※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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今回から、皆さまにとってはようやく本編に移行します!!
お待たせしました!!

それにしても、今回で40話目。
まだ初投稿からひと月半ぐらいしか経っていないのが信じられないですね!!



更なる幕間 束の間の平和
次なる布石


 

 

 

 

 ブラックマーケットの消失。

 

 それにより、先生の仕事は倍増した。

 ブラックマーケットを根城にしていた不良や元生徒が周辺に散逸したからである。

 

 

「先生~、起きてくださいよ♪」

 

 誰かの声に、ソファーで眠っていた先生は意識を覚醒させる。

 昨日は、いや今日は朝の四時まで仕事をしていたからだ。

 今日の当番は誰だっけ、と先生は声の方を向いた。

 

「やっぱり、朝のご奉仕が必要ですかぁ?」

 

 そこに、猫なで声の狼男がいた。

 

「“ぎゃあああぁあぁああああ!!!”」

 

 先生は悲鳴を上げた。

 しばらくトラウマになりそうな光景だった。

 

 そして、驚きのあまりソファーからずり落ちる。

 

「よう、先生。おはようさん」

「“なッ、なんで、あなたが!?”」

「急で悪いが、折り入って頼みがある」

 

 床でもがく先生に、男は真顔で言った。

 

「実はゲヘナの風紀委員会を追い出されてな、雇ってくれや」

 

 

 

 

 

 男の説明はこうだった。

 

 昨日、ゲヘナ風紀委員会の執務室にて。

 

「アコ、あまり根を詰めるな」

「ああ……すみません」

 

 うつらうつらとしていたアコに、男はコーヒーを差し出した。

 ブラックマーケットの不良たちが流入し、一時的に回復していたゲヘナの治安が悪化しているのだ。

 

 お陰で、ヒナを始めとして風紀委員会の面々は総動員だ。

 アコは夜通しで各所との連携に努めていた。

 

「ほれ、飲めって」

「はい……そうします」

 

 少なくとも一息を付くべきだと思ったアコは、何の疑問も抱かずに飲んだ。

 

 そして、急速に意識が落ちていく。

 

「…………」

 

 男はその姿を、黙って見ていた。

 

 

 

「はッ、しまった、眠ってしまいました!!」

 

 アコはがばっと机から起き上がった。

 

「今何時ッ」

 

 時間を確認しようとして、アコは気づいた。

 己の身体の違和感に。

 

「…………なにを、しているのですか?」

「ああ、その、すまん」

 

 男が後ろから、アコの胸を揉みしだいていたのである。

 そして心底申し訳なさそうに、こう言った。

 

「つい、魔が差した」

 

 アコの絶叫が、執務室を突き抜けて校舎中に響いた。

 

 

「本当に、本当に申し訳ない」

 

 男は幹部連中とヒナの前で土下座していた。

 

「最低です!! 信じられません!!」

「が、がが、学校でセクハラとか、信じられないぞ!!」

 

 チナツとイオリは顔を真っ赤にして男を責め立てた。

 

「つい出来心だったんだ。

 もしかしたら、アコみたいな下品な牛チチでも揉んでみれば興奮できるかもって」

 

 男は胸を庇ったまま涙目になっているアコに、更に深々と頭を下げた。

 

「────やっぱり、無理だった」

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

 

 直後、アコは言語化不明の叫び声で、恐らく罵倒らしき何かを男に浴びせかけた。

 

「……どのような沙汰でも受ける。委員長」

 

 これにはヒナも頭が痛そうだった。

 

「……もうちょっと、何とかならなかったの?」

「これが手っ取り早いかと」

「…………わかったわ」

 

 ヒナは溜息を吐いた。

 

「現時刻を以て、特別顧問官の職位を剥奪。

 即刻ゲヘナの敷地内から出ていきなさい」

 

 ヒナのあまりにも重い沙汰に、怒っていたはずの幹部三人が眼を見開いて彼女を見た。

 要するに、クビである。

 

「謹んで、受け入れさせてもらいます」

 

 男は土下座のまま、ヒナの言葉を受け入れた。

 

 即時、男の解雇は校舎の掲示板に張り出された。

 男はその身一つで、ゲヘナを後にした。

 

 

 

 

