「こうして、目の前に見るまで信じられませんでした」
トリニティの某所にある小さな診療所。
そこに不釣り合いな医療設備が運び込まれ、そこの院長や職員は全てトリニティの息が掛けられた。
全て、極秘裏にだ。
それの指示をしたナギサは、この診療所に運び込まれた少女を見て驚きを隠せなかった。
「ナギサ様、全ての機材の搬入と職員の配置が完了しました」
「ありがとうございます、ミネ団長」
「いえ、救護の必要なモノに適切な救護を。
それが我々の理念ですから」
当然、医療関連で極秘裏にことを進めるならミネの協力は必要不可欠だった。
「しかし、こうしてこの目で見ても信じられません。
あのような少女が、このキヴォトスに居るとは……」
ミネはそう呟くと、二人は病室を覗き込む。
そこには生命維持装置に繋がれた少女の側に、男が座っていた。
ミネはカルテとその少女の経歴の書かれた書類に目を落とす。
「雛罌粟中学校在学中に金銭トラブルでいじめを受け、登校拒否。
以後進学先を見つけぬまま卒業まで引きこもり、同学校の寮から退去を命じられた際に、意識不明で発見される。……原因は不明」
痛ましい、とミネは眉を顰めた。
同時に、この少女には何の裏も不自然な点も無かった。キヴォトスのどこにでもある中学生の出身で、誰にでもあるトラブルで引きこもった。
原因不明の意識不明に陥らなければ、本当にこの少女はこのキヴォトスにどこにでも居る普通の生徒だった。
「意識不明なのにヘイローが浮かんでいる理由は?」
「分かりません。ただ……」
「ただ?」
「お医者様は、まるで夢でも見ているかのようだ、と」
「……夢ですか」
キヴォトスの生徒は夢見の中で、ヘイローは消える。
詩的表現だが、現実的ではなかった。
「これも夢だったらどれほど良かったことか」
ナギサの呟きが、彼女の心境の全てを物語っていた。
「ナギサ。この子をトリニティに編入させることはできるか?」
「……ええ。何とかしてみます」
「この子が目を覚ましたら、勉学が遅れてるとかなんとか理由を付けて、補習授業部に入れさせろ。
ハナコがこの子を見れば、全てを理解する筈だ。俺からのメッセージを。
そしてあいつも、決して己の才覚から逃げられないのだと悟るだろう」
男の言葉に、ナギサは頷いた。
「そう言う意味では、この子も憐れだ。
俺にさえ会わなければ、一生のその呪われた才能にに気づかずに済んだのだろうに」
「この少女が目覚める見込みはありません。
もう半年近く、この状態です。この先十年このままでもおかしくはない。
それでも、貴方はこの子の目覚めを確信しているのですね」
「当然だろう。この子がなぜ目を覚まさないと思う?
