※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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作戦会議

 

 

 

 先生にとって長かった四日目も無事終わろうとしていた。

 各自の勉強の時間が終わり、夕方に差し掛かった。

 

「各自、水着と体操着を取りに来てください。

 洗濯しておきましたので」

「ありがとうございます、トリコさん」

「いえ、皆さんが勉強に集中できる環境を作るのも監督生の仕事ですので」

 

 午前中にたっぷり濡らされた体操着と水着を、トリコは各自に配った。

 そんな姿をヒフミが労ったが、彼女は気にした風でもなかった。

 そのまま彼女が出前で注文した夕食を食べ、今日もひと段落しようとした頃。

 

「トリコさんばかりに任せるのも悪いので、私達の下着くらいは自分たちでやりましょう」

 

 と、ハナコが提案したので、コハルは少し嫌がりつつもそうなった。

 

「先生と教官の分もいかがですか?♡」

「“流石にそれはちょっと”」

「俺は下着より具の方にしか興味はない」

 

 そう言う話じゃないよ、男にツッコミを入れる先生だった。

 

「ふん、洗濯中の下着に近づいたら、あんたを洗濯してやるからね!!」

「おお、怖い怖い。だが下着は装着されてこそ意味がある。使用済みとか干してるモノとかに関心は無いさ」

「使用済みとか、エッチなのはダメ!!」

「くくくく……」

「な、なにがおかしいの!?」

「わからないのか、コハル。お前の矛盾を!!」

「何が言いたいの!?」

 

 男はニヤリと笑った。

 

「この世には、制服プレイと言うのも存在する。

 つまり、だ。──女子高生の制服ってエッチじゃね?」

「きやぁぁああああああぁあぁぁぁぁ!!」

 

 コハルが真っ赤になって男を指差し、絶叫した。

 

「確かに、一理ありますね♡」

「"いや、全く無いよ”」

 

 笑顔になるハナコに、冷静にツッコミを入れる先生。

 

「そもそも、女子高生って存在がエロいのだ。

 お前ら自分らの価値を理解してるか? 女子高生ってだけで女の価値は二倍になるのだ。ちなみに個人的に女子大生が1.2倍で、女子中学生が三倍だ」

「ヒフミ、いったいどんな基準でその倍率が決定するんだ? どのような計算式だ?」

「あ、あはは、アズサちゃんは知らなくてもいいです」

 

 ヒフミはアズサの耳をそっと塞いだ。

 聴覚情報が遮断されるのはよくない、と逃れようとするアズサ。

 

「なるほど、発想の逆転ですね。私達は常時女子高生制服プレイをしている、と♡」

「あんたまで何で乗ってるのよ、おバカ!!」

「いえ、興味深い知見だなと思っただけですよ♡

 流石教官、経験豊富なだけありますね♡」

「ははは。任せろ。ところでコハル、イルカさんは好きか?」

「急に何よ!?」

「実はセックスで快楽を得る生物は、人間以外だとイルカだけだそうだ。知ってたか?」

「知りたくないわよそんな知識!!」

「それはどうでしょう。

 サルに貨幣と交換で餌を与える実験をした際に、雌のサルは交尾の際に雄のサルに貨幣を要求するようになったとか。

 これは快楽がある、という前提が無ければ起きない事象ではないでしょうか♡」

「だが待て、性的欲求と快楽が同じと考えるのはどうなんだ?」

「確かにそうですね……性欲は行為の前で、快楽はその後。分けて考えるべきかもしれません♡」

「あんたたち、私を挟んでなに真面目な風に論議をしてるのよ!!」

 

 しけぇしけぇ、と二人をぽかぽか叩き始めたコハル。

 しかし、そんなことは知らぬとハナコと男は割と真面目に論議を重ねていた。

 

「“ほらみんな、洗濯ものを取っておいで”」

 

 真剣に語り合っている二人を他所に、先生は他の面々に行動を促した。

 内容は内容だが、当人たちは至って真面目なのでとりあえず引き離すことにしたのである。

 

 そんなこんなもあったが、こうして四日目は夜を迎えた。

 

 

 

 §§§

 

 

 時間は深夜。

 遅くまでヒフミが先生と次の模試の打ち合わせを終えて、戻った頃。

 

「さて、そろそろ始めるか」

「“うん”」

 

 男は同じく模試の手伝いをしていたトリコに目配せをする。

 

「はい、ドアの前で見張りをします」

「“なるべくすぐ済ませるよ”」

「そうなると良いな」

 

