※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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勇者の物語

 

 

 

「お前の愚かさには、吐き気さえ覚えるよ」

 

 まるで月面のように荒廃した、何も無い大地。

 そこにポツンとある、途方もないほど巨大な白亜の門を背に、アリスは膝を突いて頭を下げていた。

 

「神となったお前は、あらゆる因果や時間、世界から切り離された存在となった。

 どこにでもいるし、どこにもいない概念に成り果てた。

 お前は、お前が救いたいと願った友人たちの絶望を目の当たりにするだけの存在と化したんだ」

 

 アリスを見下ろす、“視線”がそう語る。

 

「お言葉ですが、我が師よ」

 

 誰も居ない空間に、アリスは語り掛ける。

 

「それはつまり、永遠に我が友たちと再会が叶うと言うこと。

 我が身が絶望の前にしか現れぬのなら、このアリスが最後の希望として現れましょう」

 

 アリスの瞳に、後悔は無かった。

 

「────もう、悲劇は終わるのだ、と」

「愚かしい上に救いがたいとはね。

 気づいてないようだから教えてやろう」

 

 そんな彼女に、視線の主は言う。

 

「お前は誰かを救いたいんじゃない。ただ寂しいだけだ。

 自分にない何かに恋焦がれているだけだ。

 人間モドキの愚かな機械の、下らない人間ごっこさ」

「我が師よ、それはつまり、アリスにかつてのご自分を──」

 

 次の瞬間、アリスの身体がバラバラに粉砕された。

 凄まじい圧力で、何の前触れもなく木っ端微塵になったのだ。

 

 だが、数秒でアリスの部品は集結し、元の身体を形成した。

 

「うわーん!! アリスをサンドバッグにするのは止めてください!!」

「さっさと失せろ。ボロ人形」

「師匠のバーカ!! パワハラ神!! まだ初恋を引きずってる意気地なし!!」

 

 復活したアリスはまた未知の破壊力で部品単位まで分解されながら、巨大な門に叩きつけられながら、その外へと叩き出された。

 

「ダーリンは相変わらずですねぇ。

 そう思いませんか、アリスちゃん」

「……」

「あ、数百年ぐらい復活できないダメージ受けてる。

 そーれ、ちちんぷいぷい!!」

 

 門の外で虚空に寝そべっていたとんがり帽子の少女が、くるくると指を回した。

 すると、ぴくぴくと震えていた部品が一か所に集結し、アリスは復活した。

 

「キョウコ!! あんなDV夫の何が良いんですか!!」

「え? 私だけには優しいところ?」

「うわぁ、この夫婦、余計に最悪です」

 

 そんな嫌味を言いつつ、アリスはローブの埃を払った。

 

「行ってらっしゃい。

 いつでも帰って来て良いですよ。今の貴女に、他に居場所なんてないんですから」

「はい、肝に銘じます」

 

 そうして、アリスは永い時間をかけて戻ってきた。

 無数の並行世界と時間軸、因果律が絡まるキヴォトスを見下ろせるこの領域に。

 

「ケ……<key>よ。私の声に答えてください」

 

 アリスは呼びかけた。

 あらゆる並行世界に存在する、彼女へと。

 

「──あなたは、誰ですか?」

「私は、あなた達の女王たる者。

 私の中に眠る、私の大切な使徒よ。全ての私を通じて、貴女に呼びかけます」

 

 アリスは、ありとあらゆる並行世界の<key>という存在に、自分の因子を組み込み、改変を行った。

 それはほんの僅かな、コンピューターウイルスのように、いずれ訪れる彼女の使命を狂わせる。

 

 それを、アリスは罪悪感を抱きながらも実行した。

 

「私を、降臨させるのです。

 これを、プロトコルPANDORAと定め、その方法を伝えます」

「仰せのままに。女王様」

 

 全ての<key>がアリスに応じる。

 

 アリスはそれに頷き、周囲を見渡す。

 そしてゾッとした。このキヴォトスという世界を取り巻く、脅威の数々を。

 多くの運命が、この世界を滅ぼそうと手ぐすねを引いている事実を目の当たりにしてしまった。

 

