がちゃ、がちゃがちゃがちゃ!!
──K.O.!!
──You lost!!
「あー、クソ!! また負けた!!」
ダンジョンを囲むように設置されたポーンマスギルドの休憩室。
そこにあるテレビで、ネルは格闘ゲームをしていた。
「ネル先輩、レバガチャを卒業しないと上達できませんよ」
「あーもう分かってるっての!! 分かってるけど!!」
「ネル先輩は画面端に追い詰められると、焦る傾向にあります。
この状況に陥った場合、88%の確率で強硬突破をするので行動が読みやすくなってしまいます」
対戦相手をしているのは、機械神の神像だった。
無機物のくせして、人間以上に滑らかにコントローラーを操っている。
「ネル先輩は戦闘センスは抜群なのに、どうしてこう格ゲーは下手くそなんでしょう?」
熱しやすい性格だからでしょうか、とアリスの神像は首を傾げた。
「悪かったな、下手くそで!!」
「いえ、アリスの教え方が悪いんです。
アリスもいつか弟子を取らなければならない身。師匠が教えられません、では済みませんから」
不貞腐れているネルに、アリスはそのように返した。
『この間はあのチビに後れを取ったから、こっちで借りを返してやる!!』
と、コントローラー片手に彼女が対戦相手に神像を選んだのはちょっと前の事。
こっちのアリスは今ゲーム開発に勤しんでる為、代わりにこのアリスが遊び相手をしているのだった。
「うーん、あ、そうです!!
こうなったら私の師匠を参考にやってみましょう!!」
うおっほん、とアリスは咳払いすると。
「おいチビ、どうして教えた通りにできないんだよ」
「は?」
「その小さな脳みそには筋肉しか詰まってないのかい?
電極を繋げばビクビク動く分、カエルの方がマシなんじゃないのかな?」
「んだとてめぇ!!」
「あれ、やっぱり、なんか違うような……」
アリスの時はこれで出来たのに、と更に小首を傾げるアリス。
「あー、やめてください、関節は、関節はッ、ギブです、ギブ!!」
「石ころのくせに痛みはあるのか、おらぁ!!」
「あ、いえ、ここでネル先輩を返り討ちにしたら、本当にネル先輩の取り柄は小さくて可愛いことぐらいしかなくな──」
「いい度胸だてめぇ!!」
休憩室でドタバタする二人。
ここに詰めてる職員が休憩しにやってくると、またやってる、と呟いた。
「あ、良いこと思いつきました」
「またかよ」
「今度こそ名案ですよ!!」
ドヤ顔を披露するアリスを、疑わし気に見るネル。
「それでは早速、えーい、ポゼッション!!」
彼女が両掌をネルに向ける。
アリスの石像が滑らかさを失い、石の質感を取り戻す。
「お前、一体なにを──」
その直後だった、ネルは身動きが取れなくなった。
いや、違う。
「わーい、私がネル先輩です!!」
ネルは万歳して喜んだ。
いや、彼女はネルではなかった。
『な、何をしやがった、チビ!!』
「アリスはネル先輩に憑依しました。ぴろりろりーん、アリスはネル先輩の身体の主導権を獲得しました!!」
『か、返せよ、お前!!』
「ネル先輩、意外と大胆な下着を着てるんですね……」
『いい加減ぶっ殺すぞこのヤロウ!!』
内なるネルを無視して、アリスは体の具合を確かめると。
「さて、エロゲーなら美味しシチュですけど、今日はこっちなので」
アリスはそのままコントローラーを手にした。
早速ネット対戦モードを始めた。
「このキャラは、この予備動作の際に、対空狩りをします」
『今のタイミングで良いのか?』
「はい、感覚は共有しているはずですので、体感できているはずです。
アリスはよくしびれを切らした師匠に操られて無理やり実践させられました」
順調に対戦相手をボコボコにしていくアリス。
「あっそうだ、今のうちにネル先輩が言わなそうなことをスマホで録画しておこうっと……おや?」
『おい、なにしようとしてやがる!!』
「ネル先輩見てください、これ、チートですよ」
アリスはマイペースに、今の対戦相手がチートを使っているのを見破った。
「ほら、ここ何度も投げ抜けされてます。
あとオートガードもでしょうか。この反応速度は人間技じゃありません」
『なんだ、つまんねーマネすんのな』
ネルは身体の主導権があれば、落胆したように溜息を吐いていただろう。
ズルして勝とうと言うダサい真似を、彼女は容認できないのだ。
「ふふふー、しかし魔改造でアリスに挑むなんていい度胸です」
