☆3 アリス《デウス・エクス・マキナ》
異世界で魔法を修めて帰ってきたアリスさんです!!
攻撃属性:魔法をひっさげ、キヴォトスに降臨しました!!
「先生、アリスは人権キャラになりました!! ピックアップの時間です!!」
『固有武器』
“光の剣:スーパーノヴァ・オルタナティブ”
武器種:レールガン
科学技術と極まった魔法工学による人知を超えた超兵器。
射撃武器としてだけでなく、レーザーブレードや魔法の杖としての役割もある。
何度も何度も補修され、修繕された形跡がある。
ゲームフェスの締め切りまで、あと一週間に迫った頃。
「先生、とりあえずアルファ版が出来たよ!!」
と、モモイが言ってきた。
「“おっと、どんなゲームかな?”」
彼女達がゲーム製作をしている最中も、先生は東へ西へと大忙しだったので、具体的なゲームの内容を聞いてはいなかったのだ。
「タイトルは、『勇者アリスのキヴォトス冒険記』だよ」
それを聞いて、おお、と先生は唸った。
「どんなゲームを作るかってなった時、私達は思ったの。
このキヴォトスのことを、外部の世界の人達に知ってもらおうって」
続いてミドリがそんなことを言ってきた。
キヴォトスの外部の人間にとって、キヴォトスの住人は宇宙人にも等しい。
なら、この世界のことをもっと知ってもらいたい。彼女達はそう思って、キヴォトスの各地を題材にしたゲームを作ることにしたのだ。
「本当はアルファ版はもう少し前にできてたんですけど、先生が忙しそうにしてたので」
と、ユズがそんな風に控えめに言った。
「“少し遊んでも良いかな?”」
「はい、是非お願いします!!」
アリスが満面の笑みで頷いた。
先生はゲームをインストールして、ゲームをプレイする。
内容は、謎の遺跡で目覚めたアリスが、キヴォトスを旅する内容だ。
制作期間的にそう長いゲームではないので、周回プレイ前提でアリスは各三大学校に所属してそれぞれのイベントが発生する仕組みになっている。
オーソドックスがRPGで、クエストを受注し物語を進めていくスタイル。
所属する学校で仲間なるキャラクターが変わったり、受注するクエストも異なる作りこみがあった。
そしてキヴォトスという世界観が根本にある為か、モモイのシナリオでも根本的に破綻は見当たらない。
『シナリオがモモイと思えないほどマシだろう?
ユウカとノアがクエストに参考になりそうな事件とかを探してくれたんだ。誤字脱字や文章やストーリーに矛盾が無いかとか、しっかり検閲されてるからな』
「“ああ、やっぱり……”」
あくまでサポートに徹しているセミナーの二人の苦労を、先生は何となく感じてしまった。
「後はラストダンジョンとラスボスの実装で完成です!!」
先生の周りで彼のゲームプレイを見守るアリスがきゃっきゃとはしゃぎながら言った。
「“うん、楽しみにしているよ”」
ミレニアム学園ルートを軽く一周して、先生は素直にそう言った。
その時、先生のスマホに通知が入った。
「“おっと、ちょっと用事が出来たから、残りの作業も頑張るんだよ”」
はーい、と先生に四人が応じ、彼は外出をすることにした。
§§§
『なあ先生。ハッキリ言ったらどうだ。
あのゲームは凡作だと。新鮮味の無い見覚えのあるゲームシステム、シナリオ、どれをとっても学生レベルだ』
「“私は面白いと感じたよ”」
『同情はよせ。あれでは出来の良い同人ゲームと大差ない。
素人レベルと揶揄されてたが、それも仕方がない』
男のアバターの批評はかなり辛口だった。
「“元々、ゲームの出来では勝負にならないのは分かり切っていたことだった。
