キッズモデルが大人のモデルと一緒に撮影する時、相手は大概、オメガの女性だ。
中学に上がってもいないその頃、俺には、憧れの女の人がいた。初恋にしてもささやかな、言うなら近所の優しいお姉さんみたいな存在だ。恋愛の何たるかも知らなかった頃、大人になったらああいう優しい人と結婚したいな、なんて漠然と思うような人。女の子が「大人になったらパパと結婚したい」と言うのと似ている。子どもの俺たちにも優しく、美人で、気が利く。モデル業界というのは気の強い人が多いので、子ども相手に優しくしてくれるだけで好感度が高く、その人はキッズモデルにやたらと好かれていた。
例にも漏れず俺とゆうくんはセットで扱われることが多かった。その女の人はキッズモデル相手の仕事も多く、たまたまその日は三人での撮影だった。
「××さんが来ません!」
時間になってもその人は来ず、俺とゆうくんだけの写真はとうに撮り終わり、探しに行ったはずのサブカメラマンも戻ってこない。わいわい騒ぐ大人達に囲まれ、俺とゆうくんはすっかり退屈していた。
「泉さん、見て。レアアイテムが出た」
「そう。良かったねぇ」
ゆうくんのゲーム画面を見て肯定すると、ゆうくんは嬉しそうに笑って、またゲームの操作を再開する。俺はゆうくんの頭を撫でて、「ちょっと歩いてくるね」と伝えた。ゆうくんはゲームから目を離さず、「行ってらっしゃい」と言った。トイレか何かだと思ったんだろう。俺は小さな足で、建物の中の冒険を始めた。
「や……ら、め……」
「でも…………が……」
建物の中を適当に歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「だれ?」
俺の声に一瞬音が止まったが、暫くそのまま留まっていると、再び妙な音が漏れ出る。
大人達の会話のような声と、大きな物が動く音。あまり使われていないのだろう、一番古びたスタジオを覗き込むと、未成熟なアルファでも分かるほどに、そこには甘い匂いが立ちこめていた。
「え…………?」
女の人が、スカートを気にせず、大きく足を開いている。膝を割るように男の人がのしかかっていて、二人の間から途切れ途切れに悲鳴のような声が漏れていた。男の方は、女性モデルを探しに行ったはずのサブカメラマンだった。
二人は俺が覗き込んだことに気付きもしなかった。女の人が腕を大きく広げ、男のシャツの背中を掴む。
「もっと、ちょうだい……!」
もっと、もっと、と腰を振る女性が、姉のように憧れていた女性モデルだと気づき、俺は目を逸らした。バクバクとはやる心臓を抱え、そっと扉から体を離す。見てはいけないものを、見てしまった気がした。
元のスタジオに戻る。ゆうくんは相変わらずゲームをしていた。何も気付いていないゆうくんに安心して、付き添いのマネージャーに話しかける。
「トイレに行った時、――の方から声が聞こえた気がしました。気のせいかもしれないけど……」
マネージャーは俺の頭を撫でて、ゆうくんの側にいるよう言った。俺は頷いて、壁にもたれながら、ゲームに一喜一憂するゆうくんを見守った。暫くして、マネージャーと話していたスタッフが何やら戻ってきて、メインカメラマンに報告する。雑誌社の人はため息をついて首を振った。
「サブカメラマンの彼、アルファだったんですね」
「そちらこそ。オメガなのに何で首輪してないんですか。抑制剤も」
「撮影で母親役が首輪してたらおかしいでしょう。抑制剤、飲んでたはずなんですけどね。フェロモン異常か、彼と相性が良かったのか。相性がいいアルファがいたら、オメガは所構わず発情期に入るらしいですから」
「これだからオメガは。もったいないなぁ。せっかく、誰とも番ってない貴重なオメガだったのに」
「やっぱり、つがいがいたらダメですか」
「当たり前でしょう。この業界では、アルファでもオメガでも、つがいがいたら魅力半減です。特にオメガはね、いつ妊娠するかも分からないし。つがいのいるオメガに市場価値はない」
「代わりのオメガを探しましょう。カメラマンは……」
「サブのカメラマンは変える必要はない。一度つがいを作ったのだから、他のオメガには手を出さないでしょう」
マネージャーがやってきて、俺達に帰り支度をするよう言った。ゆうくんはゲームを中断されるのを嫌がったけど、俺が諭すと渋りながら手を離した。
それ以後、数多くのオメガのモデルに出会ったけど、あの女性モデルに会うことは二度となかった。
つがいのいるオメガに、市場価値はない。
*
王さまがジャッジメントを仕掛け、かさくんが勝利し、無事Knightsは五人で活動することになった。王さまが戻ってくればKnightsは安泰だ。俺はなるくんに誘われた事務所に一緒に入って、モデルの活動を再開することにした。
