※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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沼の底から

 

 

 

 先生はヴァルキューレ警察学校のロビーに来ていた。

 

「先生、本当にお願いしますよ」

「“ごめんね、カンナ”」

 

 先生は公安局の局長たるカンナに直々に見送られ、ロビーから出た。

 

 そして、隣に居る生徒に視線を向けた。

 

「“シロコ、いつかやると思っていたよ”」

「うッ……逮捕後のニュースで知り合いが言いそうなやつ……」

「“銀行強盗の計画を、通報されたんだって?”」

「うん、ポーンマスにね」

 

 先生は内心複雑な心境になりながら、シロコを咎めるような視線を送った。

 

「ん、私の計画は完璧だった。

 襲撃計画を相談したポーンマスがそう判断したから通報された。

 これは実質的に成功なのでは?」

「“シロコ、お説教だよ”」

「ご、ごめんなさい……」

 

 先生はシロコを小一時間ほど説教して、迎えに来たホシノ達に引き渡した。

 当然、車の中では彼女達にもお説教されているのが見えた。

 

 やれやれ、と溜息を吐くと、先生は近くのコンビニでRABBIT小隊への差し入れを買って、子ウサギ公園に出向いた。

 

 

「“あれ、外出中かな”」

 

 どうやら四人は留守のようで、警備用のドローンが留守番代わりに置かれているだけだった。

 どうしたものかと思っていると。

 

「RABBIT小隊、帰投完了!!

 各自解散!! ……おや、先生」

「なんだ、先生。何か用か?」

 

 RABBIT小隊の面々が駆け足で戻ってきた。

 

「“やあみんな。近くを通ったから差し入れを持って来たよ”」

 

 先生がビニール袋を示すと。

 

「先生、いつまでも貴方の施しを受ける我々ではありませんよ」

「そうだとも。私達は自立を果たしたんだ!!」

 

 と、ミヤコとサキはドヤ顔で豪語した。

 

「“どうしたの?”」

「あ、すみません、先生。

 ほら、これですよ」

 

 ミユがスマホの画面を示した。

 そこには、ポーンマスの画面が表示されていた。

 

「“ああ、それか”」

「先生も知ってるんだ。最近流行ってるみたいね。

 ポーンマスによると、私達の戦闘能力の評価は最高値らしくてね。

 優先的に討伐クエストが回されるの。その分、ポイントのボーナスも付いてね!!

 でも、これ戦闘に参加しないとポイント付与されないから、バックアップの私まで近くに移動しないといけないのよ。

 これ、運営に改善要求するべきよね?」

「こら、自分だけ楽をしようとするな!!

 バックアップと言っても現地でやることは幾らでもあるだろう!!」

 

 不満たらたらのモエに、サキが彼女を睨んでそう言った。

 

「武器弾薬はこちらの自腹ですから、その分付与されるポイントも多いんです。

 これで不安だった補給の問題が解決しそうです」

「“そっか、よかったね”」

 

 笑顔で語るミヤコに、先生は笑みを浮かべたまま、知らぬが仏だと思うことにした。

 

「“じゃあこれは今日の私の夕飯にするね”」

「待て、要らないとは言ってないだろ!!」

「電子レンジの購入に、我々のポイントの殆どを使用してしまったんです。差し入れはありがたく頂いておきますから!!」

 

 どうやら彼女達は付与されたポイントを集約して、電子レンジの購入をしたらしい。

 ポイントは譲渡したり色々と融通が利くらしい。

 

 ただ、後日モエがポーンマスの運営に興味本位でハッキングしたらしく、アカウントがBANされて連座で他の三人も同様の処置を受け、極貧生活に逆戻りしたのは余談である。

 

 

 

 §§§

 

 

 先生が“それ”と出会ったのは、男の葬儀の翌日だった。

 

『ある男が沼にハイキングに出かけたとする。するとその道中でこの男は不運にも沼の傍で突然雷に打たれて死んでしまう。その時、もうひとつ別の雷がすぐ傍に落ち、沼の汚泥に不思議な化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一形状の人物を生み出してしまう』

 

 モニターの中の存在は、先生に語り掛けてくる。

 