 これから行うのは、大人たちと当事者たちの悪だくみ。

 すぐに終わるとは思えない、と男は思った。

 

「あ、ハナコさん」

 

 トリコがドアを開けると、そこにはスクール水着姿のハナコが笑みを湛えていた。

 

「あら、今日も模試お手伝いですか、トリコちゃん」

「先生方はこれから職員会議を行います。お引き取りを」

「いや、ハナコは居た方がいい。その前に水着は着替えて来い」

「これは寝間着代わりです♡」

「“水着を寝間着代わりって言われても……”」

 

 こほん、と先生は咳払いした。

 

「“なにか用かな、ハナコ”」

「ええ、だって、早速今朝いらしたんでしょう、黒幕さんが」

「“……”」

「だから居た方がいいって言ったろ」

 

 時折、先生はこの二人の思考に付いていけない時がある。

 過程をすっ飛ばしにする、ある種の天才の特徴なのかもしれない、と実感する先生だった。

 

「もういい。先方も待たせてる。

 それじゃ、リモート通話を始めるぞ」

「“そうだね”」

「?」

 

 とりあえず、二人はハナコの格好を無視して、ノートパソコンのリモート通話を始めた。

 

『こんばんわ、先生とオオカミさん☆』

 

 通話の相手は、ミカだった。

 画面には彼女の顔が映し出されていた。

 

「ヴェリタスの連中に頼んで幾つものサーバーを経由させて通話している。若干ラグはあるが、問題ないだろう」

「……驚きました。お二人は彼女を味方に引き入れたのですね?」

 

 黒幕がミカであることを、ハナコは驚かなかった。

 そして、彼女がこうして足が付かないように密談をする理由を、ハナコはすぐに理解した。

 

『わーお、すぐに分かっちゃうんだ、流石ハナコちゃん。

 でもなんでスクール水着なの? こんな夜中に水着パーティー中だったの?』

「いえ、これはパジャマなのでお気になさらず」

『う、うん』

 

 とりあえずミカはその事実を脇に置くことにした。

 

「先生、ハナコに今朝の事を説明してやれよ」

「“うん”」

 

 男に促され、先生はハナコに今朝の話をした。

 

「そうですか。アリウス分校……。過去の遺物が、今になって私達に牙を剥こうとしているのですね」

「先生はそいつらをも救おうとしている。

 ミカも方向性は同じだ。だから手を組もうってことになった」

「あなたも同意見なのですか?」

「目聡いな、流石お前だ。俺は二人に絆されちまった」

 

 ハナコがこの男なら決してそんなことで納得しないと考えての確認だったが、男は肩を竦めて見せた。

 

「じゃあ、セイアちゃんへの襲撃も、ミカさんが主導ということで良いんですね?」

『責任は、この一件が終わったら取るつもりだから』

「……そうですか。なら、私が言うことはありません。

 後で本人に謝ってください」

『いじわるだね。今のセイアちゃんには何も聞こえないのに』

「先生、本当にミカさんは信用できますか?」

「“私は、信じたよ”」

 

 ハナコは先生から男に目を向ける。

 彼は力無く笑って肩を竦めるだけだった。

 

「いえ、ここまで話した以上、皆さんは一蓮托生のはずでしょうから、私も信じましょう。

 ミカさん、セイアちゃんは無事です。ヘイローが破壊されたというのは、私が彼女を匿う為に流した偽情報です」

『え、うそ……』

「今はミネ団長が付きっ切りで護衛をしてくださってます」

『そう……なんだ……』

 

 ミカは少し呆然とした後、よかった、と呟いた。

 

『先生、全て私がバカでした。

 先生たちの信頼に応える為に、全力を尽くします。

 これ以上私が間違える前に、止めてくれてありがとうございました』

 

 画面の奥のミカが、頭を下げた。

 その彼女から、憑き物が落ちたように力が抜けていたのを先生は見た。

 

 彼女はもう、止まれなかったのだ。

 仲の良かったはずのティーパーティーの仲間を、事実上の死に追いやったとして。

 

「状況の説明はそろそろいいだろう。

 そろそろ、本題に入ろうか」

「その前に一つだけ確認を良いですか?