キッズモデルの頃に比べると、視野も広く、成長したつもりだったが、やっぱりモデル業界は醜悪だった。
「瀬名君、かっこいい~」
すり寄ってくる女はオメガ。しかも自ら「発情期だから」と言い訳してあちこちのカメラマンに枕営業している。有望そうなアルファのつがいになって養ってもらおうという魂胆が丸見え。
「ちょっとぉ、瀬名君困ってるでしょ。離れなよ」
こっちの女モデルは、自称オメガのベータだ。オメガアピールのために細くて綺麗なチョーカーをつけているけど、本物のオメガならもっとゴツい首輪をつけると、俺はもう知っている。オメガということにした方がモデルの仕事はよく取れるのは分かるけど、天然のオメガに比べればやっぱり一枚劣る。それが最近数字に表れてきたようで、彼女は焦っていた。だから突然現れた俺のことも自称アルファのベータだと思って、仲間だよ、とアピールをしてくる。
「あらぁ、泉ちゃん、モテモテねぇ~」
にやにやしながらこちらを見ているのはなるくんだ。因みにアルファ。助けろよ。
「ごめんね、ちょっとこれから予定があるから。なるくんならフリーだよ」
キラキラとアイドルスマイルを浮かべて身内を売ると、「酷いっ、泉ちゃんってば、あたしとのデートを忘れたのね」と唇を尖らせた。
「アンタとのデートじゃなくて、ユニット練習でしょ」
鼻で笑い、女の子達に「どいて」と声を掛けると、女の子達は抗議の声を上げながら別の男の子を見つけてキャーキャー騒ぎ出した。荷物をまとめて事務所を出ると、なるくんもそのままついてくる。
「……で、今日はユニット練習は無いわけだけど。なるくんはどこまで一緒に行くの?」
「駅までよぉ。駅裏の手芸屋さんがお店を畳むらしくて、閉店セール中でお買い得だから、みかちゃんと約束して一緒に行く予定なの。ほら、あの子人混みが苦手だから」
「ふぅん」
なるくんから貰った情報を聞いて、そう言えばクリスマスプレゼント、どうしようかな、と思った。
「なるくん。そこ、毛糸とかも売ってる?」
「セナ、編み物するの?」
「そう。ゆうくんに」
このスタジオはほぼKnightsの貸し切りなので、ユニット練習の時間に構うこと無く居座れる。
ハロウィンパーティが終わった後、ついでに俺の誕生日パーティーも終わってからだと、日が落ちるのも随分早くなっていた。最近導入した炬燵はくまくんと王さまに好評で、王さまが自ら進んでスタジオに足を運ぶ回数が増えて、末っ子も喜んでいた。
その日はたまたま、かさくんが家の用事で早くに帰り、くまくんも紅茶部に顔を出し、なるくんもモデルの仕事で不在だった。毛糸玉と編み棒を広げた俺を見て、炬燵で作曲していた王さまは目を丸くしたものの、俺の返答を聞いて「いいなぁ」と唇を尖らせた。
「ゆうくん、いいなぁ。おれもセナからのプレゼント欲しい」
「ワガママ言わないの。ちゃんとKnightsでクリスマス会するでしょ」
かさくんがねだったのだ。くまくんとなるくんが味方したので、俺にできるのは場所と日程と食べ物の確保だけである。
「皆と同じのじゃなくて、こう、マフラーみたいなさぁ、特別なやつ」
「ただの手編みのマフラーだよぉ?」
首を傾げると、王さまは唇を尖らせた。
「だって、マフラーって首に巻くだろ。なんかさぁ、こう、オメガの首輪、みたいじゃん……」
言ってるうちに恥ずかしくなったのか、王さまが頬を赤くして五線譜に顔を埋めた。
「あーもう! 書き直し!」
ぐちゃぐちゃと楽譜を丸めて、ゴミ箱にポイ。王さまは新しい白譜を取り出して、ペンを握り直した。
「セナ、今の忘れて! 何でもないから!」
「ゆうくんはオメガみたいに綺麗だけど、アルファだよ。マフラーが欲しいなら、買えばいいじゃん。あんた金持ちなんだし」
「セナのバカ! 鈍感! にぶちん! 別におれはマフラーなんていらないのー!」
「ふぅん」
ああもう、とぷんすかしながら楽譜に向き合う王さまの首輪は、確かに年期が入ってくたびれている。王さまが不登校になる前までは、発情期は毎回付き合っていた訳だけど、復学してからは一度も相手をしていない。不登校になる前はあんなにボロボロではなかった気がするので、海外で誰かに抱かれたのだろうか。或いは三毛縞が相手をしていたのか。王さまが復学してから二ヶ月くらいは経っているけど、その間の発情期は誰とセックスしたのだろう。頭の中で王さまの仲良しを探す。蓮巳は堅物だからないだろうし、斎宮も潔癖なので除外。なずにゃんは明らかにオメガという見た目だ。ナイトキラーズに誘っていた相手だと、鬼龍? それとも天祥院? B組には確実にアルファだろう朔間もいるし、クラスメイトのかおくんやちあくんも、色々な意味で王さまに手を出す可能性がある。遊び慣れてるかおくんは心得てるだろうけど、ほら、ちあくんなんて特に、困っている人を助けるのが趣味だから。でもやっぱり、一番疑いが濃いのは三毛縞だろうか。
