今回は、ちょっと挑戦的なお話しにしようと思います!!
彼女の言葉は、真に受けないでください。所詮、これはただの小説なのですから。
「おや、先生、どうかしましたか?」
先生が手招きすると、蛍光灯の少女は歩み寄ってきた。
「“あれはどう言う思惑なのかな?”」
「単純に善意ですけど? これからの彼女達の事を思うと、何か打ち込めるものがあった方が良いと思いませんか?」
「“……そうかもしれないね”」
提出するゲームについてあれこれ話しているゲーム開発部の四人を見て、そう呟く先生だった。
「ひとつだけ断言しておきます」
「“何かな”」
「私達の領域の神々が、この世界の問題を解決する為に
「“じゃあ、なぜあんなチラシを?”」
「友達への手向け、でしょうか?
彼女達は私によくしてくれたので」
その言葉に、先生は一瞬言葉に詰まった。
手向け、それは二つの意味が存在する。
ひとつは、死者への捧げもの。
もうひとつは。
「ええ、実はダーリンにいつまでも遊んでないで帰ってこいって言われちゃって」
「“確か、既婚者なんだっけ?”」
「はい。役所には提出してませんから内縁ですけど。
なので、しばらくの間、帰らないといけないんです。
多分、見知らぬ男が近くに居るのが気に入らないんでしょうね!!
だからちょっと帰り支度をしたら、先生にはいずれご挨拶と最大級の意趣返しをしてあげようかと♪」
「“あはは、何か機嫌を損ねるようなことをしたかな?”」
「ちょっとした冗談ですからお気になさらず♪」
彼女はイタズラっぽく笑ってからそのまま、フッと消えてしまった。
「あれ、先生、キョウコちゃんは?」
「“用事があるからって帰ったよ”」
「えー、一言声をかけてくれてもよかったのに」
と、モモイが不満げにそう言った。
ああ本当に仲が良かったんだな、と先生は少しホッとした。
『……先生、今、何と話していた?』
「“彼女を認識できたのかい?”」
先生はシッテムの箱から聞こえる男のアバターの声に、驚きを示した。
彼女との会話は、基本的に彼女が意図した相手しか感知できない。
「“君も以前話してくれただろう。
君のところの神様と敵対してるって言う……もう帰るらしいけど”」
『……先生、悪いことは言わない。アレと関わるな』
「“君も黒服と同じことを言うんだね……”」
『…………』
「“どうしたんだい?”」
重々しい沈黙。
先生は思わず、理由を尋ねてしまった。
『先生、例えばお前の母親が、近所のクソガキにバッタリ会ったとする。クソガキはイタズラをしてきた。どんな対応をすると思う?』
「“意味が分からないんだけど……”」
『……俺が主上と対話をしていた時、一度だけアレについて愚痴ったことがあるんだ。
俺はこう言った、ならぶちのめして懲らしめてやれば良いのでは、と。
主上は何て言ったと思う?』
「“さあ……”」
『何も言わなかったのだ。
ただ一瞬だけ、──心底怯えた表情を浮かべたんだ』
重々しいため息が、シッテムの箱の中から漏れた。
「“……”」
『先生、敬愛するあんたの両親が、近所のクソガキにバッタリ会って、心底怯えたらお前はどう思うよ?
……俺は、悲しかった』
「“悲しかった?”」
『主上の、あんな表情は見たくなかったのだ。
我が神は偉大で、絶対的で、傲岸不遜で、そうであってほしかったんだ……』
「“気持ちは、分かるよ”」
自分の産みの親が、小さな子供に怯え切っていたらがっかりする。そんな光景は見たくはないだろう。
『あれは、長年圧制者に虐げられた民衆と同じ顔だった。
まあ当然だよな。主上は結局、人間の概念そのもの。人間以上の存在など、この世にはいくらでもある』
その一つが、運命だった。
ただそれだけの話なのだろう。
『この話はこれで終わりだ。もう二度としない』
男のアバターの声は、それで終わった。
「先生!!」
すると、アリスが手を上げて声を挙げた。
「アリスにクエストが届きました!!
ぴろりろりん、メインストーリーのイベントが更新されました!!
