そんな凶悪犯がこんなところでムショ出て酒飲んでるだなんて知ったら嫌がるに決まってら。職場の面々は気まずそうで本当に申し訳ない。

 

 ……でも、問題はそこじゃないんだよ……っ!

 

 

「……ええ。だから、知っていますよ?」

 

 

 萬廣は、何を今更と言わんばかりに肩を竦めた。周りの女性陣は萬廣の言葉にまるで犯罪者である俺と同じような目線を向け始めた。やめてくれ、俺はともかく萬廣は犯罪者でもなんでもないんだ、なんて俺が言ったところで意味がないとは判ってても言いたくなってしまう。

 そして当の萬廣の表情をよく見れば、その口端が震えていた。口元が歪んでしまいそうなのを我慢しているようにしかみえないそれは、ぱっと見は真実を知ってしまって驚愕したことを隠そうとしたとも取れるだろう。実際その顔を見て、後藤は我が意を得たりと言わんばかりにニヤついた顔を浮かべた。

 

「へぇ、じゃああんたはガキを誘拐した犯人と結婚して子供まで拵えたってのか?信じらんねえなあ!そんな常識知らずな人間が……」

 

「その前に。1つ良いですか」

 

 だが、萬廣はそんな後藤や、後藤に同調する俺のことを嫌う同僚や、俺と萬廣に犯罪者を見る目(俺については間違いじゃないが)を向ける女性陣をゆっくりと見回して、よく通るアルトボイスで後藤の言葉を遮った。

 

「あ?一体何……」

 

 酔った中の演説を遮られ、苛つくような表情を浮かべた後藤だったが、すぐに言葉を失う。そりゃ当然だ、だって目の前の萬廣は我慢出来ないというように……満(・)面(・)の(・)笑(・)顔(・)を浮かべていたんだから。

 

 

 

 

「『(・)ガ(・)キ(・)』(・)で(・)は(・)な(・)く(・)、(・)『萬廣(まひろ)』で(・)す(・)よ(・)」

 

 

 

 

 そう、蕩けるような声で、酔っても居ないはずなのに頬を染めながら。言葉を咀嚼しきれず唖然とする後藤達を尻目に、萬廣は誰に聞かれるでもなく嬉々として過去のことを語り始めたのだった。

 

 

 

 ──────

 

 ────

 

 ──

 

 ─

 

 

 

 そいつ──千堂 萬廣は、俺が誘拐した子どもだった。

 

 親に虐待されていて家に帰りたがらなく、だから1人で遠回りして帰路についていたという小学生。冒険だの何だのといった子供らしい理由ではなかったわけだ。

 そんなガキだからまあ、誘拐した時も親の言いつけに半ば縛られているような有り様で。俺に抵抗しようとする度に殴ったり蹴ったりしていう事をきかせてても、それでも親に指示された勉強だけはやろうとして。

 んで、こんな状況でも勉強かよ、とまるで俺の言うことなんて聞かないと言わんばかりの態度にむかっ腹が立ってもっかい殴って、そんで言ってやったんだ。「勉強なんかしてんじゃねえ」って。

 

 そうしたらまあ、ものすごく驚いた顔をして。殴っても蹴っても涙が滲むくらいだったそいつが、涙を流して喜んで笑いやがったんだ。

 

「勉強しなくていいなんて、初めて言われました」

 

 殴られたのに不気味に泣き笑うガキになんで笑うのか聞いたら、返ってきたのがそんな答え。勉強も強要されていて、やらないと家で酷い目に会うからと親に言われてやらされていただけだった。

 んで、別に殺す気まではなかった(ここらへんも本気で誘拐計画立てるなら考えなしとしか言えないんだが)俺は、そいつが家帰った後に親に虐待されないように手伝うことにした。

 はっきり言えば、同情だ。裕福な家で金持ち学校で勉強に勤しむような恵まれたガキが、なんて思ってたらある意味俺以上に悲惨な幼少期を送ってるもんだから。だからせめて、なんて思った。それ以降俺の指示に従って、目に見えて慕うようになってきたもんだから絆されたのもあるかもしれなかった。