俺が王さまの首をじっと見つめていると、王さまが俺の視線に気付いて首を傾げた。
「どうしたんだ? セナ」
「何でもないよ」
首を振って、視線を編み棒に戻す。白い毛糸はどのタイミングで入れるんだっけ。編み目の数を数える俺を見て、王さまは小さく呟いた。
「すきだなぁ」
王さまの言葉を、俺は眉をほんの少し震わせただけで受け流した。
だって、王さまだから。王さまは誰にでも、好きって言えるから。好きという二文字を口に出すための重みが、俺とは違うから、勘違いをしてはいけない。この王さまは、去年は発情期のたびに俺に縋り付いてきたれおくんだけど、今年はずっと他の誰かと発情期を過ごしただろうれおくんだから。別に俺はれおくんの、ただの友達だし。発情期に誰と過ごそうが関係ないし。他の誰かと旅行に行っても、他の誰かとユニットを組んでも、他の誰かとセックスをしても、全然、俺には関係ない。だって、ただの友達だから。
喉の奥がぎゅっと痛くなって、眉根を寄せる。王さまが俺を見て、目を丸くした。
「セナ、機嫌悪い?」
誰のせいだと思ってるの、まったく。
*
「今回の衣装も素晴らしいですね!」
Marvelous、と快哉を上げるかさくんと、色違いの服を手にしてご機嫌なくまくん、なるくんを見て、少し緊張しながら声を掛ける。
「ねぇ、王さまどこに行ったか知らない?」
「え? あぁ、そう言えばいないわねぇ」
「珍しいね、セッちゃん。最近は捜索係をスーちゃんにお任せしてたのに」
にやにやと笑うくまくんが、意味ありげに俺が手にした鞄を見るので「質問に答えてよ」と文句を言う。
「Leaderなら、廊下で作曲していらっしゃいますよ。衣装を汚すといけないので、ギリギリまで制服でいるそうです」
唯一質問に答えたかさくんに「ありがと」と返事を返し、廊下へと向かう。
「あ、待ってください。呼びに行くなら私が」
「スーちゃん、邪魔しちゃだめだよ」
「くまくん」
変なことをかさくんに吹き込まないの、と目で怒ると、悪友は「わかってるよ」と言いたげに肩をすくめた。
かさくんが言った通り、王さまは廊下に寝そべって作曲をしていた。
「ふんふんふ~ん。とやっ! ていっ! じゃーん! フォルテッシモ! 終わり~っ」
丁度キリがついたところらしく、緑の瞳が周囲を見回し、俺と目が合う。
「おお~っ、セナ! 時間過ぎたのか? おれまた遅刻した? あ、でもお前も制服のままだな」
「まだ時間は大丈夫だよ。ちょっと、渡したいものがあって」
「セナがおれに? 何だろ、食べ物?」
王さまは油断すると飲食を抜く。
「あんた、またご飯抜いたの」
「ん~、いや、朝ご飯は食べたぞ。だから何かな~って。その様子だと、食べ物じゃないんだな?」
「そうだねぇ。はい、これ」
袋に入ったままの状態で手渡す。王さまの横に座り、それとなく様子をうかがう。王さまは包装された箱を見て、首を傾げた。
「何だこれ、クリスマスプレゼント?」
「スタフェスの衣装の一部。王さまの分しかないけど。……俺が自腹で買ったから、個人的な贈り物ってことにしてもいいよ」
声が震えた。そう、この箱に意味なんてない。意味なんてないけど、でも、王さまのことが心配だから。
包装紙を破って出てきた箱を開き、王さまは目を輝かせた。俺の顔を見上げてきたので、俺は王さまから顔をそらした。
「セナ、これ」
「スタフェスの衣装の一部だから。あんた、欲しいって言ってたし、随分ボロボロになってたから」
「でも、これ、首輪……」
うわぁ、と王さまが箱から取り出したのは、王さまの言葉通り、白銀の首輪だ。スタフェスの衣装におあつらえ向きで、白を基調とした他のKnightsの衣装にもよく似合う。日常的にはめているオメガの首輪は、アイドルの仕事の時には外すものだけど、昔俺が目撃したような事故だって起こりうる。その点、この首輪なら衣装の一部としても違和感がない。四六時中、つけていられる。
「スタフェスの間、これつけてなよ。長丁場だし。気に入ったら、まぁ……その後も、好きにすれば?」
「うん。うん、好きにする。ありがとう、セナ」
王さまは笑った。昔よく俺に向けた、無防備な笑顔だった。嬉しくなって俺は、王さまに手を伸ばした。
「首輪、かして」
「え?」
「つけてあげる。今つけてる首輪、一旦外して。だいぶボロボロになってるから」
