村人:50%
リーパー隊:50%
アンズちゃん「面白ッ!!」
今回もAIイラストを使用してます。
お手数ですが、苦手な人は右上の観覧設定を変更してください。
「あ、アリスは、選べません!!」
それが、彼女の答えだった。
「アリスはあなた達のやり方も許容できないし、村人さんたちがやってることも許せません!!」
「ほう、つまり、だ」
隊長は頷き、こう返した。
「状況をより悪化させたい、というわけだな?」
「違います!!」
「ガキの駄々っ子じゃねえか!!」
隊長は村人たちを指差した。
「現状が赦せないのなら代案を言え!!
あれもダメ、これもダメ、でも何もしない!!
そんな奴の言葉に、誰が耳を貸すと言うんだ!!」
「それでも、歩み寄る方法はある筈ですッ!!」
「もうその段階は終わってるんだよ!!」
「それでも、諦めません!! 諦めたくないんです!!」
「すげぇな、諦めなきゃ、救われるのか!!」
隊長は手を叩いて笑った。
「お前の言っていることは、カルト宗教と何も変わらない。
信じれば救われる。その先にあるのは終末思想の集団自殺だよ。
お前が諦めなかったところで、今も、この一分一秒で苦しんでいる奴らは居るんだ。
お前は理解しているのか? お前の言葉がどれだけ残酷か。
お前は、今は諦めないから我慢して皆さん苦しんでください、そう言っているんだ!!」
彼はアリスの答えに、そう指摘した。
「お前の諦めない、はどこまで続くんだ?
クスリでこの世界の全員が廃人になるまでか?
お前の諦めないにどれだけの実行力が、知識があるんだ?
お前は何も示していないじゃないか」
「でも、アリスは勇者ですから。オオカミさん、いえ隊長さん。
貴方もドラクエ11はやったことぐらいあるはずです。
そこに、こんな言葉があります。勇者とは、諦めない者のことだと」
「そうだな。姿勢は大事だ。
だがアリスよ。お前は一つだけ勘違いしているんだ」
「勘違いですか?」
「ああ」
隊長は優しくアリスに諭すように言った。
「ソルティーレイってアニメのオープニング曲にこんな歌詞がある。
ハッピーエンドの後も物語は続くよ、と。
アリス、お前の言う勇者とは、ハッピーエンドの後の話を想定していない」
「それはッ、ドラクエだってシリーズで続編があって──」
「アリス、お前の言う勇者とは、邪魔者を殺すだけの存在だ。
別にそれを否定しているわけじゃねぇよ。
だけど勇者は統治者じゃない。最強の勇者が、最高の王様とイコールじゃない。それにもう、この世界の連中はどうしようもなく終わってるんだ」
アリスがどう頑張ったところで、麻薬中毒者は消えない。
彼女が頑張っている間も、薬物で廃人になる人々は増え続けている。
「もう暴力で断ち切るしかない、神がそう判断したから魔王様が遣わされた。
なぜ神々が偉大か、今のお前が証明している。
決められなかっただろ? どちらに付くか」
隊長は真摯にアリスに語り掛ける。
愛しい教え子のように。
「例えば、脳死で植物状態の人間はどの段階で人間として死んでいるかと、人間は決められない。偉いらしい学者の皆さんが雁首揃えて何度も何度も話し合っても、だ。
例えば、俺の部下たちはどいつもこいつも十人以上は殺してる殺人鬼どもだ。だが法廷に連れてけば五人殺した犯罪者と同じ死刑だ。殺し得だな。
では誰が死の基準を決められる。では誰が罪の不平等を埋められる?」
アリスは決められなかった。
だが、神は決められる。
「メアリース様は薬物中毒で廃人状態の人間を死んでいると言える。
リェーサセッタ様は現世の罪の不平等を死後に罪人に罰を与えられる。
だからこそ偉大なのだ。お前が、出来ないことをしているんだよ」