でも、私は彼女達の可能性を信じたいんだ”」
『くくく、先生。ひとつだけ教えておいてやる。
可能性だとか、夢や希望だとか、そんなことを口にするのは成功者の上から目線のたわ言だよ。
無思慮にそんな言葉を口にして、傷つく生徒もいることを肝に銘じることだな』
「“……わかっているさ”」
先生も綺麗ごとだと分かっている。
それでも、生徒を信じなくては、誰が信じるというのだ。
生徒がそれを望む限り、先生はそうするだけだ。
そして生徒がそれを望まないのなら、そのようにするだけだ。
先生は車で連邦生徒会の管理下だった廃墟に赴いた。
かつて廃墟だったそこは、基地が出来ていた。
ここはポーンマスギルドの管理下の基地であり、先生は顔パスで中に入れる。
ここはあの機械神が降臨して、変った場所の一つだ。
「あ、先生!! ダンジョンの様子を見に来たんですか?」
基地内にたむろしている生徒達が、先生を見つけて声を掛けてきた」
「“いや、今日は違うよ”」
「先生、これ見てください!! 今日はこんなのが出土したんですよ!!」
生徒の一人がルービックキューブのような物体を差し出してきた。
「これ、揃えた面によって絵柄が変わるマジックアイテムみたいなんです!!」
「“おッ、いいね”」
――ダンジョン。
機械神アリスが齎した恩寵、それが無限に変動する地下迷宮の存在だった。
各地に出現したそれは、定期的に構造が変化し、宝が隠されており、それを守る番人が存在した。
その内部からは魔法資源と称されるようになった、魔法の力で動くアーティファクトが出土する。
大半はオモチャかガラクタだが、どちらかと言うとそこに眠る鉱石資源や未知の技術に人々は着目している。
「あ、御神体が動いてる!!」
「ホントだ、珍しい」
「先生が来たからかな」
先生が生徒達と話していると、そんな声が聞こえ始めた。
「“やあ、アリス”」
「先生、こんにちわ」
先生に挨拶をしたのは、アリス――の
石像に見えるだけで、内部は未知の機械で構成されているそうだが、普段それはダンジョンの入り口に設置され、ポータルの役割を果たしている。
ダンジョンには特定階層ごとにアリスのスタチューが設置されており、そこからダンジョンの外に帰還できるのだ。
つまり、キヴォトスの皆が注目する、空間転移の奇跡である。
その仕組みを暴こうと、キヴォトス中が躍起になっている。
そしてこのスタチュー、神の依り代として時折動き出し、会話ができる。
動き出して何をするのかと言えば、ゲームをしたり、生徒達と遊んだり、それだけだった。
「ウタハ先輩達は研究室に居ますよ」
「“ありがとう、アリス”」
アリスのスタチューはぽてぽてと先生の後ろをついて行く。
「“……アリス。なぜ君はこのキヴォトスにダンジョンを齎したんだい?”」
「? アリスの、私の降臨によってキヴォトスはアップデートされました。
なら、新コンテンツの実装は当然のことじゃないですか?」
先生は会話が噛み合っていないと感じた。
こっちのアリスと同じようにゲーム脳なのに、どこか視点が違うのだ。
「“みんな、君が起こしたこの事象の意図を、測りかねているんだ”」
「先生。おかしなことを言うんですね」
「“え?”」
「――神秘と秘儀を手に入れられるこの提案を、なぜ断るのですか?」
「“ッ!””」
「
アリスの姿をした神の化身は、くすくすと笑った。
先生をおちょくるようなその言葉は、どこかあの蛍光灯の少女を思わせる。
「先生はトルネコや風来のシレンのようなローグライクゲームはやったことないんですか?
