今年最後の更新です!!
『音声記録を再生します』
『私です』
『……せめて名乗ったらどうですか?』
『この回線は私達の専用回線じゃないですか。わざわざ名乗る必要がありますか?』
『まあいいわ、何の用かしら』
『例の戦闘記録は見ましたか?』
鈴を転がしたような声で、通信相手をからかう。
『ええ、吐き気がする。彼女達には申し訳ないことをしてしまったわ。
そしてあなたも、あんな連中を使うとは思わなかった』
『誤解無きようお願いします。私の方も、ここまでの連中だと思いませんでした』
『あなたのそう言う言い方は新鮮ね』
通信相手が嫌味を言う。
『まあこの『全知』の称号を頂いた清楚系超天才美少女にも、理解が及ばぬ……いえ、私だからこそ理解しがたい存在も居るのですよ。
ええ、例えば、あなたとか、ね』
嫌味に、嫌味で返す。
『これは忠告よ。あの男から手を切りなさい。彼は危険すぎる。
あれは、自分の利益の為に平気で何でもできる男よ』
『おやおや、自己紹介ですか?』
『……』
『私には、同族嫌悪に聞こえましたけど』
ふふふ、と言葉に詰まっている様子の通信相手を笑う声。
『何をしようとしているのか知りませんけど、そちらが何の情報も落とさないなら、こちらもそれ相応の手段に訴えるだけのこと。そちらも、留意しておいてください』
『そちらこそ。ヒトは暴力を手にすると変わるモノだわ。
あなたも、例のアレも、ね』
『ええ、だから二度も自己紹介しなくても構わないですよ』
『……』
『これ以上、この件で話しても無駄なようですね』
『そうね』
『では、また』
ぽち、と細い手がスマホの再生ボタンを停止した。
「とまあ、こんな会話があったわけです」
明星ヒマリ。ミレニアム学園で自他共に認める天才の中の天才。
そんな彼女が、部室の壁に背を預けて音声記録を聞いていた男に語り掛ける。
「つまり、何の情報も引き出せなかったわけか」
「有り体に言えばそうですね。
流石にこの超天才完璧美少女ハッカーでも、人間の脳から情報を引き出せるわけではありませんから」
「骨折り損だな」
「心にも無い事を」
ヒマリは口元に手を当て、清楚に微笑む。
「自分の手駒の性能を確認しようとしてたじゃないですか」
「あいつらのやりたいことは、俺のやりたいことでもある」
「その信頼のほんの一部でも、あの道路に吐き捨てられて踏み固められて黒くなったガムみたいな性根の女が私に向けてくれればよかったのですけど」
「お前、そんな相手から信頼されて嬉しいのかよ」
男は思わず個性的な罵倒をする少女に聞き返した。
「ふふふ、彼女の件は追々で良いでしょう。
次は今後の我々の関係について、話し合いましょう」
「そいつは賛成だ、リトルシスター」
「……なぜ私の身体の一部を凝視して言うのですか?」
「いや別に、他意は無いぜ」
ヒマリは羞恥か或いは怒りからか頬を赤く染め、両手で体を抱きしめるように庇った。
「……私はヴェリタスの部長ですが、ここ特異現象捜査部の部長も務めています」
「そう言えば、今日はあの痴女は居ないのな。
胸がデカい上に露出度も高いとか、理解しがたいね」
「エイミならお使いを頼んでいます。しかし世間一般では、理解しがたいのは貴方の性癖の方では?」
「そりゃ誤解だ。俺は俺好みのまま合法になってきそうな女性を選んでるだけだ。別に身長とかは問わない。可能なら細身で、デカケツでなければ尚良い」
ぞぞぞ、と急にヒマリは身の危険を感じた。
だが賢い彼女はこの男が性欲だけで行動しない男であるのは理解していたので我慢した。
ただ、自分が理解しがたい相手と称した相手が、割と本気で自分を狙っていることに思い至らなかったのは、彼女が本当に清楚系故なのかもしれない。
「それで、何の話だっけ?」
「もうッ、自分で話を逸らしたくせに!!