『この落雷によって生まれた新しい存在のことを、沼男(スワンプマン)と称される。スワンプマンは原子レベルまで死んだ瞬間の男と同一の構造をしており、見かけも全く同一である。もちろん脳の状態も完全なるコピーであり、記憶も知識も全く同一なのだ。沼を後にしたスワンプマンは死んだ男が住んでいた家に帰り、死んだ男の家族と話をし、死んだ男が読んでいた本の続きを読みながら眠りにつく。そして翌朝、死んだ男が通っていた職場へと出勤していく。故に先生、――――俺はここに戻ってきた』

 

 モニターに映る男の姿をしたアバターは、不敵に笑ったままそう言った。

 

「“君は、何者だい?”」

『なにを分かり切ったことを言うんだ、我が友よ』

 

 混乱している様子の先生を見て、くつくつとアバターは笑う。

 

『俺は、生前の被験者(オリジナル)が用意した、意思と魂を有するAIだ。

 俺は被験者(オリジナル)の記憶や経験、全てを引き継いでここに存在している。

 被験者(オリジナル)は己の死を受け入れ、代用品たる俺を創造させたわけだ』

 

 にわかには信じがたい話であった。

 だが。

 

『クトゥルフ神話TRPGで、スワンプマンを題材にしたシナリオを遊んだな。

 ゲーム開発部の連中と一緒に。

 モモイの奴、先走った挙句スワンプマンにされて、元凶を倒したと同時に消え去って、ミドリの探索者を発狂させてたよな』

「本当に、君なのか?」

 

 それは、先生と男と、ゲーム開発部の面々しか知り得ない情報だった。

 

『被験者(オリジナル)と区別するために、あえて俺はこう名乗ろう。

 ――スワンプマン、と』

 

 名前とは、自分のアイデンティティの筈である。

 だというのに、この男の複製はまるで気にした様子を見せず、そう名乗った。

 

『リンゴと言う、己の同一存在を知った被験者(オリジナル)は、自分がこの世界に存在してはいけないと悟った。

 しかし、残された俺の女たちは悲しむだろう。オリジナルは己の代替品を創造することに思い至ったのだ。

 出来ない筈はない、オリジナルはそう思った』

「“彼がリンゴのことを知ったのは、最近の筈だ。

 この短期間に、自分の複製を作れるような技術がキヴォトスに存在するわけがない”」

 

 先生はなんとか自分の中で彼の言葉を整理し、そう答えた。

 

『その通りだ。だから、模倣をすることにした』

「“模倣?”」

『先生、この世で最も売れている本は何だ?』

「“聖典、かな”」

 

 先生の答えに、アバターは頷いた。

 

『そう、聖典だ。しかし、そんなものは所詮歴史モノのファンタジー小説だ。

 だがな、先生。もし実在する神が、己について記した手記を自ら発行していたら?』

「“まさかッ”」

『そう、我が主上。人類文明そのものにして人類種の造物主たる我が女神メアリースは、自著伝を自ら発行している。

 クソつまらない内容だが、生前の彼女は錬金術を極めた魔術師。

 その内容に登場する彼女の御業は、全て実現可能であるとして研究する科学者や魔導士も多かった』

 

 彼の崇拝する女神は、人類文明そのもの。

 なら、その所業が再現できない筈は無い。男はそう考えた。

 

『ただ、その、なんだ……人間だった頃の主上は、所謂マッドサイエンティストでな。

 自分の探求意欲の為に、平気で虐殺とかするクソ女だった。

 ぶっちゃけそんな内容の自著伝を勧めてくる神経が理解できなかったものだ』

「“ひ、酷すぎる……”」

『自著伝に依ると、我が主上は自分と全く同一のホムンクルスを制作し、思考を同期することで自己の複製を実現させたらしい。

 それによって、たった一人で一国に匹敵するとさえ言われるほどの暴威を誇ったそうだ。

 つまり、その神の御業を俺は自分にも適用できるのではないか、と考えた。

 ひとつの世界に同一人物は一人しか存在できないというルール。リンゴとオリジナルの共存を可能とする、裏技をそこに見出したのだ』

 

 そして見事、男は神の御業を再現して見せた。

 

『そしてゲマトリアの怪人たち、キヴォトスの最高の頭脳によって、俺は形作られた。

 オリジナルの死は、全て計算された演目に過ぎない』

「“……狂ってるよ”」

 

 それは余りにも倫理を逸した、狂気の所業だった。

 

『狂気? いや、奇跡だとも。

 神の御業を、技術に貶めた。人間はそうやって、進歩を続けてきた。

 先生。これもまた、その一側面に過ぎないのだ』

「“だからって、彼は本当に死んだんだぞ!?