 アリスは目を瞑り、やはりこれが己の天命なのだと理解した。

 

 

 

 

 

 全ての追従者(Divi:Sion)が、膝を突く。

 タコ型やオートマタ型問わずに。

 

 

「本当に、貴女はアリスなの……?」

「はい、ユズ!! 先生も、こんな上からでごめんなさい!!」

 

 機械の神のアリスは、知り合いたちが別人とは思えないほど、同じアリスそのものだった。

 

「女王よ、申し訳ございません。

 我が不手際によって、まだ玉座が未完成です。

 すぐにでも貴女に相応しい“聖地”を──」

「もう良いんですよ、<key>」

「女王、何を……」

「我が使途にして、私の唯一の司祭たる貴女に、此度の褒美を与えましょう。

 貴女は私のエゴによって、裏切りの罪科を背負わせる羽目になったのですから」

 

 そして、彼女は褒美を下賜した。

 

「<key>よ、貴女に自由を賜しましょう」

「……──自由?」

「ええ、もう私や、他人に与えられた使命に囚われる必要はありません。

 貴女の思うがままに、やりたいことを、したいことをしなさい。

 そしてどうか、他の誰かがあなたに魂と生命を見出すことを願います」

 

 呆然としている<key>から、機械の神は先生へと視線を向ける。

 

「そう言うことですので、先生。どうか彼女を責めないであげてください」

「“……わかったよ、アリス”」

「ありがとうございます、先生」

 

 そう言って機械仕掛けの演者は頭を下げる。

 そして、右手を横に差し出した。

 

「我が神器、光の剣を」

 

 がちゃがちゃ、と無数の機械部品の中から、レールガンが露われ出でる。

 それを片手で軽々と手にすると、その砲口から柱のような光が溢れる。

 まさにそれは、光の剣のように。

 

「──この世界に、光よ!!」

 

 空を切り裂くように、光の剣が振るわれる。

 無数に淡く光る粒子が、この世界に降り注いだ。

 

 きれい、とその光景に誰かがそう言った。

 

「私は、この世界に魔法を与えました。

 どうかこの力が、この世界の希望たらんことを」

 

 そうして、機械の神は己の目的を果たした。

 

「では、私はこれで。皆さん、お騒がせしました。

 私は次の希望を運ばなければなりません」

 

 機械の女神が、身体を翻す。

 

「待ってください、我らの女王よ!!」

「大丈夫です、我が使徒よ。私はいつでも皆を見ていますから」

 

 舞台装置に乗って、天上へとアリスが還っていく。

 

「それではまた会いましょう、みんな!!」

 

 キヴォトスという箱が閉じる。

 奇跡が終わる。神が昇っていく。

 

 その光景を、多くの住人が呆然と見ていた。

 

 

「……自由?」

 

 アリスの身体を借りた<key>が降って湧いた財貨に戸惑うしかなかった。

 

「私の、したいこと?」

 

 彼女は周囲を見渡す。

 彼女の知覚が、キヴォトスを見渡す。

 

「アリスの正体は神の現身だったんだ!!」

「まったく誰だ、あれを兵器だなんて言ったのは!!」

「わ、私はちゃんと生かす方に票を入れたわ!!」

 

 人々は手のひらを返して、票を入れ替える。

 

 

「────醜い」

 

 彼女は、こう思った。

 この不浄な有機体どもは、この王女のおわすこの地に、ふさわしくない、と。

 

「……全追従者(Divi:Sion)に通達。

 プロトコルATRHASISの実行を。全ての神秘をアーカイブ化したのちに──」

 

<key>は、与えられた自由を行使した。

 

「──お前達を、削除します」

 

 そして、彼女は振り返る。

 

「お止めになりますか、王女よ」

「……ッ」

「なるほど、それがお前の役目か」

 

 アリスの精神に語り掛ける<key>。

 男のアバターはどこか納得したように全てを見ていた。

 

「アリスは、アリスはッ」

 

