※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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ささやかな叛逆

 

 

 

 連邦生徒会の会議は紛糾していた。

 

「今すぐ彼女達に罰則や経済制裁を与えるべきです!!」

「我ら連邦生徒会から脱会なんて、許されるべきではありません!!」

「今すぐ手を打たなければならないでしょう!!」

 

 そんな行政官たちの喧騒のあまりの馬鹿馬鹿しさに、カヤは欠伸を噛み殺すことを禁じえなかった。

 

「皆さん、静粛にお願いします。

 今は冷静にことを運ぶべきでしょう」

 

 余りの騒々しさに、リンが皆を嗜める。

 

 27の小規模学校が連邦生徒会を離反するという事態は、連邦生徒会の長い歴史でも前代未聞だった。

 ひとつやふたつぐらいの学校がその庇護を離れることはまれにあっても、こんな独立宣言みたいな叛逆は一度も無かった。

 

「ではお聞きしますが、この責任はリン主席行政官、貴女が取れるのですか!?」

「それは……」

 

 出来ない。そう、こんな大スキャンダルの責任なんて、彼女には取れない。

 この責任を取れるのは、連邦生徒会の長のみだろう。

 

「今はこの場では責任の所在よりも、彼女ら学園連合の対処を決めるべきでしょう」

「連中は我ら連邦生徒会に所属する学校の百分の一に過ぎません。

 幾らでもやりようはあるでしょう」

「ですが、このまま手をこまねいていれば、十分の一になりかねませんよ」

 

 リンが自分を糾弾する行政官にそう返すと、スマホに呼びかけた。

 

「ポーンマス、調査結果をお願いします」

『はい。通称“学園連合”の声明後、彼女達は自分たちの理念を発信しました。

 既存のルールや規則に縛られることなく、自分たちで新しいルールを創り上げるのだ、と。

 これに多くの学校が共感を、示しています』

 

 だそうです、とリンは溜息を吐いた。

 これは離反した学校勢力そのものではなく、それを継続させるかもしれない状況の方が問題なのだ。

 

「……やはり、連中は今すぐ鎮圧すべきです!!」

「やつらはいずれ、我らの脅威になり得ますッ!!」

「では聞きますが」

 

 余りにも幼稚な有様に、痺れを切らしてカヤは口を開いた。

 

「誰が、どんな名目で、彼女らを弾圧するんですか?」

「知れたことを、彼女達はキヴォトスの秩序を乱そうとしているんですよ!! それの対処を、弾圧などと!!」

「ではその対処を、誰がやるんですか?」

 

 カヤはヒートアップしている行政官達にもう一度問いかけた。

 

「ヴァルキューレ警察学校にやらせますか?

 いくらヴァルキューレと言えど、27もの学校相手には多勢に無勢。

 では三大学校にお願いしますか?

 トリニティ学園が、ゲヘナ学園が、ミレニアムが喜んでやってくれると思うのですか?」

 

 弾圧を、とカヤは言葉を投げかけた。

 返答は沈黙。それが、今の連邦生徒会の実情であり、影響力なのだった。

 

「まるで他人事ですね。キヴォトスの安全保障は防衛室の管轄でしょうに」

 

 そんな嫌味が行政官の一人から放たれた。

 

「ええ、キヴォトスの安全保障は我々防衛室の管轄です。

 ですので、私は内々にある集団を内偵していました。

 ……ところで、なぜ学園連合は自分たちの独立が成功すると思ったと思いますか?」

 

 その問いの意味を、誰もが答えられなかった。

 

「キヴォトスの僻地の廃墟群の一つに最近形成されつつあるスラム街、ヘルメット団を中心に彼女らは高度に組織化されつつあります。

 実際、いくつかの企業は彼女達の被害に遭ったと報告がありました」

「それとこれと、いったい何の関係が?」

「学園連合発足の声明は、彼女達のボスが発したからです」

 

 どよめきが、会議室を埋め尽くした。

 

「これはつまり、あの不良集団が学園連合の武力集団として、その権力を保証している、ということになります」

 

