アビドス自治区、そこに便利屋の四人は事務所を構えていた。
「はあ……」
アルはブラインドを指で開け、自治区の街並みを見下ろし憂いを帯びた溜息を吐いていた。
「アル様……」
「ここ最近、ずっとあの調子だよね」
心配そうにしているハルカと対照的に、ムツキは苦笑気味に呆れていた。
「まあ、アップルマンさんが亡くなってからずっとあの調子だからね」
愛銃を分解清掃しているカヨコは淡々とそう呟いた。
「ま、気持ちはわかるけどね。
でもそろそろアンニュイな雰囲気は勘弁してほしいなぁ。
折角新しい事務所を構えられたのに」
「あ、でも今のアル様もカッコいいです……」
「もう、ハルカちゃんはアルちゃんなら何でもいいじゃーん!!」
がばっとムツキに抱き着かれてあわあわしだすハルカ。
「ま、こういう時はその内整理が付くでしょ。
あッ、そう言えば、明日アルちゃん、先生の当番でしょ? 特に仕事も無いし皆で遊びに行く?」
「いいんじゃない?」
「さ、賛成です!!」
同僚二人の賛成を受け、ムツキはアルに水を向ける。
「良いよね、アルちゃん?」
「……え? ええ、私もそう思うわ」
心ここに在らず、と言う様子のアルは頷き返した。
そんな彼女に、やれやれ、とムツキは肩を竦めた。
「……」
アルにはずっと心に残っている言葉があった。
「お前はいつも不自由そうだな、アル」
「そんなことないわ師匠、私は誰よりも無慈悲で冷酷なアウトローなんだから!!」
「それだよ、それ」
まだあの男が彼女達と行動していた頃、彼はアルに言ったのだ。
「アル、俺は人殺しだ。当然、これは仕事での話だ。他に自衛以外で誰かを殺したことは神に誓って無い。
だがアルよ、お前は俺みたいに成りたいのか?」
「わ、私は師匠を超えて見せるわ!!
手を汚さず、華麗にどんな仕事もスマートにこなして見せるもの!!」
「……まあ、お前はそれでいい」
男はアルの臆病さを評価した。
これでお前よりもっと殺せるようになりたい、とか言うようなら一緒に居ない。
「だが理想とは常に自分の対岸にある。
あちら側の火事の当事者になるには、間の川を泳がなくてはならない」
なあアル、と男は問う。
「ざくざくアクターズってフリーゲームの台詞にこんなものがある。
『「良く」いられない兄は「悪く」あろうとします。
結局のところ、その他大勢に埋没するのが嫌なのです。
悪は、努力もせず、我慢もせず、誰にでもなれる特別なのです』、と」
アルは衝撃を受けた。
男はアルの本質を見抜いていた。
「この台詞の面白い所は、これを言ったキャラクターはメインキャラでもなんでもなく、ただストーリーに関係ないマップのモブだと言うところなんだが、まあ、そんなことはいい。
……アル、お前はどうなんだ?」
彼女は、その時答えられなかった。
「お前は『良く』いられないだけか?
俺にとってお前の言うアウトローとは、自身をその他大勢に埋没させないための、悲鳴にしか聞こえないのだ。
お前は努力し、我慢をしたが、結局は誰にでもなれる特別にしかなれていない」
だからお前は不自由なのだ、と男は言った。
果たして、凡庸な特別とは、特別足りえるのだろうか?
結局のところ、お前は昔と何も変わっていない、と彼は突き付ける。
男はアルに向き直る。
「お前が本物のアウトローになると言うなら、あの三人に縋るような甘ったれたことは辞めるんだな」
「あ、あまったれ……」
「どうせ、あいつらに給料なんてまともに払ってないんだろ?