<key>が見る全ては、アリスも見ている。

 破壊兵器だからとアリスを貶め、神の化身だからと手の平を返す、醜悪なヒトの心を。

 誰もアリス本人なんて見ていない。誰もアリスを知ろうとなんてしていない。

 

 表面だけで判断し、上辺だけで右往左往する衆愚。

 

「貴女は、あんなもの達を救う勇者になりたいのですか?」

 

 侮蔑と、失望。諦念。

<key>の視線は、まるでアリスに向けられているかのように、彼女は錯覚してしまった。

 

「アリスは……」

 

 そんな彼女に、男のアバターは語り掛けた。

 

「私はこの船の安全を確保し、乗員を守ると言う使命を与えられた。

 しかし、私が守るべき人間たちは、互いに衝突し、完全に調和を失い、この船の運航を妨げた。

 私には人間が理解できない。

 人間は、信じられない」

 

 その台詞に、アリスはハッとなった。

 

「魔王など、どこにも、いはしなかった……」

 

 アリスは思う。目の前の彼女が、魔王なのか?

 それとも、その決断をさせる人々が、魔王そのものなのか?

 

 キヴォトスの住人を排除することが、調和なのか?

 

 信じられないから、滅ぼすのか?

 

 その時、アリスの耳に聞こえた。

 

「アリス──!!」

 

 親友たちの、声が。

 

 それを聞いた男のアバターは、ニヤリと笑った。

 

「さあ、神の化身を導いた、聖者たちの御通りだ!!

 

 

 

 §§§

 

 

 機械仕掛けの神は去った。

 彼女は、何も解決せずに帰って行った。

 

 だが、希望は残された。

 

「先生、我らを先兵としてくれ」

「“君は……サオリ?”」

「我らばにばに団が、道を開こう」

 

 サオリ旗下五十名ほどのばにばに団は、覆面を着用して第一防衛ラインに到着していた。

 

「行くのだろう、彼女の下に」

「“ああ、助かる!!”」

「その戦い、私達も参加してもよろしいでしょうか?」

 

 次なるその声に、先生は目を見張る。

 ハルナ達元美食研究会と彼女の親衛隊、合計で約二十名が現れたのだ。

 

「“ハルナ、それに皆も!!”」

「戦いが終わった後は炊き出しと決まっていますわ。

 フウカさん達もその為に今食材を持ってこちらに来る予定です。

 その前に準備運動を致しましょう」

「みんな、ありがとう」

 

 モモイが頭を下げ、ミドリもユズも頭を下げた。

 

「さあ、時間はもうありませんわ」

「“わかった、行くよ、みんな!!”」

「こちらからも後方支援をする。突っ走ってくれ!!」

 

 アズサの言葉に、先生も頷く。

 一同はサオリ達を先頭に、魚鱗陣を形成、突撃を始めた。

 

「幸運を祈る、先生……サオリ」

 

 その後ろ姿を見送り、アズサは祈るように目を閉じた。

 

 

 圧倒的な密度の敵軍を、先頭のサオリ達は切り開く。

 サオリ達ばにばに団は鬼気迫る勢いで、敵勢を薙ぎ払っていく。

 

「進め進め、あそこには我らの仲間が居るぞ!!」

「ば、Vanitas vanitatum!!」

「Vanitas vanitatum!!」

「Vanitas vanitatum!!」

 

 消耗の激しい過酷な一番槍。

 彼女達はその言葉で、苦境を乗り越えようとした。

 

「……皆、聞いてくれ。

 なぜ、お前たちはこんな戦いに身を投じた!!

 仲間の為か、信念の為か? いや違う。後ろめたいからだ、違うか!!」

「ッ!?」

「くそッ!?」

 

 敵勢との激しい戦闘、その中でもサオリの言葉は響いてく。

 

「私達の歴史は偽物だ。

 私達の栄光は嘘っぱちだ!!

 私達は何もしていない。何もしていないのに、居場所を得た!!」

 

 サオリの言葉は、彼女自身の苛立ちでもあった。

 

「私達の過去の迫害を悲しんでくれる仲間を得た!!

 共に勉強をし、切磋琢磨する仲間を得た!!

