性奴隷と長身巨乳リョナグロ背徳性癖倒錯ふたなりが純愛に堕ちるまでの話 作:PP→KP
「……そして退院間際で逮捕され、やったことを全部吐いて。裁判も控訴しようとする弁護士を止めて一審で終わり。5人殺した私は夥しい余罪を数えるまでもなくきっちり死刑になったわけだが」
地下牢の中、逮捕前に使っていた病院のそれとは段違いの寝心地な真っ白なベッド。
その上に寝転びながら脳裏でかつての私を一通り振り返って一息ついた私は、回顧すればするほど自分という人間が嫌になってしまっていた。
我ながら本当に碌でも無い人間だった。誰が悪いのかと言えば一部の隙もなく私だった。
手前味噌ではあるが、私の能力があればもっと前向きに、もっと明るい人生を送れただろうに……と人生を終えた今なら思えるのだが、だとしても未だに「彼」に恋心を残し続けていて、そのくせ後輩との穏やかで甘い関係も忘れられない私はそんな事ができるほど器用じゃなかったのだろう。
──同じ状況になったらまた同じことをするんだろうな、と漠然と思えてしまうことが何よりも嫌だった。
「……いや、それよりもだ。彼女は結局誰なんだ?」
ベッドから体を起こして思案する。
私を犯して殺す彼女は、今振り返った30余年の歳月で私によって加害された人間であることには違いない。
直接的に殺した5人とその親類、堕ろした赤子、迷惑をかけた後輩や同僚に1人娘が殺人鬼となってしまった両親に──私が害した、私を恨む人間なら両手の指で数え切れまい。なんだったら殺した5人の交友関係を辿ればもっと多くなるだろう。
だが好かれていた、或いは性欲の対象として見られていたとなると話が変わってくる。
ここらへんは当主様との話の中でも感じていた違和感だったが、改めて振り返ってもやはり心当たりが浮かばない。
「ううん……そもそも私を犯したいと言うからには男だったんだろうか。転生するときに性別は変わることがあるのか?」
考えれば考えるほど疑問が湧き上がってくる。
かつても今も女として生まれ育った私だが、そんな私を犯したいと思うのは基本男だろう。私に情欲を抱いて、かつ殺したいと思う人間となると肉体関係を持ちつつ最終的に私に殺された東海林や柘植辺りだろうが……。
「神からの祝福を得られるのは何らかの外的要因で歪められた存在、ということを当主様は言っていたわけだが、そうなるとどちらも該当するかは微妙じゃないか……?」
東海林も柘植も確かにある種歪んだ人間ではあった。柘植は知らないが、少なくとも東海林はリストラと破局で自棄になったという点では間違いなく外的要因が絡んでいる。
だが言い方はアレだが、東海林は柘植と比べたらその歪み方は真っ当な部類だった。失恋から自棄に走った同類と見ていたであろう私に対しては性欲も見せていたが相応に人間として扱っていたし、そういう意味だと実の娘すら性欲の捌け口に使っていた柘植のほうが遥かに異常者だ。
外的要因によらず歪んだ人間であれば転生時に神から祝福が得られる、という可能性もあるが……。
「……東海林や柘植が神と対話して祝福を得られていたとするなら、私だって祝福か、そうでなくとも神と対話できてもおかしくない気がするんだがな」
外部要因で歪んだ、と言うなら私もそういう人間であったことは否定できないだろう。
勿論私の主観では碌でなしではあってもそこまで歪んでいるという認識はない。好きな人のために努力できて、好きな人の仇を討ちたくなるのは人間として当然だと本心から思っている。
だが客観的に見れば、両親の虐待に始まりストックホルム症候群で暴力を振るう誘拐犯に恋をして、その恋した犯罪者が刑務所で死んだことで裁判でしっかり証拠含めて裁かれた加害者に復讐するためだけに警察に入って身体を売って無関係な子供を含め惨殺した殺人鬼だ。
もう文字列として羅列するだけでとてもではないが真っ当な人間とは呼べまい。無駄に能力があって隠蔽しようとしている点まで含めて考えればサイコパスとしか思えないだろう(成り立ち的にはソシオパスと呼ぶべきだろうか)。柘植のことをこき下ろしたが人の事を言える立場ではない。
「殺人鬼だから歪んでいても祝福が得られなかったと言うなら、そもそも私が殺した3人は大なり小なり収監された犯罪者で……いやしかし、神が罪の軽重を計る事自体はおかしくないわけで、そうなると私は歪んでいても罪が重いから祝福しなかった可能性もある、のか?」
駄目だ、煮詰まっている。そもそも転生者とは何なのか、どういう条件で祝福の有無が決まるのかという点に関する情報が少ない。
そもそも歪んでいる、というのはどういう状況を指しているのだろうか。転生する人間が仮に前の世界の地球上の人間だとすると、例えば紛争地帯に生まれ育った人間であれば、かつての私の周りの環境とは大きく異なる……それこそ日本であれば虐待だの何だのというレベルではない生活を送る人間も多く居たことだろう。
ではその場合、彼ら彼女らの魂は歪んでいる扱いになるのか?そうだとするなら、もっともっと「転生者」に出会えてもおかしくはないんじゃないか?