アリスは片手でコントローラーを操りながら、空いた片手で人差し指を立ててクルクル回す。
「
それは力のある言葉。
「挿絵も会話も無い本に、何の役に立つのでしょう?*1」
片手で遊んでいるアリスは、なすすべなくチートプレイヤーにラウンドを取られる。
だが。
『は?』
ネルは目を疑った。
ゲームの画面の操作キャラの立ち位置に、アリスが居たのだ。
画面の中のアリスは、両手でピースをして笑顔を向けて自己主張している。
『なにやったんだ、お前……』
「このゲームでチートを使用しているプレイヤーの対戦相手の全てが、アリスになるようにしました」
しかも、ゲームの制限時間は精々数分なのに、『∞』と表示されている。
「この状態で、相手のポーズ画面も封印しました。相手は物理的にゲームを切断する以外、この状態を抜け出せません」
最早ネルの身体はコントローラーすら持っていない。
画面の中のアリスは対戦相手のキャラを高い高いしたり、ATフィールドで防御したりとやりたい放題だ。
「ズルをしてる相手をおちょくる時にしか得られない栄養素はあると思います♪」
『すげー性格悪いぞ、お前』
サラッと行われる神の所業に、飽きれるネルだった。
「さて、私が教えた通りにネル先輩ができるか、やってみましょう」
「……おう」
ネルはいつの間にか己の身体の主導権が戻っていた。
とりあえず、プラクティスモードで実践してみることにした。
ちなみに、これは余談であるが。
二人のプレイしているゲームの大会が後日あったのだが、ほとんどの試合でアリスが画面でわちゃわちゃしてるだけ、みたいな珍事が起こったとか起こらなかったとか。
§§§
「う、うう、またラウンドを取られました!?
最近のネル先輩は手強いです!! ユズ、助けてください!!」
「うーん、まるで別人みたいな上達速度だよね。別の人がやってたりしないかな?」
「ネル先輩はそんなことしません!! ネル先輩からプライドを取ったら、可愛くて強いところしか残りません!!」
「そっかー……」
こっちのアリスがネット対戦しているのを横で見ながら、仲が良いなぁ、と思うユズだった。
「先生、アポが取れました。先方と繋がっています」
「“うん、ありがとう”」
まだマネージャーみたいなことを続けているリオから、タブレット端末を受け取る。
フェスへのゲームの納品は終わった。
後は結果を待つだけだ。
だけど、今日は念のためにゲーム開発部の面々を先生は呼んでいた。
「先生、どうぞ」
「“ありがとう、トキ”」
先生はトキから紅茶を受け取り、口を付けてから深呼吸した。
「“……お待たせしました”」
『よい、こちらも暇だ』
エメラルド製のタブレット端末から、先生が忘れもしない声が発した。
魔王、アダム。
彼は退屈そうに、胡乱気にカメラ越しに先生を見ていた。
「“まず、私の生徒の為にお時間を頂き、ありがとうございます”」
『よい、と言ったぞ』
縦に割れた爬虫類の瞳が先生を射抜く。
生きた心地はしない。
『下らない礼節や世辞はよせ』
「“では率直に。何ゆえに子供たちに貴方の名前を使用を許可したのですか? もし失礼がありましたら、と”」
そう、ゲーム開発部は自身のゲームに彼を登場させた。
しかも先生も知らないうちにコンタクトを取って。
先生としても、これはお伺いを立てずにはいられないわけである。
『心配性であるな。では逆に問うが──』
竜の瞳が、細まった。
『なぜ、もっと自分たちの偉業を喧伝しないのだ?』
「“は?”」
『貴公らは、仮にもこの我を退けたのだぞ。
この半神半竜の我が身を。偉大な邪竜を父に持つこの我を、だ』
彼はむしろ、先生の態度こそに苛立っているようだった。
『竜殺しは最大の名誉であるぞ。
それともなにか? この我なぞ、倒したところで手柄にもならぬと言いたいわけか?』
「“いえ、決してそのようなことは……”」
『この間の歓待は実に満足のゆくものであった。
我は謹慎中の身であるがゆえに控えたが、我が兄上達や弟妹にこのことを自慢したくてたまらなかった。
この身に、この身体に傷をつけるに値する勇者に相対したのだ、と。
だというのに、なんだ貴様のその弱腰は』
魔王は、自分と相対した生徒達を褒め称えていた。
だが結局のところ、それは先生にとって失敗だった。生徒をただ、危険に晒しただけだった。
そこに、両者の価値観の食い違いが発生していた。
『生徒が傷つくのは嫌か? 戦い、倒れるのを見るのが嫌か?