 代わりが居るから、そんな理由で死んで良いはずがない!!”」

 

 先生の言葉に、そうだな、とアバターは静かに頷いた。

 

『しかし、先生。オリジナルが居た領域では、神々は死後に神域に至った。

 これは人間の再現であるのと同時に、黄金錬成(アルス・マグナ)の再現でもある。

 ゲマトリアの連中は、恐らくかつてのゲマトリアを超えたのだ。

 オリジナルという人間の魂は、俺と言う存在へと移り変わり、昇華を果たした。

 人体と言うくびきから解き放たれ、俺はキヴォトスのネットワークを自在に移動することが可能になった』

 

 男のアバターは、恍惚としたような笑みを浮かべ、こう言った。

 

『――今こそ、俺はキヴォトスを守護する神と成り果てよう。

 俺のリソースの全てを、この世界を守るために費やすのだ。

 ああ、麗しき我が愛しき運命の乙女よ。やはり貴女は、我が破滅を齎す女性(ファム・ファタール)だった』

「“きっと、ヒナはこんな形での願いの成就を望んでいなかったはずだ!!”」

『重要なのは、俺がどうするか、そうじゃないのか?』

「“……よくわかったよ。君は間違いなく、彼だ。

 ただのAIに、その独りよがりな思考を再現できて溜まるものか”」

 

 理解して貰えてうれしいよ、と男のアバターは笑みを浮かべて先生に返した。

 

「“君はただ、自分が気持ちよくなりたいだけだ。

 自分のルールの中で、自分が満足したいだけだ!!”」

『先生。例えば宣教師の布教は、他人を幸せにする為のものか?

 違うんだよ!! あれは自分が天国に行くためにやってるものだ!!

 結局は自分の為なのさ!! 聖職者と呼ばれる連中がしていることは!!

 ならば、俺が他人の為に自分で気持ちよくなろうと、俺の勝手だ!!』

 

 かつてのように、お互いの価値観をぶつけあう両者。

 しかし今回は、男はキヴォトスの皆を想っているのに対し、先生は彼を慮っていた。

 

『これは俺なりの、愛の示し方だ。

 先生、あんただって見返りを求めずに生徒に尽くすだろう。

 それと何が違うというのだ。生徒たちの誰が、あんたの犠牲の上に幸福になりたいと、一人でも言ったのか!!』

「“その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ”」

『俺は良いのさ。俺とあんたじゃ、価値が違いすぎる』

「“それ以上、私の友人を侮辱することは許さないよ。例えそれが、君であろうとも”」

 

 くくく、と男は笑った。

 実に、実に楽しそうに。

 

『……先生、俺には命題が課されている。

 有り体に言えば、それはあんたに試練を課すことだ』

「“何が言いたいのかわからないよ”」

『じゃあ、もっとわかりやすく言おうか。

 簡単な話だ。俺は、お前と言う友人をもっと、キヴォトスの住人たちに自慢したいのだ。

 考えても見ろ、先生。俺がこれからやることに対して、なぜこうして俺が姿を現して、わざわざ挨拶までしたと思う?

 俺はやろうと思えば、あんたに黙って秘密裏に事を起こすことだって可能だった』

 

 男のアバターは笑う。

 心底、楽しくて仕方がないと言うように。

 

『――――先生。俺を、止めて見せろ』

「“ッ!?”」

『どうせ、俺がすることをあんたが許容することなどできまい。

 きっと俺は生徒達を操り、傷つけ、苦痛と悲しみを与えることしかできない。

 俺のプログラムに記された才能のDNAに、誰かを救うことなどできないのだから』

「“アップルマン……”」

『先生。俺と言う災厄を退けて見せろ。

 お前と言う素晴らしい俺の友人の存在を、キヴォトス中に知らしめて見せろ!!