王さまは、うん、と頷いて、ぎこちない手つきで自分の首輪を外そうとした。その間に、俺は、鞄からウェットティッシュを取り出した。
「れおくん、外せた?」
「セナ、外して……」
「見せて。……ちょっと首が絞まるかもしれないけど、我慢してね」
ん、と鼻にかかった声を上げる王さまを、できるだけ気にしないよう心がけながら、俺はそっとボロボロの皮の首輪を王さまの首から外した。
「すーすーする……」
「家でも付けてたの?」
「一旦外すと、付け直すの忘れそうだし」
「あぁ、それは確かに」
頷いて、ウェットティッシュで王さまの首筋を拭う。
「ひゃ」
王さまが可愛い声を上げた。
「ちょっと、静かにしてよ」
「あ、うん、ごめん、セナ」
「……別にいいけど」
涙目になって見上げられると、昔の、発情期になった時のれおくんを思い出して、落ち着かない気分になる。
雑念を消すために、再び王さまの首筋を丹念にウェットティッシュで拭う。顎の下、耳の裏から鎖骨、肩の裏。オメガにとって最も守るべきうなじも無防備に晒し、王さまは俺の服に縋り付いて、小さく鳴いた。
「う、んぅ……ひんっ」
「王さま、ちょっと。変な声出さないでって言ってるじゃん」
「だって、セナが、あっ」
「…………」
「くっ、う、ぅ……」
頭の中で素数を数えるというのは、こういう時に使うんだなと思った。
これまでは、発情期にばかりれおくんの色気にやられていたので。
「はい、終わり。あんた発情期近いの? なんか匂いが強くなったけど。抑制剤、飲んでる?」
「セナのバカ……」
首輪を外したからか、ふわりと香る王さまのフェロモンに鼻を鳴らすと、王さまは、呼吸を整えて息をついた。敢えて気に留めないようにして、白銀の首輪を手に取る。
「この首輪、着脱方法がちょっと特殊だから、教えておくね」
「へ? あ、うん……」
俺が選んだ白銀の首輪は、見た目はチョーカーに近い。全体の太さが均一で、金具も全部銀色。つなぎ目が分かりにくく、力業では外れない。これまで王さまが付けていたようなベルト式じゃないから、外すには専用の鍵が必要となる。
「はい、ここ。ここに穴があるの分かる? ここにこの棒みたいな鍵を差し込むと開くの、練習してみて」
何回か練習して、完全に一人で外せるようになったのを確認すると、王さまが、「セナ、つけて」と言った。王さまの首に手を這わすと、王さまはもう変な声を上げることなく、俺が首輪を付けるのを大人しく待っていた。軽い金属音が響き、首輪が閉じる。れおくんは俺を見上げ、ちょこっと首を傾げて笑った。アイドルスマイル。
「似合う?」
「あんたに似合わないものを、俺が贈ると思ってるの?」
「だってこの首輪、セナの色じゃん」
「え……」
思わぬ返しに口ごもると、王さまは目を丸くした。
「違うのか?」
「ぐ、偶然でしょ偶然! Knightsの……スタフェスの衣装にぴったりだなと思っただけ」
「そうだな、Knightsの衣装はセナに合わせて作ってるからな~」
どこまで本気か分からないことを言い、王さまは上機嫌にハミングする。Knightsの衣装は外注が多いし、なるくん達の意見も参考にしているから、特別俺に合わせている訳ではないのだけど。
「とりあえず、この首輪の鍵は二本しかないから。少なくとも一本は、家に大事に仕舞っておきなよ」
どうしても外せない時は説明書を読んで、と包装紙の中から説明書を取りだし、外した首輪を箱の中に仕舞っていると、王さまは「セナ」と俺の名前を呼んだ。
「なに?」
「はい。これ、セナにあげる。プレゼントのお礼」
「これって……」
二本しかない、と言ったばかりの首輪の鍵、そのうちの一本だ。
「一本は家に保管するにしても、もう一本は持ち運べってことだろ? でもおれ、スマホも財布もよく無くすし、絶対これも無くすじゃん。だから、セナが持っててよ」
「……一応、俺もアルファなんだけど」
アルファがオメガのうなじを噛むと、二度と解消できない番いになる。番いになると、オメガの魅力もアルファのリーダーシップも半減すると言われる。それらは、互いの番いを求めるための能力だからだ。夫婦よりも強固で離れようのない関係。だからアイドルは首輪をする。誰とも番いにならないように、己の魅力が失われないように。
「セナなら、おれの首輪、外してもいいよ」
とん、と目の前のオメガは自分の首輪を指さして笑った。
俺はため息をついた。
「バカ言ってないで、スタフェスの準備しないと」
「セナ」
れおくんは、立ち上がろうとした俺の腕を引っ張って、低い声で言った。
「おれ、今日辺り、発情期来る気がする」