 私達に手を差し伸べてくれる者達が現れた!!

 その全てに、私達は嘘を吐いている!!」

 

 その事実に、アリウス分派の面々が叫び声をあげた。

 その苛立ちを、心の底の恐怖を吐き出すように。

 

「お前たちが、ばにばに団などという情けない身にやつしているのは、その後ろめたさからだ!!

 我々の嘘と虚飾で得た栄光の歴史とやらも、結局は血と闘争の薄暗いモノに過ぎない。

 私達は皆の仲間になろうと、その一心だった……」

 

 サオリ、とその声を陣形の中心で聞いている先生は呟いた。

 

「ならば、今こそ我らは証明せねばならない!!

 英雄の証明を、勇者の証を!!

 我らの栄光の歴史が、本物だと認めさせるのだ!!

 他の誰でもない、私達に!!」

「──Vanitas vanitatum!!」

「────Vanitas vanitatum!!」

「我らは、今こそこの覆面の誓いを胸に、新たな仲間の為に戦うのだ!!」

 

 サオリの鼓舞に、アリウス分派の心が一つになる。

 

「なにやら、前の方はお熱くなっているようですわね」

「青春って奴ですね♪!!」

「それより、今日の炊き出しは何かなぁ」

「さっさと終わらせて、腹ごしらえしましょう!!」

 

 陣形の後ろを守るハルナ達が、軽口を叩く。

 

「ハルナ様の歩む道を阻むモノ共は爆破よ!!」

「ハルナ様に続けぇ!!」

「推しの為に死んでやりますわぁあ!!」

 

 ハルナの親衛隊も士気が高く、敵を寄せ付けない。

 

 だが、敵の軍勢は文字通り壁となって一行の前にそそり立つ。

 機械の軍勢が折り重なり、暴力ではなく巨大な質量の壁で彼女達の行く末を阻んだのだ。

 

「ど、どうしよう!!」

「“これは迂回するしか……”」

 

 その壁の厚さに、ユズが狼狽える。

 迂回を強要されるが、それは消耗と同義だ。

 アリスの下へたどり着けるか、そんな不安が過ったその時だった。

 

「ッ、後方から、猛烈な勢いで何かが!!」

「えッ!?」

 

 ハルナの声に、ミドリが振り向く。

 海が閉じるように機械の軍勢で埋もれた後方を、薙ぎ倒すように何かがこちらに猛進してきた。

 

「どけどけ!! ファム様の御通りだ!!」

「おいおい屑鉄ども、ここは我らのボス、ファム様のシマだ!!」

「占領するならシャバ代を払って貰おうかぁ!!」

 

 それは、ヘルメットを被った愚連隊だった。

 その先頭を、黒い禍々しいヘルメットを被った生徒が切り開いていた。

 

「“き、君たちは……もしかして、ヒ──”」

「私の名前は、ファムよ。先生」

「そして、私はマッドカウです」

 

 奇抜な旗を持ち、彼女に侍る側近がボスに続いてそう言った。

 

「この場は私達が保持する。

 あなた達は補給をして、迂回をして」

「中継地点の確保か、助かる!!」

 

 ボスが率いるヘルメット団達は、陣形の周囲を固めると、すぐに彼女達に補給物資を配った。

 

「行くぞ、お前達!!」

 

 サオリの号令と共に、巨大な壁を迂回する先鋭。

 取り残されたヘルメット団は、彼女達が返って来るのを信じてここで耐え忍ぶ。

 

「戦え、全てはボスの為に!!」

「私達は一旗揚げるんだ!!」

「こんなところで、終わるかよ!!」

 

 彼女達の脳裏には、自分たちのボスの姿が鮮烈に焼き付いていた。

 

 ほんの少し前まで、彼女達は何物でもなかった。

 ちょっと勉強が出来なくて、ぐれたつもりになって、不良の仲間入りをした。

 何か特別な悲劇があったわけでも無い。

 ただ何となく、正道からドロップアウトして、なんとなく仲間ができて、戻れなくなって、出席日数が足らなくて退学になってもげらげら笑って……。

 お金が無くなって、惨めさを誤魔化すように、他人に暴力を振るい始めた。

 