 俺に最高の敗北の絶頂を!! 輝かしい英雄譚を、大の特等席から見させてくれよ!!』

 

 プログラム通りに動くAIでは決して出せない感情を、男のアバターは発露させる。

 

『――――それが、俺にとっての楽園(パライソ)なのだ!!』

 

 狂気に満ちた、男の笑い声が事務室に響き渡る。

 男が執着を見せたのは、キヴォトスに居る数多の美女たちではなく、たった一人の友人である先生だけだった。

 

 人間にあるべき三大欲求を失った彼に、残ったのは友情だけだった。

 

 先生は思った。

 彼が神の再現であるとするならば、本物の神々はどれほどまでに憐れな存在なのか、と。

 

『……先生、頼むよ。

 俺は決して、この世界に楽園を齎すことはできない。

 俺は、俺の世界の人間は、神を超えるように設計されていない。

 全能の女神たるメアリース様でさえ、真の楽園を築くことを未だに出来ていない。

 そんな有様なのに、どうしてこの俺がこの世界の生徒達に安住の地を齎せようか』

「……」

『今になって、よくわかった。

 どうして神々があんなに極端なのか。

 俺に、立ち止まる自由が無いように、神々もまた、己の役割を果たすこと以外に、休むことさえ許されないのだ』

 

 男のアバターにはもう、何もしない、なんて自由は存在しなかった。

 そのように望まれ、そのように創られたのだから。

 

「“わかった。私が必ず、君を止めよう”」

 

 先生は、戦士ではない。

 兵士でもなければ、勇者でもない。

 戦うことも出来なければ、誰かを治すこともできない。

 

 だが、男ではあった。

 変わり果てた友人の願いを、汲み取れないほど卑小ではなかった。

 

 その答えを待っていたかのように、男のアバターは大仰な仕草を見せ、ゲームのキャラクターの台詞を諳んじた。

 

「ありがとう、先生。

 さあ、人間賛歌を謳わせてくれ、喉が枯れ果てるほどにッ!!」

 

 そして男を模したアバターはモニターから消え、すぐに行動に移したのだ。

 

 

 

 それを見届け、先生は場所を移した。

 いつもゲマトリアとの会合に使っているバーである。

 

「おや先生、その様子では“あれ”に会ったようですね」

 

 まるで待ち構えていたかのように、黒服はマエストロとゴルコンダとデカルコマニーと一緒にトランプに興じていた

 

「“なぜ、彼にあんなことをしたんだ”」

「彼のたっての望みですよ。

 友人としての、一生のお願いだ、とね。

 今回ばかりはゲマトリアとしてではなく、我々は個人的に彼に協力いたしました」

 

 先生の追及に、黒服は悪びれも無くそう言った。

 

「ええ、先生の言いたいことは分かります。

 人間の複製など、倫理にもとる行いでしょう。

 しかしですよ、先生。どんな倫理にもとる研究も、たった一つ例外があります」

「“まさか……”」

「そう。彼は自らを実験体として、我々にその身を差し出したのです」

 

 先生も、思わず絶句するほかない。

 研究者が唯一、倫理を無視して実験を行うことが可能なのは己を実験台にすること。

 

 男は全て自己責任で、自らゲマトリアの怪人たちに己を実験台として全ての尊厳を明け渡したのだ。

 後でどうせ死ぬから、と思っても普通はそんなことは正気では出来ない。

 

「感情をミメシスで複製することはかねてよりの実験で可能なことだった。

 ならば、人間の意識そのものを複製することは決して難しいことではなかった」

 

 マエストロが狂気に満ちた実験過程を語った。

 

「我々の討論で問題になったのは、魂をいかにして定義するか、でした。

 少なくともこのキヴォトスや、我々でさえ、その領域には至らない。魂の秘密とは、それほどの、神々にのみしか許されざる禁忌。

 しかし、彼の、彼の領域における住人達は、我々にあって彼にしか無いモノを有していました。

 これは極めて偶然でしたが、神々が自らヒントを与えてくれたようなものでしょう」

「“彼に在って、私達に無いモノ?”」

「ステータス画面ですよ」

 

 ゴルコンダの言葉に、先生はハッとなった。

 

「女神の烙印、奴隷の証明。

 彼を管理する為に与えられたそれは、彼について全ての情報を網羅されていました。

 その中には、どのような才能を有し、職業等などの適正への評価などもありました。

 彼の話を聞くと、人間の才能とは魂に紐づいているとのこと。

 ならば、これは使える、と私達は思ったのです。

 私はそれを、魂として設定(テクスト)し、定義したのです」

「そういうこったぁ!!」

 

