風紀委員会の悪魔
ゲヘナ学園。風紀委員会本部棟の執務室。
学園で唯一管理が行き届いているこの場所でその日、行政官アコの悲鳴じみた声が鳴り響いた。
「正気ですか、ヒナ委員長!?」
普段の彼女なら決して出ない言葉。
委員長たるヒナへ崇拝じみた忠誠を向ける彼女にとって、ヒナの正気を疑うことはあってはならないはずである。
「あんな下劣な男を、この厳正なる風紀委員会に迎え入れるだなんて!!」
男はソファーに座り、背もたれに体を預けながらファイリングされた資料を読んでいた。
そのソファーの四隅をWolf小隊の四人が固めていた。
「俺の麗しのファム・ファタール。
その下品な乳を見せびらかしてる女は?」
「誰が下品ですか!!」
「巨乳の女ってのは胸を見せびらかせば良いと思ってやがる。
世間の男の大半はそれで喜ぶ。浅ましいと思わないか、俺のファム・ファタール」
「まず委員長をそのように呼ぶのは止めなさい!!」
ツッコミどころは多いが、とりあえず口は一つなので最も彼女が我慢できないところを突っ込んだ。
「彼女は天雨アコ。風紀委員の行政官よ」
「行政官? 政治家か?」
「ううん、私の秘書や補佐みたいなもの」
「まあ呼び方なんて何でもいい」
男はファイルをテーブルに放った。
「違法サークルにテロリスト、自由過ぎると言うのも考え物だな」
「アコは今謹慎中。他の学区で問題行動を起こしたから。
あなたがその代わりになるなら、試させてもらう」
「うぐぐぐ」
そう、アコは只今絶賛謹慎中。
だと言うのに仕事場に来て書類仕事をしているのである。
それに対してヒナ以外誰も文句を言わない。それぐらい多忙なのだ、風紀委員会は。
「だからアコ、あなたは自室に戻りなさい」
「ご、後生です、委員長!! こんな男を傍に置かないでください!!」
「他の学区で問題行動を起こす女は、“こんな女”じゃないのか?」
男の野次に、アコは殺意すら感じる視線を向けた。
「じゃあこうしたらどうだ。
こいつを後方支援として俺に付けろ。オペレーターは欲しいからな」
「……まあ処分としては実質一時的な降格。アリと言えばアリね」
「委員長、そんな!!」
「良いわね?」
物申そうとしたアコは、ヒナに睨まれ引きつった表情のまま肩を落として俯いた。
「ちなみに何をしたんだ、こいつ」
「相手の許可もとらずに市街地での戦闘行為」
「俺なら銃殺するな、戦争にでもなったら塩漬けにした首を送る」
この世界は甘すぎるな、と男は肩を竦めた。
「明日、可能な限り兵員を本部前に集めてくれ。
休みの者にも放送するので、聞くように通達してほしい」
「就任演説でもするの?」
「まあそんな感じだ」
「わかったわ。アコ」
「……了解です」
アコは肩を落として仕事に戻った。
そして翌日。
風紀委員会の本部棟前に、千人以上の風紀委員が集まった。
「これだけ居て、人手不足とはな」
キヴォトス最強とも謳われる、ゲヘナの風紀委員会。
一糸乱れず整列しているだけで、その威容は伝わってくる。
「あー、ごほんごほん。風紀委員会の諸君、俺は昨日ここの臨時顧問官として雇われた。
アップルマンと名乗っている。キヴォトス外から来てまだ一か月ほどだから、至らぬ点があれば許してほしい」
壇上に登った男は、マイクごしに全員に語り掛けた。
「何なんだ、あいつ」
「さあ、ヒナ委員長がスカウトしたのだとか」
イオリとチナツはヒラの団員と違って、ヒナと同じ幹部として横に並んでいるが、イオリはしばらく降格、チナツは減俸の処分を受けていた。
「演習の記録は見せて貰った。
素晴らしい練度だ。お前たちを正規兵として雇いたいと言う国は幾らでも居るだろう」
つまらないお世辞。
偉い人の面白くも無い長話が始まると、誰もが思っていた。
「だと言うのに、俺の知人はこう言っていた。
風紀委員会なんて大したことない。ヒナ委員長以外は有象無象。
見掛け倒し。頭数だけ。偉そうにしているだけ。ゲヘナで真面目を気取ってるだけの奴ら」
瞬間、イオリの頭が沸騰しそうになった。
心無い罵倒に塗れた言葉は、当然まだ若いヒラの委員たちも目の色を変える。
「なぜこう言われるか、分かるか?」
男の問いに返答は無い。そんな場ではない。男の演出だ。
「最近流行ったアニメのセリフになぞって言おう。
テロリストは卑怯だから、私達はより卑怯にならなければならない」
そう言って、男はBDを取り出した。
「これは、この学校の演習カリキュラムだが」
流れるように、それを地面に叩きつけた。
ディスクが割れて、木っ端微塵になる。
「全部忘れろ。こんなもんはお行儀の良い軍隊ごっこだ。そしてお前たちの行動を同じ学園のテロリストどもに教えているようなものだ!!
