時間は、アリウスの解放後のすぐ後まで遡る。
「無名の司祭、デカマラウドン、そしてかつてのゲマトリアか」
「デカグラマトンですよ、ミスター」
ゴルゴンダが男の言葉を訂正した。
男はゲマトリアと協力するにあたり、可能な限りの資料の提出を求めた。
「神をAIで再現する、か。
もしそれを成し得たのなら、我が主上はお喜びになるだろうな」
「ほう、意外な意見ですね」
男の言葉に、黒服が応じた。
「我が主上は人類文明そのものにして、人類の技術の最果てを見渡す者。
そして技術の基本は模倣だ。
例えばヒトは蚊の針から注射針を、ゴボウの実からマジックテープを発明した。
人間が我が主上を完全に模倣出来たら、美しい、と褒め称えられることだろう」
それは自画自賛では、とゲマトリアの三人は思った。
「そちらの戦力の拡充に、我々も協力する用意がある」
「くっくっく、キヴォトスの科学技術ではなし得ぬことも我らなら可能でしょう」
「そういうこったぁ!!」
マエストロと黒服の言葉に、デカルコマニーが応じた。
「なるほど、何だか面白くなってきたじゃないか」
この場に先生は居ないので、怪人たちの不気味な笑い声が室内に響いた。
その時だった。
男のスマホに着信があった。
「はいもしもし、ヒマリか。どうした?」
『あ、アップルマンさんッ、あなたの、言う通りでした……』
「おい、何があった?」
電話の相手のヒマリは、尋常じゃないほど声が震えていた。
『信じたく、なかった!!
適当に検索してリストアップして、百人も居なかったから調べて、その最初の一人がそうでした!!』
「まさか、見つかったのか?」
はい、とまるで極寒の山奥にいるかのような、そんな震え声だった。
そして、彼女は詳細を語った。
男は天を仰いだ。
「……我らを見守りし、邪悪を司る大いなる母なる神よ。
何故に、このような無残な仕打ちをなさるのですか?」
男の問いに、神は答えない。
ただただ、男は目を閉じた。
「俺もそこにすぐ行く。
住所を教えてくれないか」
『……はい』
男はメモ帳に住所を書き留めると、会合をしていたバーの個室の席から立ち上がった。
「悪い、ちょっと急用が入った」
「尋常ではない様子でしたが、なにかありましたか」
黒服が男に尋ねる。
それが心配からなのか、好奇心故なのか、その表情からは読み取れない。
「気にする必要は無い。
次の着想を得るまで、我々に用事は無いからな」
「研究とは、経過観察が主たるものですからね」
と、マエストロとゴルゴンダが答える。
すまない、と言い残して男は立ち去った。
「しかし、どうやら、新しい着想を我々に与えてくれるのは彼であるらしい」
「盗み聞きなど、大人のすることではありませんよ」
「無論、聞こえてしまっただけだとも」
マエストロの言葉に、黒服が面白そうにしながら諫めるような言葉を吐いた。
「どうやら、今日はこの場で解散する必要は無さそうですね」
「そういうこった!!」
二人で一人の怪人が言う。
それが、男に訪れるこれからの運命を暗示していた。
そして一時間後、テーブルゲームで時間を潰していた彼らに、男からの連絡が入った。
「はい、私です」
『俺だ。黒服、あんたを友人と見込んで頼みがある』
黒服はスマホをスピーカーモードにして、他の三人に聞こえるようにテーブルの上に示した。
『一生のお願いだ。後にも先にも無い。協力してくれ』
「聞かせてもらいましょうか」
『……お前達の前身がやってたことを、お前達もやってみないか?AIで神を再現できるのならば、当然――■■と■も再現できるはずだよな?』
黒服は思う。
ああ彼は実に得難い友人である、と。
『実験体も用意した。
必要なら、専門知識を持った生徒も用意する。
どうだ、――俺の話に乗るか?』
男の言葉に、怪人たちが笑い声を漏らす。
否と言う者など、この場には居るはずもなかった。
どこかで、きぃ、と天秤が動く音がした。
§§§
SRT部設立当日。
カヤは連邦生徒会所属の運転手に運転させ、三十分ほどで子ウサギ公園に辿り着いた。
「状況はッ……悪化しているようですね」
既に野次馬が集まり、ヴァルキューレ警察学校の生徒達がそれを危険だから、と押し留めていた。
騒ぎを聞きつけ、クロノス報道部の車が報道の準備をしている様子も見える。
「よう、早かったな。
ここから歩いて十分くらいの先生にも連絡したのに、あんたの方が早かった」
「そんなことを言っている場合では無いでしょう!!
