感想を見ると、なんでみんな姫がドスケベなの解釈一致なの!?
……わかるぅ!!
第三次特別試験まで、あと1日半。
作戦決行まで、あと十二時間。
正義実現委員会の本部に当たる教室では、ピリピリした雰囲気が流れていた。
まだナギサの行方どころか、犯人の更なる要求さえも全く無い。
陣頭指揮を執ると言ったミカも常駐し、雰囲気は最悪に近かった。
「そう言えば、ナギちゃんを警護していたって子たちはどうしたの?」
退屈そうにスマホを弄っているミカが問う。
陣頭指揮と言っても、彼女は正義実現委員会の仕事は門外漢なので、状況が動かない現状ではただ居座ってるだけであった。
ミカが生徒会の人間なのもあるが、そんな彼女に何も言えない程度には何も分かっていないハスミ達だった。
「ガスマスクをかぶっていたし、急に襲われたから犯人は分からない、としか。
周辺の監視カメラの類は入念に破壊されていましたので、行方も……」
「本当に実在するの? そのなんとかガスマスク団とかって」
「それすらも分かっていないとしか」
「あー、もう!! ナギちゃんどこ行ったの!!」
ミカは癇癪を起したように騒ぎ出した。
ここ数日、なんの成果も無いのだから仕方がない、とハスミ達は思うのだ。
学園は一見、ナギサの誘拐など無かったかのように何事も無いように運営されている。
混乱を防ぐ為なのもあるが、犯人を刺激しない為でもあった。
「ところで、正義実現委員会の全部隊はいつでも招集できる状態になってるのよね?」
「はい、それは勿論ですが……」
「これは、今入院中のセイアちゃんの予言なんだけど」
「まさかッ、なにか情報が!?」
「うん、多分今夜何がしかの動きがあるって言っていたの」
ティーパーティーのホストが誘拐されているのに、なにも出来ない。
まさに、予言でもなんでも頼りたくなる状況だった。
「このままじゃ埒が明かないし、セイアちゃんの入院している病院に行ってくるね。
その場所は機密だし、私が直接行って何かあったらすぐに伝えられるようにするから」
「わかりました、お願いします。なるべく自然に、本校舎に部隊を集結しておきます」
「うん、誰が相手でも戦えるようにしておいて」
そう言って、ミカは教室を出た。
そして、スマホで電話を掛けた。
「うん、私。彼女達は今夜本校舎から動けない。
私もそっちに行って、確実にあの二人の最期を見届けるから」
『我々だけでも十分だと思いますが』
「セイアちゃんの件、あんなことになったのにその言葉を信用できると思うの?」
『それは……』
「これから私達は長い付き合いになるんだから。
お互いに信用できるようにしたいじゃない?」
『……わかりました。特に不都合はありません』
「うん、じゃあ今夜そっちに合流するね」
『全部隊の集結に、もう少しかかります。そちらも怪しまれないように』
「わかった。じゃあこの後」
ミカはスマホの通話を切った。
「ようやく、始まるね。先生♪」
条件は全て、整った。
アリウス滅亡の時間が、刻一刻と迫っていた。
§§§
作戦決行、十分前。
合宿所の体育館に待機している補習授業部の面々と男は、最後の窓を封鎖していた。
外には巨大なモニターで広告を流している飛行船がゆっくりと流れていた。
「いよいよですね」
「ああ」
男は彼女達と、最後の平穏の時間を過ごしていた。
「なんで、こんなことになっちゃったのかしらね」
「お前は単純に頭が悪かったからだろ」
「ああそうですね!!」
「だが安心しろ。ナギサにテストの範囲を戻すように言っておいた。
緊急事態と言うことで、明日の試験もオジャン。
後日改めて試験日を通達する、と言う流れになる」
「そう……」
コハルは何だか複雑な気分だった。
この作戦は、正義の行いだ。
だが、その為にナギサを犠牲にしなければならなかった。
どうしても、この作戦には彼女が必要だったのだ。
「ナギサ様……」
「ヒフミ。全てが終わったら、あいつを慰めてやれ。
あいつもそれを望んでいた。お前たちに謝って、紅茶と茶菓子を振舞って、話をしたい、とな」
「はい、はいッ、私もそうしたいです」
「その時は一緒にアニメでも見るとか、女子高生らしいことをあいつに教えてやれ」
男は順番に彼女達に声をかけ、最後にアズサに話しかけた。
「仲間と戦うのは、嫌か?」
「何も不安はありません。
どう足掻こうと、彼女達の未来は教官との敵対。
教官の語った未来から、皆を守ります」
「なら、もうお前たちは大丈夫だ」
男はアズサの肩をポンと叩いた。
「総員、傾聴せよ」
男の号令に、四人は整列する。
「お前たちは厳しい訓練を超え、無様なトリカスから真のフロイラインとなった!!
