エ駄死版はエデン条約編以降は本格的にこちらを前提としたストーリーに変化を加えるので、チラ裏に移動しました。
これを機に、是非ともあちらもどうぞ!!
「すごく広いです……!!」
アリスは船の中を探索していた。
数百人を容易に収容し、生活できるだろう巨大な艦船。
その近未来的な内装にアリスははしゃいでいた。
「冒険のしがいがあります!!」
アリスは廊下を進んでいく。
客室、倉庫、エンジンルームに艦橋。
全てが自動化され、アリスが未知の構造に一喜一憂していると。
「ここは、リサイクルルームですか?」
彼女はその部屋に行きついた。
アリスは思い返す、博士は彼女を資源にする為のスクラップと一緒に回収した、と言っていたのである。
「宝箱があるかもしれません!!」
そしてアリスがリサイクルルームに踏み込んですぐの事であった。
けたたましい警報が鳴った。
「何事かね!!」
すぐに博士が駆けつけてきた。
「博士ぇ!!」
「どうした、アリス!!」
博士に抱き着いたアリスが、リサイクルルームの中を指差す。
そこには、大量のスクラップや瓦礫が処理され、資源に再分配されようとしていた。
「あれ、あれはアリスの、アリスの光の剣です!!」
「なんだって?」
そのスクラップに交じって、壊れたレールガンが分解されるのを待っていた。
アリスはそのベルトコンベアの緊急停止スイッチを押したのである。
「……ああ、君の私物だったのか」
博士は右手を翳すと、まるで念力か何かの超能力のように壊れたレールガンを持ち上げ、近くに引き寄せた。
「博士、アリスの光の剣を直してください!!」
「そんな資源的余裕は無い」
「うわーん、お願いです!!」
大騒ぎして駄々を捏ねるアリス。
やがて、辟易したように博士が折れた。
「わかった、わかったよ。少し待っていなさい」
博士は再び念力で壊れたレールガンを持ち上げ、作業場へ運んで行った。
そして、アリスが目覚めた手術台のような場所にそれを置いた。
「ふーむ、子供の頃の自由研究を思い出すな。
亜光速で花火を外宇宙まで飛ばす玩具を作った覚えがある」
「直りますか?」
「復元映像を見るに、単純なリニアモーター式の投射装置だからな。
とは言え、一点物のようだな。創意工夫と情熱が見て取れる」
博士が機械を操作すると、無数のマニピュレーターが現われ、壊れたレールガンに先端から光を発射した。
瞬く間にレールガンは修復され、元通りの形を取り戻した。
「老婆心ながら、弾薬を自動生成する超小型3Dプリンターと半永久動力を組み込んでおいた。形状保存コーティングもしておいたから、千発連射しようが砲身が歪んだり、手入れや破損の心配はないだろう」
「ほ、ほえー」
本当にあっさり修理した上に改良まで施されてしまったので、アリスはぽかんとするほかなかった。
「ま、魔法みたいです!!」
「みたい、ではなく魔法そのものだよ。
言っただろう。我が故郷は科学と魔導を窮めた、と。この程度、子供の図画工作だ」
「アリス知ってます、こういう時はこう言うんですよね。パーフェクトだ、博士!!」
アリスは大喜びでレールガンを抱えた。
その様子を見て、博士は溜息を吐いた。
「まあ、君のような幼い精神のアンドロイドだと、そういう“魔剣”ごっこが好きなのだろうね」
「博士、これは魔剣ではありません、勇者の持つ光の剣です!!」
「……ああ済まない、“魔剣”と言うのはこちらの専門用語だ。
君の言うところの古代テレビゲームの画一的な勇者の剣の概念とは違うよ」
「勇者の剣とは違うのですか?」
