なんとかエピローグ、書き終えたので投稿します。
「この度の騒動は、非常に興味深い出来事でした」
じゃん、と黒服が盃を並べる。
「あの機械神がこのキヴォトスに何を齎したのか?
今、その核心に我々ほど迫れたものは居ないでしょうね」
「“どういうことだい?”」
先生は盃を取り、捨てる。
同じテーブルには三人の怪人が卓を囲っていた。
「数々の神性と神秘が秘されるこのキヴォトスでも、自らを昇華させ、改変を行った存在は稀有ということです。
私の所有していたキヴォトスの古代の資料の幾つかが、私の記憶と差異が生じていました。
つまり、あの神は過去を、設定を改変したのです」
先生の次の手番のデカルコマニーが盃を拾う。
「そうですね。
あの機械の少女は己の「記号」を自ら改造して見せた。
俗な言い方をするならば、魔改造と呼ぶにふさわしいのでしょう」
「そう言うこった!!」
「デウスエクスマキナ……本来、それは舞台装置の事であり、演じるのは生身の
機械仕掛けの神という言葉が先行し、近年では機械の神そのものとして表現されることも多い。
この演劇の技法は、あるひとつの“お約束”として確立されました。
曰く、当時の流行では物語の結末ではなく、登場人物の感情の揺らぎ、つまり悲哀や滑稽さを楽しむことを重視され、娯楽として消費されるものだったのです。
まるで、今回の騒動そのものではありませんか?」
ゴルゴンダは今回の騒動は、神が降臨した事実よりも、その道程にある登場人物たちの感情に意味があるのではないかと説いた。
「個人的に、デウスエクスマキナという手法は好ましくないが、面白いことにその舞台装置の仕組みそのものは後世では評価された。
故に黒服は結果を、ゴルゴンダは過程を、ならば私は手法に注目しよう。
彼女の至った結末。あれもまた、『崇高』の一つなのだろう」
マエストロは盃を取り、そのまま捨てた。
「あの少女は、何を齎し、何を変えたのか?」
くくく、と黒服が笑う。
先生を試すような、そんな笑みだ。
「“……アリスは、魔法を齎したんだよ”」
先生は、一つの書類を示した。
それを見て、怪人たちは身体を震わした。
「この感覚は、未知の画材を目の当たりにした高揚感に似ている」
と、マエストロが言った。
「新しい文学に行き当たったような感動、そう表現すべきでしょうか」
と、ゴルゴンダは応じた。
「個人的には、このようなことが何度も起こっては探求者としてたまったものではありませんが」
と、黒服は苦笑する。
その資料は、連邦生徒会の要請だった。
ほぼすべての学校が加入しているはずの連邦生徒会に、新たに参加したいという学校の名前が載っていた。
要請とは、先生にその学校に視察を願い出る内容だった。
「“アリスは、自分の魔法を見つけたんだ”」
その学園の名前は、“ダイナ魔法学院”。
その名前こそが、何よりもアリスが関わっていることを如実に示していた。
「なるほど、不思議の国のアリスですか。
確か、主人公のアリスの飼い猫の名前が、ダイナ」
ゴルゴンダはすぐにその意味を察した。
「“記録によると数百年の沈黙を破り、彼女達は連邦生徒会に連絡を入れたそうだよ”」
「なるほど、なるほど。現実を歪めるのではなく、過去から既に存在していたことにした。そう言うことか!!」
マエストロは神の権能、その結果にご満悦だった。
「やはり、飽きない。この神秘の坩堝は!!」
黒服が笑い声をあげる。
怪人達が楽しそうにしているのを、先生は冷めた目で見ていた。
「“こうなった以上、彼女達も私の生徒だよ”」
「ええ、ええ!! 先生は思うままになさってください。
私はそれを観察するだけでいいのですから」
「無論、邪魔も、助力もしまい」
「どうか、新たな文脈を期待していますよ、先生」
怪人達に釘を刺すも、そのような返答が返って来て先生は溜息を吐いた。
「さあ、そろそろこの勝負を終わらせましょうか。ロン」
「むッ」
「そう来たか」
「“ま、待った!!”」
「くくく、そうはいきませんよ、先生」
四人の麻雀は夜遅くまで続いた。
§§§
「結局、私達の奮闘は徒労に終わりましたね」
リンゴは会議室で、今回の騒動の主だった面々と通信していた。
大型モニターにはリオや先生の顔が映っている。
「デウスエクスマキナとはよく言ったモノだね。
