性教育の必要性
その後、予定通り補習授業部の第三次特別学力試験は延期になった。
もう一度一週間の合宿を経て、次の試験で六十点を取ったら退学は回避。
そして、その後に定期的に学力が維持されているか確認する為に集まって勉強会をするという形で落ち着いた。
そう言うわけで、先生の担任はもうちょっとだけ続くことになった。
「第二次特別学力試験の後は、訓練ばかりで試験は出来ませんでした。
ハナコちゃんも図書委員会や大聖堂に行ったり来たりしてましたから、勉強も捗らなかったですし」
と、部長のヒフミがみんなの前で宣言する。
「つまり、確実に全員が模試で六十点以上を取れるように、学力を強化しましょう!!」
「特に、コハルはな」
「分かってるわよ!!」
男はコハルに余計なちょっかいを掛ける。
「それを言ったら、ウズだってそうじゃない!!
忘れてないわよ、ウズもギリギリ六十点だったのを!!」
「はぁ……」
男だけでなく、ヒフミと先生以外の全員が憐れなモノを見る目でコハルを見た。
「コハルちゃん、ウズちゃん達は元SRT特殊学園の生徒。
選抜の段階から厳しい基準をクリアした本物のエリートだったんですよ」
「性格と性癖がマシだったら今も学園に居られた秀才だぞ、こいつは」
ハナコと男が残酷な現実を突き付ける。
「う、嘘よ……」
「本当ですよ、ウズは学力試験でいつも学年首位でしたから」
私もいつも勉強を教えて貰ってました、とトリコもウズの学力に太鼓判を押した。
「……」
「な、なによ」
「どうやら正義実現委員会の、入部の敷居は低いみたいですね」
「あ、がッ、いぎぎぎ……」
大して身長も変わらないウズに見下され、コハルは歯噛みした。
羞恥と怒りで彼女は身体を震わせた。
「“そう言うところだよ、ウズ”」
「…………」
「“舌打ちすら無い!?”」
嫌に外面が良いウズに、先生は戦慄する。
「全員が基準点を超えないといけない縛りは残っています。
幸い、今日から六日間もありますから、各々学生としての本分を果たしましょう!!」
「“うん、だからヒフミも反省しようね”」
「あ、あはは、はい……」
モモフレンズのイベントの為にテストをブッチしたヒフミに、先生は優しく微笑んだ。
「だが今度こそ余裕はあるんだ。
お前達も勉強だけでなく、プールに入ったりして青春を満喫したりすればいいさ」
「確かに、教官の言う通りですね♡」
「俺も特別に、保険体育の授業をしてやろう」
「良いですね♡」
「あんた達はいい加減にしなさい!!」
過剰に反応するコハルを見て、二人は楽しそうだ。
やれやれ、と先生は溜息を吐いた。
「……だが先生、これは真面目な話だが、俺はしっかり生徒たちに性教育をするべきだと思うぞ。
キヴォトス生徒たちの性知識の殆どが個人に依存している。
ゲヘナとトリニティの保体のカリキュラムと教科書を見たが、その殆どが生の知識じゃなかった」
そもそもゲヘナの連中は授業に出ない奴も多いし、と男は真剣に生徒たちの事を考えて先生に提言した。
「先生、あんたの当番の生徒に距離感がバグってる輩も多いが、その全員が“男”の恐ろしさを理解してると思うか?」
「“それは、確かにそうだけど……”」
「あんたへの好意の多くは、所詮学生時代の一過性のモノだ。
いずれ大人になり、お前と同じように他の男に接するとなればどう思う?」
「“危険だと思う”」
「だろう?」
先生としても、生徒たちの抱く感情を否定するつもりはない。
だが生徒と先生は決して超えられない壁がある。
それの自覚を促しつつ、人生の経験として糧となれば良い、と先生は彼女達に寄り添いつつ適度に距離を保とうと思っている。
「トリニティみたいなお嬢様学校だと、同性相手に代償行為として恋心を抱く場合がある。