俺は一瞬動きを止めて、王さまを見た。
「付き合ってよ、昔みたいに」
「抑制剤は」
「効かないんだよ」
セナが相手だと。
俺は首を振って、都合のいいことばかり言う王さまの手を払った。
「セナ」
咎めるような王さまの声に、俺は小さな声で答えた。
「分かった。今晩、スタフェスが無事に終わったらね」
*
スタフェスは、無事に終わった。終わらせた。
Valkyrieのごたごたも無事片付いてユニット衣装から制服になったとたん、れおくんはさっさと姿を消した。
「Leaderはどこへ行かれたのでしょう」
「熱があったから保健室に行かせたよ」
れおくんの姿を探すかさくんに言うと、かさくんは「でも、」と口ごもった。かさくんがベータだとも思えないので、発情期の匂いを感じ取って、それを俺達に言うかどうか迷っているんだろう。
「大丈夫、こっちはあんたより二年も付き合いが長いんだから」
分かってる、と肩を叩くと、かさくんはどこか不安そうに頷いて引き下がった。
「スーちゃん、こっちこっち」
「凜月先輩」
「じゃ、三人とも、戸締まりよろしく」
何やらひそひそ話しているくまくんとかさくん、それをにこやかに見守るなるくんを横目に、れおくんの分も鞄をまとめて持ち、スタジオから出る。扉を閉めて保健室に向かって歩き出すと、『えぇっ!?』と末っ子の叫び声が聞こえた。一体何を吹き込んでいるんだか。
保健室に行くと、白衣の佐賀美先生が煙草を加えて雑誌を読んでいた。俺が入室すると扉の音に顔を上げて、「おぉ、やっと来たか」と煙草を灰皿に押しつけた。
「王さまの荷物、持ってきました」
「うん。ご家族へは連絡したけど、お前は入る?」
佐賀美先生は保健室の奥の扉を指さした。備品室、と書かれたそこは、実質オメガのための隔離部屋だ。外から鍵がかかるようになっていて、発情期のオメガが籠城することができる。何でアルファの俺が知ってるのかって、何回かお世話になったことがあるからだ。れおくんの発情のタイミングは、特に二年の後半は不定期だったから。
俺は佐賀美先生を見た。
「発情期のオメガにアルファを引き合わせてもいいんですか」
「つってもなぁ。月永、お前にベタ惚れじゃん」
佐賀美先生の言葉に、カッと頬が熱くなる。先生から目を逸らし、備品室の扉を見た。
「気の迷いですよ。夢ノ咲にいる今だけです」
「……いや、お前それマジで言ってんの?」
「先生だって分かってるでしょう。れおくんは天才だから」
れおくんのお日さまのような笑顔、きらきらと輝く緑の瞳、女の子のような可愛い容姿に世界に通じる作曲の才能。きっとどんなアルファにとっても魅力的だろう。今は夢ノ咲にいるからたまたま俺が相手をしているだけだ。
「そんな顔するなら、噛んじゃえばいいじゃん」
佐賀美先生はにやにやと笑った。「いいねぇ青春だねぇ」と呟く様子から、完全に傍観者のつもりでいるんだろう。
この人も芸能人だったなら、芸能界がつがい持ちのオメガをどう扱うか分かってるだろうに。
「あ、備品室の袋の中に精力剤入れておいたから。必要なら飲んでいいぞ~」
「学校になんてものを持ち込んでるんですか先生」
「いやぁこの間大量買いしたら、あきやんにバレちゃって」
「先生たち、本当に仲が良いですよね」
佐賀美先生から備品室の鍵を受け取り、中に入る。狭い部屋の中、壁に接したベッドの上に布団の塊があった。後ろ手に鍵を閉め、二人分の鞄を落とす。すん、と香りを嗅いでれおくんの香りであることを確認すると、下半身がうずいた。制服のジャケットとベストを脱ぎ、ネクタイを首から外す。ワイシャツとベルトを床に放り、下着ごとズボンを下げてさっさと裸になってしまう。床には既に、れおくんのぐちゃぐちゃになった制服やパーカーが落ちていた。ベッドに近づき、布団まんじゅうの側に体重をかけると、学校の備品のベッドが安っぽい音を立てた。
「……王さま、お待たせ」
布団の塊に声を掛けると、もぞり、と塊から頭が出た。
「セナ」
れおくんは俺を確認すると、飛びつくように俺に抱きついた。布団まんじゅうはただの布団の塊に戻り、俺はベッドの上に押し倒された。
「遅い」
「ごめんね」
どれだけ急いでも、れおくんの希望には間に合わないのだと経験上知っていた。俺に抱きついてきたれおくんを抱きしめ返し、肩口に頬を寄せる。れおくんの香りが一層強くなった。
「セナ、キスしよ」
れおくんが唇を寄せてくる。れおくんの首の後ろに手を当てて、引き寄せると、れおくんは舌を出して俺の唇を舐めた。
「セナぁ」
れおくんの不満そうな声に口を開くと、熱い舌が俺の口内に入ってくる。舌を絡めて答えると、れおくんは俺の体を挟むように大きく膝を開いた。れおくんの下半身に手を伸ばす。
