※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

46 / 121
何とか、今日中に書き上げたぞ!!



危険なお遊び

 

 

 

 合宿初日の夜。

 

「ムツニとナバトには合宿所の建物から脱する人間を監視させている。

 ついでにヴェリタス特製の通信傍受装置も持たせてある。

 夜中は交代で見張る手はずだ」

 

 先生と同室の男は、そう説明した。

 

「相手が動きやすいように、トリコには監督生が一緒だと気が休めないだろうと、ウズもトリコと同室が良いという理由で四人とは別室で寝ることにさせている」

「“抜かり無いな”」

「依頼主を納得させる材料も必要だからな」

「必要とあらば改ざんして資料を提出し、報告いたします」

 

 丁度、トリコも昼間の四人の行動に不審が無いか報告に来ていた。

 監督生が教師と一緒に居ても、別に幾らでも言い訳はできる。

 

「“それで、特段怪しい所は無いと”」

「ええ、動くなら夜でしょう」

 

 先生は報告を受けて、トリコに確認する。

 彼女も頷き、そう答えた。

 

 その時である。

 こんこん、と教員の寝室のドアをノックする音が聞こえたのは。

 

「“どうぞ、入って”」

「あ、えと、失礼します……」

 

 先生が入室を促すと、入って来たのはヒフミだった。

 

「その、夜中にすみません……」

 

 しかし、彼女はトリコを気にしたようにちらちら見ていた。

 

「“大丈夫、彼女とウズはこちら側だ”」

「あ、ならよかった……」

 

 なにより先ず、疑う必要が無くて良かったという言葉が出るのが彼女の善性なのだろう。

 

「先生方は、私を疑っては無いんですよね?」

「“ヒフミも、ナギサから言われているんだろう”」

「ええ、はい」

 

 ヒフミは頷いた。

 

「あなたの学校生活や素行は調査済みです。

 少々奇行が目立ちますが、特に問題は見られません」

「き、奇行……」

 

 トリコの報告に、ヒフミは若干ショックを受けたようだった。

 

「ここまで入念に準備されているということは、やっぱり先生方もご存じなんですね」

 

 三次試験まで不合格だと、全員退学だ、と。

 彼女以外の全員が頷いた。

 

「まだ誰にも言ってませんが、そもそも言って良い事なのかどうかも分からなくて……」

 

 ヒフミの心労は先生も痛いほど理解できた。

 まだ他の三人は、自分たちが退学の危機であると知らないのだ。

 学力と言う個人の問題なのに、連帯責任にされるという理不尽にも彼女は納得いっていない様子だった。

 

「“ヒフミ、他にもナギサから何か言われたりした……?”」

 

 先生の問いにヒフミはうろたえたが、自分の手に負えるような状況ではないので、と話してくれた。

 

 自分が補習授業部の部長に選ばれたのは、シャーレの先生と面識があるから。

 裏切り者を探し出して、見つからなければヒフミも退学の憂き目に遭うということを。

 

「あんた、ゴミ箱の蓋だとよ、先生!!」

「“じゃあ君はさしずめ清掃人ってところかな”」

 

 けらけら笑う男に気分を害した様子もなく、先生がそう返した。

 

「正直なところ、ゲヘナの連中の言う通りだったな。

 トリニティの連中は笑顔の下で何を考えているのか分からない気持ち悪い奴ら、とな。

 伊達に長い間敵対してるだけあって、よく見ている」

「“そう言う言い方は良くない”」

「なら、指導すれば良いだろ、“先生”」

 

 やれやれ、と先生は男の嫌味に顔を振った。

 

「正直あの政治家のお嬢ちゃんは、好みのタイプだったんだけどな。笑顔の下で裏切ってこっちを始末しようとしてきそうなところとかたまらない。

 だが、関係無い奴まで巻き込む腹積もりだとはな」

 

 彼女を身内だと分かっていながら、扱いは裏切り者と同じ。

 その時点で、割と男の許容範囲を逸脱していた。

 

「知らないんだろうなぁ、あのお嬢ちゃん。

 ……俺がいつも依頼主を裏切るような傭兵だってことを」

 

 ニタニタ笑う男の様子に、先生は溜息を吐いた。

 それはいつも裏切ってくるような相手を依頼主にしてるんじゃないのか、と言いたげだった。

 