よく覚えておくがいい、貴様のそれは驕りであると。
自らの意志で、戦うことを選んだ者に女子供もありはしない。
そしてその意志を軽んじることこそ、彼女達への最大の侮辱なのだ』
彼の言葉は正論ではあった。
「“それでも、私は彼女達に危ないことをしてほしくないのです”」
『ならば、最初から銃を取り上げるべきであったな』
この話に決着は無い。
だからそれで終わりだった。
『話はそれで終わりか?』
「“……はい”」
魔王はどのようにゲームに登場させても、文句は言わないだろう、と先生は確認が取れた。用件はそれで終わったのだ。
「あの、一つだけ良いですか!!」
通信が途切れようとした時、アリスが手を上げた。
『よい、許す』
「アリスはキヴォトスの勇者に成ります。
もし将来、貴方がまたこの世界にやって来るなら」
アリスは無垢に、こう言った。
「今度は、アリスだけで貴方を満足させてみせます!!」
「“アリス……”」
魔王が次にやって来れるのは、二百年も先だ。
そしてその時まで、彼女は変わらずにいるつもりなのだ。
『よかろう。その時になるまでどうのように自体は転ぶか分からぬが……次の200年の退屈を慰めるには十分な楽しみだ』
魔王が、初めて表情を浮かべる。
それは、笑みだった。
『ああ、実に楽しみだ……』
そして、通信は途切れた。
「あ、でも、アリスが人間の身体を貰えたら、200年後まで生きられるでしょうか……」
そんなことを呟くアリスに、そうだね、と先生は苦笑した。
しかし、先生の脳裏にはかつてあの蛍光灯の少女に言われた言葉が脳裏に過っていた。
そう、他所の世界の神々が、アリスに忖度することなどありえない、と。
§§§
そして、結果発表の当日。
先生はゲーム開発部の部室に赴き、関係者と共に結果を待っていた。
「……十二時ジャスト。時間です、先生」
リオの言葉に促されるように、先生はタブレット端末を起動した。
「先生、どう、どうだった?」
「早く、早く教えてッ」
才羽姉妹に急かされ、先生は受賞作品リストをスクロールする。
上位100位以内に、彼女達の作品は──存在しなかった。
「“274位……だ……”」
それが、彼女達の現実だった。
「手を尽くしたけど、やはり届かなかったわね」
ゲームの完成度という壁。
広報やそれ以外の戦略を駆使しても、本当に面白い神ゲーの軍勢の前には届かなかった。
「先生、総合順位以外の受賞等はどうですか?」
「“う、うん、確かめてみる”」
先生は絶句して固まっている四人から目を逸らすように、リオの言葉に従った。
彼女達の作品の項目を見ると、いくつかの賞を受賞していた。
“リミテッド60賞”──文明レベル69以下の作品で、最高の順位。500万円。
“話題の作品百選”──最も話題に上がった100のゲームに認定。100万円。
