翌日、サンクトゥムタワーのブリーフィングルーム。
先生の召集によって、三大学校の主要人物がシャーレの本部に集結していた。
トリニティ学園から、正義実現委員会のハスミとイチカ。
ミレニアム学園から、生徒会“セミナー”のユウカとノア、そして通信越しに特異現象捜査部のヒマリ。
そしてゲヘナ学園から、風紀委員会のヒナとアコ、特別顧問官のアップルマン。
アビドス社会支援学園の生徒会、“林檎園”のホシノも同席を許された。
彼女ら以外にも、同席していないだけで幹部級の生徒たちはこの会議を通信で聞いている。
「十五時間前、通称“黒船”がブラックマーケットに侵入。
途中の学区からの警告と対空火器の迎撃を受けながらも全て無傷」
ゲヘナとトリニティは仲が悪いので、ユウカが司会進行としてモニターに映像を映す。
黒船が、ブラックマーケット上空に滞空している様子だ。
「その一時間後、通称“黒船”は消失。原因は不明です」
「深く考えるな、そういうモノだと一旦考えは捨て置け」
ユウカが何もなくなった時間帯の映像に切り替える。
男はそれに口を挟んだ。
「“黒船”消失から三時間後、ブラックマーケットに正体不明の建造物が出現。
いえ、出現と言うべきなのでしょうか……」
「どういうことっすか?」
歯切れの悪いユウカに、イチカが尋ねる。
「……連邦生徒会の撮影した監視映像をご覧ください」
ユウカがノアの補佐を受け、映像を再生する。
そこに映っていた光景に、誰もが息を呑んだ。
ブラックマーケットに無秩序に乱立していたビルや建物が、蠢いたのだ。
そしてまるでミノムシの衣のように、ずるずると周囲の建物を吸収し、一つの構造物へと変貌した。
「なんて、禍々しい」
ただ只管に上へ上へと伸びた集合体に、ハスミは率直な感想を述べた。
「最終的に、この構造物はブラックマーケットの約47%の建物を併合しました。
そしてインフラにダメージらしい形跡がありません。信じがたいことです」
「“住人たちは?”」
「分かりません。ただ、構造物の内部で大勢が慌ただしく動いている様子が伺えます。
それ以外の多くの住人は既に脱出し、難民化しています」
先生の問いに、ノアが答える。
「さしずめ、即席ブラックマーケット魔王城ってところっすかね」
「なんだそのチェイテピラミッド姫路城みたいなネーミングは」
男はイチカにツッコミを入れた。
「では、この構造物を以後、“魔王城”と呼称しましょう」
ユウカが伸ばし棒で映像の構造物を指し、そう言った。
「現状を把握したところで、魔王の情報を共有したいと思います。
アップルマンさん、よろしいですか」
「ああ」
男が頷くと、ホシノの受け取ったデータディスクの映像が再生される。
彼は事前に確認済みだ。最後のショッキングなシーン以外は、ブリーフィングルームのモニターに上映された。
「七十億……信じがたいです、いったいどうやって」
「奴は億劫だなんて言っていたが、勿論奴個人だけで出来たわけじゃない」
アコが眉を顰める。
しかし男がすぐに口を挟んだ。
「魔王アダムには、神々が与えた魔王軍ってのが存在する。
まさに無尽蔵、無制限の軍勢だ。
俺の故郷では、それが世界中に進出して殺戮を繰り返した。あいつはただ椅子に座ってただけだ」
「本当に、ゲームみたいな話ですね」
「いっそのこと、ゲームの話だと考えた方が良い。
それくらいテンプレートなんだよ、連中は」
男の解説に、ユウカは溜息を吐いた。
「問題は、その魔王軍が出張ってないってことだ。
俺の天使よ、ノノミたちは奴がプライベートで来ていると言ったんだな?」
「うん、そうだよ」
俺の天使ですか、とヒマリがぼやいたが、男は無視した。
「なら、奴はこの世界を滅ぼしに来たわけではないのだろう。
魔王軍は奴の所有物じゃない。今頃奴は、あのブラックマーケットの連中を手懐けている最中だろう」
「なぜ、そう言い切れるのですか?」
「俺も疑問に思ったが、恐らくその答えはこれだろう」
なぜ魔王の目的はキヴォトスの滅亡では無いのか。
ハスミの問いに、男はこう答えた。
「管轄外、だからだ」
「はい?」
ハスミは思わず聞き返した。
