性奴隷と長身巨乳リョナグロ背徳性癖倒錯ふたなりが純愛に堕ちるまでの話 作:PP→KP
「──くそ、どうして、どうしてこんなことになってやがるんだ!」
「警部補、落ち着いて……」
早朝、とは言えないまでも十二分に早い朝8時前の澄んだ空気を非日常に染め上げるようにして、赤色灯が回転し道路を赤く照らしていく。現場に急行するパトカーの車内で、思わず唸るように怒りを吐き出してしまった。
ビビった部下が恐る恐る宥めてきたが、何を落ち着いてなんて怒鳴りたくなった。だが……警官である以上、落ち着かなきゃいけないのは明白だ。正しいのは部下だ、俺じゃない。飛び出しそうになった怒声を無理やり飲み込む。
事の発端は昨日のことだ。
昨日の午後5時頃、都内の小学校でクラブ活動に励む子供達の元気な声まばらになり始めたような、そんな時間帯に起きた。
起きた内容は至極単純。子供が1人、行方不明になったのだ。
行方不明になったのは柔道部に所属していた小学生5年生。部活自体は17時頃に終わっていて、本当ならその30分後くらいには家に帰ってきていてもおかしくなかった。
だが、帰ってこない。学校に連絡したが行方知れず、帰宅途中の道を探しても見つからない。家族は警察に通報し、方々を探し回った。そうして夜通し探しても見つからなかったことで、翌朝から捜索体制が敷かれるとともに、誘拐等の事件に巻き込まれた可能性を見て捜査本部が設置されたのが今朝の話だ。
行方不明になった子供の名前は「御堂筋 健一」。俺、こと「御堂筋 武志」の息子だった。
「なんで健一が……!」
「警部補!その、焦る気持ちはわかりますが……!」
実の息子が行方不明で、あまつさえ誘拐かもしれないなんてなったことで俺の胸中はずっと荒れ狂っていた。
必死の部下の執り成しにも果たして冷静に対応できていただろうかと思うが……それでも、じっと真摯に見つめてくる部下の視線を受けて表面上だけでも抑え込むことは出来た。
「──すまん、そうだな。そもそも俺達が犯人を取っ捕まえられてなかったのが……」
「やっぱり同一犯なんでしょうか……6年前のあの事件の」
「ああ……」
恐る恐る確認するように問いかけてくる部下に顔をこわばらせながら頷く。
なぜ目撃証言もなく、帰ってこないというだけで誘拐の可能性が即座に視野に入ったのか。どうして捜査本部まで設立されたのか。
それは単純な話であり──6年前にも類似した事件が起きていたからだ。子供が誘拐され、犯人からなんの声明もないままに時間だけが過ぎた挙げ句、無惨な死体となって発見された、そんな事件があったからだ。
この部下は1年前に異動したばかりだったが、それでも6年前の事件は知っていたらしい。──当然か、なにせ未だに未解決だ。6年前に男児を誘拐し、監禁し──惨殺し、ゴミか何かのように打ち捨てた凶悪殺人犯は、今も捕まっていないのだから。
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「最後に目撃証言があったのは保健室だったな」
8時丁度に学校に到着した俺達は通用口を通り、目的の場所へと歩を進める。行先は最後に息子の目撃証言があったという保健室だ。
「場所は……そりゃわかりますよね」
「当たり前だろうが」
当然ながら、自分の息子の通う学校の保健室の場所ぐらいは分かる。俺と同じく柔道部に入ったんだから怪我と無縁でもいられないだろうし、そうでなくても小学生は怪我と無縁ではいられない生き物なのだし迎えに来ることもあるかもと思って場所は覚えていた。
最初は保健室前に直接パトカーをつけようとすら考えていたのだが、それは先方に止められた。理由を聞けば「他の子が怪我をして救急車に運ばれる可能性があるのだから塞がないで欲しい」とのこと。そりゃそうなのだが、そんなことにすら気づかないほどに俺は焦っていたようだった。反省しなくては……。
ともかく、最後に息子を見たという証言が出たのは保健室の養護教諭からだった。今日は聞き込みをするからと8時には来るように校長を介して連絡を通していたため、問題なければ既に室内にいるだろう。