それを甘ったれているって言わずに何ていう」
言ってしまえば、便利屋は家族経営のようなもの。
ひとつの財布で全員の出費をやりくりしているに過ぎない。
「アウトローという不法者でありながら、お前は便利屋と言う“企業”の一般社会のルールを決めた。
お前の言うアウトローってのは、自分の決めたルールも破るような外道なのか?」
「それは、違う。絶対に違う!!」
「そうだな。アル、お前に宿題を出そう」
男は散々アルの未熟を指摘しておきながら、微笑んで彼女の肩に手を置いて、言った。
「俺を、超えろ」
アルは、息を呑んだ。
「十年、二十年掛けてもいい。
俺にできなかったことを成し遂げろ」
そして、男はキヴォトスに多くの爪痕を遺して、死んでいった。
「まったく、とんでもなく高い背を見せて、去っていかれたわね」
アルの目には、巨峰のように見えるかつての背が訴えかけてくる。
──おまえはいつまで燻っているんだ? と。
師の背中は遠く、大きい。
とりあえず、アルは新しく便利屋の事務所を構えるに当たって、決めたことがあった。
「さて、みんなの給料分は稼がないと!!」
アルはほんの一歩だけ、大人に近づいた。
「アルちゃん」
そんな彼女に、ムツキは言った。
「事務所の家賃代も忘れないでね」
「生徒会の好意で活動費も貰えているんだから、実績は示さないと」
わかってるわよ、とアルはムツキとカヨコの二人に慌てて返した。
§§§
「“やあみんな、今日はよろしく”」
今日のシャーレの当番はアルだけだったが、先生からの要請で便利屋四人全員が召集された。
四人で遊びに行くつもりだった彼女らにはちょうど良かったのだが。
「それで、先生。依頼を聞きましょう」
「“うん、ブリーフィングをしようか”」
便利屋の四人は、事務所の端っこでわちゃわちゃしているゲーム開発部の面々を尻目に、仕事の話に移った。
「一応聞いておくけど、ポーンマスを通せない仕事?」
カヨコが先生に問うと、彼は頷いた。
「“防衛室から調査依頼がシャーレに来ていてね、君たちにはその護衛を依頼したいんだ”」
「護衛なら、この間先生がやっていたSRT部にやらせればいいんじゃないの?」
「“彼女達は私の部下とかじゃないから。それに防衛室と癒着とか疑われちゃうしね”」
先生はその辺りはきっちりとしていた。
カヨコは納得したように引き下がった。
「それで、私達四人を護衛にどこを調査するのかしら?」
「どこかの廃墟? 無法地帯? あ、私最近できたっていうダンジョンとか行ってみたいな!!」
真面目なアルと違って、ムツキはイタズラっぽい笑みで自己主張をし始めた。
先生は苦笑しながら、また今度ね、と曖昧に濁した。
「“ここだよ”」
先生がスマホの地図アプリで、その場所を示した。
それを見て四人は、ああ、と納得した。
その場所は、最近噂のヘルメット街。
キヴォトス最新の、無法地帯だった。
「つまり、全員ぶっ殺せばいいんですか?」
「“違うよ!?”」
早速愛銃の安全装置を外したハルカを止める先生。
「“簡単に言えば、実態調査だよ”」
「連邦生徒会も、無秩序な不良集団を見過ごせなくなったわけだね」
カヨコの目から見ても、ヘルメット街は異常だった。
一人のカリスマのもとに、短期間で武器も人員も集まり過ぎている。
「くふふ、珍しいね。いつもならあいつらってこんなに動きが早くないじゃん?」
「そ、それだけ脅威に思ってるってことですか?」
そうだよー、っとムツキはハルカに抱き着いてわしゃわしゃし始めた。
「……まあ、ブラックマーケットのようにある程度の秩序も存在しない無法者集団だものね」
「なんだかアルちゃんが好きそうな場所だね♪」
「そんなことないわよ、実際に見てみないと……」
アルは否定するが、心のどこかで惹かれている自分が居るのもまた事実だった。