 

「……ねえ。前に、私が頭が良くてお金もあるから羨ましい、って言ってたよね」

「言ったけど、それがどうしたよ」

 

 誘拐犯と被害者の奇妙な共感混じりの生活も終盤になった頃、ポツリとつぶやかれた萬廣の言葉に俺は訝しむように言葉を返した。この頃になると妙に俺に対して親しげに、敬語すらなくして友人のように話しかけてきていた。

 

「あのね、その……もし、もし警察に見つかったら、貴方だけが逮捕されちゃうんだよね」

 

 この話をしていた頃、萬廣は親から見捨てられていて、もう身代金も取れなさそうってことがはっきりしていた。だけど俺はこいつを殺す気はこれっぽっちも無くなっていて、だからまあ、俺が逮捕されるまでどのくらいかかるかってだけの状況だった。

 だから萬廣のいう懸念は間違っていないけど、んでも話が繋がってねえ。なにか言いあぐねてるみたいだったが、何言おうとしてるのかわからなかった。

 

「当たり前だろ。お前は俺が誘拐したんだから」

「じゃあ、その、ね……」

 

 だけどその「わからなかった」言おうとしていることは萬廣にとっては回りくどい言い回しにならざるを得ないことだったらしく、緊張した面持ちで、ゆっくり深呼吸した後に言葉をつなげた。

 

 

「私、貴方が出てくるまでに立派になって、お金もいっぱい貰えるようになるから。私は頭が良くてお金もあるから、きっとすごい大学に行って、立派でかっこいい大人になるから。だから、それで──貴方が自由になれたら、一緒に暮らそう?」

 

 

 なんて、ガキの妄想みたいなプロポーズを、俺にぶつけてきやがったんだ。

 

「最近のガキはマセてんな……まあ覚えてたらな、覚えてたら」

 

 アホらしいと思う。妙な状況で自分の理解者が出てきたから、だから刷り込みみたいに好きって思ってるだけじゃねーかなって思う。

 どうせ忘れるだろうし、気にしてもしょうがないだろう。本当なら否定したほうが良かったかもだけど、たとえガキ相手とは言え告白されるなんてなかったからちょっとだけ気分が良かったのと、こいつの精神状況がいまいちわからなくて刺激したくなかったから適当に流したんだ。

 

 そうして、結局そのすぐ後に捕まって。ブタ箱にぶち込まれて、懲役食らって。出所して、どうにか働き始めて。人に認められはじめたことが嬉しくなって。

 

 

 

「貴方が知っている通り、私は頭が良かったから忘れなかったよ。だから大丈夫、貴方が忘れてても思い出させてあげるから、ね?」

 

「ひぃっ……」

 

 

 

 で、アパートのドアに押し付けられるようにして。30代後半に差し掛かった俺は、20代前半だろうかつて誘拐したガキが成長した超がつく美女にヤバそうな目つきで抑え込まれて、ポケット弄られてアパートの鍵を取られて一緒に部屋に入られた。

 事情を聞き出したところ、どうやら自分の宣言を完遂したらしく今は世界的なネットワーク産業に関わる企業の日本支部でバリバリ働いているそうだ。序にネットに検索ワードとして出た情報や各種契約情報なんかのうち、俺や俺の家族、刑務所出所後の犯罪者の目撃情報etc……をピックアップし、俺の住所を特定したらしい。どうしてこんなやばい女になってしまったんだ……!?

