性奴隷と長身巨乳リョナグロ背徳性癖倒錯ふたなりが純愛に堕ちるまでの話 作:PP→KP
「……ここは」
目が覚めると、そこは白い寝台の上。輸液用のケーブルやら機材やらが私に繋げられているのが見える。
傍には医師か看護師だろう白衣を着た人間が立っている。呟いたような声が聞こえたのだろう、なにか書きつけている作業を止めこちらを向いた。
「お目覚めですか?何が起きたのか記憶はありますか?」
「記憶……ああ、私はあの時焼かれて気を失っていたのか。すみませんが、今は私が気絶してからどの程度経っているのか教えてもらっても?」
しっかり覚えているが、守秘義務もあるので迂闊なことは言わないことにする。
「そうですね……貴女が運び込まれてから大体26時間程度になります。熱傷指数的には結構危ない状況でしたが、それでこの早さで目覚めるのはさすが警官さんですね」
どうやらそこまで経っていないらしい。重度の火傷ではあるが頭を打ったわけでもないのだからそんなものなのかも知れないが……それでもこの身体の頑丈さには感謝したいところだ。
その後医師(自己紹介を受けた)と幾つか会話をすると、医師は安堵したように頷いた。
「うん、どうやら今のところは記憶もはっきりしているようですね。それじゃ、職場の方をお呼びしますよ」
「……お願いします」
人が良さそうな医師が良かった良かったと言いながら去っていくのを尻目に、先程から感覚の鈍い左腕を見る。
上体の左側まで覆う包帯できつく固定されているためどうなっているのかは分からないが、逆にここまでの処置をされているということは相応に重い状態なのだろうことは容易に想像できる。ぱっと見は安定してそうな私に医師も安堵するわけだ。
「先輩!目が覚めたんですね!」
医師が連れてきた職場の人……後輩が、体を起こした私を見て凄く安心したというような眩しい笑顔を見せてきたので、思わず目を細める。言えるわけもないが自業自得の末路をこうも心配されると目を背けたくなってしまう。
「ああ、見ての通りだ。……早速で悪いが、三重野はどうなった?」
「三重野は……その、一応同じ病院に搬送されたんですが程なく死亡が確認されました。救急隊が来た時には息も停まってたんで、多分そん時にはもう……」
言いづらそうにする後輩にそうか、とだけ返して視線を窓の外に向けた。これ以上後輩と目を合わせられる気がしなかったのだ。
「あ、あの!先輩のせいじゃないですから!皆言ってますよ、あのタイミングじゃどうやったって間に合わないって」
「だとしても、だ。まず遠目にでも息子さんが息をしているか確認するべきだったし、なにか仕掛けがないか無理に引き剥がしてでも調べるべきだった……あれは結局何が起きたんだ?爆発物が仕掛けられていたということか?」
「そうらしいです。息子さんの遺体には縫合痕があって、内蔵に当たる部分は焼けた残骸すら無かったって。残留成分から多分体の中にガソリンの入った容器を入れてたんだろうって」
そうか……なんて呟く。全部自分で仕掛けたのだから知っているくせに、白々しいものだ。
あの爆発は三重野の息子を殺害した後、内臓が無くなった身体にガソリンを入れた小型のポリタンクを代わりに詰め込み、予め作成していた無線発火装置を使って着火することで引き起こしたものだ。
ガソリンは車から移し替えたもので、着火装置は休暇時に各種電気街を回ったり通販でパーツを買って自作した。元々理系畑でそこら辺の電装周りについても手慰み程度に講義を受けていたのが奏功したと言えるだろう。いや、罪を奏したと言うべきだろうか。
あとは燃え上がっている身体に手を突っ込みスイッチを置いてしまえば、三重野が縋りついた瞬間にそのスイッチが押されて爆発したと見られたことだろう。
「それでその着火装置のスイッチ、多分三重野が押したと思うんですけど……あの後周囲を捜索したら裏手の小川まで足跡が残ってまして、途中に同じスイッチがあったんです。だからもしかしたら……」
