ほんの僅かでも一位に居たのは、作者のハーメルンでの長い執筆活動でも初の快挙です!!
皆さん、ありがとうございます!!
合宿三日目の夜。
生徒たちは生徒たちで、ちゃんとした水平思考クイズで盛り上がっていた。
「よかった、普通の問題も沢山あって!!」
「一見ホラーみたいな問題もありますけど、実際には心理的盲点を突いてきて、思わず唸るような問題もありますね」
ネットに転がっている水平思考クイズの問題で遊んでいた四人。
コハルとハナコは笑みを浮かべていた。
「私も問題を作ってみましょうか。
回答は、実は水着ではなく、全裸だったとかどうでしょう♡」
「何言ってるのよ!! あんたは問題作るの禁止!! バカバカ!!」
「まあまあ、そういうのを楽しむクイズですし」
じゃれあっている二人を、ヒフミが宥めた。
「ま、まさか、あんたあの時も水着じゃなくてただの下着だったんじゃ!?」
「ふふふ、真実はもう闇の中、記憶だけにしか残っていません。
その「真実」かもしれない何かは、どうすれば証明できるのっでしょう?
証明できない真実程無力なモノは無い。そう思いませんか?」
妄想を爆発させているコハルに、ハナコは尤もらしいことを言ってからかい始めた。
「そう考えると、教官の話もどれひとつ真実だと証明できないんですよね」
「……ええ、そうですね」
ヒフミの言葉に、ハナコは内心やってしまったと思った。
「ああ、あれは全て教官の一方的な証言に過ぎない。
実は少年Aの言葉が真実で、時間が経ったから教官が事実を捻じ曲げて語ったのかもしれない」
「まさか。それで、あの涙は出ないでしょ」
「教師たちに苦痛を与えられたのは事実だ。それを思い返して涙したのかもしれない」
アズサはあくまで公平な立場からモノを言った。
コハルはそうでないと信じたいようだった。
「ええ、だから彼は真実の追求ではなく、どちらを信じるかを問題の回答にしたのでしょう」
ハナコはそう解釈した。
それは余りにも切ない事実だ。
だって、無実を知っている当人が、それを証明できないことをわかっていて、懇願しているのだから。
あの問題には、助けを呼ぶ声すら枯れ果てていた。信じてくれと、それ以上の何も求めていないのだ。
「まるで、五つ目のあれのようだな」
「ッ!?」
「五つ目? アズサちゃん何の話ですか?」
ハナコはアズサの言葉が何を示すか、すぐにわかった。
アズサはキヴォトスに伝わる七つの古則の、その五つ目であると語った。
「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか?
そんな感じだった気がする。残りは知らないけど」
アズサはその古い話を口にした。
「誰も罪を証明できない。ただ虚しい論議をしたという苦痛だけが残る。
楽園の実在を信じるほかないような、そんな禅問答だったはず」
「アズサちゃん、どうしてそれを……」
ハナコは思わずアズサに問うた。
こんな古い話、今のキヴォトスでは一般的な教養ではない。
だから、まともな教育を受けていない筈のアズサがそれを知っているのは、彼女に嫌な想像を浮き彫りにさせる。
即ち、昨日男と話したセイアとの接点。
同じ話を、ハナコはセイアとしたことがあったのだ。
だから、アズサちゃんはセイアちゃんと会ったことがあるのですか、という問いを彼女は呑み込んだ。
「いや、気にしないでくれ。この話はただ、どこかで聞いた記憶があるだけだから」
「そう、ですか」
それを、今のハナコは追及できなかった。
裏切り者の存在、その事実。
まるで楽園の存在証明のように、証明できるものではなかったからだ。
ハナコはアズサの口癖を、口の中で諳んじる。
Vanitas vanitatum、と。
「……クイズに夢中になり過ぎて、もうこんな時間ですし、そろそろ寝た方が良さそうですね」
そして彼女は、自ら就寝の団体行動への音頭を取った。
皆もそれに従い、この日は特に何もなく終わりを告げた。
§§§
合宿四日目の朝。
「やあ、先生。おはよう」
「“おはよう”」
先生が目を覚ますと、男は既に目を覚ましていた。
そしてベッドに座り、ノートパソコンで監視カメラを確認していた。
「どうやら、黒幕がおいでなすったようだぜ」
男は画面を先生に見せた。
そこには、ハナコとの討論の結果、黒幕の候補として挙げられていた少女が、掃除された合宿所を見て回っていた。
「“行こう”」
ああ、と男は先生に頷いて見せた。
「わぁ、水が入ってるー!!」
少女はプールを見て、水が入っていることに驚いていた。
「あはッ、ここに水が入ってるのなんて久しぶりにみたなー。もしかしてこれから泳ぐのかな? それともみんなでプールパーティー?」
「“やあ、ミカ”」
「あ、先生!!」
先生の声に、少女は振り返る。
聖園ミカ。トリニティの生徒会長の一人。ティーパーティーの一員。
まあそのぐらいの立場じゃないと学籍は用意できないか、と先生に追従した男は思った。
「こっちが呼ぶ前に来てくれるなんて、感激ー!!