私が二つの部活を兼任しているという話です」
「ああ、ヴェリタスとなんか胡散臭いオカルト研究会みたいな奴だろ?」
「特異現象捜査部です」
「そう、それ」
「私は、突如としてアビドスに現れたという目の前の特異現象の体現者にも興味がありますよ」
「ほう?」
思わぬところに食いつきが有り、男は内心ラッキーと思いながら視線をヒマリに向けた。
「キヴォトスの外との交流の記録を見ても、あなたの存在は確認できない。
まさしく、突然現れたとしか言いようがない」
「流れ星に乗ってやってきたんだ。君に会いにさ」
「ふふふ、面白いことを言いますね」
自分の身に危険が迫っているのを半分も理解していないヒマリは微笑みを返した。
「俺が自分の事を女に話すのは、ピロートークだけと決めている」
「では、あなたの居た場所の話をしてもらえませんか?」
「俺の故郷だと?」
「ええ、魔法が技術体系として確立しているのでしょう?」
「覗き見か。悪い子だ」
ヒマリの優れた知能は、男がAIに学習させた情報だけで、それが妄想の産物では無いと理解していた。
「それで、あなたも魔法が使えるのですか!!」
彼女は割と食い気味に尋ねた。
何を隠そう、ミレニアムという科学の最先端の頂点に位置する彼女は、無類のオカルトマニアでもあった。
「いや、基本魔法使いってか、魔術師って連中は陰キャの引きこもりでな。
連中の研究成果が社会貢献に役立つなんてことは基本無い」
「そうですか……」
しゅんとなるヒマリ。
男はバツが悪そうに視線を逸らす。
その先には、ハッカーの居城とも言うべき薄暗いパソコンルームに似つかわしくない、風水や占星術の道具が置かれていた。
男の胸に余計な罪悪感が芽生える。
「……あ、そうだ」
ふと、その瞬間、男は閃いた。
それも悪魔に相応しい、邪悪の所業を。
「実は、俺も魔法が使えるのを忘れていた。
バフォメット族ってヤギ頭どもに頼んで教えて貰ったんだよ」
「まさか、黒魔術ですか!?」
ヒマリが食いついたのを見て、男は重々しく頷いた。
「見せて欲しいか?」
「ええ、是非!! どんな魔法ですか?」
「儀式によって体内の陰陽のバランスを整え、不老長寿を目指すってモノだ。
どうしても見せて欲しいって言うのなら、お前の協力も必要だ。
儀式には素体となるモノが必要で、その、血が出て生々しいから、女子に見せるのはな……」
「大丈夫です、何が必要ですか?」
「本当に、後から文句は言わないか?」
「ええ!!」
男はニヤリと、笑った。
「じゃあ、合意と見てよろしいな?」
「……あの、なんでこちらに詰め寄ってくるのですか?」
「そりゃあ、必要だからだ」
男はほぼ真上から、ヒマリを見下ろす。
「それじゃあ、始めようか。────房中術の魔法をな」
……不思議なことに、その日以来、ヒマリは己を清楚系とか自称することは無くなった。
程なくして、おつかいに出ていたエイミが戻って来た。
「はあ、エナドリの補充なんて後からでも良いのに、しかもここらにないメーカーの奴なんて」
そんなことを愚痴りながら、彼女は特異現象捜査部のドアに手を掛けた。
その時である。
『ん"ん"ッ、ダメ、そこダメッ、ごわれる、ごわれじゃううぅぅ』
「あッ」
エイミはなぜ部長がわざわざ遠い所に買い出しに行かせたのかは、自身に激しい過酷(意味深)を課す為だと悟った。
「もうちょっと買い溜めしておこう」
優しい彼女は聞かない振りをした。
そして、もうしばらく適当に時間を潰してあげよう、と要らぬ親切心を発揮した。
ちなみに、まったく関係ない話だが、特異現象捜査部の部室は、“セミナー”会長たるリオの監視下にある。
『おらッ、さっきみたいに自分の賢さを鼻にかけた言い方してみろよ!!』
『むッ、むりぃぃ、ばか、ばかに、なるぅ、天才じゃなくなっじゃううぅぅ!!
なにもがんがえられなぃぃぃぃ!!!』
『そう言えば、お前結構迷惑を掛けるタイプの天才らしいな。
俺が更生させてやる。反省しろ、反省しろオラ!!』
『じまずぅうう、はんぜい、ずるからぁ──!! ぎもぢいぃのもうやだぁああ!!』
『お前みたいな女ってのは結局口だけなんだ。分かってんだよ!!』
『あああああああぁぁぁ…………──」
監視下の部室に仕掛けられた盗聴器が、生々しい音声を拾いまくる。
「な、なんてこと、神聖な学び舎で、い、い、淫行を!!
