※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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エピローグ

 

 

 

 アリウス自治区の解放が成功した翌日。

 トリニティ学園の生徒会室。

 先生達から事情の説明を受けるために、トリニティの首脳陣が一堂に会していた。

 

「救護!!」

 

 そこに、救護騎士団のミネの怒号が響いていた。

 

「くッ、くくくッ」

 

 男はミネにマウントポジションを取られ、無抵抗に殴られつづけていた。

 

「あなたはッ、自分がしたことをッ、理解しているのですか!!」

「ははッ、はははは!!!」

「ナギサ様をかどわかすだけでなく、自分たちの目的のためにトリニティに混乱を齎した!!」

「次にお前は、こんな輩は生かしてはおけない、と言う」

「ッ!?」

「なんだ、ノリが悪いな」

 

 男は口から血の混じった唾をミネに吹きかけた。

 その程度で、彼女は動じなかった。

 

「なあ、ならお前ならどうした?」

「なにが言いたいのです?」

「お前ならどうやってアリウスの連中を助けた?

 お前が突っ込んで全員しばき倒すか?

 俺はあいつらを救うために手段を択ばなかった。

 お前も相手を助けるために殴り倒す。

 ――――ならば、俺とお前の何が違う? なあ、勇名高きミネ団長?」

 

 ミネの振り上げた拳が止まる。

 他の人間が見たことも無いような、憎しみに満ちた表情で彼女は硬直していた。

 

「ミネが壊し、騎士団が治す。

 俺がぶちのめし、先生が救う。ああ、俺とお前はお仲間のようだな、握手でもしようか?」

「これ以上、我が魂を愚弄しようというのですか!!」

「そう思うなら、今の自分の行いを顧みたらどうだ?」

 

 なあ、と男はこの場に集まった首脳陣たちに言った。

 

「ミネ団長。一番最初に殴られるべきなのは、私だよ。

 私が、全ての元凶だから」

「ミカ様ッ」

「“私も、彼の作戦に賛同した。彼を殴るなら私も殴られよう”」

「……ッ」

「だそうだ。いい加減そこをどけ、巨乳の女を股がらせる趣味は無いんだ」

 

 ミカと先生の言葉を受け、ミネは本当に渋々と言った様子で男の上から退いた。

 

「きっとお前はいつか、今ここで刺し違えても殺すべきだった、と思うんだろうなぁ」

「アップルマンさん、あまり彼女を挑発しないでください」

「ああ済まない。俺にも殴り返さないくらいには、自覚はあるんだ。これまで自覚が無かった誰かさんと違ってな」

 

 ナギサに諫められ、男は起き上がりながら軽口を叩く。

 みし、と拳から鳴ってはならない音がミネの方からした。

 

「だが本当に、大変なことをしてくれたね」

 

 セイアは生徒会室の外を見る。

 

「魔女の仲間を探せ!!」

「まだ逃れた連中が居るはずよ!!」

「トリニティを私達が守るのよッ!!」

 

 テロリストの拠点は壊滅し、構成員は全て検挙したと告げたのに、トリニティの生徒たちは各々自主的に身勝手な活動をしていた。

 

「やべぇな、あいつら。

 俺もここの連中が某ロサス国民みたいなバカだと知ってたら、ここまではしなかった。

 なあナギサ、アイツらも退学にしようぜ。なにせ、統制が取れないからな」

「もう、その話は止めてください……」

 

 ナギサは恥じ入るように顔を伏せた。

 

「……そろそろ、建設的な話に移りませんか?」

 

 ミネを止めるべきか迷っていたサクラコが、眉を顰めたままそう言った。

 

「本物の魔女を退ける為とはいえ、トリニティ学園はかつての先輩たちが成し得なかったアリウス分校との統合を成しました。

 これは偉業ですが、同時に書類上だけの話です。

 生徒たちに周知もしていなければ、彼女達の受け入れ準備もまだ始まってすらいません」

 

 ナギサはそう現状を語った。

 アリウス分校の統合自体は、ここに居るメンバーに否は無かった。

 それだけが、この状況で唯一の救いだった。

 

「秤アツコさん」

「うん」

 

 この場で唯一、アリウスの生徒として招かれたアツコにナギサは視線を向けた。

 