 ここに、ヒフミちゃんが居ない理由は、彼女を巻き込まないためですか、それとも利用する為?」

「わかってるなら一々聞くな」

 

 男は横目でハナコを睨んだ。

 

「“利用するって、どういうことだい?”」

 

 先生もヒフミをこの密談に参加させない理由を、巻き込まない為だと言われたからと納得した。

 利用する、なんて聞いて居なかった。

 

「順序良く、効率的に話を進めるぞ。

 夜は無限じゃないからな」

『夜更かしはお肌の敵だしね!!』

「若いんだからそんなに気にすることは無いだろ」

 

 ミカの発言に男は苦笑する。

 

『そんなこと無いのに。男の人って無神経なんだね、そう思わないハナコちゃん?』

「うふふ、そうですね」

「…………」

『さ、始めてください……』

 

 男の機嫌が露骨に悪くなったのを見て、ミカが話を促した。

 

「俺達の最終目的を確認する。

 アリウスの救済。二人とも、それでいいか?

 ハナコも、それについて問題無いか?」

 

 三人は、男の確認に頷いた。

 

「俺は先生に作戦立案を頼まれた。

 ハッキリ言って、まともな方法じゃアリウスはどうにもできない。それは覚悟してほしい」

「“承知の上だよ”」

『それは、誰よりも分かってるつもりだよ』

 

 男は二人の言葉を受け、もう一度頷いた。

 

「作戦は単純だ。連中の戦力を分断し、こちらから兵力を投入してアリウス自治区を壊滅させる。

 そのために、この合宿所を利用する。幸い、アズサがそこら中に罠を仕掛けてくれた。防衛には適している」

「“本当に、単純だ……”」

「奇策を弄する意味は無いからな。所詮、奇策とは弱者の乾坤一擲の策に過ぎない。

 王者は王者らしい戦いをすればいい」

「その為の兵力はどこから調達するつもりですか?」

「おいおい」

 

 ハナコの問いに、男はニヤリと笑う。

 

「このキヴォトスで、どうして戦力に困るって言うんだ?

 兵員の調達は俺に任せろ。ここを攻めるアリウスの連中の度肝を抜かせてやる」

 

 男は自信満々にそう答えた。

 

「“それについては任せるよ”」

『私は、何をすればいいの?』

「それを今から説明する」

 

 男は作戦の詳細を語り始めた。

 

「この作戦の肝は、ナギサだ」

 

 そうして語られる、悪魔の所業。

 絶句する、三人。

 

「こ、これは、ヒフミちゃんには話せませんね……」

 

 ハナコの笑みが引きつっていた。

 それぐらい悪辣で、効果的で、容赦がなかった。

 

「兵力の動員に十日は欲しいな。

 丁度、補習授業部の第三次試験がその頃だから、そのタイミングを狙おう。

 それまでにやることは、アリウス自治区の場所の割り出し、ナギサの心理的誘導。以上だ」

 

 男の作戦は本当にシンプルだった。

 不確定要素を排除すれば、確実な勝利が誰にでも理解できた。

 その不確定要素も、悪魔の所業で確かなものとする。

 

 狂っている。だが勝てる。

 三人はこの男の軍略の恐ろしさを、初めてその身で理解した。

 

「しかし、アリウスを倒せたとしても、これまで差し伸べられてきた手を断ってきた彼女達が納得するでしょうか?」

「ハナコ。分かってないな、歴史ってのは勝者が作るんだ」

 

 そして、男が語るアリウスの救済方法

 まさに、男の言う通り、勝者が歴史を作る。それそのものだった。

 

「アリウスの連中が他人の手を取らないのなら、彼女達が自分で自分の手を差し伸べればいい」

 

 一見して矛盾した言葉。

 しかし、聞かされてみれば頷くしかない、その知略。

 

『そんな発想は無かった……』

 

 ミカは先ほどからずっと唖然としっぱなしだった。

 男のイカレた、その作戦内容に。

 

「アリウスの積年の憎しみが、敗者の歴史だというのなら、勝者の歴史を与えてやればいい。

 いいか、歴史とは誇りであり、尊厳だ。

 腹を空かしたガキに過ぎないアリウスどもは、それに飛びつくしかない。これまでの憎悪なんて、すぐに放り捨てる」

 

 くつくつ、と男は笑う。

 人間と言う概念を理解し尽くした、悪魔の笑みだった。

 

「“……それで行こう”」

 

 ずっとドン引きしていた先生は、その作戦を承認していた。

 

「“その方法で、彼女達を救おう”」

「じゃあそう言うことで」

 

 それで、そう言うことに、なった。

 

「歴史ってのは、厄介でな。

 そこが聖地だってことになったら、誰もそれを知らないのに馬鹿みたいに命を掛ける。

 所詮、土地は土地に過ぎないのにな」

 

 そう言って、男はミカを見た。

 

「だからミカ、お前の一番重要な仕事は“疑われない”ことだ。

 これまで通り、アイツらの味方として動け。

 そしてこちらの指示したタイミングで、作戦を実行しろ」

『……うん。ナギちゃんには悪いけど、まあ積年の恨みつらみも有るし?