「と、言うわけだ」

「“……”」

 

 先生はその話の一部始終に、いろいろと言いたいことはあった。

 だから、一番聞きたいことを質問した。

 

「“今、Wolf小隊はどこにいる?”」

「トリコとウズは潜入任務だ。

 ムツニとナバトは下で待機中。そう言えば、明日と明後日の当番はあの二人だったな。よろしく頼むぜ」

 

 男はすぐに質問に答えた。

 

「“何が目的なのかな?”」

「だから、クビになったから雇ってくれよ。

 そう言ってるじゃないか。俺の何が信用できない?」

「“君が胸の大きな女性に手を出そうとしたことそのもの”」

 

 先生は真っ直ぐと男を見ていた。

 対して、男はへらへらと笑っていた。

 

 お互いに、沈黙が降りた。

 

 そして。

 

「“……わかった。君を信じるよ”」

「ああ、悪いな。恩に着る」

「“後で、もう一度アコに謝るんだよ”」

 

 わかってるって、と男は肩を竦めてそう言った。

 

「とりあえず、シャーレの業務について教えてくれや」

 

 そして、十数分後。

 

 

「お前、いい加減にしろよ」

 

 先生が床に正座させられていた。

 

「あんたはトップだ。忙しいのは仕方がない。

 だけど、業務改善の形跡がないってのはどういうことだ!!

 ああそうだとも、あんたは教師で、校長じゃない。教師と経営者は違うわな!!

 だがなぜ、恒常的な事務員とかを誰も雇わない!!」

「“い、一応当番と言う形で生徒たちを……”」

「能力も適正もバラバラの生徒どもを、勘定にいれるんじゃねぇよ!!」

 

 男は激怒していた。

 こんなワンマン状態で、仕事が終わるわけもない。

 

「仕事ってのはな、常に一定の成果を収めることを言うんだよ!!

 てめぇはラーメン屋に行って同じメニューを頼んで、毎回違う味だったらどう思う!?

 必ず一定の成果を示す、それが信頼なんだよ!!」

「“はい……”」

 

 男の剣幕に、先生はすっかり縮こまっていた。

 

「はあ、こんな時にウズが居ればな。

 とりあえず、シャーレのオフィスに常駐できる人員を確保するしかないか」

「“当てはあるのかい?”」

「無くてもどうにかするんだよ。このままじゃそのうち連邦生徒会は過労死で記者会見をする羽目になる」

 

 男はスマホで、どこかにメールを打ち始めた。

 

「俺の立場は、連邦生徒会には非常勤講師ってことにして説明しておけ。俺はあんたの忠実な部下で、これまでの経歴から俺を雇った。バックストーリーはそんなもんでいいよな?」

「“じゃあそう言うことにしておくよ”」

 

 先生も先生で連邦生徒会に従業員の登録を頼む為に連絡を入れた。

 

「まったく、あの時の約束がこんな形で先取りしちまうとはな」

「“あの時の約束?”」

「覚えてないならいい」

 

 男は溜息を吐いた。

 

 そして、今日一日の先生は男に引きずりまわされることになる。

 

 

 

 D.U.某所。

 

 二人はある企業の上層部にアポを取った。

 

「どうも、私はスマイルリクルートのCEOのゴリアテと申します」

「これはご丁寧にどうも」

「“どうぞ、名刺です”」

 

 待合室に待たされた二人の対応に出たのは、なんと社長だった。

 三者はお互いに名刺を渡す。

 

「先生のご活躍は弊社でも注目いたします。

 我が社は人材派遣会社としてキヴォトスでも最大手の一つと自負しております。

 すぐにでも、先生のご要望にお応えできる人材をご用意できます」

「“御社は退学になった生徒に職業訓練を施し、さまざまな企業に派遣していると伺いました”」

「はい、企業の本質は社会貢献です故に。

 我が社の社員は働き者だと、派遣先で実に好評です」

「らしいな。借金で雁字搦めにして、それを盾に働かせてるんだものな」

 

 ロボットの社長の目が、ちかりと光る。

 

「……それは誤解でございます。

 我が社としては、優秀な人材の採用の際に、借金の有無などを調査いたします。

 その過程で、その借金が返済可能だと判断されれば、我が社が肩代わりする。社員たちも、借金取りに怯えずに気持ちよく仕事に専念できる。福利厚生の一種だとお考え下さい」

「物は言いようだな」

 