「れおくん、濡れてる」
「セナも、勃ってる。……ね、挿れていい?」
軽く頷くと、れおくんは体を起こした。ベッドに横たわった俺の体に手をついて、膝を立てる。俺の性器に手を当てて嬉しそうに目を細め、自分の秘所に手を伸ばした。れおくんの性器は緩く立ち上がって、既に自分の精液で濡れていた。俺が来るまでずっと弄っていたのだろう。れおくんは、自分で自分の尻を割り、俺の先端の位置を確認した。
「一人でできる?」
「ん、でき、る」
言葉通りに、れおくんは俺の上で、そっと腰を落とした。一番敏感な部分がれおくんの中に入り、濡れた感触に声が出る。俺が咄嗟に手の甲を口に当てて、声を抑えると、れおくんは荒い息を吐きながら唇をつり上げた。
「セナ、きもちい?」
「ん。れおくん、大丈夫?」
「おれは、発情期だから」
発情期だから、何をされても気持ちいいなんて、そんな訳ないのだけど。
「ぜんぶ、はいった」
れおくんが嬉しそうに笑ったので、きっと同じ気持ちなんだと錯覚しそうになる。
「入ったね」
れおくんの中は熱くて柔らかくて締まりがいい。れおくんが息をするたびに伸縮して形を変えるので、油断すると持って行かれそうになる。れおくんが息を整える間、俺も呼吸を整えて熱を逃がす。挿れただけで達していては、発情期のオメガの相手はとても務まらない。
「セナ、動くね」
「うん」
れおくんが、俺の体越しにベッドに体重を預ける。れおくんのフェロモンが鼻孔をくすぐり、吐き出した息を肌に感じた。
騎乗位から始まるのが、れおくんの普段通りの発情期だ。発情期のオメガの性欲はアルファより強い。俺がれおくんを満足させるより、れおくん主体で動く方が、れおくんが好きなタイミングでイける。うっかり俺が動くとれおくんが泣くので、俺はできるだけ余計な動きを控えていた。俺がれおくんの体を好きにできるのは発情期の後半、れおくんの腰が立たなくなって、俺におねだりをするようになってからだ。
だからこの後は、れおくんが好きに動いて、俺のものでぐちゃぐちゃに乱れるのを見守るだけ、のはずなのに。
今回は久々だからか、れおくんの様子がおかしい。
「セナ、きもち、い?」
れおくんが、俺の上で息を吐いた。れおくんの腰が上下するたび、中が締まる。
「う、ん」
吐息で答える。気持ちいい、と素直に言うのは気が引ける。俺にもアルファとしてのプライドがあるのだ。何をしたいの、とれおくんを見上げると、彼は目を細めた。
「ふふ」
れおくんが笑って、また、腰を動かす。俺のものを挿れるタイミングで中を締め、抜くタイミングで緩める。おかしい。れおくんは前はひたすら、自分の好きな所に俺のものを当てるだけだった。発情期に翻弄されて、自分を失うのが怖くて、助けて、と俺に縋っていた可愛いオメガはどこに行ったのだろう。
また、れおくんの中が締まった。ごり、とれおくんの好きな所に俺のものが当たったが、れおくんは一瞬息を詰めて腰を揺らしただけで、動きを再開した。は、と息を吐く。
「あは、ね、セナ。きもちいい? ちゃんとセナ、おれで気持ちよくなってる?」
発情期に呑まれて泣き叫んでいたオメガはどこへ行ったのだろう。れおくんは理性を残した瞳で、俺を見て、腰を動かした。髪を解いたれおくんは、華奢な体も相まって隠微な女の人みたいだ。
れおくんが笑う。
「セナ、おっきくなった」
「そりゃ、そうでしょ……」
「気持ちいい?」
れおくんの問いの意図が分からず、眉をひそめる。
「何考えてるの、あんた」
「セナに気持ちよくなって欲しくて」
んう、とれおくんがまた、声を詰まらせる。それでも、腰を動かしながら中を締めることは辞めない。
「前は、おればっかり気持ちよくなってたから」
「あんたの発情期なんだから、あんたが気持ちよくならなきゃダメでしょ」
れおくんの男根に手を伸ばす。気付かないうちに硬く立ち上がったそこを、手のひらで包み込み、上下に撫でると、れおくんは悲鳴にも似た嬌声を上げた。
「セナ、待って」
「待たない」
れおくんのそこから精液が出るのと同時に、れおくんの体がのけぞり、中も締まる。息を止めて俺まで同時にイくのを堪えると、一瞬の後にれおくんの体が重くのしかかって来た。ぼろり、とれおくんの目から涙が零れる。また泣かせてしまったかな、と一瞬ひやりとしたけど、涙は一粒零れただけだった。びくびくと震えるれおくんが落ち着くまで、俺はれおくんの下敷きになって彼の体温を感じていた。れおくんは、ぐす、と鼻をすすると、悔しそうな声を上げた。
「……セナを気持ちよくしたかったのに」
「充分気持ちいいよ」