オオカミさんもこんにちわ」
「“用件を聞いても良いかな?”」
「もう、せっかちなんだからぁ。
えへへッ、先生たちは上手くやってるかなって」
天真爛漫を絵に描いたような、はにかむような笑顔。
「にしてもナギちゃん、随分と入れこんでるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって。
ところで、合宿の方はどう? 本校舎から遠いのを良いことに、何か楽しそうなことしてたりしない? 例えば、皆で水着でプールパーティとか?」
「“……”」
相変わらず口数の多い少女に、先生は無言を返した。
「そこまで警戒されちゃうのは心外だなー。私こう見えても繊細で傷つきやすいんだよ?」
「本当かぁ? 俺には図太くて大雑把に見えるけどな」
「あはは、なにそれ、ひどいー!!」
男が笑って茶々をいれると、ミカも笑い返した。
先生は信じられなかった。
こんな裏表の無さそうな少女が、今回の騒動の黒幕だなんて。
「……ふふ、ごめんね。二人ともあんまり長い前置きは好みじゃないかな?」
「アズサの件だろ?」
「へぇ」
楽しそうに笑っていたミカの目が細まった。
「じゃあ、私がここに来るのも分かってたんだ?」
先生はゾッとした。
女性は化粧で化けるというが、そんな言葉で言い表せないものを彼は見た。
「一応言っておくね、私がここに居ることに付いて、ナギちゃんは知らないよ? 見ての通り、付き添いも護衛も無しの単独行動!!」
そう言ってから、ミカは本題について話した。
「先生、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」
「“取引?”」
「例えば、そうだなぁ……「トリニティの裏切り者」を探してほしい、とか?」
「“……ッ”」
「……ふう。やっぱりナギちゃんったら予想通りなんだから」
そう言うミカも、先生たちの予想通り探りを入れてきた。
「何か詳しい情報とかは? そう言うの何も無しで、ただ「探して」って言われた感じ?」
理由や目的、補習授業部のメンバーがなぜ選ばれたのか、教えてくれなかったのか、と。
「あのお嬢ちゃんは秘密主義らしいな。
犯人に心当たりがあれば、そこから糸口が見えてくるもんなんだが」
「あはは、ごめんね。……そっかー。
オオカミさん、あなたにも何も話してくれてないんだ」
「“それについては、私の仕事じゃない”」
「そう、ちゃんと役割分担してるんだね」
彼女は特に意外そうでもなく、そう言った。
「なるほどね。先生は連邦生徒会のシャーレ所属。トリニティとは無関係の第三者」
まあ私達にとってはずっと「トリニティ」そのものが世界の中心みたいな感じだからあれだけど、とミカは苦笑した。
そんな考え方を、ミカは新鮮だと称した。
「それじゃあ、先生は誰の味方?」
「“……”」
「そっちのオオカミさんは、元居たゲヘナの味方?」
「……」
「それとも所属してる連邦生徒会の味方? それとも、誰の味方でもない、……とか?」
「“私は、生徒たちの味方だよ”」
探りを入れてくるミカに、先生はそう返した。
「っぷははッ、それでこそ先生だ!! ミカちゃん、こいつはそう言う奴なんだよ!!」
「はは、生徒たちの味方、かぁ。そっかぁ、それは予想外だったなー」
男は笑い、ミカは苦笑する。
それでも、先生は表情を変えなかった。
「じゃあさ、先生は一応、私の味方でもあるって考えても良いのかな?