「“そのくらいにしておいてくれ、ヒフミが怖がってる”」

「おっと、失礼。だが安心しろ、ヒフミお嬢ちゃん。

 その脚線美に免じて、ナギサとは必ず話を付けてやる」

「あうう、お願いします」

 

 昼間と同じようなジャージ姿のヒフミは、恥じらうように太ももを手で隠した。

 

「それに、皆はもう寝食を共にした仲間じゃないですか。

 裏切り者を探れだなんて、そんな……」

「“ヒフミは優しいね……”」

「え、ええ!?」

「出たよたらしが」

 

 先生の言動に苦笑しつつ、男は無線に目を落とす。

 丁度その時、無線が音声を発した。

 

『こちらWolf3、夜の校内に動き有り。“軍鶏”と“ブーケ”です。“棋士”はそちらで?』

「ああ。“子猫”はどうだ?」

『収音装置で確認したところ、ぐっすり眠っています』

「了解、引き続き監視を継続しろ」

『了解です、Wolf2に追跡させますか?』

「余計なリスクを負う必要は無い。Wolf2には寝てろと伝えろ」

『了解、オーバー』

 

 そこで通信は終わった。

 

「そう言うわけだから、お前も安心して寝てろ」

「無理言わないでください!!」

 

 自分たちが徹底的に監視されていると知り、そう叫ぶヒフミだった。

 結局、彼女は夜遅くまで先生と翌日の準備をすることにした。

 

 

 ちなみに。

 

「“ところで、他の子は分かるけど、なんでヒフミが棋士なんだ?”」

「私、囲碁はできませんよ」

「おいおい、ヒフミっつったら将棋だろ。ペルソナ5的に」

 

 そんな会話があったとかなかったとか。

 

 

 

 §§§

 

 

 そして翌日、ヒフミが模擬試験の開催を宣言。

 各々の学習状況を把握する為に、取り組むことになった。

 

 部長として、ヒフミが出来ることはするべきだと決めたことだった。

 それに先生とトリコが手伝い、夜なべして作った模擬試験が配られる。

 

「毎日毎日いろんな学校の苦情や陳情を聞いて、生徒を引き連れて問題解決をしてる先生が珍しく教師の仕事をした一品だ。

 俺もそれを汲もうと思う」

「あんたは何してたのよ」

「横でエロ本読んでた」

「存在がエッチ!! 死すべき邪悪!!」

「そう言うわけだから、60点以下は楽しい楽しい訓練の走り込みのノルマ二倍だ」

 

 男は笑みを浮かべたままそんなことを言うので、コハルの顔が引きつった。

 

「待ってほしい」

「どうした、アズサ」

「今回の特別訓練は全体責任。

 つまり、ひとりでも基準に満たない者が居れば、その責を全員で負うべきだ」

「良い度胸だ。よく言った!! あとで連邦生徒会長をファックして良い」

 

 失踪中だよ、と先生は呟いた。なぜかシッテムの箱がガタガタと抗議していた。

 

「では、模擬試験開始です」

 

 トリコが教壇の前に立ち、宣言する。

 そして、第一次補習授業部模試が始まった。

 

 

 その結果を、先生は採点する。

 何やら、採点に難儀しているようだった。

 男はそれを横から覗き込んで、その理由を察した。

 

「では先生、結果発表をお願いします」

「“わかった、発表します”」

 

 採点結果。

 

 ヒフミ:68点。結果──合格。

 アズサ:33点。結果──不合格。

 コハル:15点。結果──不合格。

 ハナコ: 4点。結果──不合格。

 ウズキ:50点。結果──不合格。

 

 

 全員、こんなものか、と言うような表情になった。

 前回の一次試験から特別に勉強をこなしたわけでもない。

 当然の結果と言えるだろう。

 

 ヒフミが全員を鼓舞する。

 コハルとアズサは一年生用の勉強を、ヒフミとハナコで面倒を見ることにする、と。

 

「大丈夫ですよね、ハナコちゃん!!