その話を聞いて、アリスは口を開いた。
「わかりました。だから、隊長さんは神にひれ伏したんですね」
「なに?」
「オオカミさんも言っていました。
完璧な神に、ひれ伏すしかなかった、と」
「……」
「だからこうして、オオカミさんと同じように悲しみを刈り取っているんですね」
それが隊長が、憎む相手に従う理由だった。
「でもアリスはこう思います。神様は本当は、悲しみを消し去りたいんじゃないかって。
本当は、暴力によるまやかしの救いなんて、与えたくないって」
「FF10のヒロインみたいなことを言うのな。
じゃあお前は奇跡を起こせるんだな? 絶対に倒せない筈だった存在に、挑むと言うんだな?」
「はい、アリスは諦めません。悲しみを、消し去りたいです」
「わかっているのか、アリスよ」
隊長はどこか物悲し気にこう言った。
「それはもう、────神の所業だぞ」
アリスは、笑っていた。
「かくして勇者は救世主となり、神格化される、と」
彼は深く溜息を吐いた。
「リェーサセッタ様、これでよろしいですか?」
「ああ」
アリスが振り向く。
そこに、喪服のような神官服の女が立っていた。
罪人たちが、跪く。
即ち、村人たちとリーパー隊の両方が。
「リネン、さん」
赤い瞳の女神は、ずっとアリスを見ていた。
「これ以上の問答は必要無い」
「では」
「ああ、悲しみを消してやれ」
隊長が片腕を上げた。
それが合図だった。
魔法が、弓矢が、村人たちに降り注いだ。
彼らが悲鳴を上げるまでもなく、リーパー隊は瞬く間に、村人たちを皆殺しにした。
本当に、一瞬だった。
「ど、どうして!!」
悲鳴じみたアリスの声。
しかし、気づけば彼女は暗闇の中に居た。
そして、村人たちは変わらぬままそこにいた。
「あれ、どうして……みんな」
「こいつらはもう、死んでいるよ」
隊長は淡々と言った。
リーパー隊の隊員の面々だけは、どこにも居ない。
「えッ」
「ここは裁きの間。私が罪人に罪科を与える場所だ」
黒い女神が、驚き戸惑うアリスにそう言った。
「彼らは残りの人生を薬物治療の苦しみに耐えながら生きることになる。だから私は殺すように命じたのだ」
「そんな、だからって、あんまりです!!」
「そう憤るな。私は、彼らを赦すつもりでいる」
「……本当ですか?」
「ああ」
女神は肯定を示した。
「生きるために悪事を成すこと、それの何が悪い。
それをせねば餓死して村は全滅だ。誰もが誇り高く飢えて死ねるほど、人間は強くはない。
悪事を働いたとはいえ、それに悦びを見出したわけでもなく、積極的な立場でも無かった。
そしてお前を害したのも、芥子を齎した政府の指示だった。お前もそこまで気にしていないようだし、大目に見よう」
悪を司る者は、総てを知っていた。
全ての罪科を洗い流し、彼女は決めた。
「結論を言い渡す。お前達の来世への転生を許そう。
以降は我が盟友の領分だ。あちらへ進め」
黒い女神が指さす方に、光が零れるドアが出現していた。
村人たちはそそくさとそちらの方へ移動を始めた。
アリスへの罪悪感から逃げるように。
「恩人殿。全ては私が指示したことです。
どうか、恨むならこの老いぼれをお恨み下さい」
ただ、村長が代表してアリスに謝罪をした。
「もういい、もういいんです」
アリスも首を横に振って彼らを赦した。
村長は涙を流しながら頭を下げた後、ドアの方へ進んでいく。
「ごめんね、恩人様」
「ポピーちゃん……」
幼くして死ぬことになってしまった彼女に、アリスは複雑そうな表情を浮かべた。
「あんな村、大嫌いだった。
あんな出会い方じゃなかったら、きっと……」
「もし、来世で会えたら、友達になりましょう」
「……うん、またね!!」