私も一応この立場とは言え、生徒に変わりないんだけど」
「ああ、こいつに所属する学園や未所属も関係ない。
生徒なら全員、俺の生徒だって主張する、俺以上の悪食よ!!」
茶々を入れる男を、先生は肘で黙らせた。
「“勿論、ミカの味方でもあるよ”」
「わーお」
ミカも、その返答に衝撃を受けた。
所謂乙女心がときめくような、同時に、恐れ戦くような。
先生の答えには、凄みがあった。
「でも、それを額面通りに受け取るのもちょーっと難しいなぁ。
だって、それは同時に誰の味方でもないって解釈もできるよね?」
「ああ、つまり、この世界の全ての人間を愛するのは、誰ひとりとして愛していないのと同じである、って奴か」
「うん、まあそういうことだね」
男の言葉に、ミカは頷いた。
全ての人間を愛するということは、それは逆説的に誰ひとりとして特別視しないということ。
それは、誰ひとりとして愛さないのと何が違うというのか?
「だから、そのまま受け取るんじゃなくて、私から先生に取引を提案させてもらおうかな」
「“取引?”」
「もうわかってるでしょう、先生」
ミカは先生に微笑んでみせた。
「白洲アズサを、守ってほしいの」
彼女は、そう言った。
そして語る。そもそも補習授業部の担任として指名したのは、ミカであると。
「でもまさか、ナギちゃんが事前にオオカミさんと取引していて、彼を先生のところに送り込んでるなんて、予想外だった」
「そうか、ならこっちも腹を割って話す必要があるな。
俺もまた、ヒナ委員長の手駒に過ぎない。条約締結の為に、あのお嬢ちゃんのところに工作員として扱き使え、と送り込まれたんだ」
腹を割ると言っておきながら、男はミカに何一つ重要な情報を渡さなかった。
全て知られても問題ない話だった。
「あはは、まさか私と同じ方法を使うなんて。
我ながら、十年来の幼馴染の息の合った連携プレー、みたいなかんじかな?
道理で、あのわからず屋のナギちゃんが先生を招くことに反対しないわけだよ」
ミカは言った。アズサをトリニティに編入させたのは自分であると。
「もう知ってると思うけど、あの子は随分前にトリニティから別れた、所謂分派……「アリウス分校」出身の生徒なの」
アリウス、と男はその名を反芻する。
まるで、自分の獲物の名前を刻みつけるように。
ミカは言う。
「何かを学ぶ、ということが無い生徒のことを、生徒って呼べるのかな?」
「安心しろ、俺が前にやってたエロソシャゲには、手あたり次第全員を娘にして救うって主人公がいた。
――先生もそう言うタイプの男よ。こいつは生徒じゃないと欲情出来ないんだ」
訳知り顔で頷く男に、もう一発先生の肘内が飛んだ。
あははは、とその二人のやり取りを苦笑して見ているミカ。
「なら、あの子を守ってほしいって取引、受けてくれるのかな?」
「“うん、問題ないよ”」
先生は躊躇いなく頷いた。
「“その代わり、アリウス分校について教えてくれないかな?”」
「うん、本当は裏切り者が誰か教える代わりに頼もうと思ったんだけど、それで先生が良いって言うなら」
そんなことを言うミカを見て、先生は思った。
彼女もまた曲者である、と。自分が損をしない方法で、相手に自分の望みを叶えさせようとしている。
決して見た目通りの女の子ではない、先生はそう、男と共に確信した。
「私もナギちゃんやセイアちゃんみたいに頭は良くないけど、精一杯伝わるように話すね!!」
「嘘つけ」
「うん? 何か言った?」
