ついでにマコト実装おめでとう。
「とりあえず、敵精鋭への妨害工作はこれで完了だ。
あとは便利屋の四人次第だが、とにかく長引かせろと言ってある」
「“相変わらず、えげつない……”」
妨害工作を終えた男が報告に戻って来たのは、夕日が完全に落ちた頃だった。
先生たちはもうその頃には夕飯を終えていた。
アリウスの精鋭にして、工作部隊。
男はそれが遊兵となっているのを嫌った。
「しかし重要なのは、アリウスには自分たちとは全く別の、起源を同じくする存在が居る、それを連中に知らしめることだ」
「“それに、どんな意味があるの?”」
「ミカを思い出してみろ。あいつはアリウスが同じ民族と言うだけで、仲よくしようなんて妄言をほざいた。
それと同じ事例は、国家単位でも存在する」
男は己の経験から似た事例を話した。
「俺のかつての故郷では、核兵器を開発する独裁者の居る国家と、そのすぐ近くに敵対する民主主義の国家が存在した。
両者は相いれなかったが、国民には元々は同じ民族なんだから仲よくしよう、なんて声も確かに存在した。
これだけで、同じ民族というのがどれだけ信用の最低値を担保できるか分かるだろう?」
なるほど、と先生は頷いた。
「同じ民族なら、例えば亡命したりしても悪いようにはしないかもしれない、なんて頭に過ってしまう。
裏切り者が出ても、同じ民族相手へならと、もしかしたらと信じてしまう。
これはその為の布石なのだよ」
「“彼女達の、精神的な逃げ道を用意したのか”」
「ああ、その為に、存在しない架空のアリウスを作り上げた」
アリウスの生徒たちは例外なく劣悪な環境に居て、しかしそんな彼女達の前に、自分たちとは全く別の裕福な同族が現れたらどう思うだろう?
同じ民族なら受け入れてもらえるかもしれない。
そんな、魔が差しても可笑しくはない。
「戦闘を行えば物資を消耗する。
補給するにも事情を説明しないといけない。
必然的に、架空のアリウスの存在が別の部隊への噂となり、浸透していく。どれだけ緘口令を敷こうとも、だ」
男には彼女らが混乱し、困惑する姿が想像できるようであった。
「それが、劇毒だと知らずにな」
「“それが、彼女達自身が自分たちに手を差し伸べる方法、か”」
トリニティや連邦生徒会の救いの手を振り払った彼女達も、元々は同じ境遇の民族というだけで、どこか仲間なんじゃないかと錯覚をする。
同じ民族でも、弾圧側に回ったトリニティとは根本的に違う、架空のアリウスは彼女達にとって衝撃を齎すだろう。
「“勝者が歴史を作る、か”」
そして男は作り上げた。
思わず縋ってしまいたくなるような、勝者の辿ったアリウスの歴史を。
「ミカには、そんな馬鹿馬鹿しい存在は相手にするな、と命令するように言っておいた。
アリウスの精鋭だけで対処しろ、とな。これで敵の工作部隊を封殺できる。一石二鳥だ」
「“本当にヒドイ……”」
先生は改めてそう思ったのだった。
何が酷いかと言うと、彼女達にその真偽を証明する手段が無いと言うことだ。
まるで、楽園に辿り着いた者の存在が証明できないように。
楽園に辿り着いて、その在り処を証明しようと帰って来た者が嘘吐き呼ばわりされるように。
逆に、日の光が上る方向に黄金郷が存在すると信じるかのように。
それを証明する方法は、どこにも無いというのに。
そのくせ、その存在しない筈の事実は無価値であるとは口が裂けても言えないほど重いものだった。
「“それと、アズサがこんなことを言っていたよ”」
先生は、水着パーティー中のアズサの発言を男に聞かせた。
「そうか……。アズサがそんなことを……」
いつか自分が裏切るかもしれない。そんなことは、裏切り者は言わない。
彼女は揺れているのだ。テロリストの自分と、補習授業部の自分との間に。
「“以前の問いに、今私は答えるよ。
私はアズサを、生徒として導くことに
力強い決意が、そこにはあった。
「……わかった。ゲームの魔王と同じか。
裏切り者など、どこにも居はしなかった。そう言うことだな」
「“うん、アズサは学ぶ喜びを知った。それを誰にも否定させることはさせない”」
「先生……」
男は感じ入るように目を瞑った。
「ひとつだけ、聞かせてくれないか?」
「“何だい?”」
「お前はかつて、生徒に手を差し伸べることが自分の仕事だと言った。
だが、一体アリウスの誰が、お前の助けを望んだ?