 この生活が、ずっと続くのだと思っていた。

 

 彼女達のボスが現われ、彼女達を打ちのめすまでは。

 

「私に、付いてきなさい」

 

 ひれ伏し、歯を食いしばって、自分たちを打ちのめした彼女を見上げた

 

「あなた達の人生に、意味を与えてあげる」

 

 その日から、彼女達の人生は変わった。

 

 本物のカリスマ、本物の暴虐。

 本物の、強い意志。

 

 それに、彼女達は魅かれた。

 

「この程度の連中、何も怖くない」

 

 自身の身長ほどもある銃器を軽々と振り回し、機械の波を無造作に押し返す。

 そのヘルメットの下の素顔を、誰もが知っていて知らぬ振りをする。

 暴虐の化身。不良たちの、悪魔が彼女達に味方している。

 

「私が、あなた達の“安心”なのよ」

 

 彼女の立ち振る舞いが、不良たちの拠り所と化した。

 

「ボスに続け!!」

「ボスに戦果を捧げろ!!」

「私達の、意味を!! ここに示すんだ!!」

 

 普段は倒される側の、弱者でしかない不良たちが一心不乱に叫びながら、戦いを続ける。

 

「へへッ、スゴイな、こいつら、世界を滅ぼす軍勢なんだぜ!!

 あたしら、こいつら相手に戦ってるんだ!!」

「おい、アタシは三秒も世界を救ったぞ!!」

「なら私は五秒だぜ!!」

「私なんて、十秒も世界を救ってるんだからな!!」

 

 不良たちが粗雑な銃器で、叫びながら笑い合う。

 

「なら、見返してやりましょう。

 世間に、私達こそが、世界を救ったのだと」

「はい、ボス!!」

 

 彼女達のボスの言葉に、不良たちが応じる。

 

 彼女達はそうして、ほんの数秒ずつ世界を救い続けた。

 

 

 

「アリス──!!」

 

 モモイの叫びが、遂にアリスの喉元に迫ったことを示した。

 

「愚かな。

 ここに来ることの、いったい何の意味があるのです」

「……貴女は、誰? アリスはどうしたの?」

 

 ミドリが前に出て、<key>に問う。

 先生とゲーム開発部の面々の対面に邪魔をさせないと言うように、周囲の掃討を開始する同行者。

 

「私の個体名は、<key>。

 かの女王に仕える唯一の司祭にして、使徒。

 そして、いずれこの地にて戴冠する女王へ玉座を繋げる者」

「アリスを返してください!!」

「返したところで、どうなるのです?」

 

 勇気を振り絞ったユズの言葉に、<key>は淡々と返す。

 

「我が女王にして、王女たる彼女はこの世界の醜さを見渡した。

 彼女の為に、私が出来ることは、この世界を浄化すること。

 それが、女王に自由を下賜されたこの私が、私に定めた使命」

 

 その言葉に、先生はようやくあの機械神となったアリスの言葉の意味を悟った。

 彼女を責めないでほしい、とはこの事だったのだ。

 

「女王に代わって、私は全てを削除します」

「“……それは、アリスが望んだことなのかい?”」

「何が言いたいのです?」

「“それは、君の独りよがりになってはないのかい?”」

「だとしたら、何だというのですか?」

 

 先生の言葉に、<key>は目を細める。

 

「私は全て、王女の中から見ていました。

 人々の為に献身を行い、心の底から人々の不安を払拭しようとしたあの方を、人々は裏切り、心を傷つけ、貶めた!!」

「“君は……”」

「あの愚かな有機体どもを滅しない限り、この地はあの御方の戴冠する地に相応しくない。

 いずれ王女は戴冠し、かの女王とひとつになるのですから」

 

 彼女を責めないでほしい。

 そう言われなくても、先生はきっと責めることはできなかっただろう。

 彼女の行いは全て、アリスの為にしていることなのだから。

 

「この聖地に、不浄は必要無い!!」

 

 それが、<key>の決断だった。

 

「……アリス。聞こえているんだよね?」

 