なぜ、あなたの戦力で対処しなかったのですか!!
元SRTの生徒と言うのは本当ですか!?
それが事実なら、我々のプランに傷が付くのですよ!!」
「こんなところで騒ぐなよ。衆目があるぞ」
男が野次馬たちに向けて顎をしゃくる。
それを見て、カヤは何度も深呼吸をして己を落ち着かせた。
「公安局に既に機動部隊の出動を命じています。
この程度の騒ぎ、すぐに収束するでしょう」
「ナバト曰く、学生生活しながら警察ごっこしてる連中に任せるのか?
あんただって、連中の情けなさにイラついてたじゃないか」
「ですが、他に方法はないでしょう!!」
「まあ、最善だとは思うぞ。
人員と経費の無駄だと思うが」
男はやんわりとカヤを肯定しつつ嫌味を言った。
「よし、やったもんは仕方ない。連中にはいい生贄になってもらおう。
SRT部の輝かしい踏み台になってもらう」
「彼女らが解決したらどうするのです?」
「その時の為に、あんたが格好良く前に出るんだよ」
「……言いたいことは分かりました」
公安局が勝とうが、後からSRT部が出てきて勝っても。
どちらに転んでも、臨機応変な演出をすればいい。
カヤが納得した、その時だった。
「お、流石にこの事態に初動は早いか」
公安局の局長のカンナが、機動部隊を引き連れやってきたのが見えた。
「あいつ、確か公安局の局長だっけ? 警備局ではなく、公安局が動くか。
そして局長自ら陣頭指揮とは、分かってるな」
「カンナ局長ですね。
これでは私が行っても指揮系統が混乱するだけでは?」
「安心しろ、あんたに部隊指揮なんて期待してない。
政治家は政治家らしく、激励でもすればいい」
「……そうですね」
私はカリスマ、私はカリスマ、と自己暗示しているカヤを見て、男は溜息を吐いた。
「そうだ、連中と交渉でもしてみたらどうだ?
毅然とした態度で受け答えすれば、カリスマっぽいだろう?」
「そうですね。やってみましょう」
男の提案に、カヤは頷いた。
そして後ろの方でこそこそしていた二人が、前へと出る。
「ここから先は立ち入り禁止です!!」
「私です。通してください」
「誰ですかあなた!! 一般人は立ち入り禁止です、危ないですよ!!」
「……」
封鎖をしているヴァルキューレ生の態度に、カヤの頬が引きつる。
「まあ警察なんて上の顔を覚えてるわけもない。気にするな」
「……あなたがなぜ、認知度にこだわるのか、よくわかりました」
「こちらは連邦生徒会の防衛室の者だ。
カンナ局長にお話がある。この方の電話一本でお前の明日からの勤務先が変わる。
それが嫌なら今すぐ彼女に取り次げ、これ以上この方を煩わせるな」
男の恫喝に近い文言に、ビビったヴァルキューレ生はすぐにカンナに確認を取りに行った。
すぐにカンナが駆け足でこっちにやってきた。
「これはこれはカヤ室長。この度は部下が失礼しました。
お電話だけでなく、直接足を運ばれるとは思いませんでした」
「それだけこの事態を重く見ているということです」
「左様ですか。そちらの方は?」
「おや、知らないのですか? 先生ほどではないですが、有名人でしょう?」
「……いえ」
カンナはカヤに付きそう男を見上げた。
自分の異名足る“狂犬”の名前が、子犬か何かみたいに思えるような悪辣なこの男のことを、公安が知らない訳もない。
「勧告の類はまだでしょう?
私が直接交渉を行います」
「しかし、危険です」
「こちらのカヤ防衛室長は本気だ!!」
やり取りをする二人に、男が大声でそう言った。
すると、何事かと野次馬たちの注目が向いた。
無遠慮で危機感の無い民衆が、スマホを向けたりしている。
カヤは悟った、これは演出であると。
「SRT部の創設は私の発議です。そして今日は発足の初日。
無論、彼女達もその一員になるべきであると私は考えます。
なぜ元SRT生がこのような行為に及んだのか、私に問う権利がある筈です!!」
権力ではなく、姿勢で従わせる。
カヤは男のアドバイスを忠実に実行していた。
そして、その光景をマスコミは目聡く嗅ぎつける。
「皆さん、見えますでしょうか、カヤ防衛室長です!!
