連続更新が出来ない?
なら一日二回更新すればいいじゃない。
今回の話は、私の書く作品ででも多くのキャラクターの口を通して尋ねている問いです。
どうか、最後までお付き合いください。
先生たち三人は正義実現委員会から戻った。
残った四人は真面目に勉強をしており、男もいつも先生がいる机に座って雑誌を読んでいた。
男は三人を認めると、笑顔で出迎えた。
「おう、お帰り」
「“……う、うん”」
生徒たちも帰って来た三人に言葉を掛け、コハルも席に戻っていく。
トリコは監督生としての役目を演じ始めた。
「“少し、話せないか?”」
「どうした急に。何か面倒ごとでもあったか?」
「“私と君と、極めて個人的な話だ”」
「ふむ、良いだろう」
先生は、トリコから彼の話を聞いて居ても経ってもいられなかった。
彼はなぜ、自分を嫌うのか、嫌っている筈のなのに、ここまで好意的に接するのか。
先生の情緒はぐちゃぐちゃだった。
二人の大人が教室を離れる。
そして子供は、意外と大人をよく見ている。
「二人とも、どうしたんでしょう?」
「なにやらただ事ではない雰囲気だった」
ヒフミとアズサが二人の消えた教室で呟く。
「またエッチな本でも見つけたのよ、きっと!!」
「うふふ、そうかもしれませんね」
「だとしたら許せないわ!!」
コハルの妄想をハナコは面白そうに見ていた。
「授業中です、私語は慎みましょう」
そこで、場をトリコがコントロールした。
はーい、と生徒たちは答える。
トリコは先生たちが出て行った扉を見ながら、どうか全て上手く行くことを願うしかなかった。
「いったい何の用だ」
「“トリコに、君について探って貰ってた”」
「ああ、だからか。なんか妙に俺の武勇伝を聞きたがってたのは」
どうやらトリコは言葉巧みに男から話を聞き出していたようだった。
「で、何を聞いたんだ?」
「“君は、自分のような人間を滅ぼしてほしい、と。私は何が有っても、君を手に掛けたりはしないからな”」
「ぷッ」
先生の決意に満ちた言葉は、しかし笑い飛ばされた。
「それは、誤解だ。ああ、大きな誤解だよ。
お前に俺を殺してほしいだなんて、そんなことは絶対に頼まない。お前に人殺しになられちゃ困る。それだけはあってはならない」
「“本当に、そんなつもりはないんだな?”」
「我が麗しの風紀委員長に誓って」
一先ず、聞きたいことのひとつは終わった。
先生は次の質問をぶつける。
「“なら、なぜ君は私によくしてくれる? トリコは、君が最も嫌悪するのは“教師”だと言っていた。それこそ、テロリスト以上だとも。
どうして、教師である私を嫌悪しながら、手助けをしてくれるんだい?”」
「ああ、そんなことまで話したっけな……」
男は記憶を振り返りながら、そう呟いた。
「……いいだろう、話してやる。
だが、その前に教室に戻ろう。少しだけ、俺の遊びに付き合ってくれ」
「“……わかった”」
男に促されるように、先生は教室に戻った。
生徒たちは、意外と早かったな、みたいな顔で二人を出迎えた。
「よし、お前ら。勉強漬けで息苦しいだろう。
俺とちょっとしたお遊びをしよう。先生も参加してくれ」
「“いいよ”」
「ちょっと待って、またエッチなことじゃないでしょうね!!」
ぐるる、と子犬が威嚇するようにコハルが言った。
もう彼女にとって男は存在がエッチなのだ。
「違う違う。水平思考クイズって知ってるか?