「ああ、“魔剣”とは、魂の宿って特殊な力を得た物品の総称だ」
「“魔剣”……」
博士の解説に、アリスは目を輝かせた。
「それでは、アリスも“魔剣”になれば魂を手に入れられるんですか!?」
「それは不可能だ。“魔剣”とは霊的物質であり、実体のある道具の事ではない」
「それはつまり、剣の幽霊ってことですか?」
「それを説明するには、なぜ“魔剣”と呼ばれるかを説明しなければならないな」
博士は虚空にホワイトボードのような画面を映し出し、語り始めた。
「君の持つレールガンはなぜ、光の剣なんて呼ぶのかな?」
「それは、アリスがこれが勇者の証だと思ったからです!!」
「そうだ。人間の歴史や神話には、聖剣を始めとした伝説的な武具が登場する。
それらの一部こそが、“魔剣”だと言われている。
光で敵を切り裂く剣、投げれば必ず当たる槍、空を飛ぶ船、それらの中には明確に開発者不明の武具が存在すると思わないか?」
「確かに……精霊に授かったり、岩に突き刺さってたりします!!」
うむ、と博士は頷いて見せた。
「“魔剣”とは、物的死を迎えた別次元の物品が、人間の魂に呼応した時に虚空から突如として出現するのだ。
だから前提として、“魔剣”とはそれそのものと所有者が存在する。
そして、その両者は同じ魂を有していることになる」
「つまり“魔剣”とは、別の世界の武器としての自分ってことですか?」
「理解が早くて助かる。
“魔剣”の出現の際は、持ち主になる人間は大抵の場合まともな精神状態じゃない。錯乱していたりトランス同然の状態で、精霊やらなにやらから授かったと思い込んだりするのだろう」
「まともな精神状態じゃない、ですか?」
「私が以前観覧した記録によると、魔術的な攻撃で魂が欠損したり、目の前で最愛の肉親が亡くなったり、まあそのような状態だ」
彼女の話を聞いて、アリスの期待は萎えてしまった。
「魂が喪失を埋めるために、別次元の自分を呼び寄せる。“魔剣”とはそのような現象なのだ。
そして古来の英雄たちは、そんな“魔剣”を振るい伝説を残した。
人類の武器として戦争で最も活躍し普及した弓や槍ではなく“剣”なのはそういうことだ。
尤も、出現する“魔剣”はピンキリで、伝説級の魔法剣が現れた時もあれば、何の力も無いブローチが現れたこともあるそうだ」
「土壇場で装備ガチャとか、イヤすぎます!!」
「ははは、そうだな」
身も蓋もないアリスの発言に、博士は乾いた笑いを浮かべた。
「しかしこの現象において、重要なのはそこではない。
魂の性質において、生物無生物は関係無いということ。
そして、なにより魂同士は根底での意識化で繋がっていると言うことだ。
これを理解した我々の文明は、ある仮説を見出した。
即ち、完全に同一の魂同士が共鳴すれば、無限のエネルギーが手に入るのではないか、と」
「無限のエネルギー!!」
「まあ、あのクソ女神にすぐに研究を差し止められたがね」
「ええッ、なぜですか!?」
「第三の尊厳に関わることだからだ。
肉体、精神、それに続く魂の尊厳、それを外れる倫理を超えた行いだとな」
「意外にまともな判断ですね……」
「かぶれているだけさ。
まあ、倫理的にアウトというのは勿論だが、単純に要求量と制御が難しいと言うのがシミュレーションで判明した。
実験室レベルならともかく、個人で運用するのは無謀も良い所だ」
結局、無限のエネルギーを得られる仮説は頓挫したらしい。
「最終的に、同波形同波長の魂同士は近づけるのは止めましょう、ということになったわけだ」
「そんなに危険なんですか?」
