「多忙の中、こちらにお越しいただきありがとうございます、先生」
「“構わないよ”」
「さあ、こちらに」
ナギサに促され、先生は共に席に着いた。
先生は、今日は先日のハスミの件のように個人的ではなく、シャーレとして再びトリニティに訪れていた。
つまり、正式にティーパーティーからの要請だった。
「やっほー先生☆」
「“やあ、ミカ”」
同席しているミカが手を振る。
「こらこら、はしたないよ、ミカ」
セイアがそんな彼女を嗜める。
ティーパーティーの生徒会長三人が全員揃っていた。
かつて、ナギサは自分たちは多忙だから中々顔を合わせる機会が無い、と言っていた。
つまりは、それだけ重要な案件だと、先生は理解した。
「先生は、昨日起こった校門前広場の件をご存じですか?」
「“ニュースになっていたからね”」
「なら、話は早いですね」
ナギサの問いに、先生は頷く。
「事件は、昨日の早朝の、生徒の登校時刻に起こりました。
ティーパーティーのメンバーの一人が、暴行の末に磔にされ、晒されるという事件が発生したのです。
しかも、被害者の悪事を告発する形で」
「“それは、事実なのかな?”」
「はい。正義実現委員会が確認を取りました。
悪事の被害者と実行犯から聞き取り調査をし、双方の主張が同じであると。
そして、件の当事者も素直に吐いてくれましたよ」
「ティーパーティーのメンバーだからって、こっちだけでお話ししたんだっけ?
――こっわッ☆」
「ミカさん、機密情報の観点からの当然の処置です。人聞きが悪いですね」
「だが、外聞が悪いのは事実だ。
ナギサ。君はもう少し周囲の評判を気にした方がいい」
友人二人に苦言を呈されるナギサは、しかし笑みを絶やさなかった。
「必要なことを、必要に応じて行っただけです」
「“それで、その生徒は?”」
「先生、もう彼女は"生徒"ではありませんよ。
だから先生がかかずらう必要はありません」
「“……トリニティは手続きを重視するんじゃなかったのかな?”」
「ええ、ですから、当人が自主的に退学届けを出して、我々生徒会の全員がそれを承認し、受理した次第です。
異様な速さ、だというのは認めますよ、ええ」
先生は思わず眉を顰めた。
補習授業部の件と、今回の件は根本的に違う。
明確な悪人が証拠と共に追放される。そこにあるのは正式な手続きだった。
この時点で、先生の出る幕は無かった。
「後の事は救護騎士団にお任せしております。
流石に怪我人をそのまま放り出す程、我らは無情ではありませんから」
「まあ、とにかく、こんな異例な処置をするほど大事だってことだよね」
「少なくとも、私達が在籍中には例がない」
「うん、だって仮にも私達ティーパーティーに泥を掛けて、弓を引いたんだから」
生徒が追放されるのが異例ってわけじゃないのか、と先生は内心ツッコミを入れた。
「ま、個人的にはね?
こんなことを仕出かしてくれた誰かさんには膿を出してくれたことには感謝してるんだよ。
ティーパーティーの議席は伝統と格式と、気品とかその他諸々で構成されているから。
あんな最悪な情悪女が座って良い席じゃない」
「バカを言わないでくれ、ミカ。
ティーパーティーの選出基準の見直しや、各メンバーの素行調査のやり直しで、こっちはてんやわんやだ。
ただでさえ、エデン条約の調印式が迫っているこの時期にだ」
「お二人とも、身内の話はここまでに致しましょう」
話が脱線し始めた二人を、ナギサが諫めた。
「どんな理由があろうとも、私達ティーパーティーの看板を貶めたのは事実です。
先生に、いえ連邦捜査部シャーレに事件の解決を依頼します」
「“それはまた、犯人を捜せってことかな?”」
「それもあります、が」
「“が?”」
ナギサはここで口ごもった。
「先生はもう、犯人の目星がついているのではないですか?」
「えッ、そうなの?」
「“ナギサ、君もでしょ?”」
「ええ、この身で嫌と言うほど味わいましたから」
追放された元ティーパーティーの生徒は、激しい暴行の痕跡と長時間の拉致監禁の形跡が認められた。そして、その生徒の悪事の暴露と、公開処刑同然の晒し首。
そんな手口を行う犯人が、何人も居て堪るか、と先生は思った。
「犯人は恐らく、亡霊ですよ」
「こ、怖い事いうなぁ、ナギちゃん」