「……彼女が戻ってくるまで4ヶ月。その間なら、ある程度王都に出て調べ物をすることも認めてもらえないだろうか」
普段、私は外に出ないようにと言い含められている。性奴隷で、彼女の持ち物としての立場である私は原則としてその指示に従わなくてはならなかった。
しかしこの世界において、人を隷属させる魔法の道具というものは今のところ一般的ではない。あくまで奴隷は奴隷契約に基づいて主の指示に従い、契約に反することを行えば契約に基づいて罰則を与えられるというのが通例だ。
……そういう意味では猫獣人の従者から聞いた「奴隷を殺すことは違法である」という点を元に、己の受けた責め苦の所業の記録を持って出るとこに出ればあるいは名目上は開放してもらえるかもしれない。とはいえ根本的にこの王都でも有数の貴族の後継であり昇格者でもある彼女の行いに早々口を挟める者はおらず、当主様もそれを黙認しているのだ。到底期待できる話ではないだろう。
それはともかく、その当主様自身が「私と彼女の因縁に向き合って欲しい」と言っているのだから、そのための検討材料を集めるために動くべきだろう。転生者という事情が知られているのであれば、それに関する過去の資料がありそうな──それこそ図書館などがあれば行っても良いのではないだろうか。
そう思った私は前回同様メイド長に頼み、当主様にその事を相談した。
「図書館……っていうと王立図書館のこと?良いよ、迷子にならないようにね」
あっけらかんと笑っう当主様によってその場で許可が降りた。これなら前の面会時にちゃんとそこらへんも詰めておいたほうが無駄がなかったなと思う。
「あ、でもそうだね……転生者だって言えばある程度は本の閲覧が認められるだろうけど、脳のマークが付いた書棚には近づかないことと、司書のヒトらが駄目って言ったことには従ってね?」
「はい、わかりました」
脳のマーク、というのが不穏な気もするが守っていれば問題はないだろう。
場所をメイドに教えてもらいながら、私は彼女に犯されて以降で初めて館の外に足を踏み出し、綺羅びやかな王都の道を歩き始めた。
「……ここが、王立図書館か」
立派な建物だ。私が今住んでいる館よりも更に更に大きい。ともすれば前世で学生時代に足繁く通っていた国立国会図書館よりも大きいかも知れない。
意外というかある意味当然というか、この世界は物事を図書の記録として残す文化が盛んである。古くは手書きのそれを写本家に写させ、新しいものであればタイプライターによって作成された文書を魔法技術を用いた(強い光源から生まれた影をそのまま紙に貼り付ける術式であるらしい)複写機で量産した本が市井に出回っている。
古くから存在するらしい強力な転生者が知識の共有に熱心で、記録を誰でも見れるように残すことに拘った結果である……と、その結果生まれたであろう大量の蔵書を収めるために肥大化したであろう図書館の入り口に碑文として刻まれていた。
『転生者の方ですか。転生者に対してであればある程度貸出自由となっておりますが、どのような本を所望されていますか?』
「っ……ええと、転生者とは何かを知りたいのですが」
『成程。であればこちらの書棚になります。祝福非適用、或いは非昇格者の場合は叡智の蝋印が押印されていない書棚の本のみの閲覧となりますので、ご了承ください』
そう言って、司書は私を該当する書棚へと案内した後に去っていった。
「……当主様も、見た目ぐらいは教えてくれても良かったんじゃないか?」
遠くに見える司書を見ながら、変な反応で不快にさせはしなかっただろうかと不安になる。
……図書館の司書は全員同じ種族で図書館設立に尽力した転生者の眷属であるとのことで、その見た目は非常に特徴的なものだった。なにせ人間の体の首から上が脳だけで、その頭頂から一個だけ目がひょろりと生えている見た目だったのだから。
当然口もなく会話は相手方が念話か何かで直接脳内に語りかける形となっていて、初体験とその見た目のインパクトを受けて尚大きく取り乱さなかった自分を褒めたいところだ。
それはともかく、叡智の蝋印(当主様が言う「脳のマーク」のことだ)がない書物を探しては調べ、読み終わったら書棚に戻していく。
幸いにも前の私同様に今の私は頭が良いのか理解力があるのか、大体の物は読めば直ぐに頭に入った。
