※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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愛の重力

 

 

 

 追加の合宿も四日目が終わろうとしていた。

 生徒達の平均点も80点以上。このまま行けば、問題なく最後の試験を通過するだろう。

 その辺りを、先生は心配していなかった。

 

 だが。

 

「“いくら何でも直接性行為を見せるのは、どうかと思うんだ……”」

 

 寮室で先生は男に苦言を呈した。

 

「うん? じゃあ先生も参加するか?」

「“そう言う問題でも無いんだよ……”」

 

 先生は頭が痛い思いだった。

 この男は確かに優秀で、副官としてこれ以上の者はキヴォトスでも限られるだろう。

 先生の持たない視点を持ち、先生の欠点を指摘し、それを補う為の行動を実行する実現力もずば抜けている。

 

 彼は任務をすべて成功させているのに、だが結果としてなぜかいつもボタンの掛け違いが起こるのである。

 ヒナがこの男は自分の手に負えない、と先生に投げた一因というか原因でもあった。

 

「ああそうだ、先生。

 明日一日用事があってな。言うのを忘れていて悪いんだが、休みをくれや」

「“それは構わないけど……”」

 

 先生が自分の中のもやもやを言語化するのに戸惑っていると、男がそんなことを言い出した。

 別に彼が居ても居なくても、補習授業部の指導に問題は無いので先生は頷いた。

 

 すると、男のスマホに着信があった。

 

「おっと、ナギサからだ。

 どうやら、明日こっちに来るらしい。改めてあいつらに謝りたいそうだ」

「“わかったよ”」

 

 なぜ男のプライベートなスマホにナギサから着信があったのか、というツッコミどころに先生は思い至らなかった。

 

「じゃ、おやすみ。俺ももう行くわ」

「“……今日はどこに?”」

「ああ、今夜はミレニアムに行かないといけなくてな。

 ヒマリにこの間のお(・)礼(・)をしに行かないといけないんだわ。

 えーと、昼間にはこっちに戻って来て先方と待ち合わせがあって……」

 

 男はメモ帳を捲り予定を確認しながら、寮室を去って行った。

 先生は、これはこれで大変そうだなぁ、と他人事のように思うのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「この度は、私達の一方的な事情に巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした」

 

 翌日、連絡の通りにナギサはやってきた。

 彼女は教壇の前に立って、四人に頭を下げた。

 

「本当に、なんとお詫び申し上げればいいのか」

「ナギサ様、お顔を上げてください!!」

 

 上司の見たこともない姿に、堪らずヒフミが声を上げた。

 それほどまでに、ナギサの様子は痛々しかった。

 

「……随分とやつれましたね。

 教官に大分キツいオシオキをされたようで」

「わ、私はもう気にしてないしッ」

 

 ハナコは彼女の痛ましい姿に思うところがある様子で、コハルは強がってそう言った。

 

「責任の一端は、私にもある。顔を上げて欲しい」

「そう言うわけにはいきません」

「“ナギサ、とりあえず皆の顔を見よう”」

 

 アズサと先生の言葉に、ナギサはようやく頭を上げた。

 

「本来なら、もっと早くに来るべきでした。

 それが誠意と言うものです。なのに皆さんへの謝罪を、こんなに後回しにしてしまって申し訳ありません」

「いえ、そんなことは。

 本校舎の方の混乱はどうなりましたか?」

「依然と混迷を極めています。

 誰も下手人を見ていないのですから、当然です」

 

 その答えに、問いを投げかけたハナコも眉を顰めた。

 

「やはり、矯正局送りにした、なんて言い訳は通じませんでしたか」

 

 そう、トリニティを揺るがすテロリストとは本来アリウスの事で、彼女達はそっくりそのまま味方に歴史ごと書き換えた。

 ならば、当然でっちあげた犯人役が空白になってしまう。

 

 先生達にも、それを用意する時間はなかった。

 そして彼らの想像以上に、トリニティの生徒の猜疑心が強かった。

 それだけの話だった。

 

「サクラコさんが証人として事態の収拾に努めていますが、彼女が全ての事件を裏で操っていた、などという根も葉もない噂まで流れる始末で……」

「“私も、協力しようか?”」

「それは成りません。先生、どうか私達の負うべき責任を、奪わないでください。

 ……私を、恥知らずにしないでください」

「“わかったよ。でも、私はナギサの味方だからね”」

「……ありがとうございます、それだけで十分です」

 

