※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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総力戦が終わったら、また別枠で幕間を取る予定です。
オリジナル設定のお話が興味ないなら、そちらから読み進めて下さって結構ですので。
私としても、私の書きたい話を望まない読者の皆様に無理に読んでほしいわけではありませんので。

では、ご了承くだされば、もうしばらくお付き合いください。
本編どうぞ!!



歓待

 

 

 

 ちゃき、かちゃ、ごくごく。

 魔王の座する謁見の間には食事をする音だけが鳴っていた。

 

「もぐもぐ、っぷは、ごくごく、むしゃむしゃ」

「これおいしー!!」

「こっちの料理もおいしいよ!!」

 

 アカリ、イズミ、ジュンコが山ほど並べられた食事を食べ進める。

 

「……」

 

 ただハルナだけ、静かに食事をしてた。

 彼女達だけでなく、便利屋の四人もわいわい食事をしていた。

 

「……」

『“……”』

 

 男と先生は思った。

 なんだ、この状況、と。

 

 

 時間は十数分前まで遡る。

 

 

「……」

「……」

 

 対峙する、宿命の二人。

 先に口を開いたのは、魔王だった。

 

「相変わらずだな、アップルマン。

 また女子供に守られているのか?」

「ッ!!」

 

 魔王は、男の記憶のままにそこに居た。

 

「昨日のように思い出せる。

 お前は轡を並べる同胞を少しずつ生贄にし、我が軍勢に挑んでいたな。

『教官あなただけは生きてください』、『あなたさえいれば魔王と戦えます』、『お願い生きて』……そんなお前を慕う女子供の声が脳裏に蘇るようだ」

 

 感慨深く目を瞑る魔王。

 男は己の歯を噛み砕かんばかりに彼を睨みつけていた。

 

「お前は何故に我が母が、罰としてこんな女子供ばかりの世界に送り込こんだか、まだ分かっていないようだな……」

「教官……」

 

 ハルカの声が震えていた。

 この男に与えられた、女神の罰。

 

 ────それは、ただこの世界に生きること。

 それ以上の、悪夢は無いのだから。

 

「六十五億人ほど殺してやった頃、もはや私と戦うことを選んだ人間はお前だけだった。

 そうしてお前と共に戦うことを選んだのは、女子供ばかり。

 お前は仲間の命と引き換えに生き延びたと思っているかもしれないが、それは違う。

 お前だけは、最後に殺す。そう心に決めたのだ」

 

 まさか最期の最後にあそこまで粘られるとは、と魔王は己の判断に苦笑していた。

 

「また、繰り返すつもりか?

 まさか、何も学んではいないのか?

 またもやこうして、何の策も無く私に楯突くのか?」

 

「────何も分かっていないのは、どちらかしら」

 

「ほう?」

 

 魔王の言葉に口を挟んだアルに、視線が向く。

 

「この私の、何が分かっていないか、教えて貰おうか」

 

 その言葉に、アルは笑った。

 内心おしっこちびりそうなりながらも、胸を張ってそう言った。

 

「生き死になんて関係ない。

 自分を貫くことを辞めた瞬間、それは死よりも恥ずべき行いになるの。

 師匠は最高のハードボイルドよ。死に様を笑うのなら、勝手に笑えば良い。

 師匠も、それに従った子たちも、己の生き方に恥じるところなんてなかった!!」

 

 アルはそう言って、魔王を指差した。

 

「あなたこそ恥ずかしくないの?

 それを一番わかっているべき貴方が、師匠を宿敵と言ったあなたが!! そんな相手を嘲笑っている!!

 何も分かっていない。そう言われたって、仕方ないじゃない?」

 

 ──言っちゃったー!!

 

 これは死んだ、アルはそう思った。

 

「師匠を宿敵と呼ぶのは、取り消すことね」

 

 それでも、取り繕うのは止めなかった。

 ここに来た時点で、もう何を言ったところで変わらないのだから。

 

「もういい、もういいんだ、アル」

「し、師匠?」

「もう、終わったことだ」

 

 男は涙し、そう言った。

 

「魔王、俺を殺しに来たんだろう?