不思議なダンジョンは幾ら遊んでも飽きないですよ。
私の創ったゲームに、みんなが熱中してます。楽しいですね!!」
「“そうだね、どうでもいいことだったね”」
先生は探求者でも、研究者でも、学者でもない。
アリスはアリスだ。彼女は自分の生徒だ。それ以上でもそれ以下でもない。
それで、十分なのだ。
『個人的には神楽シリーズを推すけどな』
「あはは、オオカミさん、それエロゲーじゃないですか!!」
「“いい加減にしないか、子供の前だよ”」
「先生!! 私はもう子供じゃないですよ!!」
男のアバターが茶々を入れたり、子ども扱いされたアリスがぷんぷんと怒ったりしていると、先生は目的地にたどり着いた。
ノックをして、先生は研究室に入った。
そこには、ミレニアム生を始めとした生徒達が詰めていた。
「ああ、先生、すまない。ご足労をかけて」
「“それより、どういうことか教えて欲しいんだ”」
先生は真剣な表情で、ウタハに問うた。
「“光の剣:スーパーノヴァ1/1超合金モデルの販売中止ってどういうこと!?”」
先生はウタハに縋りついて叫んだ。
「申し訳ない。本当に申し訳ない」
「“どうして……!! 楽しみにしてたのに!?”」
先生がここに来た理由。
それは、アリスのレールガンの原寸大レプリカが販売中止のメールを受けたからだった。
「理由を説明しましょう……」
気落ちした様子のコトリがぬっと現れた。
「光の剣:スーパーノヴァ1/1超合金モデルを作るにあたり、我々はまず外側だけのレプリカを作ることは、つまり中身をスカスカの状態で販売するのは躊躇われたのです。
ですので、重量やコストの増大が見込まれても内部構造を再現しようと言うことになったのです。
しかし、こちらを見てください」
コトリはタブレットにレールガンの設計図を表示させた。
「こちらが我々の設計し、作成したレールガン。
そして、こちらが――」
彼女は画面をスライドして、もう一つの設計図らしきものを表示させた。
「アリスの神器の内部構造の解析データです」
「"……全然違うね”」
二つの設計図を比較すればわかる。
外見こそそっくりだが、中身はまるで違うのだ。
「……およそ44%の構造の差異が見られました。
これでは、私達が彼女の神器を作りました、ドヤッ、と胸を張って販売できません!!」
そんなエンジニア部の嘆きを見て、当人は小首を傾げてこう言った。
「私が向こうで何百年も過ごすうちに、補修や修理を何度も繰り返したので光の剣がテセウスの船状態なのは当然ですけど、魔術の世界では中身より外見が似ているということが重要なんですが」
「私達の分からない構造が存在する物を、販売できるわけないじゃないですかぁ!!」
「じゃあ、あと二百年は私の神器のレプリカを販売できないですね!!」
無邪気に笑う神像に、エンジニア部の面々は悔しそうにしていた。
無自覚に煽るところがアリスらしいな、と先生は思った。
「ところで、試作品はありますか?
要らないなら貰っていっても良いですか?」
「ああ、備品倉庫に置いてある。勝手に持っていくといい。
私達は空間転移現象に関する検証作業があるのでね」
「わーい、ありがとうございます!!」
彼女は先生の袖を引っ張った。
「先生、取りに行きましょう!!」
「“う、うん……”」
二人は研究室から廊下に出た。
「量子物理学の観点からのアプローチじゃあ私の秘術に追いつくのはまだまだ先ですね」
「“アリスは魔法を教えたりしないんだね”」
「魔術は基本門外不出ですよ、先生。彼女達は彼女たち自身で、自分の魔法を見つけないといけません。
それに勝手に私達一門の秘儀を教えたりしたら、私が師匠に殺されます」
石像はブルりと人間らしい所作で震えた。
「“師匠?”」
「私の魔法の師匠です。
あらゆる意味で、先生とは正反対のヒトですよ」
彼女の表情は強張っていた。
まるで怯える子供のように。
「“確か、メアリース様も弟子なんだっけ?”」
「いえ、メアリース様は師匠の弟子の、そのまた弟子なんです。
私が師匠の直弟子で、メアリース様は傍流になります。あの人は直接師匠に師事してません」
アリスの神像は以前の説明をもう一度繰り返した。
「向こうの神々の領域をキヴォトスで例えるなら、メアリース様はミレニアムのリオ会長です。そして真面目で勤勉なマコト議長と仲良く一緒に学園運営しているようなものでしょうか」
「“やっぱりメアリース様って、あっちじゃ相当偉いんだね”」
「ですです、我ながら的確な例えです」
彼女は得意満面に頷いた。
先生は真面目で勤勉なマコトが全く想像できなかったので、苦笑を浮かべることにした。
「“じゃあアリスは?”」
