※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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今回は重要な内容なので、AIイラストを使用しています。
嫌いな人は設定で非表示をお願いします。



審判

 

 

 

「……まさか、これって」

 

 ディスクに入っているプログラムの点綴を行っていたリオは、やがて気づいた。

 

「教えて、これってもしかして、人間をAI化するツールではないわね?」

『流石に気づくか』

 

 モニターに映る男が笑った。

 

『より正確な表現をするなら、それは実験体となった者の精神と魂を複写し、AIとする試みだった。

 お前が目の当たりにしている通りだ。それ以外の人間をAI化することはできないだろうし、恐らく、再現性も無いだろう』

「……あなたは狂ってるわ」

『何を今更』

 

 男は笑みを深めた。

 

『だからこそ、お前の俺への願いは叶うのだ。

 俺はもうすぐ、このキヴォトスを去るだろう。

 このディスクの完成を以って、俺は心置きなく旅路へと向かうだろう』

「話には聞いていた、あなたの同一存在の為ね」

『そうだ。今回の俺の企みは、三つの道筋が存在していた。

 その全ては、その一つの目的へと集約されるのだ』

 

 男は全てをリオに話していた。

 今回の、彼の計画の全てを。

 

『ひとつは、俺の半身たるリンゴの目覚めの為。

 もうひとつは、このディスクの完成によって齎される恩恵を、キヴォトスに齎す為で、彼女もその恩恵を受けるだろう。

 そして最後、不知火カヤへの審判……それを見届け、俺はこの世界から消え去るつもりだ』

「……そして、最後のピースは」

 

 リオは全てを理解し、言葉に詰まる。

 

 ──献身。

 彼の所業の全ては、その言葉に集約されていた。

 そして、最期に一つだけ、男に必要な行動があった。

 

『我が麗しの風紀委員長は言った。

 我が呪われた知識と経験を、キヴォトスの平和の為にだけに使えと。

 俺はそれを成し遂げるだろう。リオ、全てお前のお陰だよ』

「嬉しくなんてないわ」

 

 男の心からの感謝に、リオは眉を顰めた。

 

「私は、誰かの破滅に手を貸したいわけじゃなかった」

 

 それが、リオの本心だった。

 

『そうだな。科学とは人々の幸福の為にあるべきだ。

 そして、俺はそれを証明し続けるだろう。

 お前の役割はもう残りわずかだ。さあ、それを完成させてくれ、リオ』

「……良いでしょう。ここで毒杯を飲み干せないほど、私は弱くはない」

 

 リオは作業を続ける。

 三本の糸を縒り合わせ、一つの命を創り上げる。

 

 別々だった精神と経験が、魂が、DNAの螺旋のように美しい音色となって奏でられる。

 

 科学を極めた科学者は、神の存在を確信するという。

 リオが洗練させればさせるほど、人間の創造主の存在を意識せざるを得なくなっていった。

 

 人間はDNAによって、古代からの進化を保証されている。

 だが、これにはそれがなかった。

 まるで神が、そうあれと創造したかのように。進化の連続性が保証されていない。

 

 リオが突き詰めれば突き詰めるほど、その設計図が見えてくる。

 そして彼女はその完成図を、書き上げた。

 

「……終わった」

 

 彼女は完成させた。

 ある人間の設計図を。生命の雛形を。

 

『ありがとう、リオ。

 これで、俺は心置きなく旅立てるだろう』

 

 それを見届けると同時に、秘密のラボの電源が落ちる。

 

「……」

 

 暗くなった部屋に取り残されたリオは、椅子にもたれ掛かったまま放心していた。

 

 実感が無かったのだ。

 自らが成し得た偉業を。

 

「そう言えば、これどうしようかしら」

 

 リオが視線を向けると、暗闇の中に小柄な人型が置いてあった。

 

 それは、原寸大サイズのアリスの複製だった。

 オリジナルからあらゆるマシンスペックを落とし、見た目だけは再現できたガラクタだった。

 その程度、リオにとって手慰み程度でしかなかった。

 

「エンジニア部が作りたがってたし、彼女達に進呈しようかしら」

 

 結局無駄だったけど協力してもらったし、とリオは呟く。

 それをロボットに運び出させると、リオもラボを後にする。

 

 彼女がスマホを取り出し、信号を送る。

 

 彼女がさっきまで居たラボが、爆発と共に全ての痕跡を消し去った。

 

 

 