一々口を挟んでくるミカを無視して、ナギサは先生に言った。
「どちらかと言うと、先生の役割は牽制です。
これが、一度で終わるとは思えない。先生、貴方もそう思うでしょう?」
「“うん、間違いなく”」
「あと、折角ですからリンゴさんも気にかけてあげてください。
今回の件で、酷く怯えているそうです」
「“わかったよ”」
多分ナギサ個人としてはそちらが本命なんだろうな、と先生は思った。
「ああ、先生。一応言っておきますが、この一件は大事にするつもりはありません。
悪者はもう、追放されたのですから。それで終わりにしたいし、これ以上ティーパーティーの権威が失墜することはあってはなりませんから」
要するに、余計なことをほじくり返してこれ以上面倒なことにしたくない、それがティーパーティーの総意と言うわけだった。
「亡霊がこのトリニティから追い払われれば、それで良いのです」
「“それは、身内の話じゃないのかい?”」
「おっと、これは失礼しました」
うふふ、とナギサは微笑んだ。
うわーっと言いたげな表情で、ミカは幼馴染を見ていたが。
「“じゃあ、リンゴの様子を見てから調べてみるね”」
「お願いします、先生」
先生は、いつ出されたか気にする余裕もなかった紅茶を呷り、立ち上がった。
三人は先生が生徒会室から出ていくのを、見送るのだった。
「皆さん。せっかく集まったのですから、チェスでもしますか?」
「私は遠慮しておくよ、そんな暇は無いからね」
「私もー。チェスは面白いけど、性に合わないんだよね」
袖にされ、ナギサは溜息を吐いた。
二人が退出し、仕方なくナギサはチェス盤を用意した。
「……お相手、お願いしますね♡」
『ああ、幾らでも相手をしてやるよ』
ナギサが取り出したスマホに、“クエスト完了”の文字が表示された。
報酬のポイントが示される場所に書いてあったのは、俺の愛、と書かれていた。
「全ては指示通りに。滞りなく」
『今日も抱きしめてやるよ、ナギサ』
ナギサは独りチェスを始めた。
この世に居ない対戦相手と、駆け引きを楽しむように。
§§§
放課後、先生は補習授業部が使っている教室に赴いた。
「“やあ、皆”」
「あ、先生……」
「先生、こんにちわ」
「こんにちわ、先生」
そこに居たのは、コハルとアズサ、そしてハナコだった。
「“ヒフミとリンゴは?”」
「二人は気晴らしにお出かけをしてます。
私達が毎日、順番に面倒を見ることにしているので」
なるほど、と先生はハナコの言葉に頷いて見せた。
「モモフレンズのグッズが新発売なんですって。
あんなことがあったのに、暢気よね」
「そのことだけど、先生」
「“なにかな、アズサ”」
「あの磔、やったのはリンゴだと思うか?」
アズサの言葉に、教室に緊張が走った。
「“多分、違うと思うよ。
アズサはどうしてそう思ったのかな?”」
「いや、リンゴが言っていたんだ。
あれは自分がやったのかもしれない、と。
自分の中の違う自分が、勝手にやったのかもしれないと。
とても怯えて、今日も勉強どころではなかった」
「“そうか……”」
先生は何かを考えるように少し黙った。
「リンゴには不可能だ。
彼女には教官のようなスキルが無い。
教官を教官たらしめていたのは、実戦経験の豊富さだ。
私はどうしても、リンゴが教官のようになれるとは思えない」
「そうよ。あんな弱虫が、どうしてあの鬼教官になれるわけ」
コハルも、アズサの言葉に肯定的だった。
だが、あるのだ。
リンゴの経験不足を補う、あるモノが。
「ポーンマスが手伝ったら、どうでしょう?」
「は? なに言ってるのよ、ポーンマスが犯罪の手伝いなんてするわけないじゃない!!」
ハナコの推察を、コハルが否定した。
「先生、ひとつ真実を見極めようと思いませんか?」
「“それが、リンゴの為ならね”」
「きっと、そうなりますよ」
先生は頷く。
ハナコはある確信をもって、皆に話を始めた。
一方、その頃。
「モモフレのトレーディングカード♪
発売日は明日ですけど、ポーンマスがフラゲ*1が出来る駄菓子屋を教えてくれたんです!!」
「カード、良いですよね……」
「はい、二人で対戦もしましょう!!」
二人はトリニティ自治区でも外れにある、駄菓子屋で目的のブツを発見した。
「ありました!!
