※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

121 / 121
今日で連載ちょうど一年目!!
ここまで続けられたのも皆様のお陰です!! ありがとう!!



魂の物語

 

 

 

「アリス、お前の旅路は完了した」

 

 エリサの姿が掻き消える。

 そして、虚空から神経質そうな少年がふわりと降り立った。

 

「……どうだった?」

 

 “暴君”の化身が、何気ない話題を振るように顔を横に向けた。

 

「感情の発達は極めて高いと思うな!!」

 

 彼の背後から、モモイが現われてそう言った。

 

「うん、アリスの成長は、私達と同レベルにまで達したよ」

 

 今度はミドリが現われて、そう言った。

 

「そうでなくては、アリスは終わってました」

 

 ユズも現れる。

 悪趣味な、彼の人形劇。

 

「“最初の世界では約三万人を助けたね。

 その為に奔走したことはとても尊いことだと思うよ。

 よく、最後まで諦めなかったね”」

 

 そして先生まで現れて、アリスの苦労を労った。

 

「芥子の村では、実に意外な結果になったね。

 私のシナリオでは、どちらかに付くはずだったんだけど。

 一番驚いたのは、村の住人を許したことかな。私がゲームだったら絶対皆殺しにしてたよ」

 

 モモイが、彼女の思考でそう述べた。

 

「純粋に自分の殺人行為への忌避感からの行動だったかもしれないけど、それによってリェーサセッタ様の彼らへの裁定は変わったと思うな」

 

 ミドリも姉の言葉に同調する。

 

「“ユズはどう思う?”」

「千年魔導王国での冒険は、楽しかったよ」

 

 先生に促され、ユズが口を開いた。

 

「多くの人々の為に、一緒に戦ったよね。

 少なくとも私は、そこに心と、魂を見出したよ」

 

 ユズは確信的な表情でそう言った。

 

「“魔王のアリスにも同情して、自分に重ね合わせていたね。

 そして順番を譲った。苦しかったろうに、悲しかったろうに。

 アリス、それは心の無い機械にはできないことだよ”」

 

 先生はアリスの行動を称えた。

 

「“モモイはどう思う?”」

「個人的には、だよ?

 私だったらエリサを追いかけたかな。博士の制止を振り切ってでも。

 でも実際あの状況で行っても、死ぬだけだった。葛藤とリスクの判断、それは成長だと思うかな。ゴメンねアリス、意地悪なシナリオで」

 

 モモイはぺちっと手を合わせて謝った。

 

「“ミドリは?”」

「あの砂漠で、義侠心の為にあのローティと戦いました。

 何も得る物も、誰も知らない状態で、石にされた彼らの尊厳の為に戦った。

 勿論、自己防衛の為とは言えますけど、私だったらさっさと博士に回収して貰って逃げるかな」

 

 ミドリの判断に、先生はうんと頷いた。

 

「だけど、最後まで博士の行動に何も言わなかった。主体性の欠ける行動だと思わないか?」

 

 “暴君”が彼らの批評に一石を投じる。

 

「“それが人間性ですよ。迷い、悩み、そしてやるべきことを見つける。善悪では、勇気では解決できない、そんな出来事の連続にアリスは最後まで悩み続けたんだ。それを責めることは誰にもできない”」

 

 先生の言葉に、三人の少女は頷いた。

 

「アリス、人間の定義とはなんだ?」

「……分かりません」

「体が機械ではないことか? 母親から産まれることか?