 こんな点数ですけど、実質ほぼ百点みたいなものですから!!」

 

 必死になってヒフミがハナコの答案用紙を指差す。

 その回答は、そのほぼ全てが誤字で誤答になっていた。

 

 数学なら「1」が「7」だったり、英語なら「D」が「O」になっていたり、絶妙に回答者の書き方の癖と言われたらそうにしか見えない回答だった。

 これでは先生も採点に難儀するわけである。

 

 そんな露骨な悪意ある回答を見ても、ヒフミはそれを悪く受け取らなかった。

 そして、一緒に頑張ろうと声を掛ける。

 

「ウズちゃんも、分からないところがあったらみんなに尋ねてください!!」

「ええ、お願いします」

 

 今度のウズの回答は、正解不正解が完全にランダムで丁度50点。

 間違い用の無いような簡単な問題は外さない小賢しさがあった。

 

「それじゃあ、皆。装備を持って体操着に着替えて外に集合だ。

 訓練の基礎の基礎、行軍練習と行こうじゃないか」

 

 男の言葉に、アズサ以外の補習授業部の面々は顔が青くなる。

 行軍練習。それは何十キロもある全身フル装備のままで、ひたすらに走り込みを行うという過酷な訓練だ。

 

「わかった、行軍練習だな」

「ごほごほッ、私も参加したいのは山々ですが……」

 

 アズサは表情一つ変えずに席から立ち上がり、ウズは嫌そうな態度を隠さず咳き込む演技をした。

 

 気にしないでください、とウズに声を掛けるヒフミの声は震えていた。

 

 そして始まる、地獄の行軍練習。

 

 全員アサルトライフルを抱えたまま、重りの入ったリュックを背負って、銃弾を体に装備したままグラウンドを走り回っていた。

 総重量25㎏、戦国武将の甲冑を着たまま走るようなものである。

 

 その上。

 

「おらハナコ、てめえは他の連中より無駄な重りを付けてんだから気合入れて走れ!! ケツを揺らせば男を誘えると思うなよ!!」

「は、はい!!」

「コハルッ、お前は鶏がらみたいな貧相な身体してんだからもっと速く走って筋力を付けろ!!

 遅れたらお湯をぶっかけて鶏がらスープにしてやろうか!!」

「ひ──!!」

 

 同じ装備を担いでいる男が、五人の真横で怒鳴り散らしていた。

 そして、ちょっとでも遅れると。

 

「あ、足が、もつれ」

 

 ヒフミがこけそうになり、隊列から少し遅れた。

 すると。

 

「ぎゃいん!?」

 

 乙女が発してはいけない声を出すヒフミ。

 彼女の脇腹にゴム弾が命中したからだ。

 

「なにやってんだヒフミ、酔っ払いの千鳥足か、ああ!!」

「す、すみません!!」

「学生の分際で飲酒とは良い度胸だ。酔い覚ましにもう一発くれてやろうか!!」

「ひえぇぇ!!」

 

 涙目になってヒフミはペースを上げる。

 

「はっはっは……」

 

 そんな中で、アズサは遅れることなく一定のペースを守っている。

 その少し後ろに、自主的に参加を申し出たトリコが追従する。

 

「流石だなアズサ、後ろの鶏がらどもやフライドチキンと違ってよく訓練されている」

「はっはっは、ありがとうございます、教官」

「だが一番前に出るってことは、一番狙われやすいってことだ」

「ッ!?」

 

 アズサに弾倉全ての弾丸が襲う。

 たまらずもんどりうって転ぶアズサ。

 

「ひ、酷すぎる、鬼、悪魔ぁ!!」

「おっと、今の大声で敵に位置がバレてしまったぞ、コハル」

「ひえッ」

 

 銃声と悲鳴が絶えずに響く、地獄のグラウンド周回走。

 それをグラウンドの校舎側の木の陰で、夏の日差しを避けている先生と見学のウズが見ていた。

 

「“アビドスの子たちから聞いてはいたけど、想像以上に容赦ない……”」

「あれくらい、まだ優しい方ですよ」

「“えッ”」

「私達は山の中であれを半日近くやらされました。

 川の中でも、木の上でも、泥の中でも、ずっと追われ続けました」

 

 ウズは遠い目になっていた。

 

「おかげで山岳兵まがいの事もできるようになったんですよ、ふっふふふ……」

「“が、頑張ったんだね……”」

「あの頃はまともにお風呂も入れなかったから地獄でした……」

「“お風呂、沸かしておくね”」

「そうしてあげてください」

 

 先生はその場を後にして、昨日清掃しておいた大浴場にお湯を張りに行った。

 

 

 

 §§§

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムの音が鳴った。

 

「よし、お前らのきたねぇケツ穴にゴムを付けた逸物でパンパン撃ちつける時間は終わりだ!!