「魔王が動くプロセスを説明しよう。
魔王には上司が二人いる。片方は奴の母神である“邪悪の女神”。
そしてもう片割れたる、“文明の女神”。魔王に命令を下すのはこちらだ。
彼女が創造した世界が、彼女の基準で存続に値しないと判断された場合、魔王に命令が行く。
そして魔王が派遣されるわけだ。
そう言えば、お前の世界滅ぼします宣言が無かったからな。魔王は必ず、滅ぼす世界の住人に侵攻を告知するそうだ」
男はホワイトボードに分かりやすく図を書いて説明した。
「“お前の世界滅ぼします宣言って……”」
「本当にそんな感じなんだよ。
バカデカいホログラムを世界中の空に映して、我魔王なりとか言ってこの世界を滅ぼしに来たって言うのさ」
先生は男が真面目に語るので、二の句を継げなかった。
「文明の女神は、より正確に言うなら人類文明を司る女神。
つまり、人間の、人間だけを、人間のみを贔屓する女神。
キヴォトスの住人の殆どの種族は人間じゃない。この世界を創造したのがあの女神では無い以上、管轄外としか言いようがない。
あの御方は、他人の庭の整備なんてなさらない」
男の言葉を受け、皆は唸った。
「連邦生徒会並みのお役所仕事ですね」
と、チクリと嫌味を言うノアだった。
「そうだ。お役所仕事さ。
だから一先ず、キヴォトスの全ての勢力をかき集めて戦いをする必要は無いわけだ」
「これを見て、それを真に受けるモノはいませんよ」
伸ばし棒で、即席魔王城を示すユウカ。
こんなことを仕出かしておいて、プライベートで旅行しに来たなんて誰が信じられよう。
「あとこれだけは言っておく。
魔王アダムを殺そうとは思うな。不可能だ」
「出来る出来ない、ではなく不可能と来ましたか」
「仮に殺せるとしても、意味が無い。
あれは神の化身、女神と邪龍が交わり誕生した、半神半龍の怪物。女神が存在する限り、幾らでも復活する。
なにより、奴の母神の怒りを買うのが怖い。文明の女神と違って、かの御方は感情で動く。報復にこの世界を呪うくらいするだろう」
うわぁ、とホシノは呻いた。
まさに完全なる生命体。神が手ずから作り上げた最高傑作。
非の打ちどころのない、最強の怪物であった。
「復活するなら、封印とかはできないんですか?」
「それは良い考えだ。じゃあお前たち何とかしてくれよ」
まさにゲーム的な発想で答えたユウカは、男の答えに肩を落とした。
『少しよろしいですか?』
「なんだ、ヒマリ」
『思ったのですが、あなた彼らの事に少しばかり詳しすぎませんか?』
ヒマリの指摘に、皆がハッとなった。
魔王の命令系統とか、派遣のプロセスとか、普通内部情報に位置するだろう。
なのに敵対者であった男が、なぜこんなにも詳しいのか。
「……それを説明するのは、長くなるぞ」
『構いません。その様子なら、魔王の弱点とかも知っていそうですし』
「まあ、知ってはいる」
男の返答に、皆は驚愕した。
「さて、これから俺は馬鹿馬鹿しいことを言うぞ。覚悟しろ」
男は全員を見まわし、こう言った。
「俺は、転生者だ」
ぽかーん、となる一同。
だから嫌だったんだ、みたいな表情になる男だった。
「映像は途中で切れたが、あの後俺は殺された。
さて、お前ら、ヒトは死後どこにいくと思う?」
「えーと、天国とか?」
「地獄かもしれないっすよ」
ホシノとイチカが答えた。
「察するに、転生したってことですか?」
「文明の女神……ああ面倒だから名前を言うが、メアリース様は人類文明を全て司る御方。
人間の想像する全てを業務としている。つまり、人間が死後に望む転生とかを請け負っているわけだ。
俺みたいに前世の記憶の継承を望んだりするのは割とポピュラーらしい」
なるほど、と一応納得した面々。
「だがメアリース様的には俺はかなり面倒な人間だったらしく、この通り来世は犬畜生にされたわけだ」
「……なぜですか?」
「知らん。人間の女神なんだから、人間以外に転生させるってのは屈辱を与えるのと同じかもな。
まあそんなわけで、俺はメアリース様の支配下たる今の故郷の世界で育ったわけだ」
それが、かつて人間の姿をしていた理由だった。
『メアリース……メアリー、ス……メアリー・ス―?