 それとも、神に認められることか?」

 

 どれも違う、と“暴君”は言った。

 

「人間の証明とは、他者からの観測による共感を得ることだ。

 多くの者達がお前を人間と同じように扱った。だからお前は人間なんだ。

 自分の心は女だと主張する男の競技者のように、お前は大きな反発は生まなかった。

 そうとも、どこにでもいる、取るに足らない、下らない人間と同じなんだよ」

 

 アリスは思い返す。

 博士も、エリサも、あの四人も、皆アリスをロボと知っていて自分たちと同じように接していた。

 

 それが人間の証明。アリスと他者の違いなど、ただの個性の違いに過ぎないと、人間達は受け入れた。

 

「そして僕も、人間であること、人間だったことを捨てたわけじゃない。

 お前は最後まで、諦めるとは言わなかった。リーパー隊の隊長が言ったように、その言葉には何の意味もない。

 だが、それを最後まで貫き通し、己の行動を曲げなかった者が言うのならば意味がある。

 お前はこの旅路で勇者には成れなかったが、人間には成れたようだな」

 

 “暴君”が、それを認めた。

 もう誰も、アリスの人間性は否定できない。

 

「いい暇潰しになったよ。

 お前は、お前の宿命に決着を付けて来い」

 

 

 アリスの意識が、“聖地”から遠のく。

 

「────!!」

 

 アリスが皆へと手を伸ばす。

 彼女が会いたかった人たちは、微笑んでいた。

 

 そして、彼女の旅路は終着点へと至る。

 

 

 

 §§§

 

 

「は……ッ」

 

 アリスは目を覚ます。

 すぐに周囲を見渡す。

 

 夜、布のテント、身体から落ちる毛布。

 

「どうしたの、やっぱり眠れない?」

 

 アリスの横に、ピンキーが目をこすりながら体を起こした。

 その更に横には、グリーンベルがすやすやと寝ている。

 

「ぴ、ぴんきー……べる……」

「なに泣いてるの? やっぱり魔王は怖い?」

「……はい、怖いです、怖いですッ」

「そっか。ほら、おいで」

 

 ピンキーはいつも妹にそうしているように、アリスを抱きしめた。

 彼女はアリスが泣き止むまで、ずっと背中をさすっていた。

 

 

 

 アリスは千年魔導王国に戻ってきた。

 あの旅路は夢だったのだろうか?

 

「いいえ、夢じゃありません」

 

 彼女と博士の絆が、指輪の形をした武装があった。

 

 ──魔剣:スーパーノヴァ・レムナント。

 

 超新星は、爆発後も天体と言う名の残骸を残す。

 光の剣の後継機が、アリスの手に存在していた。

 

 だからだろうか、魔法ロボが装備していたレールガンはどこにも無かった。

 

「ユズリハ様、やっぱり王国からの援軍を待ちましょう」

 

 翌朝、アリスはユズリハにそう進言した。

 

「……やっぱりそうした方がいいかな」

「えー、でも、増援が来たら私達の手柄が減るじゃん!!」

「命有っての物種でしょ、お姉ちゃん」

 

 アリスはルートの分岐を試みた。

 自分が過去に戻ったのか、それともよく似た別の世界に来たのか。

 

 “暴君”の思惑は分からない。

 だが、アリスは自分のすべきことは分かっていた。

 

 もう一度、魔王(アリス)と相対すること。

 もう一人の自分と、決着を付けること。

 

 これは、彼女の旅路なのだから。

 

 

 決戦前夜は、二日伸びた。

 

 援軍は、二機。

 されど一騎当千。

 

『待たせたな、お前ら』

 

 王国騎士総長、ネルライト。

 

『私まで駆り出されたよ、女王は本気みたいだ』

 

 技術士官のホワイトストーン卿。

 

 二人が援軍として到着した。

 

『援軍はお二人だけですか?』

 

 魔法ロボに騎乗しているユズリハがスピーカーで問うた。

 

『機動性を考慮して、我々が先行してきたんだ。行軍の基本は足の遅い味方に合わせなければならない』

『はん、俺達が居りゃ十分だろ。整備したら乗り込むぞ』

 

 二人の乗機から、従者たちが降りてきて整備を始める。

 

「あの、独断専行にならないかな?」

「俺が騎士総長。文句あるか?」

「ありません」

 

 とは言え、ユズリハはネルライトの実力を分かっているので頷くしかなかった。

 

