本日二度目の投稿です!!
「社長」
「……はい」
男は、目の前の床で正座しているアルを見下ろした。
それだけで彼女は委縮する。
彼女の身長は160㎝程度。立った状態ですら30㎝近く差があるのに、座っていたのなら迫力は尚更だろう。
「これは一体どういうことだ?」
「実は……」
彼女は男に説明を始めた。
「はい、こちら便利屋68。
ええ、そうね、間違いないわ」
便利屋の事務所。
上機嫌で電話する社長のアルを、社員三人は応接用のソファーに座って見ていた。
「最近のアルちゃん、楽しそうだね☆」
「社長はいつでも楽しそうだと思うけど」
ムツキの言葉に、カヨコが反応した。
「き、きっと教官のお陰だと思います」
ハルカも二人の顔色を伺いながらそう言った。
そんな彼女にムツキは腰を回した。
「そうそうこの間、仲介料をちょろまかそうとしたバイヤーをぶちのめした時は楽しかったね!」
「は、はいッ!! 教官は私なんかにもよくしてくれて、よりアル様の御役に立てるようにしてくれます。
ふッ、ふへッ、へへへ」
「(アップルマンさんはどう見ても便利屋を乗っ取ろうとしてるけど、指摘しても面倒だし良いか)」
仲睦まじい二人を見ながら、カヨコは愛銃の整備を始めた。
「三人とも!! 聞いて!!」
その時である、電話を終えたアルが三人を呼んだ。
「どうしたの、アルちゃん?」
ハルカにダル絡みしているムツキが、小首を傾げた。
「師匠は先日、アビドスの一件で一人で依頼の処理に向かったわ!!
私達も同行しようとしたけど、俺一人で十分だって、断ったよね」
「うん、武器弾薬、資金も持たずにね」
「──あいつらなんて現地調達で十分だ。
最高にハードボイルドよね、流石師匠!!」
アルは目を輝かせていたので、社員たちはそれに対して何も言わなかった。
「でもカヨコ、最近のアビドスの噂は聞いているわよね」
「うん、ちゃんと調べておいたよ」
カヨコはノートパソコンを開いて、画面を見せた。
ニュースサイトの記事が映っていた。
彼女はその内容を読み上げる。
「不良集団『カタカタヘルメット団、謎の壊滅』。
昨日、アビドス自治区にて活動していた同集団がD.U.中央病院に集団入院したことが取材により発覚した。
不良たちはいずれも重傷で、精神に錯乱が見られる。
そしてうわ言のように、“アビドスに悪魔が居る”と繰り返しているのだ」
ぱたん、とカヨコはノートパソコンを閉じた。
「そう、最近あの地域には“アビドスの悪魔”と称される生徒が暴れまわっているに違いないわ。
それが誰なのか、一体全体わからないけれど」
「きっとヒナみたいな奴だよ、絶対」
「た、たたた、大変です!!」
「そうでしょう?」
取り乱しているハルカを慈愛の笑みを浮かべて安心させると、アルは抑揚に頷いた。
「これは以前、アビドスに風紀委員会のリストにある要注意人物が入学したと言う情報と合致するわ!!」
「(そうなのかな?)」
「(古い情報だし、多分違うと思う)」
ドヤ顔で推理を披露するアルを他所に、ムツキとカヨコはアイコンタクトだけで意思疎通をしていた。
「これは、私達が師匠を助けにいかないといけないでしょ!!」
なるほど、とムツキとカヨコは思った。
要するに格好よく助けに行きたいだけなのだ、彼女は。
「流石アル様、全力でお供します!!」
「さてみんな、準備するわよ!!」
こうして、便利屋の面々はアビドスに向かうことになった。
「でも、あの人の場所はわかってるの?」
「それについてはバッチリよ!!」
「なんで、あいつらがここに?」
男はアビドス高校に襲撃してきた便利屋の面々を見て唖然としていた。
既に対策委員会のメンバーが応戦しているが、もう両者が戦闘を止められる段階ではなくなっていた。
「俺はあいつらに居場所を教えてないぞ」
「“もしかしたら、私の所為かも”」
「なんだって?」
「“昨日貰った名刺の電話番号から、そちらの事務所に事実確認をしたんだ。
その際に、聞かれたからあなたが今日ここに来ることも話してしまった……”」
先生もまさかこんなことになるとは、といった表情をしていた。
「はッ、ははは!!
こりゃあ参ったなッ!!」
男は顔に手を当てて、大笑いした。
「丁度拍子抜けして、退屈してたところだ」
「“あ、危ない!!”」
男は銃弾飛び交う戦場を、堂々と進んでいった。
前線で遮蔽物を挟み撃ちあっているセリカとシロコはギョッとし、ハルカとムツキの連携に攻めあぐねているホシノの脇を抜けて、その二人が思わず手を止めるのを無視して後方で援護射撃しているアルに向かっていく。
「射撃中止、射撃中止!!