昼食を食べるのも忘れて本を読みふけった結果、転生者というものについて今分かる範囲ではしっかり情報を得ることが出来た。
「転生者となるかどうかは、やはり魂の歪みとでも言うべき物があるかどうかに左右されるようだな」
頭の中の情報を反芻し独りごちる。
そもそも転生者とは言うが、この世界のヒトは全員前の世界で一定以上の知性を持った人間の魂を持って産まれてくるとのこと。あくまで記憶の引き継ぎがされているかどうか、転生者と呼称するかどうかの違いはその一点だけだ。
「記憶の引き継ぎ自体は歪んでいる魂の是正のために予め一定以上の知性を持たせるためのもので、それでも歪みが補正できない場合は神が祝福を授けてくれる、と」
祝福が歪められた魂を救うために神によって与えられるという話は詰まる所、神が魂を真っ当な状態にするために補正するために与えるということなのだそうだ。
だからまあ、余程歪められた魂──それも、自発的に歪んだのではなくその魂単体では補正しきれないぐらいに外的要因で歪められたことで祝福を得る条件足りうるということなのだろう。
となれば私が祝福を受けていない理由自体はまあ納得できる。かつての私は歪んでいたとしてもそれを押し隠して社会規範に則って行動できた。その程度の歪みであれば転生後に自然と歪みが治ると判断されたのだろう。
「……となると、彼女は自力で直せないぐらいに歪んでいた魂を持っていたということになるな。であれば東海林よりは柘植のほうが可能性はありそうだが」
そもそも前が男で今が女になることなんてあるのか、と思っていたが普通にありえるらしい。魂自体には性別というのが定まっておらず、肉体によって本能が発生して魂がそれに乗っかる形で嗜好が性に寄るとの記述があった。
余談だが、かつての世界で言うところの性同一性障害もあくまで身体的な性分化異常によって発生するため、魂が「肉体が自己認識している性別」に寄る関係上今の世界でも普通に発生しうるとのことだ。気をつけよう。
ともかく、こうなると前の世界での性別は判断材料にはならない。この世界で女として生まれ育った以上は女としての感性を身につけている可能性が高く、そうなれば前の世界の特徴なんて出ないだろう……と思ったところで、ふと疑問が浮かんだ。
「いや、そもそも彼女の態度というか振る舞いは言うほど女性らしくはない……というか──」
この世界では特に性別に応じた振る舞いをしないことで変な目で見られるということはないが、それでも親や周囲を見て育つ以上女に生まれれば大抵は女らしい振る舞いをする。にも関わらず、彼女は女らしい話し方や態度をせず、中性的な振る舞いを好んでいるのだ。周囲にあの様な中性的で格好をつけたような仕草をするヒトが居ない以上、環境で身についたものではなく意図的にそう振る舞っているはずだ。
となると単純に本人の嗜好に基づいてそういう振る舞いを好むのか、あるいは性嗜好として同性・両性愛で女性にも好かれる振る舞いを身に着けたということなのだろうが……転生者に限っては前世の記憶や経験が多少なり影響する場合もあるだろうことは想定できる。今の私自身、中学生時代に身に着けた気取ったと揶揄された言葉遣いが脳裏にまで染み込んでいるのだから間違いない。
私の知る限り、彼女は少なくとも両性愛者ではないし、女性全体が好きというわけでもない。というか、基本的に私に対してだけ執着を向け、それ以外にはそういった性的な嗜好を見せることがなかったということは既に従者から聞いていた。
だからわざわざ中性的な振る舞いを見せるのは女性に好かれたいからではないということで、つまり本人の嗜好でそういう振る舞いを好んでいるのか、或いは前世が影響しているということだ。
……なんで長々とこういう事を考えていたのかと言えば、彼女の振る舞いに覚えがあったからだ。
「──あれは、もしかしてかつての私のように振る舞っているんじゃないか?」
男性的、或いは中性的な振る舞いに切りそろえられたセミロングの艶艶した黒髪はかつての私にシルエットとして似ている。切れ長の目も長いまつげもかつての私に近いと言えるだろう……いや、人外の美としか言えない彼女の方がかつての私なんぞよりよっぽど美しいとは思うのだが。