ナギサなんてその典型的な例だ。まあ、普通は年上とか、ボーイッシュな容姿の持ち主とかを対象にするんだろうがな」
「“うーん”」
「そうでなくても、このキヴォトスでは大人がルールを作る。
あの魔女の搾取が、性的な物としてこの世界のどこにも存在しないとお前は楽観視できるのか?」
「“……そうだね”」
男の真摯な態度に、先生も頷いた。
「アズサ、今から性的拷問に対する訓練を行う。服を脱げ」
「了解です、教官」
「だ、ダメですって、アズサちゃん!!」
「あんた急に何を言ってるのよ、死刑死刑死刑!!」
男の命令に制服に手を掛けるアズサを、ヒフミが取り押さえ、コハルが喚きだす。
「先生。これが、キヴォトスの現実だ。
生徒たちは性的な搾取から身を守る手段を持たない」
「“実際に食いモノにしてきた君が言うと説得力があるね”」
「失礼だな、純愛だよ。俺の場合はな」
「“君に対する追及は現時点で当人たちの納得の上で成り立ってるからとりあえず後回しにするとして、君の言い分は尤もだ”」
男はそっぽを向いて口笛を吹きながら先生の厳しい視線を受け流した。
「“だけど、実際問題デリケートな事だからね……”」
「そうだな。さて、どこかにエロが大好きで、頭の良い素敵なお姉さんは居ないかなぁ」
男はゆっくりと補習授業部の面々を見渡した。
「って、居たぁ!?」
「凄まじい前振りですね♡」
ハナコのところで視線が止まった男は、大げさに言って見せた。
「ハナコ君!! 君をシャーレの保健体育大臣に認定しよう、どうかね?
キヴォトス中の少女たちのエロスを教え導く性女になるのは!!」
「それは、好きなだけ羞恥に悶える女の子を眺めてもいいってことですか?♡」
「うむ、コハルもスカウトしようか? お前のブレーキ役にどうだ?」
「それは楽しそうですね♡」
「ちょっと、勝手に決めないでよ!!」
「嫌か? なら仕方ない。お前なら適任だと思ったんだがな」
「待ちなさいよッ、嫌とは言ってないんだけど!!」
わいわい、と話を進める男を先生は半眼で見ていた。
「“で、何が目的だい?”」
「俺は真面目だ。適材適所って知ってるだろ?
ハナコに冊子を作らせ、配らせるんだよ。じゃないとその内、お前押し倒されんぞ。そうなったら、連邦生徒会長に悪いだろ?」
「“だからそれは誤解なんだってば!!”」
「い、いったい何の話!?」
「ここだけの話な、先生は連邦生徒会長を……おっと、これはシャーレの機密事項だったわ」
「え、えええ、エッチなのはダメ、死刑!!
一体なにをしたっていうのよ!!」
「“本当に誤解なんだってば!!”」
しかし、楽園の存在が証明できないように、先生の誤解も証明できないのであった。
「正直、いろんな派閥から勧誘を受けましたが、こんな好みの勧誘は初めてでしたよ♡
キヴォトス中の性教育水準の向上、それは勿論引き受けさせてもらいます。──だけど、それだけです」
「そうか、だがどうしてだ?」
「私の首から上しか興味の無い人に、靡くつもりはありませんってことです♡」
賢いハナコはすぐに理解した。
シャーレに所属するという名目で、この男が自分の頭脳を欲しているのだと。
「残念だ。本当に残念だよ」
「私は、いつかあなたと敵対する、と考えられていること自体が残念ですけどね」
なぜそんなことをするのか。
誰よりもこの男は、ハナコを警戒しているからだった。
「ひとつだけ教えてやる。我が神曰く、突出した才能は埋もれることは無いという。
俺ではなく、先生に付け。お前なら分かるだろ?」
「そういったことには、興味ありませんね」
「……そうか。脅かしたのなら悪かった」
「……」
男は軍帽を深く被った。
「だが忘れるな。お前を苛んだその才覚から、逃れられると思うな」