先生と一緒に、ポーンマスギルド機構本部のメインホールに来訪しろとのことです!!」
「“うん、わかったよ”」
先生は時計を確認する。
午後四時過ぎ。全ては、アリスがギルド本部に到着してから始まると言うことだろう。
「私達はそろそろ帰った方が良いかなぁ」
「キョウコちゃんも帰ったし、そうしよう」
「そうだね……。先生、アリスちゃんをお願いします」
ゲーム開発部の残り三人も片付けを始めて帰り支度を始めた。
「“あッ、皆、今日は泊まって行かないかい?”」
『言い訳がへたくそか』
しかも何だか変態っぽい、と男のアバターがツッコミを入れた。
「え、泊っていって良いの!?」
「でも、着替え用意してないよ」
「あッ、そうだね……」
「せっかくですけど、今度にしますね、先生」
何の準備も無い事をユズに指摘され、モモイは残念そうにしながらミドリと一緒に帰り支度を終えた。
三人は先生に挨拶をしてから、事務所を出て行った。
『俺の方で手を回すか、先生?』
「“……お願いするよ”」
『うおっほん!!』
『あー、失礼したアロナパイセン。指示をどうぞ!!』
『ではスワンプマン君、やってしまいなさい!!』
『はいはい、ユウカに連絡しておくよ。途中で迎えに来るだろう』
あいつ、気に病んでたしな、と男のアバターがぼやく。
「“アリス、待たせたね”」
「はい!! 先生、メインクエストを進めましょう!!」
そうして、先生はアリスを車に乗せて出発した。
「先生、ギルドにクエスト、本当にRPGみたいで楽しみです!!」
「“そうだね……わくわくするよね”」
「はい、キヴォトスはどんどん楽しい場所になっていくような気がします!!」
無邪気に笑うアリスを見て、先生は胸が痛むような気がした。
こんな子供が、キヴォトスに悪夢を齎すかもしれないのだ。
こんな想いを、自分以外の子供がしていたのだ。
「きっと、そのうち本物の魔法も見つかるに違いありません!!
あの恐ろしい魔王が使ったような、誰かを傷つけるような、そんなのとは違う、誰かを幸せにする魔法を、いつか先生と一緒に見つけたいです!!」
「“私も、そう思うよ”」
或いは、魔法は確かに存在したのだろう。
シンデレラに掛けられた魔法は、時間制限付き。
アリスの
そうして雑談しているうちに、二人はギルド本部に到着した。
「ここが、ルイーダの酒場ですね!!
でも、ここはどちらかと言うとルイーダのカフェでしょうか?」
ポーンマスギルド機構が始まり、そろそろ一週間。
ギルド本部のメインホールは賑わいを見せていた。
そんな中を、アリスは楽しそうに見てはしゃいでいた。
「アリスもここで冒険の仲間を募集すれば良いのでしょうか?
それとも、最初は冒険者登録をするべきでしょうか?」
「“じゃあ、手続きをしてみるかい?”」
「はい!!」
先生はアリスと一緒に、受付に並んだ。
程なく、順番が回って来る。
「ようこそ、ポーンマスギルド機構に!!
メンバー登録ですか? 依頼の申請ですか?」
「勿論、メンバー登録です!!」
「では、ポーンマスのQRコードを見せてください」
アリスはスマホからポーンマスアプリを開いて、QRコードを表示して受付の生徒に差し出した。
「はい、認証しました。学生証も登録してあるみたいですね。
これで、今日からあなたはギルドメンバーです。
学校での実績に応じてランクが決まり、ギルドからの信用が実績に応じてランクが上昇し、受けられるクエストの難易度も上昇します」
「わぁ、わぁ!!」
アリスはぴょんぴょんと満面の笑みで喜んでいる。
「当ギルドはパーティーメンバーの同行を推奨しています。
勿論友達同士でパーティーを組むのも良し、マッチング機能でポーンマスが相性判断で自動的に選出してもらうこともできます」
「な、悩みます……冒険者の醍醐味とは、即席パーティー!!
しかしモモイ達と一緒に冒険するのも捨てがたいです!!」
「“毎回、固定パーティじゃなくてもいいんじゃないかな?”」
「あ、その手もありましたね。
でも、最初はモモイ達と一緒にパーティを組みたいです!!」
うきうきしているアリスを見て、先生は微笑ましくなった。
「“アリス、何か飲むかい?”」
「コーヒーとケーキが欲しいです!!」
先生は彼女の要求に応じて、併設されているカフェでケーキとカフェを購入し、席に着く。
近くの席に座った生徒たちの話も聞こえる。
「ねえねえ、今日の私のマジックはどうだった!!」
「どうだった? ですって!? あんたの所為で、警報が鳴って大変なことになったじゃない!!」
「私のショータイムだったわね!! 未来のスターに相応しい舞台には程遠かったけど!!」
「爆弾をバラまいただけじゃない!!」
「元手品部名物、脱出マジックよ!!」
「私達が脱出する羽目になってるじゃない!!」
「まあまあ」
トリニティ生がゲヘナ生らしき制服の生徒を怒鳴り散らし、ミレニアム生らしい生徒が宥めている。
「廃工場の調査というクエスト自体は完了し、そこの残存兵器の有無は確認できましたではないですか」
「それを全部ぶっ壊したって結果でね!!」
「ねえ、なんでそんなに怒ってるの? あ、私のマジックが物足りなかったのね!!
