書きたいことが多すぎる。
「――以上が、ここ最近の“風紀委員長”殿の活躍です」
「……」
ゲヘナ学園の情報部の部室。
そこでイロハとマコトは黙って部員の話を最後まで資料と共に聞いていた。
「無茶苦茶ですね……」
イロハはヒナの事を
「各地のヘルメット団やチンピラ集団を吸収し、統率。
その規模はたった一か月で最低でも1000人規模クラス……。
その戦力で弱小学校を事実上の傘下に収め、企業相手に喧嘩を吹っかける……」
これだけのことを仕出かすのは、ゲヘナ学園の生徒でもなかなか居ない。
「各企業は彼女らを警戒し、電磁バリアの導入を検討しているとか」
「ああ、あれって維持費が馬鹿にならないんですよねぇ」
情報部の生徒の言葉に、イロハは企業に同情する。
恐らくドローンの自爆特攻に対する対策だが、これまでキヴォトスで空爆対策なんて誰もしなかった。
ここしばらくは彼女達の戦術は猛威を振るうだろう。
「……これは本当にヒナなのか?」
「ポーンマスギルドは公式には否定していますね。
連中のボスが活動中に、ヒナ委員長はギルド本部に詰めているようですが……まあ公然の秘密と言う奴でしょう」
「奴の目的が見えん」
マコトはヘルメットを被ったヒナの望遠写真を見下ろし、そう呟いた。
「先日恥をかかされたマコト議長への報復に戦力を集めているとか?」
「なに!?」
「冗談ですよ」
普段扱き使われている意趣返しに、そんな嫌味を言うイロハだった。
「……どうせ、貴方の入れ知恵でしょう?」
『それは誤解だな』
イロハがスマホを開くと、そこに男のアバターが現れた。
『俺は戦争のやり方を教えただけだ。
彼女が何を考え、実行したかは俺は関わっていない』
「一先ず、それを信じましょう」
『俺が思うに、彼女は何も変わっていないと思うぞ。
ただ……』
「ただ?」
『いやなに、子供の成長は侮れんな、とそう思っただけだ』
男のアバターは軍帽を深く被ってそう言った。
「気に入らんな」
「でしょうね」
せっかくマコトはヒナを閑職に追いやったと思ったら、地下に潜られて戦力を公然と集めている。
マコトでなくても警戒心を持つだろう。
「探りをいれましょうか?
情報部で適当にヘルメット団を発足し、潜入させるという手もありますが」
「優秀なお前達に、そんなチンピラみたいなことをさせるものか」
恐縮です、とマコトの返答に情報部の生徒は頭を下げた。
「こういう時にはふさわしい手駒を使えばいい」
マコトは手元のスマホを使い、ポーンマスを通じて風紀委員会に命令を下した。
「議長……なにをしたんですか?」
「キキキ……すぐに分かる」
§§§
ヘルメット団のボスたるヒナの居城たる廃墟を中心に、千人を超えるヘルメット団が集まり、そこはスラム街が形成されていた。
誰が呼んだか、ここを指してヘルメット街といつの間にか称されるようになっていた。
ここでは誰もが自由だった。
君臨しても支配はせず、それが彼女らのボスの方針だったからだ。
だから彼女の手下たちは自分たちで秩序を維持しなければならなかった。
彼女達のルールは簡単だった。問題が生じたときにボスのお言葉を頂き、ボスの召集に従い戦うことだけ。
それ以外は自分たちで決める。
自主的にこの場所を維持する為に、ここを居場所とする為に皆が奮闘していた。
その一角に、廃墟を改装して最低限の衛生状態を確保し、ラーメン屋を開業したヘルメット団が居た。
そろそろ昼前の、開店の時間だったが。
「開いているかしら?」
「あと五分だ……よ……」
流石に調理にヘルメットを被るわけもいかず、バンダナを撒いてマスクをしている店主は固まった。
「ぼ、ボス!?」
「それは、誰の事かしら?」
来店したのはヒナだった。
ただ、普通にゲヘナ風紀委員会の制服に、素顔のままだったが。
「私はたまたま通りかかったから昼食に来ただけ。何か問題ある?」
「失礼しました……注文が決まったらどうぞ」
店主はそそくさと奥に引っ込んだ。