「でも前の事務所がブラックマーケットだったのって、その方がアウトローっぽいからって理由だったじゃん」
「それだけじゃないわよ、もう!!」
「あはは!!」
じゃれ合う幼馴染二人を見やり、カヨコは先生に視線を向ける。
「ところで先生、このヘルメット街のボスがあのヒナだって噂が流れてるんだけど、どうなの?」
「“わ、私からはなんとも……”」
「ふーん……」
まあ戦いに行くわけでもないし、とカヨコは深く追及しないことにした。
こうして、先生を含んだ五人はヘルメット街に移動することにした。
§§§
最寄りの駅に電車で移動し、昼前には現地に到着していた。
入り口はバリケードが設置され、見張りが左右に立っている。
人の出入りはあるが、ほぼ全員がヘルメットを被っている。
「私達もヘルメットを調達した方が良いかな?」
「その方が良さそうね……」
物陰から様子を見るカヨコとアル。
「“みんな、これを”」
そこで先生が全員分のヘルメットを抱えて来た。
「どうしたの、それ。先生、さっきこんなの持ってなかったじゃん?」
「“そこの露店に売ってたんだ”」
「商魂たくましいことで」
とにかく中の共通規格らしいヘルメットを被った五人は、入り口へと向かった。
「止まれ、IDを提示しろ」
だが、見張りに銃を突き付けられ、身分証の提示を要求される。
「私ら、あんたらの仲間になりたくてきたんだ」
「わざわざこのヘルメットも買って来たんだよ?」
カヨコとムツキが話を合わせる。
「ならそっちの交付所に行って、IDを交付してもらえ。
ここの施設を利用するにはそれらが必要になる。
あと、ここには怠け者は要らん、訓練や仕事に参加すると食券を貰える。食券は大体の飲食店で使えるが、現金があるならそれでも大丈夫だ」
話を聞けば思った以上に組織化され、秩序だっていた。
「ここのルールは簡単だ。
ボスの指示は絶対。あの方の為に戦うこと。あとは他人に迷惑を掛けなければ基本何をしてもいい。
……ようこそ、私達の楽園へ」
そして、見張りは五人を通した。
言われた通り、『交付所』と立札が置かれた運動会とかにありそうなイベント用テントに行くと、あっさりとIDカードを渡された。
「お、思ったよりあっさり潜入できましたね……」
拍子抜けと言った様子のハルカの言葉は、皆の心境を代弁していた。
ヘルメット街の中は使われていない廃墟を改装したり、露店などが並んでいて活気があった。
不良や元生徒達だけでなく、ヘルメットを被った住人らしき人物も散見される。先生が怪しまれなかった理由はそれだろう。
そして五人は、街中を回って行った。
訓練場、という名の空き地では。
「そんな程度で、ファム様の為に戦えるのか!!」
「その体たらくではボスに失望されるぞ、良いのか!!」
そこでは不良たちが集団訓練を受けていた。
「変なの、不真面目だから不良なのに。あんなに頑張って」
ムツキがぼやく。
彼女の言う通り、正道からドロップアウトしたから不良なのだ。
楽な方、楽な方、に流れていったから彼女らは弱いし、努力を嫌う。
なのに、訓練に参加している彼女達は必死だった。
「別のところに行きましょう」
訓練に参加するわけでも無いのに、その様子を眺めているのは不自然と判断したアルが言った。
それに面々は付き従い、移動を始めた。
すると、メインストリートでこんな会話が聞こえた。
「なあ、テストの結果はどうだった?」
「それがね、八十点いったのよ!!
もしかしたらうちってば幹部候補に抜擢されんじゃね?」
「マジかよ、私も幹部育成所に通おうかな」
「まあ食券は貰えるし、訓練所で汗水流すのが肌に合わないんじゃそっちの方が良いんじゃね?」
「勉強かぁ……いい加減、私もボスの役に立たないとなー」
「お前育成所に通い始めたってマジ?