お前達の用兵は行動パターンすべて、敵に知られているのだ!!」
訓練された風紀委員たちが騒然となる。
そんな発想、これまで誰も至らなかった。
「キヴォトス最強の風紀委員会。
俺はそれを評判通りにしてやろう。お前たちの努力が、流した汗が本物であると、証明させてやろう」
そして男は彼女達に問いかける。
「ゲヘナ学園の校風は自由と混沌。
なるほど、自由によって産まれる混沌はヒトの営みそのもの。
混沌こそ人間の本質。では諸君、自由とはなんだ?」
男の演説を、その所作を、誰もが眼も耳も背けなくなった。
「これまで有史以来一度として、本当の自由とは有ったのか?
俺は自由の為に戦うと言った連中を知っているが、そいつらのしたいことは国民を力や恐怖で押さえつけ、彼らの税を貪り、文明の利器を享受し遊び惚けることだった!!
そいつらが野山で裸で過ごし、誰にも迷惑を掛けないのなら、俺はそいつらを皆殺しにせずにすんだ。
俺達の知る自由とは結局、人間社会という共同体の利益を得る為の口実に過ぎない!!」
男の演説に熱が籠る。
それを聴く方も聞き逃すまいと目を向ける。
それを聞く彼女達に、戦う理由を与えるからだ。
「自由と混沌、実に素晴らしい。
では聞くが、自由とは気に入らない飲食店を爆破することか?
誰彼構わず迷惑を顧みず、自分たちの目的の為に温泉を掘ることか?
それともスクール水着で校内で徘徊することか?」
だんッ、と男は片足を踏みならして、怒りを示す。
「断じて、断じて違う!!
自由とは、他人を尊重して成り立つものだ!!
校則に違反する活動を行う部活動やサークルが本校舎に蔓延り、真面目に学園生活を送ろうとしている者たちが隅に追いやられる!!
これが、この学校の自由の正体だ。暴虐に躊躇いの無い者が、我が物顔で蔓延るのがこの学校だ!!
それのどこが自由だ。だったら去れば良い? 去る者は追わず? この無法が溢れるキヴォトスの地に裸一貫で逃げろとでも?
馬鹿馬鹿しい!! 馬鹿馬鹿しいと思わないか!!」
男の言葉に、風紀委員会のメンバーの胸に怒りが灯る。
人間なら誰しも持つはずの正義感に、男は火を付ける。
「自由とは統制の言葉だ。
お前達はなぜ風紀委員会に入った?
給金が良いからか? それとも合法的に銃をぶっぱなせるからか? それもいい、それも自由だ。
だがほんの少しも誇りを持ったことはないか?
