「(なんでこんなことに……)」
阿慈谷ヒフミは己の不運を嘆いていた。
推しのアニメのキャラクター“ペロロ”のグッズが取引されていると言うブラックマーケットにやってきてチンピラに拉致されそうになることに始まり──。
「監視カメラの位置はこことここ。
警報装置のスイッチはこのカウンターの下にあるから注意」
「じゃあフラッシュバンを投擲と同時に突入、私とホシノ先輩が銀行員を威嚇。
シロコ先輩とノノミ先輩はお客の制圧をすべきかしら」
「その前に裏にある配電盤からブレーカーを落とすべきかもねぇ~」
自分を助けてくれたアビドスの面々に銀行強盗の片棒を担がれそうにされていた。
ヒフミはこの場で唯一これを止められそうな大人──先生に縋るような視線を向ける。
ただ、彼も頭が痛そうな素振りで顔を横に振っていた。
こちらをモニターしているというアヤネも同様であった。
「なるほど、なるべく素性が分からなくなるように武器もその辺のスーパーやコンビニから調達して、自分たちのは後で回収するべきかもしれません」
「はは、ノノミ先輩、いつもの得物じゃないと物足りないんじゃないんですか?」
「たくさん撃てる方がいいですから♪」
「うへ、小銃の撃ち方忘れたなんて言わないでよぉ」
「千発撃てば一発は不良品がありますから、万が一の為に一通り扱えるようにしてるの知ってるでしょう?
出来ない、なんて言ったら教官に折檻されちゃいますって」
「ゴム弾、うッ、頭が……」
四人は和気藹々と銀行を襲う算段を付けている。
「“状況を整理しよう”」
「……はいぃ」
『カイザーローンの現金輸送者を追ってブラックマーケットに来たら、この場所の犯罪を司る闇銀行のひとつにその銀行員が入っていきました。
私達は証拠を得る為に、現金輸送車の走行ルートの書類が必要になりました。
その結果、銀行強盗を行うと言う結論に至ったのです』
「“要約ありがとう”」
先生とアヤネは現実逃避を終えた。
ヒフミも一緒に遠くを見た。
「コードネームも決めよう」
「じゃあ、私はクリスティーナにしましょう。
先生は、メフィストフェレスになんてどうです? この間ゲーテを読んだんですよ!!」
「じゃあヒフミはファウスト。決定」
「え、じゃあ私はヘレナで!!」
「それじゃあ私がグレートヒェンにしようかな」
「ん、私はマルガレーテで」
現実は変わらなかった。
ヒフミは覆面代わりに手渡された紙袋を見下ろした。
「ナギサ様ごめんなさい、授業抜け出してきてごめんなさい……」
「さあ、計画はばっちりだし、準備をしに行くよ!!」
ヒフミ涙目になりながら、シロコに引っ張られるまま、古着屋に連れ込まれた。
§§§
同時刻、ブラックマーケットの闇銀合の窓口の控室。
「おかえり、ふあぁ」
カヨコは欠伸をしながらメタメタに銀行員に言い負かされて戻って来た社長を出迎えた。
「うう、どうして、カイザーとの取引実績もあるのに。
師匠に資金繰りを任されたって言うのに、このままじゃ怒られる……」
「やっぱり地道に営業でもして、依頼を獲得した方が良かったんじゃないの?」
「それは!! ……でも私の目指すハードボイルドは事務所で椅子に座りながら電話で依頼を受けて……」
「もう終わった? ならそろそろ行こうよ」
カヨコにまでたじたじになっているアルの様子を見て、とっくに飽きていたムツキが横で舟をこいでいるハルカを揺すった。
「やっぱりアップルマンさんの言う通り、ゲヘナと関係修復してあっちからも依頼を受けられるようにした方がいいのかな」
「それはそうだけど、今更戻って頭を下げるみたいで……」
「ハードボイルドの起源と言われるに作品に登場する私立探偵も、古巣の警察組織とかと上手くやってるものなんだけどね」
「う、ぐぐ、フィリップ・マーロウね」
男はアル達に助言した。
さっさと古巣と和解して、正式な部活として認めて貰え、と。
「(や、やっぱり、社員たちを食べさせるためにも、ここは社長である私が頭を下げるしか……)」
アルは自分の中で悲壮な決意を固めようとしていたが。
「私ははんたーい。風紀委員の奴らに頭下げるなんてゴメンだよ~」
「あ、アル様は悪くありません!!