以前のお前なら、恐らくミカの言葉を聞いても、助けを望むまで何もしなかっただろう。
だが、今回はなぜ、お前は自ら動くことを決めた?」
男の問いに、なんだそんなことか、と先生はいつものように微笑んだ。
「“私は何も変わっていないよ。ただ、ほんの少しだけ新任の頃より世情を知っただけさ”」
「そんなわけないだろう」
「“違わないさ。私の仕事は、生徒に寄り添い手を差し伸べること。
私の手を取るかどうかは、生徒達の自由であるべきだ。
生徒達が間違い、一緒に謝ってほしいと言われたら、共に頭を下げる。夢を叶えるのに子供たちでは難しい時は小さな一助として手助けをしよう”」
男は黙って、先生の言葉を胸に刻んでいく。
「“君は、初めて会った次の日に、アビドスの子たちは正常なのか、と問うたね。
なら、今のアリウスの子たちは正常なのかい?”」
「いいや、違う。そんなわけ、あって良いはずがない」
「“彼らは私の手助けを求める、その自由があるのかい?”」
「あるわけがない!!」
「“そう言うことさ”」
それはある種の、傲慢なのだろう。
何が正常で、何が狂っているのか。それを保証するのは誰も居ないのだから。
「“学ぶことのできない彼女達に、学びの機会を与える。なぜなら、彼女達は“分校”に所属しているんだから。
ならば私の領分だ。シャーレとして、勉強を出来る環境を与えたい。
そして、私の手を取るか否かの、自由を与えたい”」
だから、先生の規範は、生徒たちの為に。生徒として、どうあるべきかを問うていた。
善や悪ではない。有り方を示そうとしていた。
「……中道、か」
決して善を敷くのでもなく、悪を唆すのでもない。
必要に応じて、必要なことをしてあげたい。
先生にとって、ただそれだけのことなのだ。
「“私は、先生として、彼女達に私の手を取る機会を与えたいだけさ。
もしその時になって、私の手を振り払っても構わない。だけどその結果、食べるモノも寝る場所も、勉強をする環境が整っていない状況に放り込まれるなんてあってはならない。私の手を取った結果、それが生徒たちの進む道が彼女達にとって誤ったモノであってはならない。それだけさ”」
それは聖者とか、或いは逆に邪悪であるとか、そんな華美な言葉で着飾るようなモノではなかった。
彼は、“先生”。
彼を表現するのに、それ以外の余計な言葉は必要無かった。
彼はただ、己の道の真ん中を歩むだけなのだから。
最初から何一つとして、彼は変わってなどいなかった。
「ああ……」
男は先生の言葉を全て噛み締めると、溜息を吐いた。
「先生、俺はもっと早く、お前に会いたかったよ……」
それは、どうしようもないほど、残酷な本音だった。
先生も曖昧に笑う他なかった。もしもっと早く彼と出会っていれば、今の自分は居ないのだと思ったからだ。
「男に惚れそうになったのは初めてだ。
どうだ先生、生徒に手を出すのがイヤなら俺のケツを貸すぜ?」
「“今すぐ絶交しよう”」
「冗談だよ、まったく!!」
なぜふざけないと終われないのか、と先生がジト目で大笑いする男を見ていると。
「先生方、少しよろしいですか」
「“どうしたの、トリコ”」
ノックの後、トリコの声が聞こえて、先生が尋ねる。
「皆さんが、夜の散歩に行きたいと仰られて。
私は多少なら構わないと言ったのですが、皆さんは先生方もご一緒に、と」
「明日もあるってのに、余裕だなあいつら」
合格ラインに到達しそうになった途端これだ、とでも言いたそうな男だった。
「“まあ、息抜きも必要だよ”」
「やれやれ……夜遊びは大人の特権だろうに」
先生は乗り気だし、目を離す訳にもいかないので、男も渋々同行することにした。
§§§
そうして、補習授業部の面々+大人たちはトリニティの繁華街へと赴いた。
この辺りはハナコの言う通り、24時間営業の店も多く、まばらだが人通りも存在している。