男は勿論聞こえるように言った。
ミカも聞こえていて、聞こえない振りをした。
“ミカ”と言うキャラクターなら、「ウソじゃないよー」とぷんぷんぶりっ子しながら言うはずだと男は思っていた。
「まず、この「トリニティ総合学園」について」
ミカは語る。
元々トリニティは「たくさんの分派が集まって出来た学校だと。
それまでは今のトリニティとゲヘナのように、派閥同士がいがみあい、紛争ばかりをしていた時代があった。
だからパテル、フィリウス、サンクトゥスからなる三つの分派が中心となり、生徒会の名の元になったティーパーティーを結成した。
お互いにもう争わずに、一つの学園として手を取り合おう、と。そうして「トリニティ総合学園」が誕生した。
だが、それに最後まで異を唱える派閥が存在した。
それがかつての、「アリウス分派」。
今のアリウス分校だった。
彼女らは自分たちと変わらず、経典の些細の解釈の違いしかなく、同時にゲヘナを嫌っていた、とミカは言う。
だが、彼女らアリウスは連合の結成を最後まで反対し、そして今のトリニティの形になった連合軍に徹底的に弾圧された。
そうして、アリウスは潰された。
今は追放され、キヴォトスのどこかに隠れ潜んでいるという。
そしてもう、そんな分派があったことを誰も覚えていないそうだ。
「“アズサは、そのアリウス分校の出身……”」
「うん」
と、ミカは先生に頷いて見せた。
そして、エデン条約とは先ほどのティーパーティー結成の「第一回公会議」の再現だとも。
だがそれは、アリウスを潰したトリニティの連合と何も違わない、とミカは警鐘を鳴らした。
ヒトは大きな力を持つと、それを振るわずにはいられない、と。
「だろうな。うちの主上もまさにそんな性格だ。
道具は使う為にあるのだからって、無邪気にな」
「私も、そう思うな」
先生も、二人の意見に同意だった。
ヒトは強力な兵器を手に入れると、それの威力を確かめずにはいられない。
「核兵器も、かつてはシミュレーションでどれだけの破壊力があるか、事前に分かっていたという。
それでも使用された。その開発者は自らの発明を根絶すべく動き、スパイとさえされた」
「“本当に、嘆かわしいね”」
「そしてかつて使用された核爆弾の数百倍の威力を持つ核兵器が平然と配備されていたのが俺のかつての故郷だった。
くくく、本当に滅びて当然だよな……」
「エデン条約も、そうした共倒れを防ぐ条約ってことにはなっているけれどね」
自嘲する男に、現状を嘆くミカ。
先生は、眉を顰めることしか出来なかった。
「俺がそのエデン条約機構の通称っていうETCとかっていう機関の長官なら、まず連邦生徒会を潰すな。
そして武力でキヴォトスを統一する。あとはパイをトリニティとゲヘナで仲良く分け合えばいい」
「“ETOね? ETCは有料道路の通行料支払いシステムだから”」
「お、流石先生!!」
先生のツッコミに、男は指を鳴らす。
「うん、私でもそうすると思う。
ナギちゃんは、会長不在の連邦生徒会を襲撃して、自分が連邦生徒会長にでもなりたいのかな」
「少なくとも、ゲヘナのマコト議長には無理だろうな」
「あははッ、だよねー!! 絶対ムリ☆」
男は、その僅かなミカの変化を見逃さなかった。
なぜなら、男がゲヘナをディスった時、彼女は本当の笑顔を見せていたのだから。
「かわいいね、君もそんな顔ができるとは」
「もう、ナギちゃんだけじゃなくて、私まで口説くつもりー?
