「ウソだろお前ら」
ギャン泣きする二人の言葉を腑分けし、男は理解した。
「正気でこんなクソつまらん、ゲロ以下の価値もなさそうなカスみたいなゲームを作ったってのか?」
男は本気で二人の頭を心配した。
「ああ、アコ、俺だ。
セナを呼んでくれ、ちょっと頭が心配な二人を脳の精密検査を──」
ガチで精神病院に入院が必要だと確信している男に、双子が襲い掛かる。
大泣きしながら言葉にならない言葉を吐き出しながら、ぽかぽかと男を叩き始めたのである。
「ああ、わかったわかった、お前たちはあくまで正気のつもりなんだな。俺も男だ、先生みたいにお前たちが自分を正気だと思ってるのを尊重しようじゃないか。
なにをどうとち狂ったら、こんな便所のタンカス以下の作品を誇らしげに面白いと他人に勧めるとか、普通想像できないだろ?
てっきりお前たちは、クソゲーでユーザーが苦しむのを楽しんでるような鬼畜系双子ロリだと……」
「うわああぁぁぁん!!!」
「びえええぇぇぇん!!!」
二人の大泣きは号泣に変わった。
「やれやれ、なんで俺はこいつらを慰めなきゃならんのだ」
男は二人が正常でないのを良いことに、両腕で抱きしめて背中をさすっていた。ヤラシイ気持ちが一切ないのが虚しい。
「ん?」
二人の泣き声が落ち着いてくると、男はもうひとつ、すすり泣くような声がロッカーから聞こえていることに気づいた。
おもむろに、男は部室のロッカーを開けた。
「しくしく、ぐすん、ひっぐ」
「お、好みのでこロリ発見。双子といい属性過多だな、ここの連中」
「閉めてください……ううッ」
「オーケー」
男はばたんとロッカーを閉めた。
「まさかこんなゲームしか作れないような部活を押し付けるとか、セミナーの連中も随分と舐め腐ってくれてるじゃないか。
これって正式に抗議文とか送った方がいいのか?」
男はゲヘナ学園からシャーレの先生を通じて正式に依頼として来ている。
ミレニアム学園という科学技術に特化した場所を信用して、だ。
なのに、成果物としてお出しされたのが、多くのクソゲーの汚点を汚水で煮詰めたような何かである。
苦情を言っても、恐らく誰も反論できないだろう。
「やめてください……」
「今度こそ廃部にされちゃう……」
ようやく泣き止んできたミドリとモモイが力無くそう言った。
「ああ悪い悪い、そう言うつもりじゃないんだ。
こいつは使えると思うぞ、今度捕まえたテロリストどもに指導室でこれをクリアまでやらせてやろう。いい拷問器具代わりになる」
「────ッ」
「────うッ」
「わー、泣くな泣くな、そうだよな、ゲームを本来の楽しみ方をしないのは冒涜だよな!! それはそれとして拷問には使うが。
お前たちは本気で、これを面白いと思って作ったんだな?」
こくこく、と頷く二人。
「そうか、お前たちは本当に、ゲームが好きな“だけ”なんだな」
「……」
「お詫びに、お前たちに新しいゲームを持ってきてやる。
お前達がやったことがないだろう、大人のゲームだ。ああ、エロゲーじゃないぞ、ちゃんと健全なゲームさ。
……やってみたいか?」
男の提案に、二人は頷いた。
「よし、じゃあ今日は解散ということで。
また明日、今日と同じ時間に来るからな」
そう言って、男はゲーム開発部の部室をあとにした。
「お初にお目にかかります、メイド部のアカネと申します」
男が部室の外に出ると、見た目だけは瀟洒なメイドが立っていた。
「この度はお客様への護衛をセミナーから依頼されました。
そちらの依頼が終了するまで、どうぞ手足のようにお使い下さいませ」
そう言って、アカネは一礼した。
「うーん、メイドラゴンの小林さんも喜びそうなクラシックなメイドスタイル、良いね!!