 生憎だが、俺にはお前の前に土下座してこいつらを見逃してもらうよう媚びへつらう以外は出来ない」

「自惚れるな」

 

 魔王は、男の言葉に立ち上がった。

 彼にとって、最もそれは聞きたくない言葉だった。

 

「自惚れるなよッ!!」

 

 魔王からどす黒いオーラが吹き荒れる。

 対峙する五人は、それに気圧されないだけで精いっぱいだった。

 

「この世界で牙を抜かれたか、狂犬めが!!」

「違う。もう俺は、自分の戦いをするのを止めただけだ」

 

 そうか、と魔王は威圧を止めて玉座に座り直した。

 

「ならば、もはや貴様には用はない。消え失せよ」

 

「悪いなお前達。やっぱり命乞いは通用しなかった」

「大丈夫♪ 世界一格好いい命乞いだったから」

 

 ムツキが笑う。

 冷や汗だらだらなのに。

 

「うん、丁度私もムカついたところだから」

 

 カヨコも愛銃を魔王に向ける。

 勝てる気はしない。だが、負ける気はもっとしなかった。

 

「きょ、教官の代わりにぶっ殺します!!」

 

 ハルカも、覚悟は決まっていた。

 この巨悪を黙らせる。それは、アルも望んでいることだとわかったから。

 

「師匠、あいつを倒したら、私が魔王を名乗っても良いのかしらね」

「ああ、むしろ向こうから名乗って下さいって言いに来るぜ」

 

 アルの軽口に、男は本気でそう言った。

 きっとその通りになる、そんな確信があった。

 

「じゃあ、始めましょうか」

「……面白い。やはり貴様は、いつも私を愉しませてくれる!!」

 

 アル達と、魔王が激突する!!

 

 

 

 

 

 

「お待ちなさい」

 

 

 

 その寸前で、横やりが入った。

 

 

「あなた達、そこにある食事が見えませんの?」

 

 ハルナ率いる、元美食研究会の面々が乱入した。

 

「食べ物を粗末にする者は、神が許そうともこの私が許しませんわ!!」

「ねえ部長、これ食べてもいいよね、ね!!」

「なにこれ超おいしそう!!」

 

 ハルナのキメ台詞を無視して、イズミとジュンコが並べられた料理に飛びつく。

 

「あら皆さん、食べないのでしたら私が全部食べましてよ」

「……おほん」

 

 もう既に皿一杯に盛り付けて食べ始めているアカリ。

 流石のハルナも、これには恥じらいを持って咳払いをした。

 

「殺し合いは、食後の運動に致しましょう」

 

「……」

「……」

 

 もはや、誰も戦うという雰囲気ではなくなっていた。

 

「じゃ、じゃあ、私達もお呼ばれしましょう」

「台無しだよ、アルちゃん」

 

 冷静にムツキがそう突っ込んだ。

 

 

 

 §§§

 

 

『“私が連邦捜査局シャーレの責任者です。

 今回の一件の、全権を任せられている者と言って差し支えありません”』

「ああ、貴公が“先生”か」

 

 食事中で皆静かになったので、ヒマリが状況を報告してシャーレから先生が通信を繋げていた。

 

「奇妙なモノだ。

 我が主上は教職員の質こそ文明の発展に必要不可欠とし、聖職者の名の通り神職も兼ねた神官として登用している。

 誰もが憧れる、エリート中のエリートだ。

 しかし、この世界で教職員は貴公一人だけだという」

『“身に余る重責だと心得ています”』

「当然だ。他者を導くとはそう言うことだ」

 

 そしてわざわざそんなことを魔王が言ったのは、先生をそう言う人間として扱う、と宣言しているようなモノだった。

 

『“魔王様におかれましては、何故にこの地へやってきたのでしょうか?”』

「旅行だ」

『“……私の生徒にも、そのように仰っていたと伺っています”』

「敢えては俗な言い方をするならば、自分探しの旅と言ったところか」

 

 くくく、と魔王は含み笑いを漏らした。

 

『“ではその目的は彼や、この地の住人に危害を加えることではない、と?”』

「この地での定義では、旅行とは行き先の住人に攻撃を加えることなのか?」

『“ではどうしてブラックマーケットをこのような姿にしたのですか?”』

「?」

 

 先生の問いに、魔王は首を傾げた。

 

「この私が、この地へと足を運んだのだ。

 この世界を挙げて歓待するのは当然の事だろう」

 

 先生はポカンとした。

 一瞬何を言われたのか分からなかったからだ。

 

『“つまり、これは攻撃では無く、滞在中の住居を確保しただけ、だと?”』

「無論、プライベートな旅行故、この程度の粗末な持て成しで十分ではあるがな」

 

 恐ろしいことに、魔王には一切の悪意は無かった。

 歩くだけで災厄。神の化身に相応しき、傲慢さと暴虐。

 

 まさしく、ドラゴンそのものだった。

 

『“では本当に、我々の危害を加えるつもりはない、と?”』

「くどい」

『“……失礼しました”』

 

 先生は素直に頭を下げた。

 

