予定していたタイトルのニュートンのリンゴ改め、黄金のリンゴの章が始まります!!
鉛色のリンゴ
「今日からこのクラスに転校する、落合 リンゴと申します」
トリニティ学園のあるクラスに、リンゴは編入された。
「落合さんは病気で半年ほど入院していました。
最近ようやくリハビリを終えたばかりで、色々と不自由をしています。
皆さんもどうか助けてあげてくださいね」
彼女の付き添いとなった案内役の上級生ががそう言った。
はい、と彼女のクラスメイト達になる者達は声を返した。
「下江さん、あなたは正義実現委員会でしたね?」
「はい!!」
「どうか彼女が学園生活に馴染めるように、手伝ってあげてください」
「分かりました!!」
コハルは上級生に指名され、元気よく声を返した。
彼女は知って居た。自分のクラスに彼女が編入されるのを。
補習授業部では同じ学年なので、必然的にそうなったのだ。
「ねえ、以前はどんな学校にいらしたの?」
「ちっちゃくて可愛らしいですわね」
「良ければ学園を案内いたしましょうか?」
「あ、え、えと、私は……」
コハルより更に小柄なリンゴは、あらあらうふふなクラスメイトに囲まれて戸惑っていた。
キヴォトスではごく普通の中学校の出身の彼女は、この世界でも屈指のお嬢様学校の圧は未知のものだった。
「皆、困ってるじゃない。
ここは正義実現委員会の私に任せなさい!!」
コハルが声を上げ、それをクラスメイト達は微笑ましそうに見て散って行った。
「コハルさん……」
「トリニティの施設は広くて数も多いから、私が案内するわ」
「……うん」
そんな感じで、コハルは放課後にリンゴは校内を案内されることになった。
「ここがクラスから一番近い第三食堂!!
お値段も庶民的で、トリニティでもそう言った層の生徒が来る場所ね。だから自炊に自信がないならお世話になると思うわ!!」
「……うん」
「ここは大聖堂!! ミサの授業とかでよくここに来るから覚えておくと良いわ!!」
「う、うん」
「トリニティ学園は文武両道を貴ぶの!!
授業で怪我をすることもあるから、保健室の場所を覚えておくといいわ!!」
「……わかった」
「そしてここ!! ここが正義実現委員会が部室として使ってる場所よ!!
トリニティの皆が憧れるエリートが集まる本部なのよ!!
せっかくだから、皆に挨拶しましょう!!」
トリニティの学内を案内して気分が乗ったコハルは正義実現委員会の教師の扉を開けた。
「ハスミ先輩!!」
「おや、コハルに……そちらの方は?
失礼ですが、以前どこかでお会いしましたか?」
中で委員達に指示を出しているハスミに二人は出くわした。
リンゴはコハルの後ろに隠れて、ぶんぶんと横に首を振った。
あの男と数回程度顔を合わせた程度では、その程度の印象しか受けないようだった。
「おや、そうでしたか」
「ええと、この子はちょっと前まで昏睡状態で寝たきりで、今日編入したばかりなんです!!
学業が追いつけるように、私が面倒を見ることになって、今も学内を案内していたんです!!」
憧れの先輩に背伸びしてみせたいのか、コハルは満面の笑みでそう言った。
「それは、大変ですね。
コハル、よくその役目を引き受けましたね。同じ正義実現委員会の者として誇らしいですよ」
「はいッ。えへ、えへへ」
慈愛に満ちた笑みを浮かべるハスミに、コハルもご満悦だった。
そんなハスミが、リンゴに近づいて頭を撫でた。
身長差的に、彼女のキヴォトス屈指のサイズのメロンが目の前にぶら下がった。
「えッッッッ ろッ」
「? どうかしまたか?」
「い、いえ、ハスミさんは学外でも有名でしたから、緊張してしまって……」
「そうですか。大変な境遇でしょうが、努力は必ず実ります。
コハルはきっと、切磋琢磨するにはよい友人となるはずですから、仲良くしてくださいね」
「努力すれば、そんなに実るのですか!?」
「? ええ、必ずきっと」
わかりました、とか細い声でリンゴは頷いた。
その後、ハスミとコハルが業務連絡する間、リンゴは定規を取り出してマシロの下半身辺りを遠目から測ったりしていたが、何事もなくその日は終わった。
「あ、あの、コハルさん」
「そんなに他人行儀じゃなくて良いわよ!!