 §§§

 

 

「こちらがSRT部がここひと月で解決した案件です」

 

 カヤは連邦生徒会の会議の席で、発言をしていた。

 彼女の提出した資料が、プロジェクターで画面に映し出される。

 

「犯罪者グループを24組も壊滅。

 大小6組のマフィアを検挙、関連する組織も芋づる式に摘発してヴァルキューレも対応が追い付かないほどですか」

 

 感心したように、リンは頷いた。

 FOX小隊とWolf小隊は結果を叩き出した。

 

 毎日キヴォトスのどこかの犯罪組織を壊滅させ、ついでに通りがかった犯罪の現場を蹴散らしたこともある。

 

「各自治区からの感謝状も幾つも届いています。

 最早結論を問うまでもないでしょう。

 早急にSRT部の訓練校を創設し、希望する元SRT生をそちらに転校すべきです」

 

 カヤの主張に、行政官達も唸るほかなかった。

 

「……これまで、先生の指揮によって生徒たちは多くの成果を上げてきました。

 その先生のSRT部の指揮も、シャーレのオフィスからの後方支援だけだったそうですね。

 これは連邦生徒会長の失踪前にも勝る成果と言わざるを得ません」

 

 リンの言葉に、カヤは笑みを深めた。

 

「この調子なら、矯正局の刑務施設も満杯になるのも時間の問題です」

「事件の早急な対処に、連邦生徒会の支持も高まっています」

 

 カヤ側の行政官たちも、援護射撃を行う。

 反論は、無かった。

 

「では、SRT部の専門の訓練校の設立に対して、決議を取りましょう」

 

 リンの言葉によって、決議が始まる。

 

 結果は、八割強が賛成。

 ほぼ九割が、SRT部の成果を認めたのだ。

 

「では、後程こちらが差し押さえた学校の資料を送りますね」

「わかりました」

 

 あらたな学校の創設は、連邦生徒会長の承認が必要だ。

 だが、運営停止状態で誰も居ない学校の看板を変えて立て直すという手段は、先生がやって見せたし、正当な手続きだ。

 

 そして、本来のアビドス高校はつい先日になって、ようやく廃校の手続きが終わったばかりだった。

 今のアビドス学園を見れば、滑稽な有様だった。

 

「今日の議題はこれまでですね。

 それでは、解散と致しましょう」

 

 リンの進行で、会議が終わる。

 各々席を立ち、カヤも上機嫌で帰ろうとした時だった。

 

「どうせ、あの野蛮な男の入れ知恵でしょうに」

「上から指示するだけでよくあそこまで増長できますね」

 

 そんな誰かの声が聞こえたのだ。

 

「……」

「口さがのない人たちですね。

 気にしないでください、カヤ室長。貴女の仕事は誰もが認めています」

「……ええ、気にしてはいませんよ」

 

 固まっているカヤに、リンが話しかけた。

 

「専門家の意見を汲み取り、適切な仕事を行うのが各室長の務めです。

 素行はともかく、彼の有能さは誰も認めていますから」

「……そうですね」

「ですが、連邦生徒会内であのような暴行事件を起こしてしまうとなると」

「リン行政官も、彼が居ないと私は何もできないと仰るのですか?」

「え? そんなことは言っていませんよ」

 

 しかし、リンの目から見てもカヤの手は震え、屈辱を堪えていた。

 

「あれはくだらない僻みです。

 そこまで真に受ける必要はありませんよ」

「ならあなたはどうなんです。

 連邦生徒会長失踪のどさくさに主権を掠め取った簒奪者。

 そんな風に陰口を言われているのを知らない訳がないでしょう!?」

「ええ、そうですね。

 彼女が帰ってきた時には、責任を取らねばならないと思っていますよ」

「は?」

「当然でしょう。私は自分の業務に無い仕事を引き受け、皆に差配しているのですから。

 その結果、連邦生徒会を傾かせた。その責任は取らねばなりません」

 

 カヤは、なぜか愕然とした。

 リンが自分の前から消えようとしている。

 それは喜ばしい事なのに、無性に苛立ちが募るのだ。

 

「あ、あッ、あなたはいつまでッ、もう居ない人間に媚びへつらうつもりですか!!

 あなたには連邦生徒会の頂点に立つ資格があるッ、あなたへの妬みや僻みはその裏返しです!!