『“では失礼を重ねる様で申し訳ありませんが、この地への旅行の目的とは何なのでしょうか”』

「その男に会いに来た。ただそれだけだ」

『“ならば目的は達したという認識で宜しいのでしょうか”』

「それは、どうなのであろうな」

 

 魔王の返事は曖昧だった。

 

「欲しい答えが見つからなかったというなら不達成だが、会うということ自体は成功している」

『“……”』

「もう質問は終わりか?」

 

 魔王は退屈そうに、ワインを呷った。

 

「では、私からよろしいでしょうか、魔王様」

 

 そう言ったのは、ナプキンで口を拭いたハルナだった。

 

「良きに計らえ」

「ありがとうございます。

 私は最近、動画配信などを嗜み、芸人の真似事をしております。

 ですので、道化の戯言と聞き流して貰っても構わないのですが」

 

 そんな前置きをして、ハルナは問うた。

 

「なぜ、これほどの美食を前にして、一口も口に付けておられなかったのですか?」

 

 純粋な、疑問。

 歓待を要求しておいて、魔王はずっと酒しか飲んでいない。

 こうして出された最高級の料理の数々も、調度品かなにかのように置いてあるだけだった。

 

「特に必要無いからだ」

「はい?」

「我が主上と、我が母は、完全なる生命体であれと、この私を創造した。

 食事、睡眠、性交、それらの欲求はこの身には存在しない」

「なるほど、分かりました」

 

 ハルナは納得したように頷いた。

 

「では、失礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか」

「構わぬ」

「ならば、失礼して」

 

 彼女は魔王に、こう言った。

 

 

 

「────それは、生きている意味があるのですか?」

 

 

 

 こいつ、言いやがった!!!

 と、ずっと黙っていた男や、先生を始めとしたオペレーションルームの面々は悲鳴を上げそうになった。

 

 

「ふッ」

 

 だが、魔王の反応は誰もが予想外だった。

 

「ふふふッ、言うではないか。全く以ってその通りだ」

 

 魔王は、笑っていた。

 

「ではその道化働きに免じて、褒美を取らせよう。

 何か欲しいモノはあるか?」

「では魔王様が考えうる、至高の美食を堪能したく」

「よかろう」

 

 なぜか、ハルナは魔王に気に入られていた。

 魔王が懐から携帯端末を取り出すと、どこかと連絡を取り始めた。

 

「私だ。全員分のアレを用意しろ」

『かしこまりました、魔王様』

 

 魔王の眼前に、魔法陣が出現する。

 そこから、寸胴鍋がせり上がるように出現した。

 

 その瞬間から、謁見の間に満ちる芳醇な香り。

 最高級の料理にかぶり付いていた生徒たちが、思わず手を止めた。

 

「配膳を頼む」

「は、はい」

 

 マフィアに献上された元生徒たちが、全員に寸胴鍋の中身をとりわけ、配膳した。

 

 それは、黄金色のスープだった。

 具は無い。いや、具は全てスープの中に溶け込んでいた。

 

「……コンソメスープ」

 

 ハルナはその正体を一目で看破した。

 そして、一口スプーンでそれを口に運んだ。

 

「はぁぁ……」

 

 瞬間、口内に満ちる繊細で計算し尽くされた野菜と魚と肉の旨味。

 

「コンソメとは、完成されたという意味の言葉。

 文字通り一切の濁りや脂肪分を赦さず、丹念に丹念に灰汁を取り、提供されてから冷めるのが早いため、ゼラチン質が固まらないように素早い配膳が求められる。

 一口で分かる、シェフの気づかいや食べる相手へに本当に美味しいモノを食べさせたいという、熱意。情熱。その全てを感じられますわ」

 

 絶賛だった。

 これ以上無いくらいの、シェフへの尊敬と賛美が込められていた。

 

「いったい何日、このスープを完成させる為に鍋の前に立ち続ければ良いのか、想像もつきません」

「十日だそうだ。その間、一睡もしないらしい」

「然もありませんわ」

 

 まさに、食にその身を捧げないと出来ない芸当だった。

 至高の美食。その言葉に偽りは無かった。

 

「と、十日? このスープを作るのに、十日も掛かるの!?」

「ビーフシチューを作るのに二週間煮込むお店もあると聞きますが、その労力は想像もつきませんわね」

 

 ジュンコもアカリも、そのスープの味わいに感嘆するばかりだった。

 

「おいしい~」

 

 イズミはそんな外野の喧騒など聞こえていなかった。

 ただ只管に、スープを飲み干す。

 

「……私には、お前たちのその感動が理解できなかった」

「魔王様……」

「生きている意味があるのかと、問うたな?