 そう、彼女達は手ぶらで独立したわけではない。

 ヘルメット軍団のボスの庇護を受け、連邦生徒会から離反したのだ。

 

「下手に手を出せば、戦争になります。

 彼女らは無策で反旗を翻したわけではないようですから」

 

 そして、仮に戦争になっても矢面に立ちたがる学校などあるまい。

 

「彼女らは自由の為に離反しました。最後の最後まで、戦うでしょう」

「仮に、犯罪者集団を匿っている、と言うのは制裁を加える口実として十分ではありませんか?」

 

 リンが鋭く問う。

 ええ、とカヤは頷いた。

 

「しかし、こうなっては学園連合は“他国”になるわけで、個人的には争うより犯罪者等の引き渡しの協定を結んだ方が建設的だと進言しますね」

「それは、彼女らの学園連合という共同体を認める、と言いたいのですか?」

「だって仕方ないじゃないですか。彼女らは我々連邦生徒会に失望して離反したんですよ」

 

 カヤは肩を竦めて見せた。

 

「だというのに、今更危機感を抱いて騒いでどうなるのです?

 我々の怠慢に彼女達は怒っているのです。

 なら、我々は元宗主として寛容に独立を赦し、少しでも有利な条件を引き出し、なおかつ他の学校の離反を防ぐ他ないじゃないですか」

 

 そう、危機感が無かった。

 連邦生徒会はこれまでずっと、キヴォトス唯一の行政機関。

 殿様商売になって、自分たちの地位が脅かされるなんて考えてもいなかったのだ。

 

「調停室も、防衛室の意見に賛成です。

 今は少しでも早く、民衆に我々のスタンスを表明すべきかと」

「体育室としては、交流試合でもして表面的には和解を示した方が良いと思うなー」

「交通室的には、早く学園連合の敷地の路線とかその辺りとか、ハイランダーと一緒に打ち合わせしないといけなくなるから、早く決めてよ」

 

 その他、半数以上の部署が融和やそれに近い意見を主張した。

 徐々に対立意見は下火になっていく。

 

「では我々連邦生徒会と、学園連合との話し合いの場を設けることで問題ありませんね?」

 

 異議無し、とリンの総括に皆が唱和し、今日の会議は解散と相成った。

 

「マスコミには午後から記者会見を」

「はい、連絡を入れておきます」

「話し合いの立会人は……先生にお願いする他ないでしょうね」

 

 リンは全員が退出するのを待つことなく、部下に指示を飛ばしている。

 

「主席行政官、後程相談があります」

「……わかりました、あとで連絡をいれます」

「コーヒーでも入れて待っていますよ」

 

 カヤは彼女にそれだけ言うと、室長室に戻った。

 

 部下に指示を飛ばしたり報告書を読んでいたり事務作業を次長に投げたりしていると、リンからモモトークで連絡が入った。

 五分後にこちらに来るとのことなので、カヤはコーヒーメーカーに豆をセットする。

 

「失礼しますよ、カヤ防衛室長」

「ええ、どうぞ。そちらにおかけください。生憎コーヒーはドリップの最中ですが」

 

 本格的なコーヒーメーカーなので、コーヒーの雫が落ちるのがゆっくりだった。

 それを眺めるのがカヤのささやかな楽しみなのだ。

 

「随分手回しが良かったですね」

「下らない論争で時間を浪費している場合ではないでしょうから。

 それに戦争になるにしても、交渉チャンネルの確保は当然のことではないですか」

「事前に私に報告してくれてもよかったのでは?」

「ここまでの事をするのは私も予想外だったのですよ?