 社長の言葉を、男は鼻で笑った。

 

「“最近連邦生徒会も危険視している新興のカルト宗教に、御社が出資していると聞いた。これがその資料だ”」

「拝見させてもらっても?」

 

 どうぞ、と先生はゴリアテ社長に資料を提出した。

 

「驚きました。まさかもう我々の尻尾を掴んでおられるとは」

「以前からあんたの会社の後ろ暗い話はよく聞いていた。

 犯罪の共犯や汚れ仕事に企業スパイ、借金の肩に何でもやらせるとな」

 

 男が笑って指摘するが、社長は動じない。

 その時だった。

 

 ばたん、と応接室のドアが蹴り上げられた。

 

「社長!! こいつら、口封じで良いんですよね!!」

「ここまで知られて、生きて帰れるとおもうな!!」

 

 武装した社員たちが突入してきたのだ。

 だが、それと同時に、ビルの屋上からムツニとナバトがロープで降下し、銃を構えたまま窓から狙いを定めた。

 

「止めなさい。商談中です、お客様の前ですよ」

「だけど!!」

「彼らを始末しても、帰ってこないと疑問に思った者が探しに来るだけです」

 

 社長はまるで動じていない。大物だ、と先生は思った。

 

「それで、我が社に何を求めておられるのですか?」

「“業務提携をしたい”」

「ほう」

 

 社長の顔のディスプレイが、笑みの顔文字になった。

 

「“不正から足を洗ってもらう代わりに、これまでのことは見逃す。

 そして、御社の指導力で身寄りのない元生徒たちを救ってほしい”」

「そんなことをして、我々に何の得があると?」

「少なくとも、今すぐ損はしない」

 

 男の脅しに、社員たちの引き金に掛かる指が強くなる。

 

「“受け入れた社員はシャーレの部員としても扱い、無体に扱う者も減る。

 望むなら新アビドスへ優先的に編入できるようにもする。

 企業の本質は社会貢献、でしたよね?”」

「……まあ、良いでしょう」

 

 社長はどこぞの怪人みたいに、顔の前で腕を組んだ。

 

「ブラックマーケットが無くなったおかげで、我々も新しい事業形態を模索していた最中です。

 我が社の社員が高名なシャーレで活躍するとなれば、スポンサーが数多くつくことでしょう」

「この前みたいに、あたしにエロいことしたクソ野郎のところから社長が引き戻してくれるのも楽になるな!!」

「余計なことは言わなくてもよろしい」

 

 社員の茶々を嗜め、社長は立ち上がって手を差し出した。

 

「商談成立ですね」

 

 二人は順番に社長と握手をした。

 

「とりあえず、事務仕事が得意な人材を何人か頼むわ」

「かしこまりました。我が社の社員は働き者ですよ」

 

 実情を知る二人には皮肉にしか聞こえなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

「ふん、ゴリアテの野郎を手懐けたのか。

 こっちも警備会社でも立ち上げて、職を失ったマーケットガードどもを受け入れてやろうと思ってたところだ。

 お互いに持ちつ持たれつでやろうや」

 

 社長の紹介で、ヤクザの組長と面会し、先ほどと似たような約束を取り付けた。

 彼らも新興のカルト宗教と繋がりが有り、それを牽制する意味合いもあった。

 

 そして、帰りの道中。

 

「“そろそろ、どうして風紀委員会を辞めて来たのか教えてくれてもいいんじゃないかな?”」

「だから、クビになったんだって」

 

 ナバトが運転士、助手席にムツニが乗る車の後部座席で、大人二人は仲良く隣同士に座っていた。

 

「“本当に?”」

「逆に聞くが、目の前にアコのデカチチがぶら下がってたらどうする? とりあえず揉んでみるよな? 好みじゃなくても」

「“い、言いたいことは分かるとだけ……”」

「あの廃熱口みたいな脇から手を突っ込んで直に揉まなかっただけ理性的だったと思ってほしいくらいだぜ」

 

 凄まじい論点のすり替えを見た、と先生は思った。

 