「単純計算で、自分と同じ魂を持つ“魔剣”を持った人間の魔力係数は16倍に跳ね上がる。これにまた同一人物を追加すれば、三乗×三乗×三乗……729倍だ。制御など、出来るものか」
「ラストリベリオンより凄まじいインフレ具合です!!」
そこで、アリスはふと閃いた。
「そうです、神様がステータス画面で魂を表現するなら、アリスにもステータス画面をインストールすれば、アリスも魂を手に入れられるのでは!!」
「……自由な発想には素直に感心するが、おススメはしないね」
「ええッ、なぜですか!?」
「あのクソ女神が魂を可視化できるようにしてしまったことで、魔術的にその方法で疑似的な魂を得ることは可能だろうが言っただろう、同一の魂は非常に危険だと。
ましてや、魂の電子化などと、いくらでも複製できるではないか」
博士はその潜在的な危険を訴えた。
「双子等にも宿る魂は近似値の波形や波長を発する。
それ同士の魔術的干渉程度でも、途轍もないエネルギーを発する」
「……」
アリスは見ていた。
ピンキーとグリーンベルの最期の灯火を。
「疑似的な魂の複製、倫理にもとる上に、それが拡散したらその世界は終わったも同然だろう。
旧式の核融合爆弾がそこら中にあるようなものだ」
「じゃあ、諦めます。危険だと言うなら」
「ああ、危険だとも。決して有ってはならないレベルだ」
アリスの幼い故の危険な発想を、最終的に博士は諫めた。
「特に、魂を複製して個人携帯できる端末にアプリとして入れるようなことはしてはならないからな!!」
「まさか!! そんなに危険ならそんなこと誰もやりませんよ!!」
「そうだな!! そんなこと技術的にも倫理的にも、やれるわけないか!! 良い子は絶対に真似してはいけない!!」
ははははは、と笑い合う二人だった。
「話は脱線したが……これは使えるかもしれないな」
「アリスの光の剣が、ですか?」
「これが君と同じ、女神メアリースの被造物では無いのなら、彼女らに感知されないかもしれない」
博士は顎に手を当てる。
「当艦の乗車賃ぐらいは払って貰おうか」
§§§
アリスはカプセルトイになっていた。
いや、正確には、ガチャガチャのカプセルトイそっくりの探査艇で資源回収を行っていた。
『こちら旗艦フェアリーテイル号。探査艇01に報告を求む』
「資源回収は順調です!! オーバー!!」
『燃料にはしばらく困らなそうで助かるよ』
探査艇の牽引ビームによって、本船に資源を輸送していく。
牽引ビームはアリスのレールガンを改造し、それを変換器として出力していた。
程なくして、資源回収は十分と判断されたのか、帰還要請がなされた。
アリスを乗せた探査艇は、無事本船に格納された。
「慎重に慎重を重ねるべきだ。
レジスタンスとして活動する私を、あのクソ女神が見逃すはずがない。
アリスの搭乗した探査艇には、露骨な信号も織り交ぜていた。
見逃されたか? それとも……」
博士の思考の迷路に迷い込む。
そして、結論はひとつ。神の思考など理解できない、だ。
「アリスはクエストをクリアしました、博士!!」
「ああ……」
艦橋の船長席で思案していた博士は、アリスの帰還に声を返した。
「……アリスだから見逃された?」
博士の敵は、全能と全知の神々だった。
ヒトは虫けらが目に付いたら踏みつぶしたくなるものだ。
しかし、家の中から虫を完全に排除することは出来ない。
どのラインなら見逃され、どこからがうっとおしいから殺すのか。
博士は図りかねていた。
その時であった。
艦橋のシステムに音が鳴った。
「超々長距離次元通信システム?