 ────勿論、無いとも」

 

 ただそれだけの言葉に、思わずハルナの目から涙が流れた。

 これほどの美食を、それもシェフが人生を捧げるような料理を出し続けているのに、それを食べる相手がそれを理解できない。

 ハルナにとって、それ以上の悲劇は無かった。

 

「私は魔王である。だが、数多くいる一族の一人に過ぎない。

 我が主上は完璧だ。私が欠けたところで、別の誰かが補填を行う。私が、私である必要など、どこにも無いのだ」

 

『組織とは、代替可能な個人の集合体でなければならない、か』

 

 通信越しにオペレーションルームで聞いていたヒナが、かつて男に言われた言葉を思い出した。

 

「魔王……」

「先日、我が偉大なる一族の兄が、ある世界の勇者に敗れた。

 正面から戦い、敗北したのだ。私が知る限り、私が産まれて以来一度も無かった快挙だ。

 その後、我が兄は、何を我が母に願ったと思う?」

「まさか」

 

 男はすぐにわかった。

 それが分かるくらいには、男と魔王は理解しあっていた。

 

「そうだ。兄は我が母に、──永遠の死を願った。

 自分だけ死を覚悟せずに戦うなど、全ての戦士への侮辱であると。

 ……以来、兄は二度と我らの前に姿を見せなくなった」

 

 魔王は完全なる生命体。

 死の概念など無い。そんな存在が、神に死を願った。

 まるで、神話のような出来事だった。

 

「兄は、私と違って己を貫いた。ただ魔王であると、産まれながらに称えられるだけの存在ではなかった。

 翻って、私はどうだ? 私は自分の仕事や役割に納得している。しかしそれはそのように造られたからだ。

 私に自由意思など無い。私は、兄が羨ましかった」

 

『“魔王様……”』

 

 聞いていて痛々しい、自分のアイデンティティの在り方への自問自答。

 

「だから、私はお前に会いに来た。

 私を憎む貴様ならば、私に納得する答えを齎すかもしれない、とな」

「……」

「そうか、もはやお前は、私を憎んでさえくれないのか」

「ああ」

 

 男は空になったスープの皿をテーブルに置いて、頷いた。

 

「メアリース様は、俺と共に戦った同胞たちを称え、最大限配慮してくれると言った。

 俺の前世の故郷は失敗作だったが、勇敢に戦いを挑む者には祝福を与える、と」

「当然だ。メアリース様は文明の女神。文明の発展に戦争は切っても切り離せない。

 故に主上は、勇敢に戦う者を評価する。そうしなければならない」

「だから、もういい。もう全部、終わったことなんだ」

 

 男の言葉には、宿敵との因縁も含まれていた。

 この虚しい魔王は、ただ命令で動いていただけ。

 魔王には、殺戮を楽しむような感情すらないのだ。

 

「魔王の仕事には、統治も含まれる。

 停滞した社会を破壊し、改善する作業だ」

『“それは、どのようなモノでしょうか”』

「この世界には主権を失った連邦生徒会なる行政組織があるそうだな。

 私がこの世界に遣わされたのなら、まずその組織を物理的に解体する」

 

 うッ、と思わず先生は呻いた。

 他人事では無かったからだ。

 

「行き過ぎた民主主義、極まった独裁政権。それらを破壊し、健全化を図る。

 兄はそうやって、数多の世界に善政を敷いた。

 そして、死後、多くの世界が数年の喪に服したという。

 それほどまでに、兄は愛され、慕われていた。それ以上の世界を滅ぼしたというのに」

『“それも、魔王の仕事なのですね”』

 

 神の化身、代行者。

 その重責は、先生には想像も出来なかった。

 

「先生。貴公にとって、神とはどのような存在だ?』

『“途方もない存在、だとしか”』

「我が母は、このように神を定義した」

 

 

「神とは、──“諦め”の形である、と」

 

 それを、すぐには誰も理解できなかった。

 

『つまり、雷が鳴ったのは神様が怒ったから。川が氾濫し洪水が起こったのは川に住む竜神が怒ったから。

 魔王様が既存の停滞した行政を破壊するのも、神様がそう決めたから。

 諦めこそ、神の本質である、と。そう言うわけですね』

 

 いち早く理解したヒマリがそう答えた。

 

「その通りだ。我が母は、己に縋る者に復讐をも赦す。

 神が赦したことで、“仕方がないから”とそれ以上の復讐の連鎖を止めるためだ。無論、その場合は復讐を願った者の命を奪うことになるが」

 

 余りにも偉大過ぎる、魔王を創造した二柱の女神。

 それは彼にとって重荷だった。

 