 最終的な調査結果をあげる前にこの有様ですよ」

 

 カヤは切れ目を細めて睨むリンに肩を竦めて見せた。

 

「ああ、そうそう。学園連合の仲裁にはゲヘナ学園の生徒会が間に入っても良いそうですよ」

「白々しい……。あの不良集団の頭目が誰か、私の耳に入っていないとでも思っているのでしょうか」

「まあまあ、証拠はありませんし」

 

 苦々しい表情を浮かべるリンに、カヤはコーヒーを差し出して宥めた。

 

「……この私が言うのも心苦しいのですが」

 

 カヤは若干逡巡した後、躊躇いがちにこう口にした。

 

「いつまでも、連邦生徒会長不在のままではいられませんよ」

「……だからと言って、はい、代わりを用意します、なんて出来ないでしょう」

「ですが、その猶予はこれまでにありました」

 

 カヤとて、リンには借りがある。

 こんなことは彼女に言いたくないのだ。

 

「連邦生徒会の規定によれば、連邦生徒会長の任期の最中で業務が遂行できない場合、その主席が他の行政官達の承認を受けて、連邦生徒会長として繰り上がることができます」

「しかし、私は選挙で選ばれたわけではありません」

 

 リンはあくまで連邦生徒会長に指名されて今の役職に居る。民衆の信認を得て今の地位に居るわけではない。

 それに、リンは連邦生徒会長と友人関係にあった。

 あっさりと彼女がどこにも居ないと、認めるのが恐ろしかった。

 

「私は、貴女のそう言うところが嫌いですよ」

 

 能力のある人間が、それにふさわしい地位に居ない。それはカヤにとって不愉快な事実だった。

 

「では聞きますが、民衆と友人、どちらが大事ですか?」

「…………」

「友情を捨てろとは言いませんよ。

 ですがもう、そんなことを言っている場合ではないじゃないですか……」

 

 それはある種の、懇願にも近かった。

 

 求心力を失って久しい連邦生徒会は、独立という新しい気風に抗えない。

 連邦生徒会長失踪当初の騒動でさえ、行政から離反するなんてことが無かったというのに。

 いや、そもそもこの世界の子供たちには、連邦生徒会から独立するなんて発想が無かったのだろう。

 それほどサンクトゥムタワーの持つ行政権は、キヴォトスにおいて全能だったのだ。

 

 独立を望んだ彼女らは、未開の地のフロンティアへ我が身一つで挑むようなものだった。

 弱小学校が27つ集まっただけなんて、とても言えない。

 我も我も、とそれに参加したいという似たような境遇の学校はこれから幾らでも現れるだろう。

 

 ぽたり、とコーヒーに無垢な雫が落ちた。

 

「止めてくださいよ、私がイジメてるみたいじゃないですか」

 

 カヤは居心地が悪そうにそう呟いて、ハンカチを手渡した。

 

「もう私達は共に戦うしか無いんです。分かりますか?

 このままでは私達は歴代で最も無能だったと笑い者になるんですよ!!

 先代以前も、キヴォトスを割るようなことまではしなかった。貴女の友人も謂れのない誹謗中傷に晒されるッ。

 そんなの、悔しいじゃないですか……」

 

 今日の会議でそれを理解している行政が殆どいなかった。

 このような経験が無いのが仕方ないのかもしれないが、

 

「カヤ室長……貴女は変わりましたね」

 

 リンは眼鏡を取ってハンカチで目元を拭うと、そう呟いた。

 

「そう思うなら、誰かを撃ち殺してみれば良いんじゃないですか」

「すみません、気分を損ねたかったわけではないのです」

 

 以前のカヤは、究極的には自分の能力を示すことに集約していた。

 だが今は、そんな余裕は彼女には見られない。

 

 彼女のリンを見る目が、殺気立っていた。

 悪ふざけを許さない、真剣さだけがそこにあった。

 

「私も、そろそろ覚悟を決めなければならないようですね……」

「……なに、後からのこのこあの女が帰ってきたら、下っ端にして扱き使ってやればいいのです」

「それは名案ですね。この忙しい時に居ないなんて、許されませんからね」

 

 それから二人は、しばらく愚痴を言い合った。

 ある意味二人は共通の話題で、初めてわかり合えたのかもしれなかった。

 

「……では、防衛室長として学園連合の動向について教えてください」

 

 自分の次のスケジュールが差し迫っていることに気づいたリンが、カヤに尋ねた。

 

「彼女らの主張は、連邦生徒会等のルールから逸脱した、新しい自分たちの枠組みを作ることです」

「それはつまり、私達に失望したということでしょう?」

「ええ、しかし逆に言えば、私達は別に彼女達を搾取したり横暴を働いた訳ではないのです」

 