は、は、恥を知りなさい!!」
余りにも衝撃的な出来事に、リオは腰砕けになって震えていた。
「と、トキ、お願い、止めてきて!!」
「恐れながらリオ様。
リオ様に仕えるエージェントとして、色仕掛けに関する資料としてこのまま拝聴したく」
「要するに自分が楽しみたいだけじゃない!!」
常に自分に侍るメイドが、真顔のまま若干下半身をムズムズさせているのを主人は見逃さなかった。
『ごれ、ぎかれでるッ、ぎがれでるのぉぉ!!』
『え、聞かれる? 誰に?』
『どぶ、おすぃ、りお、りおにぃぃ!!』
『良いじゃねえか、そっちの方が興奮するだろ。
あとでお前の喘ぎ声を録音した音声を聞かせて貰おうじゃないか!!』
『いやぁあああ、おごッ、およめにいげなぐなるぅぅうう!!』
『やめとけ、お前の頭じゃ、好きになって結婚しても、ダンナがすぐにバカだって気づいて幻滅するぜ。
相手も、すぐにお前の頭の良さがイヤになるだろうな、お前の性格なら尚更な』
『ぞ、ぞんなぁぁ』
『なあ、俺の女になれよ。そしたら、いつでも房中術の練習に付き合ってやる』
『わがっだ、わがっだがら、もうやめッ──』
リオはふらふらになりながら、機器のスイッチを切った。
「おや、勿体ない。
なるほど、こうやって異性を篭絡するのですね。学びを得ました。
ところで、リオ様」
トキは早速、己の得た知識を実践しようと試みる。
「な、なに? その手はなに!?」
「早速、リオ様にご奉仕を、と」
「望んでない、望んでないからぁ!!」
「先っちょだけ、先っちょだけでございます」
「あああああぁぁぁ!!」
この日、トキはちょっとだけエージェントとして成長し、リオはほんの少しだけ大人に近づいた。
§§§
「はあ、失敗したな」
出すモノを出してスッキリした男は帰りの道中、賢者のように澄み渡った思考で思った。
「ヒマリはキヴォトスでも最高クラスの知能の持ち主じゃないか。
もっと段階を踏んでから、最高の女を喰えばよかった。勿体ない」
訂正、ちっとも澄み渡っていなかった。
そんな不純なことを考えながら、男はミレニアム学園の保健室へと足を運んだ。
「あ、ボス……」
そこにはWolf小隊の4人……と、C&Cの面々がベッドに横になっていた。
ちなみにアリスはとっくに回復してゲーム開発部に戻っている。
「よう、お前らご苦労だったな」
「ボス。申し訳ありません。我らがもっと強ければ」
トリコはうな垂れるように頭を下げた。
釣られるように、他の3人も頭を下げる。
C&Cの面々はそれを見て、居た堪れなくなった。
「お前らは、いつから騎士志望になったんだ?」
「……はい」
男の皮肉に、彼女達は頭を下げる他ない。
特殊部隊がプライドに拘り、自分たちの為に戦うなど滑稽だ。
影は、目立たないから影なのだ。
「……満足したか?」
「……はい」
「ならいい」
男はそれ以上何も言わなかった。
「まあ、私達が勝ったのは事実だけどね」
「おい、空気を読め」
無邪気に残酷なことを告げるアスナに、ネルがツッコミを入れた。
悪気が無いのがなおヒドイ。
「……」
「気にするな。俺の提示した勝利条件は達した。
お前たちは一時間、C&Cを足止めした。
これだけあれば、──我が麗しのヒナ委員長率いる部隊がミレニアム学園を陥落させるのも容易だろう」
男の言葉に、メイド達は思い出した。
そして、理解した。
『ヒナ委員長に勝利を!!』
『ゲヘナ風紀委員会に栄光あれ!!』
あの状況で、意味不明なその台詞の真意を。
そして、ゾッとした。そんなことを考えながら、彼女達は戦っていたのだ。
「悪いな。俺は人生で一度たりとも、負けを認めたことは無いんだ」
男が意地悪く笑った。
メイド達は確かに戦いに勝ち、勝負にも勝った。
だが、自分たちが足止めを喰らうという状況は、戦略的にはまた違う意味が有った。
彼女らは初めから、そのつもりで戦い、死ぬつもりだったのだ。
「……驕っていましたね、私達は」
アカネが素直に降参を示す。
男にとって、子供たちの勝敗などどうでも良かったのだ。
「全くだ……」
ネルも肺の奥から溜息を吐いた。
アリスを見定める為の喧嘩とは言え、相手に狙撃手が居ないと彼女を揉め事に引き入れなければまた展開は違っていた。
驕り、その一言に尽きた。
「こんな時に、あの子が居たらなぁ」
「無いものねだりしても仕方がない。ここは彼女らを賞賛しよう」
珍しく空笑いを浮かべるアスナを、カリンが諫める。
非才の身であそこまで、ミレニアム最強の武力集団に食い下がった。
それは事実なのだから。
「ええ、お願いだからそんな顔をしないでください」
「私達はずっと、あなた達みたいになりたかった……」
「羨ましかった、憎かった……」
「もう二度目は無い。一度しか通用しない手を使ってしまった……だから、もう……」
「おい」
弱音のような、懇願するようなWolf小隊の視線に、ネルは睨み返した。
「お前たちを落ちこぼれなんて言う奴は、たとえお前たちでもあたしが許さない。
忘れるな、強者の責任を。お前たちは、あたしたちに肉薄したんだ。
その事実を胸に、これから生きていけ」
でないと、お互いに惨めだ、そこまではネルは言えなかった。
四人が泣いていた。誰でもない四人が、一番欲しかった言葉だった。
彼女達はただ、ずっと誰かに認めて欲しかっただけだった。
ただそれだけだった。
「……俺は我が麗しのヒナ委員長に報告してくる。
お前達も治療が終わり次第、復帰しろ。以上だ」
はい、と四人は男の言葉に答えた。
男にとっても、短くも長いような二週間が終わろうとしていた。
ゲヘナ学園、執務室。
「貴方にしては、時間が掛かったわね」
「申し訳ありません。少しばかり肩入れをしてしまって」
「ええ、トリコ達から報告は受けている。
随分と、遊んでいたみたいね」
ヒナの前に跪く男は、何も言い訳しなかった。
男はWolf小隊に対して、自分と同等かそれ以上としてヒナを扱えと厳命していた。
だから、男にとって不利な報告も当然する。
「処罰は受けます」
「処罰? ミレニアムの技術の中枢とも言えるエンジニア部の協力を得られたのでしょう?
