言うまでもありませんが、多分四章も原作通りにはならないでしょう。
これまで殆どオリチャーで書いて来たので、結末は作者にも分かりません。
では、本編どうぞ!!
再会
「じゃあ先生、俺は連邦生徒会に行ってくるわ」
「“確か、防衛室から治安維持に対する意見を求められてるんだっけ?”」
「そうそう。他にも取り潰しになったSRTの活用方法とか、相談されてな」
男は外出の準備をしながら、先生にそう言った。
「“私もそれは気になってたんだよね”」
「まあ、詳しくは後で報告するからよ」
「“いってらっしゃい”」
男はそんな感じで、シャーレのオフィスからサンクトゥムタワーへと赴いた。
「お待ちしてましたよ、アップルマンさん」
「こちらこそ、不知火カヤ防衛室長」
男はすぐに防衛室の室長室に案内された。
「防衛室のトップたるあんたに言うのもあれだが、盗聴とかはされてないよな?」
「それに関しては、御心配なく」
室内のラックに影のように佇んでいるユキノが答えた。
「俺もちゃんと一人で来た。
とりあえず、あんたの計画の一部始終を教えて貰おうか」
「ええ、こちらにまとめてあります」
カヤは極秘資料を彼に渡した。
「ふむふむ、なるほど……」
男は10分ほど熟読すると。
「話に成らんな」
それを破いた。
即座に、ユキノが男に銃口を向ける
「な、何をするんですか!? その資料はコピーも取ってないんですよ!?」
予想外の行動に、カヤはうろたえる。
現政権に渡ったらマズい資料なので、当然デジタル化もしていない一点ものだ。
「防衛室長、あんたは若いから分からないんだろうが、クーデター政権ってのは大抵上手く行かないもんだ。
俺が昔、政府に勝たせてやったレジスタンスが政権を勝ち取ったが、政治経験がないから半年も持たずに瓦解した」
「私が、力不足だと?」
「違う、そうじゃない」
ヤギ目を細め、睨むカヤに男は首を横に振った。
「お前の最終目的を聞こう。
あんたの目的は連邦生徒会長か? それとも、キヴォトスに平和を齎すことか?」
「勿論、連邦生徒会のトップになるのは平和を齎す過程に過ぎないと思っていますよ」
「なら、これだけは理解した方がいい」
男は紙吹雪になるまで破いた資料の残骸を指差した。
「誰も、お前の完璧な政策を理解しないだろう。
なぜだかわかるか? 民衆はバカだからだよ」
「はい?」
「お前の計画は完璧だよ。実現不可能だという点を除けばな。
仮に実現できたとしても、あんたは民衆の愚かさを理解していない」
男は応接用のソファーから立ち上がり、室長室のデスクへと歩み寄る。
「動くな!!」
ユキノの恫喝。
しかし、男は無視した。撃てないのをわかっているからだ。
「カヤ防衛室長、あんたの理想が実現したらどうなると思う?」
「き、キヴォトスは一件も犯罪の無い、理想郷に……」
「そうだな。そして次を求めるぞ。
犯罪は無くなった。次は食料の無償化でも始めるか? 次に民衆は働きたくないというぞ、仕事の全自動化でも推し進めるか?」
そう、民衆は決して満足しない。
なぜなら、その状態に慣れるからだ。
「民衆はバカだから、完璧なお前のあら捜しをする。
どれだけお前が完璧だろうと、民衆は愚かだからもっと良い政治家を、と望むんだ。
こんな言葉がある。責任者とは、責任を取る為にいる、のだとな。
なぜお前は、そんな転落したらダメージが大きいような立場を望むんだ?」
「…………」
大男に詰め寄られ、冷や汗をかいていたカヤは徐々に冷静さを取り戻す。
「計画を、変更するべきだと?」
「俺はお前の地位と言う、最大の長所を生かせ、と言っている。
カイザーコーポレーションに治安維持を任せるのも悪手だ。
連中の不祥事の資料を持って来てやろうか?
連中がお前の言うことを全て聞くと思うのか?