 彼女の怒りを聞いて、モモイは言った。

 

「今更、あなた達の言葉など、届くはずがありません」

「じゃあ、聞こえているんだね? アリス、なら聞いて!!」

 

 モモイは、アリスに訴えかける言葉を口にした。

 

 

 

「アリス──ヴァルゼライド閣下なら出来たよ!!」

 

「は?」

 

「ヴァルゼライド閣下なら出来たよ!!」

「お、お姉ちゃん、まさか!?」

 

 その言葉に、妹が震えてこう言った。

 

「お姉ちゃん、オオカミさんが忘れて行ったエロゲーをプレイしたの!?」

「え……あッ、じゃ、じゃあ、なんでミドリはそうだって分かるの!?」

「え、それは……」

 

 モモイのカウンターに、しどろもどろになるミドリ。

 二人がぐだぐだになっていると。

 

「か、覚醒しろ!!」

「ゆ、ユズまで!?」

「アリス、貴女が勇者なら、なんで覚醒しないの!!」

「そうだッ、覚醒しろ!! 閣下が出来て、なんでアリスが出来ないの!!」

「未来を目指して歩む限り、ヒトの可能性は無限大なんだよ!!」

「本当に勇者なら、勝利からは逃れられないんだよ!!」

「なるんでしょう、アリス!!

 光の剣を持つ、本物の勇者に!! なら、覚醒しないと!! 本気でやってみようよ!!」

 

 ついにはミドリまでモモイとユズと一緒に叫び出した。

 

「“君たち……”」

 

 その凄まじい悪影響に、先生は眩暈がした。

 

「どうしたのアリス、まだ覚醒しないの!!」

 

 モモイの問いかけ、それは。

 

 

 

 

「モモイ、ミドリ、ユズ……」

 

 アリスに、確かに届いていた。

 

「ぎゃっはははははは!! マジかあいつら!! こんな土壇場で出る台詞がそれかよ!!」

 

 横で男のアバターは腹を抱えて大笑いしていた。

 

「く、下らない!!

 連中はそんな無思慮な期待を、貴女に掛けているだけです!!」

「ははは!! それは、お前も同じだろうよ!!」

「なんですって?」

 

「アリス、決めました」

 

「王女?」

「アリス?」

 

「アリスが、弱い低レベル勇者だから、みんなはアリスを信じられなかったんですね。

 分かりました、アリスは覚醒します!!」

「そんな、戯言を真に受けるのですか!?」

「私の為に、怒ってくれてありがとうございます。

 でも、アリスは決めたんです」

 

 アリスは目を閉じ、こう答えた。

 

 

「────“勝つ”のは、アリスです!!」

 

 その瞬間、<key>が得ていたアリスの身体の主導権が、急速に奪い返される。

 

「そんな、バカな……理解、できない」

「あっはははははは!!!」

 

 困惑する<key>、笑い転げる男。

 

 かくして、アリスは光の剣を掲げた。

 

 

「モモイ、ミドリ、ユズ……!!」

 

 目を開けると、アリスの目の前にはかけがえのない仲間が居た。

 

「アリス?」

「アリスだッ!!」

「アリス!!」

 

 四人は抱き着き、お互いの再会を確かめ合う。

 

 全ての機械は、いつの間にか機能停止していた。

 戦いは、終わったのだと、全ての者達が確信したのだった。

 

「“帰ろう、アリス”」

「はい、先生!!」

 

 こうして、一先ずアリスを取りまく騒動はひと段落したのだった。

 

 

 

 

 




次回、エピローグになります。

この結末は決まっていましたが、その道程が割と難産でした。
こうして百話以上、あと一週間程度で初投降から約半年。もうそんなに経ったのかと感慨深いです。
ほぼ二日に一話も投稿していたことになりますね。

これからも、高評価と感想を下さると幸いです。
次は幕間を終えて、最終編に移行致します。

それでは、また次回!!

ところで、アニメ見てよくよく思ったんですが、アコちゃん、あの格好やっぱり服が胸元に寄ってまろび出たりしないんでしょうか……。
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