アリス裏ルートの始まりです。
このルートは、アンダーテイルのGルートのような、ダークファンタジーです。
血と、死と、悲しみと憎しみが溢れる、そんなお話です。
そう言うの好きじゃない、という読者の方々は読まなくてもオッケーです!! 大筋には関係無いですし!!
では、それを理解していただいたのなら、本編どうぞ!!
導入
今日も今日とて、先生は
先生は最近新設……もとい、新しいタイプの不良生徒の対処に当たっていた。
「ははは、ゆけヘルバウンド!!」
不良生徒が広げた魔法のスクロールに書かれた大型犬が、まるでとんちのようにぬるりと実体化し、先生率いる生徒達に飛び掛かる。
「いかずちの杖をくらえ~」
不良生徒が魔法の杖を掲げると、小規模な爆発が発生する。
「いかずちの杖を使ったら発生するのはベギラマでしょうが!!」
今日、たまたま当番だったモモイが銃撃で反撃しながら煤だらけにされた怒りのままにそう叫んだ。
「お姉ちゃん、ワンちゃんを対処したよ!!」
「ナイスだ、我が妹よ!!」
双子の連携が敵の対処を終えたところで、最終ウェーブ。即ち、ボス戦である。
「いけー、ゴーレム召喚だー!!」
不良たちは今度は魔法のスクロールで土くれの巨人を召喚してきた。
「擲弾で足元を奪うよ!!」
先んじてユズがグレネード弾をゴーレムの足元にお見舞いする。
「あれ、ここは妖精の笛を使う場面では?」
「そんなお約束は良いから、アリス、早く撃って!!」
「あ、はいッ、──光よ!!」
アリスのレールガンがゴーレムをぶち抜く。
切り札を失った不良生徒達を相当し、無事任務完了である。
「“最近、ダンジョン由来のアイテムを使用した犯罪が多い気がする”」
『多い気がするじゃない。実際問題、多くなってる』
外回りを終えた先生は、報告書がポーンマスによって自動生成されるのを見ながらそう呟いた。
『連邦生徒会が把握しているダンジョンは、大小合わせて11か所。
当然、未発見なダンジョンを悪党どもが独占し、出土してるアイテムを売りさばいている可能性が高い』
男のアバターの言葉に、先生は溜息を吐いた。
『流石に、アリスに苦情を言ったらどうだ?』
「“一応、悪気はないみたいだし……”」
『それで仕事を増やされてちゃ世話ないがな』
彼は先生の甘さに肩を竦めていると、スマホに着信音が鳴った。
『おや、先生。黒服から電話だ』
「“……分かったよ”」
先生は廊下に出てから、電話に出た。
『先生、私です』
「“……何の用かな?”」
『そう警戒しないでください。
今回は単純に仕事の依頼ですよ』
ゲマトリアの連中から仕事の依頼。
どう考えても嫌な予感しかない。
「“断る、と言ったら?”」
『おや、では連邦生徒会からの依頼としてそちらに回すことになりますが、先生としてはそちらの方が建前としてやりやすいでしょうか?』
一体どこにそんなコネがあるんだ、と思いながらも先生は溜息を吐いて、用件は、と問うた。
『そう心配なさらずとも、先生も興味を持つ仕事内容ですよ。
実は先日から、──マダムと連絡が取れないのですよ』
「“なんだって?”」
マダム。魔女、ベアトリーチェ。
ゲマトリアの一員にして紅一点。
アリウスの生徒達を洗脳し、支配していた先生の敵だった女だった。
「“彼女が、行方不明?”」
『ええ、先日の定期的な会合に参加しなかったものですから、一応連絡を取ったところ音信不通でして。
これは彼女に何かあったか、或いは何らかの理由で身を隠したか……。後者であれば、恐らく先生にとって不都合になるのではないでしょうか?』
先生は不本意ながらもゲマトリアの怪人達と週に何度か懇親会みたいなことしている。
そしておぼろげながら、彼らの現状を把握していた。
ベアトリーチェは先生と他のメンバーが慣れ合っているのを侮蔑的な発言をしているらしく、彼ら三人がスワンプマンと言う作品を産み出したことに思うところがあるらしかった。
尤も、黒服たちに言わせれば、あれは個人的に制作に携わっただけで、組織としての成果には挙げてはいない、とのことだったが。