少女は初めてアリスに笑顔を見せ、ドアをくぐって行った。
村人たちは全員、そうして裁きの間から立ち去った。
「じゃあな、アリス。
恐らく、次に会う時は殺し合うだろうが、楽しみにしてるぜ」
「隊長さん……」
「先生、だったか? 向こうの俺が羨ましいよ。
俺にはそんな、お前を導いたような友人は居なかったからな」
隊長はそう言って、踵を返した。
彼は数歩も歩くころには、この場所から消え去っていた。
女神と、アリスだけが残った。
「……あの人たちを赦してくれて、ありがとうございます」
「感謝される謂れは無い。
私は私が望まれることをしただけだ」
邪悪の女神、総ての悪を知る者は、そのように答えた。
「これでわかっただろう? 私に縋る者は多い。
誰もが罪を犯したくてそうしているわけではない。
また、思わぬ事故で加害者になることもある。身勝手な他者の正義感で苦しむこともある。
私の仕事は、それを癒すことであると自負している」
総ての悪を知るが故に、適切に罰を与える。
逆に、その被害に遭う者の心に寄り添って赦しを与える。
人間にとって理想の女神だろう。
「はい、オオカミさんや隊長さんが貴女に従い、敬うのも分かります」
「私自身、己を神だと思ったことなどは無いがな」
「そんな、謙遜ですよね?」
「お前も行き会っただろう。
あの御方を。あの、“暴君”をッ」
あー、とアリスはバツが悪そうな表情になった。
あれと比べたら、神などどこにも居はしないだろう。
「個人的な話をしよう。
私はあの御方から、お前を諦めさせろと言い付けられた」
「……そうなんですか」
「だが、私としてはお前の行きつく先を見られるのなら、かの御方の怒りを買っても構わないと思っている」
「え……?」
アリスはその言葉が意外だった。
彼女は、明確に“暴君”を恐れていた。その異名を口にするだけで、震えていた。
そんな彼女が、かの存在の意向に逆らう。アリスは信じられなかった。
「どうして、そんなことを」
「疲れた、というのもある。
いずれお前も理解できる日が来るだろうさ」
彼女はアリスに期待し、同時に憐れんでいた。
「なにより、私自身が愉悦を感じている。
お前の行く末を、愉しんでいるのだよ」
「なんだか、性格が悪いです……」
「当然だろう。私の仕事は、審判を司る者からすれば裁きとも言えないらしいからな」
「え、リネンさんはそういう神様じゃないんですか!?」
「まさか。私の裁きは全て私刑だよ。ただの“善い神様”ごっこさ」
奈落のように赤い瞳の女神は、いじわるするようにこう言った。
「何で私がこんなことをしていると思う?」
「えーと、悪いことが赦せないからですか?」
「違うな。私は、私が嫌いなモノを痛めつけるのが好きなだけだ」
ほら、と彼女は己の瞼を指で広げて見せた。
「ひッ」
アリスは、その奥にあるモノを見てしまった。
無数の亡者が、永劫の責め苦に遭っていた。
魂を凌辱され続け、終わりの無い苦しみが与えられていた。
「ここに居るのは、居もしない神を騙り他者を搾取した聖職者もどきや、それに加担した連中。他にも赦し難い愚か者ばかりだ」
彼らの苦痛と怨嗟に、邪悪の女神は愉快そうに嗤っている。
「特に最近お気に入りなのは、この自称聖騎士でな、自爆テロを主導し死ねば救われるなどと騙っていたのを、あの男に痛めつけられた挙句──」
「あ、もういいです……」
ドン引きしたアリスは恐る恐るそう言った。
まるでグロテスクな虫の入った虫かごを自慢されたみたいな反応だった。
「なんだ、これが楽しいというのに」
不満そうな女神の声。
アリスは絶対彼女は敵に回すまいと内心で誓った。
「さて、そろそろ次の試練をお前に与えよう」