淫魔は精神や魂によってある程度成長に変化が生まれる。彼女の成長に際してかつての私への憎愛入り交じった思いが強く影響していたのなら、かつての私同様に長身でグラマラスな見た目になることもあるかも知れない。いや背も胸も尻もかつての私より立派なのだが……見れば見るほどかつての私の上位互換である。
とにかく、あの振る舞いがかつての私を模倣している可能性はあるんじゃないかと思い始めてきたわけだ。これが赤の他人ならただの自意識過剰だが、私を憎みながらも犯したいという複雑な感情を抱いている相手だ。かつての私の模倣をして今の私を犯して殺す事に何らかの感情を得ていても不思議ではない。
「だけど、それはそれで不可解な点はある」
私は多少調査の方向性を変え、祝福──というより、神との対話をしたという転生者たち(既に死去している者に限る)の会話の記録をまとめた本を書棚から引っ張り出し、ページを開く。
そしてそのまま読み進め取り敢えず一冊分を読み終わったところで、私が先程抱いた不可解さが確信へと変わった。
「やはり──あくまで転生者と神の会話は転生者本人が知りうる情報以上の情報が神の方から提供されている様子がない。神が説明するのは祝福の内容と、祝福を授ける理由だけだ」
ぱたり、と本を閉じて考える。
本一冊分にわたり記載された「祝福を受けた転生者」の会話履歴集を見る限り、転生者は生きていたときの知識を与えられることがない。
死因などの説明を受けるがそれもあくまで本人の情報までであり、誰かに殺されたとしてもその「誰か」を本人が認識しない限りは神が「誰か」が実際に誰なのかを説明することがないようであった。
勿論この本に載っている限りの話であること、転生者から聞き取られた情報を元に作成したものであることなどから会話の正確性には疑問が残るだろう。
だがこの本だけでも他殺により転生した転生者がそれなりにはいたが、犯人を知らない場合に「誰かに殺された」という以上の説明を受けている転生者が1人も居なかったので、ある程度信憑性がある法則と見ることが出来そうだ。
(だとすれば、少なくとも東海林が私の真似を出来るわけがない。顔を合わせた時は全部作ったキャラクターで対応していたのだから、奴は素の私を知らない筈だ)
そもそも変装していたのだから「私」の見た目を模倣できるわけもない。最初の標的だった東海林とは警官としても立ち会ったことがないのだから、私の模倣は不可能なはずだ。
(柘植は……もしも娘から話を聞いていたなら知っていてもおかしくはない)
柘植とも変装して関係を保っていたが、東海林と違って最初に警官として警告に出向いたから私の姿自体は知っている筈だ。その時は敬語で話していたが柘植の娘に警官だとバレたときには素の口調で諭したから、そのことを娘から聞いていれば私を模倣することは不可能ではないだろう。
とはいえ、柘植の態度は私のことを頭と下半身の緩い女ぐらいに見ていたような素振りから終始変わることがなかった。
もし私が自分に警告に来た警官だと気づいていたなら、娘を犯していたという事実を知られたことで態度に出そうなものだが……ただ、同時にその警官を犯したということで弱みを握れたとも取れる。であればお互いボロを出さなければ今の付き合いで済ませようとなった可能性はある。
そのほか、かつての私の見目や口調を知っているとしたら──後輩や同僚、家族がまず挙がる。そして柘植の娘と三重野の息子、胎児も候補になるだろう。
後輩や同僚は言わずもがな。柘植の娘は先程の通り。そして三重野の息子は殺されるときに血を浴びても良いように全裸になった私の素顔を見ているし、生きながらに内蔵を切除していく過程で死ぬまで私が会話を続けたから、もしかつての世界の記憶があれば私の喋り方を模倣することは出来るだろう。
柘植との間の胎児については……自意識があったかは定かじゃないが、デキてから4ヶ月の間私は素の振る舞いを続けていたのだから胎教まがいに記憶できる、かも知れない。顔や髪型は……もし堕胎されたときに眼球や脳が多少でも機能していたなら可能性はある、ぐらいだろうか。
正直、胎児の成長過程や身体構造の生成についてはあまり調べてなかったので流石に自信は持てない。
(……この中で私に愛憎を抱いていそうなのは、柘植と胎児と……あとは後輩か?)