「三重野が押していなかったとしても遠目に確認して爆破した可能性はある、か……」
「はい。足跡はそこで消えていたので、もしかしたら小川を上るか下るかして逃走している可能性があるからって捜索中なんですが……」
良い結果が出ていないのだろう、落ち込んだ様子を見せる後輩。その姿を見ることが出来ず、私は嘆息しながら目を閉じた。
見つけたという足跡は間違いなく内蔵を捨てるときに意図的に付けた足跡だ。鑑識なんかがきっちり確認すれば日付が違うことも判明しただろうが、犯人が近くにいる可能性を考えると追わざるを得なかったのだろう。
その他の話を聞いても、念のためにと色々と撹乱用に偽装工作していたことで捜査は難航しているようだった。そして同時に、今のところその場に居た私が実行したとは誰ひとり思っていないことも伝わってきた。
(下手したら火傷で死んでいた私を犯人と思えるか、という話ではあるが)
最後の1人だから殺せさえすれば最悪死んでもいいぐらいの心持ちで実行したのだが、今までの所業からイメージできる殺人犯がまさか物理的に捨て身で殺しに来ているとは想定できなかったのだろう。
「よし、現状はわかった。わかったが──私に出来そうなことはない、か」
「当たり前っすよ!?どんなに短くても1ヶ月は治療に集中するようにって話ですよ!?」
「そ、そうか?いや、それはそうか……服越しとは言え相当な炎だったからな」
そう言えば全治までの期間を聞いていなかったが、どうやら1ヶ月は掛かる見込みであるらしい。
頓珍漢なことを言った私に慌てる後輩につい目を向けてしまい、家のことを思い出した。実家ではない、マンションの方だ。
最近では遊ぶ日に結構な頻度で手料理も振る舞っていたこともあって、冷蔵庫にはそれなりに賞味期限が短い食材が多い。1ヶ月もここに居るとなればそれらは全て廃棄する必要があるわけだ。
(──別に、1ヶ月放置して腐ったものを全部捨ててもいいと言えば良いんだが……)
別に悩む必要はない。足が早い食材は腐ってしまうだろうし、そこから派生して中身が全部ダメになる可能性もあるが……そうなったらいっそ冷蔵庫ごと買い替えても良いのだ。
だから悩むことなんて無い。その筈だ。
ちらり、と目の前の後輩を見る。私を心配そうに見つめるその目に嘘はない。ただ純粋に私のことを心配してくれる、そんな優しい男の顔だ。
この男と、もしかしたら。全部終わったのだから、そうだ、あの家で、一緒に。
一瞬、そんな未来を夢想する。火傷を負って、傷物になったことを理由に頼み込んで、受け入れてくれて、祝福されて、子供が出来て──。
そんな、火傷の痛みで呆けた脳裏に浮かぶ妄想の中。私は、半透明の、小さい、血に染まった子供を抱いていた。
「──なあ。私のロッカーにある鞄、中に私の家の鍵があるんだ」
気づけば、私はそんな言葉を口走っていた。己にとって致命的となる、そんな台詞を。
「面倒をかけるが、冷蔵庫の中身を整理しておいてくれないか?好きに食べていいから」
仕舞い込んでいるとは言え、犯行に使った服やらで処分していないものがまだ残っている。そこから柘植や東海林の体毛でも出てきたら終わりだ。今紡いでいる言葉は、只ひたすらに自分を追い詰めるだけのものでしかなかった。
「悪いだと?今更だろう。勝手知ったる私の家、お前が出入りして誰が何を言うんだ」
何より。あの家には、冷凍庫の中には。まだ──あの子が、残っている。せめて私ぐらいはちゃんと埋葬してやろうと、そんな無意味なことを考えて残していた、あの子。
だというのに、私は言葉を止められなかった。こんなことを頼めば、気づかれてしまう可能性が高いというのに。……まさかとは、思うけれど。
「それに、私はお前のことを信じているからな──悪いことなんてしないって」
後輩なら、私を──どうにかしてくれると、思ったんだろうか。
流石に女の人に頼ったほうが良いのでは、なんて愚図る後輩を部屋から追い出し、先程までの自分を思い返す。