しかも一斉通信か。まさか本部からの緊急連絡か……」
数多の世界に点在するレジスタンスの支部へは各々特殊な方法で情報交換をしていた。
なので、全ての支部へ同時通信などリスキーすぎるので滅多に来ない。
よほどの緊急事態かと、博士が通信を受信すると。
『よう、レジスタンスのゴミクズ諸君』
映像が艦橋の画面に映る。
そこには、地獄が広がっていた。
「た、隊長さん……」
その光景に、アリスが思わず息を呑んだ。
『メアリース様の庇護を離れたカスども。
こんな言葉を知ってるか? 良いゴブリンが居るとすれば、それは人前に出てこないゴブリンだ、と』
どこかの基地のカメラの前で、軍服を着た犬獣人が語り掛ける。
その隣で、
男がエルフの女に押し倒され、腰を振っている。
だがそれを、男女の営みとは誰も言えないだろう。
そのエルフの女が、食欲も同時に満たしていたからだ。
「こいつはマンティス。“人喰い”マンティス。
人喰いエルフの部族の長で、その所業から一度も人間扱いされなかった」
カメラが移動する。
マンティスの同族が女達を嬉々として鉈を振り下ろし惨殺していた。
美しいサキュバスが男の精気を根こそぎ吸い上げ、ミイラ同然にして殺していた。
一つ目の巨人サイクロプスが無邪気に人間の手足を、ビニール人形のように引きちぎって遊んでいた。
武人肌のリザードマンが、素人に武器を持たせて嬲り、決闘まがいの処刑をしていた。
オークの呪術師が死体をゾンビにして顔見知り同士を食い合いをさせて笑っている。
どれもこれも、人間の死に方ではなかった。
『こいつらと、お前たちは同じだ。
人間として扱わないから、人間として死ねると思うな』
レジスタンスの本部が、リーパー隊に制圧されていたのだ。
そこの本部長席に腰かける隊長が、各支部に通告していた。
『メアリース様はお前達カスどもを捨て置くそうだ。
どうしてかわかるか? お前たちがどうせ何もできないと分かってるからだ。そんなお前達に掛けるコストは無いってよ。
お前達が泥水を啜り、木の実でも拾いながら洞窟の奥で原始人のように過ごすのなら生かしておいてやるってな。
お前達なんてその程度だ、いつでも潰せるし、いつでも殺せる』
隊長は楽しそうだった。
彼にとって今回は大分
『ここの連中は卑しくも、メアリース様の財産である人間達に無差別テロを仕掛けようとした。
メアリース様は横領や盗人が大嫌いだ。誰だって、自分の資産を盗む奴は赦せないもんな。
でもお前らのような便所の流し損ない共でも、文明の利器を預かりたいだろう。
そこでメアリース様は特許料を支払えば、お前らも文明の利器を使用しても良いそうだ』
レジスタンスの面々は、大なり小なり自らの意志で女神の庇護から離れている。
だと言うのに、この物言い。完全に彼はレジスタンスを小馬鹿にしていた。
『使用料についてはちゃんと適正価格で請求書を送るそうだ。だからサブスクみたいな感覚でどんどん使用すれば良い。払わなければ殺す。俺からは以上だ』
通信が途絶える。地獄が消える。
「……馬鹿にしてッ、馬鹿にしやがって!!」
「博士……」
「私の故郷を、神に最後まで尽くした我が故郷にあの仕打ちをしておいて、今度は特許料を払えだと!! 馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」
請求書を送れる、お前たちの位置など分かっているというこれ以上無い脅しだった。
「絶対に目に物見せてやる、絶対にだ!!」
博士の憎悪が、再び燃え上がった。
「宇宙戦艦に本当に光の剣が設置されているの、ウタハ先輩達に見せたかったなぁ」
来る日も、来る日も、資源回収の日々。
邪魔なデブリをレールガンで粉砕し、神々が破壊した残骸から資源を回収するアリス。
あれ以来、博士は他のレジスタンス支部とは完全に連絡を絶った。
他の支部がどうなっているのかも、全くわからない。