いえ、まさか、本当にそんな名前なのですか?』
「実際、人間だった頃の本名がそんな感じらしい。
まさに人間の概念そのものたる女神の、人間性を表した名前だとしてそう名乗ってるらしい」
「それだけでろくでもない女神って分かるのがスゴイねぇ」
ホシノの顔には、趣味が悪い、と書かれてあった。
「……いや、案外そうでもなかった」
だが、男はぽつりとそんなことを呟いた。
「……先ほどから気になっていたのよ。
あなたは前世の故郷を滅ぼされた。なのに、それを命じた女神達を“あの御方”と呼んでいる。
それはどうしてなの?」
ずっと黙っていたヒナが問う。
「それは、連中が神としては非の打ちどころがないから、でしょうか。我が麗しのヒナ委員長」
我が麗しの……、とヒマリが呟いたが、男は無視した。
「俺の今生の生まれ故郷は、神々の恩寵に満ちていました。
豊かで、争いも無く、人々は穏やかで誰もが余裕があった。
それでも俺は憎しみを忘れられなかった。
だから、聞いたのですよ。メアリース様に。なぜ俺の前世の故郷は滅ぼされなければならなかったのか、とね」
「ちょっと待ってください。
そんなに簡単に話が出来たのですか? 神々に?」
「少なくとも、メアリース様のフットワークの軽さは冗談みたいだった。
役所のお悩み相談室みたいなところに行けば、いつでも化身が対応してくれる。インフラが壊れたとか、老人の世間話に付き合うとか。どんな場所でもそうだった。
あの御方は人気が無かったので、その辺りの行政サービスは徹底していたみたいですな」
訊ねたハスミは眩暈がした。
神様が人気取りとか。
「だから、独りで出歩けるようになって、役所に三日ぐらい通い詰めた。
そして、俺が納得するまで問い詰めた。
そしたら何をされたと思う? パワポと千ページ以上の資料を用意され、何故俺の前世の故郷が滅ぼすに至ったか、一から百まで余すことなく説明された」
男は遠い目になって、こう言った。
「女神は、超理系だった」
先生は思い出した。
黒服が研究者同士だと言っていたのを。
「メアリース様はヒマリにセミナー会長を足して、秘密主義を抜いたような性格で、更にユウカの千倍くらい管理魔だった」
「それは地獄ですね……」
ノアが男に同情した。
横でユウカが頬を引きつらせていたが。
「本当に、なんでも答えてくれた。同時に何度幻滅したかわからない。何十回も自分の生前の自伝も進められた」
「シスターフッドの人達には教えられない事実っすね……」
自分の自伝を進めてくる神様の存在に、イチカも遠い目になった。
「“それで、君が故郷を滅ぼされてなぜ納得したんだ?”」
「対話で世界大戦が回避できたはずだったとか、それを支持した民衆の堕落とか、各国政府の腐敗具合やらそれに伴う文化的成長率の低減及び生産性の低下やら色々あったが、一番覚えているのは……」
男は溜息を吐いて、思い返す。
「十年以内に97%の確率で核戦争が発生し、文明社会の崩壊が発生して、核の冬の時代を推定何億人が二百年近い年月を世紀末社会を生きなければならないから、と言っていた」
「そんなにも醜い人類に、失望したから?」
「いや、違う」
ヒナは映像で失敗作呼ばわりされていたのを思い出す。
しかし、その問いに対する男の返答は違った。
「文明を司る女神として、文明社会を享受できずに生きるしかないその後の世界を憐れんだからだ。
