※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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今回で、総力戦は終了です。
なんとか一話でまとめました!!



決着

 

 

 

 幾つもの戦端が、魔王城が出来たことによって空いた広大な土地で花開く。

 

 三大学園連合とも言うべき兵団と、ブラックマーケットの総兵力が正面衝突する。

 

 戦力比は3:1。

 寄せ集めの魔王軍は、烏合の衆でしかない筈だった。

 

「我に従う軍勢よ、我が意を示せ」

 

 魔王軍に守られた魔王が、戦場を指揮するかのように両手を大きく広げた。

 

「“マジック・プロテクション”」

 

 魔王の手から、淡いベールが広がり、魔王軍を包む。

 

「“ファイア・エンチャント”」

 

 数百の兵隊の武器に、炎の魔力が宿る!!

 

 魔法のベールに守られた軍団は銃弾を弾き、魔力が付与された銃が着弾すると装甲を無視して燃え広がる。

 

 それらは決して無制限ではない。

 だが、魔法が初見のシャーレ側は苦戦を強いられる。

 

 

『魔王軍、未知の防護装甲と銃弾による延焼効果を確認!!』

『これが魔法ですか!!』

 

 既に前線に出るオペレーションルームの面々は引き払っている。

 全体の指揮を執るユウカとノア、それを補助するヒマリだけだ。

 

『各員に通達。見た目に騙されないでください!!

 エフェクトが派手なだけで、相手はそれほど強くなっていません!!

 冷静に対処をお願いします!!』

 

 各所で小さな混乱が見られ、その様子をノアが無線で叱咤する。

 

『しかし、魔法の基礎理論に基づくなら、魔王の力は途轍もないですね。

 十数発ほどの弾丸から身を守る装甲、発火を齎す攻撃の上乗せ……。

 それを数百人分ほど彼個人が負担した、と言うことになりますので』

 

 ヒマリが魔王の実力を考察する。

 彼女は魔法を物理現象の反動であると解釈し、独自の分析を試みていた。

 

『軍勢を強化し、自分は特に行動を起こしていない……。

 ……まさに王の戦い方ね』

『ですが、この調子ならトリニティ部隊が魔王の眼前への道を確保するのもそう遠くは無いでしょう』

 

 ユウカとノアが、戦況を見守りつつお互いの認識を伝えあう。

 

 戦況は徐々に、シャーレ側の優位のまま推移しようとしていた。

 

 

 

「さあ、スマイルリクルートの社員たちよ。

 今こそ我が社の技能研修の成果を見せるのです!!」

「社長!! 張り切ってるところ悪いけど、邪魔だよ!!」

「そうそう、流れ弾飛んできたらどうするの!!」

「一度も鉄火場に出たこと無い癖に、なに張り切ってるのさ!!」

 

「これでも昔ぁ、長ドスのシバと畏れられたもんよ!!

 儂のドス裁き、魔王様にみせちゃろうやないか!!」

「いつの時代だよオヤジ!!」

「もうそんな時代じゃないんだから、後ろに引っ込んでろよ!!」

「いつまでも若く無いんだから、ほら!!」

「お、おめえら覚えてろよ!!」

 

「魔王様の為に!!」

「──魔王様の為に!!」

「我らのお母さんの為に!!」

「──我らのお母さんの為に!!」

「偉大なる御方の加護はある、私に続けぇええ」

「うおおおおおぉぉ!!」

 

「おら、マーケットガードども!!

 普段威張りちらしてんだ、働け働け!!」

「くそ、魔王様に取り入ってるだけのくせに偉そうに!!」

「後で覚えてろよ!!」

「口を動かす前に銃を撃てよ、敵が来てるぞ!!」

 

 四人の“世話係”達の軍勢が、魔王の下に向かう者達の行く手を阻む。

 

「うへぇ、いろんな意味でやりにくい人たちだなぁ」

 

 アビドス部隊に合流したホシノは、やる気まんまんの彼らに呻いた。

 

「全員悪党。な癖して楽しそうだよね」

「彼らには彼らなりの絆があるのでしょう」

 

 弾数の多いノノミが突撃してくる敵兵の防護魔法を剥がし、シロコが仕留めていく。

 

「アビドス製の土嚢、準備オッケーよ!!」

『ただの砂漠の砂ですけどね。皆さん、そこまで後退お願いします』

 

 セリカ率いる小隊が用意した土嚢のバリケードで、燃える銃弾の雨を防いでいく。

 

「それより、聞きましたよ先輩!!

 勇者パーティに抜擢されたんですって?」

「うへ!? やめてよその言い方」

「なら、ここで私達の手助けなんか良いから、向こうと合流してくださいよ」

「私達は心配いりません」

「……うん、信じてる」

 

 ホシノは皆の無事を確認すると、身を翻した。

 彼女は魔王との決戦メンバーに抜擢されていた。

 

 決戦メンバーは四人。

 残り三人も、魔王軍を退けつつ合流しようとしていた。

 

 対魔王軍の矢面に志願したのは、トリニティ部隊。

 主に正義実現委員会の面々によって構成された、魔王と言う邪悪の化身を許せぬと一番槍を買って出た。

 

「ぎゃっははははははは!!