こういう個人経営の店って、結構早く商品を陳列したりするんですよね」
早速買い占めようとするヒフミだったが。
「ひとり、二点までだよ」
「あう……」
と、店番をしていたおばあさんにたしなめられてしまった。
「対戦は、できなさそうですね……」
とりあえず、ヒフミとリンゴは2パックずつ購入した。
「1パックは保存用に確保しないとですから、今日のところは1パックしか開けられない……」
そして、ヒフミがパック開封する。
どれもノーマルレアで、ペロロのカードは一枚も無い。
「あうう……ペロロ様はいらっしゃいませんでした」
「ヒフミさん、これあげます」
「リンゴちゃん?」
ふと、リンゴが自分のパックを二つともヒフミに差し出した。
「私、カードゲームはいい思い出が無くて」
「どういうことですか?」
「昔、宿泊学習の時、皆がトランプをやってるのを見て、私仲間外れにされてたんですけど、ちょっと後ろから手札を見て、言っちゃったんです。
あ、ブラックジャックだ、って。そしたら、邪魔すんなって蹴られて……」
リンゴは卑屈に笑って、そう言った。
ヒフミは、自分でも己が真顔になるのが分かった。
「リンゴちゃん、やっぱりこれはあなたのものですよ」
「でも……」
「カードが揃ったら、一緒に対戦しましょう!!
このゲームは独特のルールがあってですね」
リンゴは独特のペースがあるのか、熱く語るヒフミを横目に、カードのパックを剥いた。
合計十枚のカードの中に、太陽の光を浴びて輝くカードがあった。
「そ、それはッ、ウルトラパラレルレアのペロロ様!?」
「え?」
「事前に予想される市場価格では、一枚十万円とも言われてる激レアカードですよ!!」
「う、うそ!?」
「スゴイ豪運ですよ、十数箱開けても出ないこともあるのに!!」
興奮するヒフミを横に、リンゴは輝くペロロカードを見下ろした。
「やっぱり、これ、ヒフミさんにあげます」
「え、そんな、悪いですよ」
「その代わり、そっちのウェーブキャットのカードをくれませんか?
これ、レアカードだけど、私の組みたいデッキにシナジーが無いので」
「もう既にルールを把握しているですって!?」
「実は、解説動画とかよく見てるんです」
リンゴははにかんでそう言った。
「わかりました!!
じゃあ、これは私達の友情の証ですね!!」
「友情? こんなものが……」
ヒフミが、輝くペロロカードを受け取る。
彼女はカードと同じくらい顔を輝かせて、それを見ていた。
それを見て、よかった、と思うリンゴだったが。
そう、ここはキヴォトスである。
「おい、聞いたか? 十万のカードだってよ」
「なあなあ、うちらにもその豪運、分けて貰ってもいいじゃん?」
ぞろぞろ、と不良が現れたのである。
「あ、あはは、これは私達の友情の証で……」
「知るか、うちらにとっては十万円なんだよ!!」
不良の恫喝に愛想笑いを浮かべるヒフミ。
リンゴは怯えて俯いた。
「おら、さっさと寄越せよ!!」
「い、嫌です!!」
「じゃあ痛い目に遭うしかないなぁ!!」
ヒフミが毅然とした対応をした、その時だった。
「ッ!!」
リンゴがヒフミの手元から、ペロロカードを奪い去り、不良の包囲を突破して逃げ出したのである。
「リンゴちゃん!!」
「追え、逃がすな!!」
不良たちがリンゴを追う。
ヒフミは、この時二つの選択肢があった。
即ち、救援を呼ぶか、すぐに助けに行くか、であった。
ヒフミは、考えるまでもなく行動した。
そんな彼女のスマホに、着信音が鳴った。
こんな時に、と反射的にスマホを確認したヒフミは、ニュースを目にした。
“モモフレンズ二期制作決定、主人公はペロロ降板か!?”