気持ち強めにノックをすれば、中からは女性の声が聞こえてきた。
『はい、どうぞ』
「──失礼します」
古くなったらしく荒い音がなるスライドドアを開き、ツカツカと室内に踏み入る。
そしてそのまま懐から手帳を取り出し、椅子に座る養護教諭へと身分を明かした。
「警視庁、捜査第一課。警部補の御堂筋です。お話を聞かせてもらっても宜しいですかね?」
「ええ、もちろんです。私は当校の養護教諭をしております、柘植ひかると言います。今回の事件、協力できることがあれば何でもお話いたします」
線の細い若い養護教諭は、ぺこりと丁寧に頭を下げる。最初に感じたのは、ふわりと漂ってきた柑橘の香りだった。
「それでは確認していきます。柘植先生、貴方が最後に私の息子──健一を見かけたのは?」
「はい。健一くんは部活終わり際に乱取り稽古中に柔道着越しに膝を擦ってしまったらしくて、擦り傷を治してほしいってことで保健室に来ていたんです。消毒とかの作業中に部活終わりのチャイムが鳴ったから……16時50分か、もっと後ぐらいでしょうか」
少しずつ思い出すように語り始める。
「なるほど……治療が終わった後、健一は?」
「ええと、退室して下校したんだと思っています。私はその、職員室に用事がない時は横着して保健室のドアからそのまま帰っちゃうので見ていないんですが……」
そういうと、柘植先生はちらりとグラウンドに繋がるドアを見ながらバツが悪そうな表情を浮かべた。本当はちゃんと職員通用口から帰るように指定されているのだろう。
見れば学校玄関よりも保健室の入口からのほうが遥かに職員駐車場に近い。なるほど、わざわざ遠回りして職員通用口から駐車場に向かうより早いというわけか。
「ふむ、となるとやはり下校途中に……?いや、だがその割には……」
健一は小学生としては多少ガタイが大きい。縦横どちらもそこそこ大きく、肥満にならないように柔道をさせているのもあってデブっている訳じゃないんだが全体的にがっしりしているのもあって部活終わりに下校する生徒たちに紛れてもそこそこ目立つ部類だろう。
そんな比較的目立つ容姿のはずなんだが……どうにも目撃証言が少ない。裏口から出たんだろうか?いや、普段と違う行動をする理由もない。となると……やはり。
「……その、健一くんは……やっぱり……?」
疑念が頭をよぎったところで、柘植先生が恐る恐る口を開いた。やっぱり、というのは──誘拐ではないかと疑っているんだろう。なにせ彼女にだって関わりがゼロではない話であり……同時に、学校関係者の犯行だとしたら、彼女も容疑者に含まれるのだから。
「ええ、可能性はあります。6年前の誘拐事件、それと同様の──」
その先の言葉を続けられなくて、小さく息を吸った。
言って良いものだろうかと僅かに逡巡したが、しかし彼女にとってもあの事件は──。
「ええ……連続殺人で死刑になった『
僅かに声を震わせながら、柘植先生……かつて先輩に誘拐され、監禁され、同性であるはずの先輩によって実の父と同様に犯されていた被害者であり、先輩が三重野を殺害した際の傷で入院した時に家の様子を見に行かされた俺によって監禁されていたところを保護された彼女は、長い睫毛を伏せるようにして、憂うように俺の言葉を引き継いだ。
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6年前の事件。それは俺が高校卒業してからずっと籍をおいている警視庁管内である都内で起きた事件であり、今回の現場とは別の公立小学校に通っていた当時10歳の少年が誘拐され、後に殺害され遺体となって発見された事件だった。
行方不明になった少年──「千堂 京」は母親である「千堂 萬廣」が獄中出産(実際は住所の関係もあって一旦は拘置所の外に出て出産したそうだが)した死刑囚だったこと、そして父親の「柘植 謙次郎」はそれこそ母親が京少年を受精したその日に殺害されていたことから身寄りがなく、産まれたときから乳児院及び児童養護施設で育ってきた、所謂孤児だった。