「あーほら、近々ゲヘナとトリニティの軍事同盟が締結されるって聞いているか?」

「“私は平和条約だと聞いた”」

「……まあ、どっちでもいいさ」

 

 男はドアに体を預け、過ぎ去る景色を見ながらそう言った。

 

「俺はちょっとやり過ぎたみたいでな。

 両方の学園のパワーバランス的なアレの為に、表向きは追放されたってことよ」

「“それだけでは説明が付かない”」

「ほう?」

「“ヒナは君たちに何をさせようとしているんだ?”」

 

 その言葉に男は笑った。

 それが分からないほど愚鈍でなくてよかった、とでも言いたげに。

 

「ゲヘナを離れても、俺達は彼女に身を捧げている。

 アルには言ったが、俺は無一文になっても転がる先は女のところだけだ。

 しばらくは、お互いに利用し合おうや」

「“……わかった。少なくとも、君が敵に回らないだけマシとしよう”」

 

 先生も予感があった。

 二つの大きな学校のいざこざに、何も面倒ごとが起きないわけがない、と。

 そして、その対処に自分が追われるだろうことも。

 それに、何も知らないまま関わって、この男を相手に立ち回るのは厄介極まりない。

 

 ならば、懐に入れた方がマシだ。

 

「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け。

 俺の“お友達”が好きな映画の言葉だ」

「“……”」

「都合が悪くなったら、容赦なく切り捨てていい。

 お前は何も知らなかった。全て俺の責任で良い」

「“私は、そこまで恥知らずじゃないよ”」

「優先順位の問題だ」

 

 男は甘っちょろい若造に、諭すように言った。

 

「これは我が麗しのヒナにも言ったが、組織ってのは代替可能な個人の集合体でなければならない。

 だがそれが不可能なら、替えの利かない人物を優先するべきだ。

 俺とお前、どちらが替えの利かないか明白だろう」

「……」

「……」

 

 先生は、バックミラーに映る前の二人の表情が変わったのが見えた。

 

「“替えの利く人間なんて、どこにもいない”」

「ああそうだな。それは真理だ。

 だがもっと正確な言葉がある。替えの利く人間なんていない、ただ上位互換が沢山いるだけ、とな」

 

 相変わらず、男の主張を先生は気に入らなかった。

 

「俺より良い男なんざ、この世にいくらでもいる」

「“それは、あまりにも寂しい意見だ”」

「俺は俺で好きにやってるから良いんだよ」

 

 それについては違いない、と先生は思った。

 そして、そんな会話をしているうちに、シャーレのオフィスビルに到着した。

 

「おっと、コンビニに寄るから先に行っててくれ」

「“さっきはどうやって入ったか知らないけど、今まだ君にカードキーは無い筈だろ?”」

「ああ、そうだったな。すぐ済ます」

 

 男は三人を待たせ、オフィスビルのテナントに入っているコンビニに入った。

 

「げへへ、お嬢ちゃん。コンドームくれないか?」

「えッ!?」

 

 好みの店員の女の子に狙いを付けた男を、先生は後ろからその背をしばいたのだった。

 

 

 それからしばらくの間、シャーレのオフィスビルの居住エリアに男は住み着くことになるのだが。

 

「おーい、お前ら。夜食作ったぞ」

「わーい!!」

「丁度お腹空いてたんだー!!」

 

 男と同じく派遣社員たちも住み込みで働いており、男は多少大雑把な腕前だが自炊経験があったので夜食を度々作って持って行ったりしていた。

 

「“いやぁ、助かるよ”」

 

 男料理なので濃い味付けだが、先生は割とその方が好みだった。

 

 そんな感じで相対的に当番の価値が低くなり、その上女子力まで負けていると、男を恨んだりしたりしなかったりする生徒が多数発生したとか。

 

 

「先生、当番の時間が終わったらご一緒にお出かけでも……」

「“あ、ゴメン。今日は先約があって”」

「おーい先生、店は予約しておいたぜ、早く飲みに行こうや」

「…………」

 

 真面目に男を排除しようと思う生徒も、居たとか居なかったとか。

 

 

 

 




前書きではああいいましたが、次とその次はオリキャラの絆ストーリーって言うね。

まあそれが終わったらエデン条約編になりますので、是非お楽しみに!!
それではまた、次回!!
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