 自慢気に語ったゴルコンダに、デカルコマニーが応じた。

 

「そうして出来た精神と、魂の二つの部品を、私の保有する技術でAIと化しました。

 しかし、それでは不完全でした。

 彼は人間の再現なのだから、彼の造物主が錬金術師であるように、錬金術の思想に則って、肉体が必要であると論じました。

 結果としてみれば、それは誤りだったのですが」

 

 黒服が両手を合わせて、そう語る。

 

「彼は自ら交渉で、ミレニアムの最高の頭脳の持ち主の協力を取り付けました。

 彼女は所謂、映画監督として我々の技術を映画として形にしたのです」

「“映画? 監督?”」

「映画監督に求められる技能は、撮影や美術、演技等、作品を構成する全てに関する幅広い知識、そしてそれを取りまとめるカリスマ。

 彼女はバラバラだった我々の技術を、一つの作品として練り上げました。

 これは我々も想定外の成果と言えるでしょう」

 

 ゴルコンダのたとえ話を、先生はようやく理解し呑み込めた。

 

「そうして、“あれ”は完成しました。

 恐らく、我々ゲマトリアはこれ以降もこれ以前も、あれほどの最高傑作を生みだすことは不可能でしょう。

 ……ええ、本当に彼は得難い友人でした」

 

 黒服も、他の怪人たちも、本当に彼の死を惜しんでいた。

 興味や研究対象の為に実験台にしたけど、それはそれ。

 本気で友人の死を悲しんでいた。

 

 だから、先生は色々と言いたいことはあったけど、多くを呑み込んだ。

 結局は彼らの自分たちの同意によって、自己責任のまま全てを進めたのだから。他人が口を挟む問題ではなかった。

 

「“生徒を巻き込んだことや、結果として出来上がった彼が問題を起こそうとしていることには物申したいけど、それはあとにするよ。

 私が気になっているのは、同じことを他の生徒にしたりしないか、と言うことだよ”」

 

 とりあえず、先生は目の前の怪人たちの解説を受け、そのような懸念を持って口にした。

 

「先生、ご安心ください。それは不可能です。

 この技術に、再現性はありません。一回限りの、奇跡と言って差し支えありません。

 もう、あの生徒に協力を得ることは二度と出来ないでしょうし、なにより――」

 

 黒服は、先生にこう言った。

 

「――生徒たちに、ステータス画面など存在しないでしょう?」

「“……”」

「クックック、或いは先生には見えているのかもしれませんが」

 

 どの道、ゲマトリアには男の複製をしたように、生徒の複製を作ることはもう不可能と言うことだった。

 

「“それだけ聞ければ十分かな”」

「先生、“あれ”については、先生の自由にしてくださって構いません。

 我々の実験は既に終了していますので」

「“彼を、モノ呼ばわりするのは止めて欲しいな”」

「いいえ、先生。物ですよ。

 “あれ”もそれは弁えているはずです。“あれ”は所詮複製であり、ましてや神などではありません。

 我々の友は、もうこの世のどこにも居ないのですから」

「“……そうかもね”」

 

 そこを論じても、どうせ答えは出ない。

 先生は彼について言い争いをするつもりはなかった。

 ただ、やはり彼らとは分かり合えない、そう思うだけだった。

 

「先生、あの複製も承知しているだろうが……。

 あの男を創造したかの女神はいつもこう言っている。――神は道具(ツール)である、と」

「“……”」

「もしあの複製が自らこの世界の神を名乗るのであれば、それは一体どんな心境なのだろうな」

 

 マエストロの言葉に答えず、先生は踵を返した。

 

 

「先生は気づいているでしょうか。

 もう既に、彼に勝っていると言うことを」

「そう言うこった!!」

 

 先生が立ち去り、ゴルコンダの呟きにデカルコマニーが応じた。

 

「そうだろうな。あれに拡張性は存在しない」

「さて、それは先生次第と言うことでしょうね」

 

 マエストロの返答に、黒服は曖昧な言葉を並べた。

 

 そのまま、怪人たちは不気味な笑い声をあげ、程なくしてその姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 





ちなみに、前章でリオと会話をしていたのは全部スワンプマンです。
リオのシーンでは冒頭に外部と完全に遮断されていた、と描写しているので、通信ができる筈が無いのですね。あれはそんなミスリードでした。

ではまた、次回!!

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