「追い詰めたぞ、さっさとそれを寄越せ!!」
リンゴは路地裏に追い詰められていた。
「こ、これは、ヒフミさんのです!!」
「しらねぇよ、今から私らのもんになるんだ!!」
十人近い不良に囲まれ、涙目になりながらリンゴは主張する。
不良たちがいよいよ、銃を抜こうとしたその時であった。
「コロすコロすコロすコロす―――」
不良の背後から、呪詛の声が聞こえたのだ。
「は、なんだこの声――ッ!?」
彼女らが振り向くと、修羅が居た。
「ペロロ様を返せぇぇぇぇぇぇええええ!!」
リンゴは蹲って、惨劇が去るのを待った。
悲鳴と銃声。
巨人の足音みたいな轟音が何度も鳴り響く。
「だ、だれか、たすけ――!!」
「ペロロ様を礼賛しろ、ペロロ様を礼賛しろ、ペロロ様を礼賛しろ――――」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
ぴろりん、とヒフミのスマホに着信音が鳴った。
ヒフミは不良の胸倉をつかんでいた手を放し、スマホを確認する。
“モモフレンズ二期制作陣、ペロロ降板を否定”
「あ、良かったです!!」
ぱあっと花が咲くような笑顔になるヒフミ。
「ば、化け物ぉ!!」
不良たちは、見てはいけない何かに怯えるように、逃げ去って行った。
「……ひ、ヒフミさん、どうして」
「あ、リンゴちゃん、無事でしたか?」
「どうして、私を見捨てていかなかったんですか?」
リンゴはペロロカードを胸に抱き、ヒフミに問うた。
「自分に不都合が訪れたら、逃げるべきです。
それが、
それとも、やっぱりこのカードが大事で――」
「ッ!!」
ヒフミは何も言わず、リンゴを抱きしめた。
リンゴはずっと、そんなヒフミを見ているだけだった。
§§§
誰もがも寝静まる、トリニティの寮内。
真夜中の寮室から、出てくる人物が居た。
生徒ではない。
その姿は、完全武装した兵士以外の何物でもなかった。
その人影が、簀巻きにされた部屋の主を抱えていた。
猿轡をされ、目隠しをされ、恐怖で震えていた。
そんな生徒を抱えた人影が、立ち去ろうとした。
そんな時だった。
パッと、懐中電灯の光が人影の姿を闇から暴く。
「あ、やっぱり貴女だったんだ☆」
ライトの持ち主が、笑みを深める。
「……――兜衣 トリコちゃん」
牙を剥く狼の口がプリントされたマスクを付けた、トリコだった。
「聖園、ミカ」
トリコは、自分に光を向ける相手の名を呟いた。
「ふふふ、狩人登場ってね☆
ダメだよ、ここはトリニティの敷地。
勝手に入っちゃ。その上、誘拐して、拷問して、無理やり秘密を吐かせようなんて」
「お前達には関係ない」
「あはッ、なに言ってるの?
私、これでもトリニティの生徒会長だよ?
――関係無いわけ無いじゃんね」
ミカは懐中電灯を床に放り捨てた。
彼女はもう、戦闘態勢だった。
その時だった。
二人のスマホに、同時に着信音が鳴った。
『どういうことだ、ミカの俺。
なぜお前の位置情報を誤魔化した』
『まあ、聞けよトリコの俺』
二人のスマホに映る男のアバターが、勝手に会話をし始めた。
「わーお、本当に彼が居るんだね。
初めましてになるのかな?」
『ミカ、相手の言い分を聞いてやれよ』
「まあ、とりあえず話だけは聞こうか」
ミカは敵意を感じさせない笑みで、そう言った。
「ねえ、なんでこんなことをしているの?」
『答えてやれよ、トリコ』
「オーケー、ボス」
トリコは、画面のアバターにそう返した。
「我らは、我らの成すべきことをしているだけだ」
「あの人はもう、居ないのに?」
「違う、ここに居る。ボスは、ここに居るのだ!!」
「機械に従って、その手足になってるわけか。
……なんだか、憐れだね」
ミカは憐れむように、トリコを見やった。
「そんなに、あの人が大事なの?」
「我々は我々のしたいことをするだけだ。
一人でも多くの、このキヴォトスから邪悪を道連れにする為にな!!」
「ねえ、気づいているの?
あなた達は彼のところに行きたいんでしょう?
だったらなぜ、“それ”をボスって言っているの?」
「私達のボスを、――“それ”などと言うな!!」
トリコは激昂して銃を向けた。
「お前は、お前はなぜ、ここに居る!!
どうして、私達の邪魔をする!!
こいつは先日同様、影から弱者を虐げる悪そのもの!!
お前はなぜ、こんな奴の為にそこに居る!!」
「そんなの、あなた達と同じだよ」
「なに?」
ミカは、こう答えた。
「――先生なら、そうしたから」
月夜に照らされ、本物の天使のようにミカは微笑んだ。
「私ね、先生に認められたいんだ。
もっともっと、先生に褒められたい。
だから、先生がそうするように、私はそうするの」
トリコが固まる。
ミカは構わずに語り続ける。
「ポーンマスの真実を聞いて、私思ったんだ。
私も真似をしようって!!