もう俺から教えることは殆どないだろう!!」
「「「「サーイエッサー!!」」」」
彼女達が敬礼を返す。
その時だった、外から爆音が鳴ったのは。
「ヒフミ、紅茶でお客様を出迎えしろ!!」
「了解です、教官!!」
「アズサ、予定通りお客様をご案内だ!!」
「了解です、サー!!」
ヒフミは紅茶を入れ始め、アズサは敵へと向かって行った。
「引くな引くな、相手は少数だ、攻め入ってしまえばこちらが有利だ!!」
敵のそんな声が聞こえ、男は思わずほくそ笑んだ。
敵への破壊工作を終えたアズサが、こちらに戻ってきた。
「よくやったアズサ」
「勿体無いお言葉です」
程なくして、アズサの仕掛けたトラップを踏み越えてきたアリウスの部隊が体育館に突入してきた。
「……なるほど、逃げたのではなく待ち伏せだったと」
「ようこそ、アリウスの諸君。
丁度紅茶を入れたところだ。一緒に飲むか?」
男はヒフミに入れさせた紅茶のティーカップを示した。
「それは時間稼ぎのつもりか?
たった四人で私達相手に何分耐えられると思って──」
「部隊長、ターゲットの先生がどこにも見当たりません!!
それに、報告にあった人数と違います!!」
「なにッ」
「ようやく分かったのか。
アリウス、いや、──
男は笑った。
全ては、計画通りだった。
「羊飼いは嘘を吐いた。
──狼が来た、──狼が来た」
「まさか、これは罠!?」
「──狼が来た」
「Wolf小隊レディ、ゴー!!」
体育館の壁の上部の窓から、窓を蹴破ってWolf小隊の四人が突入してきた。
「総員応戦しろ!!」
「こっちもだ、お客さんを歓迎してやれ」
お互いの指揮官の号令が交差する。
男が鍛え上げた補習授業部とWolf小隊は、二倍の数のアリウス生相手に一方的に戦いを進めた。
「もう、病弱の設定はどうしたのよ、ウズ!!」
「気づいていなかったのはコハルだけだ。
私は重心の位置で、仮病だというのは気づいてた」
「ウソでしょ!?」
戦いながら、コハルはアズサとそんな軽口を言い合う余裕があった。
「平凡な学生生活の友人が、実は元特殊部隊だった……実に憧れる展開だと思いませんか?」
「そう言う展開はアニメだけにしてほしかったです!!」
余裕そうなハナコとは対照的に、ヒフミはいっぱいいっぱいで叫んでいた。
そうしているうちに、彼女達はアリウス生を撃退した。
「か、勝った!!」
「油断は禁物ですよ、作戦は次のフェーズに移行します」
浮かれているコハルに、ハナコが叱咤する。
そう、アリウスの増援部隊はすぐにやってきた。
それは、体育館の半分を埋め尽くさんばかりの人数だ。
「多いな、大隊規模か。アリウスの半分近い戦力の筈だ」
「ってことは、陽動は成功だな」
「──うん、そうだね☆」
「よう、遅かったな。ミカ」
整列するアリウスの部隊の中を、彼女は悠々と現れた。
「ごめんごめん、ちゃんとこれで全員か確認する必要があってさ」
「ミカ殿、何の話ですか?」
「何の話かって? 私がアリウスの戦力の大半をここに誘導したから、その確認だけど?」
「まさかッ、貴様、裏切って──」
「裏切る?」
アリウスの部隊に相対するように前に出たミカは、目を細めた。
「病院送りぐらいでお願い、って頼んだセイアちゃんを殺そうとしたくせに、先に私を裏切り者呼ばわりするんだ?
知ってるよ。初めからセイアちゃんを殺す気だったんでしょ?」
「ッ!?」
「あ、やっぱり図星だったんだ☆
……あなた達、許さないからね」
本気で怒っているミカに、アリウスの面々はその気迫に圧倒されていた。
「構うな、全員殺せ!!」
「その前に、紹介しよう」
その直後だった。
体育館の壇上の裏から、ぞろぞろと武装した集団が現れたのは。
その制服は、ゲヘナの風紀委員会のモノだった。
「お前たちが憎んでやまない、ゲヘナの生徒たちだ」
「ば、バカな、ここはトリニティだぞ!?