“ワールドイノベーション賞”──既存ではない革新的な世界観のゲームに送られる賞。50万円。
“アンダー18賞”──十八歳以下の出品の中で、最高の順位。20万円。
“ベストインディーズ賞”──個人・サークル製作の作品の中で、最高の順位。50万円。
「200万の作品のうち、274位。千項目ある受賞項目のうち、五つに該当。
順位による賞金が100万円で、受賞による賞金を合わせると、合計……820万円ってところね」
「“あと、170万円か……”」
ハッキリ言って大健闘だった。
むしろ、十分以上にに評価されていると言えた。
「ごめんなさい、私の力が及ばないばかりに」
「そ、そんなッ……私達も、自分たちだけってことに拘らなければ、もっと……」
頭を下げるリオに対して、ユズはあたふたとそれを否定する。
そう、彼女達の友人で、協力を申し出る生徒は数多くいた。
だけど、今回は自分たちだけでやると、四人はそれを断った。
それが彼女たちなりの、問題の向き合い方だったのだ。
「あなた達は十分に健闘したわ。
ミレニアムの実績としては十分なほどに。もしよければ残りの金額はこちらが負担しても──」
「“ちょっと待って、リオ”」
先生は早まる彼女を止めた。
「“まだ、特別賞が残ってるかもしれない”」
そう、結果発表されただけで、授賞式が終わっていない。
先生も先生なりに情報収集をして、この授賞式の際に受賞項目に無い特別賞が女神から直接授与されることもあることを知っていた。
「希望的観測ね……だけど、こんな時は縋りたくなるわ」
授賞式は生放送で、もう既に始まっている。
最大の注目イベントなのだから、当然だろう。
そして面々は、配信画面を表示した。
『それでは格闘ゲーム部門一位、前へ』
画面の向こうでは、まるでピラミッドのような荘厳な場所で、授賞式が行われていた。
受賞者たちは神官と思われる黒い祭服の人々に、賞状を渡されている。
頂上の神座に座る女神メアリースが、その光景を見下ろしているだけだった。
『それでは次に、RPG部門一位、前へ』
神官に呼ばれ、受賞者が順番に賞状と賞金を受け取る。
それは儀式であり、神聖な神前での催しであった。
「ねえ……なんで」
その光景を見て、モモイは呟いた。
「なんで、メアさんはこんなに、つまらなそうにしてるのかな……」
会場内に幾つものカメラが設置してあり、順番に撮影位置が入れ替わっている。
そして、上座に座る女神は、無表情で儀式の推移を見守っていた。
神ゲーの祭典という自分が主催した式典なのに、彼女は少しも嬉しそうにしていなかった。
「お姉ちゃん、式典の最中なんだから当たり前でしょ」
「で、でも、私はこの受賞作品のラインナップを見るだけで、めちゃくちゃ楽しいよ?