所詮金で雇う連中だ、カネの切れ目が縁の切れ目。お前は自分の銃が、いざと言う時にカネを払わないと弾丸を発射しないと言ったらどうする? 武器は何より安全性と確実性が求められる。
良いか、弱みを相手に見せるな。カネではなく、相手を姿勢で従えろ。それが為政者だ」
「……確かに」
その光景を見ている、ユキノは戦慄した。
確実にカヤは言いくるめられている。
カヤの計画の不備を指摘し、堅実に沿った経験から男はモノを言っているから説得力があった。
賢さならば、カヤの方が間違いなく上なのだろう。
だが、男はそれを余裕で上回る人生経験を有していた。
「俺が一番納得した裏切りを防止する方法を教えて欲しいか?」
「聞かせてくれますか?」
「――給料をしっかり規定日に払うことだ」
その言葉に、カヤは拍子抜けみたいな顔になった。
「それだけですか?」
「それだけだが、重要なことだ。
カネの問題ではなく給料を払わない、と思われる方が問題なのだ。
たとえばそうだな。そこのお前。ユキノだったか?」
「……はい」
「俺の右手のWolf小隊も、そこの狐ちゃんたちの部隊も、SRTの復活を対価にお前に従うことになっているが。
……それはいつ、支払えるんだ? 勿論、口先での回答じゃない、お前の頭の中で、いつだ?」
カヤは、答えられない。それが、何よりも雄弁な答えだった。
対して、ユキノはゾッとした。
この男は言葉だけでカヤに教訓を与え、カヤとFOX小隊の離間工作まで始めたのだ。
「カヤ室長、お前の中でこいつらはいつ裏切った?」
「戯言ですッ!!」
「ほら、図星を突かれて焦ってるぞ」
「やめましょう、二人とも」
一瞬で険悪な雰囲気になった両者を、カヤは諫めた。
「私達は共にキヴォトスの安寧を願う同志でしょう?
ユキノさん、私は貴女の信念を疑ってはいません。
アップルマンさんも、あのヒナ風紀委員会長すら持て余したその鬼謀を、超人たるこの私なら使いこなせます」
超人ねぇ、と男はぼそりと呟いた。
「彼の実績は、ユキノさん。貴方が調べた通りです」
「アクロバットじみたアビドス高校の再興、ゲヘナ風紀委員会の組織体制の合理化によるゲヘナ学園の躍進、トリニティではオセロのように敵味方全てをひっくり返した」
良く調べてる、と男は思わず口笛を吹いた。
「私は専門家の意見を取り入れないほど、狭量ではありません。
しかし、クーデターに代わる政権の奪取の方法はあるのですかね?
代案が無いのに全否定されては、流石の私も傷心のあまり不本意な命令をしてしまうかもしれません」
そんな暢気なことを言うカヤに、ユキノは言いたかった。
この怪物を御せる者など、この世に居て堪るか、と。
「主席行政官のリンちゃんだったか?
要らぬ苦労を引き受けてくれているんだから、このまま押し付けてしまえばいい。
あんたは彼女の領分は未経験だろう? 首を突っ込んでも責任を取らされるだけだ。
あんたはその地位を利用し、カリスマのナンバー2に収まればいい。
お前が連邦生徒会を盛り立てるんだ。そうして連邦生徒会と民衆の支持を集めれば、嫌でも連邦生徒会長の椅子は転がり込んでくる」
「具体的な方策を聞いて居るのですが?」
「実は俺な、ガキの頃教師に言われたんだ。君はワンパターンだね、って。
子供ながらそんな英単語理解できなかったが、今は戒めとしてる」
はあ、とカヤはそんな男の過去の経験に適当に相槌を打った。
「思うに、ユキノよ」
「何ですか?」
「そもそも――――SRT特殊学園なんて、要らなくないか?」
「なッ、何を馬鹿な!?」
「バカなのはお前だ、たわけが!!」
男の怒鳴り声に、ユキノは思わず怯んだ。
「SRTの復活だぁ? お前は本質を間違えてる。
必要なのは箱ものか? それとも連邦生徒会長っていうご主人様か?
SRTが復活したところで、根本的に意味なんてないんだよ!!