なんだか、あんたにそんな風な態度をされると、なんかムズムズするって言うか……」
コハル的にはあの男がおどおどとへりくだられているようで、気が気でないのだ。
「わ、私のこと、気持ち悪くないですか……?」
「え?」
「わッ、私はいつも、皆にそう言われてて……。
コハルさんにも、そんな風に思われてたら……」
「……大丈夫よ。私も、補習授業部の皆も、そんなこと言う奴なんて居ないから」
コハルは以前、病室でリンゴの経歴を確認していた。
小中学校、共にずっと、九年間もの間、いじめの標的だった、と。
そして最終的に、自室にずっと引き籠った。
「トリニティの生徒の嫌がらせは、特にヒドイって聞きました。
やっぱり、コハルさんもそういう現場を見たりしたんですか」
「……うん。トリニティの生徒は善良で真面目な人も多いけど、逆に突き抜ける人は割と見るわ」
正義実現委員会という立場上、コハルはそれなりにトリニティ学園の闇を見てきた。
陰湿ないじめをしたとして、正義実現委員会の部室に連行される生徒を何人も遠巻きに見たことがあった。
その誰もが、上品で虫も殺せないような雰囲気の人ばかりだった。
「でも、それ以上にこの学校は素晴らしいところよ!!
私やハスミ先輩は、少なくともあなたの周りに居たような連中みたいに見てみぬ振りなんてしないから!!
あんたがイジメられたらすぐに私に言いなさい!!
すぐに解決してあげるわ!!」
と、豪語したコハルだったが、多分自分の出る幕は無いとの打算もあった。
だって、彼女はティーパーティーのトップの一人、ナギサに目を掛けられている。
彼女の周りのちょっとした異変を察知できないほど、彼女は愚鈍ではないからだ。
アリウスのごたごたで、彼女の情報収集能力を思えば、心配するだけ無駄だと思ったのである。
「……本当?」
「私が嘘なんて言うわけないじゃない!!」
「え、でも……」
「……」
「ごめん……」
「あ、こっちこそ、ごめん」
なぜか二人して謝り合うことになった。
「ふーん、なんだか格好いいね、コハルちゃん☆」
「え、あッ、貴女は」
その声に振り返ると、そこに居たのは誰あろう。
この学校の生徒会長の一人である、聖園 ミカだった。
「あなたが、あの人の……本当に、不思議な感じ。
似てないのに、面影を感じる……」
「……どうもです」
「あ、ごめんね。
ナギちゃんが気にしてたから、私も顔を見ておこうと思って。
うん、やっぱり、その顔を見て確信した」
天真爛漫なミカの表情が、消えた。
「
貴女に喧嘩を売るなんて、そんな怖気の走るようなこと、私だってしないよ☆
同情しちゃうよ。これまで貴女をイジメてた奴らを……」
ミカは本気で、見知らぬ誰かを憐れんでいた。
やられた側は決して忘れない。だから、アリウスの件があれほどこじれたのだから。
「――――狼は、羊には成れないよ。リンゴちゃん♪
それじゃあね、今度は一緒にお茶しよう♪」
それだけ言って、ミカは手を振って去って行った。
「ご、ごきげんよう……」
リンゴほどではないが、人見知りのコハルは手を小さく振って見送った。
「じゃあ、もう夕方だし、今日はここで解散ね!!」
「うん、ありがとう、コハルさ……ちゃん」
「明日は補習授業部の皆で集まって、リンゴの学力を測ることになってるから!!