 それはそうだろう、とリンは思った。

 三大学校やその周辺の中規模学校等のいざこざに手がいっぱいで、名前も覚えられないような弱小学校になんて手が回らなかったのだから。

 そしてかつてのアビドスも、その一つだった。

 

 彼女達にとって、連邦生徒会とは苦しい時に何もしてくれなかった。ただそれだけの存在なのだから。

 

「つまり、彼女達の敵は私達ではない。

 それは、あの不良集団の行動を見れば明らかではないですか?」

「まさか──」

 

 あの不良集団と、弱小学校達には共通の敵があるのだ。

 だから、彼女達は結束できたのだ。

 

「そう、彼女達の敵は──」

「おっと、失礼」

 

 その時、リンのスマホにメールが届いた。

 業務用のモモトークではなく、それとは別のメール機能だった。

 つまり、身内からの連絡ではない。

 

「げ……」

「げ?」

 

 メールの内容を見たリンが、引きつる。

 彼女がこんな表情をするのはカヤは初めてみた。

 

 気になったカヤはその文面を覗き見た。

 そして彼女と同じように、げっ、と声を漏らした。

 

 それも当然だろう。

 

 メールの差出人は、『偉大なる女神メアリース様がわざわざ直接神託をしてあげるわ』と書かれていたのだ。

 

 その内容は要約すると、相談事があるからそちらの要人を全員揃えておけ、といったモノだった。

 

 二人は思った。これは面倒ごとの予感がする、と。

 

 

 

 

 §§§

 

 

「生徒会長、そろそろ時間ですよ」

「うん……ちょっとだけ待って、今胃薬飲むから」

「ちゃんとしてくださいよ」

 

 生徒会長と呼ばれた少女は壁に手を付いて吐きそうにしており、いっぱいいっぱいの様子で胃薬を飲んだ。

 

「それとも、盟主と呼んだ方がよろしいですか?」

「止めてよ……」

 

 彼女は先日連邦生徒会から脱会した27の生徒会長の一人。

 その中でも最大の自治区を有する、と言うことで彼女らの盟主ということになった人物だった。

 

「だいたい、なんでファムさんが盟主じゃないのよ」

「あの人は私達の自警団みたいなもので、私達の政治や取り決めに介入しないって宣言したでしょ」

「私はただ、土いじりと本を読んでいられればよかったのに」

 

 そう、彼女達の学校は、農業高校。

 最大の自治区を有すると言えば聞こえはいいが、その殆どが農地である。

 むしろ学校と宿舎以外は畑と田んぼと果樹園以外何もないと言っても過言ではない。

 

 と言うより弱小学校全般に言えることだが、生活必需品や弾薬を購入するのには他所の自治区にあるコンビニか企業の出展してる店舗に行くことになる。

 彼女達27の学校で、住人が暮らしている自治区は十区も無い。それほどの田舎なのだ。

 

 田舎過ぎて、最後に愛銃の引き金を引いたのは半年前だっけ? みたいな有様である。

 彼女の学校で一番戦闘経験があるのは、イノシシや熊を相手にするマタギくらいしかいない。

 

「せめて、ファムさんも同行してくれればいいのに」

「甘ったれないでくださいよ」

 

 そんな生徒会長の護衛として、学校唯一の戦力としか言いようの無いマタギの生徒が睨みつける。

 

「うちの学校が連合の中で一番影響力があるのは事実でしょう」

「そうだけどさぁ」

 

 田舎の学校とは言え、彼女達の生産する野菜や果物がキヴォトス中に出荷されているのは事実だった。

 

「ほら、着きましたよ」

「うん」

 

 二人がやって来たのは、自分たちの野菜等を卸している企業の本社だった。

 キヴォトスの三割ほどの地区に出店しているスーパーの元締めで、この企業への出荷が彼女らの農業高校の主な収入元だった。

 と言うより、契約によって他の企業に売れないようになっている。

 

 専属契約と言えば聞こえはいいが、要するに買い叩かれているのだ。

 これは何世代も前の生徒会から、ずっと前からの取り決めだった。

 

 今日は、この取り決めに関する話し合いをする為に、やってきたのである。

 

「ようこそ、お二人共。応接室にどうぞ」

 

 二人は表面上はにこやかに本社ビルの奥へ通された。

 しかし、応接室には役員のロボットが張り詰めた空気で並んで座っていた。

 

「こちらにお座りください」

「はい」

 

 平社員に着席を促され、話し合いは始まった。

 

「……先日の話はどういうことかね?」

 

 一番位の高い役人が口を開いた。

 

「我々とそちらの高校との契約を、改めたいと?