風紀を守ることで、無辜の弱者を守るのだと。この学校の秩序が崩壊しないのは、自分たちが居るからだと!!」
男の言葉は、風紀委員たちに誇りを植え付ける。
独裁者の演説で愛国心を刺激するやり方と、なんら変わらないというのに。
「自由も許す。混沌も許す。
だが悪党は許すな。犯罪を許すな。邪悪を赦すな!!
そして、学校として生徒を正しい道に引き戻し、邪知暴虐を働く者どもに制裁を!!
怒れお前たち!! お前たちは張りぼての偽善者集団か!!」
「違う!!」
誰かが叫んだ。
「違う、違う!!」
「違う違う違う!!!」
「我らは誇り高きゲヘナ風紀委員会だ!!」
千名を超える風紀委員たちが、我も我もと声を上げる。
熱狂。狂奔。もし目の前に敵が居れば、全員が命を顧みることなく突撃するだろう。
そして容赦なく、ずたずたに惨殺するだろう。
その様子を、幹部たちは戦慄して見ていた。
男が両手を広げ、鎮まれ、とでもいうような仕草を見せる。
その様子に、自然と風紀委員たちは鎮まった。
数秒前が嘘のように、静寂が落ちる。
「そうだ。お前たちは誇り高きゲヘナ学園の風紀委員会だ。
キヴォトス最強!! 偉大なるヒナ委員長の誇るべき精鋭!!
今日から、いやたった今から、それが真実となる。
愛すべき戦友たちよ、俺は宣言するぞ!!」
「テロリストどもを、お前たちと共に、この世から一人残らず皆殺しにしてやると!!」
男は一礼し、マイクを台座に戻した。
パチパチ、パチパチと、拍手の音が鳴り始めた。
それはすぐに、万雷の拍手へと広がっていった。
「以上、新任の臨時顧問官の挨拶でした」
ヒナがマイクで皆に集会の終わりを告げる。
それでも、拍手の雨が終わることはなかった。
「……いったい何の騒ぎだ。生徒たちがデモでも始めたか?」
「どうやら風紀委員会が朝礼をしているようですよ。新任の顧問の挨拶をするとか」
「ふん、あいつらも暇だな」
生徒会室でそんな会話を繰り広げるマコトとイロハ。
彼女達はまだ自分たちに、それが無関係であると信じて疑っていなかった。
§§§
「哨戒中のE小隊から連絡!!
自治区のデパートの宝石店に強盗集団が押し入り、宝石類を奪い、警備員との銃撃戦が発生中とのこと!!」
オペレータールームに入電。
デパートに強盗事件が発生したようだった。
「店からではなく、小隊員が通報したのか」
「店員も応戦しているのでしょう。
これくらい日常茶飯事です」
当たり前のように言うアコに、男は溜息を吐いた。
「通報より先に銃を撃つ方が先とはな。
まあいい、俺と部下たちも現場に出る」
「わかりました。待機中のB小隊も随伴してください」
気の合わない二人だが、仕事となればとりあえず二人は切り替えて、各々の役割をこなす。
「うん、あんた幹部じゃなかったのか?」
男が装甲車にWolf小隊の四人が乗り込むと、既に連絡が行っていた随伴兵が乗車していた。
その相手と言うのが、イオリとチナツだった。
「只今降格処分中だ。一兵卒として働けってさ」
「文句を言わないで現場では彼に従ってください」
チナツは降格は免れたものの、それは前線指揮官としての能力がイオリとは違うからだ。
要するに衛生兵チームのトップだから下手に降格できなかっただけである。
「うーん……あんた良い体つきしてるな、すごい好みだ」
「んなッ、なんだいきなり!?」
急に口説かれてイオリは頬に朱が差した。
『まじめにやって下さい、色情魔』
「安心しろ、あんたは俺の好みの正反対だ。性格も何もかも」
『それはそれは、安心しました』
イオリはアコと通信で軽口を叩き合う二人を見て、変なモノを見るような目で見ていた。
そうしているうちに装甲車は総勢十数名を乗せて発車した。
現場には10分も掛からずに到着する。
「これはひどい」