「私は、ミレニアムの一般生徒に相当します。機械仕掛けの神という概念は、所詮人間の想像の産物なので。相当格下の新参者です」
「“でも、メアリース様より偉いんでしょ?”」
「そうですね……アリスは連邦生徒会に属していると考えてください。役職持ちで……室長クラスみたいな感じでしょうか。
師匠は、連邦生徒会長……神々の頂点、そうとしか言えません」
「“でも、連邦生徒会と各学園に差はない筈だけど”」
「こっちでは、そうですね」
彼女の表情が強張る。
「ですがあっちの連邦生徒会長はやろうと思えば、いつでも言葉一つで学校を閉鎖できます。
リオ会長でもマコト議長でも、誰でもクビにして廃校にできます。誰も文句は言えません。ひれ伏すしかない」
「“まるで、暴君だ……”」
「ええ、師匠を表現する唯一の言葉は、“暴君”。
暴虐と全知全能の権能を以て、全ての神々をひれ伏させる恐怖そのもの。
あの御方の弟子と言うだけで、多分アリスはあっちで何をしても誰からも文句を言われないと思います。愛弟子のキョウコがそうであるように」
「“……なるほど、合点が行ったよ”」
北欧神話に例えるなら、オーディンの弟子。それがアリスとキョウコなのだろう。
そりゃあ好き放題できるだろう。
「師匠には感謝してますけど、パワハラモラハラ上等なので、きっとメアリース様とかは生きた心地がしないと思います。いつもおあの御方の機嫌を損ねないか、ビクビクしてるはずです」
その言葉に、先生は以前男のアバターから聞いた話を思い出した。
あの女神が、恐怖で引きつった顔をした、そんな話を。
「そして師匠は何よりも人間を……いえ、止めましょう、この話は」
そう言って、彼女は一方的に話を打ち切った。
丁度、備品保管庫に到着したのだ。
「私の神器は、実は三代目なんです」
無造作に置かれたレールガンのレプリカを、彼女は大事そうに抱えた。
「ウタハ先輩達に貰ったオリジナルは、長い時間で壊れてしまったので」
ぎゅっと、それを抱きしめる。
彼女は目を瞑り、涙を流していた。
「ずっとこれが、欲しかったんです……」
「“アリス……”」
「えい、デュプリケーション!!」
彼女は何らかの手段で、レールガンのレプリカの更なるレプリカを創り出した。
「こっちは先生にあげます!! 半分こです!!」
「“ありがとう。うーん、斬新な半分こだね”」
先生はレールガンのレプリカのレプリカを持ち上げようとしたが、オリジナルほどではないが中々重量があるのですぐに諦めた。
そして後日、シャーレの事務所にレールガンのレプリカが飾られ、満足そうにうなずく先生の姿があった。
「よし、アップロード完了!!」
「ようやく終わったね……」
「あの内容、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だよ、本人に許可は貰えたし」
どうやらゲーム開発部は、無事ゲームを完成させたらしい。
ユズが不安そうにしている。
『Fate/EXTRAcccのサーヴァントにアンデルセン先生が登場するんだが、彼は作中でこんなことを言った。
自分の作品は『書きたい話』と『書くべき話』がある、とな』
「仕事には楽しんでやる仕事と、仕事として割り切ってやる仕事があるってことかな?」
先生は男のアバターの話に、ああ、と頷いて見せた。
『今回、あいつらは『作るべきゲーム』を創った。
自分たちが楽しむためじゃない、仕事としてのゲーム製作だ。
趣味を仕事にしたところで、それはいずれ苦痛になるだけだ。
あいつらが大人になってもゲーム製作で飯を食うか否か、この件で見えてくるんじゃないのか?』
或いは、それが大人になるということなのかもしれない。先生はそう思った。
「先生、完成した『勇者アリスのキヴォトス冒険記』を遊びますか?」
ぽてぽて、とこっちのアリスが無邪気に笑ってそう言ってきた。
「“うん、私も早くエンディングを見たいよ”」
そうして、先生はアルファ版をアップデートする。
完成されたゲームは、未実装だったラストダンジョン前で止まっていた。
ラスボスの登場イベント――――そこで、先生は絶句した。
ラスダンを進め、先生の操作する勇者アリスはついにラスボスに相対した。
『よくぞ、我が前に現れたな勇者アリス。
我こそは魔王、――魔王アダムなり。この美しき子供たちの楽園、キヴォトスを手中に収めるものである』
そう、ラスダンであるブラックマーケットに出現した魔王城に待ち受ける、あの魔王に。
アリスがキヴォトスに与えた影響を描写してたら長くなってしまった……。
次回こそ、次回こそゲームフェスの話は終わる筈です!!
ではまた次回!!