所謂、ウミガメのスープって名前で有名な奴だ」
「ああ知ってます。出題者一人と複数の質問者で行われるクイズゲームですね」
ハナコはすぐに答えた。
「出題者は、一見回答不可能の問題を出す。
質問者は「はい」か「いいえ」で答えられる質問を繰り返し、情報を探りながら、あらかじめ設定された回答を探る。
試しに例題として、代名詞ともなった“ウミガメのスープ”という問題をやってみよう」
そう言って、男は皆に出題した。
「ある男が、とあるレストランで「ウミガメのスープ」を注文しました。
スープを一口飲んだ男は、それが本物の「ウミガメのスープ」であると確信し、お会計を済ませて帰宅した後、自殺してしまいました。
一体、何故?」
身構えていたコハルは思いのほかショッキングな内容にビクリとした。
それが、最も有名な水平思考クイズの問題だった。
「私は答えを知っているので、皆さんでやってみてください」
「“私も知っているからヒントを出すよ”」
ハナコと先生は最初、皆のサポートに回った。
そうして、コハルとアズサとヒフミとついでにトリコとウズも参加し、最も有名な水平思考クイズの問題の回答に至る。
「うわぁ……」
その凄惨な内容に、コハルは呻いた。
「思いのほかキツイ内容だな。
男は生き延びたことに罪悪感を抱き、自殺に至ったというわけか」
「こういうクイズは初めてで面白かったですけど、次はもっと穏当で平和的な問題がいいですね」
アズサとヒフミがそんな感想を漏らした。
「じゃあお前ら、基本を押さえたところで、次の問題だ」
男は、本命の問題を出題する。
「少年Aが少年Bに1000円を貸したと主張した。しかし少年Bはそんなお金は知らないという。
程なくして、少年Bは言った「お金は家の戸棚に隠した」と。
しかし少年Bの家のどこを探しても、お金は見つからなかった。
……お前たちは、どちらを信じる?」
男が出題した瞬間、ハナコは眉を顰めた。
彼女にはこの時点で、もうほぼ正確な回答が予想できていたのだ。
「少年Bは嘘吐きってことでしょ?
借りたお金なんてどうせ使っちゃったに決まってるわ」
コハルは辛辣な言葉で少年Bを評した。
「うーん、少年達は15歳以下ですか?」
「はい」
「少年たちは、10歳以上ですか?」
「いいえ」
「10歳以下、ですか。確かに、そのくらいの子供にとって、お金は溜めるモノじゃないですからね」
ヒフミは出題者である男と質問を繰り返し、少年達が幼い子供であることを探り当てた。
そのくらいの子供にとって、お金とは自分の欲望を満たす引換券。
わざわざお金を借りておいて、すぐに使用しない方がおかしいだろう。
「少年Bは、本当に少年Aからお金を借りたのか?」
「その質問は関係ない」
「関係ない? そんな筈は無いだろう」
「お前たちは二人の真実を、把握する術は無いからだ」
アズサの質問に、男は答えた。
「“ここは複雑な行動をする少年Bより、少年Aを掘り下げた方がいいと思うかな”」
先生は生徒たちに口を挟んだ。
「そうですね、少年Aはお金を貸す特別な理由があったのですか?」
「いいえ」
「わかった、少年Aは少年Bにいじめられていたのよ!!
だから、お金を貸せって言われて断れなかった!!」
「不正解だ」
ヒフミの質問、コハルの回答に、男は淡々と返す。
「少年Aと少年Bは、友人同士ですか?」
「いいえ」
「友人同士でもないのに、お金の貸し借りが発生したのか?」
「子供同士ですから、そう言うこともあるかと」
「だが、10歳以下の子供に1000円は大金だぞ」
ヒフミとアズサが論議を重ねる。
「ハナコ、ウズ、あんた達も黙ってないで質問しなさいよ!!」
早速行き詰っているコハルが、黙って考え込んでいるウズやトリコと、無表情のハナコに言った。
「じゃあ、ひとつだけ。
────これは、実在した事件ですね?」
ハナコの問いに、皆はギョッとした。
「はい」
男は淡々と、答えた。
やっぱり、とハナコは呟いた。
ただのクイズだと思っていた面々は、それに衝撃を受けた。
「じゃあ、つまり、そう言うことですね」
「ああ。そうだ。ハナコ、お前はこれ以上質問禁止だ」
「わかりました」
「ちょっと、分かったなら答えを教えなさいよ!!」
「それじゃあ面白くないでしょう?」
皆で考えるから水平思考クイズは楽しいんですよ、とコハルを諭すようにハナコは言った。
「これが実際に起こったことなら、その時点で楽しめないんだけど……」
コハルが眉を顰めてそんな正論を吐いた。