暴力と退廃、そして寒さに凍え核汚染に満ちた世界を生きるのは、人間の生活ではない。可哀想だとな」
「だから、そうなる前に魔王を遣わし滅ぼした、と」
男はヒナに頷いて見せた。
「メアリース様にとって、死は最悪ではない。
死とは次なる生への準備期間に過ぎない。
何日も対話を重ねて分かった。性格はクソだが、あの御方は紛れもなく偉大な女神だった。
あの御方にとって、創造と破壊は息をするのと同じ。神々の行いに善悪など無いと、俺は悟ったのだ」
話を聞いていた一同は、何も言えなかった。
男の言う通り、非の打ちどころの無い神の所業だった。
「俺は、かの御方にひれ伏すほかなかった」
そう呟いた男は涙を流していた。
「最後に、あの御方はこう言った。
──貴方も嬉しいでしょう? ってな」
「え?」
「あの御方は気づいていた。俺こそが、誰よりもそんな世界を憎んでいたことを。
あの御方が、魔王が来なかったら、俺が世界を滅ぼしていたとわかっていたんだ!!」
男は泣きながら、狂ったように笑っていた。
「でも、あなたは世界の為に最期まで戦ったんでしょ?」
「世界の為ぇ? 違う、違うな!!
俺が戦った理由は、共に戦った同胞の誇りと尊厳の為だ!!
本音を言おうか? あの世界が失敗作だと聞いて、俺は嬉しかった!!
弱者を食い物にする者が蔓延り、政治家共は身勝手な主張を繰り返し戦争を拡散する。民衆はそれに失望し政治に無関心になり、下らないプロパガンダに何も考えず同調する!!
ゴミ溜めだったよ。同胞は戦いで次々死んでいく。誰も彼もそれに無関心だ。ならば──」
男が裂けたように笑みを浮かべた。
「俺が思い知らせてやるほかない。そう思い当たるのは当然の結果だ」
悪魔が、そこにいた。
今のゲヘナ学園よりも何倍も、何十倍もの苦痛と恐怖を持って世界に出血と滅びを齎し、それを喜びとする本物の悪魔がそこに居た。
魔王に滅ぼされるのと、どちらがマシだったか。
「さて、話が逸れたな。
俺はついでに、メアリース様から魔王の弱点を聞き出した」
余りにも鮮やかな話題の転換。
それに彼女達は一瞬付いて行けなかった。
「……教えてくれたのですか?」
「ああ、メアリース様は元錬金術師。それも自己主張の激しい研究者気質。俺との対魔王戦術の討論は有意義だったらしい。
非常に饒舌に教えてくれたよ」
「聞くに、それ以前に多弁なように思いますが」
アコが呟く。
「魔王は各々、固有スキルと称される無敵のバリアみたいなものを有している。
ドラクエで言うなら“やみのころも”だ。
まずそいつを剥がさないとダメージが通らない」
「またゲームみたいな……」
「言っただろ、メアリース様は人類文明、人類の概念そのものだと。
そんな御方が創った存在が、テンプレートじゃないわけがない」
再度ユウカのツッコミに男は真顔で答えた。
「メアリース様は対魔王戦において、四人ほどの心技体を極めた勇者パーティなら対等に戦えると仰っていた。
最終的にその状況に持ち込むことを理想とする」
「心技体を極めた四人ですか」
ハスミが豊満な胸の前で腕を組み、考えを起こす。
この場合、各学園の最高戦力を投入するのが最善手だと彼女は思った。
「それで、肝心のやみのころもを剥がす手段は?」
「実はこれ、裏技に近いらしいんだが、魔王の母神たる邪悪の女神は闇属性らしく、超強力なレーザー光線みたいな代物を当て続ければ解除されるらしい」