「貴方が、自分の才能を忌まわしく思っているように、ですか?」
「ああ。人間の概念そのものたる我が主上は、運命の女神と敵対している。
運命ばかりは、人間にはどうしようもならないからだ」
「……そうかもしれません」
「なあ、本当にダメか? 今なら先生のハーレムに加える権利をやるが?」
「“そこ、勝手なことを言わないでくれないか!?”」
コハルを宥め終えた先生が口を挟んできた。
「おっと、この辺にしておくか。
まあ、お前とは猥談をする仲ぐらいが丁度いいのかもしれん」
「うふ、そうかもしれませんね♡」
ああ、と男はそこでハナコと会話を切った。
その後、先生にとってはこの日は無事に何事も無く合宿の延長一日目が終わろうとしていた。
そう、先生にとっては。
深夜、男は車で合宿所を抜け出そうとしていた。
先日の約束通り、カスミを一週間構う予定で、今日はその三日目だった。
「教官」
「アズサか」
「はい」
男が車のドアを開けようとした時、背後から武装済みのアズサが現れた。
「何をしている。もう誰とも戦う予定は無いだろう?」
「それは準備を怠る理由にはなりません」
「まあ、いいだろう。それがお前らしさだ」
「教官はお出かけですか?」
「おう、しばらくはカスミの日でな。
これも性教育の一環ってことにしておくか」
男はアズサにおどけて見せた。
「それで、私に対する性的拷問の訓練はいつになりますか?」
「お前、今日俺と先生の話を聞いて居たのか?」
「サー。しかし、先生は過保護すぎると思われます。
我々生徒は無力ではありません。襲われても、反撃できます」
「……なるほど、確かにこれは教育が必要だ」
この無知で無垢な少女は、大人の恐ろしさをまだ理解していないようだった。
「いいだろう。その代わり、このメモを先生に渡し、許可を取って来い。
それで許可が出れば、特別訓練を施してやる。まだこの時間なら起きている筈だ」
「サー、了解です、サー」
男はメモ用紙にペンを走らせ、それをアズサに預けた。
そして、合宿所の宿舎に戻っていく。
程なくして、彼女はトリコを伴って戻ってきた。
「教官、これをどうぞ」
「うむ」
アズサは先生からのメモを預かってきた。
それに目を落とすと、決してアズサに触れるなとか、シャーレの部員としてトリコに報告を求める等、先生らしい過保護で心配性な条件が幾つも記載されていた。
「トリコ、言うまでも無いだろうが、これを留意しろ」
「勿論です、ボス。ちゃんと先生の指示に従います」
「では行くぞ」
もう待たせてるしな、と男は呟く。
その後、三人は車に乗って、トリニティ自治区を出た。
そしてゲヘナの自治区の最寄りの無法地帯にある、受け付けやチェックアウトが完全に自動化されたホテルに入った。
事前に用意されていた部屋に入ると、カスミがベッドの上でそわそわしながら待っていた。
「お、遅いぞ!! ……その二人は?」
「見学だ。別に構わないだろ? 安心しろ、お前だけしか触れたりはしない」
「いや、だが……恥ずかしいだろう?」
「なに言ってる。温泉じゃ裸体を部員に晒してるだろ」
「それとこれとは──」
文句を垂れるカスミの唇を、男は自分の口で塞いだ。
「ず、ズルい、ズルいズルい!!」
「トリコ、そっちは任せた」
「オーケー、ボス」
男はトリコに横目で指示を出すと、カスミをベッドに押し倒した。
「……」
「一先ず、捕虜になったと想定しましょう」
「う、うん」
トリコはアズサを椅子に座らせ、軽く後ろでに布で手を縛った。
抜け出そうと思えばいつでも抜け出せる、そんな可愛らしい拘束だった。
「あれを、自分に置き換えてください。
あなたは無抵抗のまま、あのように組み伏せられ、女性としての尊厳を奪われる。
みっともないと思いませんか?