「質問を続けてくれ。まだ正解は出ていない」
「わかりました」
男の催促に、ヒフミは頷いた。
「“実際に貸し借りが行われたのなら、その場所があるはずだけど……”」
「そうですね。少年Aは学校でお金を貸し借りしたのですか?」
「いいえ」
「じゃあ、下校中でしょうか。彼の通学路でしょうか?」
「悪い、分からない」
男はヒフミの質問に申し訳なさそうに首を振った。
水平思考クイズにおいて、出題者の返答は「はい」か「いいえ」、そして「関係ない」だけである。
わからない、という返答が実際に起こったことであることの生々しさを強調していた。
「それは、貸し借りが起こった場所が分からない、と言う意味ですか?」
「いいえ」
「じゃあ、少年Bの通学路とかですか?」
「いいえ」
「もしかして、お金の貸し借りした場所は関係ないのでは?」
「はい」
アズサの閃きによって、この線を突き詰めることに無意味だと全員が悟った。
「関係の無い事だから、教えてやろう。
お金の貸し借りは学校近くの路地裏で行われた、と少年Aは主張した。
夕方の三時頃、ちょうど下校時刻のはずだ」
「うーん、そんな大事な事なのに、関係ない、と」
「“もしかして……”」
先生は、気づいた。
「“少年Aも、嘘吐きなのか?”」
ある種の確信が、先生にはあった。
「それを判断するのが、お前たちだ」
「“ようやくわかった”」
「先生、どういうことですか?」
ヒフミが先生に尋ねる。
「“もう一つだけ、質問したい。
────私達は、少年に質問している私達は、“教師”である。そうだろう?”」
「はい」
男は答えた。
「“君は、そこに居るのか”」
「はい」
男は、滂沱のように涙を流していた。
気づいてくれたことが嬉しくて仕方がないというように。
「“誰も、信じてくれなかったのか!!”」
「はいッ」
「“教師たちに、問題解決能力は無い。だから、事実に意味がない。そうなんだろ!?”」
「はい」
先生は悟った。少年Aと少年B。そのどちらかが、この男であると。
そのどちらも嘘吐きで、質問者たちは“教師”。
そして教師は、ただの教員。事件の捜査や検証など、出来る筈もない。
決して終わることのない、地獄の悪循環。
この問題は、お金の貸し借りが事実かどうかを問うていない。
どちらを信じるのか?
男は、先生にこう言っている。
お前が当事者なら、自分を信じてくれるのか、と。
「ここで残念なお知らせです。
少年Aは遅くまで続いたこの質疑応答に、母親が連れ帰りました。
今後、少年Aに関する回答は出来かねる」
そして突然、そんなルールが付け加えられた。
それが実際に有ったことことだと、嫌でも知らしめられる。
「……少年Bはなぜ嘘を吐いたんでしょう」
「もしかすると、拷問が行われたのではないだろうか」
「そんなまさか。学校内の出来事のはずですよ?」
自分たちが教師で、少年達は生徒。
その当事者が目の前にいると知って、補習授業部の面々は怯んだが、論議は止めなかった。
「長期間の尋問で、自白を取らせるのはよくある手法だ。
私なら、二人とも長時間拘束し、圧力をかけて吐かせる」
「ちょっと待ってよ、相手は子供よ? そんなわけないじゃない!!」
当事者が目の前にいるとなっては、コハルも過激な発言が控えめになった。
同時に、彼女の中の正義感が、その状況そのものに対する怒りが湧いていた。
「質問だ。その尋問は一日で終わったのか?」
「いいえ」
「三日掛かったのか?」
「いいえ」
「……一週間」
「いいえ」
「十日ッ」
「いいえ、だ」
最終的に、アズサは二週間という回答を男の口から引き出した。
その頃には、アズサも怒りに打ち震えていた。
「十歳にも満たない子供を、二週間も尋問し続けたのかッ。
しかもこんな風に、大勢の大人で取り囲んで!!」
感情の希薄が薄いアズサでさえ、不愉快極まりない事実。
無能どころの騒ぎではない。
何の意味も無い事を、ただ延々と続けていたのだから。
「少年Bは、その状況から逃れる為に嘘を吐いたんですね?」
「はい」
「少年Bが、あなたなんですね」
「……はい」
ヒフミはその残酷な事実に、思わず涙した。
その回答は、関係ないというべきだっただろう。
最早、誰も問題の回答を求めていなかった。
水平思考クイズなんて、所詮は形式の話。
男はただ、聞いてほしかっただけなのだ。
己の愚痴を。知り合いに。
「ただ一つの事実として、俺はあのクソ野郎からお金なんて受け取っていなかった。そんなことをする間柄でもない。