だから、むしろ八人の大所帯は目立っていた。
「ごほッ、私は合宿所に残れば良かったかもしれません」
寝る時間なのに連れ出される形になったウズが抗議じみた言葉を漏らした。
「ごめんなさいウズちゃん。
でも一人だけお留守番は可哀想かと思って……」
「……いえ、気にしないでください。ですよね、リコ姉さん♪」
ヒフミの申し訳なさそうな表情に、ウズも歯切れが悪そうな表情になって、真横に居るトリコを見て開き直った。
「思ったんだけどよ、大人同伴の夜遊びって楽しいのか?
俺はあのクソゲーオブザイヤー受賞作、グランディア3で最初の村から旅立ちの時に母親が付いてきて萎えた覚えがあるぞ」
しかもすぐにダメ男に付いてって永久離脱するし、と女子の買い物に付き合う調子の男はそんなことを言った。
もう既に彼は面倒臭そうである。
「おや、わかりませんか? 女子高生が大人の男性と深夜の町を歩き回るんですよ♡」
「ほほう。ならアズサ、おじちゃんとパパ活でもしようぜぇ」
「教官、パパ活とはなんでしょうか?」
「何教えようとしてるの、エッチなのは禁止って言ってるでしょ!!」
「おやおやコハル君。パパ活は基本的に年上の男性とデートすることだぞ。少なくとも本来の意味として、肉体関係が前提ではない」
「同じことじゃない!!」
「つまり、今私達は集団パパ活をしているということでしょうか♡」
「そんなわけ無いでしょ!!」
「あはは……」
ヒフミは思った。
相変わらず騒がしいな、と。
「そもそも、だ。金を出して付き合うってのが好かん。
男は女に金をせびってなんぼだろうに」
「あら、流石にそれは擁護できない発言ですよ」
「バーカ、それぐらい惚れさせるのが男の義務なんだよ」
「“でも男の株は下がるね”」
「うぐ、痛いとこ突くじゃねぇか……」
怯んだ男に、先生はふと思いついて追撃を試みる。
「“そう言えば、トリニティで一番頭がいい女性は誰かって聞いたよね”」
「おい、止めろ」
「“それって、ハナコじゃないかな?”」
「やめろぉ!! 考えないようにしてたんだぞ、このヤロウ!!」
男は先生の両肩を掴んで揺さぶりながら叫んだ。
「あらあら、どういうことですか? なんで私の名前が出てきたんですか♡」
「きっと頭の良い女性を抱けば男の株が上がるとでも思ったんじゃないですか」
普段の仕返しに、ウズがそんなことをハナコに言った。
当然、ウズの正体を知っているハナコは満面の笑みになった。
「教官、まさかそんなことを考えていらしたとは。
そこまで仰るなら、この私も一肌脱ぎましょう♡」
「……恥ずかしいなら止めとけよ。お前が割と身持ちが硬いのは分かってんだよ」
そんなことを言いながらも頬を赤く染めているハナコを、男は白い目で見ていた。
「お前はエロゲのキャラなら序盤に前戯まではさせてくれるけど、本番は個別ルートに入らないとさせてくれないタイプだ。しかも攻略手順がクソ面倒で地雷選択肢が多い上に、バッドエンドで背中から刺し殺してくるに違いない」
「こんな風にですか?」
ハナコは無神経な男の足を踏んだ。
「あ痛ッ、やったなこのアマ!!」
「乙女に暴言を吐いた罰です♡」
「はッ、笑わせるな、どうせバイブかなんかで膜とか破っちまってるくせに」
「うふふ、ライン超えですよ、教官」
「おや図星か、トイレのハナコちゃん?」
隣り合って歩いている筈の二人から、目に見えない猛烈なオーラが発せられ始めた。
他の面々が、そそそ、と距離を取る中で、先生だけは近づいた。
「“二人とも、喧嘩は良くないよ”」
「……そうだな。悪かった。俺も言い過ぎた」
「こちらこそ、悪ふざけが過ぎました」
お互いに矛を収めたのを見て、先生は溜息を吐いた。
争いは同じレベルでしか起こらないというが、果たしてこの二人が同じレベルと言うのはどんな基準に寄るものなのだろうか。
「でも実際、お前何で補習授業部なんぞに居るんだ?