俺の個人的な好みに君が合致しないのが残念だ」
「もしよろしければ、代わりの人員を派遣致しますが」
「じゃあもっとツルペタで身長も小さ目な子を頼む」
「……まことに申し訳ございません。
お客様の好みに合致する者も居ますが、その、護衛には不向きかと存じます」
アカネはかなり言葉を選んで、頭を下げながらそう言った。
「ああ悪い、せっかく護衛してくれるのにな。
メイドってのは主人や客の視界に入らず、細かな気配りで奉仕する存在だろ?
お前は俺の視界に入らなけりゃそれでいい」
「承知いたしました、お客様」
男が廊下を歩きだす。
ほぼ無音で、アカネはその背後を追従する。
「それと」
「はい、なんなりと」
「香水でも隠し切れないその火薬の臭い。
あんたアレだろ、CQCみたいな名前の……」
「C&Cでございます、お客様」
「そうそれ!! なんでもキヴォトスでも最高のエージェントなんだって?
俺の“右手”と違ってエリート中のエリートだという」
「お客様のいう“右手”とは、学園外にて車内に待機している二名と、今日だけでゲーム開発部の部室前の廊下を50回以上通過した生徒名簿に無いミレニアム生に扮した二名の事でございますか」
「なんだ、あいつら来てたのか。
別に荒事をするわけでもないのに」
本当に、男は部下たちを呼んでも待機を命じてもいなかった。
「失礼ですが、学園内には全てC&Cの目が光っております。
お客様の仕事以外のことはなさらぬ方が賢明かと」
「忠告感謝する。
……ああそうだ」
雑談をしていると、男は学園の正門にたどり着く。
そして、振り返ってアカネに言った。
「さっき言ってた護衛に向かないおチビちゃんに言っておいてくれ。俺の“右手”とお前達、どっちが強いのかな、ってな」
「一語一句正確にお伝えしておきます」
「おう、じゃあ明日も頼むな」
男が正門を出ると、ミレニアムの制服を来た女生徒が下校を装い合流する。
正門前の道路にほぼ同時に車が停車し、三人はそれに乗り込む。
そして、車は去って行った。
頭を下げて“お客様”をお見送りしていたアカネの側に、どこからともなく三人のメイドが現れる。
「未だに、この私をチビ呼ばわりする野郎が居るとはな……」
「あははッ、ネル先輩よく飛び出さなかったね!!」
青筋を浮かべるネルに、アスナは楽し気に笑った。
「安い挑発だ。下らない」
カリンが男の発言をそう切って捨てた。
だが、彼女の同僚はそう思わなかったようである。
「アカネ、お前もか」
怒り心頭のネルだけでなく、どことなく小馬鹿にされていたのを理解しているのかアカネも小さく震えていた。
舐められている、と。
ふつふつ、と徐々に沸騰する水のように静かに、彼女は内心怒りに打ち震えていた。
「あの男の護衛、ゲヘナの生徒か?」
「最新版のゲヘナ学園の名簿にはどこにも。あの四人は別の生徒の名義で登録されていました。その生徒たちは以前退学を受けており、復学と同時に成り代わったものかと」
ネルの問いに、アカネはよどみなく答えた。
「亡霊か。気味がわりぃ」
「え、幽霊部員ってこと?」
「言い得て妙だな」
アスナの言葉に、カリンは頷く。
「“お掃除”、なさいますか?」
「アカネ、頭を冷やせ。
どうやら産業スパイとかでもなさそうだ。放っておけ」
ネルは舐められていると分かっていても、冷静だった。
男の護衛の行動は、待機と廊下の巡回だけ。
どう見ても、見られているのを分かっていての行動だ。
そして、敵対の意思が無いと言うのも。
「でもネル先輩、私達とどっちが強いか、気にならない?」
「馬鹿言え、万能包丁と高枝切りバサミのどちらが優れているのか論じるマヌケは居ない」
ネルは好戦的なアスナを窘めた。
彼女には確信が有った。正面から戦えば勝つのは確実に自分たちだと。
だが、亡霊は直接戦ったりしない。相手を祟り、呪い殺すだけだ。
「万が一、連中が行動を起こすまで手出し厳禁だ。わかったな、お前達」
リーダーの命令に、三人は了解とだけ口にした。
メイド達が消える。
初めから存在しなかったかのように、痕跡一つ残さず。
§§§
翌日、男は約束通りゲームを調達してきた。
数冊の本である。
「なにそれ、私達にゲームの作り方でも勉強しろって言いたいの?」
「いや、違うよお姉ちゃん」
ミドリは不審そうにする姉と違い、気づいた。
「そう、これはテーブルトークRPG。卓上遊戯さ。
そして、今のあらゆるコンピュータRPGの原型となった、原初のロールプレイングゲーム」
男の説明に、モモイは首を傾げた。
そんなモノの存在すら知らなかったと言うように。
「まあお前たちの年頃だと知らんかもな」
「私は何かの動画で見たことが有る。みんな、すごく楽しそうだった」
「ああ、楽しいとも。今のコンピュータゲームじゃ出来ないことが出来るからな」
「ふーん、例えば?」
モモイはその古臭いアナログの極みみたいなゲームに関心すら持っていないようだった。
「今時のRPGのゲームは、用意された武器しか装備できないだろう?