じゃあ今練習中の、コインを物体に貫通させる奴を見せてあげる!!」
「何で私に向かってコインを投げつけようとしてるのよあんた、バカじゃないの!!
収支が赤字だってことが問題なのよ!!」
「……? 楽しければ良くない?」
「ははは、そうですな!!」
「なんで、未来のティーパーティー候補のエリートの私が、こんなアホどもと一緒に……」
コハルみたいな子が居るなぁ、と先生は微笑ましそうに見ていた。
ギルド機構は概ねこんな感じで和気藹々と一定の成功を収めているようだった。
『……先生、そろそろ時間だ』
「“うん、わかった。アリス、ギルドマスターから呼び出しみたいだ”」
「!? それってもしかして、大型新人にありがちなイベントですね!! アリスの魔力が測定不能だったのでしょうか?
アリス知ってます!! こういう場合、こわもての冒険者が絡んでくるんです!!」
「“大丈夫だから、こっちに来ようね」
先生はアリスを連れて、ポーンマスの案内に従い職員用通路を進む。
「先生、お待ちしてました」
その先にはハナコとヒフミが待っており、通路にあった部屋のひとつに案内された。
その中には、パソコンやカメラ、脚立、照明、ビデオスイッチャー、キャプチャーボード等が置かれていた。
「これは、配信設備ですか? ゲーム実況でもするのですか?」
「“アリス、落ち着いて私達の話を聞いてくれないか?”」
「……? はい、わかりました」
「“リンゴ、始めてくれ”」
先生の指示をポーンマスが受け取り、本部内のギルドマスターの執務室に居るリンゴが、同様の設備に囲まれて一息を吐いた。
「ポーンマス、ギルドマスター権限により、全ポーンマスアプリに通達を」
『了解しました』
アコが機材の調整をし、コハルがカメラの位置を修正する。
離れて待機していたヒナが、自分のスマホに通知が来たのを確認して、リンゴに頷いた。
「生放送を始めます、5、4」
アコは指で3、2、1,と示し、生放送が始まった。
「キヴォトス300万人のポーンマスユーザーの皆さん。
初めまして、私はトリニティ総合学園所属、落合 リンゴと申します。
若輩者ながら、ポーンマスギルド機構のギルドマスターとして、ここに集まった各学校の皆様から任命された次第であります。
さて、前置きはこのくらいにしておきましょう。
この度、皆さまにこのような機会を頂いたのは、このキヴォトスに迫る危機について、相談したかったからです。
詳しい説明は、ミレニアムサイエンススクールのリオ会長、お願いいたします」
『ええ、承ったわ』
配信画面に、リンゴの姿に並ぶようにリオの顔が映った。
『私は、ミレニアムサイエンススクールの生徒会、セミナーを率いる生徒会長。調月 リオと言います。
今回、我々ミレニアムは古代の廃墟から発見された脅威について、語らなければならない』
そうして、リオは幾つもの資料を提示しながら、説明を始めた。
古代兵器AL-1Sの存在。
それが学生として、ミレニアムに紛れ込んでいたこと。
それの危険性や脅威度について、彼女は語った。
『これを見て頂戴』
リオはどこかの映像を、放送画面に乗せた。
それは、どこかの廃墟らしい場所で、ネルを始めとしたC&Cのメンバーが未知の機械と戦っている姿だった。
『このDivi:Sionと称される兵器群は、AL-1Sの発見された廃墟群から次々と出現。
今も徐々に数を増やし、やがてミレニアムで対応が出来ないほどになる見込みよ。
これは、AL-1Sの起動と同時に起こった出来事。その因果関係は明確だと、私達は判断した』
結論を述べるわ、とリオは百万を超える同時視聴者に訴えた。
『当学園の生徒として存在していた、AL-1Sの破壊を私達は望む。
それこそが、キヴォトスに安寧を齎す唯一の方法だと確信しているわ』
そして、アリスの顔写真が、生放送の画面に映った。
「ありがとうございます、リオ会長。
皆さん。お話は今の通りです。
では、先生。貴方の主張をお願いします」
リンゴの指示で放送画面に、先生の顔が映る。
「“やあ、生徒の皆。私は連邦捜査部、シャーレの先生だよ”」
柔和な笑みを浮かべ、先生は視聴者に語り掛ける。
「“現時刻を持って、不正に入学をしていたアリスの除籍が認められた。
それ自体は不正な手段によるもので、それを目の当たりにして気づけなかった私の不徳の致すところだと思っている。