「我々は新たに、アリウス派閥の生徒会長としてトリニティ学園の生徒会、ティーパーティーに受け入れるつもりです。

 幸い、あなた達は魔女の組織したテロリストを先生と共に倒した英雄……。

 かつての先輩たちが迫害したという負い目もあって、受け入れることは容易いでしょう」

「まあ普通の生徒たちにとっては、ねぇ」

「生徒会の皆が何というか、今から頭が痛いよ」

 

 ナギサの言葉に、ミカとセイアは溜息を吐いた。

 そう、これは彼女達三人が勝手にやったこと。

 

 トリニティ学園は手続きを重視する。

 その手続きは省略され、会議や審査もすっ飛ばした。

 各派閥の下から突き上げが有るのは当然のことだ。

 

「はいはーい、私責任を取って生徒会長辞めまーす!!」

「辞めると言って、簡単に辞められる物でもないですよ」

「じゃあ、名目上は生徒会長のままで、代役を立てて一切の権力を放棄しまーす!!

 その後は、先生の……シャーレの専属当番になるね☆」

「“そんな制度は無いよ……”」

 

 ミカの勢いだけの言葉にナギサと先生も頭が痛そうだった。

 特に先生は、ミカがこれ以降シャーレのオフィスに入り浸りになるだろうことを察していた。

 

「私も、ホストの座は降りるべきでしょう。

 元々、本来ならセイアさんがホストに居るべきなのですから妥当だと思われます」

「ちょっと待ってくれないか、この混乱の後始末を私に押し付ける気かい!?」

「安心してください。何も私は手伝わないとは言ってません」

 

 にっこり、と笑うナギサの顔には、逃がさない、と書いてあった。

 セイアはがっくりと肩を落とした。

 

「あと、アリウスの皆はトリニティだけでなく、あび……覆面水着団の方に行きたいって子も多い。

 大体半々の割合だと思う」

 

 アリウスの生徒は大隊規模で約半数なので、総数は約六百人程度だと思われる。

 その半分ずつが、トリニティとアビドスに振り分けられる形となった。

 

「彼女達の立場は、私達も保証しましょう。

 テロリストではなく、トリニティに合流したアリウスの生徒として。

 幸い、彼女達が検挙された様子は誰も見ていませんので」

 

 先生の戦いに後詰めとして参加したサクラコがそう言った。

 そう言うことにすれば、アリウスの面々がテロリストとして迫害されることは無くなると言うことだ。

 

「本当に、歴史を作り上げちゃったね……」

 

 全てが終わり、己の望み通り和解を成したミカが万感の思いでそう言った。

 迫害されて追いやられただけのアリウスは、影からトリニティを守った英雄に成った。

 一般生徒に彼女達を拒む者は居ないだろう。

 

「当面の間、私は生徒会長として政治的な権力を放棄する。

 生徒会長としての権威や学力が、私には無いから」

「そう言ってくださると、説得がやりやすくなって助かるのですが、良いのですか?」

「新参者が大きい顔をするのは、よく思われないし。

 それに、立場だけで皆が勉強を出来る環境を整えるのは十分だと思うから」

 

 わかりました、とナギサはアツコの言葉に頷いた。

 

「さて、俺も仕事を終えたし、我が麗しの風紀委員長のもとに戻ろうか――」

 

 己の役目は終えたと判断した男だったが、その肩を先生は掴んだ。

 

「“君はこれからもシャーレ所属だよ。

 悪いけど、ヒナには話を通してる”」

「は?」

「“ヒナは言ってたよ、自分では君を持て余すから先生に頼むって。

 あの子が私を頼るなんて初めてだからね。喜んで引き受けたよ”」

「そ、それはよかったな……」

 

 逆を言えば、他人を頼れないヒナですらこの男は先生に託すしかない、と思うほどであったわけである。

 

「“友は近くに置け、敵はもっと近くに置け、だったね?