俺があの教師とか名乗っている年上なだけの無能で役立たずの税金泥棒どもの尋問から逃れるために、嘘を吐いた。四日目ぐらいだったかな」
男は話し始めた。
もう、クイズは終わっていた。
「今日も疲れた、早く帰りたい。そう思って自宅に帰った俺が見たのは、半狂乱になって家中の戸棚を漁っていた母親の姿だった。子供心にもショックだったよ」
「“アップルマン……”」
彼は、実の母親にすら信じて貰えなかった。
その事実が、先生の胸に痛いほど理解できた。
「結局、どうなったの?」
「うやむやになった。俺がストレスで食事を受け付けなくなったからだ」
「なにそれ、ふざけてる!!」
コハルが憤るのも無理はない。
どう考えても、それは虐待の類だ。
「笑えるよ。あれだけ大騒ぎしたくせに、その事実を電話一本で伝えると、もう何事も無くなった。関係者全員、知らんぷりだ。以降、何の音沙汰も無い」
それで、本当に全部終わり。
ただ一人、少年Bの心に深い憎しみと怒りと不信感を残して。
「先生。俺のような人間を滅ぼしてほしい、とはそういうことだ」
「“ッ!!”」
「お前がお前で居る限り、俺はお前に仇なすことは無い。
そして、俺のような人間を二度と産み出さないようするというなら、俺は何でもする」
それが、男の先生への期待の正体。
先生は少なくとも、無能で役立たずで何もできない存在ではないのだから。
「“ああ、誓うよ”」
「ありがとう。俺はそれだけで十分報われた」
それが、男の本心だった。
自分のような、誰も信じて貰えない子供を助けたい。
それを出来る存在に、願いを託したい。
その願いを託せる相手に、彼はようやく出会えたのだ。
「悪いな、お前達。こんなつまらない話に付き合って貰って」
「いえ、貴重なお話でした」
ヒフミは精一杯微笑んで男に答えた。
「わ、私も正義実現委員会に戻ったら、ちゃんと相手の話を最後まで聞くようにする!!」
「ああ、全ては虚しい。この話の結末のように。だけど、心の片隅に置いておけば、いつか役に立つ時も来るはずだ」
「ええ、これを教訓にしないといけませんからね」
子供たちにも、男の伝えたい何かは伝わっているようだった。
そして、合宿三日目の夜。
先生と男はヒフミが来るまで、雑談をしていた。
「あの日以来、俺は誰も信じられなくなってな。
高校に上がる頃には立派な引き籠りだ」
「“そうだったのか……”」
「見かねた親に軍隊に放り込まれてな。
海外の災害救助に派遣されて、運悪く紛争が勃発して取り残された。
そこで俺は、本当に憎むべきおぞましい敵の存在を知った」
国民を扇動し戦争をする独裁者、思想を洗脳して死すら厭わない道具にするテロリスト。
教育を悪用する、この世の邪悪を男は目の当たりにした。
「ああ、本当に……滅んでくれてよかった」
「“…………”」
男のかつて故郷は滅びている。
彼は、それを心の底から受け入れていた。
「だが、俺のような子供は、このキヴォトスにいくらでもいる」
それは控えめな表現だろう。
もっとヒドイ境遇の元生徒が溢れかえる、それがこの世界なのだ。
「“私も、手を尽くすよ”」
「ああ、頼むよ。友よ」
男はそう言って、酒をコップに注いだ。
「“一杯だけだよ、友よ”」
「ああ、今日はいい日だ。やっと、吹っ切れそうだ」
お互いに酒が注がれたコップの縁を打ち鳴らし、乾杯をする。
「“乾杯”」
「ああ、乾杯」
そして、お互いに酒を呷る。
その辺のコンビニで買った安酒なのに、男にとってこれ以上無い極上の味だった。
少年Aと少年Bの話は、半分くらいは私の実体験です。
ある日突然、教師に呼び出され、お金のやり取りがあったと伝えられ、二週間近く放課後に何時間も教師たちから代わる代わる尋問されました。二十年以上も前の話です。
アンケート形式で、何度か私の作品内で同じ問いを投げかけました。
どちらを信じてくれるのかと。創作物は、作者の代弁であると言われています。
だから私はただ知って欲しいだけなのです。あの時の私の愚かさと、悔しさを。ただそれだけです。それだけが少年Bの望みなのです。
では、思いのほか長かったので今回も流れてしまった、ターニングポイントですが次回こそ彼女が現れます。
今度こそ、間に挟まるイベントとかないので、絶対に絶対です!!
ではまた、次回!!
Wolf小隊が実装されるなら誰がほしい? 或いどのキャラが好き?
-
生真面目なトリコ
-
舌打ちをしてくれるウズ
-
サイコな毒女のムツニ
-
正義の暴走車両なナバト