連邦生徒会の室長が、直接公園を占拠する犯人に交渉をしようとしています!!」
早速クロノス報道部のシノンがリポートを始めていた。
「……分かりました、護衛を用意しましょう」
自分が政治に利用されていると理解しつつも、カンナは従う他なかった。
「私は連邦生徒会の防衛室長。不知火カヤです!!
RABBIT小隊に告ぐ、こちらは交渉の用意があります。
攻撃はしないと約束します、どうかこちらの要請に応じてください!!」
数多のヴァルキューレ生に守られ、公園の前でカヤが拡声器で問いかける。
すると、程なくしてドローンがこちらに飛んできた。
通信機が装着され、そこからホログラムが投影される。
『こちら、RABBIT小隊隊長、月雪ミヤコです。
交渉の用意があるとは、本当ですか?』
「私がここにいるのが何よりの証拠かと。
そちらの要求を聞きましょう」
『ならば、SRT特殊学園の閉校の取り消しを!!
我々の望みはそれだけです!!』
は? と言うような表情にカヤはなった。
「……連邦生徒会長の席が空位である以上、それは難しいとなったから先生の協力を得て、SRT部でそれを代替することになりました。
それの何が不満なのですか?」
『ぽっと出の大人が信用できるか!!』
『サキ、交渉しているのは私です』
カヤの言葉に、横から声が入りミヤコが諫めた。
『失礼いたしました。
しかしそれが我々の総意でもあります。
SRTの厳格で揺るぎない正義が、大人の思惑に左右される。そんなのはSRTではありません。
我々はSRTの閉校取り消しを強く要求致します』
「……それは先生でも連邦生徒会長でも同じことですよ。
SRT特殊学園は所詮、道具に過ぎません。その学校自体に理念や思想はあれど、それを振るうのはヒトに過ぎません。
であれば、あなた達はSRTが復活しても、連邦生徒会長が変わる度にこのような暴挙を行う羽目になりますよ」
カヤは自分の言葉で、そう言った。
まさかここまで幼稚な連中だとは、と内心思いながら。
「皆さん、今なら引き返せます。
あなた達の言い分はよく理解できます。
あなた達を含め、他の小隊の皆さんとの説明会等が遅れたのはこちらの落ち度です。
しかし、私は実績を打ち立て、喜んであなた達を迎えられる場所を用意したかった。
このような形で説明をすることになるとは、真に遺憾です」
『我々の要求は変わりません。
SRTの復活。それ以外望みません』
「SRT部が実績を上げれば、訓練校の設立も視野に入れています。
あなた達もその一助となってはくれませんか?」
『私達の要求は変わらない。交渉は決裂ですね』
「私達はいつでもあなた達を受け入れる用意があります」
『話に成りませんね。SRTの封鎖取り消しを受け入れるまで、我々はデモを継続します』
ドローンの投影していたホログラムが消える。
そして、役目を終えたドローンが帰っていく。
「よくこちらから交渉を決裂させなかった。偉いぞ」
「そんな幼児みたいなマネしませんよ」
ぼそぼそとやり取りを交わす、カヤと男。
なら次のステップだ、と男は言った。
「カンナ局長。
彼女達は警察にデモの許可を取ったのか?」
「いや、そんな申請は無かった」
「ではあのデモは違法なのだな?」
「そもそもデモとは交通の邪魔にならないように、行進に限られている。
武装も最低限に限られ、人数も指定しなければならない」
男の問いに、カンナは即答した。
「じゃあ、あの装備群はSRTの備品だよな?