お前達も、この子を見た今ならわかるだろう?」
男の言葉に、ミネは言葉に詰まった。
この少女に不審な点は何一つない。
そう、逆なのだ。
この少女が存在こそが、あるひとつの『不可解』を浮き彫りにする。
だが、二人はそれを口にすることは憚られた。
それを口にした瞬間、現実になるような気がしたからだ。
「俺は、この子だけは守らなければならないんだ」
その為に、男はナギサに協力を求めた。
前の病院では半ば放置されている状況だった。
男は初対面で一目見て、この少女は呪われた運命を背負っていると悟った。
ナギサとミネも彼女と対面して、男の言葉を理解した。
理屈ではなく、理解してしまったのだ。
「この子とあなたは殆ど初対面でしょう、などと無粋なことは言いません。
彼女が後輩となるのなら、我々としても全力を尽くします。
そもそも手を抜く理由などないのですから」
「ありがとう。この間の非礼は詫びよう。手を付いて跪くべきか?」
「必要ありません。誰かの感謝や、ましてやあなたの謝罪の為にやっていることではありませんから」
ミネはそれだけ言うと、団員に指示をしてきます、とその場を立ち去った。
「……この子のことは、先生には?」
「これは俺の個人的な事情だ。
多忙な先生の手を煩わせるわけにはいかないだろう」
「嘘吐きですね」
断じてそんな理由ではないと、ナギサは察していた。
「この子の事は、俺の右手にも知らせていない。
……ナギサ、お前だけが頼りだ」
「その言い方は卑怯ですよッ」
じゃあ誰がこの子の事を調べたんだ、なんて無粋なことはナギサは言わなかった。
彼に頼りにされている、それだけでナギサは嬉しかった。
「ナギサ、お前だから頼んでいるんだ。
後輩になるこの子を守ってくれ。生徒会長としての責務を果たせ」
「……はい」
男はナギサを抱きしめ、彼女はその胸板に頬を寄せた。
この少女を見るたびに押し寄せる、猛烈な嫌な予感から目を逸らすように。
「でもまさか、こんな普通の子がこのキヴォトスを揺るがす火種になるだなんて……」
ナギサの呟きが、不吉な文言となって虚空へと消えた。
§§§
RABBIT小隊の公園占拠から一日。
彼女らはヴァルキューレ警察学校の附属病院にて治療を受け、そこで取調べを受けることになった。
先生も事件解決の当事者として、取調べの権利を主張した。
そう言うわけで、先生は男を伴ってヴァルキューレ警察学校に向かった。
「……あの時の」
取調室に待たされていたミヤコは、先生を見るなり警戒した素振りをみせた。
「“ミヤコ、だよね? びっくりした?”」
なんておどける先生に、男は肩を竦めた。
「フランクでびっくりするだろ?
こいつはお前らみたいな跳ねっかえりが大好きなんだ。
手の掛かる子ほどかわいいって奴なのかね」
「“君だって同じじゃないか”」
「確かにな!!」
男は普段から女性は思い通りにならない方が好みだと、先生に漏らしていた。
「正直、少し驚きました。まさか先生がいるとは」
しかしミヤコは取調べの担当が誰でも良さそうな態度を示した。
「何か聞きたいことがあればどうぞ」
「“そこでの生活、何か不便な事とか無い?
本とか、食べ物の差し入れとか必要かな?”」
「最初から変な質問ですね。
お気に為さらず。仮にあったとしても、捕虜の立場で何か言うつもりもありません」
「先生は生徒に頼られたらホイホイ誰でも付いて行くが、逆にツンケンされるとあれこれ構いたくなる欲があふれ出てくるタイプだぞ」
「お婆ちゃんかなにかですか?」
男の物言いに、ミヤコは目を細めた。
「仮に何を提案されても、私達のSRTへの気持ちは変わりません」
「“そっか。私達も無理にSRT部への入部を強要するつもりは無いよ。ヴァルキューレに転校を勧められているらしいけど、それは嫌なのかい?”」
「ヴァルキューレが嫌いかと言えば、それは勘違いです。
私達が嫌なのは、SRTを去ることなのです」
なるほど、と先生は頷いた。
「ところで、ヴァルキューレの取調べって進んでるのな。
俺の故郷じゃ取調べの状況の録画なんてしなかったんだぜ。
不正な取り調べ対策とか、取調べ相手の人権への配慮とか、やろうと思えばいくらでもできる筈なのにな。