 そんなんで強くなったつもりかぁ!! むしろ良いカモだぜぇぇ!!」

「ツルギ、本番はまだこれからです。あまり全力で暴れないでください」

「そうっすよ、ツルギ先輩。魔王討伐って大仕事が待ってるんすから」

「……ああ」

 

 仲間にたしなめられて、ツルギは冷静さを取り戻した。

 彼女の周囲には、倒された不良たちが積み重なっていた。

 

「それにしても、魔王か。

 まさか本物の巨悪そのものが相手になるとはな」

「我らの正義を証明する、良い機会になります」

「言ってる場合か。そんなお題目が通用する相手じゃねぇ」

 

 まだ距離があるのに、ツルギにはひしひしと感じていた。

 邪悪の権化が、彼女達を待っているのを。

 

「うわ、追いついちまった」

 

 そこに、イオリ率いるゲヘナ風紀委員会の面々が敵を蹴散らしながら合流した。

 

「正義馬鹿どもに被害を押し付けられればよかったんだけどな……」

「なんですって?」

「止めなさい。イオリ」

「委員長!!」

 

 睨みを利かせるハスミなど意に介さず、イオリは悠々と歩いて追従してくるヒナを振り返る。

 

「まあまあハスミ先輩、ここで言い争っても良いことはないですよ」

「イオリも、余計なことは言わずに手を動かしなさい」

「はい……」

 

 イオリは素直にヒナに頭を下げた。

 ハスミもイチカが宥めて、彼女らを視界から背けた。

 

「作戦は、打ち合わせ通り。

 ミレニアムのバックアップ部隊が準備完了するまで、お互いの兵員を魔王にぶつける」

「分かっていますよ」

 

 ヒナは作戦決行直前の最後の打ち合わせを行う。

 要するに、準備が整うまでの時間稼ぎだ。

 

「こちら、ゲヘナ部隊のヒナ。

 ミレニアムの部活部隊の用意は?」

『充電は完了済み。指定位置に移動中です。あと十五分と言ったところでしょうか』

 

 無線を入れると、すぐにヒマリがレスポンスをする。

 

「じゃあ、頼むわね」

「分かりました」

「……ええ」

 

 決戦メンバーたるヒナとツルギを後方に温存し、トリニティとゲヘナの部隊が魔王への道を切り開く。

 

 そして、彼女達は正面突破に成功した。

 

 いよいよ、彼女達は対面することになった。

 

 

「よく来た、少女たちよ」

 

 魔王、アダム。

 本物の巨悪が、彼女達を待ち受けていた。

 

「では、始めようか」

 

 魔王の両手に、未知のエネルギーが形成される。

 

『“皆、二十メートル退却!!”』

 

 先生はシッテムの箱に表示される予測攻撃範囲から退却を支持した。

 

 次の瞬間!!

 

 烈火の火柱が間欠泉のように吹き荒れた。

 

「これが、魔法!!」

「本当にゲームの魔王そのものだな!!」

 

 ハスミとイオリは、その威力に戦慄する。

 まともに喰らったら黒焦げだ。

 

「ほう、避けたか。ではこれはどうだ?」

 

 戦場に冷気が渦巻く。

 上空に拳ほどの大きさの無数の氷塊が形成され、雨のように降り注ぐ。

 

『“マズい、全体攻撃だ!! 総員防御態勢!!”』

 

 先生の叫びと、攻撃はほぼ同時だった。

 

 氷塊による絨毯爆撃。

 少女たちは必死に腕で頭を庇い、防御態勢を取る他できなかった。

 

「とにかく、こちらも攻撃を!!

 相手の気を逸らすのです!!」

 

 ハスミの号令と共に、態勢を立て直したトリニティが銃撃を開始する。

 

「ッ!?」

 

 全員、事前には聞いていた。

 だが実際に目にすると、その衝撃は話以上だった。

 

 弾丸が魔王に直撃する寸前で、すべて勢いを失っていたのだ。

 効果が無いとか、効かないとか、それ以前の話だった。

 

 ──生きている世界が違う。

 

 それを表現するには、そう記すべきだった。

 

「怯むな、正義を実行なさい!!」

 

 ハスミはすぐに指示を飛ばす。

 魔王は反撃することなく、少女たちの反応を笑って見ていた。

 

「翼の少女よ、なにゆえに正義などと言う形の無いモノにこだわる?

 正義など、所詮は物事を通しやすくするための方便に過ぎない。

 我が主上は性格は終わってるが、自らを正義と定義せずにいるところは素直に尊敬できる。

 正義と言う言葉が行きつく先の醜さを知っているからだ」

「そんなことは、誰でも知っています!!」

 

 子猫に語りかけるような物言いの魔王に、ハスミは声を上げて言い返す。

 

「形が無いからこそ、理想を形にしようと皆で邁進するのです!!

 安易に悪と言う手段で全てを解決する、あなたにはわからないでしょうね!!」

「そこまで言うなら、その手助けをしてやろうではないか」

 

 魔王は、ハスミに手のひらを差し向けた。

 

「我が固有スキル、“始原の園”の真の力を解放する」

 

 彼を中心に、邪悪な燐光が吹き荒れ始める。

 そして、その場にいる全員を吹き飛ばすかのように解き放たれた。

 

「ふぇ?」

 

 たった今まで、戦意に溢れていたハスミがぽかんとなった。

 彼女だけではない。イオリも、イチカも、魔王と戦っていた全ての生徒たちが腑抜けた表情になった。

 

『皆さん、何が起こったのですか!?』

 

 状況をモニターしていたノアが叫ぶ。

 だが、彼女達は全員、戦うことを忘れたかのように膝をついていた。

 

 そして。

 