だが、お前は地面に落ちている石を投げて敵に攻撃しても良い、レンガが落ちてればそれを使っても良いし、事前に火炎瓶を制作してそれを投げてもいい」
「え、じゃあ、爆弾で敵のいるダンジョンを木っ端微塵にしても良いの!?」
「ああ、ゲームマスターが許可すればな。
そしてシナリオも、ルールに応じて幾らでも好きなように自分たちで作ることが出来る」
「なにそれ面白そう!!」
「ならやってみようぜ」
男はテーブルの上に、いくつかのルールブックを置いた。
「初めてだしファンタジーモノのソードワールド2.0なんて良いと思うが、やはり馴染みのある世界の方がやりやすいか」
男は一冊のルールブックを選んだ。
「クトゥルフ神話TRPG……現代を舞台にした、恐怖神話を題材にしたホラーゲーム。近年動画サイトなどでTRPGの知名度上昇に一役買った、名作だ。
さて、初心者のお前たちの為に、キャラクターシートをあらかじめ作っておいた。シナリオもな」
三人はテーブルに着いた。
紙やサイコロ、筆記用具、あとはコマなどの小道具。
用意されたのはそれだけだった。
「さて、始めようか」
ゲームマスターになった男は、にやりと笑った。
§§§
「あなた達、ミレニアム学園の七不思議である、下水道の調査をしなさい!!
できなければ廃部よ廃部!!」
と言ったユウカを利用した導入から、モモイとミドリは学園の七不思議に挑む。
「なんで私達が下水道の調査なんてしないといけないの!?
ゲーム開発部だよ、私達!!」
「そういうシナリオなんだから文句言っちゃダメだよ」
【おい、お前達、ゲームの中のお前たちと、こうしてプレイしているお前たちは別の存在だ。ゲームの中のお前たちの発言と、プレイヤーは分けて考えろ】
「はーい」
「わかりました」
そして二人はミレニアム学園の七不思議に挑む。
【これは慈悲で言うが、七不思議について調べてから向かったりしないのか?】
『え、だって、ユウカが言ってたじゃん、学園の生徒が行方不明になってるから、それを調べるんでしょ?
それを調べる私達が、なんで他の生徒から話を聞く必要があるの?』
【うーん、まあ好きにしろ。それがTRPGの醍醐味だからな】
内心、折角用意した資料とか調査内容が……、となっている男だったが、初心者だし仕方ないか、と思い直す。
プレイヤーがゲームマスターの思惑通りに動いてくれない、TRPGあるあるだからである。
満を持して、二人は下水道へ向かった。
【下水道は暗く、二人はスマホの明かりを頼りに進んでいく。さて二人とも、幸運の数値を振れ】
『えーと、この数値以下の出目がサイコロで出れば成功なんだよね』
【ああ、そうだ】
『よーし、えい!!』
モモイは勢いよく十面ダイスを二つ振った。
片方が一の位、片方が十の位で、1から100までの数字を表すことが出来る。
『私の幸運の数値は60で、出目は49だから、成功だね』
『うそ、わたし失敗した』
【では失敗したミドリの目の前に、ゴキブリが飛んできた!!】
『ぎゃああぁああ!!』
『あっははは!!』
【SAN値チェックだ、成功で正気度喪失は無し、失敗で1の数値を減らせ】
クトゥルフ神話TRPGの最大の特徴と言えるのが、正気度、SAN値。
これが減ることで、様々な悪影響がゲームのキャラクターに及ぶのだ。
【目星に成功したな?