 

 そしてかつて話したガキの妄想みたいなプロポーズを1から10まで本気で考えていたらしい萬廣にそのまま押し倒されそうになったところで「流石にそれは不味い」としてどうにか説得して、少しずつちゃんとしたお付き合いを始めた、んだが。

 

「貴方との子供だよ。今妊娠1ヶ月なんだ」

「はぁっ!?」

 

 1年位経ったあたりで、肉体関係もそこそこ持ち始めた(めっちゃ気持ちよかったけど罪悪感がやばかった)辺りで。捨てたはずのコンドームを拾って毎回膣内(なか)に押し込んでた努力が実ったと嬉しそうにお腹を擦るそいつを前にして。

 

(あ、これもう色々と逃げられねえな)

 

 と俺は悟って、37歳になった俺は、24になったばかりの萬廣と結婚したのである。

 

 

 

 

「……ってことがあったんだ。私はね、ずっとこの人と一緒になりたくって、勉強して、就職して……素敵な人なんだ。私を褒めてくれるし、優しいし、気遣ってくれる。阿弥……ああ、この娘なんだけど、娘もお父さんのことが大好きなんだ。でも私だって負けないくらいに好きなんだぞ。すこし毛深い身体も、力強い腕も、包容力もあるし……それから……」

 

 現実逃避は止めにしよう。とめどなくヤバいオンステージをぶちかましている嫁を止めないと俺が死にそうだ。ほら見ろ、周りの皆様超絶ドン引きしているじゃねえか。

 

「ま、萬廣。そろそろ、な?」

「ん?ああ、そうだな。……そういうわけで、零司が悪いことをしたのは間違いないけれど、私はそれを知ったうえで尚彼のことを愛して、結婚しています。思うところは皆さんあるとは思いますけれど、この人が更生しているんだと言うことだけはどうか知っていただけたらと思います」

 

 ぺこり、と頭を下げた萬廣に、誰が何を言えるわけでもなく。

 

「……一文字、ごめんな」

「いえ……まあ、はい……」

 

 気の毒そうな声で謝罪する後藤の表情は毒気を抜かれたを通り越して毒杯を呷った人間を見る目をしており、俺は何も言えずただ項垂れるだけだった。

 

 

 

 ──────

 

 ────

 

 ──

 

 ─

 

 

 

「ああ、疲れた……」

「ふふ、今日も一日お疲れ様」

 

 どの口が言うんだこいつ……と思うが俺は流石に口には出さない。良くも悪くもこいつが俺に激重な感情を向けている原因は俺なんだから、そんな事を言ったらこれ幸いとめちゃくちゃ思いの丈をぶつけてくるに違いない。

 

 酒に酔った俺は、嫁さんの運転する車に乗せられ帰路に着いていた。向かう先は安アパートではなくリフォームされた俺の実家だが。

 結婚するとなったとき、俺は改めて実家に戻り、流石に古すぎた家を(主に萬廣の金で)リフォームした。……あいつがこの家を直したくないなんてめちゃくちゃ駄々をこねたので、あくまで保温性を上げたり電気系統を一新したり階段の傾斜を調整したりという部分が主だ。誘拐・監禁された家に思い入れがあるから内装を維持したいなんて言う誘拐被害者が居るとは……。

 後ろを見れば、チャイルドシートに座ってすやすやと快眠中の阿弥がいた。腹がぽっこり膨らんでおり、随分たらふく飯を食ったようだった。

 

「……んで、どうだった?」

「ああ。……うん、デキてたよ。6週目だってさ」

 

 ……今日来るのが遅くなった理由は、実は仕事じゃなかったりする。最近月のものがこないなんて言ったこいつに、もしかしたらと病院に行ってもらってたのだ。

 

「……そっか、よかったよ」

「うん」

 

 ハンドルを握りながら、ご機嫌そうに微笑む萬廣。

 最近はちゃんと妊活というか、「前回は既成事実を作るためになりふり構わなかったけどちゃんと子どもを作るって目的で膣内射精(なかだし)して赤ちゃん作ろう?」ってあけすけに言われて避妊をしないセックスを繰り返していたのだが、まあ努力が実ったということだろう。……それこそ妊活を始めたのが2ヶ月弱前だということを考えるとあっという間に妊娠したなと戦慄を禁じえない。俺はともかく萬廣はまだまだ若いことを考えるとちゃんと計画的にやらないと子どもの数がえらいことになりそうだ……まあ、こいつの性欲を考えるとどこまで計画的にできるか判ったもんじゃないのだが。