柘植、及び孕んだ胎児はともかく、後輩がああなっているのは嫌だなと思う。あんな実直で優しい後輩が実は犯して殺したいって思うようになったなんて考えたくはない。私のせいで後輩がそこまで歪んだなんて思いたくない。
なにか否定できる材料はないだろうか……と考えて気づいた。
「いや、そもそも私が死んだ時には後輩も家族も顔と名前を知っている同僚も全員生きていたな」
この世界とかつての世界は時間の流れる速度が違う。というか、この世界での5年がかつての世界の1年に相当するようなのである。これは今までの転生者の死亡時期聞き取りと転生後の年齢経過の相関から判明していた情報だった。
私が殺した5人……いや、胎児含めて6人だが、その6人は私が刑死した年の5年前、私が連続殺人を開始した時点から1年以内に全員死亡している。つまりその6人については私より先に転生していてもおかしくはないだろう。逆に言えば、それ以外の人間は私より後に死んでいる可能性が高いわけで、そうなると自然、彼女の正体の候補から外れるだろう。
その場合、私が死亡した段階で20歳~25歳、10歳の現在では30歳~35歳になるだろうか。
彼女の見目は20前後といったところだが、淫魔は性的魅力のピークまでは人間と同じでそこから老化をほぼしないままに一生を終える種族。成人するかしないかぐらいの若々しさと淫蕩な色香を両立させた彼女の見目にまで成長することは十分ありえるだろう。
(彼女の年齢を当主様か誰かに聞いておくべきだったな、これは)
私の刑死日と6人の死亡日が何年何月何日離れているかぐらいは把握しているが、そもそも時間の流れも凡そ5年が凡そ1年に該当する、というぐらいには微妙なズレがあるので死亡日からの推定は難しいだろう。
だとしても30歳~35歳の間の年齢であればその6人の内の誰かに絞れる。となると東海林、三重野は無いとして……柘植、柘植の娘、三重野の息子の3人は該当する可能性が高い。胎児は……そもそも4ヶ月で堕ろされた子供が歪む歪まないを持っているかも怪しいが、生命である以上可能性はゼロではない。
「……そろそろ戻らないと。今日はここまでになるかな」
窓の外を見れば日が落ちかけていたので、読んでいた本を閉じる。
この世界が治安が良い世界であるとは言え、それでも日本ほどではない。10かそこらの子供が夜道を1人で歩くのはまだまだ危険だろう。貴族の邸宅に勤めていて1人歩きが許されている奴隷であれば、かつての私のような誘拐の標的にされる可能性だってあるだろう。
取り敢えず今日は戻って、誰でもいいから彼女の年齢を聞くことにしようと決める。そして候補を絞った上で改めて判断することにした私は残っていた本をすべて棚に戻し、日が落ちる前にと暗くなり始めた王都の道を屋敷まで歩いていった。
「お嬢様の年齢?ええと、今年で33歳になられたわね。貴女、奴隷だったわよね。お嬢様が奴隷を迎えるってことで地下牢を改修したんだけど、あれが御当主様の誕生日プレゼントってことで工事がスタートしたのよ。だからそうね、工事が始まったタイミングが貴女が来る少し前だから、今から4か月前にお誕生日を迎えられたわ」
「なるほど……教えていただいてありがとうございます」
屋敷に戻り、使用人たちと合同で食事を取っていたときに隣席に座ったメイドから彼女の年齢を教えてもらうことが出来た。ついでに私の居住環境は誕生日プレゼントだったことがわかった。
私を買ったのもの父親である当主様にねだってお小遣いを貰ったからと聞いていたが、彼女自身軍属でこの国でも最高峰の戦士なのだから十分にお金を持っていそうなものなのだが。
「本当はお嬢様、自分で改築して自分で貴女を買うつもりだったのよ。でも当主様が『娘からやりたいことを聞かされたら黙ってられないね!!』ってね」
「……なるほど」