メアさんも、心躍ったりしないのかなって……」
ちなみに出品作品は全て無料で遊び放題なので、今日にいたるまで彼女達ゲーム開発部は遊び倒した。
どれもが神ゲーだった。思い出に残るような作品ばかりだった。
「メアリース様は遊んでないんでしょうか……」
「忙しいから、そんな暇は無いのかもね……」
アリスは小首を傾げ、ユズはしりすぼみになりながらそう言った。
「……まあ、実際、このフェスの運営をしているのは彼女の神官たちみたいね。
主催者が一々作品を吟味しているわけではないと思うわ」
「“そうなんだね……”」
先生の脳裏に、ふと先日調べた撃墜王事件についての記事が蘇った。
記事にはこうあった。
『だって、メアリース様がつまらなさそうだったから』
レース中に十数名の選手を墜落死させて己の最速を証明した生粋の殺人鬼は、神前でそう述べたそうだ。
他人に共感できない、サイコパスそのものの所業。
記事を読むだけで、背筋がぞわりとしたのを、先生は覚えている。
『以上で、各カテゴリー1位の受賞を終えます』
先生の思考がずれている間に、授賞式は大詰めを迎えようとしていた。
『総合一位の受賞を前に、恐れながらメアリース様。特別賞の授与などはございますか?』
神官達が、頭を下げて神の言葉を待つ。
『今回は、ないわ』
『左様ですか』
それが女神の判断だった。
彼女の目に留まる作品は無かった。
一同が肩を落とした、その時だった。
『ああそうだ。
でも、今回から新しい部門のカテゴリーを作ることにしたわ。
……その受賞が終わっていないわ』
『かしこまりました。新たなゲーム部門の創設でございますね』
『ええ、今この場で発表したのは、混乱を避ける為よ』
そして、女神はこう言った。
『我がメアリース・グランド・ゲームフェスタに新しいゲーム部門を解説することにしたわ。
今期はその一位のみを受賞とし、次回からの詳しいレギュレーションを発表とするわ』
会場は騒然となった。
特別なレギュレーションを想定する新しいゲーム部門の開設。
しかも大会中に発表なんて、前代未聞だった。
『新しいゲーム部門とは、──クソゲー部門よ』
は? とそれを見ていた先生達一同は思った。
『知っての通り、ゲーム開発とは暗黒の時代を迎えている。
ゲームの開発とはその昔、企業のモノだった。
多くのゲーム文化を引っ張る、黎明の次代よ。
しかし、その内容は玉石混合。そしてそれを選評する文化が産まれた』
誰もが、神の言葉に耳を傾ける。
『だけど技術の発展や時代の進歩により、個人製作やサークル単位でのゲーム開発が可能となり、それらを発信するプラットホームが台頭するようになった。
そう、もはやゲームとは言えないような粗末な出来の作品が、公然と販売されるようになった。
そうなってはもはや、どれが真のクソゲーかなどと、選ぶことなどできない。
そうして、その文化は閉ざされることになったわ』
或いは、その文化そのものの衰退。
神はそれについて言及した。
『私は文明の女神として、この文化を保護することに決めた』
それが、彼女の神としての仕事だった。
『故に、今回の出展作品でぶっちぎりのクソゲー、“テイルズ・サガ・クロニクル”をクソゲー部門の初代一位として、賞金200万円を授与するものとするわ』
配信画面のコメント欄が、爆速で流れ始めた。
流石メアリース様、オタクの気持ちをよくわかってる、等々。
『そう言うわけで、キヴォトスゲーム開発部の代表はすぐにこの授賞式に参加しなさい』
画面越しに、先生達と女神の視線が合った。
「う、嬉しくないよ!!」
「こんなの公開処刑じゃん!!」
「あ、あ、あう……」
涙目になるモモイとミドリ。ユズは顔が真っ青になってふらりと倒れそうになったところを、先生が受け止めた。
「“申し訳ありませんけど!! 生徒達の体調が優れないので出席は辞退致します!!”」
『そう、仕方ないわね。でも出席しないなら賞金は無しよ。それとも私の顔に泥を塗るつもり?』
「“そう言う問題ではありません!!”」
会話が成立していることは普通に恐怖だが、先生はこんな大衆の前で生徒を辱めるようなことは受け入れがたかった。
『問題ありません、今来ました』
「あ……」
アリスは見た。
式典会場に、ミレニアムの制服を纏ったもう一人の自分が現われたのを。
『……まあ、いいわ』
ピラミッドみたいな階段を上り、画面の向こうのアリスは賞状と賞金を直接女神から受け取った。
そのまま彼女は受賞者の列に歩いて行った。
この後、また授賞式で一悶着あったが、それはまた別のお話し。
そして後日。