本当にオオカミさんはオオカミさんなんだね!!」
そんな二人のやり取りを、やれやれ、と先生は首を振った。
「でも、これだけはハッキリ言える。
そんな大きな力を手に入れたら、きっと自分が気に入らないモノを排除する為に使うと思う」
それは、補習授業部という箱を作ったナギサという人物像からすれば、非常に説得力のある妄言だった。
十年来の幼馴染がいうのだから、尚更だ。
「昔、トリニティがアリウスにしたように」
「誰かさんがセイアにしたように、か?」
「うふふ、うん、そうだね。もうそのことまで知ってたんだ。ナギちゃんも意外と口が軽いんだね……。それともシスターフッドに伝手でもあるのかな?」
笑顔の二人の水面下で、見えない激しい蹴り合いがなされていた。
それが、先生には目に見えるようだった。
「この事実を私の口から教えた今、先生が私を裏切ったら、私はきっと終わり」
その言葉は、どこか先生を試すようであった。
アリウス生を手引きし、その生徒がティーパーティーの生徒会長を襲った。
一人の政治家の政治生命を終わらせるのには十分な醜聞だ。
世間的にはまだセイア襲撃の犯人の目星どころか、何も分かっていない状況。
だが、ミカはそんな言い訳がこの二人には通じないと、確信を抱いた。
「“私は、ミカの味方だよ”」
「ッ!?」
だけど、先生はミカの予想以上に本気だった。
「……もしこれで裏切られても、なんていうのかな……うん、それはそれで悪くないと思うな」
えへへ、とミカははにかむように笑った。
なぜか二人には、それが彼女の本心にも思えた。
「先生。白洲アズサ……あの子をこの学園に転校させたのは、私なの」
儚く笑いながら、彼女は言った。
決定的なその言葉を。
「どうして、って思うよね?
アリウス分校は今もまだ、私達の事を憎んでる。
私達はこうして豊かな環境を謳歌しているのに、彼女達は劣悪な環境の中で、「学ぶ」ということが何なのかわからないままでいる」
「“……”」
先生はその言葉に、アズサの姿が脳裏に過った。
ミカはそのせいで、彼女達は自分たちや連邦生徒会の手も拒絶していると語った。
「……私は、アリウス分校と和解がしたかった」
それはまるで、一種の懺悔のようだった。
それを疑うことを、先生には出来なかった。
だけどその憎しみはもう手に負えなかった、とミカは言った。
ナギサとセイアも、その和解には政治的な理由で反対したと言った。
「前みたいにお茶会でもしながら、お互いの誤解を解くことはできないのかな?」
そんなことはない、と先生は首を振った。
「私はあの子、“白洲アズサ”という存在に、和解の象徴になって欲しかったの」
ナギサを説得する手段もあったというが、ミカはそれ自体を疑ってしまったと、悲しそうに言った。
ナギサはそう言う話を、聞いてくれないだろうな、と。
「なぜ、今の時期なんだ?」
「エデン条約が締結されちゃったら、今度こそ本当にアリウスとの和解は不可能になっちゃうでしょう? だからその前に実現したかったの」
「なるほど」
男は納得する振りをして見せた。
「あ、そう言えば先生、最初は補習授業部って何のことかと思ったけど、なんであの子たちなのかって聞いたことある?」
「“いや”」
話が脱線する。
これすらも、彼女の話術の一つなのかもしれなかった。
ハナコは変人だけど、ティーパーティーの候補にも挙がっていた秀才。だが奇行を繰り返し、落第寸前にまで成績も落ちこむ。その交友関係から多くの秘密を知っていたから、疑われた。
コハルは、彼女自体は無関係だった。彼女の上司、ハスミが反ゲヘナの筆頭候補だったから、条約締結の邪魔にならないように、人質の意味合いがあった。正義実現委員会なら誰でも良かった、成績が悪いからたまたま選ばれた。それだけ。
ヒフミは怪しい行動が目立った。ナギサとは懇意の関係なのに、どこかの犯罪集団と関わりがあるという情報もあるという。
「あのヒフミが? あの人畜無害そうな女が犯罪集団と?」
「“………………”」
「どうした、先生。いつもより三点リーダーが多いぞ?」
なぜか額に冷や汗だらだらな先生を見かね、男が話しかける。
「もう居るのかどうかなんて話じゃないみたい。
裏切り者は既にナギちゃんにとっては確定事項の現実問題になってる」
「まあ、あのお嬢ちゃんには“オシオキ”が必要ってのはよくわかった」
「あははッ、お尻ぺんぺんでもしちゃう?」
「近いことはするかもな!!」
けらけら、と笑い合う二人。
朗らかなのに、不気味な光景だった。
「まあ、それが今私が話せる全てかな」
「それが全て? 違うだろ」
「え、なにが?」
「お前は自分の立場を示していない」
つまり、と男は言った。
「お前はどうなんだ。エデン条約のことを。
賛成か、反対か。ナギサと同じティーパーティーだからと言って、同じ方向を向いているとは限らない」
「……そうだね」
「“ミカはどうなんだい?”」
「そう、だね」
二人の詰問に、ミカは答えた。
「……正直、反対かな」
彼女は嘘を、付けなかった。
「だって、私は仲良くできるとは思えない。
ゲヘナの連中は、アリウスと違って元々同じじゃないんだから。
ナギちゃんがいつ裏切られるかと思うと、気が気じゃないよ」
それが、ミカの本心だった。
「だがアリウスの連中と和解できる、お前はそう思ったんだな」
「うん、そうできるように手を尽くしたつもり」
「俺から言えることはひとつだ」
男は言った。裂けたように笑って。
「お前どれだけ脳みそお花畑なんだ?