より確実に、より良く目的を達する為の工作をしていた。
それだけのことでしょう」
結果的に言えばその通りだが、面倒だし男は何も言い返さなかった。
「昨日、今年初めて丸一日の休暇が出来た。
その時間をシャーレの先生の当番の日にしたわ」
「喜ばしいことです」
「風紀委員のメンバーにも順次休みをあげられている。
だけど、このままでは私達はこの人数を持て余す。
次の一手を考えて欲しい」
ゲヘナ学園はここ数十年で、今が間違いなく一番治安が良い。
となれば、いつかは人員の削減をしろとか、予算を減らすとか、言い出してくる連中が出てくるのだ。
ヒナは次なる獲物を求めていた。
「ここなど、いかがでしょう」
男は立ち上がり、壁に掛かっているキヴォトスの地図を示した。
そこは、ひとつの学園ほどの規模を持ちながら、誰のモノでもない場所。
男が示した場所とは。
「ブラックマーケット」
ヒナがその場所の名を呟く。
その規模から、今まで連邦生徒会ですら手出し出来なかった悪所。
キヴォトス最大の無法地帯だった。
「わかった」
ヒナはゆっくりと頷いた。
「次はブラックマーケットを一掃しましょう」
委員長の決定に、男や黙って聞いていたアコ達も頭を下げる。
……だが、この時誰も、この場所があんなことになるだなんて、予想も出来なかった。
まさかブラックマーケットが丸ごと消え去るような大事件になるなんて、誰も。
次回、幕間。──総力戦 ■■■■ ブラックマーケット炎上。
男の過去の因縁が、すぐそこまで迫っていた。
少し早いですが、アンケートを締め切ります。
アンケートの結果、オリジナル要素は主人公の過去編とオリジナル総力戦のストーリーだけにしようと思います。それ以降、一切原作にそれらの要素は介入しないと断言します。
作者は実は戦闘シーンが苦手で、そのせいもあるのかもしれませんが、前話の反応が芳しくないのを受けて、やっぱりあまり主人公以外のオリキャラを活躍させるものでは無いと判断しました。
物語に必要なのは、納得、だと思っています。前話の話は、読者の皆様にその納得がなかったから特に感想やここすきが無かった、と己の未熟を恥じ入るばかりです。
作者の実力では、あれ以上の方法でC&Cというキヴォトス有数の相手に、彼女達の株を落とさず決着を付けることはできませんでした。
さて、弱音はここまで。幕間の話をしましょう。
基本総力戦のストーリーなんて有ってないようなものですが、三話ぐらいでこれまでの登場人物を総動員してオリジナルの超強敵と戦って貰う予定です。
その後はWolf小隊の残り二名の絆ストーリー、アビドスやゲーム開発部のその後のお話しなどを経て、みんな大好き第三章、エデン条約編に移りたいと思います。
更新速度にムラが多い作者が、三日と空けずに更新を続けて来れたのは、ひとえに原作の素晴らしさと、読者の皆様の応援の賜物です。
ほんの一か月程度でしたが、今年一年ありがとうございました。
そして、来年もよろしくお願いします。では、読者の皆さま、良いお年を!!
主人公の過去を描写する為に、作者のオリジナルシリーズの設定を許容できるか?
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許容できる
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許容できない
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主人公の過去編だけやって欲しい