あの人は敵じゃない、人質よ人質!!」
アルは慌てて傭兵たちに指示を飛ばしていた。
「アル」
「師匠、元気そうね!!
一人じゃ手こずってると思って、手伝いに来たわよ」
「そうか、よくやった」
男は心にも無い事を口にした。
そして、くるり、と反転してアビドスの面々と先生に言った。
「先生、次はあんたの指揮能力を見せて貰おうか!!
傭兵たちに告ぐ、現行より指揮権は社長のアルより俺が引き継ぐ!!
総員、アビドス高校から在校生徒を全員排除しろ!!」
「ふ、ふざけんな──ー!!!」
セリカが叫んだ。
先生を含む対策委員会全員の心境だった。
「はははは!! 戦争だ戦争だ!!
先走った新兵が、政治家共の思惑をぶっ潰す!!
最高に愉しい状況じゃねえか、戦争はこうでなくちゃな!!」
男の勝手な指揮権譲渡を、しかし日雇い傭兵たちは見ない振りをして受け入れた。
あれはヤバい、傭兵業界に身を置く彼女らはすぐに理解した。
「おーい、お前ら!!
こいつらに勝てたら“ご褒美”をやるよ!!
さあ、お前ら!! 武器弾薬を惜しむなッ!! 弾薬は全部こちら持ちだ!!
撃て撃て撃ちまくれ、殺せ殺せ殺せ!!」
「えッ」
アルがギョッとして男を見た。
彼は知らなかった。彼女が見栄を張る為に、大勢の傭兵を値切りに値切って雇ったことを。
こうして、アビドス高校門前にて戦闘が始まった。
……
…………
…………
「リロード!! セリカ、フォローを!!」
「任せて!!」
シロコが遮蔽物に身を隠し、銃弾をリロードする。
セリカがノノミと息を合わせ弾幕を張り、相手の突撃を封じる。
その連携に、便利屋たちは数の優位を持ちながら何度も突撃を封じられていた。
「相手は防戦一方、なのに崩せない!!」
アルの狙いは後方での火力支援をするノノミだ。
だが射線が通る度に、ホシノが盾を持ってショットガンで威嚇射撃を繰り返す。
こうして生まれた膠着状態は、もう既に一時間半以上経過している。
「アル様ッ、私に御命令を!!
アル様の為に死んで見せますッ!!」
「ダメよハルカ、ムツキと一緒に前線を維持して!!」
痺れを切らしたハルカに、アルは指示を飛ばす。
「もう撃ちまくり過ぎて指が痛い~」
「文句を言ってる暇が有ったら撃って!!」
愚痴を言うムツキを叱咤しながらカヨコも彼女のリロードをフォローする。
『ノノミ先輩、九時の方向から五名、傭兵が校門を乗り越えてきます!!』
「はーい、任せて!!」
『“ホシノ、敵狙撃兵のリロードが終わる!!”」
「うん、任せて!!」
便利屋たちが攻めあぐねているのは、アヤネや先生の情報支援が大きかった。
敵は傭兵を駆使し、様々な圧力をこちらに掛けてくる。
だが、先生は忘れていなかった。
『先生、やはり』
「“うん、どうやら彼は伏せたままにするつもりらしい”」
この期に及んで、男はまだ切っていない手札が有った。
彼の護衛、即ち落ちこぼれたという特殊学園の元エリート。
開戦と同時に姿をくらました彼女の位置を、誰も把握していないのだ。
そしてやろうと思えば、とっくの昔に後ろから攻撃出来ている。
先生は、男の意図を測りかねていた。
そして、タイムリミットは訪れた。
丁度、校舎の鐘の音が鳴ったのだ。
「あッ、時間だ」
「すみません、定時なんで上がります」
傭兵たちは、そそくさと帰り支度を始めた。
「これ、弾薬費の領収書です」
「いやぁ、今日はかけそばじゃなくて天ぷらそばを食べれそう」
彼女らは早足で、逃げるように去って行った。
何も言わない、自分たちの指揮官の男が怖かったのだ。
「おい、お前達」
「は、はいぃ」
男に呼び止められる、傭兵たち。
彼女達は思わず竦み上がるが。
「これで美味いもんでも食べに行け。
また何かあったら頼むな?」
「あッ、ありがとうございます」
男は傭兵たちに順番にお札を一枚ずつ配って行った。
「あざーす!! またお願いしまーす」
傭兵たちは撤退した。
「……」
「……」
男は無言で愛銃の弾倉から銃弾を抜き、そしてゴム弾を詰めた。
「同業者にカネを払い渋るってのはどういうことだ、ええ!!」
「ご、ごめんなさいぃ!!」
ダンダンダン!! と、至近距離でゴム弾がアルに命中する。
彼女は悲鳴を上げながらノックアウトされた。
ゴム弾の一撃は重量級のプロボクサーのパンチの一撃と同等と言われるのだから。
「おい、お前ら、社長が負傷した。撤退だ撤退!!」
「はーい、撤退だね!!