アリウスと和解できるだって? そんなの不可能に決まってるだろ!!」
「どうして、そう思うの?」
ミカは男を睨みつける。
その思いだけは、嘘ではなかったのだから。
「お前も言っていただろ、お前たちは豊かな環境を謳歌し、アリウスどもは劣悪な環境に押し込められている!!
俺がアリウスなら、お前たちを皆殺しにする!!
憎しみってのは理屈じゃない、劣悪な環境に居た事実は消えない!!
たとえアリウスの連中と、お前たちの立場が逆転しようともだ!!」
「ッ!!」
「もしかしたら、お前はこう考えてるんじゃないのか?
私もゲヘナは嫌い、アリウスもゲヘナが嫌い。よかった、じゃあ手を取り合って戦おう!!
なあ違うと言ってくれよ、そこまでバカじゃないって、俺に言ってくれよ!!」
男の笑顔が、一歩近づく。
ミカは恐怖を抱いて、一歩下がった。
「お前とアリウスの憎しみは方向性が全然違う!!
お前の世界はトリニティが中心だと言ったな?
じゃあゲヘナの何が分かる? お前は何を憎んでいるんだ?」
男は芝居がかった口調で、両手を挙げる。
「お前の憎しみは、「体験」と「想像力」が欠如している!!
実体のない空っぽの虚像なんだよ!!
そんなお前が、いったいアリウスの苦しみの何が理解できる?
一度たりとも、食べ物に困ったことがないだろうお前が!!」
「じゃあ、何もするなっていうの?」
「お前が本気でアリウスに手を差し伸べたいのなら、なぜナギサをとことん最後まで説得しなかった!!
ティーパーティーの総意として動かなかった!!
言ってやろうか、お前は面倒だったんだ!!」
ミカの抗弁を跳ね返し、男は言う。
「どうせ、反対される。どうせそんな馬鹿なことは止めろと言われる。
そう思って諦めたお前が、どうしてアリウスと和解できるなんて思った? 冗談も大概にしろよ、大間抜けが!!」
「ち、違うよ!!」
「お前の思惑通り、アリウスと和解できたとしよう。
だがお前は裏切られるぞ。絶対にだ!!
どうしてだと思う? お前の存在が癪に障るからだ!!
お前を見るたびに、アリウスの連中はかつての憎しみが蘇る!!
お茶会をしながらのほほんと生きてきたお前が、憎いからだよ!!」
立場が良くなっても消えないから、それが、憎しみなのだと。
「お前に、憎しみの何たるかを、教えてやろう。
アリウスと仲良くなりたいんだろう? なら彼女らの苦しみを教えてやろう」
ミカは、なぜか足が竦んでいた。
殴れば殺せるはずの相手に、心底恐怖していた。
思わずプールサイドに、へたり込む。
「羊飼いは嘘を吐いた」
唖然としていた、先生が我に返る。
「狼が来た」
それは、Wolf小隊の突入命令。
「狼が来た」
羊飼いの子供は、大人たちにオオカミが来たと嘘を吐いた。
三度目に、それが現実となり、大人たちに相手にされず、羊は餌食になる。
羊の飼育は村の生命線。彼らはその後、どうなったかは想像に難くない。
「狼が――」
「“私は、羊飼いを信じる”」
「……」
「“私は信じるよ。何度嘘を吐かれても”」
「わかった」
やれやれ、と男は引き下がった。
「“君の考えを当ててあげようか?