「……またですか」
「くくッ、次の世界はお前も気に入ると思うぞ、アリス」
この女神が慈悲深く真面目で責任感があるのと同時に、悪趣味で性格が悪いことを理解したアリスはその言葉を真に受けなかった。
「では次も、私を愉しませてくれ」
アリスの意識が沈んでいく。
泥に沈むように、水に溺れるように。
§§§
「起きて、起きてよ!!」
「こんなところに寝てると危ないよ」
懐かしい声だった。
「うーん、モモイ、ミドリ、もう少し眠らせて……」
「なに寝言言ってるのさ!!」
「うひぃ!?」
バチン、と叩かれてアリスは跳び起きた。
「え、あれ、どうして……」
アリスの目の前に、モモイとミドリが居た。
「モモイにミドリ、どうして、二人共、こっちに……」
「モモイ? ミドリ? 誰それ」
モモイの顔と声を持った少女が、首を傾げた。
「ッ」
息が詰まる、という言葉をアリスはその身で理解した。
目の前の二人は、モモイとミドリの二人と外見的特徴が90%近くも一致していた。
だが、残り10%はどうしようもなく違っていた。
「お姉ちゃん、もしかしたら知り合いと似てたんじゃない?
世の中には三人は似てる人がいるっているし」
「えー、勘弁してよ。同じ顔なら妹だけで十分だよ」
あの双子と同じ顔、同じ声。
しかし装飾品ではあり得ない、動いている猫の耳と尻尾。
白と青を基調としたローブを着た、二人の双子。
アリスは、邪悪の女神の本当の悪趣味さと性格の悪さを思い知ることになった。
「こほん、私の名前はピンキーって言うの」
「私はグリーンベル」
目の前の見知らぬ双子が名乗った。
「……私は、アリスと言います」
殆ど放心したような、呟きのような自己紹介だった。
「ここは偉大なる千年魔導王国の十一代目女王、リオン様の治める直轄地。
私達はかの御方にお仕えする騎士、ユズリハ様の従者だよ!!
あなたがここに居るのは不法侵入なんだからね!!」
モモイそっくりの、しかしどうしようもなく違う少女、ピンキーがそう言った。
「まあまあ、お姉ちゃん。ただ迷い込んだだけかもしれないし。
どうせこんな遺跡、直轄地と言っても誰も管理してないんだしさ」
ミドリそっくりの、だけどどうしようもなく違う少女、グリーンベルが姉にそう言った。
アリスは理解した。
同じ魂を持つと言うこと、その残酷さを。
この二人は、モモイとミドリとどうしようもないほどに同一人物なのだ。
「……ここは」
アリスは混乱していて、自分のいる環境に目が行かなかった。
まるで廃墟の遺跡としか言えないような場所が、野ざらしになっていた。
そんなところに、アリスは寝ていたらしかった。
「ねえ聞いている? この辺りは魔獣がでるって話で、私達が討伐しに来たんだよ。
ねえベル、まさかこの子が魔獣ってことはないよね?」
「お姉ちゃんには、この子が魔物の変異体に見えるの?」
「一応だよ、一応!! 確認は大事でしょ!!」
「魔獣、ですか?」
アリスの言葉に、そうだよ、とピンキーは頷いた。彼女はピンクのリボンを耳と尻尾に付けている。二人の違いは分かりやすい。
「なんでも、魔物の突然変異で、強さは十倍で、身体はでっかいんだって!!」
「滅多に出ないらしいから、私達も初めてなんだけど、簡単に街ひとつ壊滅させる強さがあるらしいんだ」
「……そんなに」
どうやら自分はとんでもない場所で寝ていたらしいと理解したアリスは、神妙に頷いた。
その時だった、青い蝶のような淡い光を放つ何かが飛んできた。
それは二人の近くに滞空すると、ピンキーがそれに気づいた。
「あ、ユズリハ様の使い魔だ」
『二人共!! 索敵に反応が有ったよ!!』
「わかりました、直ちにそちらに戻ります」