「ホントにテンプレなんですね」
何度目か分からない眩暈がユウカを襲った。
「エンジニア部、聞いていますか?」
『はいはい、こちらエンジニア部のウタハ。
強力なレーザー投射装置だね。実はアリスのレールガンだが、ちょっと換装すれば実弾の発射からデブリ掃射用のレーザー熱線砲に転換できるんだ。
現時点で、キヴォトスにそれ以上のレーザー兵器は存在しないと言って良いだろう。
元々はビーム砲として設計し、こちらの装備が本命だったのだが、電力消費量が尋常じゃなくてな、泣く泣く実弾兵器に妥協したという経緯が────』
「ちょうどおあつらえ向きの物があったようです」
ノアがエンジニア部との通信を切って、皆にそう告げた。
「訂正しよう。ヒマリ+リオ-秘密主義+ユウカ×1000+コトリ=メアリース様だ」
「より地獄度が増しましたね」
笑顔で毒を吐くノアだった。
多分黒服も足せば完璧だと思う、なんて先生は考えていた。
ちなみに余談だが通信を聞いていたコトリが、私関係無いですよね、と喚いていた。
「次は、魔王の使う魔法の対策ですね」
「正直、魔法は俺も詳しく無いんだよなぁ」
「そうでしょうねぇ」
言われるまでも無い、というような表情でユウカは男を見やる。
「ああ、ただ、以前、世間様に迷惑を掛けるクソ魔術師を討伐する際に、魔法の基礎理論を教えて貰った」
『是非教えてください♪』
こいつまだ懲りてないな、と思いながらも男は図式で説明をした。
【A→100㎞→B=1時間】
「AからBまでに移動する時、この場合時速100キロで移動したことになる」
『小学生でもわかる問題ですね』
「だが、この図式がこうなると、どうなる?」
【A→100㎞→B=1秒】
『秒速100,000キロ……物理的に不可能ですね』
「ああ、仮に可能だとしても、身体が瞬時に血飛沫になる」
だがそれを可能とするのが魔法だ、と男は言う。
計算に強いユウカなどは想像して顔を青くしていた。
「魔法はこれを可能とする。ただし、俺の言った通りの結果が術者に出力される」
『ああなるほど、意外とロジカルなんですね。
物理的に不可能であればあるほど、魔法を使用した当人にフィードバックが発生する』
「ああ、だから魔術師連中ってのは、それらフィードバックと実用性に折り合いを付ける作業を行う。一秒を10分にしたり、防御魔法で身を守ったり……まあ開発研究だな。
そこで問題になるのは、……突然だが、メイドインアビスってマンガを知ってるか?」
『アニメ化して有名になった、と言う程度には』
「あのマンガには、負荷を他人に肩代わりさせるって設定が存在するんだ」
『……つまり、そう言うわけですね』
ヒマリには男の言いたいことが分かった。
ヒト一人犠牲にすれば、一秒で100kmの移動を可能にする。
それが、魔法と言う技術の基礎。非効率的で生々しい、血まみれのそれは、時と場合によっては有用になる。
「魔法と言うものがろくでもないのは分かりました」
「連中はそれを魔力と言うエネルギーを起点に行う。
しかし、長々と説明して悪いが、魔王と戦う際にはあまり役に立たないだろう。
魔王が使うのは戦闘用に最適化された、自身の魔力のみを消費する、ゲームのような攻撃魔法だけだ」
「知っているのと知らないのとでは全然違うので、問題ありません」