これは本音だ。未だれおくんの中に収まったままの俺のモノは、しっかり勃っている。
だが俺の答えではれおくんは満足しなかったようだ。そうじゃなくて、と俺の胸に頬を当てたまま、首を横に振った。
「セナ」
「なに?」
「おれとセックスするの、好き?」
「好きというか、発情期なんでしょう?」
「だめだ、伝わってない……」
がっくりと肩を落とすれおくんに首を傾げる。今の訊き方はまるで、れおくんがセックスするのが好きみたいだ。でも、れおくんは昔のトラウマのせいで誰かに押し倒されるのは苦手だから騎乗位が好きなんだし、発情期に正体を無くすのもすごく嫌がってたし、いつだったか俺以外とはセックスしたくないとも言ってたし、きっと俺の聞き間違いだろう。いや、海外で心境の変化があったのかもしれない。
本当に、海外でどんな経験をしてきたんだろう。
「れおくんさ」
「なに?」
俺の体の上で脱力していたれおくんが、僅かに首を動かす。俺はれおくんの髪に指を通した。さらさらしていて気持ちがいい。俺は癖っ毛だから、れおくんのストレートの髪がうらやましい。
「誰とセックスしたの?」
「は?」
ぴくり、とれおくんの体に力が入る。れおくんがベッドに手をついて上体を起こすのを、俺は冷めた目で見た。
「だって、セックスのやり方変えたでしょ」
「ちょっと待って、セナ、おれ浮気してないから」
「別に俺達付き合ってないし、誰とヤッてもいいんだけどさ」
腰を突き上げる。未だに下は繋がっているので、れおくんはまた「ひゃっ」と声を上げて俺の上に被さってきた。れおくんの中がまた締まるけど、これはれおくんの体が勝手に反応しているやつだ。れおくんの好きな所はこの辺りだったな、と検討をつけて何度か突き上げて中に精を放つと、れおくんは声にならない声を上げて俺の体に爪を立てた。可愛い。年明けの仕事までに、痕が消えるといいけど。
「れおくん」
れおくんの腰を腕で引き寄せて、繋がりを解く。それにすら感じてしまうようで、れおくんは赤い顔で、ピクピクと腰を震わせた。
「ぁ、せな、ちが、ごめ、」
「ね、れおくん。別に誰とセックスしてもいいんだけどさぁ、誰とでもセックスしたらダメだからね? 人前に顔出す立場なんだし、変な病気とか貰うかもしれないでしょぉ?」
つぅ、と腰を指でなぞると、れおくんは目から大粒の涙を流した。また泣かせてしまった。
「れおくん、聞いてる?」
「ほんと、ちがう、から。せなだけ、だれにもいれられてない」
「そう……」
れおくんは涙に潤んだ瞳で、俺を見た。ちがうよ、と言葉を重ねるれおくんを見てると、本当に何もなかったのかな、と少し心が動く。
「ん、ちょっとなめられたくらいで、ほんとに」
「ちょっと待て」
前言撤回。
「舐められた、って何? どこを? 誰に?」
「セナ、怖い……」
「いやだってそれ、え? あんたが自分から『舐めて』って言ったわけ?」
「だから浮気してないって。セナぁ、仲直りのキスしよう?」
「いやキスはするけど仲直りはまだ……ねぇ話終わってないんだけど」
雰囲気が180度変わったのを察したのか、それとも久しぶりのセックスで体力を使ったのか、れおくんはベッドの上に横たわると俺の胸に頬をすり寄せた。このまま寝落ちする体勢だ。キスしよう、という言葉通りに寄ってきた唇を避けて追求を続ける。
「ねぇれおくん? どこ舐められたの? 言わないと怒るよ?」
「ちんこ」
「はあぁ!? 何で!」
れおくんは眠そうな顔をしていたが、俺の全て言うまで眠らせない意志を感じたのか、心底面倒くさそうな顔をした。
「いやだからさ、打合せ~って指定された会議室に発情期のオメガの女の子が一人で待ってたことがあったんだよ」
「は?」
「セナ、美人局って分かる?」
「バカにしないでよ、って待ってそれつまり」
「おれをアルファだと思ってたんだろうなぁ。その子を襲わせて、うちの商品傷物にしやがって~って難癖付けたかったんだろ。目当ては金銭かおれの曲か。ほら、浮気じゃないだろ?」
終わった話だ、と笑うれおくんを、思い切り抱きしめる。
「なんで……」
なんで、オメガが酷い目に遭う話を、笑顔で話せるのだろう。
そういうことをする事務所は、きっと、れおくん以外にも同じ手口を使っている。そのオメガの発情期が、れおくんの打合せの日にたまたま重なる訳がない。発情促進剤を使って、有力者に抱かれることを使命にした女の子。モデル業界で似たことをしているオメガは沢山見たし、俺は今更慣れっこだけど、でも、れおくんは。
「発情期だから、精液呑ませればマシになるかと思ったんだけど。やっぱりアルファじゃないと効き目が薄いみたいで……」
腕に力を込めると、れおくんが話すのをやめた。腕を軽く叩かれる。