「いおりちゃん、いっしょにまおうとたたかおう」

「うん、えい、えい!!」

「いたいよ、はねをひっぱらないで!!」

 

 まるで幼児のように、近くの仲間と遊び始めた。

 

「人は知恵の実を食べることで、己が裸であることに気づいた。

 知性とは人間らしさそのものであるが、同時に過剰であればあるほど、穢れを齎す。

 我が母に与えられた、我が力は、ヒトを原罪から解放する」

 

 故に、“始原の園”。

 

 誰もがありのままに過ごした、その原初の楽園に君臨する、林檎を喰らう始原の王。

 だから、彼の名はアダムなのだ。

 

『か、彼女達の知性を奪ったとでも言うのですか!?』

「より正確に言うなら、羞恥心を忘れた、と言うべきか。それに伴い、一時的に知性が退行している。

 まあ所詮は一時的なモノだ。こういう洗脳的な能力の使用は制限されているのでね」

 

 魔王はハスミの頭を撫でる。

 彼女はぽかぽかと魔王に反抗する。

 

 先生を含めたオペレーションルームの面々は絶句する。

 

 まるで、勝負にならない。

 戦いにすらならない。

 

 同じ土俵に、立つことすらできない。

 

「あの男もこれは知らなかったであろう?

 私自身もこんな力は好かないものでな。余興などで片手で数えるほどしか使ったことが無い」

 

 余興。

 魔王にとって、この戦いとは歓待の席の余興。

 その程度でしかないのだ。

 

 そして、こんな力が無くても、魔王はこれまでの仕事に全く差し支えなかった。

 

 ヒトは台風に立ち向かえるか?

 洪水を前にして、逃げずに生き延びれるか?

 災害と言う名の、無慈悲な神の暴虐。

 

 魔王と戦うというのは、そう言うことであった。

 

 

『皆さん、お待たせしました!!』

 

 だが、どんな理不尽な災厄でも。

 立ち向かう意思は、決して途絶えない。

 

『────光よ!!」

 

 太陽の如き熱線が、戦場に降り注いだ。

 

 

 

 ブラックマーケットの敷地内の戦場を見下ろせる場所に、アリスとその護衛を買って出たゲーム開発部の面々がいた。

 

「出力100%を維持、このまま約15分は連続で照射可能です!!」

 

 コトリは充電装置に接続されたまま、レーザー砲に問題が無いかモニターしていた。

 

「頼む、効いてくれ……。

 ヒトは雷を避雷針で、洪水を治水することで治めた。

 私達は、災害に無力ではないはずだ!!」

 

 直前まで整備点検をしていたウタハが、祈るように手を合わせていた。

 最新技術を拝するミレニアムの中枢を担う者として、この期に及んで祈るなんて非科学的なことをするなんて、普段の彼女なら一笑に伏すだろう。

 

 だが、彼女達の敵は、その非科学的そのもの。

 ならば、この時彼女は自分の出来る全てをするだけだった。

 

「私達は虹の橋を渡り、今こそ魔王の眼前に、光の玉を掲げましょう!!」

 

 アリスですら持ち運びできないほどの大型の電源装置に接続されたレーザー砲を、彼女は寸分も狂わず持ち続ける。

 

「悪魔よ、去れ。そして、闇を退ける──光よ、あれ!!」

 

 アリス達は掲げた。

 魔王を守る、闇の衣を引き裂く、光の玉を。

 

 

 

 

「これは、まさか、こんなことがあり得るのか?」

 

 超強力な光量のレーザー光が、目に見えない筈の魔王の衣を引き剝がし始めた。

 

『悪い、今戻った。まさかあんなチート持ちだったとはな』

 

 オペレーションルームから、男の声が聞こえる。

 

『今戻ったんですか、遅いですよ!!』

 

 今更過ぎる男の帰還に、アコが切れ散らかした。

 

『悪い。だが、本番までには間に合ったようだ』

 

 魔王は、自らの守りが剥がされようとしているのに、それから逃れるようなことはしなかった。

 

 いや、そんな発想は彼には無かったのだ。

 無敵で完全な存在である彼が、攻撃を避けるだなんて、そんなことしたことが無いのだから。

 

 それどころか。

 

「素晴らしい!! まさかお前たちはこの私と、対等で居たいと言うのか!!

 神の化身としてではなく、この私と!!

 このアダムと、本気で戦いたいというのか!!」

 

 魔王は、アダムは、心の底から歓喜していた。

 彼は最初から、衣を着て産まれた。

 

 透明な、衣を。

 

『裸の王様、ようやく気付いたのか?

 このキヴォトスの連中は、初めから羞恥心なんて持ってないってな!!』

『“それは流石に言い過ぎだと思うけど”』

 

 男の言葉に、先生は冷静にツッコミを入れた。

 

『この世界の連中は、高価な服を着てたら剥ぎ取って売り飛ばすような奴らばかりさ!!

 旅行の際にはスリにお気をつけくださーい』

 

 光によって、魔王の闇が浄化される。

 彼の周囲の地面が真っ赤に煮えたぎり、そんな中でも魔王は無傷で居た。

 

 スポットライトと言うには強力すぎる光が消える。

 トラブルでも起きたのか、ほんの数分にも満たない照射だった。

 

 だが、魔王の鱗は真っ赤に赤熱していた。

 これまででは、決してあり得ない変化だった。

 

「我が母よ。息子の不徳をお許しください。

 貴女の加護は、貴女の愛であると知っていながら、それを失った私は今、とても心が躍っている!!」

 

 そう、彼女らはようやく、魔王を同じ土俵に引きずり下ろしたのだ!!