 貴女がこのまま消えるなんて、私が許しませんよ!!」

 

 それがカヤの本心なのか、彼女自身にも分からなかった。

 ひとつだけ言えることがあるとすれば、カヤはリンを“敵”としてその能力や手腕を認めてはいた。

 

 そんな相手が、全てを放り出して消えた奴の為に消えるなんて、納得できなかったのだ。

 どうせ葬り去るなら己の手で、そんな気持ちがカヤにはあったのかもしれない。

 

「媚びへつらっているわけではありません。

 信頼ですよ。彼女は必ず帰って来る。そう確信しているのです」

「……理解できません。どう言い繕ったところで、居ない人間は何もできません。

 連邦生徒会長の空位そのものが、この組織に泥を塗っているのに!!」

 

 二人しか居なくなったこの会議室に、カヤの怒号が響いた。

 

「ええ、カヤ室長。きっとあなたの方が正しいのでしょう。

 ……それでも、私は待ち続けますよ」

「……そうですか、わかりました」

 

 狂ってる、とカヤは思った。

 この女の存在を許してはいけない、と彼女は確信した。

 

 会議室を出たカヤは、すぐに人気のないところに移動し、男に連絡を取った。

 

「私です。貴方にお願いしたいことがあります」

『丁度いいな。俺も用があったんだ、直接会おう。場所は良い感じの場所をこちらで指定する』

「わかりました」

 

 カヤは決めた。

 リンの排除を。

 

 それが、連邦生徒会の為だと、心に刻み込むように。

 

 

 

 §§§

 

 

「……いよいよか」

 

 カヤから連絡を受け取った男は、審判の時が来たのを悟った。

 

 リオはやり遂げた。

 ならば、もうなにも思い残すことは無かった。

 

「先生、そろそろ行くよ」

 

 シャーレのオフィスのデスクで事務仕事をしている先生に、男は声を掛ける。

 

「“もう、行くんだね”」

 

 本当に、唐突だった。

 彼は旅立ちの準備をする素振りすらなかったのだ。

 

「ああ、男の一人旅は着の身着のままで十分だからな」

「“……寂しくなるね”」

「ド阿呆、ここほど騒がしい所はないだろ」

 

 そう言う意味じゃないんだけどね、と先生は苦笑した。

 

「じゃあな、達者でな」

「“そっちこそ”」

 

 丁度Wolf小隊はさっき任務に出動した。

 彼は本当に一人で立ち去るつもりなのだ。

 

 先生が引き留めようと言葉を探しているうちに、彼はオフィスから消えた。

 

 彼の後姿に名残惜しさを感じていると、コーヒーを入れようとして先生は立ち上がった。

 

「“おっと!?”」

 

 その時だった、先生は引き出しに足をぶつけて態勢を崩した。

 その拍子に、引き出しが開いた。

 

 その中には、見覚えのあるモノが入っていた。

 

「“あれ、これは彼の銃じゃ”」

 

 それは、シングルアクションアーミー。

 先生はそれを見て、思い出した。

 先日彼が連邦生徒会で暴行事件を起こし、その時にカヤから預かった代物だった。

 

 どうして、返すのを忘れたのだろうか。

 どうして、彼は返せと言わなかったのだろうか。

 いつも肌身離さず、持ち歩いていたと言うのに。

 

「先生」

 

 その声に、顔を上げる。

 蛍光灯を頭に浮かべた少女が、微笑んでいた。

 

「あなたは、どうしますか?」

 

 

 ──“(銃を返しに行く)”

 

 先生はすぐに行動に移した。

 銃を手に取り、先生は男を追った。

 

 そうしなければ、間に合わなくなる。そんな確信があったのだ。

 

「……」

 

 その後ろ姿を見届けた少女は、何かを憂うように首を振った後、最初からそこにいなかったかのように姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 D.U.のどこかにある、工事現場。

 工事が中止になり、放置されたのか高い囲いの中で二人は待ち合わせをした。

 

「七神リンの排除をお願いします」

「……」

「あの女の存在は、これからの連邦生徒会の邪魔になるッ」

 

 カヤは苛立ちを隠せない様子でそう言った。

 

「なるほどな。

 お前はそう判断したわけか」

「あの女の愚かさは筆舌し難いほどです!!

 あいつが連邦生徒会長になるならまだわかります!!

 だけど、このまま失踪した連邦生徒会長が見つかるまであの女はずっと今の体制を維持しようとしている!!

 トップが不在で、まとまりも無い今の連邦生徒会で!!

