※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

86 / 121
光の物語

 

 

 

 

 リンゴの豹変。

 しかし、それは表情だけではなかった。

 

 ゆっくりと、彼女の頭上の光輪が黒く染まっていく。

 黒い光が、彼女を頭上から照らす。

 

「へ、ヘイローが……変わった?」

「……私達を欺く演技か、一種の自己暗示かと思っていました。

 でも、違ったんですね」

 

 驚くヒフミたちに、ハナコだけは冷静だった。

 

「――二重人格。

 複数の人格を持つ生徒は、このような現象が起こりうると聞いています」

「詳しいんですね。流石は名探偵」

「ありがとうございます、ハイドさん」

 

 ぱちぱち、とリンゴは犬歯をむき出しにして笑いながら手を叩いた。

 

「それじゃあ、もうお前は用済みだから」

「じゃ、じゃあ、例の動画は」

「うん。もう拡散したよ」

「……え?」

「万引きに違法賭博への関与の証拠映像。トリニティの掲示板にアップしたって言ったの。

 数十分後には正義実現委員会ががさ入れを始めるんじゃない?」

 

 リンゴはスマホを弄りながら、そう言った。

 

「て、て、てめぇ!!」

 

 逆上したいじめっ子が、彼女に飛び掛かろうとした。

 その瞬間だった。

 

 ダーン、といじめっ子の側頭部に弾丸が命中した。

 

「狙撃だ!!」

 

 アズサが先生の服を引っ張り、身体を伏せた。

 反射的に他の補習授業部の三人も、身体を低くする。

 

「あ、大丈夫ですよ。

 丁度スナイプリレーのターゲットに彼女を指定したんです。

 街中の色々な目標に指定の場所から狙撃するって競技ですよ。

 二千メートル先からなので、今の狙撃手も目視で標的が人間だったなんて分からなかったでしょうね」

 

 スマホを弄りながら、リンゴは言った。

 狙撃されたいじめっ子は泡を吹いて気絶していた。

 

「“……君の事は、なんて呼べばいいのかな?”」

「おや、私を一個人として認識してくれるんですか。先生」

 

 それは嬉しいですね、とリンゴの別人格は先生に視線を向けた。

 

「そうですね、それではジャックとでも。

 もっとも有名な殺人鬼にあやかって、そう名乗りましょうか」

「“君の目的は何かな?”」

「それは勿論、リンゴのしたいことですよ。先生」

 

 リンゴ――いや、ジャックと名乗った彼女の別人格はそう答えた。

 

「実は私が――俺が目覚めたのはついこの間なんですよ」

「お、俺、ですか?」

「多重人格障害は、多くの場合自分と異なる性別の人格が現れるそうです。驚くことではないですよ」

 

 ギョッとするヒフミに、ハナコはそう答えた。

 

「貴方は、リンゴちゃんのストレスや苦痛を押し付ける為の人格。そうなんですね?」

「ああ。リンゴがトリニティに来る直前のことだった」

 

 そしてジャックは、話し始めた。

 

 

 

 

 

「初めまして、リンゴさん」

 

 それは、リンゴが養護施設で過ごす最後の日だった。

 

「あなた達は、Wolf小隊……ですよね」

 

 何者かに電話で呼ばれ、近くの廃倉庫に訪れたリンゴは、夢の中で見知った四人が跪いているのを見た。

 

「ボスは、貴女を後継者として指名しました。

 どうぞ、我々を手足のようにお使いください」

「こ、困りますッ、私は、あの人じゃない!!」

「ご自分でも、理解している筈です」

 

 トリコは顔を上げ、リンゴの目を見た。

 

「貴女は、あの人だ」

「違う、違います!!」

「手土産を持ってきました。

 これは、生前のボスの指示です」

 

 トリコが目配せをすると、ナバトとムツニが近くのロッカーから中身を引っ張り出した。

 

「む、むうぅぅ!!」

「あッ、貴女は……」

「はい。リンゴさん。貴女を陥れた、クソ女ですよ」

 

 中から引っ張り出されたのは、忘れるわけもない。

 リンゴが中学生時代に、金銭トラブルの相手だった。

 

「これを、貴女の好きにして良い」

「んん!! んんんん!!」

「……」

 

 リンゴは身を捩って、一歩後ろに下がった。

 簀巻きにされていても、自分をいじめていた相手を恐れたのだ。

 

「……あ、謝ってください!!