中学の頃の範囲を予習しておくのよ!!」
「……うん」
こうして、リンゴのトリニティ学園の初日は終わったのだった。
§§§
「とりあえず、中学三年の最後の半年分以外は普通に成績が悪いわけではないみたいですね」
借りられた教室で、模試を実施したヒフミは安堵した。
またあのかつての補習授業部の有様が脳裏を過ったと言わなければ、それは嘘となるだろう。
しかし、リンゴの学力はかつて中学生の頃のヒフミと変わらない程度だった。
「私は、むしろ意外だった。
リンゴはハナコみたいな天才性を発揮するものだと」
アズサがそんな感想を述べた。
それくらい、あの男の邪知暴虐が印象深かったのだ。
「……彼の異常性は、決して才能だけではありませんよ。
それまでの人生経験が、脳のリミッターを外してしまったんだと思います」
「それって、人間の脳は常に10%ぐらいしか使われてないって言う奴?」
「それは俗説で、今ではそれは誤りだとされてますよ。
ですが、極限の集中力で、周囲がゆっくりと動くように感じたりすることもあるそうですから、精神状態で常人以上のパフォーマンスを発揮するのは不思議な事ではない筈です」
ハナコはコハルにそんな風に話した。
「意図的にそれをオンオフを切り替えられるのなら、それは一種の超能力に近しいのかもしれません」
「……あの人は、他人の憎悪を自分が受けたかのように振舞うことができました。
多分、それも理由の一つだと思います」
「なるほど、一種のトランス状態ですか。
所謂シャーマンのポゼッション……魔女の軟膏の主成分が毒や麻薬で、それを用いてトリップしたように、意思ひとつでそのような状態になれる、ということですか」
人間の脳の神秘に、ハナコは感嘆を漏らした。
「だとすれば、あの人の狂気的な言動も説明が付きますね」
「あ、あの、私達にも分かるようにお願いします」
「彼は意思ひとつで勝手に気持ちよくなれる、ってことです♡」
「あいつ、やっぱり死刑に処するべきだったんじゃ」
視線を逸らしてボソッと言うコハルに、ヒフミは苦笑いした。
「さて、ヒフミちゃん。
リンゴちゃんの学力も分かったことですし」
「ことですし?」
「親睦を深めるために、お出かけしましょう!!」
ハナコの提案に、またか、みたいな視線を送るコハルだった。
「あんたは合宿の時もそうだったけど、もうちょっと真面目にやれないわけ!?」
「ですけど、リンゴちゃんは見たところ、丸腰ですよ」
「確かにな」
アズサはリンゴを見る。
まさに丸腰だ。キヴォトスの住人なら当たり前の寸鉄を帯びていない。
「銃は、ちょっと怖くて」
「気持ちはわかりますけど、持っているのと持っていないのは天と地ほど違いますよ」
ハナコの意見は尤もだった。
例えば、要人護衛のSPなどは、屈強な人間が求められる。
それと戦えば、反撃される。強そうだ、と思われることが重要なのだ。究極の護身とは、戦いを避けることなのだから。
銃を持っていれば、相手は反撃されることを意識する。
ましてや、銃の普及率がほぼ100%のキヴォトスである。
銃の未所持は、襲ってくださいと言っているようなモノだ。
「撃てなくても、見える形で所持していることをおススメします。
当たらなくても、隠れて撃ち返せば時間稼ぎになります。
その間に、助けが来るかもしれません」
「……わかりました」
「あの時、先生から銃を受け取っておけばよかったじゃない」
「コハル、あんな旧式な銃を使う人間は限られる。
銃弾の調達のしやすさから、もっと汎用性の高い銃を所持するべきだ」
アズサの言葉に、コハルはあの時の銃を思い出して、確かにそうね、と頷いた。
「あ、そうだ!!
丁度今、おススメのアプリがあるんですよ!!」
ヒフミは意気揚々とスマホを取り出し、画面をリンゴに見せた。
アプリが立ち上がる時のロゴを、彼女は読み上げた。
「“Pawn mas”……ポーン、マス?」
「多分、チェスのポーンとそのマス目って意味じゃないですか?
所謂、AIアシストアプリですよ。
マスコットキャラのモンタ君に話しかければ、いろいろなサポートをしてくれるんです。
例えば、モンタ君、銃を売ってるお店を教えて」
『うん、了解』
機械音声の返事とほぼ同時に、ヒフミのスマホにマップが表示される。
この付近の銃を取り扱うお店が、マッピングされていた。
「ほら、便利でしょ?」
「あー、ちょっと前に流行った奴ですね。
そんなアプリなんて幾らでもあると思いますけど」
「これはそんじょそこらのアプリじゃないんですよ!!
ポーンマスの真価は、日常生活だけではなく――」
「もうそれは良いから、銃を買いに行くなら早く行きましょう。
ヒフミに押されて私達は散々聞いたから」
うんざりした様子で、コハルは銃とカバンを抱えて外出の準備を終えた。
アズサもハナコも同様だった。
「わ、分かりました。
まあ、そのうちわかりますし、今は銃の調達に行きましょう。
あ、連絡とか便利になるので、インストールしておいてくださいね!!」
「わ、わかりました……」
「よし、招待ポイントゲットです♪」
それが目的か、とリンゴは半眼になってヒフミを見たのだった。
なぜ、そんなにもヒフミの圧が強いのか。
リンゴは移動中にポーンマスのアプリを色々と弄って、すぐに理解した。
「一万ポイントで、モンタ君コスチュームのコラボ仕様の限定ペロロ人形と交換可能……」
それが目的か、と彼女は悟った。
「交換期限、半年以上先じゃないですか」
「でも数量限定なんですよ!!