なぜゲヘナの風紀委員会が、ここに!!」
「その理由をお前たちが知る必要は無い」
混乱するアリウス生たちに、男は淡々と言葉を告げる。
その様子を見て、ハナコは作戦の成功を確信した。
彼女達は、当然ゲヘナの風紀委員会ではない。
トリニティの自治区に、彼女達が堂々と入れるわけがない。
なら、誰なのか?
答えは、その辺にいる不良たちだ。
ただの不良たちが、風紀委員会の制服を着ているだけだった。
それはまるで、夜中に松明を両手に持って行軍する様を見せ、二倍の兵力だと誤認させるように。
あるはずの無い兵力を、ハナコは生み出した。
雑兵を、精鋭に変える
その辺に居る不良を集めて兵力にする、と言う男の常套手段をハナコは昇華させた。
「こいつらは俺が鍛えた、ゲヘナの精鋭だ。
お前達が何を憎んでいるのか、たっぷり教えてやるよ」
「く、くそッ」
敵味方、ほぼ同数。
しかし、アリウスの兵力と、偽風紀委員の戦力差を差し引いても、男の側がやや有利。
不良たちがいくら雑兵でも、銃は撃てる。
ミカを突撃させて指揮系統を混乱させれば、どうにでも料理できる程度の戦力差だった。
「我々の任務は、貴様を殺すことだ!!
お前さえ倒せばすべて片が付く!!」
「くくッ、くくくッ」
「何が可笑しい!!」
「──いや。そろそろ頃合いかと思ってな」
男はスマホに向けて、こう言った。
「ヒマリ、頼んだぞ」
『はいはい、都合のいい系天才美少女ハッカーの出番ですね』
男は事前にヒマリに頼んでおいた、作戦を実行させた。
何が起こったのかは、すぐに誰もが分かった。
『隊長、大変です!!』
「何事だ、今戦闘中だ!!」
アリウス生の無線から、悲鳴じみた声が出た。
「聞いてやれよ。可哀想じゃないか」
「くッ、何事だ!!」
男は紳士的に応答を促した。
『ナギサ、桐藤ナギサですッ!!
と、とにかくッ、外を見てください!!」
大隊の構成人数は最低でも300人からなる。
当然、合宿所がいくら広くても、その全員が中で戦えるわけでも無い。
後詰めが外で待機していて当然で、待機しているアリウス生が無線で連絡を取って来たのだ。
「ここからじゃ見えないね」
ミカは無造作に壁に近づくと、パンチを繰り出した。
体育館の壁に大穴が空いた。
「ゴリラかよ……」
男がぼやいた。
その所作に一同が戦慄していると、外の景色が見えた。
丁度、広告を垂れ流していた飛行船のモニターに、ナギサの顔が映っていた。
「あ、ナギちゃんだ!!」
大部隊が睨み合っている現状にそぐわない笑みで、ミカがそれを指差した。
一方その頃、正義実現委員会の教室では。
『皆さん、聞いてください。トリニティ総合学園、ティーパーティーのホストである桐藤ナギサです』
「い、一体、何が起こっているのですか!?」
「分かりません!! ただ、無数の公共施設から、この映像が流れているようです!!」
映像は数分の内容で、何度もループして流されている。
「これほど大規模なハッキングですって!?」
当然、正義実現委員会の本部のテレビにも、その映像は映し出されていた。
「動画配信サイトやニュース画面でも、この映像は流れているようです!!」
「さっきから問い合わせが止みません!!」
委員会の構成メンバーから悲鳴が上がる。
関係各所、いや、トリニティ中からこの内容が本当なのかの問い合わせが来ているのだ。
ハスミが対応に明け暮れている中で、ツルギは黙って映像を見ていた。
そして、己のすべきことを定めていたのだ。
『つい先ほどまで、私は拉致監禁されていました。
これは間違いない事実で、ティーパーティーや正義実現委員会も把握している筈です』
かなりやつれた様子のナギサが画面から語り掛けてくる。
『私を救出し解放してくれたのは、かつてトリニティ学園が追放し、弾圧したはずのアリウスの末裔たちでした。
彼らの話を聞いてあげてください』
そう言って、ナギサは画面外へと体を避けた。
そして、その奥には百人以上の覆面を被った生徒たちがずらりと並んでいた。
『私達は、アリウス系のアビドス地下組織、その名も覆面水着団!!』
『トリニティから追放された我らの祖先の一部はアビドスに逃れ、その影となってかつてのアビドスの最盛期を守ってきた』
『私達と同じような境遇の同胞は、ゲヘナにも居る』
『影に過ぎなかった私達が、こうして表舞台に姿を現すのには理由があるんです!!』
『即ち、トリニティ学園転覆を企てる、ガスガスガスマスク団の存在だよ!!』
代表らしき五人が、順番に話始めた。
『連中は伝統ある我らの祖先の制服を身に纏った、カルト集団!!