そして訪れる開店時間。
誰もがドアを開けては、中の人物を二度見して去っていく。
内心店主が営業妨害だぁ、と泣きべそをかきそうになった頃。
「お待たせしましたわ」
「別に気にしてない」
現れたのは誰あろう、黒舘ハルナその人だった。
「は、ハルナ様!?」
「ごきげんよう、メニューを見させてもらってよろしいかしら」
「ど、どうぞ。うちにはハルナ様の舌に合うメニューなんて無いと思いますけど……」
「お気に為さらず」
店主はハルナを知っていた。と言うかファンの一人だった。
謙遜する店主など気にせず、ヒナの隣に座るハルナ。
「中華そばを」
「じゃあ私も同じのを」
「は、はい~」
ハルナはメニューも見ずに注文をした。
ヒナもそれに追従する。
店主は粛々と麺を茹で始めた。
「意外ね。こういう粗末なラーメン屋になんて興味ないと思っていたけれど」
「確かに衛生環境も落第点ですし、接客もお粗末。
完全に地元客だけにターゲットを絞った向上心の無いメニュー。
普段なら絶対に来たりはしませんわね」
しかし、ここを指定して待ち合わせ場所にしたのはハルナの方だった。
「ですが、美食とは、味とは奥が深いモノです」
「どうぞ、中華そばです」
すぐに二人分のラーメンが提供された。
ごく普通の醤油ラーメンだった。
「この業務用の麺に、ぱさぱさしたチャーシュー、メンマは消毒臭いし海苔は初めからスープに全部浸して提供して風味を逃している。大して美味しくもない典型的なラーメンですわ。
そのくせ、タマゴは半熟で逆にミスマッチですわ」
「確かに。サービスエリアの食堂で食べられそうなやつね」
ハルナの批評はボロクソだった。
二人がラーメンを啜る音を他所に、店主は店の隅で首を吊りそうな悲壮な覚悟をしていた。
「粗食としか言いようの無いこのラーメン。
しかし、考えさせられます。人間は食事に美味しさを求め、また同時に安心感を求めるのです」
「……そうね」
「食べる前から想像できる味と言うのを、人々は求めてしまうものなのです」
ハルナもヒナも、食べる前からこのラーメンがどういう味か想像できていた。
そしてその通りの味だった。
「美食の道は探求です。
では、美味しさの基準とは?
これを美味しいと言う者もいるでしょう。ハンバーガーを代表するファーストフードが大衆食として普及しているように、この味を好きだと言う人も居るのです」
「マズいだけなら、客は来ないものね」
ヒナが入り口に視線を向けると、中を覗き込もうとしていたヘルメット団が蜘蛛の子を散らすように去って行った。
「かつて、美味しさの基準とは私でした」
「美味しいかどうかなんて、結局は各々の主観でしょう?」
「ええ、私のファンも、私の主観を求めている。でもそれはバラエティであり、娯楽であり、消耗品なのです。
私が美味しいと感じた物を共有したいのですわ。
実際にフウカさんの手伝いをするうちに、それを強く感じるようになりました」
ハルナの道は求道だ。
他人の理解を求めない。
以前のハルナは、それでよかったのだ。
「先生は、なら料理研究家になれば良いんじゃないかな、と仰られました。
最近は動画で配信をしながら、調理の過程や実食の光景を撮影する者も多いとか。
食べることだけでなく、作ることもまた美食の道でしょう」
「最近のハルナは落ち着いているわ。本当に」
「いいえ、私はやり方を変えただけですわ。
今はただ、他者と共有する美味しさの追求に夢中なだけです」
だからファン感謝祭と称して大鍋で豚汁を作ったりもしていた。
雰囲気もまた、味のひとつなのだから。
「そう言えば店主、風牙亭のご主人は元気ですか?」
「な、ハルナ様がなぜそれを!?」
「私が人生で初めて食べた中華そばが、その店だったのですよ」
ハルナの問いに、店主は身体を震わせながら答えた。
「……大将は、引退しました。
近くに有名なラーメンのチェーン店が出来て」
そうですか、とハルナは目を閉じた。
「ま、まあ、当然ですよね!!