使い魔だという青い蝶が言葉を発し、グリーンベルが頷き返した。
「どうやら見つかったみたいだね。あなたは危ないから離れていて」
「あ、アリスも戦います。勇者ですから!!」
「生身で? 面白い事言うね!! 今時魔物と生身で戦うなんて時代遅れだよ!!」
「しかもあなた、ボロボロじゃん」
二人の指摘に、アリスはすこしムッとなった。
「問題ありません、アリスには光の剣が──」
アリスは枕のように置かれていたレールガンを抱えようとして。
彼女の視界に、無数のエラーが表示された。
「え、これって、まさか、アリス、まだ壊れてて」
アリスは、レールガンを持てなかった。
双子の指摘通り、アリスはボロボロだったのだ。かろうじて動ける程度でしかなかった。
「じ、自動修復完了まで、ご、五十年以上かかるんですか!?」
エラー画面のひとつに、そんな項目があって、アリスは動揺した。
「なにこれ、重ッ」
「あなた、アリスだっけ? こんなの運んでたの?」
双子がアリスに習ってレールガンを持とうとするも、その重量から断念した。
「ど、どうしましょう、アリスは、光の剣がないと……アリスは、勇者の資格を失ってしまったのでしょうか」
泣きそうなほど悲嘆にくれるアリス。
当然だった。もうこれしか、アリスには故郷の寄る辺が無かったのだ。
「あー、アリスちゃん?
ユズリハ様に頼めば、運んでくれるかもよ」
「うん、とりあえずここは危ないし、ユズリハ様と合流しましょう」
「……はい」
うな垂れるアリスの両手を、双子は引っ張ってくれた。
そして、三人は廃墟の遺跡を進む。
「ユズリハ様は騎士で、マジックポッドに搭乗して魔物を蹴散らしているんだよ!!」
「あれがあれば、百の魔物だって一捻りなんですから!!」
道中、二人がそんな話をしてくれた。
「つまり、この世界は中世ファンタジーロボットモノってことですか?」
「うん? まあそういうことなんじゃないの?」
まるで分かって無さそうなピンキーがいい加減に頷いた。
「ほら、あれがマジックポット“バレルフッド”だよ!!」
グリーンベルが前方に見えてきた巨大な物体を指差した。
それを見たアリスは。
「……ダサいです」
なんか思ってるのと違う、アリスはそう思った。
崩れた遺跡の一角に、隠れるように待機していたそれは、まさに樽に手足を付けたようなデザインの代物だった。
「だ、ダサいってなにさ!!
あれは偉大なる女王陛下にして、類稀なる発明家でもあるリオン様の設計なんだよ!!」
「王都には百も配備されてる、傑作機なんだから!!」
二人は慌てて弁護する。が、この双子もアリスと同意見なのは透けて見えた。
『二人とも、その子は?』
どうやって視界を確保しているのか分からないそのデザインのロボから、スピーカー越しの声が発せられた。
「……ユズ」
名前を聞いた時から、覚悟はしていた。
その声は、ユズそのものだった。
「えーと、ユズリハ様!! この子、アリスっていうんですけど、どうやら迷い込んだらしくて」
「何だか重い物もあって、運ぶのを手伝ってあげられませんか?」
双子の提案に程なくして、いいよ、とロボの搭乗者は言った。
『でも、魔獣を倒してからね。
敵は見つかった以上任務を優先しないと。
だけど民間人を巻き込むわけにはいかないし……』
「マジックポットの中なら安全だと思いますよ」
『え、ええッ、ここは私の聖域なんだけど……』
「何を今更。戦闘時は我々も搭乗するではありませんか」
グリーンベルの忌憚のない進言に、なにやらグチグチ言い始めるユズリハ。
その光景を見て、ユズはどの世界でもユズなんですね、と思うアリスだった。
『ッ、マズい、魔獣が接近してる!!