屈辱だと思うでしょう?」
「あ、ああ……」
男とカスミの行為に釘付けになっているアズサに、トリコが囁き掛ける。
「例えば、あのように無様な姿の貴方を、先生に見られていると思うと、どう思いますか?」
「……多分、怖い。失望されるかもしれない」
「では、こうしてみましょう」
トリコは早くも男と交わり始めたカスミに向けてこう言った。
「アズサ、感じているのかい?」
「そ、その声は、先生?」
つい先日リゾートに行った件で、カスミは先生と面識があった。
だからカスミは、先生の声を真似るトリコに目を見開いた。
「感じちゃダメだ、それは敵が君から情報を引き出すために篭絡しようとしているんだ!!」
「そんなごど、いわでもッ、うッ!?」
「頑張るんだアズサ!! 君なら耐えられるはずだ!!」
「わだじ、ぞんななまえじゃ、ひぎぃ!?」
トリコがアズサの方を振り返る。
彼女は、呆然としたまま頬を染めていた。
「それが、恥ずかしいという感情です」
「こ、これが、恥ずかしい……。
訓練で失態を犯し、情けないと思うのとは違うのだな……」
トリコはアズサの既存の感情からシフトさせる形で、羞恥心を教えようとしていた。
「ボス、次はこれを使いましょう」
「お、良いな」
男は喘ぐカスミに、トリコから手渡された猿轡を付けた。
「ん-、んー!!」
「この程度の拷問に、私は屈しないぞ!!」
「!?」
今度はトリコがアズサの声を出したので、アズサは思わず目を剥いた。
「あッ、でも、だめッ、感じてしまうッ、先生が、先生に見られてるのにッ」
「────ッ」
教育の成果は、早くも出ていた。
目の前の痴態を自分に置き換えることで、アズサは恥ずかしさを理解しようとしていた。
「えーと、アズサを脱がしたりするのはダメなんだっけか?」
「イエス、ボス」
「じゃあこうしよう。
おいアズサ、こんな薄っぺらい体を晒して恥ずかしくないのか?」
「んんー!! んんッ!!」
「知ってるか、先生は割とハナコの胸に視線が行くんだ。
あいつにも性欲があることに安心したもんだが。
それに比べて、お前はどうだ? 鶏がら同然じゃないか」
呻く“教材”を揺らす男。
ハナコと比べることによって、アズサにまた別の羞恥心を教えようとしていた。
「ボスは一般的に特殊性癖と呼ばれる類です。
大多数の健全な成人男性は、ハナコさんのような豊満で成熟した体型の女性を好みます」
「そ、そうなのか……」
「はい。時折ハナコさんは先生と目が合うと、さりげなく自身の乳房を強調したりするので、観察してみると良いでしょう」
「こ、今度確かめてみる」
そんなこんなで、アズサの教育は夜遅くまで続いた。
「ふーッ、ふー!?」
「こ、これが、性的拷問……お腹がぽっこりと膨らんで……」
猿轡をされた“教材”から目を離せないアズサ。
先ほどからずっと、“教材”は悶え続けている。
「ボスの性器は犬の特徴を有しているので、非常に長い射精時間を要する上に根元やコンドームが膨らんで圧迫感が……いえ、何でもないです」
「…………」
言葉を濁したトリコを気にする様子もなく、アズサは一通りの性教育を終えた。
翌日。
「先生、これが昨日のアズサへのカリキュラムの内容です」
「う、うん……」
先生は翌朝にトリコから提出された報告書に目を落とした。
なんだか彼は自分が特殊なプレイに巻き込まれてるのでは、というような気分になった。
「せ、先生」
「アズサ……」
「先生は、ハナコのような女性が好みなのか?」
「……」
顔を真っ赤にし、もじもじとするアズサを見て、先生は教育の成果が出ているのを確信した。
今の彼女は思わず先生にもグッとくるほど魅力的だった。
「希望なされるのなら、より実践的な教育プログラムを提案しますが」
「む、無理ッ」
トリコの提案に、アズサは逃げ出した。
「“性教育の必要性は分かってるけど、生徒たちがこれ以上魅力的になると、その、困るね……”」
「心中お察しします」
その後、男の、と言うより先生の信頼を勝ち取ったトリコの性教育は補習授業部で話題になってしまい、“教材”はこれより更に三日連続で使用されることになった。
当然カスミは機嫌を損ねてしまい、一週間最後の彼女の日はデロデロに甘やかすことになったとかならなかったとか。
結局、トリコとハナコで性教育に関する冊子が後日作られ、各学園に配布されることになるのだった。
もう忘れられてるかもですが、トリコは元々お色気担当です。
実際のところ、キヴォトスの性教育事情はどうなってるんでしょうね?
こういう細かい所の考察も、世界観を深堀するのに役立ちます。
特にこんな内容は、18禁の拙作にしか出来ないでしょうね。
補習授業部の後日談は、あと一話ぐらいやろうと思ってます。
ではまた、次回!!