 これでは、いくら私が努力しようとも全く意味がないではないですか!!」

 

 男はゆっくり頷いた。

 カヤは己の主張が認められたと判断したのか、頷き返す。

 

「お前の言い分は尤もだろう。

 連邦生徒会長の不在は、実質的に主権の喪失に近しい状態だ。

 失踪から何か月も経っているのに、その代わりを選出しないというのは住民から不審を抱かせるだけだ。

 あのリンちゃんって子は、人間としては出来た人物だが、組織人としては甘ちゃんも良い所だな」

 

 男も苦笑を隠せない様子で答えた。

 

「だが悪いな。自分でやれ」

「は?」

「やるなら、自分でやれ、と言ったんだ。

 俺もいい加減、お前の子守りは飽きた」

「な、なんですかそれは、そんな無責任な!!」

「お前もいい加減に、自覚したらどうだ」

 

 激昂するカヤに、男は冷めた視線で言った。

 

「お前は、支配者の器じゃない。

 リンちゃんを従わせられるほどのカリスマを見せられない時点で、お前は連邦生徒会長の代わりには成れない。

 身の程を弁えた方が身のためだ」

「あ、あなたまで、私を認めないのですか!!」

 

 男はずっと、カヤの味方を演じていた。

 だから、その言葉はカヤのプライドを著しく傷つけた。

 

「認められたいなら信頼を重ねろ。

 お前が任期を終えるまで仕事をこなして、初めてお前は認められるのだ。大人の世界じゃ、それを信頼と呼ぶんだよ」

「それでは遅いと言っているんです!!」

「だから排除するのか? 善良なだけのリンちゃんを」

「当然でしょう!!」

「なら、仕方ないな」

 

 男は懐から資料を取り出した。

 

「ここに、お前がこれまでしてきた不正の証拠資料がある」

「それはッ、私が依頼して抹消させたはずでは!?」

「保険を掛けるのは当然だろう?

 これが原本で、複製もしていない。

 これを連邦生徒会に提出すれば、お前は終わりだ」

 

 男の言葉に、カヤの額に汗が流れる。

 

「あんな単純な先生みたいな男さえ手玉に取れない時点で、ダメだよお前。

 もうすこし色仕掛けとかしたりできなかったのか?」

「ぁ、あ、ああああああ!!」

「凡人は凡人らしく、身の程を弁えていればよかったのにな」

 

 少なからずリンと己を比べてコンプレックスのあるカヤは、男の心無い言葉に怒りの頂点に達した。

 

「それを、渡しなさい!!」

 

 彼女は己の銃を抜いて、男に向けた。

 

「嫌だと言ったら?」

「撃ちます、撃ちますよ!!」

「自分で手を汚すことも出来ない、腑抜けのお前にか?」

 

 男は笑って、カヤに歩み寄った。

 

「ほら、撃ってみろよ腰抜けのカヤちゃん。

 出来ないだろ? 覚悟も無い癖に、銃を抜くんじゃねえよ」

「ッ!!」

 

 カヤの銃口と、男の身体が密着する。

 男が彼女の拳銃を掴んだ、その瞬間だった。

 

「こ、この私を、これ以上バカにするなッ!!」

 

 

 そして、──引き金は、弾かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“銃声!?”」

 

 男の痕跡を周辺住人から聞いて探っていた先生は、その銃声に気づいて現場に向かった。

 彼が車を使っていないのは分かっていた。

 だから、先生は決定的な瞬間に立ち会った。

 

 

 腹部から血を出して倒れる男と、膝から地面に崩れ落ちたカヤの姿を。

 

「“アップルマン、カヤ!!”」

 

「……おお、先生か。お前なら来てくれると思ったよ」

「“それより止血ッ、救急車を呼ばないと!!”」

「必要無い。太い血管をぶち抜いたらしい、致命傷だ」

「“そんなッ、そんなことって!!”」

「それより先生、お前に最期の頼みがある」

 

 男は放心しているカヤを指差した。

 

「あいつの処遇を、お前が決めろ」

「“なにを、言っているんだ!?”」

「そこに、そいつがやった悪行と不正の全てがある。

 この間のFOX小隊による連邦生徒会への襲撃も、そいつが糸を引いたことだ」

「“ほ、本当なのかい、カヤ?”」

 

 先生の問いに、カヤは怯えたように顔を上げた。

 

「そして今、──その女は人殺しになろうとしている」

「“ッ!?”」

 