 そ、それだけでいいです、から……」

 

 本当に、リンゴはそれだけを求めた。

 それ以上の何かを、そいつに求めることなど埒外だったのだ。

 

 トリコが、簀巻きにしたそいつの猿轡を剥がした。

 そして、第一声がこうだった。

 

「はあ!? ――――あれは全部、お前の所為だろ!!」*1

 

 

「……え?」

 

 リンゴは世界が、遠く感じた。

 そいつは、リンゴに対してまだ何かを言っていて、ナバトが激怒して詰め寄ったりしていたが、それは視界に映っているだけだった。

 

 フラッシュバッグする、あの悪夢の日々。

 突然生徒会に呼び出され、意味も分からず借金を返してやれと言われ、困惑したあの日。

 借金なんてしていないと答えても、なぜか誰も信じてくれなかった。

 

 なぜか大事になって、生徒会の役員が毎日代わる代わる何時間も尋問を繰り返した。

 ちゃんとした捜査もしないくせに、自分たちの証言だけを求めたのだ。

 

 心身共に疲弊したリンゴは、仕方なく嘘を吐いた。

 それが、余計に大騒ぎに発展した。

 

 最終的に、全てうやむやになった。

 リンゴが胃の中の全てを吐き出して、これはマズいと思ったのだろう。

 

 それ以来、リンゴは自室に引きこもった。

 誰も信じられなくなった。

 誰も、信じてくれないと理解した。

 

 全部自分が悪いのかもしれない、そう思った時だった。

 

 

『お前はそれでいいのか?』

 

「よくない」

『なら、俺に任せろ』

 

 男の幻影が、己のこめかみに銃口を突き付けた。

 引き金が、引かれる。

 

 

 そして、リンゴは二つに引き裂かれた。

 

 

 

 

「このッ、恥を知れこのクソアマ!!」

 

 ナバトが、簀巻きになったそいつに激怒していた。

 

「どいて」

「え」

 

 ごんッ、と簀巻きの頭部に何かが振り下ろされた。

 

 鉄パイプだった。

 しかし、的は外れて肩に直撃した。

 簀巻きの中身は悲鳴を上げた。

 

「あ、あは、あははははははははは!!!!」

 

 廃倉庫に転がっていた鉄パイプを、リンゴは何度も振り下ろした。

 

『リンゴ、顔は止めろ』

 

 男の幻聴が、助言をする。

 

 リンゴは何度も何度も、鉄パイプで簀巻きの身体を殴打した。

 

「そうだよ!! 私が悪いんだよ!!」

 

 彼女を縛っていた鎖が、剥がれ落ちた。

 

「や、やめて、痛い、痛いッ、許してぇ」

「ねえ、同じことを私が何度言ったと思う!! お前は、一度でも聞いてくれたかなぁ!!」

「ひ、い、いやぁあああ」

「殺してやる、ああ私の責任で殺してやるよ!!!」

 

 彼女の言葉は、見苦しい言い訳だったのかもしれない。

 だが、リンゴにとっては殺人に値する暴言だった。

 

「……お帰りなさい」

「お帰りなさい、ボス」

「お帰りなさい」

「お帰りなさい」

 

 Wolf小隊の四人は、殴打の音が鳴り響く廃倉庫の中で、己の主人の帰還を確信した。

 

「ボス。それ以上は本当に死にます」

「私のッ、邪魔をするの!!」

「いえ。ただ、そいつはボスが手を汚すのに値しないかと」

 