 

 

「はッ、私達は何を!?」

「あれ、なんで私……」

 

 闇の力が消え失せ、ハスミやイオリ達も元に戻った。

 

「よう、ままごとは終わったか、お前ら」

 

 ざッ、と後方で待機していたネルが到着した。

 それはつまり。

 

「おかしくなってたんだし、そう言う言い方は止めようよ」

 

 アビドス社会福祉支援学校の、小鳥遊ホシノ。

 

「さっさと退却して。周囲の敵勢力の掃討をお願い」

 

 ゲヘナ学園の、空崎ヒナ。

 

「正直、私は笑えなかった」

 

 トリニティ総合学園の、剣崎ツルギ。

 

「いや、悪かったって」

 

 ミレニアムサイエンススクールの、美甘ネル。

 

 各学園の最高戦力をフル投入した、決戦メンバー。

 これ以上無い、心技体を極めた勇者パーティ。

 

 

「ああ、本当に、これほどまでの歓待は初めてだ」

 

 対する魔王は、独り。

 無敵の衣も、理不尽な能力も消え去り、しかしその玉体に何の痂疲も無い。

 

 小柄の多い四人からすれば、倍以上の体格は巨人にも等しい。

 誰も、魔王を侮ってはいなかった。

 

「だからこそ、もっと、もっとだ!!

 もっと堪能させてくれたまえ、お前たちの素晴らしさを!!

 意志の尊さを!! もっと愛でさせてくれ!!」

 

 戦いは、最終局面に行こうとしていた。

 

 

 

 

 

『スペック的には、心技体を極めた四人の勇者で同等、ですか……』

 

 ヒマリはその光景に、息を呑んだ。

 その神の言葉に嘘は無かった。

 

「ぎゃはははははははは!!!」

 

 ツルギの至近距離からの二丁のショットガンが炸裂する。

 弾丸は金属音を立てながら魔王の肉体から鱗を引き剥がす。

 

 しかし近づきすぎたツルギに魔王は指をさす。

 不可視の衝撃波が、彼女を十数メートル弾き飛ばす。

 

「近づきすぎないで!!」

 

 前衛を援護するように立ち回るヒナ。

 マシンガンの銃雨をうっとおしがったのか、魔王はそんな彼女の周囲の空間が歪む。

 

「危ない!!」

 

 ミドルレンジを維持して様子を見ながらフォローに回っていたネルが叫ぶ。

 直後、ヒナは咄嗟に飛び退き、彼女の居た場所はまるで巨大な鉄球が落ちたかのように陥没した。

 

「大技が来るよ!!」

 

 ホシノが声を上げる。

 魔王が片手をあげ、そこに空気が吸い込まれるように風が集まっていく。

 

 そして、破裂する。

 轟音と共に、魔王を中心とした半径百メートル近くが真空になって、破壊が齎される。

 

 身体を丸め、ダメージを最小限に抑えた四人は、衝撃からすぐに立ち直る。

 

『“まるで、怪獣大決戦だ……”』

 

 先生が手汗を握りながら呟いた。

 

 四人は最低限の連携を取りながら、取り囲むようにして攻撃を継続している。

 魔王も本気だ。先ほどから派手な魔法ではなく、目に見えにくい攻撃魔法を主体にしている。

 

「我が肉体は銃弾程度では傷つかない。

 だというのに、この身体は血を流している!!

 これが、この世界の生徒たちに宿る力なのか!!

 この痛みも何もかも、なんと新鮮な事か!!」

 

 魔王は指を鳴らす。

 彼の周囲に魔法陣が出現し、四体のクリスタルのような体を持つ五メートル以上の人型のゴーレムが現れた。

 今度こそ、銃弾の通用しない無機物が魔王の盾になる。

 

「まったく、冗談キツイね!!

 私達だってこんなに銃弾を浴びて、痛いじゃすまないってのに!!」

 

 ホシノが悪態を付く。

 ゴーレムが巨腕を振り上げ、鉄槌の如く振り下ろす。

 彼女はそれをいなして、避けようとするが、すぐさま無機物の腕を薙ぎ払ってくる。

 魔王の魔法攻撃を受け止めてきた盾が、軋みを上げる。

 

「ミスリルゴーレムだ。この世界無い金属に、どう対処する?」

 

 彼女達がゴーレムに苦戦していても、魔王は攻撃の手を休めない。

 

『ミスリル製のゴーレムだって!?

 ブルジョワめ、あれひとつで城が立つぞ!!』

『召喚魔法にはこちらも召喚魔法で対抗するわ!!

 狙撃部隊、後方支援部隊、援護を要請します!!』

 

 ユウカが周辺部隊に支援を要求した。

 

『了解、あんなトロい的、外さない』

『特製の正義の徹甲弾をお見舞いします』

 

 カリンやマシロといった狙撃班が、自分の腕ほどもある弾丸でゴーレムを狙撃する。

 

 無数の狙撃に、ゴーレムはまるで踊るように体を破壊されていった。

 

『こちらエンジニア部のウタハ。

 レーザー砲の件は済まない、こちらの機材が焼き切れてしまった。

 その代わり、アリスのレールガンを元の実弾に換装し直しておいた。

 至急援護させる!!』

 

 ウタハの報告が終わるか否かのタイミングで、レールガンの発射音が鳴り響く。

 宇宙戦艦搭載用の兵器の一撃に、ファンタジー兵器もたまらず胴体に穴が開いて崩れ落ちた。

 

『諸君!! あまりやり過ぎないでくれよ、あとであの人形を回収するからな!!』

 

 未知の金属と聞いてウタハがそんなことを言っていた。

 

『おい、カスミ。今だ、やれ!!』

『まったく、人使いが荒いねッ!!』

 

 男の指示にカスミがぶつくさと返した。

 そのすぐに、ミスリルゴーレムの周囲が陥没して、崩落した。

 

『下水道に叩き落してやった。あの巨体では這いあがれまい!!