お前たちは暗い下水道を照らすスマホのライトに、何かが映ったのを見た。
それを恐る恐る確認すると、それは──人間の腕だった】
『えー、うそうそ、判定に成功したのに罠だったの!?』
状況を描写をする男の説明に、モモイが騒ぎ立てる。
【そこは血だらけで、腕だけでなく右足、左足、しかしそれ以外は見つからなかった。
医学の技能を持たないお前たちにサービスしてやろう。
その手足はどう考えても、普通の傷跡では無かった。
まるでなにか、そう重機のような強大な力で、無理やり引きちぎったような、そんな形跡があった。SAN値チェックだ、成功で2、失敗で1D10*1減らせ】
『え、嘘でしょ、失敗したら最大で正気度が10も減っちゃうの!?』
【けらけら】
『私は成功、っと』
『成功しろ成功しろ、ああ!!
さっき失敗して減ってなければ成功だったのに!!』
『あはは、ミドリとばっちりだぁ!!』
『正気度は……ああッ、最大値!?』
【正気度の最大値の二割が減少したな?
ミドリは一時的狂気に陥る。出目を振ってどんな症状がでたか教えてくれ】
出目は、9。奇妙なモノ、異様なモノを食べたがる。
『え、なにそれ、何を食べたがるの?』
【そうだな、ミドリは目の前の腕を食べたくなった……ってのは流石に可哀そうか。
では丁度お前の足元を横切ったゴキブリでも食べて貰おうか】
『ぎゃあああぁぁぁ、いやぁぁぁぁ!!』
『あっはははははは!!!』
【こらこらモモイ、笑ってないで止めてやれよww】
「こらミドリ、そんなもの食べようとしちゃダメでしょ!!」
虚ろな目でゴキブリを捕まえて食べようとする妹を、姉は慌てて止めた。
【おいミドリ、お前もゴキブリを食べるロールプレイをしろ】
『ええ、やだよぉ』
【考え方を換えろ。ゲームの中のお前は現実のお前に何の影響もない。普段しない自分を演じ、そして楽しめ。
例えば俺ならこんな感じでやってみる】
「えへ、へへ、ゴキブリ、美味しそう、食べる、食べる……うえっへっへ!!」
「だから食べちゃダメだってば!!」
男が演じる狂気に満ちたミドリを、モモイが止める。
『うう、私ってこんなんじゃないのにぃ』
【このゲームは狂気のロールプレイを楽しむのが醍醐味みたいなゲームだ。身内同士だ、恥なんて捨てて楽しめ】
『まあ、そうだよね』
そうして、男の助言を受けながら、二人は下水の奥、狂気の源泉へと辿り着いた。
【お前たちは下水道の奥へと辿り着いた。
その奥から、鳴き声が聞こえる。テケリ・リ、テケリ・リ!!】
ゲーム内と、プレイヤーの二人が息を呑む。
男は朗々と描写を歌い上げる。
【お前たちは見た、下水の奥の壁に張り付いた、悪夢のような黒っぽい玉虫色の臭くて伸縮性のある柱状のものがにじみ出るように這い出てくるのを!!
その体は原形質の小泡で出来た不定形であり、身体全体から微光が走っていた。
天井まで満たすその巨体の前面に付いているチカチカと点滅する緑色の光は、無数の目が形成されたり、また無くなったりしているところなのだ。
その巨体が、自分の食料とした生徒たちの死骸を押しつぶしながら、お前たちへと進んでくる。
奇怪な嘲るような鳴き声が、また聞こえる。テケリ・リ!! テケリ・リ!!
──神話生物、ショゴス*2の登場だ!!】
『ぎゃああ、でた!! ええと、ルールブック、ルールブック……あった!!