ハルナ様の言う通り、大将のラーメンは大して美味しくもなかったし……。
中学の頃ずっとバイトしてた自分も、似たようなラーメンしかできないですし……」
所業無情。それは飲食店の宿命だった。
「そのラーメン屋も流行りが変わるとすぐに潰れちまったし……じゃああのラーメンが好きだった自分は何だったんだって。
大将には世話になってたし、それで荒れて結局……」
大将には顔向けできねぇや、と店主は目元を拭った。
「私は」
ハルナは彼女に声を掛けた。
「貴女は、あの味を継承していると思いますわ」
「え?」
「可笑しいですわね。こんな店、以前なら爆破していましたのに」
感傷もまた味なのでしょうね、とハルナは呟いた。
「さて、懐かしさに浸るのはこのくらいにして、そろそろ私を呼び出した用件を聞きましょうか」
「ええ、実は――」
ゲヘナ自治区某所、とあるプリン専門店。
いや、プリン専門店だったモノ、だった。
「私達は、プッチンヘルメット団!!」
その前に陣取り、高らかに彼女らは宣言した。
「ぷっちんできない全てのプリンを、滅ぼす者である!!」
「瓶入りのプリンなんて邪道だ!!」
「お皿の上にぷっちんして食べるプリンこそが至高なのだ!!」
爆破したプリン専門店を背に、唖然としている通行人たちに銃器で威嚇する。
「……」
「どう、かつての自分の姿を見るのは」
「流石にあれと同じというのは侮辱も甚だしいですわね……」
イカレた主張をするヘルメット団に、遠い目になるハルナだった。
むしろ同じ主張をするメンバーが数名も集まった事実にヒナは呆れていた。
「そこのあなた達」
ハルナは優しく声を掛けた。
「何だお前はッ、我々の崇高な活動の邪魔をするのか!!」
「いや、あいつは、あの人は!?」
「ハルナ様だ!?」
ハルナは、最近の活動もあってか、知名度はあった。
「ハルナ様もぷっちん派ですよね!?」
「以前ハルナ様は雰囲気も味わうものだと仰っていた、つまりぷっちんという体験も好まれて当然!!??」
「ハルナ様ッ、我々と一緒にぷっちんしてプリンを食べましょう!!」
圧が、圧が強かった。
「……皆さん、これを口にするのは大変憚れるのですが」
ハルナは残酷な事実を告げることにした。
「そもそもぷっちんできるタイプのプリンは、分類上――卵ゼリーなのですよ」
え、と彼女達の誰かが言った。
「そもそもプリンとは蒸し料理のプディングの一種で、寒天等で固めたぷっちんできるプリンはゼリーなのです。
本来プリンとは、タマゴを熱で固めたカスタードプリンなどが上げられますわね」
固まる、プッチンヘルメット団。
そして、誰かが言った。
「私、カスタードプリン嫌い」
「私も。食感があんまり好きじゃない……」
「わ、私達は、騙されてたの!?」
「あんなにおいしいのに、ゼリーだったなんて……」
あまりのショックに、ヘルメット団たちは膝を突いていた。
しかし、そんな彼女達にハルナは微笑みかけた。
「美味しいなら、それでいいではありませんか」
「え……?」
「あなた達のプリンの愛が本当なら、なぜ自分たちの好きなプリンを探求し、ぷっちん出来るようにしないのでしょうか?」
ハルナは彼女達を否定しなかった。
美味しいモノが好きな気持ちは一緒だった。
それに、と。
「例えば瓶入りのプリンでぷっちんできるのなら、それは画期的な発明だと思いますわ」
「ハルナ様の言う通りだ!!」
「全ての容器をぷっちんできるようにすれば、それはもう全部プリンなのでは?」
「その手が有ったか!!」
陰からその様子を見ていたヒナは、ええぇ、と思ったが首を突っ込む気にはなれなかった。
程なくして風紀委員会がやってきて、彼女達は連行された。
「ありがとうハルナ。