かの存在は、こんがらがった人間関係や状況を、これで終わり、と幕を引く存在。
アリスを巡る騒動も、全てが終わってしまった」
やれやれ、と会議に参加していたウタハは嘆いた。
本物の神の前の存在感に、自分たちの矮小さと言ったらとでも言いたげだった。
「アリスちゃんをどうこうするなんて投票も無意味に……神の化身を批評するだなんて烏滸がましいという声が多数寄せられ、そうなりました」
ハナコがそんな風に報告をした。
『結局、リオとヒマリの見立ては間違っていたことになるな。
アリスは神の化身であり、今ではミレニアムの生徒ですらなくなった』
『あんなもの、どうしろというんです……。
この天才美少女ハッカーでさえ、現実をハッキングなんて出来ませんよ』
スワンプマンの嫌味に、ヒマリがモニターに割って入ってそうぼやいた。
『アリスのレールガンは神器となり、それを開発したエンジニア部に同型を量産してくれと連絡が殺到してるわ』
「いやぁ、嬉しい悲鳴とはこの事だね!!」
『笑い事ではないわ。あんな玩具でもミレニアムの最新技術の塊よ。しかも実験機扱いだからミレニアム内で許されているけど、正式に武器として登録すれば連邦生徒会の規定する兵器の威力に思いっきり抵触するわ』
もう笑うしかないというウタハの態度に、リオは色々なものを押し殺した物言いでそう言った。
「そうなったら、ガワだけのレプリカを売ろう。
偶像崇拝のとはそう言うものだろう?」
『“レールガンの模型か。私も注文しても良いかな?”』
「先生、真面目な話よ」
ヒナに諫められ、ゴメン、と先生は額を掻いた。
『“結局、アリスの扱いはどうなるんだい?”』
『正式に編入試験を受けて貰う形になるでしょうね。
なあなあで不正入学の前例を作ってはいけないもの。
ゲーム開発部とヴェリタスの不正入学の件も、不問と言う形にするしかないでしょう』
両者はアリスを導いたとして、それを罰することは世間が許さないだろう。
それは、アリスが破壊兵器だとしてそれを持ち込んだ責任を問うのと真逆のことである。
これを滑稽と言わず、なんとするのだろう。
『同時に、私に対する追及の声も多いわ』
「リオさん……」
それを何でもないように言うリオの態度を、ヒフミは痛ましそうにしていた。
『当然ね、私の解釈は間違っていた。
神の化身を滅ぼそうだなんて、思い上がりで人々を扇動した。
その責任は取らねばならないでしょう』
『“それは結果論だよ。私が同じ立場のだったかもしれない”』
『だけど、世間は許さないわ』
『そうやって、逃げれば済む話だと思っているのでしたら、心底救えない汚物じみた精神性ですね』
先生はリオを庇い、ヒマリは毒を吐く。
それでも、リオは己の進退を既に決めているようだった。
『何とでも言いなさい。
誰かが生贄になる必要がある。それがアリスでも、私でも、そこに私情を交えた方が嘘になる』
『“リオ……”』
リオの公平性と責任に、先生は何も言えなくなっていると。
「……ねえ、コハルちゃん。千年難題ってどんなのがあるの?」
「えッ、急にどうしたのよ」
「ちょっと印刷してみてくれない?」
「今それ必要なの?」
「お願い」
リンゴに頼まれて、コハルはポーンマスに千年難題についての資料を備え付きプリンターで印刷して、持ってきた。
「はい、これがどうしたの?」
「ありがとうございます。
ふむふむ、なるほど」
資料を受け取ると、リンゴはぺらりぺらりとそれを捲った。
「ミレニアムの皆さんはこんな簡単な問題に真剣になっているんですか?」
『それは、どういう意味かしら?』
「私の回答を教えてあげます」
リンゴは、その資料を真ん中から破いて引き裂いた。
「たしか懸賞金とかも出てるんでしたよね、私大金持ちになるんですかね?」
『あなた、ふざけてるの?』
「あはは!! リオさん。貴女にそれを言う資格はありませんよ」
リンゴはリオを睨みつけた。
「今から何日かで千年難題を解決しないと世界が滅ぶ!!
答えが分からないから問題そのものを破壊する。アリスちゃんを救う方法でなんとかしようとしなかった貴女に、私を非難する資格なんてない!!」
『ッ』
「仮に今私が言ったことが現実になっても、貴女は自分一人で抱え込んでそれで終わりだったでしょう!?
貴女は破壊と暴力で問題を終わらせようとした!!
自ら科学者としての尊厳と、学園の理念に背いたんですよ!!