当時の彼は児童養護施設から小学校に徒歩で登下校しており、その出自からあまり友達もいなかったそうだ。だが完全に孤独だったわけでもなく、同じ施設の子やクラスメイトの何人かとは遊んだりする仲だったこともあり、行方不明になったときもすぐに先生や施設に報告が届いていた。
事件が発生した当初は誘拐ではなく迷子になったのではないかと思われており、学校教師や彼を保護していた養護施設の職員が探し回ったものの見つからず同日の19時には捜索願が提出。そこからは前述の面々に警察を加えての捜索が続いていたのだが発見できず、ただの行方不明ではなく事故や事件の可能性が高いということで捜査本部も設立されたがめぼしい証拠もなかった。
そうして行方不明になってから40日が経過した9月23日の早朝に、郊外の林の中からスーツケースに詰められた遺体となった京少年が発見されたことで誘拐殺人事件だったことが確定し、俺達捜査一課が改めて事件を調査することになったのだ。彼の遺体は衣服を一切身につけておらず、首を縄のような物で締め付けられた痣が残っていた。また肛門が太い物を挿入され裂けたようになっていたことから、性犯罪目的での犯行であると目されていた。
俺はあの事件が許せなかった。例え生まれから何からいろいろな事情があったとしても、それでも子供に罪はない。まして異常性欲か何かのための道具として幼い命が消耗されて良いなんて道理があるはずはない。
──何より。死刑を執行された先輩の唯一の忘れ形見をあんな無惨な姿にされてしまったという事実が許せなかったのだ。
あれから犯人を躍起になって探したものの、監視カメラのない郊外の山林だ。誘拐の現場も不明なままだったこともあって未だに解決していない。6年前からずっと俺の中に深く刺さり続けている事件だった。
「……彼、京くんは私を誘拐した千堂萬廣と私の父親との間に出来た子供でした。出自からか荒れ気味で、事件の半年前に私が教育実習で出会ったときも怪我したからって保健室に来たんです。教育実習の短い間に何度も来たからよく覚えてます」
悲しそうにぽつりぽつりと呟く柘植先生。出自が酷かったのは知っている。柘植ひかるの父親が先輩の恋人の仇であり、だからこそ先輩は女好きだった柘植ひかるの父親に体で取り入って隙をついて殺したのだ。そしてその時、先輩が妊娠したのだとも……当時の俺は鈍感で、女づきあいも先輩ぐらいしかなかったからって気付けなかったことが悔やまれる。ともかく、そういった愛も何も無い肉欲と憎悪の果てに無責任に産み落とされたのが千堂京という少年だった。
「本当に何度も保健室に来る子だったんです。怪我が多くて、どうしてそんなに怪我をしたのか聞いてみたら……親がいないって馬鹿にされて喧嘩になって、それで怪我ばっかりしていたみたいで」
そう語る彼女の指先は僅かに震えていて、彼の事を語るのが辛いんだろうということが手に取るように判った。
眼の前の彼女にとって京少年は腹違いの弟であり、同時に自分を誘拐し、監禁し、道具などを使って犯してきた誘拐犯の息子でもあった。複雑に絡み合った因縁に思うところがあるのだろうし、俺だって色々感じるところはあった。
「知ってますか?刑務所で生まれた子供って、引き取り手が居ないと乳児院に預けられるんです。私も同じ乳児院でしたけど──それで、施設で育つってなるとどうしても他の子に馴染めなくって。それで顔色をうかがったり、あるいはトゲトゲしちゃったりするんです」
彼女自身もまた、両親が共に犯罪者だったことから獄中出産からの乳児院育ちだったんだろう。そうして、家族に引き取られて……家庭でも色々あって、父親が殺され、誘拐された。誘拐から開放されてからは別の児童養護施設で育ったという。
そんな過酷な環境で、更に──いや、ともかくそれであって奨学金を貰って大学まで行って、こうして養護教諭になっているのだから本当に努力したんだろう。