デパートの入り口は店内から銃撃戦が続いていたのか、見るも無残な有様だった。
そして、通報した小隊の風紀委員が奮戦の結果全員倒れていた。
犯人グループは既に逃走済みらしい。
「衛生兵!! 負傷者の救護を!!」
「任せてください」
「イオリ、敵の人数と装備と逃走車両の特徴を聞きこんでおけ。
お前らは逃走ルートの割り出しを」
「了解した!!」
「オーケー、ボス」
「残りは店内に犯人グループの一味が潜んでいないか確認を急げ」
「了解です!!」
男はテキパキと適材適所に仕事を割り振った。
そして、負傷している風紀委員の下へと向かった。
「おい、大丈夫か!!」
「ううッ、申し訳ありません、顧問官……犯人を逃しました」
「お前たちは五人、対して犯人グループの規模は戦闘痕から十五人程度だろう。お前たちはよく戦った」
「もったいない、お言葉です……」
男の側の負傷兵の治療を始めたチナツは気づいた。
「……」
泣いていた。
今日この仕事に就任したばかりの男が、顔もたった今合わせたばかりの相手の奮戦と負傷に、泣いていたのだ。
目元の毛を濡らし、その部分だけがてらてらと日の光で鈍く輝いていた。
「お前たちの仇は必ず取る。
お前達の奮戦を無駄にはしない」
そしてチナツは見た。
男の瞳に、憎悪が宿ったのを。
『イオリさんから送られてきたデパートの監視カメラの映像データから、強盗犯はヘルメット系不良集団と判明。
このルートだと、ハイウェイを経由してトリニティの自治区に逃走するものと思われます』
「検問は?」
『もう指示しています』
「よし、ウズ。逃走ルートの割り出しは終わったか?」
「当然」
Wolf小隊の情報処理担当、ウズはノートパソコンのマップに幾つかの犯人の逃走ルートを表示した。
「顧問官!! 店内の索敵完了!!
逃げ遅れた犯人等は確認できません!!」
「よし、チナツ以外の衛生兵はここに残って救護を続けろ。
それ以外は装甲車で追跡をするぞ」
すぐにイオリを始めとした風紀委員の部隊が集合する。
「お前ら、仲間たちの仇を討つぞ!!
気合入れろ!! 逃したら顔向けできんぞ!!」
はい、と全員が応じた。全員の士気は高い。
「おい、アコ。検問の位置を指示する。
この位置に犯人グループを追い込むぞ」
『ここは、大橋の上!? ここなら逃げ場は無いでしょうね!!』
ノートパソコンの逃走ルートの予測を見ながら、男はアコに指示を飛ばした。
そして。
「追い詰めたぞ、薄汚いネズミども」
大きな川が流れる上に建設された大きな橋を封鎖した風紀委員の目の前に、犯人グループは追い込まれる形になった。
既に犯人グループは風紀委員の部隊と銃撃戦を始めていた。
「映画なら投降を勧告する場面なんだけどな」
「そんなものはゲヘナには、いやゲヘナで騒動を起こす連中には必要無い」
イオリはそう言うと、装甲車から飛び出して行った。
犯人グループのヘルメット団は三台の車を遮蔽物にして銃撃戦を繰り広げていた。
イオリはそのど真ん中へと単身突入していく。
「おいお前達、あいつに手柄を独り占めさせるな!!」
「はい!!」
随伴していた風紀委員が盾を構えて突撃し、Wolf小隊も突入を開始した。
そして二分も掛からず、十三名の不良を鎮圧した。
「アコ、状況終了。犯人グループの鎮圧を確認」
『確認しました。皆さんお疲れ様です』
通信の向こう側でアコが一息ついたのが分かった。
男は犯人の乗っていた車の中を調べた。
幾つか、犯人たちの所持品と思われるものが見つかった。
「おい、お前達」
男は逮捕され、手錠を掛けられた犯人たちに歩み寄っていく。
「ゲヘナ生らしいな」
「ちッ、それがなんだよ」
男は彼女らのモノらしい学生証を見せた。
彼女らはちっとも反省した様子は見せていなかった。