何が信じている、だろうか。気づかないで、調べないで、私を只の先輩と思っていてほしいとずっと考えているくせに。──気づいても、私を思って知らぬふりをして欲しいなんて思っているくせに。
「でも、まあ。しょうがないよな」
日が落ちて、私しか居ない部屋で独りごちる。
三重野の息子を殺した時、復讐が終わったときの皮算用なんて馬鹿らしいと思っていたが──今は全部終わったのだ、私の復讐が。
だったら、どうするかという話。
思い出すのは、後輩を最初に犯した時。酒に酔いながら、呑まれながら、勢いで避妊すらせずに。今とは比べ物にならない位にお互い下手くそで、お互いに初めてを奪った日。
その時私は確かに思った筈だ──心以外は捧げても良い、と。
「酒に呑まれていたなんて、言い訳にもなりはしないか」
あれから何度も何度も肌を合わせ、身体を重ね、互いに求めあった。
東海林とセックスして、殺した翌日にも素知らぬ顔で交わった。
柘植との行為で宿した生命が胎に居たのに気を遣うこともなく、少し太ったなんて嘘を吐いて──後輩に何度も跨って、受け入れて、絶頂を繰り返していた。
三重野の息子を攫って、監禁して──小さな指を切り落とす少し前に、その小さな体と同じ様にベッドに仰向けになり、後輩の指と自分の指を絡め合っていた。
余りにも汚らわしい。こんな身体を捧げられて誰が喜ぶというのだろうか。
だから、最後の判断を委ねたいと思ったのかも知れない。真面目な後輩なら不用意に家を漁らないから気づかないだろうという信頼なのか、こんな私を受け入れてくれるかも知れないという淡い期待なのか。
あるいは。悪人である私を告発することができる──悍ましい殺人鬼を受け入れるような不純な男ではないのだと、そんな理想を押し付けたかったのかも知れなかった。
後輩はあれから、私の見舞いに足繁く通ってくれた。
「先輩、めっちゃ料理できますよね。何で冷凍食品もあんなに買い込んでるんです?」
「自分のだけ食べる時にはわざわざ拘る気がないからな。私の弁当なんて冷凍食品まみれだぞ?」
「えっ……じゃあ、あれって俺のために……」
「そりゃあ私の都合に付き合わせているんだからな。手料理ぐらい振る舞ってやるさ。」
1週目は、普通に話していた。特に変わった様子はなかった。
「先輩、その……前から思ってたんですけど、服とかすげえおしゃれですよね」
「褒め殺しか?勘弁してくれ、見せる相手も居ないんだ」
「でも偶に、その、夜とか着てくれるじゃないですか」
「……なんだ、お前気に入ってたのか?だったらもっと言ってくれれば良かったのに。まだいっぱいあったんだぞ、面白い服とか」
2週目は、少しだけぎこちなかった。服の話題を振ってきていたけど、ちらり、と目線が私の胎に向いたことは見えていた。
「先輩、大分良くなってきましたね!」
「ああ、まあな。左手もどうにか動くようになってきた。皮膚移植やら何やらで動かないわ痛いわで、本当に大変だったよ」
「その、もうそろそろ復帰できるんすか?俺、先輩が、その、戻ってくるの楽しみです!」
「……さてな、それは医師に聞かないとわからないが」
3週目は、先週とは打って変わって明るい姿を見せた。……空元気なのが見て取れる。わかりやすい後輩に私は内心で苦笑した。
そして、4週目の夜。
私の傷も大方治り、火傷の痕跡がしっかり残って後遺症もありはするものの、どうにか日常に復帰できるかどうか、というところまで来た。
そんな私のもとに見舞いに来た後輩は、こちらがもうじき退院するというのに沈んだ顔をしていて……ああ、やっぱりなと思った。
「先輩、お茶どうぞ」
「わざわざ買ってきてくれたのか?じゃあ有り難く貰おう」
自販機から買ってきただろう350mlのペットボトルを漸く動くようになった両手を使って開けて、温かいお茶を飲む。
ベッドの上の私、傍の椅子に座る後輩。どちらともなく飲み終わり、無言の時間が続いた。
「……先輩」
「……なんだ?」