 各員風呂にでも入ってありがたい勉強に励め!!」

 

 くたくたになってグラウンドに力尽きている補習授業部の面々に、男は言葉を掛けた。

 

「ふ、ふだんなら、この三倍は走れるのに……」

「正義実現委員会の訓練の何倍も酷いわ……」

 

 アズサとコハルが泣き言を言う。

 普段鍛えている彼女達でもこの有様だった。

 

「皆さん、はあ、はあ、模試の度にこの訓練があります、各々力をあわせて、はあはあ、がんばり、ごほッごほッ」

「ヒフミちゃん、あまり無理をしないでください……」

 

 息切れするあまり咳き込むヒフミを労わるハナコ。

 

「はあ、はあ、皆さん。先生がお風呂を沸かしてくれたそうです。入りに行きましょう」

 

 いち早く立ち直ったトリコが、先生からそのことを聞いて戻ってきた。

 

「賛成です」

「やったー、お風呂だー!!」

 

 ヒフミとコハルはそれに喜んだが。

 

 

 

「アズサちゃん、カメラの類は?」

「無い。隅から隅まで確認した」

 

 大浴場の脱衣所で、ハナコがアズサに確認した。

 彼女は着替えようとする面々に、待ったをかけたのだ。

 

「覗きは?」

「ほぼ不可能。覗き穴の類も見つからない」

「おかしいですね」

「おかしいのはあんたよ」

 

 コハルがハナコにツッコミを入れた。

 

「私が彼なら、絶対にこのタイミングで覗きをします。

 むしろ、覗いてやるから見破ってみろ、そういう挑戦だと思っています」

「か、考え過ぎじゃ……」

 

 先生も居ますし、とヒフミもコハルに消極的に賛成する。

 

「天井は?」

「確認済みだ。ヒトが入れる隙間は無い」

「うーん、どうしたものでしょう」

 

 ハナコの知性、いや痴性が警鐘を鳴らす。

 このまま風呂に入ったら、負ける。そんな予感だ。

 

「そこまで言うのなら、シャワーにしますか?」

 

 お湯を沸かしてくれた先生には悪いですけど、とトリコが言った。

 

「わ、私は早くお風呂に入りたいんですけど……」

 

 そして、ウズはブレなかった。食い入るようにみんなの姿を目に焼き付けようとしていた。

 

「ハナコ、気持ちは分かるが、覗きは不可能だ。

 勉強の時間も限られているし、早く入ろう」

「……そうですね、わかりました」

 

 アズサにそう言われ、後ろ髪引かれる思いでありながらもハナコは頷いた。

 

 実際、誰の怪しい視線も感じなかった。

 

 結局六人はそのままお風呂に入って、そのまま教室で勉強することにした。

 

 ヒフミが勉強を頑張ったらモモフレンズグッズをプレゼントすると言い出したり、コハルがエロ本を持ってきてしまい男がそれを庇ったりしたり、とお風呂場での違和感は忘却の彼方へと消えていった。

 

 

 

 そして、その日の夜。

 

「さて先生、合宿のお決まりのイベントとは何だと思う?」

「“うーん、みんなでトランプ?”」

「バーカ、覗きに決まってんだろ」

 

 バカはどっちだ、と先生は即座にツッコミを入れた。

 

「“そんな中学生じゃないんだから……”」

 

 覗く気満々の男に、先生は苦言を呈す。

 

「“私の生徒たちのお風呂を覗くなんて、私が許すと思う?”」

「くくく……」

 

 眉を顰める先生。

 しかし、なぜか男は笑っていた。

 先生は猛烈に嫌な予感があった。

 

「“わ、私は付き合わないからね”」

「だが、あんたはこれを見た瞬間に、同罪になる」

 

 男はA4サイズの茶封筒を取り出した。

 

「“……それは、なに?”」

「あの風呂場は覗きに向かない。

 外は壁で侵入が難しく、構造的に穴を開けるのも難しい。

 カメラの類を仕掛けるのも、アズサが居る以上現実的ではないだろう」

「“じゃあ、どうやって?”」

「俺には優秀な手足が居るのだ」

 

 その言葉で、先生はすぐに理解した。

 