 冗談も大概にしてほしいね!! 子供が大人の経済活動に口出しするつもりなのかね!?」

 

 いや、その口調は殆ど怒鳴りつけるのも同然だった。

 殆どパワハラじゃん、とマタギの生徒は思った。

 生徒会長もビビりまくっていて、彼女は溜息も吐きそうだった。

 

「ここに年度別の買取価格についての推移を資料にまとめましたが、物価の高騰に応じて買い取り金額も毎年徐々に高くしているではありませんか」

「我々も企業努力を怠っているわけは無いのだよ。

 よりよい商品を、鮮度の高いまま店頭に並べる努力をね」

「そもそも、私の記憶によれば二十年ほど前、貴校の大凶作の際に出資したのは我が社だったはずだがね。生徒会はその恩を忘れたと?」

 

 大人たちが次々と威圧的な言葉を並べる。

 生徒会長は縮こまるしかなかった。

 

 元々、キヴォトスでは大人と子供では役割が分かれていた。

 子供が行政を、大人が経済を。

 

 学業の一環として経済活動をする学校はあるが、それは学校規模を逸脱しない。

 学生の本分は学業なのだから、当然だろう。

 

 しかし経済が発展すればするほど、企業は幅を利かせるようになった。

 それこそ、連邦生徒会でも処罰できないほどに。

 

 そうして、いずれ卒業する学生は新陳代謝が早く、逆に長くキヴォトスに居つく企業とで歪な社会が形成されるようになったのである。

 

「君たちは学生なのだから、大人しく勉強でもしていてはどうかね?」

「君たちのような子供が、ずっとこの商売をしていた我々に口を出そうなどと烏滸がましいのだよ」

 

 そろそろこの傲慢な連中に銃弾でもぶち込んでやろうか、とマタギの生徒がそう思った時だった。

 

 必死に耐えていた生徒会長の脳裏に、先日の光景を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 時間は少し前に遡る。

 

 弱小学校達は、僅かな戦力を持ち合い自警団を結成していた。

 その団員たちから、連絡があったのだ。

 

 ヘルメット団のボスが、生徒会長を呼べ、と。

 

 弱小学校の彼女達は、それを断れなかった。

 そうして集まったのが、最初の27の学校の生徒会長だった。

 

 

「我々を集めて、どうするつもりですか……」

「まさか、私達を一網打尽にするつもりじゃ……」

「私らを人質にして、身代金を取る気じゃ」

「勘弁してよ、うちの予算は火の車なのに……」

 

 ぼそぼそと話し合う彼女達の前の壇上に立ったヒナが、こう言った。

 

「あなた達は、現状に満足しているの?」

 

 生徒会長たちは、お互いに顔を見合わせた。

 そして、彼女達はこう答えた。

 

「当たり前じゃないか」

「あんたらのような連中とつるむと、こっちまで飛び火するだろうが」

「お願いですから、私達の自治区から出てってください」

 

 それが、彼女達の現状を多分に表していた。

 

「見なさい、これが彼女達の現状よ」

「……」

 

 何がなんだかわからず集められた彼女だったが、ひとりだけ肩身が狭そうにしている者が居た。

 ヘルメット団と取引をしている、工業高校の生徒会長だった。

 

「ねえ、皆も分かってるよね」

 

 その彼女が、声を挙げた。

 

「本当は、自分たちの現状が、一寸先は闇だって。

 私達みたいな田舎の弱小学校は、新入生の工面も一苦労している。

 うちは自治区に居住区は無いし、よそからの入学者に依存してる。

 当然、経済的に余裕がある学校なんて、この中には無いよね?」

 