お前バカじゃん、本気で勉強なんかやってるわけ?」
「良いんだよ、バカで。
バカはバカなりにできるところまでやれるのを知るのが大事だって、マッドカウさんが言ってたし。
幹部になれなくても適正を測って適切な仕事に割り振ってくれるって言ってたから」
「……まあ、今はいくらでも力仕事あるけど、そのうちそれも無くなるだろうし。私も通うかな……」
「そうしとけよ、ボスはいつも私らを見てるんだから」
一通り街中を見て回った五人は、露店で昼食を買って野外に設置されているテーブルに座った。
「“まるで、学校と自治区みたいだ”」
そして先生は、この街をそう結論付けた。
「皆が皆、やり直そうとしているのね」
アルはそう呟いた。
ここに居るのはほぼ不良たちで、略奪や暴力で生計を立てていた。
だが、この街ではそのどちらも存在しなかった。
他者を害するケダモノではなく、人間として生きようとしていた。
誰もが自分の出来ることを、少しづつやろうとしていた。
「それで、連邦生徒会はここを潰そうとしてるわけ?」
屋台で買った焼きそばを食みながら、ムツキが問うた。
「え、そんな、可哀想です……」
「“私も、彼女達はそっとしてあげたいけれど……”」
残念ながら、先生はハルカを安心させてあげることはできなかった。
「“どうやら多くの企業が、彼女達が居るせいで正常な経済活動が出来ないと訴えているらしいんだ”」
「政治的な圧力か。随分とコスパがいいことだね」
カヨコはそんな嫌味を漏らした。
この場所の実態を知った先生も悩まし気にしていた。
「……でも現時点で彼女達が不法者なのは事実よ」
「前のアビドスよりずっと学校らしいとは思うけどね」
アルとムツキの意見は分かれていた。
先生もどのように報告するか、悩んでいると。
「やってられるか!!」
街道の入り口から、そんな声が聞こえた。
「あたしは五十人のヘルメット団のリーダーだったんだぞ!!
なんであたしが幹部待遇じゃないんだ!!」
「うちらに上下関係なんて無いし、ボス以外の派閥も無い。
幹部と言っても、部隊長か管理職ってだけ、面倒なだけだよ」
「ふざけるなよ!!」
何やら見張りと揉めているようだった。
周囲はそれを見て、興味無さそうに自分の持ち場での作業に戻った。
「あー、またああいう手合いか。二日に一回はあるんだよな」
注文した料理を屋台から運んできたヘルメット団がそう言った。
「お前ら新参だろ? あいつら、すぐボコボコにされるから心配するなよ」
と言って、彼女は屋台の前に戻って行った。
彼女の言葉はすぐに実証される。
「何を揉めているの?」
「あ、ボス!!」
五人が大人しく焼きそばを食べていると、ヒナが一人でやってきた。
「アレ、やっぱりヒナだよ」
「まさかそんな、……嘘でしょ!?」
アルはヒナの方を三度見くらいして驚愕していた。
「ようこそ、私達の居場所へ。
貴女達を歓迎するわ」
「あたしはこれだけの兵隊を連れて来たんだぞ、幹部として取り立てろ!!」
「勿論、適性があるのならね。
幹部育成所に行くことをおススメするわ。学校でもやっていたテストで良い点を取るだけよ」
「いい加減にしろ、勉強なんてやってられるか!!」
「いい加減にするのは貴女よ。まさかこの私に仕える幹部を、馬鹿が務まると思ってるの?」
舌戦はそれで終わるかと思われた。
相手のリーダーが舌打ちをして踵を返したからだ。
「行くぞ、お前たち!!」
そう言って、彼女は自分たちの部下に呼びかけたが。
「わ、私はこっちに残る!!」
「私もだ!!」
「あんな生活、もう嫌なんだ!!」
五十人居たヘルメット団のうち三割近くが、こっちの街中へ入ってきた。
「お、お前ら、裏切るのか!?」
「裏切る、何を言っているのかしら」
ヒナはヘルメットの中から目を細めた。
「貴女は彼女達を信じても無かったくせに」
「な、なんだと!?」
「あなた、賞金が掛けられているわね。120万円」
「それがどうした!!」
「怖かったんでしょう? 寝首を搔かれるかもしれない毎日は」
図星だったのだろう、ヘルメット団のリーダーは呻いた。
「だからここに来た。違う?」
「はっ、まさかこんなところとは思わなかったけどな!!」
リーダーは威勢よく言い返した。
「お前らは所詮、傷の舐め合いをしてるだけじゃないか!!」
「オランウータンだって、傷を負ったら薬草を噛み砕いて傷口に処置をするわ。
傷の舐め合い? それが何だって言うの、自分の傷の処置も出来ないのは猿以下よ」
「あたしが猿以下だってのか!!