「整備は終わったよ、三機ともに万全だ」

「お、仕事が早いな」

「整備程度だからね」

 

 男装の麗人なのに、油汚れがよく似合うホワイトストーン卿がそう答えた。

 

「フラワーヒル卿。君のバレルフッドは傷だらけだった、よくここまで戦い抜いたね」

「恐縮です、ホワイトストーン卿」

「だが、次の戦いは一機だけではない。背中は任せて欲しい」

 

 ユズリハは深く頷いた。

 

 そして、三機は進む。

 魔王城へと。

 

 

 この世界の障壁を超えると、無数の魔物が召喚される。

 

 視界を埋め尽くすほどの魔物の軍勢が、三機を迎え撃つ。

 

『俺が先行する。背中は任せた』

 

 ネルライトが魔物の群れに飛び込んだ。

 同時に、彼の周囲の魔物が吹き飛んだ。

 

 両手に振動ブレードを装備した彼は、小さな嵐そのものだった。

 

『イカズチ号よ、我らの真価を見せよう!!』

 

 専用カスタムされたホワイトストーン卿の魔法ロボが、強力な電撃魔法を杖から放った。

 嵐に、雷鳴が加わる。

 魔物の大軍をモノともしない。まさに一騎当千。

 

「そこまでだ!!」

「我ら魔王四天王を倒さねば、この先は進ません!!」

 

 しかし、そこに魔王四天王が登場する。

 

 二人を援護していたユズリハ機は、謎の障壁で二機と分断された。

 

『こいつらを倒したらそっちに行く!!』

『お前達は先に行け!!』

 

 二人の声に、ユズリハは頷いた。

 

『ご武運を!!』

 

 ユズリハは目の前の魔物を蹴散らしながら、奥へと進む。

 

 

 四人は魔王城の城門前にまで辿り着いた。

 そこを守る、最後の騎士が待ち構えていた。

 

「我こそは魔王四天王が最後の一人!!

 竜騎士ケインなり!! 名のある騎士とお見受けする。

 ここを通りたくば、この私と決闘をすることだ」

『受けて立つ!!』

 

 ユズリハの勇ましい声に、竜騎士は笑みを浮かべた。

 

「是非も無し!!」

 

 彼が愛機に搭乗する。

 

「……アリス、それに二人共。

 騎士の決闘は一対一が習わしだよ、降りて」

「で、でも!!」

「なに言ってるんですか、ユズリハ様」

「私たち従者は一蓮托生ですよ」

 

 ユズリハの言葉に、従者たちの覚悟は決まっていた。

 

 だからこそ。

 

「アリス、立会人をお願い」

「……分かりました」

 

 アリスは信頼の証として、機体を降りた。

 操縦に関わらない自分は重りにしかならないからだ。

 

「いいえ、私が決闘の立会人となりましょう」

「あなたは……」

 

 魔王城のバルコニーから、大賢者ヒマワリがふわりと下りてくる。

 

「あなたは、魔王様の下へ」

「……はいッ」

 

 アリスは城門を開けて、先へと進んだ。

 

『アリス、アリス!!』

『貴女方の相手はこの私ですよ!!』

 

 背後で、両者が激突する音が聞こえる。

 アリスはそれを振り切るように、無人の魔王城を突き進んだ。

 

 

 

 §§§

 

 

 虚しい城内を進み、アリスは謁見の間に辿り着いた。

 両開きの大きな扉を開ける。

 

 玉座には、黒いドレスの魔王(アリス)が座していた。

 

「どうしてまた来たんですか?」

 

 魔王(アリス)は問う。

 

「また私から奪いに来たのですか?」

「違います」

 

 アリスは断じてそう答えた。

 

「貴女は、私です」

「……」

「アリスは、私は、貴女と分かり合いたいです」

「笑わせないでください」

 

 魔王(アリス)は鼻で笑った。

 

「いつも、いつも!! 誰からも愛されていたお前が、この私の気持ちなど、分かるモノですか!!」

 