 トリコはそう、進言した。

 すると、リンゴは鉄パイプを手から離した。

 

「そうだ、良いことを思いついた!!」

 

 先ほどのリンゴからは想像も出来ない相貌で、彼女は笑った。

 

「ウズ、こいつのスマホは?」

「ここに持ってきています」

「それを使って、ゲヘナとトリニティ、ミレニアムと連邦生徒会への口座に侵入しろ。そこから千円ずつ、こいつの口座に引き落とすんだ」

「オーケー、ボス」

 

 ウズは忠実に、彼女の命令を実行し始めた。

 

「確か、二千円だったよね?

 ちゃーんと、貴女に返すよ」

 

 泣きながら怯える少女に、リンゴは顔を寄せた。

 

「ちょっと多いけど、利子だと思って受け取ってよ。

 ふっふふふふ、今度は信じて貰えるといいね」

 

 少女は、自分のスマホで今恐ろしいことが行われているという事実に震えていた。

 

「トリコ、こいつの周囲を買収して噓の証言をさせろ」

「オーケー、ボス」

「ナバト、ムツニ、コイツの名義で破壊工作を」

「「オーケー、ボス」」

 

 まるで、湧き出るような悪意が、次々とリンゴの脳内にあふれ出てくる。

 

 この瞬間からリンゴは、あの男そのものを宿したのだ。

 

 

 

 

「ほら見てよ!!

 これ、ヴァルキューレの尋問室のカメラの画面!!

 あいつ泣き叫びながら、全部俺の所為だって言ってるんだよ!! あははは!!!」

 

 ジャックはスマホの映像を皆に見せて、大笑いしていた。

 

「ポーンマスってすごいよねぇ。

 連邦生徒会の防衛室に言うことも聞かせられるんだ。

 あいつは今頃、拘留期限ぎりぎりまで、朝から晩まで無益な尋問の真っ最中ってわけさ!!」

 

 それは、壮絶な復讐だった。

 思わずそれを見る五人がゾッとするほどに。

 

「や、やり過ぎだよ……」

 

 コハルが震えながらそう言った。

 彼女のやり方は、常軌を逸している。

 

「“……カヤ、私だよ。うん、聞いてくれないか”」

 

 先生はスマホを取り出し、カヤに連絡を入れた。

 尋問を止めさせるように指示をしてもらう為だった。

 

「へえ、先生はこいつも助けるんだ。

 私の時は、助けてくれなかったくせに」

「“勿論助けるよ。これ以上、君が道を踏み外す前に”」

「羨ましいよ。そうやって正論を吐いていれば、周りの女の子は慕ってくれるんだろ?

 先生ってのも楽でいいね」

「先生に当たるのはお門違いですよ、ジャックさん」

 

 毅然とした態度で、ハナコは言う。

 

「貴方の、いえ、復讐がリンゴちゃんのしたいことだって言うんですか?」

「いいや、違うね。

 今話しのあれは、ついカッとなってやっちゃっただけさ。

 ほら、俺はリンゴの狂暴性や暴力性そのものだからな」

 

 ジャックはヘラヘラと笑いながら答えた。

 

「分からないな。

 一体何のために自らいじめられるように、周囲を仕向けたんだ」

「そりゃあ、そうやってトリニティのいじめっ子どもを炙り出して、地獄に落とす為さ!!

 あいつらはよ、自分が狩られる側だなんて想像だにしていないんだぜ!!

 笑っちゃうよな!!」

「なら、どうして私達を巻き込んだ。

 証人が必要なら、他の正義実現委員会の者でも良かったはずだ」

「そりゃあ簡単な答えだよ。

 お前達を試す為だって」

 

 アズサの問いに、彼女は唇を釣り上げて言った。

 

「私達を、試す為?」

「だってよ、お前らってリンゴの友達なんだろ?