「……私が監禁されてた時、既にあの人は父の子を孕んでいて、お腹もうっすらと膨らんでいたんです。あの時、あの人の中にいた赤ちゃんが時を越えて私の前に現れて。私とおんなじように親のことで苦しんでいたから、なんとかしてあげたくて教育実習の間も色々面倒を見ていたんです。実習が終わる頃にはずいぶん懐いてくれて……だから、あんな結末になってしまって本当に残念です」
そう語る彼女の顔からぽたりと一滴の涙がこぼれ、動きやすそうなジャージに僅かな染みを作った。
「……そう、ですか」
正直、すごいと思った。
はっきり言って、彼女は誘拐・監禁からの性暴力を働いた先輩のことを憎んで当然だと思っているし、実の父親のことだってさぞ恨めしいだろう。彼女の実父、柘植謙次郎は実の娘である彼女に日常的に性暴力を働いていたというのだから尚の事だ。
なのに、その2人の間の子供のことでここまで思い悩み、涙を流せるというのは……それは、俺にはとても想像の出来ない心境だった。
「っ、いけませんね……今日は6年前の事件の話を聞きに来たわけじゃないでしょうし、他に調べることもありますものね」
ごしごしと目をこすり、どうにか体裁を整える柘植先生。
いえ、と俺は遠慮がちに言葉を発し……改まるように身を整え、再度口を開いた。
「それでは改めて。健一が外に出る時、どちらに向かったかはわからないということで宜しいですね?」
「はい。その、部活も終わりだし怪我人もそうそうこないだろうって思ってたので怪我に処置した後はデスクに向かっていまして……」
「そうですか……」
だろうな、と思う。転ばないように室内ぐらいまでは注視するだろうが、そこから先は確認もしないだろう。自分自身は保健室のドアから出るのであればなおさらだ。
「わかりました。……一応確認なんですが、保健室から直接外に出た場合、正門の方とかは見えましたか?」
もしかしたら直前に治療をしていたことでちらりとでも印象に残っているのなら助かるのだが。
そう思って聞いてみたが、ふるふると首を振った。
「いえ、ここからじゃ正門と……あと裏門も見えないんです。職員駐車場まで行けば裏口は見えますけど……私が車の下に着いたとき、裏門に子どもたちはいませんでした」
「そうですか……わかりました」
今のところ、これ以上聞ける要素は無いだろう。
聞くべきを聞いたということで立ち上がりかけたその時、プルルル、と電話がなった。俺のスマホではないし、部下のものでもないだろうが──となれば。
「すいません、出てもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
申し訳無さそうに眉を寄せる彼女に頷く。聞くことも聞いたのだから問題はない。……あまり有益な手掛かりが得られなかったことが残念だが。
小声で会話をした彼女は小さく頷くとスマホの通話切断ボタンを押し、俺達の方へと向き直った。
「すいません。保育園から電話があって……その、娘が熱を出したってことなんです。聞き込み調査に来ていただいたところで申し訳ないんですが、その……」
「ええ、大丈夫ですよ」
俺が頷いたことでホッと息を吐いた彼女は、大きめのカバンに物を詰め込み、そのままパタパタと職員室へと向かっていった。
「さて、聞き込みを続けるか……せめてなにか手がかりがつかめると良いんだが」
「そうですね……柘植先生の前の目撃証言は柔道部の顧問だそうです。今はグラウンドで体育の授業中のようですね」
ぱら、と資料を確認する部下にうなずき、俺達は聞き込み調査を続行した。
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「だー、クソが!」
「気持ちはわかりますが、その、せめてパトカーの中で……」
あの後、教員たちや生徒たちに聞き込みをすること1週間がたった。その間も捜索は続いているのだがやはり証拠はなく、かといって聞き取り結果もまた芳しくなかった。
こんなにも誰も目撃していなかったなんてあるか?ウチの息子それなりに目立つはずだろ?