何と切り出したら良いのかわからないのだろうか、目線を僅かに伏せ口をもごつかせる後輩。私は後輩が言葉を整えられるようになるまで、黙したまま待ち続ける。
そしてそんな最後の静寂が終わり、顔を上げた後輩は口を開いた。
「…………先輩が、犯人なんですね」
そう、後輩は私に告げた。
駆け引きも何もない、どこまでも「らしい」直截的な言葉に思わず笑ってしまう。
普段ならこうやって発言をからかうように笑うと可愛らしく怒ったりするものだが、今の後輩はどこまでも沈痛な顔で私を見つめていた。
「……何の犯人か、一応聞いておこうか?」
「とぼけないでください。東海林を、柘植を、三重野を──そして、2人の子供を殺したのは、貴女でしょう?」
敢えて軽く聞いてみれば、返ってきたのはそんな言葉。
どこまでも真摯な後輩の言葉に頷きたくはあるが、しかしその内容には私なりに訂正したい箇所があったのでそこだけ直してやることにした。
「違うな。冷凍された胎児を見た筈だ。柘植との間にできたあの子を含めれば、殺した子供の数は3人だ。現行法だと死んだ胎児を堕ろす堕胎は殺人ではない──という意味では2人だがな」
「──っ!先輩、やっぱり……っ!」
事実上犯行を認めた私の発言に、やりきれないように後輩が呻く。まだ心の何処かで私がやったと思いたくはなかったのだろう、その顔には怒りと悔恨と悲しみが浮かんでいた。
言葉にできない感情が溜まったのか黙ってしまった後輩を見て、私はなんと言ったものかと天を仰いだ。
「どうしてそんな顔をするんだ。良かったじゃないか、他の捜査員に先んじて犯人を掴めたんだぞ?」
「良くありませんよッ!俺は、俺は……っ」
はあ、とため息を吐いて笑いながら言えば、後輩が半ば叫ぶように私に言葉をぶつけようとする。だけど何も言葉を繋げられずにまた俯いてしまった。
「何処で気づいたんだ?女の家で家探し出来るような性分じゃないだろう?」
このままだと埒が明かないなと思ったので、私から話を切り出した。
「……その、冷凍庫の……。もしかしたらそっちも整理したほうが良かったかなって、先輩結構頻繁に買い足すから……もしかしたら古いのもあるんじゃないかって思って……」
「そうか。確かにお前とよく買い出しに出る時冷凍食品も買い込んでいたからな」
そういう考え方もあるか、と素直に感心する。保存が効くからというよりも調理の手間がないからと言う理由で冷凍食品ばかり買っていたが、確かに一人暮らしの人間が大量に冷凍食品を買っていれば期限が切れそうなものがあるかもと考えることも有り得る話だ。
「んで、その……もしかして、俺のせいでできちゃってたのかもって思って。それで、先輩、苦しかったのかも知れないから、一緒に考えなきゃいけないって」
「……自己堕胎罪が適応されるのは女側だけだから、もしお前との子供だったとしても責任は私にしか来なかったんだぞ?あと、別にお前とヤッたことで死んだわけじゃないからそこも気にしなくて良い」
「そういう問題じゃないっすよ……。んで、その、ちょっと申し訳ないっては思ったんですけど、頭真っ白になっちゃって。あの子、全部冷やされてるって言っても一部剥離してたから、それを鑑定してもらったんです。俺との間にできてたなら俺が悪いし、他の人のだったらそいつを問い詰めなきゃって」
真面目だが直情的が過ぎるというか、思い切りが良すぎると思う。本人が言うように頭が働かなくなっていたんだろうとは思うが。
「あのだな、明らかに犯罪の証拠が見つかったんだからそんな突拍子もない行動をしないで自己堕胎の証拠が見つかったってきっちり報告しろ。下手したらお前も死体損壊罪で捕まるぞ?」
「うぐ……いや、理屈だとそうなんでしょうけどその……」
今は私が後輩に裁かれでいる筈なのに、どうしてこうもいつも通りの会話のようになってしまうんだろうか。
こういう会話が心地よいのか、といえばそうなのだが……。でも、そんな心地よさはもう不要だろう。