 この自警団も、各々の学校が予算を持ち寄って維持している涙ぐましいものだった。

 戦闘要員を出すことも出来ない学校すらあった。後に彼女らの盟主となる農業高校もそうだった。

 

 それも、不良の集団が流入すればタダではすまないだろう。

 そして、実際ヒナ達が現れてこうしてお伺いを立てに来ている。

 

「だからって、どうしようもないだろ!!」

「結局何なんだよ、みかじめ料でも欲しいってのかよ!!」

「私達に、どうしろって言うのさ!!」

 

 そう、彼女達はどん詰まりなのだ。

 ずっと昔から先輩達が続けてきたことを、ただ続けているだけ。

 学校を維持しているだけ。ただそれだけの生徒会ばかりなのだ。

 

 だが、それ以外にどうしろと言うのだ?

 生徒数がそのまま学校の力だ。

 彼女達の学校は田舎で、人が集まるような魅力も無い。

 

 生徒会の予算は自転車操業で、ただ自分の代で学校を潰さないように努力している。

 彼女達は、そんな生徒会長なのだ。

 

 それでも平和だった。

 運が良いことに、これまでずっと。悪意に見向きもされなかったのだから。

 

「私らの学校の事、聞いてるでしょ。

 企業の気まぐれで、私達は廃校寸前だったんだよ」

 

 工業高校の生徒会長の言葉に、息まいていた生徒会長たちの表情が強張る。

 企業の顔を伺って、資金を調達している学校の生徒会がここにも数多く居た。

 誰もが他人事ではないのだ。

 

「企業にそっぽ向かれたら、あなた達は生きていけない。

 連邦生徒会に助けを求めても、資金援助さえしてくれない。

 本当に危ういのね、あなた達は」

 

 ヒナの言葉に、彼女達の多くは歯噛みし、拳を握り締めた。

 

「仕方ないでしょ、キヴォトスの経済を支配してるのは企業で、大人たちなんだから!!」

 

 そう言ったのは、農業高校の生徒会長だった。

 

「我々にはどうしようもありませんわ」

 

 地元では有名なお嬢様学校の生徒会長が、溜め息と共に首を振った。

 

「結局、あたしらがつっぱったって、どうしようもならねぇんだ」

 

 武闘派で知られる不良学校の総長にして生徒会長が悪態を吐く。

 

「……なるほど、あなた達はそうやって、自分の青春をやり過ごしていくのね」

 

 ヒナはどこか失望したように、そう言った。

 

「聞きなさい。私は、私達は、連邦生徒会に背を向ける。

 勿論、彼女達と一緒にね」

 

 ヒナは工業高校の生徒会長に手を差し向けた。

 彼女は、ゆっくりとヒナに応じて、頷いた。

 

「は、それって、まさか……」

「連邦生徒会から脱退するってことかよ!?」

「正気か、お前ら!!」

 

 その場が、騒然となる。

 当然だ。連邦生徒会の庇護は、絶大だ。

 このキヴォトスでその恩恵を得られない場所は無い。

 それほどの管理システムが、存在するのだ。

 

 ただ、問題なのはそれを使うのが人間だった、ただそれだけのことだった。

 

「わ、私達が、それを告げ口するとは思わなかったんですか!?」

 

 わざわざそれを、彼女達の目の前で宣言する。

 その意味を彼女達は理解できなかった。

 

「勿論よ。だって、あなた達は付いてくる。

 だって、あなた達はもうどん底だけど、私達は別にあなた達じゃなくたっていいんだから」

 

 そう。ヒナは選ばれる立場ではない。選ぶ側だった。

 

「私は貴女達に、連邦生徒会に反旗を翻す、初期メンバーになる権利を与えているのよ」

「それをしたって、どうせ潰されるだけだろ!!」

「経済制裁を喰らうのは目に見えてますわッ。そしたら、私達は資金調達も難しくなるッ」

「どうして?」

「どうして、ですって!?」

「ここには工業高校も、農業高校も、水産系も服飾系も、建設系も情報系もそれ以外も、生活に必要なスキルは揃ってるじゃない」

 