くふふ、アビドスのみんな、また遊ぼうね☆」
「まったく……」
「アル様ぁ~!!」
ハルカが涙目で気絶したアルを抱え上げ、ムツキとカヨコも撤退を始めた。
「ご褒美は、今日の夜にアヤネに電話する」
男は終始楽しそうにしながら、撤退する四人の後に続く。
「なんだったの、あの人たち」
「さあ……」
静寂が戻り砂漠の風が吹きすさぶ校庭に、セリカとシロコの呟きが嫌に大きく聞こえた。
§§§
「なるほど」
経緯の一部始終を聞いた男は、溜息を吐いた後に笑みを浮かべた。
「次に傭兵を雇う時は、報酬は出し渋っちゃいけねぇ。
明日素寒貧でも、顔に出さないのがハードボイルドだ」
「も、もし、次の日もお金が無かったら?」
「そんときは簡単だ」
男はニヤリと笑って見せた。
「昔の女のところに転がり込む。
それが、ハードボイルドだぜ」
「か、かっこいい……」
葉巻の先端を切って、ライターで火を付けて咥え始めた男を見て、アルは目を輝かせていた。
「かっこういいの? それ」
「そんなわけないじゃない」
「アル様の昔の女、昔の女、殺す殺す殺す殺す──」
捨てられると思ってぶつぶつ呟き始めたハルカをカヨコが宥め、戦闘で疲れたムツキはソファーに横になった。
「アビドスはもう終わりだ。
全員が退去の意を示した。
廃校と同時に、あの校舎からいなくなるだろう」
「ほ、本当に一人で依頼を片付けちゃった!!」
「問題は」
男は尊敬のまなざしを向けるアルを見返し、目を細めた。
「廃校手続きが終わり、連中が完全に退去し、先方がそれを確認するまで、今回の報酬は支払われないってことだ」
「…………」
「カヨコ、どれ位掛かると思う?」
「ひとつの学校が無くなるわけだから、書類一枚で済む話じゃない。
早くて半月……一か月くらいは掛かるかも。
ましてや今、それを承認する連邦生徒会長が不在だから」
「最悪、半年は掛かるかもな。俺は踏み倒されても驚かんぞ」
「……」
「結局、お金はないままかー」
ムツキの言葉がアルは我に返った。
「し、仕方ないじゃない、社員が敵地で一人なのよ!?
全力投球しないでどうするの!?」
「もうそれは終わったことだ。
もっと建設的な話をするぞ」
「さんせーい☆」
「同感」
男は換気扇を回し、葉巻の火を消した。
これはアルを喜ばせるための小道具に過ぎず、そもそも男は煙草を嗜まない。
「……」
「アル様、元気を出してください」
蚊帳の外に置かれてぽかんとしているアルに、ハルカが近づいた。
「とりあえず、俺はこのまま連中に余計な動きが無いか監視を継続する。
俺は現地調達を続けるから、お前たちは資金繰りを任せた」
「……了解。そっちは任せた」
「とりあえず、俺のポケットマネーだ。
これを当面の食費に当ててくれ」
男はカヨコと打ち合わせを終えると、お札をテーブルの上に置いた。
「よかったー、おじさん大好き。
これでコンビニの廃棄をみんなで分けなくて済むね!!」
「子供はいっぱい食べて栄養をしっかり取れよ。
あ、ムツキちゃんはずっとそのままでも良いぜ。ぐへへへへ、二年後結婚しよう」
「それは無理☆」
「しゃ、社長としての、威厳が!!」
「(そんなのあったんだ)」
「あ、アル様はいつも素敵です!!
そ、そうだ!! 後で教官に教わったやり方で、アル様を悦ばせて見せます!!」
「(やっぱり本格的にそのうち乗っ取られそうだ)」
今日も便利屋は騒がしかった。
「よう、アヤネ。他の面々や先生も居るな?」
その日の夜、自販機に行く取って外出した男が電話をしていた。
「昼間の“ご褒美”だ。
お前達も、このままただ退学するなんて、納得がいかないだろう?」
男は楽しそうな、いや邪悪な笑みを浮かべた。
「真実を知りたいと、思わないか?
誰がお前たちをこんな目に遭わせたのか。
……そうか、先生、あんたにはもう言うまでも無かったか」
そんな彼女たちに、男は助言する。
「なら、アビドス高校の土地の権利書は大事に取っておけ。
それはお前たちに残された、最後の切り札だ。
ああそうだ、先生。大人同士二人きりで話さないか?
五分後、また電話をする」
男は暗闇に光る自販機の前で、五分待った。
すると、男が電話するより先に携帯が鳴った。
「先生、誰も聞いていないな?
傍受はされてないか? 大丈夫? わかった」
男はゆっくりと頷く。
「あんたに俺の計画を打ち明ける。
騙しも嘘も一切無しだ。俺はお前を男と見込んでこう言っている。
────そう、全てはあいつらの為だ」
大人同士の会話は、それからしばらく続いた。
次回はなんで便利屋に主人公が居るのかを、描写したいと思います。
ではまた次回!!