早く三人とも乗り込んで!!』
だが、状況はそうも言っていられないようだった。
ぱかり、と瓶の蓋のようなロボの頭頂部が開いた。
双子は身軽な身のこなしでコクピットに登っていく。
アリスもそれに習って、ロボのコクピットに入った。
かしゃん、と頭頂部が閉じる。
中は思ったより広かった。
操縦席が三人分用意されており、その後ろに荷物が置けるようになっているのか、アリスがそこに居ても窮屈では無かった。
「(やっぱり、ユズです……)」
メインパイロットの席に座っているのは、アリスの記憶と同じ少女だった。
ただ、ユズよりも多少大人びていた外見をしていた。
どういう原理なのか、内部はマジックミラーのように外側の景色がほぼ見通せるようになっていた。
双子は自身の席に座り、作業を始める。
「動力系及び各システムオールグリーン!!」
「索敵モードから戦闘モードに移行します!!」
双子の声に、ユズリハは頷いた。
「バレルフッド、ウェイクアップ!!」
がしゃん、とロボが本格的に駆動する。
近くに置いてあった大砲にトリガーを付けたような銃を抱え、巨大な剣を装備する。
ロボアニメ好きなら興奮するようなシーンだったが、生憎とロボがダサ過ぎた。
「ユズリハ様、接敵します!!」
レーダー系を担当しているらしいグリーンベルが叫んだ。
その直後、目の前に何かが降ってきた。
埃と瓦礫が飛び散り、正体が明らかになる。
「で、デカい……こんなの、見たこと無いよ」
それは、全長5メートルはある巨大なイノシシだった。
全身から敵意を漲らせ、こちらを見ていた。
「でも勝てます、ユズリハ様なら」
「うん」
操縦席のユズリハは頷いた。
そして、死闘が始まった。
バレルフッドと呼ばれるロボは、意外にも機敏に動いて魔獣を翻弄する。
相手の動きが直線的なのもあるが、スピードと重量はあちらが上だった。
その上、魔獣の突進の直線状の物体は、何も残らない破壊力であった。
ユズリハは巧みな操縦で、魔獣の突進から逃れ、銃撃を浴びせる。
大砲の直撃を思わせる爆弾の威力は視界が黒く染まるほどだが、黒煙から魔獣は無傷で現れる。せいぜい、外皮を黒く焦がした程度だ。
赤熱する巨大な剣を叩きつけるも、魔獣は咆哮と共に跳ね除ける。
「ワイバーンも撃ち落とせる魔導カノン砲が、豆鉄砲じゃん!!」
「魔法式振動ブレードもまるで歯が立ちません!!」
「黙って撃って!!」
操縦に専念するユズリハが、泣き言を言う二人を叱咤する。
「騎士総長はもっと巨大な魔獣を討ったんだ、私達が出来ない筈がない」
「でもあんなの化け物じゃん!!」
「どっちも化け物だよ……」
ユズリハは泣き言を言う二人を無視して、カノン砲を捨て、ブレードを水平に構えた。
魔獣の咆哮。突進だけで街ひとつ壊滅させるのに十分な怪物が、牙を剥きだしにして突撃してくる。
「今だ!!」
神業だった。
ユズリハは魔獣の大口にブレードを突き入れたのだ。
それでも突進は止まらない。
頭部を貫かれてなお、怪物は怪物としての役割を全うする。
双子やアリスが振動で悲鳴を上げる。
コクピット内は警告音が鳴り響き、ロボが悲鳴を上げているようだった。
やがて、突進が止まる。
「……勝ったんですか?」
振動で目を回していたアリスが言った。
「ピンキー、報告!!」
「……損傷率45%。左腕、大破。機体中破です」
射撃とシステム回りを担当していたピンキーが、ユズリハに応じた。
「駆動系が問題ないならいい」
「むしろ脚部が吹き飛ばなかったのが奇跡ですよ」
「動けなくなるのが嫌だったから、途中でしがみついてたんだ」
なんてことも無さそうに言うユズリハに、グリーンベルは呆れたように溜息を吐いた。
「でもベル、これでユズリハ様も騎士総長のネルラ様に並ぶ、魔獣殺しだよ!!