訂正、親ばかだったらしい。いや、父親である当主様は彼女の欲望というか隠された狂気に薄々気付いていた節があった。だから自分でも罪を背負う形にしたのだろう……多分。
ともあれ、年齢が確定したことでいよいよ彼女の正体が絞られたように思う。
候補となるのは4人。柘植、柘植の娘、三重野の息子、そしてかつての私が孕んで堕ろした柘植との間の子。後はここから更に絞り込みを掛けていきたいところだ。
「まず、恨みは大小問わず持っているだろう。堕ろした胎児だけは推測が大半だが……」
夕食後。地下牢でベッドの上に寝転びながら改めて対象者について検討していく。
全員私が殺した以上、私という存在を認識していれば神との邂逅時に私によって殺された旨は説明されているだろう。であれば恨むだろうことは当然だ。
胎児についてはそもそも自我があるのか判断に困るところではあるが……妊娠25週前後の早産であっても生存できるわけで、ギリギリ自意識があった可能性は否定できないだろう。
「魂の歪みも……まあ全員持っている可能性はあるだろうな。私が原因かは置いておいて」
少なくとも柘植父娘はどう考えても歪んでいる。私が殺したことで歪んだ可能性はあるだろうが、そうでなくても妻に逃げられてから父娘相姦を常態的に行う関係になっていたのだ。柘植自身が歪んだ理由が何処にあるかは分からない。だが少なくとも日本の倫理観を学んだ真っ当な人間が自分の年端も行かない娘を犯すなんてことは出来ないだろう。
そして柘植の娘は獄中出産で施設に預けられ、出所した母に引き取られた後に父が戻ってから母が逃げて……そして、父親に犯されるようになって、最後は多少なり親しみを見せてきた私に首を絞められて殺されたわけだ。どう考えても歪む。
三重野の息子は育った環境としてはまあ、父親が出所した後に生まれたわけで……そこまで家庭が歪んでいたわけではないとは思う。
だが7歳で私に誘拐・監禁され、何も言わないままに指を落とされ、そして最後は生きたまま私に腹を捌かれ、内蔵を引きずり出され切除されながら死んでいったのだ。たった7歳の身で生き地獄を味わったことを思えば、歪んでしまった可能性は非常に高い。
胎児だけは歪んでいるかがわからない。少なくとも前世の記憶を持つ私でも、この世界で明確に自己を認識したのは出産直後に大泣きしてからだ。胎児期に魂があるかないかで言えばあるとは思うのだが、その時期に薬物で堕胎したことで歪むような何かが発生するのかは分からない。
ただ、肉体的な虐待等の要因で魂が歪むということが起こり得る以上、薬で胎内での生育を阻害され排出されることは外的要因で正常値から大きく歪んだ成長過程の末に死んだことになる。そういう意味では魂が歪むことに繋がる可能性はあると思う……そもそも魂の歪みというのは詳細にはわからないため推測でしか無いが。
「……であれば、あとは私を愛しているかどうか、或いは犯すことに執着する理由があるかどうか、だが」
柘植は言わずもがなだ。何度も性交を重ねたし、死因も私をコンドームもなしに私を犯している最中に撲殺されたのだから。私を犯したいと思っていたのは間違いないだろう。
また、あまり考えたくはないがこれについては私の胎児も可能性が高そうな気はする。犯すことに執着する、というよりも犯すことで殺すという点に着目した場合の話だ。
胎児の魂の主観としては、生態として子を庇護する存在である母親が、殺意を持って胎の中にいた自身を薬殺したということになる。
神から祝福を受ける際に死因を説明された後にこちらの世界で適切な倫理観を学んで成長したならば、かつての母親である私に対し「子供を作ることで殺す」という歪んだ殺意を向ける可能性は無くはないと思うのだ。
そしてこの点については柘植の娘と三重野の息子は余程のことがなければ該当しなさそうではある。
2人を殺した時の私はほぼ全裸であり、二次性徴以降の男性であれば興奮することもあるかも知れない。