「聞いたかお前達。同じ学校の生徒が、俺達の仲間を傷つけたらしいぞ」
男のそれは世間話を振るような物言いだったが、風紀委員たちは各々作業を止め、沈黙した。
「な、なんだよ、あんたたち」
「お前水泳部らしいな」
「そ、それがなんだ!!」
「こう言うのはどうだ」
男は犯人の一人に詰め寄った。
「犯人は俺たちの隙を見て逃走し、川へと飛び込んだ」
そう言うのと同時に、男は犯人の一人を引きずるようにひっぱって、橋の縁へと歩いて行った。
「ちょ、おまッ、なにしてる、止めろ!!」
イオリが止める間もなく。
「や、やめて、い、いやぁぁぁぁ!!」
犯人の一人が、橋の上から突き落とされた。
数十メートルほど、手錠をしたまま、ヘルメットを被ったままで。
助けなければ、ほぼ間違いなく溺れ死ぬだろう。
「お前たちも、水泳部で良いよな?」
男の凶行を見ていた他の犯人一味は、震えあがった。
「ほら、逃げたいだろ? 俺が逃がしてやるよ」
がくがく、と震え出す犯人たち。
それを見て男は鼻で笑う。
「ああ、お前らプールで内緒でションベンするタイプだったか」
男の言葉に、風紀委員たちが笑った。
唖然としている、イオリとチナツを除いて。
「な、なにをしているんですかイオリ、早く救助を!!」
「あッ、ああ!!」
イオリは我に返ると、すぐに川へと飛び込んだ。
「何をしているんですかッ、我々は風紀委員です!!
こんなこと許されませんよ!!」
少なくとも医療を志した身として、こんな私刑じみた行いをチナツは許せなかった。
「このことは委員長に報告します!!」
「そいつは構わないが」
男は同行した風紀委員たちに振り向いた。
「聞いたか、こいつは犯人に同情したみたいだ」
「……」
「どっちの味方なんだろうな」
「……」
笑うのをやめて、ジッとチナツを見てくる風紀委員達。
その光景に、彼女はゾッとした。
狂気が、伝播していた。
この男の狂気が、皆の理性のタガを外したのだ。
その時だった。
だだだだん!!
戦闘が終わったはずのこの場で、銃声が鳴った。
撃ったのは風紀委員で、撃たれたのは犯人のひとりだった。
「あ、すみません、暴発しました」
「暴発か。暴発なら仕方ない」
一発だけなら誤射らしいからな、と男は笑う。
「そういえば、私昨日銃の整備忘れちゃったなぁ」
「私も間違えて普段使ってない銃持ってきちゃった」
「ケチって安い弾丸を持ってきちゃったんだよなぁ」
口々にそんなことを言う風紀委員たち。
もう既にヘルメット越しに犯人たちのすすり泣く声が幾つも聞こえ始めていた。
「もうにどと、わるいことしません」
犯人たちはえずきながらそんなことを延々と口にした。
狂ってると、チナツは思った。
まともなのは自分なのか、それとも自分がまともの基準からずれたのか。
とにかく、自分の正気を確かめるべく、この日の事は報告しなければならないと思った。
「ななな、なんてことをしてくれたんです!!」
当然、報告を受けたアコは激怒した。
「風紀委員が個人的な私刑をするだなんて!!」
「私なんか一人を抱えて五百メートルは泳いだんだからな!!」
アコだけでなくとばっちりを受けたイオリもご立腹だった。
「誤解だって、犯人が逃げて川に飛び込んだんだって。
あと暴発もあったんだっけか?」
男は毛ほども悪びれていなかった。
「委員長、こんなやつ即刻解雇すべきです!!」
「……私も同意見です、彼の行いは風紀委員の名誉を損ないます」
鬼の首を取ったように主張するアコに、チナツもおずおずと追従する。
「……ねえ、一つだけ聞かせて」
報告書を読んでいたヒナは、男に言った。
「なんだい、俺の麗しのファム・ファタール」
「自分の行いが私の機嫌を損ねると思わなかったの?」
ヒナは、男が自分の気を引くためにやっているのだと思っていた。