それをやらないってのは、やましいことがあるって認めるようなもんじゃないか。そう思わないか、先生」
「“興味深い話だけど、今は関係ないよね”」
「ああ、まったく関係無いな」
男は本当に雑談の為にそんな話題を振っただけだった。
「“なぜSRTを去るのが嫌なのかな?”」
気を取り直して、先生はミヤコに問うた。
「……SRTには、そこにしかない『正義』があるからです」
「ほう」
男は壁に背を預け腕を組み、先生も正義と言う言葉を反芻した。
「改めて話すと、難しい概念ではあります。
しかし先生も、『正義』について耳にする機会はあるでしょう。
他の学園もそう言った集団はあると聞きますが、ここヴァルキューレもまた、生徒たちは自らの行動が『正義』だと信じているかと思います。
……しかし、私にとって、彼女達の正義は『本当の正義』ではないと考えています」
「くくッ──」
男は思わず噴き出した。
先生は横目で彼を睨む。ミヤコも同様だった。
「悪い、尋問中だったな」
男は手をひらひらさせて悪びれなくそう言った。
「“続けて。彼の事は気にせずに”」
「はい」
ミヤコは語った。
彼女の言う『正義』とは理に適った正しい道理のこと。
その正しい道理は、真理に基づくものであり、相手や状況によって変わることなどないのだと。
しかし、キヴォトスにおける各自治区の治安組織は様々な利害関係の中にあり、その結果『正義』と言う言葉を自分たちに独自に歪曲し続けてきたと言う。
「しかし、SRT特殊学園だけは、学校間の関係や利害の問題に左右されず、自らが信じた正義を実行していました。
時と場所を選ばず、相手がだれであっても同じ基準で、ひとつの正義を追求する組織。
そんなSRT特殊学園に、私は憧れたのです。そういった、屈強な正義に」
しかしSRT特殊学園は閉鎖した。
連邦生徒会の行政官たちに危険視され。それが現実だった。
「だから、私はその代わりと言われて、SRT部を容認するわけにはいきませんでした」
「“なるほどね”」
先生は彼女の言い分を理解した。
SRT部は各自治体の治安組織の要請を受けることになっている。
ミヤコの主張に依れば、それは受け入れがたいことなのだろう。
「ミヤコ、お前におススメな卒業後の進路があるぞ」
「なんですか?」
「我が主上の神官だよ」
「は?」
「俺の今の故郷で、神々に仕える神官は超絶エリート。
場所によっては一国の首相よりも信任を得ているところもあるという。
文武両道、教養や性格も含めて神の御眼鏡に適うものしかなれないらしい。
そして、彼ら神官は必ず一度はある仕事に従事するという」
「ある仕事ですか?」
「──魔王軍の指揮官だ」
先生はギョッとなって男を見た。
この男は、かつて己の故郷を滅ぼした軍勢への就職をミヤコに薦めているのだ。
「神と言う絶対的な意思と、永遠に腐敗しない価値観と基準を持って、ゴミだと思った失敗作の人間を箒で掃き捨てる仕事だ。お前の求める全ての条件を満たしている」
「ッ、私は虐殺者になりたいわけではありません!!」
「だが『正義』だぞ。それも、究極の正義だ。
我が主上は人類文明そのもの。正義とは、人間の発明品だ。
ならば、我が主上は正義を司る神そのもの。
その御方の所業を、なぜお前が否定するんだ?」
「それは、私のやりたいこととは違うからです」
「そうだな。だからお前は公共物である公園を占拠し、閉鎖した学校の備品を横領して立てこもった。
わかるか? お前は自分の主張の為に、他者を蔑ろにしたんだ。
お前の語る正義とやらを、お前自身が踏みにじったのだ!!」
男の弾劾に、ミヤコの目の端に涙が浮かぶ。
「“もうその辺で十分だよ。そのくらいにしてあげよう”」
「あんたも真に受けるなよ先生。こいつは中二病を卒業しきれてないガキだ。
どうせ来年あたりには、やれやれ正義なんて下らない、なんて言ってるぞ、こいつは」
男はそれだけ言うと、取調室から出て行った。
これ以上、ミヤコの言葉など聞くに値しないとでも言うように。
ミヤコは顔を伏せ、涙を流しながらすすり泣いた。
先生は彼女を慰めるように、しばらく頭を撫でることにした。
§§§
「“待たせたね”」
「ああ」
男は取調室の外で待っていた。
「……全く、俺は何してるんだろうな。