 だからそうすることにしたよ。君は女性の敵だからね”」

「ざ、座布団いちまーい……」

 

 真顔で言う先生に、男はおどけて笑う他なかった。

 

「結局、この混乱でエデン条約の締結は先延ばしになるでしょう。

 ヒナさんには迷惑をかけてしまいますね……」

「ま、甘えたくなったらいつでも言えよ」

「あッ……はい」

 

 男の言葉に頬を赤らめているナギサを見て、ミカとセイアは驚愕の表情を浮かべた。

 

 先生はそれを見て、やっぱり自分の判断は正しかった、と彼の肩を掴む力を強めた。

 

 

 

 §§§

 

 

「よし、革命だ!!」

「おっと、これはやられたな」

「手札が多いと思ったので、そうくると思いましたよ」

「ふむ、これは参りましたな、デカルコマニー」

「そういうこったぁ!!」

 

 先生は思った。

 何だこの状況は、と。

 

 いつも黒服と男と一緒に吞んでいるバー。

 そこのテーブル席に、いつもは居ない二人の大人が居た。

 いや、正確には三人と表現するべきだろう。

 

 二股に分かれた頭部を持つ木製の人形、マエストロ。

 帽子を被った後ろ向きの写真を持った顔の無い紳士、ゴルゴンダとデカルコマニーのコンビ。

 

 先生と男は、この四人の怪人となぜかトランプの大富豪をしていた。

 普通に恐怖映画のワンシーンであった。

 当然、狼人間である男は見事に馴染んでいた。

 

「こう言ったバーには、それだけで静謐な雰囲気という「記号」があるモノですが、こうして集まってトランプに興じるというのも悪くはないですな」

「そういうこった!!」

「デカルコマニー、次はそちらの手札を」

 

 トランプを手にするデカルコマニーが、ゴルゴンダの指示通りに手札を切った。

 

「そう言えば、アップルマンよ。

 先のマダムの件には礼を言わせてもらおう」

「うん? ああ、例の魔女がお前らの仲間だったって奴か。

 言ってくれれば俺なりに手加減してやったのによ」

「そうではない。彼女の計画の全貌を聞いた今、彼女に貸し与えようとしていた私の作品もまともな使われ方はしなかっただろう。

 マダムの発想力は感嘆に値するが、いささか美学が足らない」

 

 次の手番のマエストロが八のカードを切り、カードの束を退けた。

 

「他人の失敗を上げ連ねて笑うのは大人のするべきことでは無いのですが、今回ばかりはこう言うべきでしょう。

 貴方と先生の立ち回りは――痛快だった、と」

 

 手札からカードを切って、黒服はカードを重ねる。

 

「お前ら、仲間なんだろ?

 お前らに利益があるから手伝ってたのに、なんでそれが失敗に終わって平気なんだ?」

「それはそれ、これはこれ、だ」

「我々にも許容しがたいことはある、ただそれだけのことです」

「そういうこったッ!!!」

 

 マエストロの言葉に、ゴルゴンダが応じデカルコマニーが呼応する。

 

「どうでしょう、アップルマン殿。

 この際、我々の仲間になると言うのは」

「俺は研究者じゃないぜ」

「我らゲマトリアは、各々「崇高」に至る手段も定義もバラバラです。

 研究者であるかどうかは、問題になり得ません」

「そういうこったぁ!!」

「“私の同僚を勧誘しないでもらおうか”」

 

 彼をゲマトリアの一員にされては困る先生が口を挟んだ。

 

「おや、先生は我らゲマトリアの大半が参加する会合にこうして参加している。

 これはもう、実質的に我々の仲間なのではないでしょうか?」

「“君がそんな冗談を言うとは思わなかったよ、黒服”」

 

 先生の言葉に、くっくっく、と黒服は笑みを返すだけだった。

 

「大半って、嫌いな奴はしっかりハブってるのかよ」

「いえ、我々はちゃんとマダムを誘いました。個人的な感情で気に入らない相手をのけ者にするほど、我々は幼くありませんから」

「マダムは、あんな奴らと一緒に酒など飲めるか、と吐き捨てていたがな」

 

 そうか、と男は黒服とマエストロの言葉に頷いて見せた。

 

「これだから女って生き物は嫌だよな。

 すぐに感情的になって、ヒステリーになる。

 俺も論理的な話が出来ない女はゴメンだ」

 

 先生は、それを君が言うのか、と言いたげに男を見ていた。

 

「せっかくですので、アップルマン殿が考える「崇高」とはなんでしょうか?