博士はただ、己の目的の為にしか行動していない。
短い付き合いでも、アリスは博士に協調性を求めるのは諦めることにした。
「博士は毎日、何の作業をしているんですか?」
ふとした時、いつもモニターに向かっている博士にアリスが問うた。
「次元航行の軌道計算だ。
リアルタイムで修正せねば、最悪永遠に次元の狭間に迷い込むことになる」
「あ、そうなんですね……」
「だから邪魔をするな」
文明の利器を使用できない、その縛りが毎日の過酷な作業を彼女に強いていた。
アリスにはどの機械がダメで、どの機械が大丈夫なのか、判断が付かなかったので、見守ることしかできない。
ある日、アリスがドングリを炒ったコーヒーを博士に持っていくと、彼女は机に突っ伏していた。
「博士!! 居眠り運転はよくありませんよ!!」
「圧縮睡眠を実行している、一時間で半日分の睡眠を……」
「寝言なのか起きてるのか分かりません……」
アリスがモニターを見ると、完了の二文字が表示されていた。
今日の分の軌道計算は終わったのだろう。
仕方ないので、アリスは博士を牽引ビームで引っ張って彼女の自室に運ぶことにした。
ぷかぷか浮かぶ彼女をビームで引っ張り、アリスは博士の私室のドアを当人を使って生体認証をして、ドアを開けた。
「うわ……」
中は酷い有様だった。
まるでサルが暴れまわったかのような、そんな惨状だった。
アリスはベッドに博士を乗せたが、シーツや毛布が半ば放置され不衛生な状態だった。
「これとこれも、洗わないといけません」
この部屋の様子から、ずっとここに来ていないことは明らかだった。
アリスは洗濯物をかき集める傍ら、室内を見て回る。
幾つものトロフィーや、破れた写真を収めた額縁が床に散乱している。
学術的で高そうな辞書みたいな本が、開きっぱなしでページも折れ曲がって放置されてるような有様だ。
「これは、スクラップブックでしょうか」
埃が被っていたそれを、アリスは拾い上げた。
凄まじい技術力と文明を有してたらしい博士の故郷でも、新聞の切り抜きを保存するような文化はあったらしい。
ぺらり、とスクラップブックを開くアリス。
幾つもの見出しが目に入る。
『前代未聞の文明レベル10上昇!? その立役者は百年に一度の天才と認められる!!』
『偉大なるイース文明の至宝、時空間転移の技術を確立か!?』
『文明の超発展に混乱するイース世界に魔王様が降臨なされる!!』
『我らの大天才が、魔王様によって“神の左脳”の称号を授けられる!?』
『大天才にスキャンダルか、両親による違法な遺伝子と人体改造の疑惑が──』
『我らの至宝が、魔王四天王に大抜擢!! 彼女の疑惑は全て、魔王様が否定なされる──』
『前代未聞!? 文明レベル95到達!! メアリース様もこれ以上の文明的発展は見込めないと賛辞を──』
『イース文明巣立ちの時か。我らは幼年期を終える!!』
『メアリース様、なぜ、どうして』
そこには、博士の栄光と没落の全てが、憎しみの全てが収められていた。
インタビューの記事もあり、そこには若い博士と記者との受け答えが載っていた。
「私の望みは、神の御許に召すこと、己の頭脳を神の役に立てること……」
若き頃の博士は誇らしげにそう語っていた。
それが社会の為になるから、と。
その結果、博士は全てを裏切られた。
神は彼女達を見捨てた。
アリスはスクラップブックを見なかったことにして、衣類を洗濯場に持って行った。
衣類やシーツ類は謎の超技術で洗うことなくピカピカになった。
アリスの擦り切れてボロボロなミレニアムの制服も新品同然になったので、一家に一台欲しいです、と何とか仕組みを理解しようと頑張ったりもしていた。
とりあえず、新品同然になった衣類やシーツ類を博士の部屋に持って行った。
ドアのロックを解除していたのであっさりともう一度侵入したアリスは、博士に毛布を掛けた。