 では諸君、危ないので撤退するぞ!!』

 

 カスミの通信越しに部員たちが慌ただしく逃げる声が聞こえた。

 

 そして、最後の一体は。

 

「おらあぁ、あたしらを舐めるな!!」

 

 四人が蹴り倒したり、踏んだり撃ったりして何とかした。

 いやそうはならんやろ、と魔王以外と当事者たち以外の全員がそう思った。

 

 その時、魔王の懐から着信音が鳴った。

 魔王は四人の相手をしつつ、携帯端末を取り出し通話に出た。

 

「もしもし、今忙しい、後にしろ」

『魔王様、恐れながらミスリルゴーレム四体の緊急発進とは何事ですか!?

 それにこの戦闘音、いったい何と戦っておられるのです!?

 戦闘でしたら、我ら魔王四天王もお供いたします!!』

「ならん。通常業務を続けておけ。私の楽しみの邪魔をするな」

 

 そう言って、魔王は通話をオフにした。

 

「部下を呼ばなくていいのか!?」

「あれは所詮、主上の部下どもだ。

 私に忠誠を誓っているわけではない」

 

 至近距離の銃撃を腕で防ぎながら、魔王はネルを振り払う。

 

「ああ、楽しい、楽しいぞ。

 しかし、困った。私もそろそろ限界が来たようだ」

 

 やっとか、と直接戦っている四人は思った。

 彼女達も手持ちの弾薬の限りを魔王に撃ち込んだ。

 それでもまだ、魔王は健在に見える。血を流している様子は見えないからだ。

 或いは、血の通っていない化け物なのか。

 

「まだだ。まだだとも。

 私はもっと、お前たちの輝きを見ていたい。

 こればかりはしまいと思っていたが、回復魔法を──」

『おいバカ止めろ、魔王がしちゃダメだろそれは!!』

「いや」

 

 男のツッコミがあったからでは無いだろうが、魔王は思い止まったようだった。

 

 これでやっと終わるのか。

 誰もが、そう思ったその時である。

 

「お前達、ひとつ忘れてはいやしないか?」

 

 魔王は笑った。

 これまで以上に、楽しそうに。

 

「魔王には、────第二形態が存在することを」

 

 嘘だろ、と四人はそんな表情になった。

 

『おい待て、それは出来ないはずだろう!?

 お前達魔王の第二形態は、世界を滅ぼす為に神の力をその身に降ろす行為のはず!!

 そして、それは神の権限の執行の為に振るわれるはずだろう!?』

『き、聞いてませんよ、アップルマンさん!!」

『使われた時点で、勝ち目なんて無いから話してなかったんだよ!!』

 

「そうとも。この歓待に、神々の意思は介在する余地はない。

 だが万が一にも、この私が手加減してやった、だなんて余地はお前たちに与えたくないのだ……。

 そんなお前たちを穢すような真似を、この私は出来ないのだ!!」

 

 だから魔王は、神の力無しで、神意を振るう形へと移行していく。

 本来なら出来ない筈の行為を、無理やり行っていく。

 

 

「──たとえそれが、お前たちを滅ぼすことになったとしても!!」

 

 

 魔王は、キヴォトスの人々を愛した。

 

 愛するが故に、滅ぼさずにはいられない。

 なぜなら彼が、魔王だからだ!!

 

 

 ただでさえ三メートルもの巨躯が、膨れ上がっていく。

 竜人の姿は原型を留めずに、変貌していく。

 

「楽園にて蛇は、神の寵愛を自ら奪った二人の男女を陥れた。

 嫉妬ゆえに、全ての人々に始原の罪を背負わせた」

 

 竜人から、竜神の姿へと。

 彼は蛇の顔をもつ、醜い巨大な四つ足の竜へと形を変える。

 

「ああ、羨ましい。何ゆえにお前たちは、そこまで自らの意思を示し続けられる?

 完全であれ、完璧であれと創られた、この私が持っていないものを持っているのだ?」

 

 優に二十メートルを超える、破壊の化身。

 それが、魔王の第二形態。

 

 だが、彼の前に集った四人の勇者は、それを見ても逃げるなんてことは少しも考えなかった。

 

「バカが、それはあんたが気づいてないだけだ!!」

 

 ネルは不敵に笑っていた。

 それこそ、手加減なんてされてはたまらないとでも言うように。

 

「私とあなたは似てると思う。だから、違うとは思わない」

 

 ヒナは淡々とそう告げた。

 魔王の変身の最中に要請した支援物資がドローンで配送され、弾薬は十全だ。

 

「本当にあんたは独りなのか? 私にはそう思えないけどな」

 

 戦略兵器とまで呼ばれるツルギは、思ったことを口にした。

 彼女は自分のようなモノにも、付いて来てくれる者はいるのだから、と。

 