 彼女は激怒して、玉座から立ち上がった。

 

「……魔王など、どこにも居はしなかった」

 

 アリスは彼女を見据えて、そう言った。

 

「当然です。勇者も、魔王も、ファンタジーに過ぎないのですから」

「お前は、私を否定するのですか!!」

「いいえ。でも結局、勇者も魔王も、人間でした」

 

 憎しみから魔王に目覚めた勇者は、人間だった。

 

「ようやく、答えが見つかりました。

 なぜ魔王であるはずのアリスが、勇者に恋焦がれたのか」

 

 星の航路を経て、ようやくアリスは答えを得た。

 

「人間が産み出すファンタジー。人の頭の中から産み出される未知との邂逅。

 最初に味わったあのモモイ達のゲーム、頭が震えました」

「……」

「アリスでも、勇者の役割(ロール)を演じてもいい。

 ありのままの魔王でもいい。それを許容するファンタジーの世界。

 そうです。──魔王(アリス)は、勇者(にんげん)に成りたかったのです」

 

 それは別の世界、あの男が居ない筈の世界で、仲間たちと見つけた答え。

 それを得るのに、随分とアリスは回り道をしてしまった。

 

「実を言うと、今は少しだけ勇者のロールは恥ずかしいです。

 アリス。もう一人の私。貴女が私が愛されていると言うなら、貴女も私と同じロールをすればいいんです。

 アリスは今、魔物職も極めたい気分ですから」

「お前は魔王(アリス)に、自分の役目を捨てろと言うのですか?」

「別に構わないじゃないですか。

 最近だと、最強の職業は魔物使いらしいですし。盗賊も瞬間火力が出て楽しいと思いますよ!!」

「馬鹿馬鹿しいことを言うな!!」

 

 これは自問自答。

 二人は鏡合わせ。

 

「お前はこの世界を滅ぼしたことが無いからそんなことを言えるんです!!」

「今なら言えます。アリスは、そんな魔王(アリス)を受け入れます」

「他人事だからそんなことが言えるのですよ!!」

 

 魔王(アリス)の魔力が鳴動する。

 彼女の怒りに、大気が震える。

 

「私達にあるのは、どちらが生き残るか。それだけです」

「分かりました。決着を付けましょう。それで貴女が納得するなら」

 

 そして、二人のアリスが相対する。

 

 

── warning‼ warning‼ ──

 

── 魔王 降臨 ──

 

 

「私の腕の中で、息絶えるがいいです」

 

 

────“王 女 の 国 の 鑑”

序列XX位、魔王アリス

MIRROR QUEEN ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上での戦いは、もう終わっていた。

 

 いや、もはやそれどころではな無いだけだった。

 

 

 空に浮かぶ、白と黒。

 

 魔王(アリス)に機械部品が次々と集結する。

 巨大な竜を模り、それはアリスへと牙を剥く。

 

「博士!! 今こそ、証明してみせます!!」

 

 アリスの手に、魔剣が宿る。

 レーザー砲が巨大な竜を切り裂いた。

 

 だがそれだけでは終わらない。

 

 無数の機械部品が、六つの腕と巨大な翼を備えた破壊神を模った。

 氷の魔法を操る大魔王が。

 進化の果てに怪物に至った魔族の王が。

 狡猾な魔界の大魔王が。

 狭間の世界の創造主が。

 神をも下した魔王が。

 暗黒を統べる邪神が。

 人間に裏切られた堕天使が。

 

 次々と形成され、不気味な彫像となって並んでいる。

 

「ボスラッシュですね!!」

「消えろ!! 不出来なオリジナル!!」

 

『アリス、“代用ウミガメのダンス”を使え』

「はい、博士。魔法発動です!!」

 

 アリスの内側から、博士の声が聞こえる。

 彼女の知能を模したサポートAIが、武装のサポートをこなす。

 

 魔剣が機能を正しく発揮する。

 空を舞うアリスが、無数に分身したではないか。

 