従者の私達も箔が付くね!!」
「あ、ネル先輩も居るんだ……」
「どうかしたの?」
「いいえ、何でもないです」
身を乗り出して喜ぶピンキーを他所に、アリスは疎外感を感じていた。
この三人はどうしようもなく他人で、見知らぬ異世界の住人。
アリスの居場所はここではない。彼女がそう思った時だった。
「ッ、危ない!!」
アリスは気づいた。
コクピットから見える魔獣の瞳が、動いたことを。
「うそ、でしょ」
魔獣の咆哮。
頭部を刺し貫かれたとは思えない、狂気じみた生命力だった。
怪物にしがみついていたロボは、激しく暴れる魔獣に突き放された。
怪物は口に突き刺さったブレードを抜こうと、その場でもがき、暴れていた。
「ごめん、脳を貫き損ねたみたい」
冷静に、ユズリハが言った。
「どうするの!! 武器はもう無いよ!!」
「魔獣を可能な限り、街から遠くへ誘導する」
「でもそれって!!」
「覚悟を決めよう、お姉ちゃん」
「ッ……」
妹に諫められ、姉は泣きそうになりながらコクピットに座り直した。
「死ぬ、気ですか?」
彼女達の覚悟とは、そう言うことだ。
「今なら私達にしか目が入らない筈。あなたは逃げて」
「でも!!」
「私達の責任を、貴方に背負わせることはできないから」
ユズリハはアリスにそう言った。
「……あります」
「え?」
「武器なら、有ります」
アリスは、彼女達に言った。
「あそこです、あれを、光の剣を」
偶然か、あるいは必然か。
彼女達のロボが吹き飛ばされた先、そのすぐ近くにレールガンが置いてあった。
ぶしゃあ、と血を吐く音。
魔獣が、口に突き刺さっていたブレードを引き抜いた音だった。
ユズリハは反射的に決断した。
操縦桿を操り、その場を跳び出した。
滑るように地面を削りながら、バレルフッドはレールガンを手にした。
魔獣が叫ぶ。
自分に傷をつけた相手に、激怒していた。
レールガンの銃口が、怪物に向く。
怪物が全てを圧壊せんと走り出す。
ユズリハは操縦桿ごしに、レールガンのトリガーを引いた。
光の一閃が、魔獣を貫いた。
頭部を粉砕し、身体に風穴を開け、後ろにあった廃墟の遺跡を粉々にしていった。
「す、すごい……」
ピンキーが思わず声を漏らす。
魔獣は、完全に沈黙していた。
「……ありがとう、おかげで助かった」
ユズリハが操縦席から後ろに身を乗り出し、そう言った。
「いえ、こちらこそ、助けてくれてありがとうございます」
戦いが終わり、ホッとしたアリスはそう言った。
「任務達成を、女王様に報告しないと」
「アリスのお陰だって、報告しなくちゃね!!」
「とにかく、助かって良かった」
見知らぬはずの、見知った三人。
そんな彼女達を見て、どこかホッとしているアリスだった。
これがアリス達勇者一行の、最初の一幕だった。
前回のアンケートは、キレイに票が真っ二つに割れたので、独断で打ち切りました。
アンケートそのものは演出なので、今回の冒頭のお話を分岐させようとしたのですが、まさか真っ二つとはww
これにはアンズちゃんもにっこり。
そしていよいよ、アリスの本当の試練が始まります。
よかったねアリス、仲間と出会えて!!(ニチャァ
あと、関係無いですが念のため、この章のお話のジャンルは、ダークファンタジーです。
それをお忘れなく。
ではまた、次回!!
アリスはどちらの味方をする?
-
村人たち
-
リーパー隊