「うへぇ、なんだか熱い展開だねぇ。おじさんは付いてけそうにないや」

 

 そんなことを言うホシノにも、笑みは張り付いていた。

 独りなら逃げ出したかもしれない。

 だけど、今はそうじゃない。

 

 

「ああ、愛おしい、妬ましい。

 このような無法と暴虐が蔓延る世界に、こんなにも美しいものがあるとは」

 

 魔王は涙していた。

 遥々と、こんな世界にまでやってきてまで欲しかった答えを、彼は得たのだから。

 

「ああだからこそ、私に滅ぼされないでおくれ」

 

「舐めんな、このトカゲ野郎!!」

 

 ネルの怒声と共に、最後の戦いは始まった。

 

 

 

 

 

「ああ、ブラックマーケットが、燃えていく」

 

 魔王と勇者たちの戦い。

 それは既に、人知を超えた災厄だった。

 

 巨竜と化した魔王のブレスが、魔王城との一体化を免れた部分を消し炭にしていく。

 最早、彼女ら以外、誰も戦闘を継続できなかった。

 

『総員撤退、撤退してください!!』

『逃げたところで、どこが安全だというんです』

『あの爆心地よりはずっとマシでしょ!!』

 

 ノアやアコ、ユウカまでも混乱している。

 

 魔王の一挙手一投足の全てが、破壊そのもの。

 彼が数時間暴れただけで、キヴォトスに文明の形跡は残らないだろう。

 

『いや、攻撃だ』

『“……アップルマン?”』

 

 どうしようもない破壊の化身に、先生までも心折れかけていた。

 だが、この男は敗北を認めたことは無かった。

 

『言っただろう、魔王の第二形態は神の力によってなされると。

 あれは今、相当な無茶をしている!!

 電源供給の無いまま、さっきのレーザー砲を撃つようなものだ!!』

『“つまり、限界がある!!”』

『ああ、しかも、相当短いはずだ!!』

 

 男の推測を補強するように、ヒマリが言った。

 

『実は、私の方で魔王の有する内在エネルギーを試算していました。

 魔王がどんなに強大な個人でも、限界は間違いなく存在します。

 先ほどのブレス攻撃を常用するのなら、二分持たないかと』

 

 希望的観測も多分に含まれますが、とヒマリは付け加えた。

 

『もうそれでだけで十分だわ!!

 総員攻撃、攻撃目標は魔王!!

 とにかく頭部を集中して攻撃し怯ませて!!』

 

 そんな大雑把な指示しかユウカはできなかった。

 いや、いったい誰ならこんな状況で的確な指揮が取れるというのだ。

 

『“ノア、少しだけ良いかな?”』

『ええ、大丈夫です』

 

 

 

「皆さん、逃げてください……そして、私無しでも生きるのです」

「ちょっと流れ弾当たったくらいで、なに死にそうになってるのよ社長!!」

「死ぬなら私達の借金を帳消しにしてから死ね!!」

「──それは出来ませんね」

「やっぱピンピンしてるじゃんか!!」

 

「オヤジ、とばっちり喰らう前に逃げよう!!」

「もう人間の戦いじゃないって!!」

「てやんでぃ、べらぼうめぃ!!

 こんな一大事に敵味方もあるめぇよ、魔王城に居る連中を避難させるんだよ!!」

「……わかった、爆破でも何でもして、魔王城をこじ開けるね」

 

「ああ、魔王様、お美しい……」

「なんて神々しいんだ!!」

「キヴォトスが、滅んでいく」

 

「もうやってられるか、私は逃げるぞ!!」

「ああくそ、あいつ逃げやがった!!」

「私達は私達の出来ることをやるぞ!!」

「ああ、あの城に残ってる人たちを助ける、我々とて仮にも治安維持組織としての意地がある!!」

 

 

『総員、傾聴せよ。先生のお言葉です』

 

 混乱する現場の無線に、ノアの声が響く。

 

『“皆、私だ。まずは逃げずに戦うことを選んでくれたことを、私は誇りに思う”』

 

 撤退する、攻撃する、混乱を収める。

 それぞれ行動を起こそうとした生徒たちは、彼の声に耳を傾ける。

 

『“今回のような規模の戦いでは、私は君たちの側で見守ることも出来ない、無力な大人だ。

 だけど、それでも最後まで、私は皆を見守っている”』

「…………」

『“私は、信じてくれ、と言うことしかできない。

 そして同時に、皆がこの危機に同じ脅威に立ち向かってくれると信じている”』

 

 もう誰も、混乱などしていなかった。

 彼の信頼に応える。ただそれだけだった。

 

『“だからお願いだ。あと少しだけ、付き合ってくれ”』

 

 

「擲弾でも銃弾でも何でもいい、とにかく撃って撃って撃ちまくって下さい!!」

 

 ノノミの指示に、アビドス生たちは一斉に銃弾や砲弾をありったけ撃ち始めた。

 

「ん、先生の期待に応える!!」

「よーし、やってやるわよッ!!」

『私も、皆を信じています』

 

 

「さあ皆さん、魔王様に最高のデセールを!!」

「最高のスープのお礼をしなければなりません」

「やっちゃうよー!!」

「いっけー!!!」

 

 ハルナ達、元美食研究会の面々も。

 

「最高の悪役に、最高の敬意を!! ここで決めたら最高にかっこう良いわよ!!」

「私達、結局出遅れちゃったしね!!」

「あんなのの矢面に立てるわけないけどね」

「アル様、私頑張ります!!」

 

 便利屋の四人も。

 

「迫撃砲をありったけ食らわせてやれ!!