だが、男は恐るべき凶行を息をするように行った。
風紀を守る者が、私刑をするという矛盾した行い。
ヒナは男が何をしたいのか、まるでわからなかった。
「構わない。俺は君に尽くせるだけでそれでいい。
もし君が俺をクビにするというのなら、勝手にやるだけだ」
男は恭しく、ヒナの手を取った。
「毎日、一輪の花を玄関の前に届けるように、テロリストどもの首を学園の前に置こう」
ヒナは黙って、男を見ていた。
アコは男がヒナに触れていることに激怒して大騒ぎしていたが、誰の耳にも入っていなかった。
「イオリ、チナツ、アコ」
「はい」
「はい!!」
「彼がやり過ぎないように、見張っていて」
それが、風紀委員長の命令だった。
「了解」
「わかり、ました」
イオリは頷き、チナツも不承不承ながら頷いた。
アコはまだ大騒ぎしていた。
「これは経験談からものを言うが」
アコだけが大騒ぎしている部屋の中で、男は三人に言った。
「テロリストどもは反省なんてしない。
自分を正当化する言葉を並べるだけだ。
それはなぜか? テロリストどもは狂ってるからさ」
一理あるのがなぁ、と言う表情をするイオリ。
「今日の強盗どもは、まともだったか?
他人の財産を奪って、銃を人に向けて撃って。
俺達が逮捕しても指導室に放り込んで、しばらくしたらまた繰り返す。
なあ、我が麗しのファム・ファタール。俺達は
悪いことをしたらヒナがやってくる。
悪いことをしたら風紀委員がやってくる。
それを知らしめなければ、イタチごっこだと男は言った。
「……そこまで言うなら、証明して」
「ほう?」
「ゲヘナでも悪名高い、美食研究会を検挙してみせて」
それはゲヘナでも、いやゲヘナ内外でも悪名を轟かす問題児たちであった。
「資料をくれ」
「アコ、いつまで騒いでいるの」
「……はい、委員長」
アコは渋々、例の美食研究会の資料を男に渡した。
「ふむ」
男が資料を読みこんでいる。
こればっかりは無理難題だと、ヒナ以外の幹部三人は思った。
件の四人の厄介さは指折りで、神出鬼没な上に個々も強い。
捕まえたことは無いでもないが、指導を終えるまでも無く脱走してしまう。
男の言う通り、反省しないテロリストそのものであった。
「お前ら」
男はポンとテーブルに資料を放り投げた。
「なんでこんな程度の奴らに、今まで手を焼いていたんだ?」
男は心底理解できないと言う表情で、皆を見ていた。
「どうにかできるの?」
「そうだな、10日で十分だ」
「言ったな!? 本当にあいつらを捕まえられるんだな!!
10日も掛って捕まえられなかったら、解雇だからな!!」
プライドが刺激され、イオリが念を押すように言った。
「勘違いしているようだが、俺はこの連中を恒久的に無力化してやると言ってるんだ」
「言っておくけど、ここは学校だぞ、殺すとか無しだぞ。
手足を千切ったりするのもダメだからな!!」
「そんな面倒なことしない」
「そう、わかった」
イオリと男が問答をする中で、ヒナが言った。
「なら、任せる」
ヒナの決定に、皆は頭を下げた。
「なら、下準備として我が麗しのファム・ファタールにお願いがある」
「なに?」
「ここの生徒会、万魔殿のマコト議長に話を通したい」
男の要求に、わかった、とヒナは頷いた。
幕間は今回を含めて全三話を予定しています。
言うまでもありませんが、美食研究会が推しなら幕間は読み飛ばした方が良いと思います。
ではまた。
主人公はあの二大テロリストたちをどうする?
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自業自得だし、徹底的にわからせる
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せめてちょっとは手加減してあげて