だが柘植の娘は二次性徴前後の年齢だとは思うが同性であり、裸の女に跨がられて首を絞められたことで興奮するとは思えない。三重野の息子は異性ではあるが7歳で二次性徴なんてまだまだだ。殺す時に目の前で服を脱いでいったけれど、そんなことで性的興奮を覚えられる年齢ではない。実際、裸になった私を見ても多少恥ずかしそうにしているぐらいで勃起することもなかったわけだし。
「まとめると一番可能性が高いのが柘植だろうか。次点で異性だった三重野の息子か、推測が大半の柘植との間の胎児になるが……」
優先候補としては間違っていない、筈だ。だがどうにもしっくり来ない。
私を殺したいと思っていたとして、犯したいと思っていたとして……やはり、柘植という男に対して犯すことで殺すことに拘る偏執的な人物像は浮かんでこない。
柘植が歪んでいたのは事実だが、その大半は私に由来しない歪み方だ。もし彼女が柘植だとしたら、その歪み方も相応に似通うものになるはずだ。
歪み方で言えば胎児のほうがそういった偏執性を抱く可能性が高そうではあるが、こちらについても推測が多くすっきりとした解決にならない。
有袋類よろしく極めて未成熟ながらも最低限の機能を備えて子宮から出産されるのであればまだ肯定しようもあるが、4ヶ月の人間の胎児がそこまで親子を認識できるのかという根本的な問題がある。
三重野の息子も柘植の娘も、正直候補として考えてはいたが難しい。殺意を向けてくる道理はどちらも十分だがやはり性的欲求が合わさるようなことはないだろう。
柘植の娘は性的暴力を受けてきた経歴があるから性行為を暴力として扱う可能性があるけれど……だとしても、それのみを私に執拗に向けてくるとは思えない。
悩めども悩めども結果が出ない。ただただモヤモヤとした思いが頭を満たしていく。
だが、少なくとも4人まで候補を絞ることが出来た。ほぼ間違いなくこの4人の中に彼女の前世が居るはずだ。
彼女が戻るまでまだ4ヶ月、取り敢えず少しずつ情報を集め、そして彼女が誰かを把握して──。
(──把握して、どうすれば良い)
ここで、ものすごい今更な事実に気づいた。
彼女の父親である当主様に向き合うように言われた。私に向けられる殺意の源泉がかつての世界の因縁だから、それを通して彼女に向き合って欲しいと。
でも、どうやって向き合うのか、向き合ったらどうなるのか──なんて、全く考えてなかった。
彼女からの暴力をなんとかしたい。せめて死に対して納得の行く理由が欲しい。そんな思いから始めた調査だった。だというのにただ漠然と事実のみを追求し、やるべきことを考えもしていなかった己の無様を自覚した私は、目眩を覚えて思わずベッドに倒れ込んでしまった。
千堂 萬廣(享年34)→私(10):人間。女。性奴隷。自分が嫌い。「彼女」の正体を探っているが心当たりが多すぎて悩んでいる。理由も知らずに殺されるのが嫌だからという思いを原動力にしているが、理由を知らせることもなく理不尽な殺人を繰り返したのは他ならぬこいつなので自業自得感がハンパじゃない。
当主(年齢不詳):淫魔。男。大貴族。みんな好き(主人公は今のところ除く)。主人公が誰だったのかは当然知る由はないため対応はかなり優しい。転生前と後に罪は持ち越されないとは理屈では知っていても流石に殺人鬼だったとしればもっと塩対応になる。
司書:
転生者:地球で死んだ人間が自意識を継続したままこの世界に生まれた者たちの総称。「神」が関わっているとまことしやかに語られているが主人公のように「神」と話すこともなく転生した者も居るのでどこまで本当かは不明。ただ「神」と対話したものは前世で何らかの強い歪みを持っていたため、一定の法則性はあると目されている。「神」との対話により「祝福」を得られたものは、その祝福を完全に受け入れることで「