15歳のガキ相手に、上から目線で怒鳴り散らして」
「“彼女達はまだやり直せるよ”」
「当然だ。公園の占拠ぐらい、ゲヘナのクソガキどもに比べたら序の口だからな」
男はそんな軽口を叩くと、先生は苦笑いした。
そして、二人は公安局のオフィスに向かって報告をしにいった。
「どうも先生方。どうせだから他の三人の尋問記録も見ますか?」
と、カンナに言われるがままに二人は残りのRABBIT小隊の尋問記録を確認した。
「先生にもお忙しい中ご協力いただいてしまい、ありがとうございました。
おかげさまで手間が省けました」
「……先生、やはりあの兎どもはあのままじゃ使い物にならん」
「“そんなこと言わないであげて”」
普段からクセの強い生徒達を指揮している先生は、遠い目になる男にそう言った。
「“彼女達はこれからどうなるの?”」
「幸い、SRT部の活躍のお陰で騒ぎになった程度で済みました。
どうにか処分が軽くなるように、カヤ防衛室長が説得して下さっている最中ですよ。
しばらくの拘禁の後、解放されもう一度ヴァルキューレかSRT部かどちらかに異動を求める予定です」
カンナは苦労人そのもののような溜息を吐いた。
「その件についてですが、処分が決定しましたよ」
「この声は……」
「“カヤ!!”」
「はい先生、連邦生徒会の防衛室のカヤです」
カンナはその声にげんなりした様子で、当人を出迎えた。
「カンナ局長。昨日はお疲れ様です。
どうですか、予算の方は足りていますか?
先日は連邦生徒会長の失踪のごたごたで、画一的に予算が引き下げられたと聞いていますよ。
私の方から財務室を説得してみましょうか?」
「是非ともお願いしたいところですね。
こちらは弾薬の確保も苦労する有様で……」
「SRTの装備を流用できるように計らうつもりですので、もうしばらく辛抱して頂きたいですね」
「それは助かりますが、火力の高い武器があれば一概に問題が解決するわけでもありません。
皆が拳銃の携帯しかしていないクラスで、対物ライフルを持った生徒が転入して来たら誰もが敬遠するでしょう。
警察が市民に威圧感を与えては、本末転倒ですから」
「なるほど、参考にしておきましょう。
とりあえず弾薬の手配を優先するように計らいましょう」
ありがとうございます、とカンナは頭を下げた。
最近気味が悪いくらい聞き分けの良い上司から一刻も早く目を逸らしたかったのである。
「おっと、失礼しました先生。こちらの業務連絡を優先してしまって。
丁度こちらに先生がいらっしゃると事務の方から聞いて、足を運んだ次第です」
「“別に気にしていないよ”」
「ありがとうございます、
防衛室がキヴォトスの安全保障を担っているのは今更言うまでもありませんが、その穂先であった元SRTの生徒が立て続けに事件を起こしたとなると、行政官たちの印象も良くありませんでした。
これ以上問題を起こせば、SRT部にまで類が及ぶ可能性もあります」
そうなっていないのは先生の人徳ですかね、とカヤは冗談めかして言った。
「私個人の意見としては、問題を起こしたRABBIT小隊の四人はこのまま大人しくヴァルキューレに転校してほしいというのが本音ですが」
「我々にあのバカ共を押し付ける気ですか?」
「まさか。腐っても鯛と言うではないですか。
元SRTのエリートを警備局で腐らせるなんて人材の無駄遣いですよ。
先生のことはそこのアップルマンさんからよく聞いています。
先生の方から彼女らをヴァルキューレに転校してもらうように説得してほしい、と言うだけ無駄でしょう?」
カンナのジト目を気にもせず、カヤは先生に言った。
「“うん、生徒を望まぬ進路を強いるようなことはできないよ”」
「ええ、そう言うと思いました。
ですので、RABBIT小隊の処分は、社会奉仕活動として子ウサギ公園の“清掃”を命じるつもりです。地雷やら兵器類の片づけをするにも人員は必要ですからね。
先生はその監督をお願いする、という体で彼女達をSRT部に入部するようお願いできますでしょうか?」
「“それは勿論。入部の件も、彼女達が望むのならね”」
「先生、彼女達はエリートです。
エリートにはエリートに相応しい仕事と職場が存在するとは思いませんか?