 ナギサは先生にもう一度頭を下げた。

 

「必ず、この混乱は我々が収めて見せます」

「期待していますね」

 

 それが一番の慰めになると、ハナコはそう言葉を掛けた。

 

「はい。ティーパーティーの名に懸けて」

 

 ナギサの瞳に強い意志があるのを見て、先生は彼女は大丈夫だと思った。

 

「これ以上は勉強の邪魔になりますね。

 先生、少しあちらで宜しいでしょうか?」

「“うん、いいよ”」

「護衛いたします、先生」

 

 先生はトリコを伴って、教室から場所を変えて改めてナギサと廊下の突き当りの方へと向かった。

 

「先生、厚かましいことは承知の上で、実はお願いがあります」

「“それは勿論、構わないけど。ひとつだけその前に聞いても良いかな?”」

「はい、何なりと」

「“本当に、彼に手荒に扱われなかったかい?”」

「先生、彼は貴方との約束を守りましたよ」

「“……”」

 

 ナギサは儚く微笑んだ。それが、全てを物語っていた。

 約束云々が本当に守られているのなら、それをナギサに告げる必要性は無いのだから。

 

「心配なさらずとも、彼は決して私に暴力を振るいませんでした。

 まあ、暗い部屋に閉じ込めることを、ある種の虐待であると言ってしまえばそうなるのですが。

 私としては、絶対に手を出されない安全な場所に匿われた。その認識で合っていると思います」

「“それでも、私達は君に苦痛を強いた”」

「それは、私も同じですよ、先生」

 

 儚く微笑むナギサは、本物の天使のように透明に見えた。

 

「“だけど、今の君は……”」

「先生も、セイアさんのように自己の連続性について問うのですか?

 以前の私だけを切り取って、今の私とは違う人物である、と?

 ならひと月前の先生と、今の先生は別人なのですか?

 何も知らなかった頃の先生と、今の貴方は?」

「“……”」

「先生」

 

 ナギサは先生に問う。

 

「もし仮にですが、私が実家の事情で婚約が決まり、それを嫌だと言って先生に相談したら味方になってくれますか?」

「“それは、勿論だよ”」

「それはなぜですか? 私が嫌がったから? それとも貴方が先生だから? それとも、婚約で成された結婚は、真実の愛ではないからですか?」

「“多分、その全てだと思うよ”」

「ならば、真実の愛とは何なのですか?

 親同士の婚約でも、おしどり夫婦になる者もいる筈です。

 愛を証明するのは時間や、出会いの良し悪しで決まるものなのでしょうか?

 なら、彼が私に与えてくれた愛は、偽物なのですか?」

 

 先生は口を閉ざした。

 ナギサはなおも話し続ける。

 

「彼は私に、見返りを求めませんでした。

 先生のように、困ったらいつでも相談していい、と。甘えてもいい、と。抱きしめてくれました。

 私を利用すれば、幾らでも金銭や肉欲を満たせるのに、嫌ならこれ以上体も求めない、と言ってくれました。

 誰からも求められていない私の、心を欲しいと言ってくれた」

「“そんなことは、無いよ”」

「以前の私にとって、愛とは他人を動かすための上辺だけの言葉でした。

 愛を与えるから、愛を返してほしい。そんな、浅ましく下劣な女でした。

 先生が私を心配するのも分かります。ですが、かつての私と彼は、どちらが醜いですか?」

「“……”」

「先生は、こう思っているのでしょう?

 私が彼の食い物にされていつか捨てられるのだ、と。心配して下さってるのですよね?

 先生、――――それは、大きな間違いです」

 

 ナギサは笑みを深めて、こういった。

 

「トリニティの古くから伝わることわざに、こんな言葉があります。

 ――曰く、恋愛と戦争に手段を選んではいけない、と」

 

 先生は見た。

 あの男が目覚めさせてしまった、ナギサの中の怪物を。

 

「トリコさん、共に競い合いましょう。

 女は自分を磨き上げることを忘れた瞬間から、それを当たり前だと認識し、堕落しますから」

「ナギサさん、我らはボスの右腕に過ぎません。

 ボスが我々を必要とする限り、我々はボスを必要としますので」

「ええ、聞いています。あなた方は彼と一心同体である、と。

 そう言えば、彼は右利きでしたね」

「……何が言いたいのですか?」

「いえ、自分自身の右手で己を慰めるのは、虚しいだけなのではないか、と思いまして」

「――ッ!!」

 