教祖たる魔女ベアトリーチェに支配された、邪悪なテロリスト集団なのよ!!』
『退学になった生徒たちをアリウスの子孫だと洗脳し、テロリストに仕立て上げてる存在です!!』
『桐藤ナギサも、彼女らによって誘拐され、それを察知した我々が救出した』
『我らこそ、アリウス分校の正当なる子孫。
我らの祖先を、侮辱する連中は決して許せない!!」
そう言って、彼女達は身に纏っていたローブを一斉に脱いだ。
その下にあるのは、古いアリウス分校の制服だ。
『今こそ、我らはかつての迫害を受けた怒りや憎悪を捨て、我らの祖先を騙るおぞましいテロリストを討つために、トリニティ学園に合流する!!』
『正義と、神の加護は我らにあり!!』
『長い時を経て、同胞になったトリニティ学園に住まう同志たちよ!!
今こそ我らの祖先を、教義を侮辱するテロリストに鉄槌を!!』
『邪悪な魔女に鉄槌を!!』
『テロリストに鉄槌を!!』
二百人にも及ぶアリウス分校の制服を纏った生徒たちが、声を上げる。
『……皆さん、聞いての通りです。
トリニティ学園の平穏は、テロリストに脅かされているのです!!
私は彼女達をこの目で見ました。
ティーパーティーのホストとして、この緊急事態にガスガスガスマスク団の徹底的な討伐を全ての生徒に要請します。
我こそは、と思う部活動や組織は、正義実現委員会の許に集ってください。
彼らの指揮に従い、ガスマスクを被ったアリウスの制服をこのトリニティ自治区から撃滅するのです』
『我らは連中の本拠地に出向き、魔女の居城を叩く!!
心配はいらない。我らの指揮は、シャーレの先生が執る!!
我らの正義は、先生が保証してくれている!!』
画面の向こうで、先生が手を振る。
『今到着いたしました。シスターフッドの部長、サクラコです』
今度はサクラコ率いるシスターフッドの生徒たちまで現れた。
『彼女達は、かつての我々が迫害した身でありながら、これまでずっと陰からトリニティ学園を支えて来てくれた功労者たちです。
我々は、その贖罪を成すべきです。我々は、彼女らの献身に報いる必要があります。
先生の指揮の許、共に戦いましょう!!』
そうして、映像はまたループする。
ツルギは無言で立ち上がった。
「ツルギ先輩、って、壁を!?」
対応に追われるマシロは見た。
ツルギが一人で壁を破壊し、先生の許へ向かったのを。
「待ってください、彼女達が今どこにいるのかわからないでしょ!?」
「大変っす、こんな夜中なのに校庭に無数の生徒たちが集まって!!」
「どうすれば良いんですか、これは!!」
誰と戦えとも言われていない内容に、ハスミは叫ぶほかなかった。
「あははははは!!!
まるで学芸会のお芝居みたいだね!!」
ミカはその映像の出来を笑いながら酷評した。
「う、うそだ、我々こそが、アリウスで……」
「本当に、別のアリウスが実在したの……?」
「お、お前達、どうようするな、これは敵の仕組んだ罠で!!」
「そうとも、全部お芝居だよ。
でももう、トリニティの全員がお前たちをアリウスとは認めない」
男は悪魔のように笑って言った。
「なあ、──
アリウス生たちは理解した。
もう自分たちは正当な怒りと共に戦う集団ではなく、ただ卑劣なだけのテロリストに貶められたのだと。
「お前たちの祖先のように、また迫害されに行くか?