 我々に気にせず、貴方の意見を聞かせて欲しい」

「そういうこったな!!」

「崇高、崇高ねぇ」

 

 ゴルゴンダの問いに、男は難しそうな顔になった。

 

「死、だろうか」

「ほう」

「なるほど」

「そう来ましたか」

「“……”」

 

 大人たちは男の返答に、それぞれの反応を示した。

 

「我が大いなる造物主と偉大なる母なる女神は、人間として魔導を窮め、死を経て神域に至った。

 これは一つの事実として、人間の魂は何も手を加えねば鉛にも等しい鈍重な、下等なものであると言うことだ。

 タロットカードの絵柄にも、死は中心付近に位置する。

 死とは終わりではなく、また別の視点からの旅路である。実際に死を経験したことのある、俺はそう感じた」

「実に貴方らしい解釈だ。

 貴方があの芸術性を理解しない女神から産み出されたとは思えない」

「主上はそれを気にしてるんだから言ってやるなよ」

 

 マエストロの物言いに、男は苦笑で返した。

 

「“だけど、死は救いでは無いよ。ましてや崇めるようなものでもない”」

「それは分かってるって」

「“ヒトの営みや学び、生命の輝きこそ、本当に尊いものじゃないのかい?”」

「そうだな……。アツコの奴に、当たってないと良いが」

「“そう言う話じゃないでしょ!!”」

「知ってるか、妊娠の確率って体調によって多少上下するが、約二割らしい。

 二割、二割かぁ……」

「“その時は、ちゃんと責任を取ってもらうからね”」

「責任、かぁ。正直トラウマなんだ、勘弁してくれや」

 

 睨んでくる先生に、男は居心地が悪そうだった。

 

「“トラウマ?”」

「俺の初体験の話はしただろ?

 顔は似ても似つかないが、コハルみたいなガキだったって」

「“ああ……”」

「実は一回こっきりの関係じゃなくてな。

 何度か通ってたんだ……あいつの身体が忘れられなくてな」

 

 最低すぎる……、と先生は思った。

 

「まあ、傭兵家業でしばらく町を離れて、久しぶりに会いに行ったら、アイツはドブ川に浮いていたそうだ。

 だが実はな、離れる前に俺は聞いちまったんだ。最近アイシャの奴が病院に通ってるって、客も取らなくなったって」

「“それって、まさか”」

「時期的に、俺しかなかった」

 

 先生は目を伏せた。

 怪人たちも何も言わなかった。

 

「俺は怖くなって逃げたわけだ。

 覚悟を決めて、花束を持っていったら、アイツは死んでいた。

 アイツが守ろうとした弟たちも、離散していた。

 俺はスラム中のマフィアとギャングを皆殺しにしたよ。その時だよ、俺が自分の忌まわしい才能に気づいたのは」

 

 本当に罪な女だ、と男は遠い目をした。

 

「連中のボスを惨殺した時の話も聞くか?

 アイシャにしたように、あいつらの目の前で自分の子供を――」

「“もういい、もういいんだよ”」

 

 それ以上は、先生でも許容できない話に成りそうだった。

 だから彼は止めたのだ。

 本当に、子供に話すような内容ではなかった。

 

「黒服、やはり我々の戦力の拡充について専門家に任せるべきではないか?」

「そうですね。我々は探求者であって、軍事は門外漢。

 マダムを宛てにして、先生や彼を敵に回して今回このような結果を招いた。

 ならば、いっそのこと彼らに適う形で協力してもらいましょう」

 

 マエストロと黒服が、そんな会話を始めた。

 

「“私は君たちに協力するつもりはないよ”」

「それは、私達の話を聞いてからでも遅くはないでしょう」

「そういうこった!!」

 

 ゴルゴンダが、先生と男に語り掛ける。

 

「我々の敵、―――“色彩”について」

 

 

 先生と怪人たちの会合は、遅くまで続いた。

 

 

 

 





これにて、エデン条約編はちょうど二十話で完結です!!
原作の話数的にも収まりが良かったと思います。

完走した感想ですが、思ったより補習授業部の面々の活躍が描けなかった点が心残りでしょうか。
まあ、それは幕間などで補完しましょう。試験やってないし。

ちなみにですが、アリスクは当初の予定では放置の予定でした。ええ、オリチャーです。
しかし、そのおかげで幕間のネタが増えました。アリスクがメインのイベントとか無いらしいですし、彼女達のギャグイベントみたいなのをやってみようかと。

原作でも屈指の長さを誇るエデン条約編を約一か月で完結出来たのは、読者の皆様の応援のお陰です。
幕間を経て、次は四章。いよいよ、Wolf小隊を産み出した意義が問われる場面になりそうです。

それでは、また次回!!
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