「私が滅ぼす先の世界は、基本的に“失敗作”だ。

 神がそう決めたからだ。そう判断されるだけの事情がある。

 だからこそ、試練を課す。我魔王なり、我を打ち倒す勇者が現れれば、この世界は破滅から救われるだろう、とな」

 

 本当に、男の言った通りのことが魔王の口から語られた。

 

「しかし、そうやって存続が許されたパターンは、過去から現在までで、全体のおよそ3%に過ぎない」

『た、たった3%!?』

 

 通信越しにユウカが声を上げた。

 百の世界があれば、そのうち三つしか救われなかった。

 いったいどれだけの試行錯誤を繰り返したのか、想像もできないほどだ。

 

「なぜ、私に立ち向かう者が愛おしいか分かるだろう?」

『“……ええ”』

 

 先生は理解してしまった。

 魔王は、どうしようもないほどに、人間を愛している。

 だからこそ願わずにはいられない。求めずにはいられないのだ。

 

 人間の尊厳を示す、真の勇者を。

 魔王と言う、絶対的な“諦め”に対抗し続ける人間の意思を。

 

 愛さずには、いられない。

 

 

「では、そちらの歓待の準備も、終わったということで良いのだな?」

『“……え?”』

「粗末な歓待と評したのは、訂正しよう」

 

 その瞬間、先生だけでは無く、オペレーションルームの全員が寒気を襲った。

 

 これまでの話は、ここからの話への前振りに過ぎなかったのだ、と。

 そう思い至ったからだ。

 

「料理、音楽、芸能、貢物。

 私の来訪を幾多の世界が、様々な方法で持て成し、歓待した。

 だが、一度として、私が欲しいモノを示した世界は無かった。

 それがまさか、こんな辺境の未開の地で齎されるとはな」

 

 魔王が、笑っていた。

 心底、嬉しそうにしていた。

 

 

 

「まさかまさか、この私を倒そうなどと、そんな歓待は初めてだよ!!」

 

 全ての準備が、裏目に出た瞬間だった。

 

 

『“待って、待ってほしい!!

 あなたに我々を害する意思は無いと、そう仰ったはずでは!?”』

「もう忘れたのか、先生。神の本質とは何だ?」

『“ッ──!!”』

 

 男は諦念に満ちた苦笑いを浮かべた。

 

「それに、こいつは死ぬ気だ。

 神の下に戻ったら、永遠の命を返上する腹積もりだろう」

『“……”』

「頼むよ、先生」

『“私ひとりなら、その意気を汲んであげられたんだけどね!!”』

 

 先生は、大人のカードを取り出した。

 

「ふむ、それはこの世界の奇蹟の依り代か?

 そんなものに頼るとは……存外に、つまらない男だな。先生とやら」

『“なんだって?”』

「お前の生徒たちは、やる気だぞ」

 

 もう、食事の時間は終わっていた。

 彼の生徒たち、全員が武器を手にしていた。

 

「さて、いささかここは狭すぎる。場所を変えようか」

 

 

 

 

 

「この度は、この大いなる歓待に感謝を示そう」

 

 動員人数、二千人以上。

 戦車、弾薬、爆薬、その他諸々総数不明。

 

 これが、キヴォトスがこの魔王たった独りに向ける“歓待”だった。

 

「これほどまでに歓迎され、名乗らずにいるのも無作法だろう。

 では、今こそ名乗ろう」

 

 魔王は恭しく、己を取り囲む軍集団に一礼した。

 

 

── warning‼ warning‼ ──

 

── 魔王 降臨 ──

 

 

「我が名はアダム。魔王アダム。

 魔王一族が序列66位。人呼んで“始原王”」

 

 

────“始原王”

序列六六位、魔王アダム

astf ehT ────

 

 

 彼の“世話係”の軍勢が、彼の下へと参戦する。

 

「さて、キヴォトスの諸君。

 お前達の、尊厳を示せ」

 

 

 本当の総力戦が、今始まる!!

 

 

 

 

 




あと一話で、終わるかなぁ。いや、どんなに長くなっても終わらせよう。そうしよう。
ブルアカ主題の話以外はあまり求められてないのはわかってますので。

あと、勘違いされている方もいるっぽいので一応。
魔王アダムは今作初登場、作者のシリーズを全部見回しても出てきません。
Wolf小隊と同じ今作だけのオリキャラです。なぜそうなったかと言うと、主人公のアップルマンが他作品ではちょい役と言うか、まだあんまり掘り下げられてないキャラというか。
まあそんな感じなので。いや誰に言い訳してるんだって話ですけど。

では、また次回。
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