やっと昨日で五千ポイントも稼いだんです!!
ポイ活ならぬ、ポン活は今の女子中学生のトレンドなんですから!!」
と、力説するヒフミだった。
確かに、とリンゴはスマホをスライドしながら、ポイントで交換できる景品の一覧を見た。
その種類は数百以上あり、日用品から家具まで、果てには旅行券なども交換できるようだった。
しかも、1ポイント一円で換算するとしても、非常に格安で。
まだリリースされて二週間も経っていないが、短期間でイベントを繰り返しているようで、百万ダウンロードを祝う文言などが見えた。
これは爆発的なヒットと言っても差し支えない。
「よくこの短期間で五千ポイントも集めましたね……」
電子マネーと連動してポイントが溜まったり、色々とポイントを取得する手段は豊富だが、百ポイント以上溜まる行動は条件が制限されていて、学生の身の上では難しそうだった。
「ああ、それはですね――」
『緊急クエスト発生!! 緊急クエスト発生!!』
その時だった、ヒフミのスマホから電子音声が流れたのは。
彼女は即座に反応した。
「クエスト内容は!!」
『指名手配番号00758の移動予測ルートに、ユーザーがいらっしゃいます。
これを迎撃し、撃退してください。危険度Bクラス、報酬1500ポイント』
「クエストを受諾します!!」
ヒフミは応対を終えると、皆に向かって笑顔で言った。
「皆さん、1500ポイントですよ!!
こんな大量ポイント獲得は初めてです!!」
「また始まったわよ……」
コハルの反応から、これは初めてではない様子だった。
「だが悪党は見逃せない。
ポーンマスの連動機能で情報を共有しよう」
アズサがスマホを取り出すと、コハルとハナコも同様にスマホを取り出した。
そしてアプリを起動し、情報が共有される。
リンゴのスマホの画面にも、詳細な情報が乗せられた。
指名手配犯は三人の手下を連れて、金券ショップを襲撃、車を用いて逃走を図った。
その逃走ルートに、偶然補習授業部の面々が居たというわけだった。
相手の装備や脅威度など、予想される戦術など事細かく通達された。
そして、彼女達のいる地点の通過まで約三分。
「即席地雷の設置完了。
車ぐらいなら行動不能にできるだろう」
アズサが手持ちの爆薬を用いて、即席の地雷を道に敷き詰めた。
コハルがアプリの指示に従い、一般車両が地雷に引っかからないように簡単なバリケードを用意する。
「具体的な戦術サポートをお願いします」
『了解しました。
各自の待機場所と適切な役割分担を算出します』
ハナコの言葉に、アプリのAIはすぐに勝利の方程式をはじき出した。
コハルが近くの建物の屋上へと移動。
アズサとヒフミが左右の道路の影に、ハナコが遊撃に回る。
リンゴは安全な場所に隠れた。
程なくして、法定速度を無視した車が走ってきた。
そして、爆音。
車が中破し、走行が不可能になった。
両脇のドアから、ヘルメットを被った不良が逃げ出す。
即座に、アズサとヒフミが奇襲を仕掛ける。
混乱した強盗犯は、高所からのコハルの援護もあって瞬く間に数を減らす。
「く、くそッ、どうしてこんなに早く対応が!?」
「悪が栄えた試しは無い、ってことですよ」
這いつくばって逃げようとする強盗犯に、ハナコが銃を突き付けた。
「モンタ君、自警団か正義実現委員会に通報を!!」
『既に通報済みです』
AIは勝利を演算し、既にことは終えていた。
それとほとんど同時に、自警団が駆け足で現れた。
「ご協力、感謝致します!!」
「後で自警団本部にいらしてください。
犯人逮捕のご協力の報酬を支払いますので」
犯人たちは自警団の面々に、流れ作業のように連行されていった。
「最近、犯人逮捕が楽でいいな」
「ポーンマスのお陰だよな。
市民からの情報提供のレベルが段違いになった」
「ゲヘナの風紀委員会にも、オペレーターがいるらしいが、ただのアプリなのに同等の支援を受けられるからな。
素人でもアプリの指示に従えば、凶悪犯に対抗できるのはスゴイよなぁ」
「科学の進歩って奴だな。どんなルーチンをしてるんだろうか」
そんなことを言いながら、自警団は去って行った。
「皆さん!! 1500ポイント付与されました!!