お前ならどの派閥でも引っ張りだこだろうに」
「それは、どの派閥に行っても、こんなくだらない会話なんて出来ないから、ですかね♡」
「まあ、お前に喧嘩を売れるのは俺くらいなものか」
「ええ本当に。表立って暴言なんて、初めてでした……」
「……やめちまえよ、こんな狭苦しい学校」
「だからここに居るんですよ」
「そうか……嫌になったらいつでもゲヘナに来いよ。少なくとも、気に入らん奴はいつでもぶん殴れるぞ」
「ふふふ、考えておきますね」
今度はまた別の意味で近寄りがたい話をしている二人を見て、先生は人間関係の複雑さに溜息を吐いた。
ハナコの本音を引き出せるのは、この男ぐらいしかいないだろうな、と思いながら。
「そんで俺とお前でマコトどもを引きずり降ろそうぜ!!
お前を生徒会長にして好き放題しようぜ!!」
「なら、全校生徒水着が制服とかにしてみましょうか♡」
「お前、天才かよ。風紀委員会で水着にならない奴を全員取り締まってやろうぜ!!」
「勿論、風紀委員も全員水着ですよね♡」
「ああ、しかも角度がエグイ奴にしようぜ!!」
「良いですね♡」
「“やめてあげなさい”」
この二人なら割と本当に出来てしまいそうなだけに、先生は本気で制止したのだった。
「ああ、そういえばあんたって元々ゲヘナに居たんだっけ……」
「おう。風紀委員会の特別顧問官をしてな。日々真面目に学校生活をする連中を脅かすテロリストどもの性根を叩きなおしてたんだ」
「……何で辞めちゃったの?」
「アコっていう牛チチ女の胸を揉みしだいた」
「解雇ぉぉおお!!」
コハルは叫びながら男に向かって銃を向けた。
「おいおいやめろって、俺を現世から解雇するつもりかよ」
「だって、セクハラで解雇されたんでしょ!! そんなの死刑よ、死刑!!」
「待ってくれ、コハル。ハナコに拒否反応を示す教官が、牛のような胸部を持つ女性に自ら触れるとは考えにくい。
教官の事だ、何かしらの偽装工作に違いない」
「セクハラが何の偽装なのよ!!」
真面目に考察をするアズサに、コハルが食って掛かる。
「ああ、本当ならイオリが良かったんだが、あいつの胸を揉んだら殴り殺されそうだったからな。
チナツも好みからは外れてたし、どうせだから反応が面白そうな方を揉んでみたんだ」
「本人はこう供述してるけど!?」
「教官、それはどのような意図の作戦なのでしょうか」
「私の話を聞け!!」
「そう言えばアズサ、お前は拷問に対する訓練も受けているのだったな」
「サーイエッサー。全部の指と爪の間に針を入れられても、眉一つ動かしません。サー!!」
「なにそれ、想像しただけで痛すぎるんだけど……」
「しかしお前も女性兵士だ。敵の拷問は苦痛だけとは限らん。性的な拷問も有りうるだろう。
それを想定した特別訓練をしてやろう」
「ありがとうございます、教官!!」
「あんたたちいい加減にしなさいよ!!」
「これは、まさか無知シチュですか♡」
「ハナコ、あんたまで入って来るなぁ!!」
わいわいがやがや、大通りを大騒ぎする面々を、ヒフミは恥ずかしそうに俯いて周囲の視線から耐えていた。
「あんたがそんなんだから、ハスミ先輩がゲヘナで辱めを受けたのよ!!」
「……どういうことだ?」
「急に何よ……」
突然にコハルの話に耳を傾けだした男。