 私の恥部を、この世から消し去ってくれ!!」

「もう大勢に見られてるから、無理ですよ……」

 

 顔を真っ赤にしたイオリと、負傷者の救護をしているチナツ。

 

 

「ああああ、もう、一生の不覚です!!

 ゲヘナの連中と、ああ、あんなことを!!」

「今回ばかりは私も何もいえねぇっす」

 

 ハスミとイチカ率いる部隊も、恥ずかしさを誤魔化すように一斉攻撃を指示。

 

 

「ヴェリタスのドローンの一斉攻撃を開始!!」

「こっちも、戦闘兵器のテストのし放題」

「よし、我々もやってやろうじゃないか!!」

 

 エンジニア部の面々も、最後の攻撃に参加する。

 

「魔力充填完了、いつでも行けます!!」

「よーし、連続攻撃でコンボ数を稼ぐよ!!」

「魔王討伐なんて、ゲームだけで十分だからね!!」

「弾薬、いっぱい用意しておいた!!」

 

 ゲーム開発部の四人も、準備完了した。

 

 

 魔王の踏み込みが、大地を揺らす。

 背後から強襲を狙うツルギとネルが、魔王の丸太のような尻尾で薙ぎ払われる。

 

 ホシノとヒナが連携して銃撃を頭部に浴びせかける。

 

 それを受けても、魔王は怯まず息を吸う。

 彼の喉元に、眩い光が集まっていく。

 

「またブレス攻撃よ!!」

 

 ヒナがその予備動作に声を上げる。

 だが、発射直前に周辺部隊からの爆撃や狙撃が魔王の頭部に集中する。

 

 四人を薙ぎ払うはずだったブレスは、魔王はたたら踏んてあらぬ方向へと発射される。

 

 偶然、魔王城がその方向にあった。

 あの巨大な構造物が、一瞬で跡形もなく木っ端微塵になった。

 

「あれをこれ以上撃たせないで!!」

 

 ホシノが魔王の正面に立ち、その気を引きながら叫ぶ。

 第二形態の魔王に死角は無いと、残り三人も正面からのブレス攻撃阻止に集中する。

 

 次々に支援攻撃が、爆撃が、銃弾が、魔王の巨体に命中していく。

 絶え間ない波状攻撃。

 どちら世界を滅ぼそうとしているのか、分からないほどの攻撃密度。

 

 そして、そんな周辺部隊に狙いを定め、魔王がブレス攻撃の予備動作を始める。

 

「おい、合わせててくれ!!」

 

 爆音響く中、ネルが叫び、突撃を開始しする。

 

「わかった!!」

「ああ!!」

「任せて!!」

 

 共に戦う中で、四人は既に一心同体。

 ある種のシンパシーで結ばれた、最高のパーティだった。

 

「おりゃあああぁぁぁ!!」

 

 ネルが魔王の巨躯に飛び掛かり、その両腕の剛腕を掻い潜ってその体を駆けあがる。

 

 そして、両手のサブマシンガンに備わった鎖を、魔王の首に巻き付け、その背後へと引っ張った。

 

 それを見た三人は、宙づりになったネルの足に飛びついた。

 

 四人分の体重で、魔王の喉が締められる。

 その直後。

 

 爆音と共に、衝撃が迸る。

 エネルギーの行き場を失った魔王の身体が、爆発したのだ。

 

 その衝撃で、四人も吹っ飛ばされる。

 

 

 そして、沈黙が訪れた。

 

 

『た……ターゲット、沈黙しました』

 

 爆炎が晴れ、粉塵が無くなると、元の姿になって仰向けに倒れた魔王が確認できた。

 最早身動き取れないと言った様子に、ノアはそう判断した。

 

 

「あ、あ……清々しい、気分だ」

 

 喉が潰れたのか、かすれた声で魔王は言った。

 

「貴公らの、歓待。堪能させてもらった」

 

 魔王は目を伏した。

 

「…………我が敗北を、認めよう」

 

 

 戦いが終わった。

 総勢二千人以上の、歓喜の声が戦場に鳴り響いた。

 

 

 

『ん? なんです、この反応は!?』

 

 その時だった。

 ヒマリは、戦場の端に未知の反応が無数に出現したのを確認した。

 

 

「魔王様!!」

「魔王様はいずこに!?」

「まおうさまぁあああ!!!」

「我ら四天王一同、馳せ参じました!!」

 

 彼女達の目にも映るほどの数に膨れ上がる、異形の軍勢。

 魔物、怪物、そう表現するほかない、魔の軍団。

 それが、どんどんと数を増やしていく。

 

「あ、ああ、魔王様、なんとおいたわしや!!」

「おお、おおお、お、お前たちか!! 偉大なる魔王様にこのような無体を働いたのは!!!」

「ゆ、許せぬ、万死に値する所業と知れ!!」

「早く治療をせねば!!」

 

「止めぬか、お前達」

 

 殺気立つ魔王の従僕たちが、主の一言で静まり返った。

 そして、波打つように、その軍勢が跪いて頭を下げる。

 

「どうやら、迎えが来たようだ」

 

 散々打ちのめされた後とは思えないほど、むくりと魔王は起き上がった。

 だが、何度かふらついた後、魔王は彼の下へと向かった。

 

「此度の歓待の褒美は、後日そちらに届けよう」

 