限定ペロロ様人形まで、もう少しです!!」
「はあ、今日はこのポイントで何か食べる?」
「いいですね、思わぬ臨時収入も得られましたし」
建物の屋上から降りてきたコハルの提案に、ハナコも賛成した。
「相変わらず、ただのアプリとは思えない情報支援だ。
……まるで、先生に指揮されているかのようだ」
敵の位置、移動の予測、敵の武装や練度、行動パターン。
味方の戦力を的確に評価し、対抗できるだろうユーザーに救援を要請する機能。
そして、確実に成果を齎す、戦術。事後処理の手早さ。
そう、まるで先生の指示に似ていた。
アズサはそのように、感じたのだ。
「情報支援の有る無しは、本当に違うからね。
正義実現委員会でも、正式採用を検討してるみたいよ」
それほどまでに有用だから、これほどまでに爆発的に普及を始まったのだ。
ユーザーの数が増えれば増えるほど、アプリの精度は増す。
救援を求められるユーザーも増えるし、仮に救援に出なくても追跡に役に立つ。
アプリを入れておくだけで、勝手に救援を要請してくれるのだ。
敵に銃で応戦するキヴォトスの住人には、通報する余裕がない無い場合も多い。
通報している間に撃たれては世話が無いからだ。
それに、銃を持っているからと言って有効に活用できるとは限らない。
運転免許を持っていれば、全員が運転の達人と言うわけではないように。
生徒達も、授業で銃を撃つ方法を教わっても、日常的に銃の腕前を鍛えている者は限られるのだ。
それをAIが与える戦術でカバーする。
そして、ゲームのように敵に点数を付ける。
どこまでも有用で、残酷なアプリだった。
「でも、いったいどういう手段で、敵の分析や追跡をしてるんでしょうね。
衛星とかでしょうか」
「アリウスの自治区にもよくわからない兵器が置いてあったが、これも輪に掛けてよくわからないな」
便利だしいいか、とヒフミもアズサも深くは考えなかった。
「それにしても、“Pawn mas”、ですか」
「どうしたのハナコ」
「いえ、何でもないですよ」
気のせいか、とハナコは思うことにした。
自分の脳裏に浮かんだ、馬鹿馬鹿しい妄想を振り払うように、コハルに笑って見せる。
「お、終わりましたか?」
「あッ、リンゴちゃん。もう大丈夫ですよ!!」
「敵は殲滅し、自警団が連れて行った」
「よ、よかったぁ」
目の前での戦闘が終わり、リンゴはホッと胸をなでおろした。
「最近、大分マシになりましたけど、ブラックマーケットから流入した犯罪者がまだ潜んでるかもしれません。
とりあえず、武装だけはしておきましょう」
ハナコの言葉に、リンゴも身に染みたのか頷いた。
そんな状況だからこそ、このようなアプリが求められるのかもしれなかった。
皆で横並びになって歩きながら、リンゴはスマホでアプリを開いた。
概要欄を見ると、キャッチコピーが存在した。
曰く、『ふとした日常に訪れる、泥沼のような状況から抜け出す手助けを致します』、と。
「……泥沼、か」
それはきっと、かつての自分の状況なのだろうな、と思うリンゴだった。
「“…………”」
先生は感じていた。
SRT部の出動要請が、目に見えて減っているのを。
「“君は、これで満足なのかい?”」
ガラス張りのシャーレの事務所から、先生はキヴォトスを見下ろす。
振り返ると、彼のデスクに置いてあるパソコンのモニターに、男の姿が映っていた。
「“なあ、アップルマン……いや”」
先生は、彼の名を口にした。
「“――
モニターの中の男は、ただただ笑みを深めるだけだった。
Pawn mas→swamp man
このアナグラムはAIチャットが考えてくれました。
英語よわよわの作者には、AIイラスト共々科学の進歩には頭が上がりませんね!!
ではまた、次回!!