 リンゴにとって、友達ってのは周囲の顔色を伺って薄ら笑いを浮かべる連中なんだよ」

 

 その言葉に、五人の表情が強張った。

 

「先生、あんたならもう調べているだろ。

 リンゴにだって、友達くらいは居たんだからな」

「“中学生の頃、一時期仲が良かった子が居たそうだね”」

「そいつはな!! リンゴがいじめの対象になると、すぐに手のひらを返して自分もいじめる側に回ったんだ!!

 お互いに話した好きなことを、そいつは皆の前で嘲って笑ったんだ」

「そんなの、酷いよ……」

 

 思わずコハルは袖を握り締めた。

 それが、リンゴにとって友達と言う存在なのだ。

 

「友達なんてのは、卒業まで周囲に迷彩のように溶け込んでやり過ごす為の隠れ蓑だ。

 自分がいじめに遭わないように。薄ら笑いで、知らんぷりをする為のな。

 そして、卒業したら疎遠になるんだ」

「違う、違うよ、そんなの……」

 

 ヒフミが涙を零す。

 他者からの悪意によって捻じ曲げられた、憎しみと怒りでジャックは歪み切っていた。

 

「なあ先生。勘違いしないでほしいのは、本当にリンゴは赦すつもりだったんだ。心の底から反省して、悔い改めていたのならな。

 だけどあいつは謝りもしなかった。

 世の中のいじめっ子なんてそんなもんだろう?

 どうせ、大人になったら武勇伝のように昔自分はいじめをやってたんだぜって、酒の席で笑い話にでもしてるんだ。

 そうして、誰かに指摘されたら昔の話だからって終わりにするんだ」

「“そうかもしれないね”」

 

 先生は否定しなかった。

 子供の頃の話だからと、多くの人間はそうやって過去へといじめの話を追いやる。

 誰かを傷つけた事実は、消えないのに。

 

「そんなリンゴがよ、今はトリニティのトップに目に掛けられてる。

 これは面白いと思わないか!!

 誰も、誰も信じてくれなかったくせに、私が苦しい頃には一人たりとも助けてくれなかったくせに!!

 私が今いじめられると、みんな助けてくれるんだ!!

 ゴミ掃除もついでにできるし、お前達も誇らしい気持ちになるだろ?

 最高の友達関係じゃないか、なあ!!」

 

 まるで道化師のように、ジャックは笑いながら激怒していた。

 もはや彼女の感情はぐちゃぐちゃなのだ。

 自分でも制御ができないほど、怒り狂っている。

 

「もうやめよう、リンゴちゃん。

 こんなことしたって、貴女は救われないよ」

「それは違うなぁ、ヒフミさん。

 俺もリンゴも、救われたいなんて思っちゃいない。

 他人の事を蔑ろにする連中を、不幸にしたいだけなんだ」

 

 リンゴの人生に、希望なんてなかった。

 それが上限なのだから、見るのは下だけだった。

 

「俺は、免罪符なんだ。きっとあの男が崇める神が、俺を赦したのだ。

 俺を裁くことなんて、誰も出来ない」

「多重人格障害は、心神喪失状態だと言いたいんですか?」

「俺の場合はそうだろう。

 なぜなら、もっともっと、多くの人間を不幸にするんだから!!」

 

 狂っている、という点では間違いなく、ジャックは最悪の人格だった。

 

「こんなのはどうだ。

 これからポーンマスを利用し、キヴォトスをいじめる側といじめられる側の二つに分けるんだ!!

 それらは時間経過で入れ替わり、誰もが逃れられないようにするんだよ!!

 そうすれば、もう誰も知らんぷりなんて出来ない!!