 魔王は、部下の差し出す治療薬を口にした。

 たったそれだけで喉の調子が戻ったのか、こう言った。

 

「迷惑をかけたな。ではな」

 

 己の軍勢と共に、立ち去ろうとする魔王。

 

「待ってください、魔王様!!」

 

 そんな彼らを引き留める者達が居た。

 

「どうか無能な連邦生徒会の連中に代わり、この世界に君臨してください!!」

「いやだ、行かないでください!!」

「私達を見捨てないで!!!」

「私達も連れて行って!!」

 

 ヘルミナを始めとした、彼女の傘下の不良や元生徒たちが悲痛な声で訴えていた。

 

「安心しろ、お前達」

 

 魔王は顔だけ振り返り、言った。

 

「次は、この美しい世界を、我が物とする為にやってくる」

 

 その言葉に彼女達は歓喜に打ち震え、それ以外の全員が勘弁してくれと思った。

 

「たとえ何十年、何百年掛かろうとも、我が主上と母を説得して、私は必ず、この世界に戻って来る」

 

 ヘルミナ達の一人が、その言葉を黙示録か何かのように涙を流しながら書き記した。

 

「では、さらば、である」

 

 そして、魔王とその軍勢は消え去った。

 ブラックマーケットの95%以上の壊滅と言う結果だけを残して。

 

 

 

 §§§

 

 

【エピローグ】

 

 

「“あの後、シャーレ宛てに百キロ近い金塊が送られてきて、散々だったよ。事後処理で死にそうになったし”」

 

 後日、先生はバーで愚痴っていた。

 

「“とりあえず、今回の騒動に協力してくれた各学校に補填として分配したよ”」

「そして結果的に、悪党の巣窟だったブラックマーケットは消失。

 あの場所の撤去代が浮いたと思えばいいじゃねえか」

「“どう考えても元あった建物を再利用した方が安上がりだったよ”」

 

 しかも最近、魔王の到来を祈願する、邪教じみた集団が新たに誕生した。

 特に迷惑をかけるでもなく、ビラくばりで仲間を増やしたり、魔王到来後の統治をやりやすくするための広報活動をしているだけだった。

 実際に魔王が実在するものだから、余計に厄介だった。

 

「素晴らしい戦いでした。私も最後のシーンは拍手喝采を禁じ得ませんでした」

 

 一緒に呑んでいた黒服が、先生と男にそう言った。

 先生は黒服を睨みつけた。恐らくこいつが意味深なことを言わなければ、ここまで大事にならずには済んだのかもしれなかったからだ。

 

「もう二度と、こんなことは勘弁だ。あいつらにも、肝心な時は一緒に連れて行ってくれないんですね、って大泣きされたんだぞ」

「“自業自得だ”」

 

 男はWolf小隊の面々に相当泣かれたようで、渋い顔をしていた。

 

「それにしても、人間を転生させるという仕組み。

 実に興味深いですね。神ゆえになせる御業と言うべきでしょうか」

「あっそうだ、メアリース様の恩寵を受けると、こんなことができるようになるんだよ」

 

 酔っぱらった男は、かくし芸を披露するノリでこう言った。

 

「ステータス画面、表示!!」

 

 すると、男の目の前にホログラムの画面のような何かが現れた。

 

「これぞ、メアリース様が人間を管理する為に、各個人に紐づけられた符号だよ。

 絶対メアリース様って、ゲーム脳だぜ、きっと」

「これは興味深い。

 名前や年齢、各個人情報が網羅されていますね」

「だからこそ、メアリース様に反抗する勢力は、奴隷の烙印だって言ってるらしいな」

 

 黒服は興味深く、男のステータス画面を覗き込む。

 過去の発言内容や、行動記録など、事細かく記載され、管理魔だと称された女神の性格が現れているようだった。

 

「“このタブは何だい?”」

 

 一緒に酔っぱらっている先生は、そのステータス画面がタブによって区分けされていることに気づき、無遠慮にそこに触れてしまった。

 

「あ、そこは」

「“これは、どういうことだい?”」

 

 そこにはこう書かれていた。

 

『●月×日。兜衣トリコ。ゲヘナ学園宿舎・午後九時』

『●月◇日。毒島ウズ。ゲヘナ自治区・午後八時半』

 

 それ以外にも、男がどこで誰と何時から体を重ねたのか、事細かく書かれていた。

 

「なるほど、衛生的観点から、性交の記録まで細かく記載されているのですね」

 

 黒服は研究者としての視点で、そう評したのだが。

 だが問題は、そこには先生の知る生徒も多数名前が記載されていた。

 

「“アップルマン”」

「あ、はい」

「“お説教だ。今日は寝かせないよ”」

「マスター。支払いはツケで」

「“逃がさないよ!!”」

 

 二人は店の外へと、不毛な追いかけっこを始めた。

 

 

「今回は非常に興味深い実験結果でした。

 これからもお二人には期待しておりますよ」

 

 くっくっく、と一人取り残された黒服は笑い、酒を煽った。

 

 

 

 

 

 




この度は私の書きたいお話にお付き合いいただきありがとうございました。

この埋め合わせはいつか、カヤちゃんに色々することを約束することで埋め合わせさせてください。もうオリジナル主体の中編は二度とやりません。

それでは次回以降、改めて幕間として主人公とこれまでの面々の日常回とかWolf小隊の残り二人の話をして、予定通りエデン条約編に入ろうと思います。

それではまた次回!!
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