そして明かされる、衝撃の話。
エデン条約の会議をする際、マコトが口走ったハスミへの数々の妄言。
「……うちのゲヘナバカマコトがすまない」
男は本当に申し訳なさそうにそう言った。
「今はゲヘナを離れているとはいえ、アレを始末しなかった俺の責任だ。
我が麗しの風紀委員長がその気だったら、あんな馬鹿どもをさっさと始末したものを……」
「いや、そこまでしなくても……」
「ああ、今でも夢想するよ。
我が麗しの風紀委員長が、ゲヘナの頂点に立つのを」
男は目を閉じる。
脳裏に、己の崇拝する理想の女性が権力の頂点を極めている姿が浮かんだ。
『我らのヒナ総統の誕生を祝して!!』
『ヒナ総統、万歳!!』
『ヒナ総統万歳!!』
『ゲヘナ学園帝国万歳ッ!!』
「ってな感じよ」
「いや、それ、なんか違くありません?」
どう見ても生徒会のトップに立っているような男の理想像とは違う光景に、ヒフミがツッコミを入れた。
「彼女が武力でキヴォトスを制圧したいと言わなくてよかったぜ。俺は先生とは戦いたくないからな」
「“ああ、本当にね”」
言ったなら本当にやったんだろうなぁ、という妙な信頼が先生には芽生えていた。
「あ、ここにもスイーツ屋」
「話がはずんでいるとお腹が空きますね。
ここらで何か食べましょうか?」
「あ、ここの限定パフェ、すっごく美味しいんですよ!!」
二十四時間やってるとは知りませんでした、とヒフミは賛成のようだった。
「甘いものか、いいよな。夜に食べる罪悪感。
でも知ってるか、夜中に食うと脂質の増加量は普段の二十倍にもなるんだとか」
「あうう、き、聞きたくありませんでした」
「所詮どこぞのテレビ番組の調査結果だ。気にするな」
絶妙に食欲の失せる男の豆知識に、ヒフミの頬が引きつる。
しかし、店員は限定パフェの最後の三つが直前に売り切れてしまったと話した。
「残り三つしかなかったのか。どの道全員は食べられなかったな」
「“君って甘いモノ結構好きだよね。よく差し入れてくれるし”」
「お、分かるか? 実は甘いモノ結構好きなんだよな」
厳つい見た目なのに意外だな、と生徒たちが思っていると。
「……あら?」
聞き覚えのある声に、全員の視線が向いた。
「せ、先生……?」
三つのパフェの器を前にして、最後の一つに手を掛けているハスミの姿が有った。
「“ハスミ?”」
「は、ハスミ先輩!?」
「うっぷ……」
「あら、それが限定パフェですか? なにやら沢山……」
男は騒ぎ出した生徒たちから背けるように、身体を後ろに向けた。
「ボス、大丈夫ですか?」
「ああ悪い。彼女を認識した瞬間、室内の巨乳密度に気分が……」
「相変わらず失礼ですね、あなたは!!」
ダイエット中なのを誤魔化すように、ハスミは声を荒げた。
「いや、本当に君は悪く無いんだ。
ただ、今はぴちぴちでも将来は劣化して、腐った果実みたいに垂れるんだろうなぁ、と思うと吐き気が」
「あああああぁぁ、これだからゲヘナの奴らはぁ!!」
「落ち着いて、ハスミ先輩!!」
「そうです。実際は貧乳でも垂れるそうですよ♡」
「そう言う問題じゃありません!!」
「うッ、おえええええぇぇぇ」
「きゃああ、教官が嫌な現実に直面して吐いたぁ!!」
一通り胃の中身を吐き出した男は、店員の助けもあって店はすぐにきれいになった。