そもそも前提として、不良のリーダーに過ぎない彼女と、ゲヘナ学園でもトップクラスの成績を誇るヒナとでは舌戦にすらならなかった。
「あなた達はどうするの?
彼女と一緒に、ヴァルキューレがいつ来るか分からない日々に戻りたいなら、帰れば良い。
隙間風に震え、電気を確保するのも一苦労、食料は奪わないといけない、お風呂もろくに入れないし、トイレは公園の公衆トイレでも使うのかしら?」
ヒナは背後の不良たちに声を掛けた。
反論は無かった。そんな惨めな生活を、彼女達はしていることを否定しなかった。
「とりあえず、この食券で好きなものを食べなさい。
そして各々できることを見つけて、ここで暮らしなさい。
ここなら、誰にも怯えずに過ごせることを保証するわ。
──私が、あなた達の“安心”なのよ」
ヒナが食券の束を差し出した。
すぐに、不良たちは我先にそれに群がった。
そんな彼女達にヒナは順番に食券を配った。
一人、ヘルメット団だったリーダーだけが取り残された。
「暴力しか拠り所しかない貴女がこうなるのは、時間の問題だったのかもしれないわね」
「くそッ、くそぉ」
浮浪者が一番必要とするのは、お金でも食料でもなく、安全な寝床だと言う。
誰もが銃を持つキヴォトスで、いつ通報され、警察や自警団に逮捕されるか分からない恐怖。
惨めな生活水準に、彼女達は疲れ切っていたのだ。
「ねえ、教えてくれない?」
「何をだよ!!」
「どうして、賞金首になったの?」
ヒナは不良のリーダーだった彼女に、問い掛ける。
「悪徳企業の手先になって、別の企業の工場を襲ったんだ。
一千万も貰えて、舞い上がって、そのまま……」
「バカね」
絞り出すように話し始めた不良少女を、ヒナは切って捨てた。
「貴女は自らの悪事で、自分の価値を他人に委ねたのよ。
たった120万円。それが貴女の値段。たったそれだけ。それ以外には何もない」
不良少女が、膝を突いた。
すぐにヘルメットの中からすすり泣く声が聞こえてきた。
「貴女は悪徳企業に使い捨てられた。
そう、貴女は悪党の都合の良い奴隷だったのよ」
「うわああああぁぁぁぁ!!」
「何を泣いているの」
ヒナは崩れ落ちた彼女の顔を自身に向けさせた。
「その企業の名前を言いなさい」
「ひっぐ、ひっぐ、何を……」
「貴女を奴隷のように使い捨てて、私腹を肥やしているクズを貴女の手で倒すのよ」
「え、ええッ」
「私も手伝ってあげる」
耳元で、ヒナが囁く。
「だってもう、あなたは私の仲間で、友達だもの」
不良少女は、泣くのさえ忘れたようにその言葉に聞き入っていた。
「自分で、自分を取り戻しなさい」
数秒ほどの逡巡のあと、彼女は頷いた。
「悪事をして、警察に捕まって、刑罰を言い渡され、更生施設にぶち込まれて、出所してそれで罪は償われたと思っている者は多い」
でもね、とヒナは言う。
「更生施設は、あくまで更生のための施設。
罪は、それを犯した者にずっと刻まれる。贖われたと、みんなが勘違いしている」
「あたしは、どうすれば……」
「貴女の罪に対して、私が出来ることは何もない。
でも、いつか償おうと思う時が来るまで、私が守ってあげることはできる」
さあ教えて、とヒナは彼女から悪徳企業の名前を聞き出した。