悪いのはいつも風紀委員の連中で!!」
「……蒸し返しておいてなんだけど、やっぱり私も個人的にあいつらと顔を合わせるのはゴメンかな」
しかし、社員たちはその案に総スカンだった。
ちなみに男が提案した時もそうだった。
「そ、そうよね!! ハードボイルドは孤高なのよ!!
古巣と慣れ合うなんて、冗談じゃないわよね!!」
その馴れ合いの極みみたいなのがこの便利屋という組織だったが、ムツキは面白いからカヨコは面倒だから口にはしなかった。
「おい、いつまでくっちゃべってるんだ、用が終わったらさっさと帰れ!!」
すると、銀行の警備員から銃を突き付けられた。
「はあ、みんな帰ろう」
「そ、そうね」
便利屋たちが銀行を後にしようとした、その時であった。
銀行の自動扉が開き、缶のようなものが複数投げ入れられた。
直後、閃光と爆音が鳴り響いた。
「フラッシュグレネード!!」
カヨコの叫びは、耳を一時的に潰された皆には聞こえなかった。
すぐに銃を持った覆面の集団が押し入って来る。
銀行強盗だ!!
あっという間に警備員が制圧され、強盗犯は銀行員に銃を突き付ける。
すぐに聴覚が回復し、犯人たちの手際の良さが明らかになる。
銀行員は大慌てで犯人の要求に従い、お金をバッグに詰めた。
そして目的を達すると、嵐のように去って行った。
「覆面、水着団!!」
カヨコは、アルの目が輝いているのを見て、ああ、とどこか諦念を覚えた。
「追うわよ、皆!!」
「はい、アル様ッ!!」
「おっけー☆」
カヨコも三人に付き合うほか無かった。
しかし、本当の嵐はこの後に来たことを、彼女達便利屋も、覆面水着団も知らなかった。
『こちらオオカミ。ようやくパンが焼けた。午後三時だ』
「了解、わらの家を吹き飛ばす。タイミングを指示してくれ」
『こちら赤ずきん。狩人が離れた。繰り返す、狩人が離れた』
『こちらオオカミ、了解。おばあちゃんの家の前に合流せよ』
「こちら子豚、レンガの家の位置を送る。……赤ずきんと共にお留守番と合流した」
「こちらお留守番、兄弟がどこに隠れたか、データを送る」
『了解……羊飼いは嘘を吐いた』
男は高いビルから、双眼鏡で携帯端末を片手に銀行を見下ろしていた。
「狼が来た」
男の端末に、銀行の職員がマーキングされたマップが送られてきた。
「狼が来た」
銀行の入り口から、銀行の警備員が多数出撃していった。
それを見た男は、言った。
「狼が来た」
「おい、お前も行け、奴らを逃がすな!!」
強盗にコケにされ、怒る銀行員が何もせず突っ立っている警備員に怒鳴りつけた。
しかし、反応は無い。
「ちッ、所詮チンピラか」
ここの警備員は安い金でチンピラを雇っている。
今日もヘルメット団のどこかが警備に付いていたのだが。
怒鳴られた警備員は、ゆっくりとヘルメットを外した。
そして銀行員のオートマタは気づいた。
不良だと思っていた女子生徒が、知らない誰かだったと言うことに。
「おまッ、だれ」
ダンダンダン!!
両肩、右足に発砲され、銀行員はショートしながら倒れた。
何が起こったのか分からないといった表情の他の銀行員にも、少女は発砲して無力化した。
直後、三人の少女が銃器を構え突入してきた。
三人の特徴は、口を覆う黒いマスクに牙を剥く狼の口が描かれていたと言うことだった。
銀行員を無力化した少女も、彼女らと同じマスクをポケットから取り出し、口を覆った。
四人になった少女は、示し合わせることなく合流した。
少女は言った。
「Wolf小隊、ゴー!!」
直後、少女は銀行の奥に続くドアを蹴破った。
『こちら赤ずきん、
「こちらオオカミ。
『こちらお留守番、お家の
『こちら子豚、三か所に火の息の準備完了。オオカミさんのタイミングで起爆します』
「了解、……あらおばあちゃん、なんて大きなお耳なの」
『こちら赤ずきん、レンガの家を発見。回収しました。
脱出を開始します』
「あらおばあちゃん、なんて大きなお目めなの」
『トリコちゃん、金庫室にもC4を仕掛けようよ!!』
『ウズ、任務に集中しろ』
「あらおばあちゃん、なんて大きなお手てなの」
『悪人ども、死ね!!』
『ナバト、やり過ぎだ止めろ!!』
『でもムツニ!!』
『撤退だ!! 命令に従え!!』
「でもおばあちゃん、なんて気味の悪い大きなお口だこと」
『Wolf小隊、総員撤退完了』
「それはね」
男は、やれやれと肩を竦め、携帯に語り掛けた。
「──お前を食べるためさ」
ドン、ドン、ドン!!!
