※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

69 / 121
各々の役割

 

 

 

「カヤ防衛室長、こんな横車を押すような真似は許されませんよ!!」

「なぜですか?」

 

 連邦生徒会の会議室。

 いつものように長い会議はこの日、カヤの提出した新しい治安維持の草案に対して紛糾していた。

 

「先日、元SRTの襲撃によってこの連邦生徒会の役員に負傷者と機材に多数の被害が出ました!!

 元SRTの生徒達は危険分子に他ならない!!

 それを再び集結しようなどと!!」

「それはヴァルキューレ警察学校でも同じことですよ。

 それに何も、手綱を付けないわけではありません」

 

 カヤは自分の意見に反対する行政官たちと論争をしていた。

 

「仮称SRT部は各学園の生徒会や自治組織、公安局やそして我々連邦生徒会などの要請を受けて出動します。

 その権限はシャーレの先生に一任し、そして我々防衛室もチェックを行います。

 必要ならリン行政官の承認も出動プロセスに加味しましょうか?」

「……いえ、間に挟む人数が多すぎると、SRTの最大の武器の一つである機動性が損なわれます。

 しかし、万が一防衛室長の連絡が取れない場合はどうしますか?」

「次長がその承認を、それも不可能なら主席行政官の承認を必要とするという形を想定しています」

 

 この件に対して、リンは中立だった。

 そのように質疑応答を繰り返している。

 

「我々はこれ以上、シャーレの先生に強権を与えるべきではないと考えます!!」

「シャーレと言う組織が成り立っているのは、先生の善意なのです。

 個人の善意に頼るのが、組織としての在り方でしょうか!?」

 

 反対派の意見に、多くの行政官が頷いた。

 

「ええ、皆さんの仰る通りです」

「……?」

「では、教えてください。悪意にはどう対抗するのですか?」

 

 カヤの言葉に、反対派は黙り込んだ。

 

「先日のブラックマーケット消失事件以来、多くの犯罪者がキヴォトス各地に解き放たれました。

 公安局の報告によれば、悪質なギャングと化した例も多数報告されています。

 これは連邦生徒会長失踪以来、最悪の犯罪発生率を記録しているのですよ?

 そして、そんな連中は公安局の追跡や追及を易々と躱す手段を熟知している。そんなしつこいカビのような連中なのです。

 なら、専門業者を用意する他ないと思いませんか?

 確かに、元SRTの生徒が連邦生徒会を襲いましたが、我々を守ったのもその場に偶然居合わせた元SRTの生徒なのです」

 

 そうだそうだ、とカヤの派閥がそれを後押しする。

 

「勿論、先生の善意に頼るのは我々の不徳の致すところです。

 ですが仮称SRT部は優れた指揮官を持たずとも、独自に作戦を遂行できるプロフェッショナル。

 先生の献身に応えるためにも、かの御方の負担を減らす為にも、私は仮称SRT部の創設を強く進言致します!!」

 

 反対意見が、下火になった。

 

「しかし、皆さんが不安なのも理解できます。

 ですのでまずは小規模から、そして実績を上げ、皆さんの信認を得たらゆくゆくは本格的な訓練校の設立をする方向でどうでしょうか?」

「……」

「……」

 

 犯罪率の上昇で、各々の業務に支障が出ているのも事実だった。

 連邦生徒会の民衆の支持は、過去最低を低空飛行している。

 テコ入れが必要なのは、誰もが理解していた。

 

「まあ、交通室としては自治区を跨いだ面倒な犯罪者の検挙をやってくれるなら大助かりだけど」

「うーん、私はこの間ボコボコにされたしなぁ」

 

 モモカとハイネなどはそれぞれの反応を示す。

 

「……議論が煮詰まってきたようですね。そろそろ採決にしましょう」

 

 採決の結果、SRT部の創設の賛成票は七割以上。

 見事、可決と相成った。

 

「一応言っておくけど、SRT部の予算は防衛室から出してもらうからね」

「ふーむ、こればかりは致し方ありませんね」

 

 アオイの釘を刺す言葉に、カヤは頷いた。

 SRT特殊学園の予算をまるまる引っこ抜けられれば最上だったが、そこまでカヤは欲張らなかった。

 高級な最新装備ならともかく、通常兵器なら今のところ少人数なのでそれほど痛手にならない。

 

 それに連邦生徒会から予算を引き出すのは、実績を出してからでも遅くはない。

 