きっと、彼女達は自分に相応しい仕事を選ぶはずです」
「“私にとっては、みんな可愛い生徒だよ。そして、彼女達がやりたいことを見つけられるまで、それを手伝うつもりだよ”」
カヤは先生の言葉に、呆気に取られたような表情になった。
「なぜリン主席行政官が、あなたを信頼するのかよくわかった気がします」
それは、カヤなりの嫌味で、最大級の皮肉だった。
「では、午後から会議がありますので。彼女達のその後については、先生の好きにしてくださって構いませんので。適切な指導をお願いします」
「“うん、リンちゃんによろしくね”」
先生がそう言うと、カヤは去って行った。
廊下に至る頃には、彼女の表情は苦虫を嚙み潰したようになっていた。
その背を、やれやれと男は見送るのだった。
§§§
結局、RABBIT小隊はカヤの計らいで釈放と相成った。
「“お疲れ様”」
ヴァルキューレのロビーでわいわい騒いでいる四人に、先生が声を掛ける。
それに対して、四者四様の反応を示す子兎たち。
「まだ居たんですね、先生。
それともまさかとは思いますが、私達に用事が?」
「“うん、行政委員会から、今回の件の処分について”」
「……ま、どんな処分でも別に構わないけど」
「じゃあ、連邦生徒会の秘密の地下労働施設で強制労働な」
「ほ、本当に地下につれていかれちゃうんだぁ!?」
男の冗談に、ミユが涙目になった。
「冗談だよ。ひとまずあの公園の掃除だ。
お前らが持って来た備品を片付けろ、だとよ」
男の宣告に、先生も頷く。
「え、本当にそれだけ?」
「“うん。その後は自由にしていいよ”」
「自由にしていいと言われてもな」
「……今更寮には帰れないし」
モエは驚き、サキとミユはバツが悪そうにしていた。
リンの計らいによって、SRTは閉鎖されているものの、そこの寮は今だ在学していた生徒たちへ居住を認めていた。
ただ、今更そこに戻っても問題を起こした彼女達の居場所は無いだろう。
「“だったら、シャーレの居住区で生活しても良いよ”」
「それは先生、やめておけ」
「“どうして?”」
「俺が昔貧民街のホームレスのガキにエサをやるとな、そこら中からガキが群がって来るんだよ。
そして全員に同じエサをやらないといけない。
そうしないと、どうなると思う?」
「“……奪い合う”」
「そうだ」
男は神妙に頷いて見せた。
「こいつらは曲がりなりにも家がある。
こいつらに施しを与えるなら、我が子にするように接しろ。
それが出来ないのなら、初めから何もするな。それはこいつらのプライドを穢す行為だ。
例えあんたが際限なく受け入れ続けても、いずれ満杯になったらお前の平等さは失われるんだ。
そしてお前は嘘吐きになる。善意と善行が、必ずしも最良の結果を招くわけではない」
「“そうだね、無神経だった”」
先生は父親でも親代わりでもない。
そこを間違えてはいけない、と彼は己に戒めた。
「そして支援物資で肥えた貧民どもは、働かなくなるんだ。
こいつらに真の自立をさせたいなら、仕事を与えろ。
救いだけを与えるのはマンガか特撮のヒーローだけだ。
救われた後の事を考えるのが、連邦生徒会の仕事であり、今のお前のすべきことだ。違うか?」
「“そうだね。とりあえずSRT部なら給料が出るし、訓練場に寮もあるけど”」
「その手には乗りませんよ」
流れるような大人二人の連係プレーだったが、ミヤコには効かなかった。
「我々に必要なのはSRTの正義を成せる場所です!!」
「でも、SRT部だとちゃんとした訓練が受けられるんだろ?」
「シャーレは論外だけど、ちゃんとした屋根は欲しいし」