 ぶわり、とトリコの全身の毛が逆立つのが先生には見えるようだった。

 

「毒婦め、ボスの愛に序列を付けようなどと!!」

「ええ、それが災いを齎すことは理解していますよ。

 ですが、全員一緒、で甘んじることなど、私にはできないのです」

 

 女の戦いに、先生は口を出せずに居心地が悪そうにするほかなかった。

 

「でも分かるでしょう、トリコさん。

 彼はきっと、いつか私達を置いて行きますよ」

「……」

「彼を現世に留める。その為にお互いに、身体でも情でも何でも使う必要がある。……違いますか?」

「…………良いでしょう」

 

 ナギサの言葉に、程なくしてトリコは頷いた。

 

「先生も、乙女の会話を聞いた以上、共犯ですよ?」

「“……うん、わかったよ”」

 

 女って怖い、先生はそう思った。

 

「めでたく共犯になったところで、先生に先ほどのお願いの件ですが」

「“何の用なのかな?”」

「最近、ミカさんの動きが怪しいのです。

 私達の手伝いもしないで、遊び歩いているようで」

 

 先生は思った、またか、と。

 

「“ミカが?”」

「ええ、なんでも、よくわからないサロンに出入りしようとしているとか。怪しい人物と接触しているという情報もあります。

 私はこの通り多忙な状況なので……」

「“わかった、確かめてみるよ”」

「これはミカさんのカバンに忍ばせておいた発信機の端末です。

 これをお使いください」

 

 用意が良いな、と先生は端末を受け取ってそう思った。

 

「ミカさんのことですから、どうせ下らないことだと思いますが、念のためにお願いします。この時期に、何かされても面倒ですから」

「“……わかった”」

「では私はそろそろ。ごきげんよう」

 

 用件が終わると、ナギサは去って行った。

 

 

 

 §§§

 

 

「“彼が居ない時は、代理でWolf小隊の指揮を執ってもいいんだったよね?”」

「はい、ボスにそのように言われています。好きにお使いください」

 

 そう言うことになったので、ウズの情報分析能力を頼ろうとした先生だったが。

 

「先生、何事でしょうか?」

「特殊部隊を活用する事態なのか?」

 

 ウズを呼び出したら、ハナコとアズサが反応して。

 

「ナギサ様の心労を減らす手助けをしたいです!!」

「じゃ、じゃあ私も手伝うけど」

 

 ヒフミとコハルもそれに追従した。

 先生が困っていると、ウズはそれを気にせず発信機の端末を受け取り、行動記録をノートパソコンで分析し始めた。

 

「うーん、特に怪しい場所に移動してはないみたいですけど」

 

 トリニティ自治区のマップを表示し、その行動記録を表示した。

 その記録の全てが繁華街で、数々のショップに出向いているだけにしか見えなかった。

 

「この間夜に出歩いた時の私達と大して変わらない行動範囲ですね……」

「今もファミレスに居るみたいだけど……」

 

 ハナコとコハルが左右からパソコンの画面を覗き込む。

 

「ここから歩いて行ける距離ですし、確かめてみますか?」

「せっかくだから行ってみましょう♡」

「“まあ、今日は息抜きに外食にしようか”」

 

 ヒフミとハナコの言葉に、先生もそう理由付けをした。

 生徒のプライベートを暴くのはあんまり乗り気ではない先生だったが、先生もミカが心配だったので行くことにした。

 

 

 

「このファミレスってWi-Fiもランチにドリンクバーも完備してて便利ですよね」

「個人的に料理はビミョーだけどね」

 

 楽しそうにしているヒフミと対照的に、コハルは辛辣な意見を述べた。

 

「ウズちゃん、ミカ様は?」

「ええと、位置的にこの辺りに――」

 

 ヒフミがウズに尋ねると、彼女は周囲の席を探して。

 

「……あれじゃないですか?」

 

 ハナコが見つけた。

 ミカ、らしき生徒の姿を。

 

 彼女は一目でミカだとは分からないだろう格好をしていた。

 マスクに犬耳のカチューシャを付け、ティーパーティーの制服を着ていないから、皆もすぐに気づけなかった。

 そして、誰かと相席をしていた。

 