目を覚ませ。本当に必要なのは、お前の仲間や後輩たちの居場所と、滞りなく学園生活を送れる状況だ。違うか!!」
「…………」
ユキノは愕然とした。
己の目が曇っていたことを理解した。
自分は何の為にSRTを復活させようとしているのか、全ては男の言う通りだった。
「カヤとお前は、決定的にそこの食い違いがあった。
だからお前はいつか、カヤを裏切るのだ。わかったか、ごんぎつね」
「……仰る通りです」
完膚なきまでに言い負かされた。
ユキノは拳銃を下ろすほかなかった。
「さて、そんな彼女の裏切りを防止し、カヤ室長の権威を高める方法がある。しかも、予算を組む必要が無い。タダでだ!!」
「そんな方法があるのですか?」
「シャーレの先生を使え。新しいモノを作るより、既にあるモノを流用すれば安上がりになる。基本中の基本だ」
「先生を、ですか?」
「お前は先生を制御下に置き、いずれ排除しようとしてるようだが、よーく考えてみろ」
男は全て丸く収まる方法を、笑みを深めて語った。
「シャーレは、連邦捜査部という便利な肩書と超法規的な権限がある。
先生がナギサにしてやられたように、その権限をちょちょいと組み込んだ新しい部活を作るんだ。
するとどうだ、ちちんぷいぷい!! SRTと全く同じ権限と活動範囲を誇る、まったく別の箱モノができるってわけよ」
「確かに、先生を連邦生徒会長に置き換えれば、実質的にSRTと同じことが出来る部活が作れる……」
「シャーレの下部組織として、防衛室がその出動の権限に噛むことさえできれば、二重のリミッターとなる。
どこかの狐ちゃん達の暴走みたいなことも無くなり、分別のある大人の判断も合わせて、信頼を得ることなど容易いことだ」
まるで最初からそれを用意していたかのように、ぴたりとハマる解決方法だった。
思わずカヤも唸るほかなかった。
「カヤ室長。あんたはそのSRTもどきの部隊出動の承認に関わることで、上手く先生に取り入り信認を得るんだ。
先生は単純なお人よしだから、お前の信念を伝えれば簡単にお前を信頼するだろう。
そして何より、その下部組織のSRTもどきの責任者は上位組織のシャーレにある。なにせ、出動要請の判断をするのは先生だからな。
つまりだ、いざとなっても、あんたの責任は最小限だ」
「ふふ、ふふふッ。本当に、面白い方ですね、アップルマンさん」
「カヤ室長、リスクを背負うな。面倒ごとは他人にやらせろ。
あんたは清廉潔白のまま、支持層を増やせばいい。
汚い手も、不正も、巡り巡ってお前の首を絞めるだけだ。
正道こそ王道なのだ。そうすれば、リンちゃんの方から喜んで将来の連邦生徒会長の椅子をあんたに差し出してくるだろう」
そして、ユキノにエサを与えることで、裏切りを防止する。
先生もわざわざ現場に出向いて戦いの指揮をする負担が減る。
一石二鳥どころか、三鳥も四鳥も落とす名案だった。
「SRTもどきの部活も、実績を上げれば民衆も支持する。
そうなれば、アビドスの時のように連邦生徒会が差し押さえた経営破綻した学校を、その部活動専門の訓練校にでもすればいい。
先生にはそれが出来るし、一度やってみせた。
なにより、SRTをわざわざ復活させるなんて、面倒で迂遠なことをする必要が無くなる」
カヤ、ユキノ、先生、全員にメリットのある方策。
ただの言いくるめだとは言わせない、説得力と経験と実現難易度。
そして、それを成してきた、この男の実績。
「カヤ室長。真の超人は、劉備ではなく諸葛亮孔明だ。
王ではなく、王佐の才にて成り上がれ」
男は言う。連邦生徒会長が王なのではない。
人徳と責任を持って、キヴォトスを治める大人こそが王なのだと。
「ふふふッ……そうですか、貴方はシャーレの先生が王であると考えているのですね」
「異論はあるのか?
いや、――代案はあるのか?」
「いえいえ、ありませんとも。
なにより、本気で私のことを考えているのが伝わりました。いいプレゼンテーションでしたよ。
他の室長達にも見習わせたいものです」
それが、カヤの答えだった。
当然だろう。男は本気で、カヤを盛り立てるつもりだった。
――――蝋の翼で空高く飛べば飛ぶほど、墜落した時のダメージは大きいのだから。
「貴方以上に魅力的な提案を、この私も出せそうにありません。
つまり、手を汚すのは私とは全く関係ない人たち。そういうことですね?」
「そう言うことよ。
先生には俺から話を通しておく。勿論、あんたの野望を除いて、だが。
クーデターなんて暴力より、よほどスマートだろ?」
「ええ、ええ、まったくもってあなたの言う通りです」
カヤは男のプレゼンをいたく気に入ったようだった。
「なぜ、私の後輩たちが貴方に従い、先生が傍に置くのかよく理解できた。
私の勘は、今すぐ貴方を始末しろ、と言っている。だけど、それは出来ないと理性が訴える。