あれって閉鎖したとは言え、勝手に持ち出して使用して良いモノなのか?」
「まさか。立派な横領だ。SRTの備品は後程回収し、ヴァルキューレにて活用する予定だった」
「つまりあいつらは、公共施設の不法な占拠に、学校の備品の横領をしてるわけだ!!」
男が大げさにそう言った。
「一先ず、高火力の兵器で武装した集団の不法占拠は対処をしなければなりません。
当然、これは彼女達の主張に関係の無いことです。
彼女達は違法なデモと、不法な占拠と、横領をしているのですから」
これは弾圧ではない、とカヤはカメラや野次馬の前で口にした。
カメラ越しに放送を見ていた男の知り合いたちは、白々しいな、と皆思った。
「“ごめん、遅れちゃった!!”」
その時であった、先生がやって来たのは。
「“ちょっと書類の不備について事務員たちに問い詰められちゃって……”」
「まあ、ナイスタイミングだ……」
先生に威厳を求める方が無理か、と男は思い直した。
そして、男はカンナに目配せした。
「初めまして、先生。尾刃カンナです。
早速で悪いのですが、公安局の局長として、連邦捜査部シャーレにSRT部の要請をします」
「“うん、よろしくね。要請を承ったよ。略式になるけど、カヤ室長”」
「はい、SRT部の出動を認めます。
まさかこんな形で、初出動を迎えることになるとは……」
カヤが嘆いた。
本来なら電子書類でのやり取りとかがあるのだが、緊急性がある場合はそれに限らないことになっていた。
要請と二重の承認というプロセスを経て、猟犬たちが動いた。
「先生から、敵の位置の詳細が送られてきました」
別の場所で待機していたWolf小隊のウズが声を上げる。
「カヤ室長から学生データも送られてきました、共有します」
「了解、確認完了」
「マスコミの中継ドローンが、公園内部に侵入。
警告致しますか?」
「必要無いでしょう、むしろ撃墜でもしてくれればいい大義名分になる」
そうですね、とウズはトリコに頷いた。
「ねえねえ、ナバト。この間ミレニアムから買った装備を試そうよ」
「あのバカども、公園に地雷を撒いてるからな。まったく何を考えているんだ!!」
「まあまあ」
ガチギレしてるナバトを、ムツニは抑えていた。
『こちらFOX4、こっちは総員持ち場に着いたよ』
「了解です、先輩方。
一分で終わらせましょう」
トリコはSRT部設立に際して、トリニティから送られた牽引式榴弾砲を設置した。
「射角調整完了、トリコ姉さん!!」
「発射!!」
榴弾砲が火を噴く。
公園の一角が爆炎に包まれた。
『こちらFOX4、敵狙撃手の排除完了。私達の出る幕は無いかな?』
「後詰めはお願いしますよ、安心感が違うので。
行くぞ、ムツニ!!」
「了解、ナバト」
ムツニはアニメに登場するようなパイルバンカーみたいな銃器を取り出した。
これはミレニアムのエンジニア部制作のロマン武器だった。
山岳地帯にて崖などに足場を作る為の杭打ち機だったのだが、これは平地やビルにでも使えると言うことで男が購入したモノだった。
「因幡の白兎作戦、開始!!」
「さっきの風切り音、榴弾か!!」
「後方で爆音を確認。ミユとの連絡は?」
「あー、ダメだね、これ。連絡が取れない」
モエは肩を竦めた。
「狙撃手の排除、定石ではここで突撃だが」
「来ましたよ!!」
「バカな、あちらは地雷原になって……」
ミヤコの声に、サキは己の目を疑った。
地雷原をぴょんぴょんとジャンプしながら、ムツニとナバトが一直線で三人のもとにやってきたのだ。
「バカな、正気か!?」
「いえ、彼女達の足元を」
「……あれは杭か!?」
Wolf小隊は杭打機で地面に杭を射出し、その上をジャンプして地雷原を乗り越えてきた。
周囲に展開している戦闘用のドローンを排除しながら。
「久しぶりだな、兎ども」
「やあみんな、元気だった?」
銃を構えているRABBIT小隊の三人の前に、憤怒の表情を浮かべたナバトと対照的に笑顔のムツニが現れ声を掛けた。
「SRTから逃げたあんた達が、今更何の用だ!!」
「……」
サキの詰問に、ナバトは答えなかった。
ただ無言で、三人の方に歩み寄る。
当然、彼女達は発砲した。
その全ての弾丸を体に受けて、ナバトは歩みを止めなかった。
憤怒の顔が、三人に迫る。
「ひッ」
ナバトはおもむろにサキの身体を引っ掴むと、地雷原の方に投げた。
ドカンドカン、と連鎖的に地雷が爆発し、ポップコーンのようにサキの身体が跳ねた。
「あはは、本当に兎みたいだね!!」
それを見てムツニは笑っていた。
残った二人はそれを見て怯えた。
思い出したのだ、目の前のサイコパス女の恐ろしさを。
寮内で毒ガスを漏らして、SRTの生徒達が壊滅した事件を引き起こしたこともあるイカレ女だった。