「“わかったよ、こちらでも探してみるよ”」
『期待していますよ、連邦捜査局シャーレの先生』
そして、黒服からの通話は切れた。
先生は、各地の生徒達に連絡を取り、心当たりがないかを訪ねた。
特にトリニティの反応は顕著で、旧アリウス自治区周辺のカタコンベは念入りに捜索してくれたらしい。
ポーンマスギルドにも特徴を伝えて捜索を依頼した。
人探しを専門にしているパーティが幾つも出動したらしい。
そうして、一週間が過ぎた。
先生も各地を歩き回って、ひとつだけ分かったことがある。
「“少なくとも、キヴォトス内において人間の生活圏に彼女の痕跡は見つからなかった”」
先生はゲマトリアの面々の前で、そのように報告した。
「これは、参りましたね……」
普段のうさん臭さは鳴りを潜め、本当に参っているような黒服の反応。
「我々も我々の伝手で捜索したが、どこにも痕跡は無かった」
「当然、キヴォトス外部への渡航記録もありません。彼女の申請している工房も直接訪ねましたが、気配すら感じられませんでした」
「そう言うこった!!」
マエストロも、ゴルコンダも、打つ手なしと示した。
「“彼女は一体、どこにいったんだ……”」
流石に人知れぬ秘境に引きこもられれば探しようがないが、それを言っては始まらない。
手掛かりひとつ見つからない。
捜索は頓挫しかけた、その時だった。
「マスター、ブラッドオレンジジュースを下さい」
いつものバーの席で対面していた大人たちは、カウンター席に目を向けた。
そこに、アリスが座っていた。
「ああ、先生。いつもこんなところで飲んでるんですね!!
アリスも一度で良いからこんな大人な雰囲気のバーでお酒を呑んでみたかったんです!!」
「“……どうしたのかな、アリス”」
尋ねるまでもなく、彼女が
「実は、ごめんなさいを言いに来ました。
私、ベアトリーチェさんの行方を知っているんです。
こんなに大事になるとは思わなくて、すぐに言いづらくて」
これには、大人たちも顔を見合わせる。
「……では、マダムはどこに?」
黒服の問いに、はい、とアリスは話し始めた。
§§§
「つんつーん、色彩さんつんつーん」
神となったアリスの本体とも言えるそれは、キヴォトスにおける上位の位相に存在している。
あらゆる時間や空間、因果律の概念から逸脱した彼女は、暇つぶしに色彩をつついてちょっかいを掛けていると。
「あれ、これってもしかして、召喚ですか?」
金魚すくいで使うポイを取り出して遊ぼうとしていたアリスは、急激に下位の位相にひっぱられる感覚に襲われた。
「異世界召喚は勇者のたしなみです!!
そーれ、レッツゴーです!!」
暇を持て余したアリスは、引っ張られるままに意識をそちらに向けた。
「あれ? ここは……」
アリスが召喚に応じ、周囲を見渡すと彼女は小首を傾げた。
そこは、どう見てもゲーム開発部の部室だったのだ。
だが、彼女はすぐにその違和感に気づいた。
ここに在る調度品の全てが、新品ばかりだったからだ。
振り向くと、そこにはモモイ、ミドリ、ユズの──姿を模ったマネキンが置いてあった。
「なるほど、召喚術と言うのをよくわかっていますね」
「まさか、こんなに簡単に召喚に成功するとは思いませんでしたね」
ある種、調和のとれた空間に異物が混入する。
ドアを開けて、魔女が入室したのだ。
「こんにちは!! えっと、ベアトリーチェさんでいいですか?
ゲーム開発部の部室を、アリスが存在する部屋と定義し、同一存在である私を招いた、と言うことでしょうか」
要するに、この部屋は神社と同じ役割を果たしている。
この部屋は神を奉る社であり、祭壇なのだ。
ここには神たるアリスが居て当然な場所だから、そこに呼び出すことができる。そういう理屈の魔術だ。
「ええ、そうですとも。そして、抵抗は無意味です」
「ああ、これのことですか」
当然ながら、アリスが存在するならば、その器も存在しなければならない。
アリスは他の三人と同様に置かれていた、彼女を模ったマネキンに意識を封じられていた。
「あ、これはアリスの髪の毛と同じ材質ですね?