恐ろしい……これまで私達が相対してきた大人なぞ、貴方に比べれば全員小物だった」
丸く収まった。いや、丸め込まれた。
ユキノはその自覚があるだけに、恐ろしかった。
誰にとってもプラスの提案なのに、どうしても不気味さが拭えない。
全てこの男が正しいのに、危機感が警鐘を鳴らすのだ。
――――この男と、関わるな、と。
曰く、本物の悪魔は嘘を吐いて己を召喚した者を騙すことなどしないのだと。
契約によって相手が自ら堕落するのを、玩弄して喜ぶのだと。
故に、この男は悪魔そのものだった。
「お褒めに預かり光栄だ。
では最初に各々のやることを割り振ろう」
「私はSRT部創設に関して行政官たちの説得。
ユキノさん達はヴァルキューレに転校を決めた元SRTの面々の説得。
貴方は先生に話を通す、と言ったところでしょうか」
「そうだな。その前に、ユキノ達FOX小隊は連邦生徒会襲撃の件に対して出頭して貰おうか」
「それに対して私こと防衛室長がお慈悲を掛け、社会奉仕活動の一環として先生に身柄を預ける、なんてシナリオはどうでしょう?」
「実に素晴らしい筋書きだな!!」
カヤと男の話は、とんとん拍子で進んでいく。
方針が決まればカヤもどんどんと話を詰めていく。彼女が決して無能ではない証だった。
「そう言うわけですので、ユキノさん。
すみませんが、しばらく不自由をさせてしまいますね」
「いえ、願っても無い事です」
自分で襲撃を指示しておいて白々しい、という感想より、その言葉が本心であることにユキノは自分で驚いていた。
自分の心のどこかに、罪悪感があったことを直視してしまったのだ。
「先生の所にはお前の後輩たちもいる。
今度こそ、ゆっくり感動の再会を楽しむといい」
「……わかりました」
ユキノは二人に頷いて見せた。
そして、彼女は小隊の仲間に連絡を取った。
その日の午後、連邦生徒会を襲撃した元SRTの生徒四人が、公安局に出頭した。
事態を重く見た防衛室長が彼女らの身柄を預かり、扱いに困った彼女は先生を呼びだして、四人を託すことにした。
「“みんな、よろしくね”」
負傷者多数を引き起こした襲撃犯に対して、先生はにこやかに彼女達を受け入れた。
「“事情は彼から聞いているよ。
君たちの後輩の居場所を作る手伝いを、私にもさせてくれないかい?”」
男の言う通り、本当に単純なお人好し、と言わんばかりの態度に、警戒していた四人は毒気を抜かれた。
先生の後ろでニヤニヤ笑う男を疑わしそうに見ている隊員たちを尻目に、ユキノは男の後ろに並ぶWolf小隊の四人を見やる。
「せ、先輩方!!」
すると、代表してトリコが口を開いた。
「私達は、貫き通しました!!
SRTを離れても、その理念と正義を胸に、戦いました!!」
堪らず、他の三人も声を上げる。
「無辜の民を害する邪悪を、目に映る限り討ちましたッ!!」
「先輩達の教えが、私達をここに導きました!!」
「ずっと会いたかった、褒めて欲しかったッ、その為に私達はッ――」
三人の言葉が終わるまで待たずに、FOX小隊の面々は彼女達に抱き着いた。
「うん、偉いよ、本当に偉かった」
ニコがウズを抱きしめ、その小さな体躯を掻き抱いた、
「ほんっとうに、不器用なんだから、あんた達は!! なんでもっと器用にやれなかったのよッ!!」
クルミがムツニに引っ付くように抱きしめ、感涙を流していた。
「C&Cとやり合ってほぼ引き分けたんでしょ?
私達は皆、やればできる子たちだってわかってたよ?」
オトギは再会に涙するナバトの頭を撫でていた。
「ええ、あなた達はSRTの誇りです」
ユキノの言葉に、トリコは己の瞳から流れる涙を拭った。
「またお会いできて、光栄です。先輩方」
少なくとも、その言葉に嘘は無かった。
本当は、ずっと会いたくなかった先輩達。
SRTから逃げたことを怒られると思った。叱られると思った。失望されていると思っていた。
その恐怖から逃れるように、がむしゃらに戦ってきた。
そして、それが今日報われた。
これはそんな、青春の一幕。
「感動的だなぁ、素晴らしいな」
それで、終わるはずだったのである。
この男さえ、居なければ。そうなったはずだった。
尤も、この男が居なかったら両者は再会すらしなかったのだろうが。
「とりあえず、積もる話もあるだろうが、先輩方は後輩の成長も気になるところだろう?
こいつらの成長を、是非見てくれや」
男の提案に、皆は顔を見合わせ、頷いた。
そう言うことで、面々は場所を移すことになったのだった。
次回は兎小隊を出したいですね。
転落させるためにカヤに本気でアドバイスしてるところが、主人公のサイコパスみがスゴイというか。
別方面でカヤちゃんを輝かせるのは、それはそれで見てみたいですよね。
では、また次回!!