ヒナは懐からスマホを取り出すと、アコを呼び出した。
『ボス、ここに』
「一応裏を取って。すぐにこの子の尊厳を奪い返しに行くわ。その後に、人を集めて」
『了解しました、すぐに』
サイレンが鳴る。
そこら中に居たヘルメット団達が、ぞろぞろと銃を担いで集合する。
「私達の仲間を、立場の弱さに付けこんで使い捨てたクソ企業に、クレームを突き付ける時間よ」
ヒナの呼びかけに、集まったヘルメット団達が歓声を上げる。
そう、彼女こそが──。
「本物の、
アルは衝撃を受けていた。
あれこそが、アルの憧れていた法律や規律に縛られない、本物の悪党だった。
自らの信念に従い、常識や既存の価値観をぶち壊す、理想の姿がそこにあった。
「羨ましい……」
数台の装甲車に乗り込むヘルメット団達を見て、アルは呟いた。
「私は、今のままで良いのかしら。
この調子で、本当に師匠を超えられるのかしら……」
「“アル、君もなんだね……”」
「え?」
怪我をしないだろうか、とヘルメット団の出撃をハラハラと見ていた先生が、アルの呟きに反応した。
「“私も、彼に言われたんだ。自分を超えて見せろって”」
「先生も?」
「“お互いに、大変だね”」
先生は苦笑気味に微笑んだ。
「“でも、アルは今のままで良いと思うよ”」
「え……?」
「“きっと、君の成長を実感できる時が来るよ”」
そんな風に、先生は言ったのだった。
そうして、護衛依頼が終わった。
報酬を手にした四人は、その日は少し豪華な食事にありつけ、翌日を迎えた。
さあ、便利屋68は今日も営業開始だ。
始業と同時に、ノック音がなる。
「はい、どうぞ」
早速依頼人か、とアルが事務所に促すと。
「あの、すみません」
「ここがグリゴリ小隊、じゃなくて、便利屋68ですよね?」
「あ、本当にあの四人だ!!」
アビドス生の制服に身を包んだ生徒が、数名やってきたのだ。
「あれ、あなた達って元アリウスの」
「はいッ、私達、便利屋の皆さんに憧れてて!!」
「もしよければ、私達を雇ってください!!」
「ちゃんと生徒会からの許可も貰ってます!!」
その言葉に、便利屋の四人は顔を見合わせた。
「あなた達、見る目があるわね!!
丁度事業拡大を視野に入れていたから、頭数が増えるのは助かるわ!!」
「またアルちゃんが適当なこと言ってる」
「まったく、人件費のことが頭が入ってないね」
楽しそうにしているムツキと呆れているカヨコ。
「よ、良かったですね、アル様!!」
いつものようにハルカは社長を称えた。
誰もが少しずつ、前に進もうとしていた。
生きているのだから、停滞することなどできない。
だからこそ、大きな選択をする者達もいるのだった。
『我々27の学校の生徒会は連邦生徒会を脱会し、────学校連合の形成を表明することにした』
ヘルメットを被ったヒナが、27人の生徒会長の血判が押された血判状を示し、キヴォトス中に動画を発信した。
それは、連邦生徒会の数百年の長きに渡る一国体制に、終止符を打つものであった。
個人的に、原作の連邦生徒会のぐだぐだ具合で、離反しない学校が存在しない方が不自然だと思ったのです。
次回は、なぜ彼女が連邦生徒会へ叛逆に至ったか、それから連邦生徒会の反応などを描写したいと思います。
それでは、また次回!!