「“トリコやウズに盗撮をさせたのか!?”」

「馬鹿め、そんな分かりやすいことさせるか。

 先生、潜入工作員の仕事の最中は、必ずしもカメラの類が使用できるとも限らない。

 ならば、どうやって状況を保存するか?」

 

 男の言葉に、まさか、と先生は戦慄した。

 男は、ニヤリと笑う。

 

「そう、ウズは写生が得意なのだよ」

 

 得意と言うよりは、必要に応じて習得した技能と言うべきか。

 

「ここには、生徒たちのあられもない姿が克明に書き写されているのだ!!」

「“そ、それを渡すんだ!!”」

「勘違いしないでほしいな、先生。俺は彼女達を盗撮したり、ましてや覗いていたりしていない」

「“法律はよく知らないけど、プライバシーの侵害や倫理的にアウトなのは分かる!!”」

「見た後にこれを燃やせば、誰がその罪を問えるというんだ?」

 

 男は戦利品を掲げるように、茶封筒から中身を取り出した。

 先生は咄嗟に目を逸らした。

 

 

「……なん、だと!?」

 

 男の手から、封筒の中身が零れ落ちる。

 そこには確かに、生徒たちの裸が描かれていた。

 

 ただ、肝心な胸部や局部などは、謎の靄で包まれていて、セミヌードみたいな状態だった。

 

「これはこれで……。いや、どういうことだ、ウズ!!」

「ふふふ……」

「その声は、ハナコ!?」

 

 二人の寝室のドアを開け、スクール水着を来たハナコが入ってきた。

 その腕の中には、ウズが抱きかかえられて彼女の豊満な横乳に顔を埋めていた。

 

「ごめんなさい、ボス。ハナコお姉様にバレちゃいました……」

「この、俺が、負けたというのか!?」

「“君たちはいったいなんの勝負をしているんだ……”」

 

 床に両手を付いてすごく悔しがっている男と、勝利の笑みを浮かべているハナコに、先生はツッコミを入れる。

 

「隠しカメラも覗き穴も無い、でもあなたが覗きを諦めるとは思えない。

 そこで、思い出したんです。盗撮って意外と、女性の協力者が多いって話を。まさか絵に描き起こすなんて手段を取るとは、私も予想外でした。その点は感服しました」

「なぜ、俺とウズが繋がっていると気づいた……」

「実は私、少し前に事情があって、トリニティ内の病院で安全を確保できる場所を探していたんです。

 勿論、そこに入院しているトリニティ生も調べました。だから、初めから毒島ウズキなる女生徒がトリニティに居ないことは知っていたんです」

 

 バカな、と男はがくりと頭を垂らした。

 運が悪かった。二人の明暗を分けたのはそれだった。

 

「あと、ウズちゃんとリコちゃんの制服、妙に新品っぽかったかなって。

 片方だけなら偶然でも、二人ともそうですと気になってしまいます。だから、資料庫の整理係にリコちゃんが居ないことも調べが付きました。

 だからこの二人は、何らかの協力関係にあると推察できます。そんな二人と接触が多いのは先生か、あなた。それで覗きをしそうな方は、となると、最後は消去法ですね♡」

「申し訳ありません、ボス。依頼人に支給されたのをそのまま使用してしまいました」

 

 いつの間にか室内に現れたトリコが、頭を下げる。

 

「“完敗だね……”」

 

 ここまで清々しい敗北だと、先生も同情してしまうほどであった。

 

「ところで、私にも教えてもらえませんか?

 先生たち四人が、ここで何を企んでいたか♡

 教えてくれないと、このことを他の皆にも喋ってしまうかもしれませんね」

「“うぐ……”」

 

 ハナコが裏切る者である可能性は低い。

 だが、情報と言うのは取り扱いが難しい。

 知っている者が少ない方が、リスクが少ないのは事実である。

 

 先生が彼女に真実を言うべきか、迷っていると。

 

「ウズ」

 

 トリコが、ハナコの腕の中でメロメロになっているウズに声を掛けた。

 

「はッ、はい、何ですか、トリコ姉さん!!」

「どうして、作戦が失敗した段階で、報告しなかったの?」

「えッ、だってこれ、覗きですよ?」

「そう、わかったわ」

 

 トリコはおもむろに使用されていない枕を手に取ると、二人に近づいてそれをウズに押し付けた。

 

 ハナコは気づいたが、動けなかった。

 枕の間に銃が挟まって、ぼんぼん、と枕の中で発砲されたのを。

 

「かはッ!?」

 

 ほぼ密着状態でショットガンの弾丸を浴びたウズは、胃の中身を吐き出してくの字になって倒れた。

 絶句する、ハナコと先生。

 銃声は枕に吸収され、室内には響かなかった。

 千切れた枕から、羽根吹雪が室内に舞い散る。

 

「ウズ、いつから貴方は、作戦の正当性を己で判断する立場になったの?