もうお前たちに逃げ場は無い。アリウス自治区は先生達が連中を率い、撃滅しに向かっているところだ。
最早お前達がどれだけ戦ったところで、何に勝ったところで、お前たちの誇りや正義は正当化されない」
男はそうして、彼女達の心を折った。
アリウスの真実を捻じ曲げ、本物を偽物に仕立て上げることで。
「今なら、正当なる本物のアリウスに鞍替えする自由を与えよう。
これまでの教義と憎悪を捨てるというのなら、この覆面を被れ」
Wolf小隊が段ボールを取り出し、その中身をぶちまける。
中には、ビニールに包装された新品の覆面が詰まっていた。
「さあ選べ。皆に認められる栄光のアリウスを選ぶか、惨めで迫害されるクソダサい名前のテロリストとして生きるか。
────お前達は、どちらだ?」
沈黙が、体育館に落ちる。
やがて、からん、とガスマスクが地面に落ちる音がした。
からんからん、とガスマスクを投げ捨て、少女たちは覆面に縋りつくように、或いは男にひれ伏すように、それを被った。
全員がそうするまで、時間は掛からなかった。
「私を裏切ったってあなた達は言ったけど、そうじゃないよ。
ただ、愛し方を変えようと思っただけ」
覆面を被って跪くように硬直している彼女達に近づいた。
「本物を超える、真アリウスと和解を成そう?
私は、あなた達全員、誰ひとり余すことなく連れていくつもりだよ」
ミカは先生が自分にそうしたように。
彼女もまた、アリウスの生徒たちに手を差し伸べた。
彼女達もようやく自分たちの灰色の人生に終止符が打たれると知り、涙した。
「後は任せたぜ、先生」
地上の戦いは、こうして幕を閉じた。
男は、地下へ向かった先生達の無事を願うのだった。
§§§
「“あなたが、ベアトリーチェだね”」
「ええ、初めまして。シャーレの先生」
先生はアビドス生扮する偽アリウスの面々と共に、アリウススクワッドの案内でアリウス自治区の壊滅に出向いた。
そして、その奥でアリウス生たちに守られるようにして、無数の目を持つ怪女と出会った。
「すでにご存じかもしれませんが「ゲマトリア」の一員です。
まさかこうして、私の領地まで土足で踏み入ってこようとは思いませんでした」
彼女の言葉の端々から、苛立ちが垣間見える。
長い年月をかけて育ててきた場所が、ほんのわずかな時間で瓦解するとは彼女も予想外だったのだろう。
だが、その程度だった。
丁寧に育てた種が、蕾から花開かなかった。
彼女にとって、アリウスの生徒たちはその程度の存在だった。
「黒服の忠告を、もう少し聞いて居ればよかったですね。
まさかこんなにも早く、私の許へと到達するとは。
ええ、差し上げますとも。アリウスの生徒たちなど。
欲しかったのでしょう? なら持っていきなさい」
しかし、と魔女は言う。
「居るのでしょう、アツコ。
ミメシスの起動は成りませんでしたが、貴女を生贄にして我が位階を押し上げる儀式はまだです。
彼女さえ渡して頂ければ、ほかのアリウスを解放すると約束しましょう」
「“断る”」
「ふ、っふふふ。断る、ですか?
ならば彼女をこの場に連れて来たのは間違いでしたね。
このパシリカの祭壇に来た時点で、もう生贄として捧げることは出来るのですよ!!」
そうして、魔女はアツコの神秘を探り当てる。
彼女を生贄に捧げ、より上位の存在へと昇格するために!!
だが。
「ッ!? まさか、そんな、これは!!」
ベアトリーチェはすぐに気づいた。
アツコの魔術的な価値が、無残にも踏み散らされていることに。
「アツコ、貴女まさか、純潔を捨てましたね!!」
「うん」
生徒たちに紛れていたアツコが、姿を現し頷いた。
「しかもッ、薄汚い男の精をその身に受けたのですね!!」
「そう、今もここにある」
アツコはゆっくりとお腹を撫でた。
もう未通ではない、己の産道の奥を。
古来より、性交は不浄なものとされ、それを行った男女は穢れとされてきた。
古今東西で処女を神聖視する文化があり、性交だけでなく出産もまた穢れとして扱われる場合もあった。
「おぞましいッ、私でさえそこまでしなかったというのに!!