 しかもそれらは幻ではない、全てアリスと同じ機能と武装を持った実体である。

 

 魔王のスタチューと、無数のアリスが激突する。

 

 炎の弾が炸裂する。レーザーが薙ぎ払う。

 氷の息吹が空を染める。誘導弾が冷気を吹き飛ばす。

 巨大な爆発が空を彩る。爆弾が次々と投下される。

 

 しかし、その戦いもすぐに終わる。

 魔王(アリス)の放った凍てつくような波動が、アリスの偽物を全て凍らせ、撃墜した。

 

『アリス、“量子チャシャ猫の箱”を使え』

「了解です、博士。アリス、無敵モード!!」

 

 都合の良い時に居ることにして攻撃し、都合の悪い時は居ないことにして攻撃を避ける。

 六椀の破壊神はそれによって叩き壊された。

 

 が、残りの魔王の偶像が一斉に波動を放った。

 アリスの無敵モードは終わりを告げた。

 

『ふむ。アリス。“タイムキラー・ティーパーティー”を使え』

「はい、チートモード起動!!」

 

 永遠に終わらないお茶会のように、時間が止まる。

 止まった時間を遊泳するアリスが、全ての魔王の偶像に攻撃を加えた。

 

「そして時は動き出します!!」

 

 ゲームの魔王たちが一斉に爆散する。

 機械部品の残骸が、神話の戦いを繰り広げる地上の者達に降り注ぐ。

 

「下らないです」

 

 無数の機械部品が、魔王(アリス)に集結する。

 機械部品が巨大な手となり、アリスを握りつぶさんと空を覆う。

 

「時計ウサギは遅刻をしました!!」

 

 アリスは魔剣に内蔵された懐中時計を弄った。

 アリスは相手の攻撃に遅刻をしたので、その攻撃には当たらなかった。

 

 

 

 

「何が起こってるのか、全然わからない……」

 

 空で繰り広げられている戦い、それは人知を超えていた。

 もはや頓智か言葉遊びか。

 

 言葉で表現することが不可能な戦いを繰り広げていた。

 

「お願い……アリス、勝って」

「アリスなら勝てる。勝てるよ!!」

 

 祈るように、ピンキーとグリーンベルが空を見上げている。

 

「勇者……いや、アリス。お願い、生きて戻って来て」

 

 ユズリハはただ友人の帰還だけを願った。

 

 

 

 

「この下らない戦いにも飽きました。もう終わりにしましょう」

 

 魔王(アリス)の両眼が怪しく光る。

 

「うッ、強制、睡眠……」

 

 耐性を無視する無法な攻撃に、アリスの意識は一瞬で刈り取られる。

 

「所詮、お前はそのオモチャに頼り切り」

 

 魔王(アリス)の指先から魔力が迸り、アリスの武装を貫いた。

 一瞬で魔剣は大破し、粉々に砕け散った。

 

 浮力を失い、アリスは空から落ちる。

 

「これで最後です!!」

 

 魔王(アリス)が、巨大な機械部品の腕を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『節制のアルカナは示しました。

 自らの価値観が調和に至ることを。自分なりの哲学を得る成長を』

 

「天使様、負けないで!!」

「また会おうって、約束したんですから!!」

「もう会えないなんて、イヤです!!」

 

 微睡みの中に居るアリスに、少年天使団達の声が聞こえたような気がした。

 

 

『悪魔のアルカナは示しました。

 自らの欲望や執着に気づき、それを自覚することを』

 

「恩人様、貴女は諦めないんじゃないんですか?」

 

 アリスは、ポピーの声が聞こえたような気がした。

 

 

『塔のアルカナは示しました。

 自らの思い込みや傲慢、それ故の失敗と滑落を』

 

「アリス、証明するんじゃなかったのか?