ええ、辞めたければ辞めればいいじゃないですか。でもそれは責任云々だなんて綺麗ごとではなく、自らの科学者としての誇りを捨て去った浅ましさ故にだと認めろ!!
貴女は自分の愛した学園に後ろ砂を掛けて、唾を吐いたんだ!!」
『そ、そこまで言う必要は無いと思いますが……』
突然キレたリンゴの苛烈な物言いに、ヒマリさえもドン引きしていた。
当然、会議室に集まった面々も、先生も、絶句していた。
『……そうね。あなたの言う通りだわ』
リオの両眼から、涙がこぼれていた。
十秒近い沈黙が訪れた。
『先生、ちょっといいですか?』
その時、先生の画面にアリスが映りこんだ。
『リオ、貴女の行いは、学園の為、みんなの為だった。そうですね?』
『ええ……きっとそうだった、その筈だった』
『なら教えてください。そのみんなの為とは、具体的に誰の為だったのですか?』
『……え?』
アリスの質問に、リオは固まった。
『ユウカ達セミナーの皆の為だったのですか?
それとも、個人的な友人の為だったのですか?
アリスは、それに答えられない勇者にはならない、そう思ったんです』
『……』
『もし、その答えがまだ見つからないのなら、アリスはそれが見つかるまでリオを守ります。
皆の為に力を尽くす、その信念は正しいモノです。
でも、勇者には愛が必要だと思います。信念だけの、寂しい勇者にはアリスはなりたくありません』
アリスは、自分なりの言葉で、リオに何かを伝えようとしていた。
『だから、だから、ええと、今度は一緒に前を見て歩めるように、──アリスは貴女を赦します』
その言葉と同時に、リオはモニターから姿を消した。
トキが駆け寄る音と共に、すすり泣くような声が聞こえた。
「赦す、か」
リンゴも深いため息を吐いた後、テーブルに突っ伏した。
「死にたいです。
分かってたんですよ。結局私は誰かを傷つけることしかできないって」
『“リンゴも、後でリオに謝ろうね”』
「…………はい」
先生に諫められ、リンゴは深く溜息を吐いた。
「ふふふ、ギルドマスター。
結局、ダークアリスちゃん作戦も、プリン作戦も決行せずに終わりそうですね♪」
「うわーん、ハナコさん!!
せっかく用意した偽アリスちゃんと大量のプリンどうしましょう!!」
どさくさに紛れてハナコに飛びついて、その胸部に顔を埋めて騒ぎ出すリンゴであった。
§§§
「それじゃあ、そろそろ私は帰ることにするわ」
アリスが戻ってきたその日、シャーレに居座っていた女神がそう言った。
「”もう帰られるのですか?”」
「ええ、見るべきものはすべて見たから」
彼女はそのように答えた。
それを聞いて、やはり、と先生は思った。
「“あなたの目的は、最初からアリスだったんですね”」
「なぜ、そう思ったのかしら?」
「“魔王の件ですら弁明に来なかったのは、貴女の性格ならおかしいので”」
なのにゲーム開発部の件ではわざわざ足を運んできた。
余りにもちぐはぐすぎる行動だ。
「半分正解よ。彼女達に用があったのは本当だったし。
そして、我が領域の神域の末席に座った、あの子にもね」
「“いったい何が目的なんですか?”」
「だから、確認だけよ」
「先生」
その時、ふと、ゲーム開発部の面々から抜け出して、アリスがやってきた。
「アリスとメアリース様は従妹弟子の関係になるんですよ」
「“……君は、あの
「ええ、私はどこにでも居ますから」
にっこりとアリスが笑う。
「先生、キョウコの選択は覚えていますか?