「本日の議題はこれで終了です。

 皆さん、お疲れさまでした」

 

 お疲れさまでした、とリンの音頭に唱和する行政官たち。

 

「カヤ防衛室長」

「はい、何でしょうかリン行政官」

 

 ぞろぞろと彼女達が退出していく中で、リンはカヤを呼び止めた。

 

「随分と思い切った方策でしたね。

 これまでの貴女からは想像も出来ない」

 

 リンにとって、カヤの印象は決して大きくない。

 他の問題児を多数抱える連邦生徒会では、彼女は目立たない方だ。

 まあ、防衛室は要するに国防を担うようなモノなので、そこのトップが問題児であっては困るのだが。

 

「元SRTの生徒達に学園の閉鎖を宣言するのは、私の役目でしたから。

 これでも、何にも思わなかったわけではないんですよ?」

「そうでしたね……。SRT部が実績を上げるまでの間、転校を保留にする元SRTの生徒も出てくるでしょうし、そのフォローもしないといけません」

 

 心労に満ちた溜息を吐くリン。

 その気遣いの発想は、カヤには無かった。

 

 そう言えば、とカヤは思った。

 自分と彼女は、まだちゃんと話したことは無かったな、と。

 

「数多の雑事に煩わされるリン行政官ほどではありませんよ。

 このままなら、空いた椅子の後釜は貴女で決まりでしょう」

「滅多なことを。連邦生徒会長の帰りを待つのも、私の仕事だと思っています。

 その為にも治安維持の強化と、連邦生徒会の信頼回復に努めねばなりません」

「……」

 

 カヤにとって、リンは些細な事に囚われる凡人だった。

 教養と学歴、知性を備え万事に悠然と構える姿を見せることこそ、凡人を支配する役人の超人としての姿なのだと、それがカヤの哲学だった。

 それは羨望でもあり、嫉妬の裏返しでもあり、憧憬だった。

 

 だが、それに最も近い人間はどうだ?

 疲れ果て、雑事に右往左往し、弱々しい姿を見せている。

 

 この女は相応しくない、そう思うのはカヤにとって当然の事だった。

 

 だが役には立つ。面倒ごとを押し付け、伸び伸びと自分が己に相応しい仕事をする為のスケープゴートには最適だと、カヤは思い直した。

 

「はい、私も協力しますよ」

「……そう言ってくれる、貴女が本当に頼もしいですよ」

 

 リンは本心からそう言った。

 彼女からすれば、カヤはまだま(・)と(・)も(・)な人間なのだから。

 そんな人間が自分に協力的とあれば、嫌いになれるわけもない。

 

 リンが自分を信頼し仕事を任せる、それはカヤの自尊心を大いに満たした。

 心の奥底で、どこか自分は超人には成れない、と冷めた目で見るもうひとりの己を誤魔化すのに役に立った。

 

 そして、そんなリンが自分を超人と認め、帰りを待っているはずの連邦生徒会長の椅子を自ら差し出す。

 そんな夢想が、彼女に昏い愉悦を齎すのだ。

 

「ではとりあえず、この朗報を先生達に届けましょうか♪」

 

 彼女は自分の仕事をこなした。

 後は現場の仕事だ。

 

 

 

 §§§

 

 

 キヴォトスの住人は、生徒であろうとなかろうと普通に武装している。

 携帯電話と手榴弾が同じ日用品の位置にしているのだ。

 化粧品と同じように拳銃をハンドバッグに忍ばせている、なんて当然の事である。

 

 なので、市民用の演習場なんてテニスコートや野球場みたいな感覚で、探せば幾らでもあるのがキヴォトスだった。

 

「なんだあいつら、ヤバくね?」

「なにあの動き……」

 

 キヴォトスの市民やそこにたむろしていた不良たちが目を剝く。

 市民向けに解放されている演習場の第一レーンで本格的な軍事演習がなされていた。

 

 ドカン、ドカン、と手榴弾の爆音とスモークがそこら中に焚かれている。

 

「FOX2、FOX3、その曲がり角からWolf3とWolf4の分断を」

『こちらFOX3、ゴメン、こいつらピッタリくっついて離れない。分断失敗』

『こちらFOX2、こちらの判断で応戦するね。彼女ら、教本の内容なんてとっくに捨ててる』

 

 入り組んだ通路と遮蔽物の中で、遭遇戦が発生していた。

 