ヘルメット団には偶にああいう手合いが居てね、困ってたのよ」
「……なるほど」
ハルナには知性と品格が備わっているので、深くは追及しなかった。
「ヒナさん、あなたの中には先生が居るのですね」
「えッ」
ふと、ヒナの頬が赤くなった。
そんな彼女を他所に、ハルナは勝手に納得したように頷いている。
「やはり、これまで食事を共にしたことのない相手と食卓を囲むのは良いモノですね。
今度は美味しいモノをご一緒しましょう」
自分への用事が済んだと理解したハルナは、そのまま去って行った。
厄介ごとが一つ片付いたと安堵したヒナに、スマホの着信があった。
嫌な予感は、彼女がその通知を見て確信に至った。
§§§
「委員長代理、指名手配犯の連行を致しました」
「ご苦労」
部下たちのお手柄に、イオリは当然のように頷いて見せた。
「学園に連行し、尋問しろ」
「気は進みませんね」
「しょうがないだろ、上の指示なんだから」
チナツのぼやきに、イオリが愚痴る。
今回逮捕した指名手配と言うのは、最近ヒナの傘下に収まったヘルメット団の一味だった。
彼女達はこのように説明を受けた。
この風紀委員会の作戦と同時に、ヒナを学園に呼び出す。
あのヒナ頼りの烏合の衆どもは、あいつが居ないと何もできない。
連中のボスがヒナという噂を確かめるには、打って付けである、と。
要するに、いつものヒナへの嫌がらせだった。
「とりあえず、こいつらを尋問して裏を取って――」
「へへッ、私達は何も知らないぜ」
手錠を掛けられ、縄で縛られたヘルメット団の一人が言った。
「俺達は誰も、あの方の素顔を見たことが無いんだからな」
「アコちゃんもか?」
「アコちゃん? 誰だそれ」
「……まあいいや、私らは指示通りにやるだけだ」
面倒だが、それが仕事と言うものだ。
イオリが踵を返す。
「もしかしたら、こう思ってるんじゃないのか?
どうせ私達なんてチンピラに過ぎないから、多少痛めつければ情報を吐くってな」
「……拷問でも、なんでもすればいい。
あの方は私達を助けに来てくれる。何も怖くない」
「戯言を」
「でも、あの方に助け出された時、お前たちに我が身可愛さから情報を喋ったなんて知られたら、それで失望されたら、生きていけない……それだけは嫌だ」
「……」
「あの方は私達の救世主……私達に価値を見出してくれたあの方を裏切るくらいなら、死んだ方がマシだ」
不良たちは淡々と、その言葉に頷いた。
「バカげてる。理解できないぞ、お前たち!!」
「――なにも馬鹿げてはいないわ」
その時だった。
近くのビルの上から、その声がしたのは。
「い、委員長……」
「ボスッ、ボスだ!! やっぱり来てくれた!!」
「ボスごめんなさい、私ら失敗して」
「構わないわ、私の可愛い手下たち」
ビルの上には、広告用のモニターがあった。
そこに、ヘルメット団のボスが映っていたのだ。
直後、装甲車に乗ってヘルメット団が駆けつけてきた。
即座に部隊が展開される。
「ねえ、風紀委員長代理さん。私の手下たちを解放してくれないかしら?」
「そんなことできるわけ無いだろう!!」
「私達はあなた達の面子を潰したいわけじゃない、政治の話をしてるのよ、分かる?」
「我々は風紀委員会だ、何度も言わせるな!!」
「震えているわよ、イオリ」
モニターから、イオリを見下ろす。
「怖いなら先生に助けを求めればいいじゃない。足でも舐めて、ね」
「ッ、こいつら全員逮捕しろ!!」
両者の戦いの火蓋が、切って落とされた。
同時刻、ゲヘナ学園本校舎。
「急に出頭して来いだなんて、何の用なの?」
生徒会室にヒナは一人でやって来ていた。
彼女は気だるげに自分を呼び出した相手を探す。
「キキキ、よく来たヒナ!!