今ここでミカを捕まえ、拷問をしてでもアリウスの繋がりを全て吐かせる。
アズサを味方に引き入れ、アリウスの自治区を割り出し襲撃を掛ける”」
「ああ、正解だ」
「“この一件は、私に任された筈だ”」
男は恥じ入るように軍帽を被りなおす。
「“……”」
先生の脳裏に、アズサの姿が思い浮かぶ。
勉強も出来ずに、ただ戦い方だけを教え込まれる。
本当に、そうだろうか。彼女らに、そんな余裕があるか?
そこで、男の言葉を思い出す。
テロリストには、指導者が付き物であると。
先生は、確信した。誰かが、アリウスの生徒たちをテロリストに仕立て上げているのだ、と。
怒りが、彼の内側にこみ上げてくる。
そんな状態が今から一秒でも続くことを、彼はどうしても許容できなかった。
「“ミカ”」
「……なに、先生」
ミカは先生を見上げる。
放心した彼女は、見た。
「“――――私と、手を組まないか?”」
生誕を。
「え?」
「“アズサは決して、特別ではないんだろう?
アリウス分校の生徒たちが皆、劣悪な環境に置かれている、そうだろう?”」
「う、うん、そう聞いてる」
「“なら、私と一緒に、アリウスに手を差し伸べないか?”」
男も見た。
このキヴォトスに君臨する、新王の目覚めを。
「“私が、アリウスをどうにかする”」
「それは、きっと今のトリニティを揺るがす行いだよ。
もしかしたら、トリニティの存続にも関わるかもしれないよ?」
「“何を今更”」
先生は、不安そうにしている生徒に不敵に笑って見せた。
「“私達はもう、かつてキヴォトス最大を誇った学校を滅ぼしている”」
そして、先生は己の行動に呆気にとられる男を見た。
「“そうだろう、友よ”」
「ああ、友よ。俺達なら造作も無い」
さあ、と先生は腰を抜かしているミカに手を差し伸べる。
「……お願い、します。
彼女達を、助けてあげてください」
ミカは、縋るように先生の手を取った。
その光景は、地に墜ちた天使に手を差し伸べる聖者の絵画のような、そんな二人の構図は男には神秘的に見えた。
「愚かなこの身に罰を賜してくださった、大いなる母なる神よ。
今ようやく、私は神意を理解しました……」
男は思わず涙がこぼれるほど、美しい光景だった。
自分が今まで生きてきたのは、この瞬間の為だとそう思えるほど、運命的な光景だった。
「友よ、我が全知全能を、好きに使ってくれ」
「“ああ、扱き使ってやるさ”」
こうして、三人は誰にも知られずに水面下で手を組んだ。
それが何を示すのかを、トリニティ学園が思い知るのはそんなに遠くない未来であった。
RTA要素その2。
四日目の朝でミカを仲間に引き入れる。
これでアリウス側に都合のいい情報を送れるようになるわけですね。
前回の話ですが、反響がありまして非常に嬉しかったです。
ちなみに少年Aは逆転裁判の良い所の無い矢張みたいな奴です。さしずめ私は、立場的に御剣がいなかったナルホド君と言ったところでしょうか。流石に学級裁判は無かったですけど。
次回からいよいよ、水面下では原作とは異なる展開が始まります。
それでは、また次回!!
Wolf小隊が実装されるなら誰がほしい? 或いどのキャラが好き?
-
生真面目なトリコ
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舌打ちをしてくれるウズ
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サイコな毒女のムツニ
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正義の暴走車両なナバト