幸い、この場に居るのはキヴォトスでも屈指の知恵者ばかり。
既に通信越しに眠りこけ始めている前線組とは違う。
「ただ、ひとつ解せないことがある。
連中には“レギュレーション”というルールがある。それはプライベートであろうがかわらないはずなんだが」
「先ほどの映像でも、その単語が出ていましたね」
ああ、と男はハスミに頷いて見せた。
「メアリース様は数多くの世界を支配している。
その中は当然、中世レベルの発展度合いや、このキヴォトスよりも発展している世界も存在する。
世界間での交流の際にも、このルールは絶対視される。
概要としては、銃の無い世界に、銃を持って行ってはいけない、みたいなものなんだが」
「ああ、貿易の制限みたいなものですね」
アコの言葉に、男は頷いた。
「つまり、先ほどの映像の例に挙げるなら、魔法技術の無い世界に魔法を持ち込み、使用してはいけない、と言うことですね。
……ですが、そうなると不思議ですね。なぜ、これから滅ぼす相手に、そんな配慮をするのでしょうか」
「それは勿論、試練を与える為だ」
「試練?」
ハスミは小首を傾げた。
「さっきのお前たち滅ぼします宣言があると言ったが、これにはもう一つ魔王は、お前らが俺様を倒せれば滅亡は取り消すぜ宣言も合わせて行われる。
女神の判断が間違いだったと、証明する機会をその世界の住人に与える為だ」
なんとなく、男の語る女神の性格が大体把握できていた面々は、それを意外とは思わなかった。
残酷で傲慢だが、自分のルールには己を含めて絶対。
だから、いかにこの男を仕留めるのに魔王が例外だと賞賛した理由がわかる。
この男は、こんなにも自意識が高い女神に、自分のルールを曲げさせたわけである。
「たった一人に大軍を運用するコストと対費用効果……うッ、私でも頭が痛くなる……」
「なるほど、何だか私はその御方と話してみたくなりました」
「大人になったら行ってみると良い。神として接するなら、幻滅はするだろうがな」
魔王に命令をした当時の女神の葛藤が手に取るように分かるユウカと、そんな人間性にノアは親しみが湧いていたようだった。
「つまり、そういうことだから、魔王がこの世界で魔法を使い好き勝手するってのは、ハッキリ言って懲罰ものだ。
魔王なんて呼ばれても、所詮は神の兵器。兵器は持ち主の引き金なくして、弾丸を発射してはならない」
「なるほど、管理魔だからね」
ヒナはその結論に頷いた。
「さて、長くなったので要点をまとめましょう」
ユウカはモニターに文字を出力していく。
・魔王戦は最終的に四人での決戦メンバーで対応する。
・少なくとも魔王にこちらを滅ぼす意図はない。
・魔王は不死身である。どうにかして撃退し、帰って貰う。
・魔王は身を守るバリアがあり、強力なレーザー兵器で打ち破れる(解決済み)
・魔王は魔法を用いるが、本来は使用してはならない。(解決の糸口になるか?)
「こうしてまとめると、問題はこちらが攻撃を加えて帰ってくれるかって点っすね。
「それは大丈夫だろう。
魔王の一族ってのは皆、戦闘狂というか、自分に匹敵する相手を求めるような連中だ。そう言う風に、神々に設計されている」
だから男は、戦ってスッキリすれば、話を聞いてくれるかもしれん、と適当に言った。
「そんな適当な……」
「ちょっと待ってください!!」
その時、異変が起こった。
「“魔王城”より、武装勢力が多数出動!!