 ほら、見てみぬ振りをするのも、いじめている連中と同じっていうじゃないか。

 だから俺は、全員を等しく不幸にして、思い知らせてやるんだ」

 

 彼は、必ず実行するだろう。

 あの男と同じ行動力と、悪意で。

 

「ポーンマスで、そんなことできるわけが……」

「いえ、多分できるのでしょう。他ならぬ、貴方なら」

 

 コハルは否定しようとしたが、ハナコは知っていた。

 ポーンマスの正体を。

 

「そうとも。ポーンマスは賛同してくれたよ」

『はい。キヴォトスの社会秩序は不安定です。一度、崩壊させ新たな社会秩序の設立を提案します』

 

 ジャックの声に、機械音声が応じた。

 

『そうして、私達に抗う者達が築く、新たな世界に希望を託します』

 

 それが、あの男の望みでもあった。

 

「そんなこと、私達が許すと思うか」

「なら、リンゴを捕まえて監視すればいい。

 スマホも取り上げ、全ての尊厳を奪い取って。

 別にいいだろ? お前達だって、最初からリンゴを信じてなかったんだから」

 

 銃を取り出すアズサを見て、ジャックは嘲るように全員を嗤う。

 

「どうせリンゴが、あの男のようになるって信じて疑わなかったくせに!!

 一番苦しい時に一緒に居なかった分際で、後から出てきてヒーロー気取りとは笑わせるよな!!」

「ッ!!」

「だからこれから俺は、皆の為に、――呪うね」

 

 全てを憎みぬいて、呪いぬいて、そうしてキヴォトスはディストピアになるだろう。

 今、この場で彼女を取り逃がしてはならない、先生はそう思った。

 

 彼女を捕まえて、そう言おうとした。

 

 その時だった。

 

 

 

「ねえ、リンゴ」

 

「いや俺はジャックだって。なんだ、コハル」

 

 一歩、コハルが前に出て、言った。

 

「私とリンゴは友達よ。

 貴方もそう思うでしょ」

「ああ、そうだな」

「本当は、信じたかったんでしょ。だから、私達を試した。そうでしょ?」

「だから? それがどうした」

 

「証明してあげる。私とリンゴの友情が、本物だってことを」

 

「知らなかったよ。

 お前、俺以上の嘘吐きじゃないか。そんなこと証明できるわけが――」

 

「――――私、実はエッチな本が大好きなの!!」

 

「……え?」

 

「実は押収物保管庫からいつもこっそり家に持ち帰ってるし、それを見ながら毎日オナニーも×回してるし!!

 どちらかと言うと純愛系より凌辱系の方が好みで、でも可哀想すぎるのはちょっとダメなの!!」

 

 コハルは真っ赤にして、大声で叫ぶ。

 周囲は、それに呆気に取られていた。

 ジャックさえも。

 

「清楚な女の子が乱れる展開が大好き!!

 気が強いオラオラ系の男子に迫られて、悔しそうにしながら堕ちるのとかたまらない!!

 教官がくれたゲームで触手系にも目覚めたの!!

 可愛い女の子が酷い目に遭って乱れるのとか、ドキドキするわ!!」

「でも、最後の方で実は生殖能力が無いとか補足されると、萎えるよね」

「わかる!! そこでそんなこと言われたら、背徳感の意味がなくなっちゃうのよ!!」

 

 なぜか、ジャックとコハルは意志疎通がそれで取れていた。

 

「私の秘密は教えたわ!! こんなこと、ハスミ先輩とか他の知り合いにでも知られたら、生きていけない!!

 でも、私、知ってるのよ!!

 リンゴがいつも、おっぱいの大きい子の方を見てたり、スカートの丈が際どい子の方を見てるのを!!」

 

 そう言って、コハルは彼女に指を刺した!!