「ご、ごめ――」
今度はモエがナバトに地雷原に投げ飛ばされた。
次はモエがポップコーンになった。
「せ、先輩、私達はッ」
「黙れ。クソガキども」
ミヤコがナバトの銃床で殴られる。
地面に転がった彼女を組み伏せると、ナバトは言った。
「小隊の責任は、小隊長にある。お仕置きだ」
「あ、いッ!?」
ナバトは容赦なく、ミヤコの尻を叩いた。
それを何度も、何度も続ける。
そんな光景が中継ドローンでキヴォトス中に放送されていた。
『ごめんなさいッ、ごめんなさいーー!!』
ミヤコの情けない叫び声が、放送されていた。
男は大笑いし、カヤとカンナは溜息を吐き、先生はシノン達に中継を切るように頼んだ。
「えー、このように、SRT部は精鋭です。
どこに犯罪者が潜み、逃げようとも必ず追い詰め、確保するでしょう」
いつの間にかインタビューを受けるような形で、カヤがクロノス報道部の面々の前に立っていた。
「しかし、カヤ防衛室長。彼女達も元SRTです。
今回の事件が、自作自演なのではないですか!?」
「そのような下らない邪推が言えるようならまだ可愛らしいですね。
あなた達はスクープを得る為に、仲間に事件を起こさせるのですか?」
「まさか、しませんとも!! クロノス報道部は公明正大な報道部ですから!!」
「でしょう?」
後ろでカンナが、確保ー、と指示を出している。
機動部隊がうっかり地雷を踏んで吹き飛んでる一幕もあるが、誰も気にしないことにした。
「さて先生、兎の皮を剥ぎ、塩を塗った。
次は偉大な神様が治療法を与える番だ」
「“その言い方だと、マッチポンプに聞こえるね?”」
「生憎、俺はバカに付ける薬は持ってないんだ」
上手く懐柔してくれ、と男は先生に肩を竦めて見せた。
「ああ、丁度良かった。皆さんもこちらでお話など如何です?」
カヤが作戦終了し、出る幕の無かったFOX小隊が報告に来たのを見て手招きする。
「あ、貴女がたはFOX小隊ですよね!!
我々の先輩方はあなた達の初戦の報道をしたそうですが、今のお気持ちを聞かせてください!!」
シノンがマイクをユキノ達に向けた。
「あ、いえ、我々は今回何もしていないので……」
「でも懐かしいねぇ、あの時を思い出すよ」
困惑してるユキノに、ニコが肩を叩いて笑みを浮かべた。
「しかし先日の連邦生徒会襲撃事件を起こしたのはあなた達だと伺いました。
ですが今はSRT部に居ます。どのような心境の変化でしょうか」
「……我々も、彼女達と同じだったのです」
「と言うと?」
「抗議をすれば、SRTを取り戻せる、と。
ですがカヤ室長や先生に説得され、己の過ちに気づいたのです。
これからは、市民の皆さんを怖がらせた分、キヴォトスの平和の為に尽力したいと思います」
「はい、ありがとうございます!!」
咄嗟にそんな模範解答な回答が出たユキノだった。
そのことをクルミやオトギにいじられている。
その時、ぱん、と男が手を叩いた。
直後、FOX小隊は整列して表情が消えた。
「見ての通り、こいつらは徹底的にしごいておいた。
肌が擦り切れ、罅割れ、手足が血だらけになるまでな。
今日、問題を起こした兎どもも、二度と問題を起こせないようにするので、市民の皆さんはご安心を」
男が笑みを浮かべてカメラにそう言った。
そこで報道部の面々は気づいた。
FOX小隊の面々の肌がガサガサで、髪の毛も艶が全く無いと。
「俺の訓練を終えねば、SRT部には参加させない。
彼女達はキヴォトスを守る槍であり、盾になるのだから」
なあ、と男がFOX小隊に語り掛けると、彼女達は怯えるように震え始めた。
「テロリストと犯罪者の皆さん。
安寧の日々は楽しめましたか? それをゆっくり噛み締めてください」
それを見て、カヤがカメラ目線で言った。
「今日からずっと、彼女達に怯える日々を過ごすことになるのですから……」
こうして、SRT部は始動したのだった。
「まさか、こんな形で会うことになるとはな」
男はキヴォトス某所の病院に来ていた。
つい先ほど、ゲマトリアとの会合を抜け出したばかりだった。
彼の目の前には、生命維持装置に繋がれた意識の無い少女がベッドに眠っていた。
男は、眠る少女の頬に触れる。
その眼差しは、まるで見ることが適わなかった我が子を見るように穏やかだった。
「君は俺が必ず助けよう。
たとえ、何を犠牲にしたとしても」
男はそれだけ言うと、病室の灯りを消して立ち去った。
明かりが消えた病室に、意識の無いはずの少女のヘイローだけが、輝いていた。
ようやく兎ちゃんたちが登場できました。
彼女達との係わりはこれからになりますね!!
その陰で、男は暗躍を始める。
ではまた!!