男の穢れを受けてまで、己を貶めるとは!!」
「“どうやら、帰ったら彼に聞くことが出来たようだね”」
男がアツコに何をしたのか、先生は全く知らなかった。
先生は、結構お怒りだった。
「そう、そう言うことだったんだ。あいつ、帰ったらぶち殺そう」
「まさか姫に手を出していたとはな……」
ミサキとサオリもブチ切れ寸前だった。
「止めて、みんな。
もし
「“そうか、避妊具も無しだったんだね”」
「そういう儀式だったから」
結果として、効果は抜群だった。
魔女は高貴な姫君を、生贄としては使えなくなった。
それは認めよう。だが、それはそれとして、彼らは話をしなくてはならなかったのである。
「それに、あれで終わりなのはもったいないし」
「“……そうなんだ”」
先生は二人が予定を大幅に遅れて戻ってきた時の男のげっそりとした顔を思い返して、少しだけ手加減しようと思い直した。
「一刻も早く、その穢れた女を殺しなさい!!」
激昂した魔女が、指示を飛ばす。
「“ベアトリーチェ、これを見ろ!!”」
「何ですか、その書類は!!」
「“トリニティ学園の生徒会長三人による、アリウス分校統合を認める書類だよ”」
ナギサ、ミカ、セイアの署名が入った書類。
それをシャーレの先生の超法規的な権限を以って、アリウス側の意思決定を無視して認可させていた。
「“あなたは彼女達にこう言ったそうだね、ベアトリーチェ。
『自分がアリウスの新たな生徒会長であり、主人であり、支配者だ』って”」
「ま、まさかッ!?」
ようやく、ベアトリーチェは己の失態を悟った。
「“トリニティ学園三人の生徒会長の要請により、アリウス分校の生徒会長であるベアトリーチェの職位を罷免する!!”」
生徒会長に成り代わる、それは立場として、絶対的に先生より下と言うこと。
黒服が厄介だと言った、生徒と先生の仕組み。
それが、彼女にも適応された。
「そんな、私の領地が、私のモノではなくなっていく……!!」
魔術的にそれは大きな意味を持つ。
アリウスがガスガスガスマスク団として貶められたのも手伝って、この地はアリウスの土地ではなく、ガスガスガスマスク団の土地として人々の認識が書き換えられていた。
この地を覆っていた神秘のベールが、無力化していく。
なぜなら、この地の神秘はアリウスを守っているのであって、ガスガスガスマスク団を守っているのでは無いのだから。
ベアトリーチェは先生を睨んだ。
これが、王者の戦い。
先生は先生と言うだけで初めから、勝利していた。
王者の采配に、土地を与えられている立場に貶められたベアトリーチェはひれ伏すほかなかった。
「“そして、アリウス分校の新たな生徒会長は、その正統なる後継者である秤アツコに委任するものとする”」
「マダム……。これまで育てて頂いた恩は、アリウス全校生徒に代わってお礼申し上げます。
だから、どうか……これ以上私達の前に現れないでください」
王によって指名された、新たな領主が言った。
アツコが頭を下げる。
子供に大人の対応をされたベアトリーチェが激怒しようとした、その時だった。
「マダム、もう良いでしょう」
その場に、写真立てを持った顔の無い怪人が現れた。
「ゴルゴンダ!!」
新たに現れた怪人の名を、ベアトリーチェが呼んだ。
「ああ、落ち着いてください。驚かせたなら申し訳ありません。
私は「ゲマトリア」のゴルゴンダ」
紳士然とする怪人に、生徒たちは息を呑んだ。
「私は戦いに来たのではありません。
マダムを連れ戻しにきたのです」
「私はまだ負けて、いえ、戦ってすら居ません!!」
「ところで、サメ映画をご存じですか?」
「なにをッ」
「ご存じの通り、サメは危険な生物です。
しかしヒトはその危険なサメをミームとし、娯楽として楽しむようになった。
マダム。あなたの齎した悲劇は、もはや凡庸な喜劇に墜ちたのですよ」
それは、痛烈な皮肉だった。
「くッ」
これ以上は見苦しいだけ、という諫言にベアトリーチェは従った。
こうして、魔女は去った。
「それでは先生。またの機会にじっくりと話し合いましょう」
そう言って、ゴルゴンダという怪人は去った。
「“終わったね……”」
「ああ……本当に、終わった」
こうして、アリウスは解放された。
その事実に、サオリはどこか呆気なく思えた。
ベアトリーチェに見捨てられ、膝をつくアリウス生たち。
とりあえず、先生は彼女達への声掛けから始めることにした。
まだまだ、地上では混乱が残っているのを忘れたままで。
今回の感想の返信は少し遅れます。いつもは最新話直前に返信をするんですが、ちょっと用事があるので今日は無理そうです。
ちゃんと返信しますので、新しい感想も待っています!!
それではまた、次回はエピローグです!!
エデン条約編RTA、長かったです……。ようやく、完走しました!!