「あれ、アビドスの制服ですよね。変装のつもりでしょうか」

「それに、同席してるのはまさか」

「“……アップルマン”?」

 

 そう、ミカと相席しているのはあの男だった。

 

「何を話してるのかしら?」

 

 一同はこっそりと二人の席に近づいた。

 

 

「じゃあ、今日決行で良いんだな?」

「うん、先生を襲う」

「俺が手引きし、その様子を撮影する」

「晴れて、既成事実は成立。先生は責任を取るしかないね☆」

「ふふふ」

「あはは」

 

「アウトー!!」

 

 そして、コハルが飛び出して行った。

 先生達もその後に続く。

 

「な、なぜお前らが、まさか付けて来たのか!?」

「“ミカ、これは一体どういうことかな?”」

「わ、わたしは、サロウ、シロコだよー、銀行を襲うよー」

「バカッ、シロコの苗字は砂狼だ!!」

「あ、そうだっけ?」

「“……事情を説明してもらうからね?”」

「はい」

 

 ミカの下手な芝居は見破られ、結局二人の陰謀は頓挫した。

 

 

「俺はミカの相談に乗ってただけだ」

 

 と、男は主張した。

 

「まあ先生の好みのタイプとか? 

 そう言うのを教えてアプローチの仕方とか伝授してたわけよ」

「先生を襲うって聞こえましたけど?」

「それは、あれだよ。

 先生の伴侶にミカは相応しいと思ったから手伝っただけで、俺は二人の幸せを願ってだな」

「“余計なお世話だよ!! 私の幸せは私が決めるから”」

「じゃ、じゃあ、私と結婚したら幸せじゃないの、先生?」

「“そ、それは、そう言う意味じゃなくて……”」

 

 先生はミカに詰め寄られ、しどろもどろになった。

 

「家柄、学校での立場、教養もある。

 ミカなら先生の婚約者になったとしても誰も文句は言わないと思ったんだがなぁ」

「そ、そんなことは無いはずですよ!!

 きっとキヴォトス中で反乱が起こります!!」

「そうか?」

「では、ナギサが言っていたという怪しげなサロンと言うのは?」

「日焼けサロンの事か?

 ミカの奴に先生の好みは小麦色の肌だって教えたんだけどな、自分の美肌に自信があるのか日和って何度も出入りしても決心がつかなかったらしい」

 

 男のそんな供述に、ヒフミとアズサは呆れた。

 結局、今回は本当にナギサの取り越し苦労だった。

 

「俺だって悪ふざけでミカに付き合ってたわけじゃない。

 先生だってミカは憎からず思ってるだろ?

 俺はこんなメンヘラぶりっ子女はゴメンだが、先生はこう言うの好きだろう?」

「あはは☆ ――グーパンしてもいい?」

「殺す気かよお前」

 

 ミカの剛腕を知らぬ先生は、一回殴られればいいのに、と思った。

 男の指摘が的外れじゃないのが、先生は生々しくて嫌だったのである。

 

「“わかったよ、ミカ。ミカが二十歳になって、その想いが変わらなかったら、それから改めて話し合おう”」

「本当? ウソじゃないよね?」

 

 先生は頷いた。

 そこまで一途に思われて、何も示さないほど先生も朴念仁ではなかった。

 

「やった、婚約祝いに今日は皆に奢るね!!」

「“ちょっと待って、そこまで話は進んでないからね!?”」

「うふふ、冗談だって」

 

 冗談に聞こえないから焦る先生だった。

 ミカは悪戯っぽく笑った。

 

「せっかくナギちゃんと同じ職場になれそうなのにね」

「焦る必要は無い。外堀をゆっくり固めればいい」

「そうだね!! とりあえずもっと実績は必要かな。どうしたらみんなに納得してもらえるかな☆」

 

 自分の幸せに真っ直ぐのミカに、先生はいつの間にか毒気を抜かれていた。

 とりあえず彼女に余計なことを吹き込む男は後で説教だと思った。

 

「とりあえず、解決したところですし何か食べましょう」

「私はサンドイッチを所望する」

「コハルちゃんは何を食べます?」

「あ、私は――」

 

 もう既に、補習授業部の四人はテーブルに座ってメニューを広げている。

 

 こうして、補習授業部のモラトリアムは過ぎて行った。

 彼女達は無事に第三次特別学力試験に合格し、先生達はそれを見届けた。

 