「……まあ良い。どうせ鑑定先は私達も依頼する事がある研究所だろう?あそこには柘植の遺伝情報もデータバンクとして登録されているだろうからな、それで判断ついたか」
「ええ、あの子が先輩と柘植の子供だと分かって、いつ妊娠してしまったのかなって。……先輩、ちょっと太ったって言ってたじゃないですか、でも今は痩せている。もし、つい最近、堕ろしたのだとしたら……」
「胎児の体重から受精時期を推定して、それが柘植の死亡時期と重なった。私が柘植と接触していた情報がなかったということは逆説的に私は意図的に柘植との逢瀬を隠蔽していた事になる。犯人として疑うには十分だな」
柘植を殺した可能性があるとなれば、東海林を殺したときの「不可能な立場ではなかった」程度の事情聴取記録も意味を成す。
柘植と東海林を殺したとなれば、三重野を殺したときの場所──警察ですら把握していなかった、私か彼か、或いは彼の親しい人ぐらいしか知らない農業用倉庫の廃屋が使われたことにも理由が浮かぶ。
「先輩、どうしてこんな事を……!」
そう悲しげに話す後輩に、私はわかりきった言葉を返した。
「どうして、か。それは既に皆で見当をつけてきていたじゃないか」
「……復讐、なんですか。20年前の──」
後輩の絞り出すような言葉に、私は我が意を得たりと笑みを深めた。どちらかと言うと全部吐くことが出来るからいっそ開放感を感じてきていたが故に笑ってしまったという方が正しいが。
「そうだ。私はね、私を誘拐した彼が好きだ。どうしようもないほどに彼に恋い焦がれた。精神科医は皆して一時的なものだ、ストックホルム症候群だなんて言っていたがね」
「…………」
複雑そうな顔だ。まあそうだろう、何度も何度も愉しむように……楽しんでいたのは確かだが……身体を重ね、かれこれ3年も付き合って来たのだから。
「幻滅したか?だけど私はこういう女なんだ。お前を最初に犯したのだって、女慣れしてそうな柘植を油断させるために男を愉しませる技術を身に着けようって考えたからだ。ずっとずっと、彼の生命を奪った奴らを殺して彼の無念を晴らそうってことしか頭に無かった」
ああ、最早隠すことが無くなったことで気分が高揚してきた。全部全部、胸中に溜め込んでいた嘘を、思いをぶちまけられるときが来た。私の心中を燃やし続ける炎を、他の誰でもない、私を信じようとしてくれた後輩に明かせるのだ。
「そうさ、私は彼を殺した3人を殺したかった。だから殺すために何でもやった。わざわざ仕事として警官を選んだのも、お前と寝たのもそうだ。セックスの技術を磨くにしても、気軽に誘える仲が欲しかったからな」
全部吐き出せることで気が楽になって、私はベッドに倒れ込み身を預けた。天井ばかり視界に写り、後輩がどんな顔をしているのかは見えない。悍ましい私の本性に怒りを見せているのだろうか、それとも──まだ、優しいままなのだろうか。
「連中の趣味嗜好を調べて、経歴を調べて、殺し方を決めた。捜査本部で手に入れた情報を使って、その裏を掻くようにして奴らに近づいたんだ──殺すためなら、憎いあいつらに身体を委ねて犯されるのも苦じゃなかったよ」
「ああ、全部私がやりたくてやったんだ。柘植の娘を首を絞めて殺して、私が絞り出した精液を幼い膣の奥まで押し込んだのも。三重野の息子を誘拐して監禁して、指を落として、生きたまま腹を割いて内蔵を刻んで捨てたのも。薬を飲んで、泣き喚く子供を惨殺しながら、自分の胎の中で赤子を殺したのも、全部、全部────」
「止めてくださいッ!」
堪えきれなくなったように後輩が叫んだことで、気勢を削がれた私は言葉を止めた。
「……止めてください、先輩。やりたくてやった、なんて言うならなんで──なんでそんな辛そうなんですか」
後輩は私の顔を見て、繰り返すように言葉を続けた。
つつ、と後輩の目から涙が溢れるのをみて、悲しませてしまったな、と心が痛む。さっきまでの高揚感は既に無く、ただ漠然と申し訳無さが胸中に満ちていく。