って、なにこれ、攻撃当たったら即死じゃん!!』
『銃もあんまり効かないって書いてある!? ズルい!!』
【ははは、なんでお前たちに銃の所持を許可したと思ってるんだ。キヴォトスの生徒にミ=ゴ*3くらいじゃ相手にならん。それとお前達、忘れていないか?】
『『あッ』』
【お待ちかね、SAN値チェックだぁあああ】
からんからん、とサイコロが振られる。
『よ、よし、今度は成功、正気度も掠り傷だ!!』
さっきから失敗続きのミドリがガッツポーズをした。
『あ、失敗……』
『えッ』
『あ、アイディアに成功して、ショゴスを正しく認識しちゃった。
一次的狂気、出目の結果は……殺人癖』
モモイはニヤリと笑って、ミドリを見た。
「あんな怪物に勝てるわけがないよ!!
ミドリ、あんなのに殺されるくらいなら、私が殺してあげる!!」
「ちょっとお姉ちゃん、冗談でしょ!!」
『ミドリを撃ちまーす』
【了解、ミドリ、回避を振れ】
『ううう、よ、よし、回避に成功した、お姉ちゃんの銃撃は当たらなかった!!』
ミドリは安堵したが、状況は全く変わっていなかった。
【さて、ミドリ。回避は一ターンに一度。
俺はこれからどちらにショゴスが攻撃するかダイスを振る。
ショゴスの攻撃の命中率は六割。さあ、祈れ!!】
攻撃対象、ミドリ。
攻撃判定、成功!!
ダメージ判定、24ダメージ!! *4
【粘性の怪物が、拳を振り上げるようにその念体を振り下ろした。
ミドリは呆気なく、血飛沫となってこの世から消え失せた。
彼女の居た痕跡も、ショゴスが綺麗サッパリ舐めとって、何もなくなった。
さて、モモイ、大切な人が目の前で死んだな、SAN値チェックだ】
『あっはははは、はははは!!』
『もう、なんでお姉ちゃん笑ってるのよ!!』
結局、モモイもショゴスの餌食になった。
「あー、面白かった。でも悔しい!!」
「ちゃんと聞き込みをしておけば、ショゴスの情報が図書館から、肝試しに入ったという女子生徒からショゴスの弱点を聞き出せたんだがな」
「ミドリ、もう一回やろう!!」
「もう夕方だよ……。意外と体力使ったから休憩は入れようよ」
ミドリはモモイの誘いに、嫌とは言わなかった。
彼女もまた、ゲーマーだった。
「TRPGの良いところは、同じシナリオでも毎回違う展開になるところだ。
操作するキャラクターだったり、別のメンバーと遊んだり……アナログだが、だからこそ対人同士での熱もある。
モモイ、ミドリを撃ち殺した時、楽しかっただろ?」
「うん、正直舐めてた。
でも、これも“ゲーム”なんだね……」
モモイは感じ取った。
自分たちは今、愛するRPGを堪能したのだと。
「ねえユズ、見てたでしょ?
このヒトは怖くないよ。私達と同じ、ゲームを愛する仲間だよ」
「ユズちゃん、一緒に遊ぼう。
手が足りないし、なにより見てるだけじゃつまらないよ」
二人が部室のロッカーに語り掛ける。
程なくして、きぃぃ、とロッカーの扉が開いた。
「……うん、うん!! 私も、そのゲームやりたい!!
な、仲間になりたい、一緒に冒険、してみたい!!」
ユズは自分が足を引っ張ってしまうかもしれない、という恐怖を押し殺して言った。
だけど、味方を殺すと言う失態をしたモモイはあんなに楽しそうで、ミドリもまたそれを仕方なさそうに許した。
「TRPGの真髄は、協力だ。
シナリオを読み上げ、敵キャラを出すゲームマスターはお前達プレイヤーの敵ではない。
共に物語を織りなす、協力者同士なのだ。
そして、ゲームマスターは俺だけのモノではない。モモイも、ミドリも自分独自のシナリオを作って良い。
俺はあんたの作ったシナリオもプレイしたいぞ」
男の言葉に、ユズは頷いた。
そして、お菓子や飲み物を調達し、ゲームはまた始まる。
【図書館にあった魔導書ネクロノミコンに記された冒涜的な知識に触れたユズはSAN値チェックだ】
『ああやっぱり!!』
【ちなみに、ユズ。これをお前の仲間たちに周知するか? プレイヤーと物語の中のお前達は違う。知らないと対処ができないぞ】
『あ、そうですよね、周知します』
【じゃあ二人もSANチェックな、正気度を減らせ!!】
『ひぃ……』
『ああどんどん狂気に近づいてく……』
三人は魔導書の彩る狂気に触れたり。
「私、怖くて咄嗟に焼夷手榴弾を投げて逃げたんです。
そしたら、背後でとても恐ろしい悲鳴が聞こえて……」
『なるほど、ショゴスの弱点は炎か!!』
『じゃあ、グレネードを焼夷弾に換装しておかなくちゃ』
ショゴスと遭遇して生き残った女子生徒を特定し、情報を聞き出したり。
【テケリ・リ、テケリ・リ!!