 クルミとニコが、ムツニとナバトと遭遇し応戦していた。

 分断し各個撃破は基本だが、Wolf小隊のメンバーは基本ツーマンセル。

 建物に突撃を想定し、仮に複数の部屋への制圧力が落ちても、絶対に単独行動はしない。

 

 それは、単独での行動を前提とするSRTの教えとは異なっていた。

 

『こちら、FOX4。距離700でWolf4から反撃があった。

 そちらの観測手の排除を要請する』

「FOX1了解、オーバー」

 

 FOX小隊は三人がかりでこの二人組を排除しようとするが、高所で待機していたオトギが戦闘の合間にナバトが狙撃の牽制を行っている。

 

「なるほど、C&C相手に互角に戦ったというだけはある」

 

 C&Cは万能のエージェントだが、その役目は基本的に戦闘に特化している。

 ただ単純な戦闘なら、FOX小隊全員と合わせても数枚上手だ。

 それと互角に戦ったポイントマンのWolf小隊の二人が、FOX小隊の三人がかりでも苦戦するのはおかしなことではない。

 

 確実な任務遂行より、生存性。その上で突破力を兼ね備えている。

 彼女らの戦い方はSRTの特殊部隊というより、傭兵そのものだった。

 

 オトギから送られてきたトリコとウズの位置を参照し、ユキノは動き出す。

 

「姉さん、来ます!!」

「了解!!」

 

 スモークグレネードの投擲と同時に、ユキノが突撃する。

 前線メンバーが苦戦しているのは、後方の支援に依るものだった。

 狙撃手の位置を割り出し、それを逐一報告しているのがトリコとウズ。そのせいで、強力なスナイパーであるオトギが機能していない。

 

 ユキノは面制圧に特化したトリコのショットガンを突入に合わせてフェイントをかけた。

 彼女の主兵装のショットガンは強力だが、極端な近距離仕様になっている。当然、装弾数も把握している。

 

 瞬間火力を使い果たしたのを把握すると、ユキノは煙の中でトリコとウズの位置を声で割り出し、弱い方、即ちウズを格闘で制圧する。

 

「ウズ!!」

「視界が確保できない状況で、むやみに声を出すな!!」

 

 ユキノの怒声と同時に、トリコを制圧する。

 

『演習は終了だ。俺ならここで撤退命令を出す。

 流石は器用万能なFOX小隊。そちらの勝ちだ』

 

 両小隊の演習を俯瞰していた男の声が、無線から流れる。

 そして、演習場から各々が戻っていく。

 

「申し訳ありません、ボス」

「私達が不甲斐ないばかりに」

「気にするな。お前達だけならこんなもんだ」

 

 ユキノに制圧された二人が、男に頭を下げていた。

 

「あの場で応戦ではなく時間稼ぎを選択していたら、結果は分からなかった。なぜ応戦を選んだ?」

「ジリ貧になるのは同じだからです。

 こちらの情報支援を失った時点で、狙撃に対応しきれなくなるので」

「だが、一か八かの賭けに出る場面ではなかった」

「はい、恥じ入るばかりです」

 

 ユキノの指摘に、トリコは更に頭を低くする。

 

「いやでも、君らの専門は諜報分野でしょう?

 前線で戦う私達とは畑違いなのによくここまで仕上げたね」

 

 対して、オトギがWolf小隊四人を労った。

 

「しかし、我々も突入して制圧を行うことには変わりません」

「あははッ、ナバトは相変わらずだなぁ」

 

 自分の小隊長に辛辣な態度のナバトを見て、オトギはおかしそうに笑った。

 

「敵をぶん殴ればいいだけの奴は気楽でいいわね」

「ああん? じゃあウズ、お前は美甘ネル相手に何秒持つ?」

「まあまあ、お互いの専門分野に対するリスペクトは大事だよ」

 

 にらみ合いをするウズとナバトを、ニコは微笑ましいモノを見るように笑いながら宥めた。

 

「本当にね。私達相手にしながら狙撃の対応までされちゃ、こっちも形無しよ!!