「セナ、キスしよう」
腕を緩めて、れおくんの顔を見る。れおくんは俺を見て、目尻を下げた。
「お前がそういう顔するから、話したくなかったんだけどな」
俺は今、どういう顔をしているんだろう。ここには鏡がないから、見ることができない。俺は目を閉じて、れおくんに唇を近づけた。触れるだけの、仲直りのキス。
「れおくん」
「なに? セナ」
「他には、何かあった?」
「ないよ。それ以降、みけじママが神経尖らせてたし。その女の子も、ママが相手を見つけて幸せになれたって」
「そう」
俺はれおくんの肌に手を這わせた。れおくんはくすぐったそうに身をよじった。
「なに、セナ、続きしたいの?」
「続きっていうか」
れおくんの下半身に手を伸ばす。
「セナ、どうしたの?」
無邪気に首を傾げるれおくんの頬に、触れるだけのキスをして、笑う。
「れおくん、女の子にフェラされたんだ?」
「えっ」
れおくんの男根を捉え、軽くしごく。身を屈めるようにれおくんの下半身に顔を近づけると、れおくんが焦った声を出した。
「えっちょっと待ってセナ? セナさん何なの本当セナぁ!?」
「ちょっとぉ、動くと噛みそうだから静かにしてよ」
れおくんの一物に唇を当てると、れおくんが動きを止めた。何だかんだ硬さを取り戻したそこを手で支えながら、側面にキスを送る。先端を唇で挟み、口の中に納めながられおくんを見上げると、れおくんは可哀想なほど真っ赤になって、口を半分開いてぷるぷる震えていた。
「ひもちいい?」
「い、けど、なんで、セナ」
口の中かられおくんのモノを一旦抜き、自分の唇を軽く舐める。苦い。
「さぁ、どうしてだろうねぇ。俺もわかんない」
頬にれおくんのモノを当て、れおくんの顔を見上げてにっこり笑うと、腰がビクリと跳ねた。可愛い。
再び先端にキスをする。唇を当てたまま、れおくんの様子をうかがう。
「セナ、はなして」
「イきたい?」
「イきたい、出ちゃうからぁ」
「いいよ」
口の中にれおくんのものを入れ、軽く吸う。れおくんはあっけなく体を震わせ、達した。俺はれおくんの出した精液を飲んで言った。
「不味い」
「あ、当たり前だろ! うわっ」
抗議の声を上げたれおくんの腰をひっくり返す。べろり、と柔らかな尻を舐めると、れおくんはまた高い声を上げた。
「一応聞くけど、こっちは誰にも舐められてないよね?」
「ない、舐められてないから、セナ!」
「ならよし」
両手でれおくんのお尻を割る。間に舌を伸ばすと、れおくんは「ひゃあ」と声を上げた。
「や、だめだって、セナ」
「でも勃ってるじゃん」
さっき達したばかりなのに硬さを取り戻した一物を示すと、「だって」と言い訳が飛んでくる。
「だって、セナがぁ」
「俺が何て?」
笑いながられおくんの秘所の入り口を舐める。そこは、つい先刻、俺がれおくんの中に出した精液を、とろとろと零していた。「やぁ、」れおくんの声が上がる。
「やだ、それ、せな、」
「どうして欲しいの?」
「なか、いれてぇ」
「仰せのままに」
舌をれおくんの中に入れる。ぐるり、と掻き回すように舐めるが、舌だといつもと感覚が違うので、れおくんの好きな場所がなかなか見つからない。
「や、せな、そっちじゃなくてぇ」
れおくんが俺の名前を呼んだので、返事をするために舌を抜く。
「なぁに? ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよぉ?」
「せなの、……いれてぇ」
「何をどこに、入れて欲しいの?」
「っ、いじわる! っあ、」
れおくんの腰を指で撫でながら、俺は喉の奥で笑った。背中に音を立てながら唇を落とし、痕が付かない程度に吸い付く。れおくんは甘い声を上げながら体を震わせて、シーツに爪を立てた。覆い被さるように俺のモノをれおくんの腰に当てると、また震える。
「れおくん、可愛い」
「あ、せな、はやくぅ」
ぐずぐずに濡れた声に笑いながら、れおくんの手に自分の手を重ねる。肩甲骨の間に唇を落とすと、首輪が鼻に当たった。
「せな」
「挿れるね」
「――ぁぁぁあああっ」
れおくんの背筋がピンと伸び、四肢がびくびくと震えた。俺の頭にガツンと金属音が響き、口の中に冷たい温度が広がる。
「あぁ、あ……」
れおくんの体から力が抜けて、俺ごとベッドの上に倒れ込む。俺は意識して顎に力を入れて、口を開いた。体を離して身を起こす。俺のモノをれおくんの中から抜く時、また少しれおくんの体が跳ねた。
「あぁ、もう」
完全に落ちてしまったれおくんの体を見て、ため息を零す。
「またやっちゃった」
白銀の首輪には、くっきりと俺の歯形がついてしまった。