「……おやすみなさい、博士」
アリスはそっと部屋から立ち去った。
§§§
二人に転換期が訪れたのは、もう少し後の事だった。
「光の剣Mark2、発射!!」
探査艇を駆るアリスの号令と共に、レールガンからビームが発射される。
巨大な塊を破砕し、資源を分析し回収する。
「成分分析完了、これでしばらく燃料は困りませんね!!」
魔王によって破壊された無残な残骸。
今日もそれをコッソリと回収していくと言う、変わらぬ日々の作業。
その筈だった。
「……あれ? これは救難信号?」
アリスは探査艇がキャッチした信号を辿ってると、ひしゃげた脱出ポッドのような物体を発見した。
「せ、生体反応!? 生きてます!! 助けないと!!」
まさかの生存者の発見に、アリスは慌てて博士に連絡を取った。
「また拾い物か」
脱出ポッドを回収して撤退したアリスが探査艇を下りる頃には、博士はガレージに来ていた。
「内部スキャン……生体反応……確かに生存者らしい。
魔王による神の審判を生き延びたのか。運が良いのか、悪いのか」
博士は魔法を次々と展開し、そのデータを確認してそう呟いた。
そして、指先を指揮棒のように振るった。
その指先の軌跡を追うように、鞭のようにしなる光の熱線が脱出ポッドの表面が切り裂かれ、崩れ落ちた。
脱出ポッドの中身は、まだ幼い少女がコールドスリープ装置らしきカプセル状の物体に眠っていた。
「よかった、本当に生きてた!!」
「はあ、とりあえず健康状態の確認、意識の回復措置を行う。アリス、彼女を運んでくれ」
「分かりました!!」
生存者を抱えてアリスは博士に追従する。
アリスが医務室のベッドに寝かせると、博士は彼女に魔法の電撃を浴びせた。
アリスはギョッとしたが、生存者は跳び上がるようにして起き上がった。
「意識の覚醒を確認。君、自分の身に起きたことを覚えているかね?」
「は、はい……ここは、どこでしょうか」
少女は怯えながら周囲を見渡した。
「ここは反メアリース系レジスタンス第140支部だ。まともな活動などしていないがね」
「えっと、お名前はなんですか?」
「……エリサと言います」
定型文みたいにアリスの時と同じようなことを言う博士に対して、アリスは少女の名を問うた。
「エリサ、ですね」
なんとなく、自分と名前の響きが似ていて、アリサは親近感を覚えた。
「あッ、そうだ、私の故郷は、父さんや母さんは!!」
「これが君の故郷だ」
博士は気だるげにモニターに外の景色を表示した。
土と瓦礫が宇宙空間に浮遊している。
それだけだった。
「は、博士!!」
「うッ、うそ、嘘よ!! う、うう、ああああぁぁぁ!!」
まだ十歳ぐらいの少女に現実を突き付ける博士に、アリスは声を挙げた。
「どうせ直面する現実だ。言い繕ってどうするのかね」
「それでも、言い方ってモノがあります!!」
「はぁ」
博士はもう知らんと言いたげに背を見せた。
アリスに丸投げする構えだった。
「大丈夫です、もう魔王はここに居ません。大丈夫、大丈夫ですから」
アリスはエリサを慰め続けた。
二人が、三人になった。
博士は同乗者が増えたことにもう何も言わなかった。
だから、以降はアリスがエリサの遊び相手になった。
「やだぁ、これだけなんて、お腹空いたぁ!!」
「ならこの錠剤を食べろ。胃の中で膨らんで空腹感が薄まる」
「ケーキが食べたいよぉ、ハンバーグが食べたい、ママぁ!!」
「お前の母親はもうどこにも居ないだろう」
「まったく、博士!! ダメですよ、そんな言い方じゃ!!」
エリサは本当にただの子供で、二人はそのワガママに振り回された。
「お外行きたいよぉ、窓の外が暗くて怖いよぉ」
「じゃあ、アリスが怖くないように一緒にベッドで眠ってあげます」
「博士じゃないとやぁ!!」
「……ええぇ」
そんな感じで四苦八苦しながらも、彼女はどんどんと成長していく。
「博士、私に武器を作って!!