「先生、これまでありがとうございました」

 

 合格し、喜びを分かち合う三人を横目に、ハナコが先生に言った。

 

「“私は私のやるべきことをやっただけだよ”」

「最後に一つだけよろしいですか?」

 

 うん、と先生は頷いた。

 

「教官をどう思いますか?」

「“手のかかる友人、かな”」

「随分と、楽観的ですね、先生。

 彼は、――貴方が自分を超えることを望んでいる」

「“……”」

「彼は幾らでも、私を陥れ味方に引きずりこむことができたはずです。

 だけど、そうはしなかった。それはきっと――」

 

 ――――俺ではなく、先生に付け。お前なら分かるだろ?

 

 ハナコは、そこで言葉を濁した。

 

「先生、決別は必ずやってきます。

 彼と先生は、決して相いれない筈ですから」

「“それは、わかっているよ。

 だけど、なるべくをそれを先延ばしにしたい。そう思ってるよ”」

「私はセイアちゃんのような予言者じゃありませんから、私はそうならないように願っています」

 

 そうだね、と先生は頷いた。

 これで、先生は補習授業部の担任ではなくなった。

 

 これから彼女達は経過観察があるらしいが、それは語る必要も無いだろう。

 

 

 

 

 

「大分、長居しちまった気がする。

 俺も柄にもなく情が湧いちまった」

「“それはいつもの事だよね?”」

「かもな」

 

 先生と男は、車でシャーレのオフィスに向かっていた。

 Wolf小隊の面々は別の車で後ろから護衛している。

 

「うん? やべ、ガソリンが無いぞ」

 

 男はそこで、ガソリンの残量が少ないことを示すランプが点灯していることに気づいた。

 

「“丁度ガソリンスタンドがあるよ”」

「こんなところにあったのか、寄るしか無いな」

 

 男は後ろのWolf小隊の面々に窓から手を出して手旗信号を送り、ガソリンスタンドに入った。

 

「いらっさいませー」

 

 アルバイトの生徒らしき少女が、対応に出た。

 

「レギュラー満タンで」

「はい、レギュラー満タンですね!!」

「先生、俺はちょっと催したんでトイレ行くわ」

「“うん、じゃあ私も飲み物でも買おうかな”」

 

 二人はそんな感じで、ガソリンが充填されている間に些細な用事を済ませた。

 

「あ、もしかして、貴方はシャーレの先生ですか!?」

「“うん、そうだよ”」

 

 先生が自販機からジュース片手に戻ると、アルバイトの生徒が先生を認め感激したように目を輝かせた。

 

「こんなところで先生に会えるなんて、感激です!!」

 

 彼女は無造作に手を伸ばし握手を求めたので、先生もそれに応じた。

 

「もし、いつか何かあったら私も先生に頼っても良いですか?」

「“うん、いつでも言って”」

「ありがとうございます!! あ、ガソリン満タンになりましたよ!!」

「“ありがとう”」

 

 彼女が手を放し、作業に戻る。

 男もトイレから戻って来て、運転席に戻った。

 

「“……?”」

「どうした、先生?」

「“いや、何でもないよ”」

 

 先生は男に声を掛けられ、我に返った。

 一瞬、立ち眩みのような何かを感じたが、先生は気のせいだと思うことにした。

 

 男はガソリン代を支払い、領収証を貰って発進した。

 そして、すぐに無線から声が出た。

 

『ボス、私です』

「どうした? ナバト」

『さっきまで、どこにいらしたのかと思いまして』

「ガソリンスタンドだよ。何言ってんだ、お前」

『……いえ、何でもないです』

 

 なんだあいつら、と男は首を傾げた。

 

 

「なあ、ボスたちはいつの間にガソリンスタンドに行ったんだ?」

「さあ? 寄り道をするって手旗信号は見えたけど……」

 

 イタズラかな、と二人は首を傾げて前を向いた。

 

 不審に思ったトリコは背後を振り返る。

 

 

 ガソリンスタンドなど、どこにも無かった。

 

 

 

 

 

 

 





これにて補習授業部の後日談は終わりなります。
最後のシーンは、あの有名なゲームのパロディです。以前言った通りちょっとだけ、拙作のオリジナルシリーズの要素を含んだ話をやると言った奴の、前振りです。

諸事情あって今日も感想の返信が遅れますが、新しい感想を待ってます!!

ではまた次回!!
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