 男の邪悪に満ちた笑みで、先生は察した。

 

 初めから、この男はカヤに殺されるつもりだったのだ、と。

 

「……先生。この人殺しのクソ女を、お前は生徒と言うだけでなおも見捨てないのか?」

「せ、先生、お、お願いです、助けてくださいッ、なんでも、何でもしますから!?」

 

 手が震え、涙を流しカヤは先生に叫んだ。

 男の術中に嵌った愚かな女は、先生に縋りつく。

 

「“なぜ、こんなことをしたんだ!!”」

「わ、私はただ、皆に認められたかった、だけで……」

「“彼は、私の友人なんだぞッ、かけがえのない、友達なんだッ、それなのにどうしてッ”」

「ごめんなさいッ、ごめんなさいッ!! 本当に、そんなつもりじゃなかったんです!!」

 

 先生に詰め寄られ、カヤは謝るしか出来なかった。

 そして先生は、自分が涙を流していることに気づいた。

 

「お願いです、本当に何でもします、助けてください……!!」

「さあ、選べ。先生。

 この女を赦すか。それとも、赦さないか?」

 

 ──審判の時は訪れた。

 

 

「“…………”」

 

「せ、先生……?」

 

 涙を流しながら、カヤは先生の顔を見上げた。

 震えた声で、全てに怯えながら。

 

 

「“……私は、見捨てないよ”」

「……」

「“何があっても、生徒がどんな罪を犯そうとも。

 私は、私の生徒を、最後まで面倒を見るよ”」

「……そうか」

 

 その答えに、男は安堵したように笑った。

 カヤもただただ、泣き崩れるだけになった。

 

「泣くなよ、先生。クズが一人、この世から消えるだけだ」

「“それでも、君は私の友だった……”」

「ありがとう、俺の最期を看取るのがお前で良かった」

 

 先生は、血だまりに倒れる男の前に膝を突いた。

 

「俺の右手達を頼む。あいつらには、カヤを恨むなと言っておいてくれ……」

「“お願いだ、逝かないでくれ!!”」

「そうはいかない。俺はそいつの罪を持っていく必要がある……」

「“まさかッ”」

「……俺にとって死とは、また別の視点への旅路に過ぎない。

 先生、これは所詮、一時の別れに過ぎない」

「“ッ、逃げるな!! 君が私の生徒達にしたことの責任を取れ!!”」

「さようなら、先生」

 

 男は、カヤから奪っていた銃を、己の顎の下に突き付けた。

 

 

「──── I'll be back(俺は必ず戻って来るぜ) 」

 

 

 銃弾が、男の頭部を貫いた。

 

 脳漿が地面に飛び散り、男はカヤの罪を引き受け、旅立った。

 

 

 

 

「さようなら、我が友よ。あなたの"崇高”は見届けました」

 

 どこからかその光景を見ていた黒服が呟いた。

 彼の顔を形作る怪光から、雫のようなモノが垂れて、地面に落ちて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もですか、ナギサ様」

「ええ、毎日彼女の顔を見ないと、不安で」

 

 ナギサとミネは、診療所の廊下を歩いていた。

 毎日のようにリンゴの様子を見に来るナギサを、ミネは護衛として傍に侍る。

 

 そして、リンゴの病室をノックする。

 相手から返事が来ることは無いと、分かっていて。

 

 だが。

 

「どうぞ」

 

 返事が、帰ってきた。

 

「ッ!!」

 

 ナギサはすぐに、扉を開けた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 年齢以上に幼く見える少女が、ベッドの上に座っていた。

 生命維持装置を外し、扉を開けた二人を見ていた。

 

「ナギサさんと、ミネさん、ですよね」

 

 少女が口を開いた。

 それを意味することを理解したナギサは、膝から力が抜けたかのように崩れ落ちた。

 

「私達のことが、分かるのですか?」

「はい。ずっと、ずっと、夢を見ていました、あの人の夢を……」

 

 ミネは少女の容態を確認しながら、尋ねた。

 返ってきた言葉は、そんな意味深なものだった。

 

「彼は、彼はッ!?」

「…………」

 

 リンゴは目を瞑り、ナギサに首を振って見せた。

 

 ナギサの慟哭が診療所に響き渡るのは、そのすぐ後だった。

 

 

 

 

 

 





そして、男は崇高への旅路へと至る。

次回、今章のエピローグになります。

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