私も魔王と戦う!! みんなの仇を取るんだ!!」
「却下だ。魔王と戦って何になる。
連中は神の化身、死の概念など存在しない。無意味な犬死をするだけだ」
「じゃあアリスの貰うからいいもん!!」
「だ、ダメですッ、光の剣Mark6はアリスのです!!」
エリサを拾って三年、五年、そして、八年。
三人の旅路に、分かれ道がやってきた。
「近隣界隈で大規模な魔力の収縮を確認。
魔王の第二形態が顕現したのだろう」
次元を超える観測機が魔王の力を検知したのを、博士は確認した。
「……資源回収のチャンスですね」
アリスはここ数年、ずっと悩んでいた。
自分が何をすべきなのか、勇者としての自分の在り方を。
多くの価値観、苦難に触れてきた。
だからこそ、躊躇いも覚えた。それは成長か、堕落か。
他所の世界の事情に、首を突っ込むのは迷惑なのではないか。
アリスはずっと、悩んでいた。
もうかつての無垢なアリスは居ない。
知恵とは穢れであり、賢さとは小賢しさと表裏一体。
選択をすること、その重みを知っているからだ。
「ねえ、博士、アリス」
「何ですか、エリサ」
「なんで私達は、魔王が世界を滅ぼすのを期待しているの?」
「期待などしていない。ただ見て見ぬふりをしているだけだ」
博士はエリサの言葉に、身も蓋も無い事を言った。
「それで壊された世界の残骸を漁って、それで今日と明日を生き延びて、そんなの魔王とあのクソ女神と同じじゃない!!」
「エリサ……」
だからこそ、アリスは無垢なまま大事に育てられたエリサの言葉が突き刺さった。
「では我々がどうにかできるとでも?
義憤に駆られるのは結構だが、生産性のある行動とは思えないな」
「生産性や合理性とかって問題じゃない!!
魔王が、悪党があそこにいるのよ!!」
「だから、臨界収縮をしている魔王に突っ込むと? 正気とは思えないな」
「……もういい、話にならない!!」
昔から冷徹な博士と、直情的なエリサは反発することが多かった。
アリスはその間を取り持ち、エリサを宥めることが多かった。
「博士の、馬鹿!! 弱虫、意気地なし!!」
エリサは吐き捨てるようにそう言って、艦橋から立ち去った。
「教育プログラムの見直しが必要だな。
あのように育つとは、アリス、君の責任だぞ」
「本気で言ってるんですか、博士」
アリスは博士が割とひねくれ者なのを知ってるので、半眼で見返した。
「エリサの性格診断に問題があったのは当人の資質に過ぎませんよ!! アリスの所為にしないでください。そもそも博士だって先月のエリサの誕生日を忘れたじゃないですか!!」
「仕方がないだろう、あれは他の支部との会議があったのだから!!」
「アリスの誕生日も忘れました、二回も!!」
「……なら君が施設を破壊した回数を言おうか? 二十七回だぞ!!」
「それは今関係ないじゃないですか!!」
二人が言い合っていると、アラートが鳴った。
「こ、これは、探査艇が勝手に……まさか!!」
モニターに、探査艇が旗艦を離れたのを表示していた。
誰が勝手に動かしたのかは、明白だった。
「今すぐ止めてきます!!」
「他に探査艇など積んでいないのは知ってるだろう!!
こちらからの遠隔操作は……ダメだ、受け付けないッ、ロックしたなあのバカッ!!」
「なら、アリスが単身で出撃します!! アリスなら生身でも宇宙空間で活動できます!!」
「…………許可はできない、そんな装備も無い」
「博士!!」
「エリサの命と、我々二人を天秤には掛けられない」
アリスは膝を突いた。
博士も苦渋の表情をしていた。
八年、そんな短くない時間を共に過ごした相手を、彼女は見捨てる選択をした。
程なくして、探査艇の反応がロストした。
アリスは泣きわめいて、博士はその結果から目を背けた。
「また、復讐の理由が増えてしまったな」
博士は淡々と失ってしまった探査艇の再生産を工場に指示した。
「アリス、資源の探査をしてこい」
「ぐすッ……はい、博士」
三人の道は分かれ、一人が分かれ道の先へと消えて行った。
アリスは普段の数倍の時間を掛けて探索を行ったが、その世界の残骸以外を見つけることは出来なかった。
アリスが資源回収から戻ると、博士は艦橋で酒を呷っていた。
「アリス、お前も飲むか?」
「はい、飲みます」
初めて飲むお酒は、喉を焼くような味だったと、アリスは記憶した。
アリスの旅路も、いよいよラストに向かっています。
あと二話、エピローグを含めたら三話ぐらいで終わる予定です。
では彼女の行く先を、お楽しみに!!
また次回!!