あるいは、このお話のオチ。
不本意ながらもなんとか900万円を工面できたゲーム開発部は、アリスの人間の身体を作ってもらうことができた。
「これが、アリスの……」
「外見的特徴は寸分違わず再現できたはずよ」
SF作品に出てきそうなガラス張りの円筒状のポッドの内側に満たされた液体の中に、アリスそっくりの身体が浮かんでいた。
「この装置を頭に付けなさい。
すぐにあなたの人格をそちらに移動させるわ」
メカメカしいヘッドセットをアリスは頭にセットする。
「それでは、始めるわよ」
これらを持ってきた女神は、装置を起動した。
ミレニアムの一室を借りたアリスの人間化。
その外で、残りゲーム開発部の面々と先生は待機していた。
「アリスが人間になったら、何をしようか」
「何も変わらないんじゃない? 今のままでも普通にご飯食べてたし」
そわそわしている双子は、そんな会話を交わしていた。
「賞金の残りも有るし、皆で何か食べる、とか?」
「三十万円くらい残ってたよね、全員の携帯ゲーム機を新調して新しいソフトを買ってもお釣りがでるし、美味しものも食べたいね!!」
「じゃあ、どこからデリバリーしようか」
そこで外食に至らないあたり、ユズらしいと皆は笑った。
そんな時である。
「うわーん!! アリス、こんなの嫌です!!」
中から、そんなアリスの声が聞こえたのである。
「アリスッ、どうかしたの!?」
「もしかして、失敗とかしちゃったの!?」
「だ、大丈夫?」
三人に続いて、先生も部屋の中に突入する。
「“アリス……アリス?”」
「モモイ、ミドリ、ユズ、先生……」
アリスは人間になっていた。
機械の身体は、椅子の方にうな垂れてピクリとも動かない。
「みんな、光の剣が、光の剣が……」
そして、彼女が泣きわめいている理由がこれだった。
「光の剣が、持ち上がりません!!」
アリスは己の愛銃たるレールガンを持ち上げようとして、一ミリも動かせないでいた。
「どうして、どうしてですか、メアリース様!!」
「どうしてもなにも」
女神は何を言っているんだ、と言う表情でこう返した。
「人間が、約140㎏もの鉄塊を持ち上げられる訳ないじゃない」
余りのド正論に、アリス以外の全員は何も言い返せなかった。
アリスは何の議論の余地もなく、完璧に“人間の身体”になっていた。
「こんなの聞いてません!!」
「だって、言わなかったじゃない」
流石に不憫だと思ったのか、モモイがこう言った。
「あのー、そこはサービスとかしてくれたりは?」
「生活保障で豪邸に住まわせるような、そんな不公平なことをするわけないでしょう?
仮に事前に申告しても、私は断ってたでしょうね」
そう、最初から最後まで、彼女は公平だった。
「こんなの詐欺です、嘘吐きです!!」
「わけが分からないわ。私に願う者はいつもそう。
いつだって話が違う、こんなの聞いてないって、自分の説明不足を棚に上げてそう言うのよ」
こればかりはどちらも悪くないので、何とも言えない面々だった。
『そう言えば、聞いたことがある。主上の異名は数ある。“ディストピアメーカー”もその一つだが、こんな異名で揶揄されることがある』
スマホから、男のアバターが先生にこう言った。
『“モンキーハンド”』
結局、アリスは元の機械の身体に戻ることにした。
ちなみに人間の方の身体は、後日有効活用するということで機械神の方が持って行った。
結局、ゲーム開発部の面々はなにひとつ変わることなく、これからも青春を謳歌するのであった。
ようやく、この話のオチが付きましたww
ちなみに最初からこうなる予定でした。
このままシームレスで、アリス裏ルートに移行しようかなと思ってたので、アンケートでちゃんと需要があって安心してます。
アリス裏ルートは、完全にキヴォトスから離れてお話が展開されます。
また、ゲーム開発部の面々に思い入れがあると、辛い場面があります。
それでも、神となったアリスを登場させた以上、避けることはできないと思います。
それでは、次章『そして彼女は魔法を見つけた』を始める予定です。
イフ四章ルートを期待していた方々は、もう少しお待ちください。悪しからず。
次の幕間で、どちらを読みたいですか?(あくまで参考程度に
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裏アリスルート(或いはアリス曇らせルート
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イフ4章ルート(カヤクーデタールート