 幼馴染だからって扱いが悪すぎると思うし!!』

「自業自得の部分があるとはいえ、彼女も不憫ですね……」

 

 自分ならここまではしない、と内心思うハナコだった。

 

「先生も、文句は無いよな?」

「“……わかったよ。でも、ナギサを傷つけたらダメだよ?”」

「ああ、俺(・)か(・)ら(・)は指一本触れないと約束する」

 

 そう言うことなら、と先生は男の言葉に頷いた。

 

「ハナコ、お前から意見はあるか?」

 

 男がハナコに問うた。

 

「……そうですね、私の想像通りなら、教官の集める戦力を倍増させる方法を思いつきました」

「ほう、言ってみろ」

「これをされたら、アリウスの人達はとてもビックリすると思います♡」

 

 そして、ハナコは男に詳細を説明した。

 

「その発想は無かった。先生、服飾専門の学校があったはずだよな、そこに明日連絡を取ってくれ」

「“わかった、任せてくれ”」

「あと、この不確定要素の振れ幅を小さくする方法ですけど……」

 

 ハナコは次々と意見を述べて、男の作戦を修正していく。

 作戦はより完璧に、より確実性が増していく。

 

 先生は思った。

 この二人は、最悪なほどに相性が最高だ、と。

 

『ねえ、先生。私達、アリウスの子たちを助けようとしているんだよね?』

「“うん……”」

『徹底的にイジメるの間違いじゃないかな』

「“……そうかもね”」

 

 この二人を相手にするアリウスの面々が、憐れでしかなかった。

 

 戦争は、始める時点で九割が終わっているという。

 事前の準備こそが、戦争では肝要であると。

 

 九割勝てる男の作戦の残り一割を、ハナコが埋める。

 アリウスに、一切合切の勝ち目を奪っていく。

 

『私、先生の味方になって良かった……』

 

 ミカは心底理解した。

 自分が寝返らなくても、この作戦はほぼ変わらない形で実行されたと。

 自分が、その矛先を向けられずに済んだのだと。

 

「“……私も、心からそう思うよ”」

 

 やっぱり最初に味方につけておいてよかった、と先生はしみじみそう思うのだった。

 

 

 そうして、程なくして作戦の詳細が決定した。

 

 先生にとって長いこの日が、終わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、トイレトイレ……」

 

 深夜、夜遅く。

 コハルは独り合宿所の廊下を歩いていた。

 寝起きに催して、トイレに向かっていたのだ。

 

 彼女は無事、トイレを終えて部屋に戻ろうとした。

 

「……あれ、トリコとウズ、まだ起きてるの?」

 

 時間はとっくに深夜三時を回っている。

 だというのに、二人の部屋から明かりが漏れていた。

 

「まったく、明日の授業中に寝てたら承知しないわよ」

 

 などと、彼女が思っていると。

 

 

『あッ、そこは、ダメです、ボス!?』

 

 そんな喘ぎ声が聞こえて、彼女の心臓は飛び跳ねた。

 

『なにがダメなんだ、お前ここが弱いだろ? 知ってるぜ』

『ひうッ』

『あッ、あッ、姉さん、姉さん、私のトリコ姉さんが乱れてッ、私見てるだけなんてッ』

『み、見ないで、ウズ……』

『姉さん、きれい……はあはあ』

 

 コハルは心臓がバクバク鼓動しながら、ドアの前で聞き耳を立て始めた。

 

「な、なにが、中でなにが……」

 

 ごくり、といつの間にか口の中にたまっていた唾を呑む。

 

 喘ぎ声だけでなく、何かを打ち付ける水音、艶めかしい息まで聞こえてくる。

 

 その水音は、いつの間にか自分からも聞こえ始めた。

 コハルはいつの間にか、無意識に自分を慰めていた。

 

「ダメ、こんなのダメなんだから……これは、監視、監視だから……」

 

 そんな言い訳を繰り返しながら、ほんの僅かなドアの隙間から中を見ようと試みる。

 

 この日の夜は、彼女にとっても長いものになろうとしていた。

 

 

 

 





昨日は結局連続更新できませんでした。
忘れていました、マスターデュエルのイベント開始日だってことを!!

今回の作戦会議の答え合わせは、もう少し先になります。
ただひとつ言えることは、ナギサの脳が原作以上に破壊されるということでしょうか……。

ではまた、次回!!
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