ちょっとした事情聴取だよ」
「呆れた。下らないわね、あの噂なら知ってるわ。
私のそっくりさんが、チンピラを率いて徒党を組んでるってね」
ヒナはマコトの登場に、気だるげに髪の毛を弄り出した。
「おい誰か、ヒナを尋問室に――」
「ねえマコト」
「ん? なんだ」
「こっちとしても呼び出しがあったのは丁度良かったわ。
ギルドの活動で報告があるの、二人きりで話せないかしら?」
ヒナはマコトをじっと見た。
「……良いだろう。おい、尋問室を開けておけ、誰も入れさせるな」
はい、と生徒会の一人がマコトの指示に従った。
そして、二人は本校舎にある尋問室に移動した。
情報部が管理しているこの場所は、防諜は完璧だ。
「それで」
マコトは行儀悪く中央に置いてあるテーブルに座った。
「貴様、ギルドでなにをしてる」
「何も変わらないわ」
「なに?」
「こっちで風紀委員会として活動していることと、何一つ変わらない」
ヒナは淡々と答えた。
「ふざけているのか」
マコトはイライラした様子でこう言った。
「ヒナ、貴様が不良たちの頭目として台頭して、何の意味がある」
「マコト、貴女は生徒会室にネズミが出た時、どうするの?」
「殺鼠剤を撒くだろう」
「そうね。それが風紀委員会の仕事だった。
だけど今、私はネズミの巣を駆除しようと思っている。それも、ネズミを手懐けて、ね」
マコトの指が苛立たし気にトントンとテーブルを叩く。
「貴様は連中の母親にでもなるつもりか?
卒業してもずっと? 馬鹿げている」
「その為の、この仮面なのよ」
ヒナは通学カバンに入れたヘルメットを示した。
「この中身が、私である必要は無い」
「まさかッ」
「そう、この中に私が居る、と思われていること自体が重要なのよ」
ヒナは手下たちに一度として、素顔を晒したことは無い。
だが同時に、自分の正体を徹底的に隠したりもしていない。
不良たちはそれを見て
自分たちにはヒナが付いている、あのヒナさんが私達の味方だ!!
たとえそれが、いつの間にか中身が別の誰かに入れ替わっていたりしても。
不良たちの安心は伝播し、それ以外の全員も勝手に想像をする。
「私は一体何年、留年すればいいのかしらね」
そうして、ヒナは神話になるのだ。
当人が卒業してキヴォトスを去っても、
「最近のディープフェイクは凄いわね。
今頃私の声と映像が、私の手下たちを鼓舞している」
そうして、ヒナはキヴォトスで永遠になるのだ。
「だが、所詮連中はチンピラだ。
統率したところでろくでなし、掃き溜めでしか生きることは出来んぞ」
「なら、同じろくでなしの集まるゲヘナ学園をもう一つ作ればいい」
マコトは己の失態を悟り始めた。
ヒナを一学園の風紀委員会長“程度”に押し留めておけばよかったのだ。
「わかっているのか、貴様。それを出来るのは連邦生徒会長だけだ。
アビドスのように、また先生を使うつもりか?」
「それじゃあ意味がないわ」
ヒナは首を横に振った。
「ねえマコト。貴女はキヴォトスで観光をしようとした時、まずどこに行きたい?