「……やっぱり、校内で誰かが誘拐したとかなんですかね……」
「かもしれんな……。いくらなんでも目撃証言が少なすぎる……」
だがもし誘拐だとしても、不審者の情報なんてこれっぽっちもなかった。となると学校に居ても違和感がないだろう教員か、あるいは学校事務職員か用務員か……。だとしてもどうやって?
視界の端に清掃用のダストカートが映り込む。ああいったものを使えば誘拐は可能かもしれないが、だとしても小学校の掃除時間を考えると部活終わり際に清掃員がうろついているだけでもまあまあ怪しいだろう。だがそういう不審な情報は確認できていない。
用務員が扱う黒ナンバーの軽バンが見えた。勝手口ギリギリまでリアゲートを近づければ目撃を最低限にして運べないか?とは思ったが当日の行方不明時刻前後は既に車庫に入っていて鍵が持ち出された形跡はなかった。
(くそ、誘拐だとしてもどうやったんだ……?こういう時、先輩なら……)
12年前に死刑執行された先輩のことを思い出し歯噛みする。あの人は色々人間としてヤバい部分が露見して死刑になりはしたが、それでも警官としては非常に優秀だった……あまりよろしくはないことだろうが。
もし俺があの人くらい優秀なら、ぱぱっと解決して息子を助け出せるのに。だが現実はあの人の息子を俺は助けられず、そして自分の息子さえも助けられるかがわからない有り様だ。
(っ、いや違う、今度こそ絶対に助ける!)
弱気になったところで頭をブンブンと振るった。わからない、なんて言っていられない。パンパン、と自分の頬を叩いて気合を入れ直した。
「……よし、とにかく他の場所を精査するぞ。全部ひっくり返す勢いで探さねえと」
「うっす」
俺の調子が戻ったのを確認してか少し安堵のため息を吐きながら、部下はパトカーを走らせ始めた。学校から我が家までのルートを再度確認し、植え込みがある歩道などの誘拐可能そうな場所を探すためだ。
目を皿のようにして道路を眺めていたとき、なんとはなしに部下が口を開いた。
「そう言えば……。保健室の先生、今26なんすよね」
「らしいな。ストレートで教員採用試験に受かったらしいぞ、施設育ちの逆境を跳ね返すってのはすごいよな」
部下が話題に出したのは最初に事情聴取した柘植先生のことだった。年齢が近いから気になったんだろうかと思ったが、どうも違うらしい。
「いや、話聞いた感じ保育園に通園する娘さんが居るんですよね?んでも柘植って旧姓というか、元々の名字じゃないっすか。結婚とかしてないんですかね」
「……お前なあ」
そこはもうちょい捜査資料読み込んどけよ、と思わなくもない。だけど俺がざっとまとめられた柘植先生に関する資料を読み込んでいた理由は「先輩の事件の被害者」だったからだ。そりゃあ、当時の事件とはなんも関係のない部下に事件翌日の朝の聞き込みまでに全部覚えておけというのも酷だろう。でも最初の聞き込みから1週間も経ってるのだしやっぱり読み込んでおいてほしかったなとは思う。
「あの先生は、な……」
あまり口にしたい内容ではないが、まあ一応共有されている情報ではあるのだ。だったら……と、口にしかけたところで、ふと違和感に気づいた。
「警部補?」
「……まて、何か引っかかるな」
捜査資料だと、柘植先生は幼少期とは別に教育実習後にも性被害にあっている。大学3年次の6月の教育実習が完了してから5ヶ月後の11月に発覚し、その3ヶ月前にレイプまがいの暴力で妊娠したと同級生並びに施設職員に告白したのだという。高校卒業後は施設を出て父親の実家で一人暮らしをしていたことから発覚が遅れたのだそうだ。報復を恐れてなのか、誰に犯されたのかは言わずじまいだった。
そして最終的にほぼ大学を休むことなく、翌6月の教員採用試験の一次試験開始前に出産。以降は子供を育てながら教員採用試験を受験し、合格。小学校の養護教諭として働いている……それが、捜査資料に書かれていた内容だった。