 私の創った物が、魔王に通用すると」

 

 アリスに、博士の声が聞こえたような気がした。

 

 

『星のアルカナは示しました。

 夢や希望に向かう素晴らしさを。失敗からやり直し、困難に立ち向かう力を』

 

「なんだ、もう終わっちゃうのか?」

「そんなんで私達に顔向けできるの?」

「魔王に負けるなんて、許さないから」

「お願いだ、勝ってくれ!!」

 

 クラリス達の声が聞こえたような気がした。

 

 

『月のアルカナは示しました。

 目に見えぬ不確かな不安を、自らが産み出した幻想を打ち破る勇気を』

 

「個人的には、お前に勝ってほしいな。

 頼むよ、俺にできなかったことを、お前がやってくれ」

 

 リーパー隊の隊長の声が聞こえたような気がした。

 

 

『太陽のアルカナは示しました。

 自らが手にしていた幸福を。成功体験から得られる学びを』

 

「お願い、負けないで、アリス!!

 あんたは弱虫じゃないでしょ!!」

 

 エリサのワガママが聞こえたような気がした。

 

 

『審判のアルカナは示しました。

 取捨選択の責任と、努力の果てに得られる価値を』

 

「アリス、早くこの世界を平和にして、ゲームしよう!!」

「貴女だけが欠けたら、意味が無いんです!!」

「信じてるよ、アリス」

 

 ピンキー、グリーンベル、ユズリハの声が聞こえた。

 

 

『そして、世界のアルカナは示しました。

 完全無欠のハッピーエンド!! 魂の成長、その成果を!!』

 

 大賢者ヒマワリは最後のタロットカードを示した。

 

『さあ、今こそ証明するのです。貴女の獲得した、魂の存在を!!』

 

「…………はい」

 

 アリスは、空に手を伸ばした。

 

 

「来い、勇者の剣よ!!」

 

 

 

 

 

 アリスは、墜ちない。

 

 彼女の手には、“魔剣”があるのだから。

 

「な、もうひとつ、用意して……」

「いいえ、これは一つだけです」

 

 物的死を迎えたアリスの魔剣が、持ち主の元に帰って来た。

 これは、ただそれだけの話だ。

 

 アリスが自らの魂を証明したのだ。

 

「ありがとう、博士」

 

 今なら出来る。アリスは確信した。

 

「オーバードライブモード、起動です!!」

 

 “魔剣”に内蔵されている魂と、アリスが共鳴する。

 

 魔王に力を奪われて以来、ずっと光を失っていた彼女のヘイローに光が灯る。

 アリスの背から巨大な力場が幾学的な模様を描きながら形成された。

 

「アリスがそうであるように、勇者には誰でも転職できるんです!!」

 

 その姿は、この地に降り立った天使そのものだった。

 

 

「お母さん、お母さん!! 第二形態に成るよ!!」

『ああ、お前の好きにするといい』

 

 魔王(アリス)が天に手を掲げる。

 爆発的なエネルギーが、その小さな身体に舞い降りる。

 

 無数の機械部品が、竜の頭蓋を形成する。

 

「大いなる邪悪の母よ、我が父たる邪竜よ!!

 今こそ、ここに私は神の意志を振るわん!!」

 

 邪竜を従え、一体化した魔王(アリス)が、邪悪な祈りを試みる。

 彼女の魔力が、見る見る活性化していく。

 

「まさか!!」

「お前が勇者だというなら、私は魔王として邪悪を成します」

 

 魔王(アリス)は、全ての魔力を解き放った!!

 

「この世界を、救って見せろ!!」

「魔剣よ、力を貸して!!」

 

 創世にも匹敵する二つの力が、今衝突した。

 

 

 

 

 

 

 




冒頭のやりとりは、「Prey」というゲームのラストシーンが元ネタです。
詳しくはネタバレなので言いませんが、プレイヤーのゲームプレイスタイルを総括するシーンです。

次回がエピローグになります。
結局一話伸びた……まあ、そう言うものですよね。

ではまた、次回!!

あ、返信は今日用事があるので明日やります。悪しからず。

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