あなた達のボスが、こうして意志を遺したように。
私も、先生の意志を皆に伝えていくの。
……私ね、いつか先生みたいな教師になりたい。
そうやって、先生の意志を、他の子供たちに伝えていくんだ」
甘い夢想のような、夢物語をミカは語る。
だが、その瞳は本気だった。
「そして、先生がそうしてくれたように、私も誰かの側に居てあげるの。
そうして、ゆっくりだけど、先生の事を知らない人たちも、先生の後姿を見るの。
私達は、私達の意志で、その背中を道しるべにして、前へ歩いて行くの」
だから、とミカは言った。
「これ以上、私の学校の生徒達を好きにさせない」
ミカが、トリコに銃を向ける。
彼女のスマホから、笑い声が鳴り響く。
『聞いたか、トリコの俺よ!!
先生は、俺の友は永遠なのだ!!
俺達のように冷たい機械などではなく、人間の意志の強さがッ、その魂を継承していくのだ!!
これこそが、人間の意志の尊さ、本当の魂の輝きなのだ!!』
『なるほど、これは全ての俺に共有せねばならないな』
『だろう?』
『トリコ、そんな汚物をいつまでも抱えておくな。
狩場を変えるぞ、撤退だ。今日はいい日だ、こんないい日は他にない。皆でケーキでも食べよう』
了解ですボス、とトリコは言って、簀巻きの生徒を床に落とした。
「これが証拠だ。追うなら、覚悟しろ」
「ううん、追わないよ。その子が心配だもん」
「そう、じゃあね」
そう言って、トリコは去って行った。
その視線から、ほんの僅かにミカへの敬意が見て取れた。
「仮眠室に待機中の先生に、電話しちゃおうっと☆」
そして、ミカは長電話を始めた。
その間、簀巻きの生徒は忘れ去られていたのは言うまでもなかった。
§§§
翌日の昼休み。
コハルは食堂に向かっていた。
すると、ポーンマスからクエストの発注があった。
ハナコの、予想通りだった。
「本当に、やらないと駄目なのかな」
ポーンマスに指定された場所に向かう。
コハルは不安に押しつぶされそうになりながらも、メッセージを送った。
そして、遭遇した。
「お前みたいなのがトリニティに居るのなんて分不相応なんだよ!!」
「そ、そんなこと、言われても……」
「今すぐやめちまえよ!!」
リンゴが、先日の彼女を取り囲んでいた生徒に恫喝されていた。
「……」
「中学の頃から、気に入らなかったんだよ!!
いつもいつも気持ち悪いんだよ、お前はッ!!」
「ッ!?」
「……」
「……おい、何見てんだ、お前!!」
「こ、コハルちゃん!? どうしてそこに……」
「……」
「何見てんだって、言ってるだろ!!」
「や、やめて、コハルちゃんに何もしないで」
「うるせぇ!!」
「……」
「コハルちゃん、どうしたの?」
他に誰も居ない校舎裏で、怯えるリンゴが棒立ちするコハルは不安げそうに見ていた。
「……逃げないの?」
「……」
「あ、危ないんだよ、早く逃げて!!」
「もう、こんなことは止めませんか、リンゴちゃん」
足音と共に、先生と一緒に残りの補習授業部の面々がやってきた。
「み、みんな?」
「せッ、先生ッ!!」
その時だった、リンゴを恫喝していた生徒が言った。
「た、助けてください!!」
彼女は、助けを懇願したのだ。
「リンゴちゃん?
どうしてですか?
なんで、なんで――」
道中で説明を受けたヒフミが、リンゴに問うた。
「なんで自ら、――いじめられるようなことを!?」
風が吹く。
それ以外の音を置き去りにして。
「自作自演」
ハナコが言った。
「トリニティに来てからずっと、貴女がいじめられる光景を目にしてきました。
だけどそれは全て、貴女の狂言。私以外の全員、貴女を助けるための道化だったんですね」
「あーあ」
先生は見た。
憐れな村人が、人狼に豹変するのを。
「バレちゃった♪」
先生は確信する。
リンゴの口が裂けたような、悪魔のような笑顔。
彼女は、あの男そのものだった。
今回のタイトルの和訳、嘘吐き少女。
彼女の言動は、どこからどこまで嘘なのか?
ではまた、次回!!