あの選択によって、アリスは二つに別たれました。
私はこのアリスと、また別の選択を辿った存在なのです」
「“つまり、並行世界の可能性、みたいなことかな?”」
「ですです」
アリスは頷いた。
「その果てで、私はある神に魔法を師事しました。
メアリース様はかの御方の弟子の、更にその弟子だったのです。
私は直弟子なので、宗家。メアリース様は分流になりますので、新参ですが私の方が偉いです!!」
女神メアリースが舌打ちをした。
その事実そのものに異論は無いらしかった。
「直弟子を取るのに、私に一言も無かったのはどういうわけなの?」
「あ、えッと……師匠がお前なんかに言う必要なんて無いって」
アリスが目を逸らしながら言う。
女神の表情がどんどんと歪んでいく。
「まあいい、確認は取れた。私は帰るわ」
「あの、やることを終えたらいつか改めてご挨拶に伺うので、その、ごめんなさい」
「せめて他の連中も、あなたぐらい愛想があればよかったのだけれどね」
女神はそれだけ言うと、溜息を吐いた。
「まあいいわ。いずれ話をしましょう。
それじゃあ、ゲームフェスの結果、楽しみにしているわ」
「“……最後に、ひとつだけいいですか?”」
「なに?」
先生はスマホを取り出し、男のアバターを示した。
「“なぜ、彼について何も言わないのですか?”」
先生はここ数日、彼女と会話を交わしたが、一度としてこの世界を席巻しているポーンマスについて言及したことはなかった。
『やめろ、先生』
「“彼はこうして自分の意志を残して死にました。彼について、なぜ何も無いのですか?”」
それは、どこか非難じみていた。
自分の創造物が異郷の地で死んだというのに、何も彼女は言わないのだ。
「……先生、私は言ったわよね。
私は私が創造した人間に死の恐怖を拭い去った、と。
それは相対的に、死の価値が低減したことにならないかしら?」
「“ッ、まさか”」
「面白いことに、人間は死を何よりも恐れるくせに、死について何も知らないくせに、死よりも重い罰とか、死よりも恐ろしい苦痛とか、そんな表現を使うわよね」
女神の言葉に、アリスは目を閉じる。
「だから我が盟友は、最も罪深い罪人に原初の罰を与える。
即ち、──苦しみに満ちた生を歩むことを」
女神は微笑んで、先生にこう言った。
「だからあの男が、私達の許可なくして死ねるわけがないのよ」
先生は絶句するほかなかった。
「“彼はまだ、生きている?”」
その言葉の現実感が、どこにも無かった。
「先生、そのことなんですけれど、あの人から伝言があります」
アリスはおずおずと、先生にこう言った。
「丁度いい船を見繕った、もうすぐそちらに向かう、と」
「いつまで、そうしてるつもりだ?」
「分かりません」
暗闇の中で、男のアバターは<key>に語り掛ける。
彼女はずっと、膝を抱えて蹲っている。
「これから私は、何をすればいいのでしょうか」
「知るか。自分で決めろ」
そんな彼女に、男は冷たく当たった。
「理解できません。王女は、なぜあんな連中の為に……」
「なら、お前も知る努力をしたらどうだ。
人間と言う存在を、なぜアリスがそれに魅了されたのかを」
「……そうですね」
<key>は顔を上げた。
「私も、知る必要があるのかもしれません」
「あッそう言えば、忘れるところだった」
「?」
「お前、あの約束忘れてないよな」
「約束?」
「投票の件だよ。あれ、結局最終的に生存票上回ってたな」
「何を今更。今の私に、何かを出来ることなどありません。約束など、果たしようがありません」
「お前、人間を知りたいんだよな?」
「え、はい」
彼女の言葉に、男のアバターはゆっくりと笑った。
「俺の言うことに従う、そういう約束だよな?」
「そうですけど……」
AIに過ぎない彼女は、なぜか猛烈に嫌な予感があった。
「なら、存分と教えてやろう。
人間の性の素晴らしさをな!!」
彼は、彼女に覆いかぶさった。
何も無くなった場所に、嬌声が響く。
「あの、アリスの中でえっちなことしないでほしいんですけど……」
自分の中で異変を察したアリスが、その光景を見てそうぼやいた。
「おう、アリス!!
正直性欲なんて無くなったと思ったんだが、やっぱり俺は人間の現身に過ぎないようだ!!」
「オオカミさん……」
「じょ、じょおッ、だづけッ」
「流石に神の化身たるお前相手を性欲の対象にはできんからな!!
それに対してこいつだと罪悪感も無いし、見た目もそっくりだから、なんかこう、イメプレみたいで滾るな!!」
そんな言葉に、アリスは溜息を吐くしかなかった。
「ほどほどにしてくださいね……」
最終的に、アリスは自分の中で行われている行為を見ない振りをした。目を逸らしたともいう。
「もう、や、ぎもぢいいのやぁ」
「いいなお前、俺達相性最高なんじゃないか?
これからも思う存分、人間の良さを教えてやるよ」
この日以来、<key>は暴走することは無くなったそうな。
オリジナルの魔法学校編を数話ほどやろうと思ってます。
殆どの生徒がオリキャラばかりでしょうけど、やってみたいのです。ご理解のほどを。
そして、あの男は生きていた。
その言葉をいう為だけに、女神メアリースは現れたのです。
幕間を経て、物語は最終編に至る。
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