銀行から爆音が連続して発生し、大きな煙が立ち上った。
『証拠隠滅完了。
我らの存在も、何をしたのかも、誰も証明できません』
「了解、俺達の家に帰るぞ」
『オーケー、ボス。車を回します』
「ああ、頼む。それとお前達」
電話越しにでも、彼女らが緊張したのが男にはわかった。
「お前たちがなぜ特殊部隊に成れないのか、よくわかった」
『無様を晒し、申し訳ございません』
『ウズ!! お前が余計なことしたからトリコ姉さんが怒られたぞ!!』
『毒ガス弾を使おうとしたお前が言うの!?』
『お前達、止めろ、恥を上塗りをするのか!!』
騒がしいな、と男は近くの自販機のメニューを見ながらそう思った。
『……お願いです、捨てないでください』
『私達、Foxの先輩たちみたいにぺたんこじゃないから……』
ごッ、と電話の奥で鈍い音が聞こえた。
「安心しろ。俺達は死ぬときは一緒だ」
『……』
ビルの屋上から降りると、男の目の前に車が停車した。
「これが、
男は作戦の成果が後部座席に積まれているのを見て、ニヤリと笑った。
それは、銀行の帳簿などを管理するスタンドアローンのパソコンのハードディスクだった。
「ウズ、中のデータを引き抜いておけ」
「……了解、ボス」
「トリコ、隣に座れ。ナバトが運転を代われ」
「は、はい!!」
男は後部座席の真ん中にドカッと座り、少女を二人左右に侍らせた。
「くそ、エロ親父め。トリコ姉さん……」
ウズと呼ばれた少女は助手席へ追いやられ、バックミラーで行われるセクハラに歯噛みしていた。
「ウズ、オオカミの群れは一夫一妻制。
夫の寵愛を得られるのは妻だけ。それ以外は夫婦の子供たち。
あなたもボスにもっと愛されたいなら──」
「姉さん、私はそこのエロ親父なんて何とも思ってません!!」
「この間はあんなによがってたくせに」
男がイヤらしく笑うと、彼女はそっぽを向いてノートパソコンを開きハードディスクにコードを繋げた。
「本当にお金は奪わなくて良かったんですか?
当初の予定では、必要だったのでは?」
「ああ、それなら必要無くなった」
少女の問いに、男は答えた。
「まあどうせ犯罪に使われるカネだし、吹っ飛ばしても良かったな!!」
「ほら、姉さん!! やっぱり私が言った通りじゃない!!」
ウズが振り返ると、少女に睨まれてすごすごと作業に戻った。
「先輩たち、どうしているかなぁ」
少女の脳裏には、かつて憧れた学園で最も優秀と謳われた先輩たちの姿が過る。
「安心しろ、俺がお前たちを無様な落ちこぼれから脱却させてやる。
俺とお前たちは一心同体。お前たちは俺の手足であり、心臓となのだ」
その言葉に、少女は思い返す。
まだSRTの訓練に耐えきれなかった惨めさを抱えてひっそりと生きていた頃に現れた、この男のことを。
『お前たち、この俺の銃で好きなところを撃て。
俺が信用できないなら、頭を。だが右腕を撃てば、お前たちは俺の右腕になってもらう。足を撃てば、お前たちは俺の足として働いてもらう。
さあ、好きなところを撃て』
少女は、心臓を選んだ。
銃弾を抜き、空砲で男の心臓を撃った。
『……良いだろう、今日からお前たちは俺の心臓だ。
俺の血肉として、もう一人の俺として働いてもらおうか』
そして、男は言った。
『その上で、家族のように、愛してやろう』
少女は男の腕を抱え、廃基地までの道のりを眠って過ごした。
実はWolf小隊の四人はそこそこ設定を作りこんでいるのですが、掘り下げが有った方がいいですかね?
まあそれは今後で良いですかね。将来的に兎小隊とかと関わる為の設定ですし。
あと、匿名設定を解除しました。
普段はオリジナルのシリーズを投稿してます。よろしくお願いいたします。
ではまた!!