(そう、教育実習が終わってから2ヶ月後の8月に性的暴行を受けたことになる。その事を黙っていたこと自体は不自然ではないが……ただ、千堂京が行方不明になったタイミングと同じなのが気にかかる)
彼女は幼少期の頃から性的暴行を受けてきていた被虐待児だ。性暴力を恐れるのは当然だし、報復を恐れて口籠るのも特におかしな点はない。だが流石に近しい場所で誘拐殺人事件が起きていたことが明らかになり、その被害者が性的暴行を受けた痕跡まで残っていたのだ。教育実習中の出来事とは言え、自分の境遇や過去の繋がりを持つ少年の境遇をどうにかしたいと願っていた彼女が、ともすれば犯人に繋がるかもしれない情報を誰にも告げず固く口を閉ざしたまま……というのは少しおかしくないだろうか。
なにか引っかかる……そう思っていた俺は、ようやく違和感の正体に気づいたのだ。
「……柘植先生──柘植ひかるはなぜ『千堂京』が『千堂萬廣』と『柘植謙次郎』の子供だと知ってた?」
「え?それは……事件が報道されてましたし……」
不思議そうな顔をした後輩に首をふる。
「いや、柘植ひかるは報道前から気づいていた……彼女の言葉を信じるなら、だが」
彼女は確かに言っていた。幼少期に犯してきた千堂萬廣の「うっすら膨らんだお腹」の中に居た赤子と時を超えて出会ったからこそ、その境遇をどうにかしたいのだと。つまり事件が起きる前から、彼女は京少年が「千堂萬廣が当時妊娠していた息子」だと気づいていたということだ。そんなの、わざわざ調べなければ気づくはずもないというのに。
俺の言いたいことを理解したのだろう、部下は確かに……と小さく頷いた。
「ううん、それじゃあ本人から聞いたとか……?」
「たった10歳の子供が、連続殺人を行った死刑囚の母親や性犯罪者で殺された父親のことを施設の職員から教わったっていうのか?」
「……ないですよねえ」
流石に言ってて無理があると思ったらしく引き下がった。一応後で確認しておこうとは思うけど、まあ十中八九教えられてはいない。10歳に教えるにはあまりに酷な内容だ。
ともあれ、だ。やはり柘植ひかるが「千堂京」の出自を知っていたのはおかしい。これが事件が起きた後に気づいたなら分かる。千堂京が殺された原因を探る、という名目で3人の男を恋愛沙汰の復讐心から殺した死刑囚の母親や性暴力を振るっていたという前科者でその死刑囚に殺された父親の情報が取り沙汰されていたからだ。
16年前の事件当時ですら散々に報道された復讐劇だったのだから、6年前の事件の被害者である千堂京が狙われたのは両親に恨みを持つものの犯行ではないか……みたいな報道番組やらが毎日のように流れていたのを覚えている。だからこそ今現在で千堂京の出自を知っていることには不自然さを覚えずスルーしていたが……こうやって時系列を整理し直してみると明らかに不自然だ。
どうやって知ったんだ?そう、例えば……。
「同じ乳児院に居た、と言っていたよな。だけど乳児院に居られるのは3歳まで、長くても就学前だ。京くんは既に乳児院ではなく児童養護施設で生活していた」
「……なのに、乳児院が同じだって知ってた。これもわざわざ調べたってことなんですかね」
「おそらくな。それこそ名字が自分を誘拐した人と同じだったからもしかしたらと思ったとかな。獄中出産された子供が乳児院に行くというのは自分の経験から理解していただろうし、乳児院同士での繋がりを介して調べようとしたって可能性はある」
獄中出産で生まれ乳児院に預けられた彼女が「自分と同じような境遇の子と話す機会ができた。なるべくケアしたいから情報を教えて欲しい」と相談でもしようものなら、酷い境遇を乗り越え同じ立場の子を助けたいと願う立派な子の助けになりたいと乳児院の職員が便宜を図ることだってなくはないだろう。
そうして確証を得た。自分の実父と、誘拐した警官との間に生まれた子供なのだと。