伝統のあるトリニティ? 最新技術のあるミレニアム? それとも私達ゲヘナ学園?」
「百鬼夜行辺りも良いぞ。今度修学旅行はあそこにしようと思っている」
「それは素晴らしいわね。
じゃあマコト、星貫工業学校なんてどうかしら」
おい、とマコトはヒナを睨んだ。
「あんな小さな校舎と工場しかないところに誰が行く」
それは情報部が調査した、ヒナ達が傘下にした学校の名前だった。
「そうね。誰もそんな場所に観光に行くなんて想像ができない。
きっと、先生もそうよね」
「お前、まさか……」
マコトは震えた。
ヒナは、とんでもないことを仕出かそうとしている。
そのことに、彼女は気づいてしまった。
「そう、先生は一人で、身一つなのよ。
あの人は大きい学校くらいにしか、目が届かない」
なら、とヒナは言った。
「弱い者同士で手を取り合って、戦うしかない」
すぐにマコトは声を荒げた!!
「分かっているのか、それは――連邦生徒会への叛逆だぞ!!」
「別に、戦争をするわけじゃない」
「キヴォトスを割るつもりかと言っている!!」
だんッ、とマコトはテーブルを叩いた。
「貴様は、あの雷帝にでもなるつもりか!!」
「言ったでしょ、仮面の中身は誰でも、からっぽでもいいの」
ゆっくり、とヒナはマコトに近づいた。
彼女が愛銃に手を掛けるより早く、その手を掴んだ。
「数か月前、連邦生徒会長が失踪した時、多くの犯罪者が各地で暴れまわった。
こんな言葉があるわ。他人を恨んだことの無い者は、運が良いだけ、と。あの小さな学校とその周辺が無事なのは、運が良かっただけ」
「は、放せッ」
マコトが抵抗しようとするが、万力のようにヒナの腕は微動だにしない。
「ねえ、マコト。私達と手を組まない?」
「なんだと……?」
「私はゲヘナ生よ。誰よりも校是を体現している。
即ち、混沌と自由を」
「……そうか」
マコトは制帽を深く被った。
二人の間に、二人にしかわからない空気が流れる。
自然と、ヒナはマコトから手を放していた。
「貴様はあくまで、ゲヘナ学園に帰属している。そうだな?」
「私が母校に不利益を齎す訳がないでしょう」
それを大前提として、ヒナはポーンマスギルド機構に出向している。
「……昔から、貴様は気に食わなかった。
いつもいつも、このマコト様など眼中に無いとばかりに己を貫いていた。それが溜まらなく憎らしい」
「……」
「そしてそれは、今もそうだ。貴様は私など見ていない」
「そうだったの。知らなかったわ」
「だが……」
マコトはスッとヒナを見やる。
「このマコト様がキヴォトスを支配するのに必要なのは、お前をおいて他に居ないとも思っていた」
「マコト……」
お互いに高校の三年生にまでなって、ようやく一歩だけ歩み寄ることができていた。
「連邦生徒会に喧嘩を売る、か。
丁度、歴代最高のゲヘナ学園の生徒会長という肩書では小さいと思っていた所だ!!
おいヒナ、当然このことはトリニティ側には伝えてはいないだろうな!!」
「勿論よ。校益に反することはしないわ、知ってるでしょ」
「なら面白くなってきたぞ!!
そうなると、秘密裏に連邦生徒会の役員を抱き込む必要があるな!!」
「当然、目星は付けてある。防衛室長の不知火カヤ、彼女を抑えればあいつらは動けない」
「よし、政治工作は任せろ!!」
狭い尋問室で、二人の悪だくみが進んでいく。
まるで小さい頃からの悪友同士のように。
これが幕間でやる内容なのか?
悪友みたいな関係のヒナマコでしか得られない栄養素はあると思います。
ではまた、次回!!