「せ、先輩達も居るって聞いてるし」
「ちょっと、あなた達はそれでいいんですか!?」
まとまりが無いな、と先生と男は思った。
「お前たちはどう思う?」
男が視線を逸らして、そう言った。
RABBIT小隊の四人がそちらを見ると、Wolf小隊の四人が立っていた。
「せ、先輩達……」
「久しぶりですね、ミヤコ。
私の潜入訓練の時以来ですか」
ミヤコを認めたトリコは目を細めた。
「“もしかして、以前言ってた潜入の時に撃てなかった後輩たちって”」
「はい、彼女達でした。彼女達が入学してすぐの、学力試験みたいなものでしたから、よく覚えています」
トリコの視線が、睨みに近くなっていく。
「任務に忠実ではなかった私が言えた義理ではないのですが、あの時のあなた達も無駄が多く余計なやり取りが沢山ありましたね。
過去の自分に戻れるなら、迷わず撃っておけ、と言ってやりたいところでした」
トリコの言葉に、四人は肩身が狭くなるように縮こまっていく。
「個人的に、ウサギのパイになるまでメタメタにしてやりたいところです」
ウズはトリコの失墜を彼女達の所為であると思ってるのか、そんなことを言った。
「ウズ、それ殺してるじゃん。私達も先輩達にしてもらった、“可愛がり”とかまだだったじゃない。それで勘弁してあげよう」
ムツニはそんなことを不気味に笑いながら言う。
「とりあえず、SRTの正義や理念には、自分たちの都合が悪い時に他人を蔑ろにしていい、だなんて内容は無い事をその体に徹底的に教え込むことから始めるべきかと」
彼女らの顔を見て怒りがぶり返したのか、ナバトがそう答えた。
「まあ、今のこいつらが使い物にならんのは事実か」
「ちょっと待て、我々はSRTの選抜試験を潜り抜け、厳しい訓練を受けてきた。
使い物にならないなんて言い方は、聞き捨てならない!!」
男の呟きに、サキが憤って反論した。
「少なくとも、我々の個々の能力は本物です。
あなたに軽んじられる謂れは無い筈です」
と、ミヤコも多少ムッとした態度で言い返した。
「口を慎め、駄ウサギが!!」
後輩たちの言葉に、ナバトが激高した。
「ボスは落ちこぼれだった我々を完成させてくれた。
先日の公園のお前たちにも劣る体たらくだった我々を、仕上げてくださったのだ!!
そして、お前達もそうなる。感謝して教官と仰げ!!」
「そうかっかするなよナバト。怖がってるだろう」
「あッ……」
男はナバトに近づいての腰に手を回した。
ナバトは彼に為すがままになった。
「あ、ズルいですボス。私も私も」
反対側からムツニが男に抱き着いた。
男も無遠慮に二人の身体をまさぐり始めた。
「“ここは警察のロビーだよ”」
先生が呆れてそう言った。
「ふ、ふ、不潔です!!」
ミヤコが叫ぶ。
「おッ、男に媚びを売るなんて恥を知れ!!」
サキが顔を真っ赤にして男たちを指差した。
「わ、私達もあんな風に体中を弄ばれるんだ……」
ミユは悲観した言葉を並べ。
「うわぁ、過激だねぇ、くひひ」
なぜかモエは喜んでいた。
「で、どうするんだお前ら」
「こっちから願い下げだ!!」
サキの言葉に、他の面々も賛同し。
結局、先生の提案でRABBIT小隊は備品没収の上で子ウサギ公園で一般市民としてキャンプすることになったのだった。
RABBIT小隊のSRT部合流までは、もう一悶着ある予定です。
またの名を、主人公の暗躍の描写が終わるまでの時間稼ぎともいう。
件の少女が、最後のオリキャラにして、最も重要な立ち位置になるでしょう。
彼女の正体は、掲示板回にヒントがあります。
ではまた、次回!!!