 ……本当に、いいチームになったわね。あんた達」

 

 手の掛かった落ちこぼれの四人の成長に、クルミは少し涙ぐんでいた。

 

「先輩達も、お変わりないようで安心しました」

 

 ムツニが屈託のない笑みを浮かべた。

 まるで、彼女達が失った青春が戻ってきたような、そんな光景であった。

 

「本当に強くなったよ。

 もう誰も、君たちを落ちこぼれなんて言ったりしない」

「全て、ボスのご指導の賜物です」

「ああ……あのオオカミさん」

 

 真面目にで答えるトリコに、ニコは内心不安だった。

 

 当然だろう、FOX小隊は数多くの大人を見てきた。

 そして彼女達にとって大人とは、卑劣で卑怯な不正と悪行を行う連中だった。

 

 だというのに、手を汚す決意をし、その証をカヤに証明した直後に当人は手のひらを返した。

 カヤと、FOX小隊の欲しいモノを与えるという形で。

 

 その相手が、自分たちを使うのが、他でもない大人だった。

 当然、大人の中には外面を取り繕うのが上手いモノも居て、そんな相手とも彼女たちは戦ったこともある。

 

 大人はルールと口先を自在に操る存在。

 彼女達は、それを嫌と言うほど理解していた。

 

「“みんな、お疲れ様。飲み物を持って来たよ”」

 

 だというのに、シャーレの先生は演習を行っていた面々の為に演習場内に設置されていた自販機からスポーツドリンクを買ってきて配り始めた。

 

 口先だけで全てを変えた男が、この先生にだけは付き従う。

 FOX小隊の四人は、見極める必要があると感じていた。

 自分たちが売り飛ばされた、その先の主を。

 

「我々の実力はご理解いただけたと思います」

「“うん、君たちは本当にすごいよ”」

「SRT部の創設まで、我々はカヤ防衛室長の与えられた施設で訓練に励みます。

 彼女の連絡が来次第、母校の同胞と後輩に声を掛けます。そして選りすぐりの精鋭を集め、我らの力を証明してみせます」

「“あまり無理をしてはダメだよ。今は焦燥感が勝ると思うけど、君たちなら必ずやれるから”」

「……はい」

 

 敬礼をするユキノに、今は耐える時だよ、と先生は微笑みかけた。

 ユキノは、複雑な心境でそれに頷いた。

 

「先輩達ッ、もう一度ご指導お願いします!!」

「以前のように、私達をしごいてくださいッ!!」

「お願いします!!」

 

 ナバトとムツニ、ウズが声を張り上げそう言った。

 そんないじらしい姿に、先輩たちは微笑んだ。

 

「よし、お前らは先輩たちと遊んでこい。

 夜には今後の打ち合わせをするから、程ほどにな」

「了解です、ボス」

 

 男の命令に、トリコは敬礼して頷いた。

 

 

 

「“それで、彼女達を私に預けた理由、そろそろ教えてくれないかい?”」

「ふん、いつまでも能天気ではいられなくなったか。良いことだ」

 

 元SRTの生徒達が去った後、先生は男に尋ねた。

 

「心配しなくても、彼女らは先生の武力ではない。

 シャーレが彼女達の出動を要請する場合、一度連邦生徒会に通す形になるだろう。

 だが先生の戦力は現地調達が基本だから、そんなことはあまり起こらんだろう。

 シャーレは今後も、完全中立の存在としてあるだろう」

「“今更そんなことを気にしてはいないよ”」

「今回の件は皆、俺ではなくあいつらの願いだ」

「“Wolf小隊の四人の?”」

「ああ、俺は今回完全に彼女らに手を貸す形だ」

 

 そうなんだね、と先生は頷いた。

 そうと分かれば、先生に異論はない。

 SRTという居場所を失った生徒たちが自ら望む限り、居場所と勉学に励むことのできる環境を与えること。それが先生の仕事だ。

 

「それに、ゲマトリアの連中が語った例の災厄のこともある」

「“あれか……”」

 

 先生も彼らの言葉の全てを真に受けているわけではない。

 だが、彼らはこちらの意に沿う形での戦力の拡充を望んだ。それは彼らなりの誠意だろうと先生は思っていた。

 

「カヤ防衛室長から貰った資料で、公安局の面々も手がいっぱいになるほどキヴォトス各所の治安の悪化が著しいのも本当だ。

 先生も、あんたに投げられる仕事の内容でそれを感じてるだろう?」

「“うん、そうだね”」

 

 最近、先生も当番の生徒や現地の生徒と協力して、犯罪者の対処をすることが多くなってきている。

 Wolf小隊の四人の力を借りることもよくあることだった。

 

「あいつらなら、要請だけで個別に直接現地で指揮を執る必要もない。先生のタブレットでリモートの指揮で十分な練度を有する」

 

 それは本当に助かる、と先生は男に頷いて見せた。

 