 今回の任務を、身体の特定部位に特徴のある相手を探す目的だとは、思わなかったの?」

「ごッ、ごべん、なざい……」

「ボスが間違えるなら、私達も間違える。そう誓ったはずよね?」

 

 トリコは床で身もだえるウズの髪の毛を掴むと、男の目の前に引きずって跪かせた。

 

「私が学園に在籍していた時、私の単独潜入任務に貴女は異を唱えた。兵士の分際で、上官に異を唱えた。

 だからそれを繰り返したあなたは学園の心証を悪くし、落ちこぼれた。

 ええ、あなたは優秀な私の妹分。だけど、その頭は自分で考えて動くためにあるわけじゃない!!」

 

 それどころか、と言ってトリコは愛する妹分の額に銃を突き付けた。

 トリコは、とても恋人に向ける表情ではなかった。

 

「我らに全てを与えてくれた、ボスを裏切った。

 こうしてお前のミスが、任務失敗に繋がろうとしている。

 お前は我らの誇りどころか、恩人の顔に泥を塗った!!

 ──死んで詫びろ。私もすぐ逝く」

「は、はぃ……」

 

 震える手で、ウズはトリコのショットガンを手に取り、口に咥えた。

 だが、そっとそれを外した。

 

「ボス、毒薬を、取って……機密は、墓場へもって……」

 

 銃じゃ確実に死ねないと思ったのか、ウズは涙声でそう訴えた。

 誰も、その壮絶な覚悟に動けなかった。

 

「……はあ、もう良い」

「しかし、ボス」

「俺が悪かった。こんなことで俺は右腕を失うつもりはない」

「わかりました」

 

 トリコはウズから手を放した。

 しくしく、とウズのすすり泣く声が室内に響く。

 

「何も見なかったことにして失せろ。

 これ以上問い詰めるなら──」

 

 即座に、トリコと泣いていた筈のウズがぐしゃぐしゃの顔のまま武器をハナコに向けた。

 

「残念だが、今夜は大騒ぎになる」

 

 男は溜息を吐いて、どこか惜しむようにハナコに言った。

 

「“……やめるんだ、二人とも”」

 

 我に返った先生が、ハナコと二人の間に立つ。

 

「“これ以上は失態が、大失態になる。違うかな?”」

「……ああ、そうだな。お前ら、銃を下ろせ」

 

 男の指示に従い、二人は銃を下ろした。

 

「事情を、説明してくれるんですね?」

「“少なくとも、私はハナコを信じているからね”」

 

 ハナコが先生から視線を逸らし、三人を見る。

 男はウズをベッドの上で抱きしめ、泣いている彼女を幼子のようにあやしていた。

 

「お前って意外と朴念仁だよな、トリコが独占欲が強いって分かってただろうに。あんなデカチチに目を奪われよってからに」

「……」

 

 男の横にトリコは座り、むすりとしていた。

 

「……どうやら私は招かれざる存在のようですね」

「“ごめんね、私達にもピリピリする事情があるんだ”」

 

 そうして、先生は話し始めた。

 

 合宿二日目の夜は、まだ長くなりそうだった。

 

 

 

 

 




RTAポイント、二日目でハナコを仲間に引き入れる。
だから二日目に覗きイベントを起こす。必要があったんですね。

主人公とWolf小隊は各々小さなミスをしてましたが、一番悪いのは、ハナコという相手が悪かったということですね。

次回、ターニングポイント。の予定!!
ではまた次回!!

Wolf小隊が実装されるなら誰がほしい? 或いどのキャラが好き?

  • 生真面目なトリコ
  • 舌打ちをしてくれるウズ
  • サイコな毒女のムツニ
  • 正義の暴走車両なナバト
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。