さあお待ちかね、ショゴスの登場だ!!】
『あああ、焼夷弾を装備してるユズが一時的狂気に!?』
『ミドリも行動不能になっちゃった、どうしよう!?』
『落ち着いて、モモイも念のために皆で焼夷手榴弾を用意してたでしょ。
ゲームマスター、行動不能の仲間から武器や手榴弾を受け取るのはアリなの?』
【勿論アリだ、ただし武器は構える必要が有るから、一ターン要するものとする】
『異議あり、このゲームの一ターンは約十秒!!
私達は武器を受け取って構えて撃つのに、そんなに掛からない!!』
【ふむ、確かにそうだな、良いだろう。一ターン以内に装備し撃つことを認めよう】
予定外の出来事にも、ユズの機転やミドリの交渉で危機を乗り切る。
そして。
【おぞましい鳴き声と共に、ショゴスは完全に沈黙した。
おめでとうみんな、ゲームクリアだ!!】
男の賞賛に、やったー、と三人は歓喜に沸いた。
§§§
TRPGの欠点は、友達が付属していないのと、時間が掛かるという点だ。
二回目のセッション*5が終わる頃には、時計は九時を回っていた。
「あー楽しかった。明日は別のルールブックで遊ぼう!!」
「おう良いぜ、最初のうちはこっちでシナリオを用意してやる。ようこそ、沼へ……これで俺たちは仲間だ」
TRPGのプレイヤーはいつだって遊び仲間を求めている。
男は三人の少女をこちら側に引き入れたと確信し笑みを浮かべた。
「もうこんな時間だよ……」
「じゃあ、また明日だね」
「俺も帰るわ」
「うん、じゃあまたね」
ユズ以外の三人は帰宅する。
「お、待たせたか?」
「いえ、お気になさらず」
男が部室の外に出ると、アカネが待っていた。
「そこで立ってるのも暇だろう?
明日はお前も混ざれよ。どうせ、俺達は何もするつもりは無いんだからな」
「……」
そして、翌日。
『ゲームマスター、ゴブリンの巣の入り口を爆破します』
【え、まあ、できるけどさ】
『これにてスマートにクエストクリアです』
『アカネ先輩、容赦ない……』
【おっとその時、爆発の衝撃で別の入り口が現れたようだ。もう所持品に爆薬はないな、どうする?】
『……実はスカートの内側に爆薬を隠していたのです』
『もう爆薬は良いですよ!! 真っ当に攻略しましょうよ!!』
「……随分お楽しみだったらしいな、アカネ」
「面目ありません……つい熱が入って」
その日の夜、アカネはネルにこっぴどく叱られたのだった。
あれ、次で三話になるのに、まだアリスも登場していない。
二話目で出てくるつもりだったのに、TRPGの描写に熱が入り過ぎてしまった。
いやまだ慌てるような時間ではない、次回でアリスが登場して、五話終わる筈なんだ、そうに違いない(震え声
で、では、また次回!!
あ、そうだ。拙作には今回題材にしたTRPGをモチーフにしたオリジナル作品『ラウンドテーブル ~世界を救うはずだった勇者パーティの尻ぬぐいをすることになった~』が有ります。詳しくは作者ページで。
自分で言うのもなんですが、それなりに傑作かと。アップルマンも登場しますよ!! むしろ、元々ここの登場人物なんですよね、この男。
良ければ、暇つぶしにでもどうぞ。