「いいや、やりたくてやったんだ。私はそれを撤回する気はない。全部が全部故意の殺人だ。3人の男を殺したのも、2人の子供を殺したのも──孕んだ生命を殺したのも全部、自分でやると決めたことだ」
だけどそれでも、私は自分でやりたくてやったのだと言い切った。
辛そうに見える、というのは間違いないだろう。後輩は人を見る目があるし、相手が何を思っているのかを言葉にできるタイプの人間だ。そんな男がそういうのだから、きっと私は辛そうにしているに違いない。
でもそれはきっと、三重野を焼いた時の火傷が残っているのに長く話していたからだ。堕胎に使った薬の後遺症がまだ残っているからだ。そう、己に言い聞かせる。
私はこの犯罪を、この一連の殺人を「やりたくなかったけどやった」なんて言う気はなかった。
心の奥底でどれほど後悔していたとしても、それを言葉にする気はなかった。
たとえどれほど自己満足で、悍ましい思考だとしても──私の所業は「やりたくなかった」なんて枕詞を付けて良いようなものではなかった。
やりたくもない、なんて言いながら──人しての尊厳を踏みしだくような、そんな殺し方を選べる人間だと、後輩に思われたくはなかった。
そう思われるくらいなら、イカれた殺人鬼と思われて軽蔑されたほうがマシだ。どちらが良いなんて話ではないけれど。
「……わかりました」
私の葛藤を知ってか知らずか、後輩は流れ落ちた涙を拭って私と目を合わせる。
「医者の先生と話して、問題なければ逮捕・拘留します。今言ったことは取調室で改めて話してもらいますよ」
「ああ、わかったよ。一応ちゃんと私を見張っていろよ、凶悪犯なんだから逃げ出すかも知れないぞ」
からかうような私の言葉を聞いていられなかったのか、黙って首を振る後輩。これ以上顔を合わせられなかったのか、そのまま立ち上がり私に背を向けた。
部屋の入口の方に歩いていった後輩は扉を開ける前に足を止め、私の方を見ないままに口を開く。
「──こんな事になって、本当に辛いし、残念です。──萬廣さん、俺は、貴女のことが好きでした。愛しています」
「──そうか。私も愛していたよ、武志のこと」
それが、私と後輩の最後の会話。
3年以上もの間、貪るように互いを犯して睦言を交わす関係を維持し続けた。職場の先輩と後輩として、互いに協力して働き続けてきた。
そうやって、ずっと関係を持ち続けた殺人鬼の「千堂 萬廣」と刑事の「御堂筋 武志」の2人は、このたった1回だけ、私的な仲で名前を呼びあった。
最後に告げた「愛」が本心だったのか、後輩の心を慮ったのかはわからない。
だけど──最後の会話の本当に最後、私に背を向けた後輩を見て──全てを終わらせてしまったんだな、という思いが胸に来て。
虚しさと、悲しさと、自己嫌悪の渦巻く胸中を見たくないとでも言うかのように、私は静かに目を閉じた。
千堂 萬廣(30):人間未満。女性。殺人鬼。先輩。偽悪的な話しぶりだがキルレシオ1:5+堕胎という近現代だと最悪クラスの凶悪犯なので普通に極悪人。復讐者の側面、警官という立場の悪用、女優のような見た目、子供を殺しながら堕胎したなど碌でもない要素てんこ盛りで後世の創作に散々利用されたとか。警視庁の歴史に残る汚点。「好きになる」の原点が「彼」に対する電撃的な感情だったせいで後輩への愛に気付くのが遅れたままに事件を繰り返した。挙げ句に生殺与奪の権を後輩に握らせて罪悪感を背負わせる身勝手無責任系畜生。
御堂筋 武志(26):人間。男性。刑事。後輩。心の底から正直者で真面目。嘘が言えない、隠し事が苦手。主人公からはそう言う点でも好かれていて可愛いと思われていた。避妊はしっかりしていたが2年以上ヤり続けてた関係でもしかしたら、と胎児を見た時に思ってしまい黙って調査に出した。死体損壊は犯罪ですのでちゃんと警察に届け出しましょう。NTR以上に好きな人がもう取り返しがつかない大罪人だと知ったことで脳が破壊された。怒り以上に悲しみを覚えてしまい、そのことで周囲や遺族に申し訳ないと感じている。その清廉さを1/10でも主人公に分けて欲しい。