自分を犯した2人の間の子供に対し、彼女は何を思ったのかは知らない。だが何らかの強い感情(憎悪などの可能性が高いだろうが)を抱いた可能性は高いし、それが講じて誘拐、殺人に走ったというのは考えられる範囲の話だ。わざわざ性的暴行を受けたように見せかけたのは性別偽装の工作と見なせるだろう。
……仮に彼女が犯人だとすれば、俺の息子が誘拐された目撃情報がないのも分かる。保健室の中で身動きを封じられ、グラウンドから彼女の車まで大きいバッグか何かで運べば良い。部活も殆ど終わってまばらなグラウンドで、正門や裏門からは見えない保健室の出入り口。いつも通り荷物を担ぐ養護教諭の姿を誰が疑問に思うだろうか。下駄箱だって「そのまま保健室から帰れるように靴を持ってきて」とでも言えば外履きを持ち込むことは可能だし、身動きを封じてから履いていた内履きだけを下駄箱に戻せば偽装も容易だ。
こうしてみると辻褄が合ってしまう。彼女が犯人であれば、前回の事件の動機についても今回の事件の誘拐の手法についても、その両方の条件を彼女は満たしている、んだが……。
「ただ、動機がない。仮に犯人だとしたら何を考えている……?」
「京くんの方はまだしも、警部補の息子さんについては……なにか心当たりとか無いんです?」
「あったら悩んでねえよ……」
まあ、動機の有無は重要じゃないといえばそうなのだが……。逮捕するだけなら令状片手に彼女の家に乗り込み、実際に犯人だったら逮捕すれば良い。
とはいえ、逮捕令状にせよ捜索差押許可状にせよ、発行には犯罪の嫌疑、及び証拠の存在が見込まれていると裁判所が判断しないといけない。前回も今回も、あくまで彼女は犯人の可能性がある、という程度のもの。明確な証拠を確認しないことには請求したって突っ返されるだけだ。
(怪しいと言えるのが彼女だけだから疑っているのが現状だ。そんな消極的な基準じゃ逮捕なんか出来やしないし……動機、動機……先輩の子供を恨んで殺したわけじゃなく、俺に何か思うところが……?)
と、そこでふと1つの仮定が浮かんだ。
俺の息子を狙ったこと、先輩の、そして実の父親の息子を誘拐したこと。この2つが成立するだけの動機とはなんなのか。
なぜ、すぐに殺さず。1ヶ月以上も待ってから殺したのか。
なぜ、なぜ──子供を殺した1ヶ月前に、柘植ひかるは妊娠したのか。
柘植ひかるが犯人だとすれば────彼女が産んだという娘の父親は一体、誰なのか。
まさか、とは思った。だが俺はその「まさか」の前例を1つ知っていた。だからもしかしたら、もしその仮定が正しいのだとしたら動機の辻褄も合わせられなくはない。そして何より──。
(────もし当たっていたなら、証拠が掴めるかもしれない!)
俺は同乗する部下に馬鹿みたいな推理を披露して頭がおかしい奴を見る目を向けられたが、そんなことはお構いなしだ。息子の命がかかってるのだからと無理を言って進路を変更させ、パトカーを目的地へと向かわせたのだった。
元「後輩」。現在は後輩と結婚し10歳の息子がいる。本編との違いは特になし。
「先輩」の変化やら感情に気づくことが出来なかったことを悔いており、ずっと引きずっている。そんな中で「先輩」が残した息子が誘拐・監禁・殺害されたことで意地でも解決しなくてはならないと少し気負い気味な状況。そんな中でかつてのそれと類似した事件に自分の息子が巻き込まれたことで色々とストレスがヤバい。
「彼女」。前話から16年後。奨学金を使って大学を卒業し、現在は養護教諭として勤めている。
5歳になる娘がいるが夫は居ない。周囲には学生時代に性犯罪により妊娠したと伝えている。子供が好き。かつて自分を誘拐した「
「
獄中出産で生まれ、柘植ひかると同じ乳児院に引き取られた。小学校に通う頃には別な養護施設から通っていたのだが、小学5年生の頃に誘拐、殺害された。