 

(……しかし、まあ、そうだなあ)

 

 ちらり、と横を見る。でけえオッパイがシートベルトを引き伸ばしている様は圧巻で、その体にも、そして強い愛情を抱いてくるこいつにも俺は溺れそうになっているところは否定できない。こいつが偏愛と言うか狂愛というかそういう動きをしているのだって、或いは俺がのめり込みすぎないようにわざとドン引きさせてるんじゃないかって思えるくらいには、萬廣という人間は人を堕落させる天才としか思えない。

 そして、そんな美しく、エロくて、只管尽くしてくれる優しい嫁さんと可愛い子どもと。俺みたいな人間がそんな幸せを享受できて良いのかって思うと、まあそういう重い女としての動きもちゃんと支えてやらないといけないよな、なんて思うわけで。

 

「萬廣」

「?何だ、零司」

 

 運転中ということでほんの一瞬だけ目線を向けた、その一瞬の間に、俺は笑いかけてやる。

 

「……これからも、よろしくな」

「……うん」

 

 にま、と我慢出来ないとでも言うように笑いながら、それでもきっちり法定速度を守って安全運転をする嫁さんの運転に揺られながら。

 これからも頑張ろう、なんて思いと一緒に、酔いが回った頭を休めるかのように助手席の枕に意識を預けたのだった。




一文字 零司(40):人間。男性。前科者。168cm。
 本編における「彼」。児童誘拐その他により懲役12年食らった元犯罪者。現在は旧友のつてを使って中小企業で働いている。
 本編とは違い手紙が送られてこなかったことで刑務所内で死ななかった。尚その結果として子供っぽい約束をすっかり忘れてたせいでホラーな目にあった。避妊してたのにコンドームを回収されて精液を自分の中に塗り込むという狂人が相手だったので無事人生の墓場に送られた。
 自分の妻のことはヤバい人間だとは理解しているが、そうしたのは彼自身の所業も理由であることや若くて見た目がバチクソ美人なデカパイであること、尽くしてくれること、有言実行して高給取りになっていることなどからまあ良いかなって思ってる。重いは重いが生活に負荷をかけすぎてはこないので。でもたまに今回みたいに破裂するとか。

一文字 萬廣(まひろ)(27):人間。女性。ヤンデレ。171cm。100/61/91のIカップ。
 本編における「私」。児童誘拐・監禁されたときに犯人に恋したハイスペックヤンデレ。女優ばりの高頭身、ボン・キュッ・ボンなグラマラスボディ、東大卒で空手黒帯の文武両道な才女。現実で言うところのGAFAMレベルの企業の日本支部に勤めている高給取り。就職して最初に行ったのは「彼」を探す為に各種ネット通販やら検索ワードやらカードの登録情報やら利用者情報やらを目を皿にして調査することだった。キチガイ。
 本編より(これでも)やや自制が聞いていて「流石に着飾ったJDの写真入りのお手紙を送るのはびっくりするかな?」って思って止めたおかげで「彼」が死なずに済んだ。コンドームに穴を開けて既成事実を作るのは流石に「彼」にとっても騙し討ちみたいになるだろうと思った結果利用済みコンドーム内の精液を欠かさず回収して自分のナカに塗り込んで妊娠した。キチガイ。もし断られても愛の結晶は手に入るからヨシ!という思考だった。ヤバい。
 自分がヤバい人間だと気づいているが止められないのは本編と一緒。「彼」に超絶重い愛を抱いているのだが、知性自体は優秀であるため「この愛を本気で押し付けたら逃げられる」と理解していること、本編より多少は自制心があることなどから自身の内部で燃え上がらせるだけにとどめている。モノローグは無いが多分本編より酷いことになってる。現在第2子を妊娠中。

一文字 阿弥(2):人間。女。娘。
 2人の娘。主に母親に(父親に向けられない欲望を昇華するために)溺愛されている。約束されたデカパイ。将来は父親より背が伸びる。
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