 言われて、彼女達は自分たちを見やった。

 そう、一次産業から三次産業まで、彼女達は一通り賄える。

 少なくとも、社会から切り離されてそのまま餓死や原始時代レベルの生活水準に落ちるわけでも無い。

 

「分からないの? あなた達は、国を作れるのよ」

 

 それは、彼女達の頭に衝撃を与えるには十分な言葉だった。

 

「そもそもあなた達、恥ずかしくないの?」

 

 ヒナは生徒会長たちの顔を見渡す。

 

「代々生徒会の先輩達に、これから後輩になる生徒達に。

 あなた達は恥ずかしくないの? 私はこの学校の生徒会長だって、誇れるの!?」

 

 彼女達は、言い返せなかった。

 

「あなたは地元一番の伝統と格式を持つ名門校の生徒会長、その歴史はトリニティにも負けてない!!」

「ッ」

「あなたは荒くれの集まる不良たちの総長、でも問題を起こす生徒達の後始末にいつだって率先して頭を下げて回っている!!」

「く……」

「あなたは最盛期はキヴォトスの食料自給率の5%をも支えた農業高校の生徒会長ッ、田舎だからと貴女の学校を軽んじるバカは居ない!!」

「あ……」

 

 ヒナは彼女達を順番に指を差して彼女達の魂に訴えかけた。

 

「あなた達なら、現状に甘んじることなく現実と共に戦えると──そう思った私が馬鹿だった……」

 

 ヘルメットごしに、冷たい視線が彼女達に突き刺さる。

 

「代わりは幾らでも居る。あなた達は私達の後姿を、指を加えて見ているといいわ」

 

 ヒナが身体を翻す。

 自警団の寄り合い所を後にしようとした、その時。

 

「お前に何が分かる……私達だって大人にコケにされ、馬鹿にされているのはわかってる。

 だけどどうしようもないじゃないかッ!!」

「なぜ?」

「なぜって……」

「なぜコケにされてると分かっていて、それに甘んじているの?

 なぜ馬鹿にされてるとわかっていて納得しようとしているの?」

「私達はバカだし、弱いし」

「バカで弱いからなんだって言うの?」

「少ないながらも身を寄せ合って群れなきゃ生きてけないんだよ!!」

 

 それが、不良たちを取り纏め、姐御として慕われている少女の本音だった。

 だが。

 

 

「だから、何だって言うのよッ」

 

 

 突然の怒声、その場がしんと静まり返った。

 

「だから慰めて欲しいの? だから頑張ったねって言ってほしいの?

 もう一度問うけど、先代の生徒会や先輩達、後輩たちにあなた達は恥ずかしくないの?」

 

 彼女達の未来は先細りだ。

 連邦生徒会がくれるのは無関心で、無秩序だ。

 悪い大人たちの、他人から奪うしかない不良たちの餌食になったら、それで終わりなのだ。

 

「あなた達がこれまでやってこれたのは、運が良かっただけ。

 それがこれから先も続くという保証は、いったい誰が出来るというの?」

 

 ヒナの問いに、涙を流して悔しがる者が幾人も居た。

 

「現実を見ず、責任を次代に先送りして、仲良しこよしで自分たちの学校で卒業まで過ごせば楽でしょうね。

 だけどもし、誇りある生き方をしたいのならば、現実を見なければならない、傷を負う覚悟をしなければならない。戦うと言うことはそういうことよ、失敗したって同窓会であとから笑えば良い」

 

 ヒナはもう一度、彼女達を見渡した。

 彼女達の殆どがもう、覚悟を決めていた。

 

「そして、私が居る限り、失敗なんて無い。

 私があなた達の“安心”になるのだから」

 

 ヒナは彼女達に手を差し伸べて、言った。

 

「──さあ、友達になりましょう?」

 

 

 

 

 

「誇りある、生き方……」

 

 農業高校の生徒会長は、意を決して顔を上げた。

 

「ちょ、チョコレートはお好きですか!!」

 

 震えながら、生徒会長が言った。

 

「は?」

「きゅ、急になんだね?」

「外からきた本に書かれていたんですけど……」

 