ミレニアムの制服も同じサイズで、製造場所と製造日時まで揃えていますよね。これなら召喚できない方がおかしいですよ」
「しかも、一度モモイという少女が袖を通した制服を使用しています」
「なら、完璧ですね」
儀式的な手順を踏み、似た物を用意する。
科学的には無意味な手順でも、魔法的には重要な意味を持つ。
「シューティングゲームでお馴染みの東方Projectの小説版に、神道による神降ろしでロケットを再現する話がありますが、これもそれと同じですね。
機械の神を、科学的かつ魔法的に再現し、召喚した。
素晴らしい発想、そして知識と技術だと賞賛します!!」
アリスは手放しで目の前の魔女を褒め称えた。
「それで、アリスに何を聞きたいんですか?」
アリスは足元を見た。
それは悪魔を召喚する際に用いる、悪魔を内側に閉じ込める魔法陣だった。
ついでに器であるマネキンは固定されていて身動きが出来ない。
「これはソロモン72柱、序列64番である大公フラウロスを閉じ込める魔法陣ですよね?
フラウロスは魔法陣の内側に居る限り正直に質問者の問いに答える。逆に、魔法陣から離れれば必ず嘘を吐きます。
これはそれと同じ、というよりその伝承を利用した嘘を禁じる魔法陣ってところでしょうか」
「話が早くて助かる、と言いたいところですが、こうも我が秘儀を容易く分析するその態度は苛立ちを覚えますね」
「あ、不快に思ったのならごめんなさい。
それで、私に何を聞きたいんですか?」
「それでは率直に聞きましょう」
ベアトリーチェは口元にセンスを当ててこう言った。
「くぐれば誰も帰ってこないという、かの領域の最果ての門の奥の秘密について語りなさい」
「あー……」
アリスはとても決まりの悪そうな表情になった。
「悪いことは言いません。あの門の奥は絶望が待っているだけですよ」
「ですが、貴女は神となって帰ってきた。究極の叡智が眠るという、その門の先に!!」
「あれはデマですよ。知っているでしょう?
確かに実際にあの門をくぐって帰った者は割といますけど」
ぼそぼそ、とアリスは目を逸らして言った。
「ならばなぜ、帰還者の存在を誰も知らないのですか?」
「あそこで見たことを他人に言ったら、死ぬからです」
アリスは真面目な表情で、訴えかけた。
「どんな叡智も秘儀も、確かに手に入るかもしれません。
でもそれはブラックホールに手を突っ込んで、宝物を得ようとするようなモノです」
「では、貴女ができたように、その宝物を得る手段を答えなさい」
魔女の問いに、アリスは自由に動けたら頭痛を堪えるような仕草をしただろう。
「なら教えてください。なぜ、貴女はあの“聖地”の奥へと叡智を求めるんですか?」
「知れたことを。探求者が神秘と秘儀を得ることに、理由が必要ですか?
そして己の位階を上げ、上位の存在へと至るのです」
「うーん……」
アリスはそれを聞いても、眉を顰めるばかりだった。
「アリスは神になれましたけど、結局は新参者です。
存在の位階が上がっても、やることは現世と同じですよ?」
「ならばより上位の存在に、成り上がるだけのことです」
くすッ。
魔女が顔を顰める。
「くすくすくすくすッ──羨ましいです」
心底憐れむような、嘲笑うような、無垢なアリスならしないだろう、永い年月を過ごした彼女ならではの、複雑そうな表情だった。
「原初の楽園を追放された男女は、知恵の実を食べて己が裸であることに気づきました。
知恵があるから恥を理解し、知恵があるが故に争い合う。
結局のところ、知恵を得れば得るほど、無垢ではいられなくなる。
────知恵とは、穢れなのです」
くすくすくす、くすくすくす。
「私もあなたのように、無垢に知恵を求められる姿が羨ましくてたまらない。
誰かに口にしたら死ぬ。そんな知識を、知らずに居られるんですか!!」
くすくすくすくすクスクスクスクス──────!!
「その耳障りな笑い声をやめなさい!!!」
魔女の激昂に、ぴたりとアリスは笑うのを止めた。
「では最期に、あなたにとって魔法とは何ですか?