攻撃目標は、不明です!!」
ユウカがモニターに現場を映す。
不良生徒、オートマタ、機動兵器などが続々と魔王城から排出されていく。
これを見て、どこも攻撃しないなんて思わないマヌケは居ないだろう。
「この武装勢力を、“魔王軍”と呼称。
エンジニア部、レーザー兵器の換装はまだですか!?」
『こちらエンジニア部。
大分放置していたから、バッテリーの充電がまだ不十分だ。あと五時間は掛かる!!』
「そんなに!!」
「魔王軍に対処しつつ、魔王までの道程を確保しろ。
その後、なるべく時間を稼げ!!」
「どうやって!! 相手は未知の魔法を操るんですよ!!」
男は少し考えて、こう言った。
「魔王に話しかけてみろ。
案外、それで集中力が乱れるはずだ。
魔法に必要なのは集中力らしいからな」
「とりあえず、試すように突入班には徹底させます!!」
ユウカは各部隊に連絡を取り始めた。
「これ以上は会議室じゃなく、場所をオペレーションルームに移した方が良さそうだな」
「“私も、魔王と話がしたい”」
「そうか。好きにしろ」
男は先生の行動に何も言わなかった。
「はあ、俺も俺で話疲れちまった。
ちょっくら自販機でジュースでも買ってきてから戻るわ」
「“……分かった”」
だから先生も、何も言わなかった。
「わりぃな。あいつが用事があるのは俺だろう」
サンクトゥムタワーの一階、出入り口。
男は何も告げず、独りで魔王城へ向かおうとしていた。
Wolf小隊もヒナの指揮下に付けて、本当に一人だった。
かつて、前世がそうであったように。
また、独りで魔王に挑もうとしていた。
「あら師匠。おひとりでどこに行くつもり?」
男はその声に、足を止める。
「アル……それに、お前ら」
「あの悪趣味な建物に行くんでしょ?
しかも相手は魔王だなんて名乗ってるんですって?
なら、このキヴォトス一のアウトローに挨拶も無しに好き勝手するなんて許せないわね?
私もその顔を、見てみたいと思ってたところよ」
男が振り返ると、アルを含めた便利屋の四人が立っていた。
「アルちゃんを泣かせたこと、まだ許してないけど。それは後でね」
「正直今回は相手が悪すぎると思うけど、それは今更か」
「教官!! 私もアル様と共に行きます!!」
「ムツキ、カヨコ、ハルカ……」
男の目から、涙が流れていた。
彼の脳裏に色褪せぬ、かつての同胞たちもそうだった。
「アル、いつの間にか前よりずっといい女になったな。
えり好みしないで抱いておけばよかった」
「お生憎だけど、私はそんなに安い女じゃないわよ」
内心、えッ師匠私を抱きしめたかったのキャー、となっているアルが精いっぱい格好つける。
「……ああ、もうお前は俺が手を出せるような女じゃなくなっちまったよ」
「あはは、今頃気づいても遅いんだけど!!」
ムツキがそんな男を笑い飛ばす。
「お前たちには悪いことをしたな。償いは後でする」
「もう忘れたわ。そんな昔のこと」
アルは己の長い髪をかき上げて、そう言った。
決まった、ドヤ、それが今のアルの全てだった。
「じゃあ、行きましょうか。みんな」
そうして、便利屋を加えた男が魔王城へと向かう。
キヴォトスの誰よりもバカで、最強の五人が。
ちなみに、アルは本気で五人で魔王城に突撃するなんて思っていなかった模様。
流石に支援ぐらい取り付けているだろう、とは思っていたのだった。
それがまさか、本当に何も無しで正面突撃するだなんて、この時はマジで思っていなかったのである。
今回は説明回です。が、主人公の過去話も含めていたので、長くなってしまった。反省。
多分推敲すればもっとコンパクトに分かりやすい話が出来たんだと思いますが、それよりも更新速度の維持に努めています。
ご理解のほどをお願いします。
作中に名前の出た女神メアリースに興味がありましたら、拙作のタグにある“メアリース・シリーズ”の作品をぜひどうぞ(ダイマ
彼女がどういう女神か、思う存分描写されています。
それにしても、あと一話で倒せるのかな、魔王……。
まあ細かいことはいいや!!
ではまた明日にでも!!