 呆気に取られる企業の役員たちに、彼女は話し出した。

 

「あるところに、チョコレートが大好きな学生が居たそうです。

 彼女はチョコレートが好きすぎるあまりに、原産地へと飛行機で足を運んだそうです。

 しかし、原産地でカカオ豆を栽培している村に赴いた彼女達は驚きました。

 彼らは、自分たちのカカオ豆が何になるのかも知らなかったのです」

「……」

「彼らの作るカカオ豆は、政府によって買い叩かれていたんです。

 その現状を嘆いた学生は、カカオ農家を説得し、現地にチョコレート工場を建設し、政府にこう言ったそうです。カカオの質を上げるから、買取価格をあげて欲しい、と。

 彼女の情熱は、後にチョコレートの新たなブランドを作り上げたそうです」

 

 生徒会長は立ち上がり、大人たちに頭を下げた。

 

「私達に、もっといい野菜や果物を作る機会をください!!」

 

 役員たちは、困惑したように顔を見合わせる。

 

「今は技術も進歩して、昔より質を上げることもできますッ。

 私達は御社から手を切りたいわけではなく、これからもより良いパートナーとして、共に手を取りたいんです!!」

 

 彼女達にとって、大人は巨大な敵だった。

 だから、戦い方を選ばなければならない。

 自分たちの強みを、見せつけなければならない。

 

 そして敵対するだけが、戦うことではないのだから。

 

「……頭を上げなさい」

 

 この場で一番偉い役員が、そう言った。

 

「新たなパートナーシップを結びたいというのなら、最初からそう言いなさい」

「まったく、これだから社会経験の無い子供は」

「質を上げるにしても、その方向性も決めなければなりませんよ。オーガニックにこだわるのか、希少価値を高めるのか、その辺りの戦略は決まっているのですかね?」

 

 大人たちは意外にも、彼女の熱意に理解を示した。

 

「え、いえ、まだですけど……」

「では質を上げられるという商品をリストにして後日提出してください」

「あ、一応小規模ですけど、実験的に前々から高品質の農作物を作ってて」

「では後日そちらに職員を送り、検証をさせてもらいますがよろしいですね?」

「は、はい……大規模化に対してのコストとか、資料にして送ります」

 

 相手は海千山千の商売人。

 彼らは、生徒会長を商売相手と認めたのだ。

 

 ある意味、彼らはビジネスに誠実だった。

 

 

「それでは、また。これからもよろしくお願いします」

 

 生徒会長とマタギの生徒は、本社ビルから見送られて帰路に付く。

 

「疲れた……この後、他の同盟校と農作物の輸出ルートも協議しないといけないし、もうやんなっちゃうよ」

 

 そんな頼りない生徒会長の背中を見て、マタギの生徒は少しだけ微笑んだ。

 彼女の護衛をする自分が、少しだけ誇らしくなったのだ。

 

 

 これは、弱者たちのささやかな叛逆の一幕。

 勿論、このように穏便に済んだ例ばかりではない。

 

 それでも、彼女達は誇りある生き方を選んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 




また一か月以上時間が空いてしまいました……。
作者は熱しやすく冷めやすい性質でして、最初期の更新速度を見ればそれは明らかなのです。
ですが、ブルアカへの愛はまだ冷めてはません!!

ちなみに今回のヒナの演説は、神ドラマだったリーガルハイのオマージュだったりします。

次回はそろそろ、ゲーム開発部のゲームフェスの後編をやります。

あと、魔法学校編とか書こうと思ってたんですけど、この調子じゃ書ききれないかもしれないのでお蔵入りにしようと思います。需要があるなら書きますが、あまりそう言うのは求められてない気がしますし。
その代わり、そろそろ裏アリス編か四章のイフ展開のどちらかを書きたいですね。

一応アンケートを設置してみようかな。あくまで参考にする程度であることを、ご了承ください。

ではまた、次回!!

次の幕間で、どちらを読みたいですか?(あくまで参考程度に

  • 裏アリスルート(或いはアリス曇らせルート
  • イフ4章ルート(カヤクーデタールート
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