 

「これでもう、私は貴女を裏切れない!!」

「ッ!?」

「次は、貴女の番よ。貴女が、私に本当の友情を示しなさい!!」

 

 そう指摘され、ジャックは愕然とした。

 

 彼女は、友情を試すばかりで、示し方を知らなかった。

 

「わ、わたし、わたし、は……」

「ねえリンゴ。私も本当の友情が何かなんて、何も分からない。

 だけどね、貴女が間違ってるのは分かる」

 

 コハルは彼女に近づき、その手をぎゅっと握った。

 

「あんたに、さっき言ったことなんて絶対させない。

 その為なら、私は貴女に嫌われたって、さっきの秘密をばらされたって構わないから!!」

「あ、あ、ああ……」

 

 リンゴの身体が震える。

 彼女は、目の当たりにしたのだ。

 

 決して揺るがぬ、黄金の精神を。

 例えどれだけ年を重ねても、或いは今死の淵に際しても。

 コハルはそれを、曲げることは無いだろう。

 

 黄金とは、不変の象徴。

 黄金の精神とは、人間の強い意志の証明。

 

 彼女が、心のどこか欲していた、渇望してやまない魂の輝きだった。

 

「コハル、ちゃん……」

「あんたはどうするの!!

 誰かを不幸にするのと、私達と一緒にいろんなことをするのと!!

 どっちが楽しいの、どっちをやりたいの!!」

 

 リンゴは、涙を流していた。

 そうしてあの男のように、どこかのゲームの台詞を口にした。

 

「誰かから奪って、破滅させるよりッ。

 愛される方が、ずっといいのですッ」

 

 いつの間にか、リンゴのヘイローは元の輝きを宿していた。

 

「おバカね。

 あんたが、誰かを愛すればいいだけの話でしょ」

「でも、そんなことできません。

 裏切られ、痛みを抱え、誰かを愛するなんて……」

「ねえ、本当に許すことはできないの?」

「…………」

「私は許してあげる。あんたが何度、怒りに身を任せても、何度だって止めて、許してあげる。

 永遠の友情なんて、きっと無いと思うけど」

 

 コハルの手の温かさが、リンゴの凍てついた心を溶かしていく。

 それは、春の訪れで雪が解け、草原が顔を出すように。

 

「それでも、私があんたを見捨てることなんて、きっと無い」

 

 彼女の心に、林檎の花が芽吹く季節が訪れたのだ。

 

「そう、か。そうだったんだね……」

 

 リンゴは、理解した。

 

「私のこれまでの苦しみも、悲しみも、不幸も!!

 全ては、コハルちゃん達に会う為の、踏み台だったんだ!!」

「え、え?」

「よかった、本当に良かった!!

 私の人生の不幸は、たった九年で終わったんだ!!

 これからずっと、死ぬまで!! 私は、コハルちゃんとずっと友達でいられるんだね!!」

 

「その通りですよ!!」

 

 すぐに、ヒフミが駆け寄り、彼女の手を取った。

 

「これまでの苦しみや裏切りなんて、全て忘れるくらいに、楽しいことをしましょう!!

 たとえどんな苦難や困難があったって、私達の青春の物語(ブルーアーカイブ)を続けましょう!!」

 

 だからこれは、青春が全てに打ち勝つ物語。

 どんな悪意も災厄も、若さと青臭さで打倒する、そんな子供たちの世界の御伽噺。

 

 それが、この世界の真理なのだから。

 

 

「コハルちゃんには、本当に敵わないですね……」

 

 結局、全て彼女が持って行った。

 災厄の獣を、彼女の輝かしい光で鎮めたのだ。

 

「“よかったね、二人とも……”」

 

 先生はその光景を見て、アズサと一緒に涙していた。

 生徒達の歩むべき、あるべきその姿に。

 

 こうして、リンゴの中にジャックは眠りについた。

 今回のお話は、これで終わった――かに見えたのだが。

 

 

 

 しかし後日、ハナコはこう語る。

 

「ですが、リンゴちゃんは――――弾けました」

 

 そんなカードゲームアニメの主人公みたいな語り口で、先生にそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

*1:
作者は少年Aにこれとほぼ同じことを言われました。呆れて何も言えなかったです。





ジャック君はその内また出番があります。
女の身体にいる男の人格とか、主人格より人気出そう(ミストレ並感

この章は、あと三話くらいを予定しています。
ではまた、次回!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。