「コハル、こっちに来てくれ」
「だ、大丈夫?」
「ああ……お前の胸を見てると、落ち着いてきた」
「私は垂れるほど胸が無いって言いたいの!?」
結局全員、店内で騒ぎを起こしてしまって逃げるように外に出ることになった。
「ああ、最後の一つが……」
ハスミは結局、最後のパフェを食べ損ねてしまった。
「はあ、外に出たら落ち着いた。
悪かったなデカチ……デカハネちゃん。お詫びにそのうちマコトのバカは〆ておくわ。これは借りな」
「一体何と言いかけたんですか? いえ、もう良いです」
彼に本気で悪気が無いと分かっているので、ハスミが折れた。
先の会議でマコトの態度も悪気が無いのかもしれないが、彼女の場合絶妙にそうであると断定できないところがあるのである。
その時、ハスミの携帯端末の着信音が鳴った。
彼女はスマホを手に取った。
「はい、もしもし。ええ、問題ありません」
ハスミと電話の相手のやり取りが聞こえる。
その度に、男の目が据わっていくのが周囲の面々にはわかった。
「……こほん。アップルマンさん、早速で悪いですが、借りを返してもらいますよ」
「……だそうだ、お前ら」
男は、己の教え子たちへ振り向いた。
狩人の目つきの男に、彼女達もすぐに戦いの目つきになる。
「勉強だけでなく、訓練も施していると聞きましたが……」
ハスミは唸る。
顔見知りのコハルだけとっても、雰囲気が違う。
スイッチを入れるように、日常から非日常へと移行した。
キヴォトスの生徒たちは所詮、武器を持った女子学生に過ぎない。
そこには、少女らしい感情が存在する。
だが、この男の号令ひとつで、彼女達は感情を失った。
ただ効率的に、目の前の敵を殺戮する、兵器へと変貌したのだ。
目の前の男への恐怖、厳しい訓練が、彼女達から感情と言う無駄を削ぎ落した。
「まさかまだ、ゲヘナにテロをする度胸があるバカが居るとはなぁ……。
しかもよりによって、トリニティでやりやがるとは」
生物的な恐怖が沸き上がる笑みを、男は浮かべる。
先ほどまでとは別人の姿に、ハスミは思わずゾッとした。
「“過剰な攻撃や私刑は禁止だからね”」
「わかってるさ、お前の前でそんなことはしない。お前の名誉を、傷つけるわけにはいかないからな」
そう言うことじゃないんだけど、と先生は溜息を吐いた。
「さて、お前ら。お上品に行こう。
お嬢様らしく、淑女のように弾丸をエスコートしてやれ!!」
サーイエッサー、と生徒たちは返答した。
ほぼ同時に、付近で爆発音が聞こえた。
「住人の皆様、真夜中に御免あそばせ!!
各々方、おケツ銃から天使の呟きを御クソテロリストどもに御馳走なさってあげなさい!!」
爆発音に向かって、生徒たちが一糸乱れずに飛び出して行った。
シッテムの箱を開き、先生も彼女達をサポートする。
キヴォトスの夜は、今日も過激だ。
ちなみに、お嬢様言葉で天使の呟きはオナラのことだそうで。
エデン条約編が長いとは言え、今回でもう十一話。
今回で五日目を終えたかったのですが、書けば書く程描写が増える増える。内容が膨らむ膨らむ。
まだ第二次試験終わってないけど、二十話くらいで終わるかなぁ。
ではまた、次回!!
テロリスト……いったいどこの誰なんだろうぁ(すっとぼけ
更生したはずの彼女達が、どう出てくるのかお楽しみに!!