「ブラックマーケットから流出したバカ共にリンちゃん達も手を焼いているみたいだし、ここらで掃除するのも悪くないだろう」

「“生徒達だけでなく、住人達の生活も脅かされていると聞いて居るよ”」

「先生がマークしてるカイザーコーポレーションも、近場の子ウサギタウンの再開発をそっちのけで、ブラックマーケット跡地の再開発事業を競り落としたらしいから。しばらくは真っ当な商売をしてるだろう」

 

 だと良いんだけど、と先生はあの信用ならない企業を思ってぼやいた。

 

「あ、そうだ先生、ゲヘナの風紀委員会の学力向上の件についてだが」

「“ああ、それについて見当しないとね”」

 

 大人たちの会話は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 §§§

 

 

 深夜。

 トリニティに用意されたセーフハウス。

 そこに男とWolf小隊の面々は集結した。

 

「これが、不知火カヤ防衛室長の弱みの全てです」

「ここにあるのが全てで、残りはあらゆる記録から抹消しています」

 

 トリコとウズが、テーブルの上に資料の束を置いた。

 

「つまり、これが流出したらマズいってわけだ」

「……」

「くくく、分かってるさ。この程度じゃ許せないんだろ?」

 

 男は資料を熟読すると、己の右手達をゆっくり一瞥した。

 

「不知火カヤは俗物だった。だが、あいつなりの理想もあるようだ。

 言うなれば、世間知らずの夢想家と言ったところか。本人に能力がある分、余計に厄介だな。

 ただカヤは思いのほか素直な奴だった。根っからの邪悪ってわけでもなさそうだし、俺は別にどっちでもいいんだ。リンちゃんでもカヤでも」

 

 男は、カヤの長所は地位だと当人に言った。

 それは彼女の知性を重視していないことを意味していた。

 

「先輩達も、あの俗物に染まってはいませんでした」

「むしろ、堕落していた方が良かった!!」

「先輩たちは、変わらず先輩たちのままでした……」

「だけど、手を汚したのも事実だッ」

 

 Wolf小隊の四人も、迷いが生じていた。

 憧れのFOX小隊の四人が悪事に手を染める。それは一体どのような堕落で、邪悪なのかと。

 

 でも、彼女達の先輩たちは何も変わっていなかった。

 カヤに利用され、疲弊し、使い捨ての道具としてボロボロになってるわけでもなかった。

 

「俺はお前たちに言ったな。

 キヴォトスで最大の絶望それは、――――先生に見捨てられることだろう、と」

 

 それが当初の、Wolf小隊の目的だった。

 その為にカヤを押し上げ、重要な立ち位置に立たせてから、――崖から突き落とす。

 

 それはさぞ、愉悦に足る光景なのだろう。

 

「そうだ。いっそのこと、先生に審判をさせるのはどうだ?

 カヤを先生に信頼させ、無くてはならない存在にする。

 そのタイミングで、この弱みが世間にバラまかれるんだ」

「それでは、先生に迷惑が掛かります!!」

 

 トリコはそう答えた。

 先生を自分たちの所業に巻き込むわけにはいかない、そう考える理性は彼女達に残っていた。

 

「ではこうしよう、カヤはミカとマコトの悪い所を煮詰めたような女だが、まだ若いし更生の余地もある。

 もしあの女が先生の下で変わるのなら、俺達は赦す。

 もし何も変わらない俗物のままなら、審判を先生に委ねよう」

 

 俺も先生に影響されたな、と男は笑う。

 

「それで、異議はあるか?」

「異議なし」

「異議なし」

「異議なし」

「異議なし」

 

 全員の意見は一致した。

 

「ならば、我々はあの女の本性を暴く試練を与えよう。

 今から楽しみだな。権力の絶頂を極めたあの小娘が、青ざめる顔が」

 

 男の言葉に、Wolf小隊の四人が笑う。

 

「よし、ここを引き払うぞ。

 あとは経過を見て臨機応変に行う」

「了解です」

 

 そして、セーフハウスは空になった。

 ただ、壁に付いた傷だけを残して。

 

 

 

 





結局、兎小隊は今回出せなかった……。まあそれは次回で良いですよね!!

この小説での四章は、原作のような展開より、各個人の内面に焦点を当てる形にして掘り下げるようにしようかと思います。

それを踏まえて行われる、アリス編と最終編という形にしようかと。

ではまた、次回!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。