それに応えてくれれば、アリスは貴女が帰ってこれるように可能な限り助言します」
最期に、アリスは彼女に問うた。
「独占です。知恵とは独占して初めて価値がある物。
力ある大人が力を集め、運用することで真価を発揮するものです」
「そうですか、わかりました」
そうして、アリスは可能な限り彼女が叡智を持ち帰れるように助言をした。
そのついでに、門の手前まで送るサービスまでしてあげた。
ベアトリーチェが、門番からこの地のルールの説明を受けているのを眺めながら、アリスは呟いた。
「独占ですか。それはそれで正しいとは思います」
かつて、アリスが蛍光灯の少女に連れられて通った、見上げるほど巨大な白亜の門を、ベアトリーチェはくぐって行く。
「でも、その奥に居る御方は、こう答えましたよ」
「魔法の本質とは、“恐怖”である、と」
門が、閉じる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa────」
「なんで、アザトースと会話が成り立つと、思うんでしょうか……。
或いは、祟り神への信仰は、祟りを起こさない代わりに成り立つのに」
魂の底から響くような、絶叫。
アリスは言えなかった。
余りにも自信満々だったので、多分聞き入れてくれないと思ったから。
「多分、師匠はベアトリーチェさんみたいなヒト、一番大っ嫌いだと思うんですよねぇ……」
だからあんなに止めたのに、とぼやくアリスだった。
世の中には、知った相手を祟る存在も居る、それを知らずに居られる幸福をなぜ享受できないのか、アリスは理解できなかった。
「おい」
「っひ」
アリスの身体がびくんと跳ねる。
「なんで、連れて来たんだ、お前」
「ご、ごめんなさい、ししょー!!」
アリスは未知の圧力に押しつぶされて轟音が鳴り響き、その叫びは誰にも聞こえなかった。
§§§
「……まあ、おおよそそんな感じです」
アリスは実際に起こったことを、掻い摘んで説明した。
詳しく説明したら、目の前の大人たちがアリスの代わりに“おしおき”されるので、大雑把な説明しかしていない。
「……そうですか、マダムは死にましたか」
「えーと、どういう状態かはわかりませんが、死んでは無いと思います」
「どういうことですか?」
「だって、蠅を叩き潰したら、手が汚れるでしょう?」
これには、流石の黒服も絶句した。
「もしかしたら、変わり果てた姿で帰ってくるかもしれません。記憶を失ってるぐらいでしたら、幸運かなぁって」
アリスにはどうしようもできないことなので、彼女はまるで言い訳を述べるようにそう言った。
「惜しいな。マダムの才覚、視点は我々には無いものであったというのに」
「アリスも、そこまで嫌いじゃなかったんですけど、あれくらいなら可愛いものですし。残念です」
そしてなぜかマエストロと一緒にアリスもベアトリーチェの損失を嘆いていた。
「いずれにせよ、結末ははっきりしました。
先生には報酬を払い、この件からは手を引いてもらいましょう」
「そう言うこった……」
「“いや”」
虎穴に入って、虎に食い殺されたと理解したゴルコンダはこれで終わりにしようとしたのだが。
「“もし生きているのなら、連れ戻さないと”」
「せ、先生!?」
「“彼女には私の生徒達にしたことを、償って貰いたいんだ”」
先生の言葉に、アリスの顔色はどんどん悪くなる。
「や、やめましょう、先生。あなたがそこまでする必要はありません!!」
アリスが取り乱して、そう叫んだ。
「ええ、その通りです。先生まで失うわけにはいきませんから」
「“それでも、大人は責任を取る存在じゃないといけないから”」
黒服の言葉に、先生は首を横に振った。
「アリスは、アリスは、知っています、あそこに、あの“聖地”に行ったら、先生は死んでしまいます!!
そうならない為にも、アリスは神になったのに、なんで先生は……!!」
「“ごめんね、アリス。私はこういう人間なんだ”」
悲痛な表情で、先生を見るアリス。
それの表情を見て、何かを悟ったように目を閉じた。
「結局、こうなってしまうのですね。師匠の預言は正しかった。
どのような形であろうとも、先生はあの場所に来る、と」
「“……”」
「私に、それを止める権利はありません」
はあ、アリスは溜息を吐いた。
「良いでしょう。案内します」
そうして、アリスは先生を導いた。
かの領域の最果て。
青春の物語が紡がれるキヴォトスではなく。
ダークファンタジーが世界を彩る、女神メアリースが管理する領域へと。
ベアおばは犠牲になったんだ……。
ダークファンタジーの導入の、犠牲に……。
この先のお話は、もうキヴォトスではありません。
それを念頭に、お願いいたします!!
ではまた、次回!!