けど、ミレニアムの生徒としてのアリスを、私はこの目で見てきた”」
先生は言葉を尽くして語り始めた。
アリスが如何に、純真でひたむきで、ミレニアムの生徒に愛されていたかを。
「“アリスを、兵器として破壊することは性急だと私は思う。
今起こっている脅威は、皆で考えて対処するべきだと思うんだ。
彼女は、学ぶことを楽しいと、言っていた。私はそれを尊重したいと思う。
ロボットかどうかなんて関係ない。彼女を人間として、その尊厳を認めてくれるなら私に協力してほしい”」
そうして、先生は頭を下げた。
「……以上が、先生からでした。
ポーンマスギルド機構は、この件に対して中立であることを宣言します。
我々は、両者の主張を、キヴォトスの民意に委ねようと判断しました。
AL-1Sを兵器として破壊するか、アリスという生徒として生かすか。
──投票によって、決定したいと思います」
リンゴはスマホに、投票画面を示した。
即ち、
「選んでください。
皆等しく、等価の責任を以って、この問題に向き合ってください。
どちらかを選んだことで、誰かを責めてはいけません。
そして、どちらを選んでも、この選択を忘れないでください。
一人一票、投票はポーンマスを通じて公正に行われます」
既に投票画面は、凄まじい速度で両方の数字が目まぐるしく動いている。
「我々は、皆さんの決定を支持します。
同時に、大規模レイドクエストを発令します!!
廃墟から出現する敵性兵器の排除を、依頼します!!
志願者はポーンマスにて依頼を承諾後、ローテーションを組んでパーティーごとに対処を通達します」
最後に、リンゴは視聴者に告げた。
「皆さんの選択が、キヴォトスにより良い未来を齎すことを願います。あ、あと昔私をいじめた奴ら覚えてろよ、絶対──」
アコは余計なことを言う前に、配信を即座に切った。
「せ、先生、本当ですか?
あ、アリスは、学校にいられないんですか!?」
「“落ち着くんだ、アリス”」
「アリスは、アリスはッ、そ、そうです、皆に連絡を!!」
アリスはすぐにスマホで仲間に連絡を取った。
『アリスッ、そっちは大丈夫!?』
「モモイ!?」
『アリス、ミレニアムに戻って来ちゃダメ!!
今、キャンパスは大変なことになってて!!』
『アリス!? 私達もそっちに行くから、シャーレで待ってて!!』
モモイだけでなく、ミドリの声がスマホから聞こえた。
声は、それだけではない。
『アリスを出せ!!』
『よくも私達を騙したなッ!!』
『アリスを解体しろ!!』
そんな怒声を、スマホが拾ってしまった。
「“……アリス”」
『悪い、先生。アリスの知り合いが捕まらなかった』
男のアバターの声が、無念そうに先生のスマホから漏れた。
ポーンマスは便利な道具だが、結局は使用する当人に依存する。
幾ら通知が来ても、無視され続ければ意味がない。
ユウカ達は今、それどころではない状況なのだ。
「こ、こんなに、アリスの破壊を望んでる人が居るんですね……」
「違いますッ、それ以上に貴女の尊厳を守ろうとしている人たちがいるんですよ!!」
スマホの投票画面を見て、既に数万票もの破壊を望む声に、アリスは震えていた。
ヒフミはその数倍の数が彼女の尊厳を望んでいるのに、その声は届かない。
アリスは、涙を両目に湛えて、その場から逃げ出した。
「“アリス!!”」
「追いましょう!!」
先生はハナコの声に頷き、ヒフミと彼女と共にアリスを追った。
「私達がキヴォトスを守るぞ!!」
「あんな変なタコみたいなロボットなんて、一捻りよ!!」
「AL-1Sだか何だか知らないけど、ぶっ壊してやるわ!!」
メインホールでは、生放送を見ていた生徒達が湧きたっていた。
そんな中を、アリスは突っ切っていく。
「お、おい、あれ、AL-1Sじゃ!!」
「ほ、ホントだ!?」
「どッ、どうするの!? 撃てばいいの!?」
一部、アリスを目撃し混乱する生徒も現れる。
「先生、ここは私達が収めます、アリスちゃんを!!」
「“任せて!!”」
ハナコとヒフミは、混乱を収めるべくメインホールに残った。
先生はアリスを追う。
外に出て、かつて補習授業部と共に検問が敷かれていた大橋までアリスを追うことになった。
「先生、アリスはこの世界に望まれていないんですね……」
「“アリス、それは違うよ”」
「ですが、アリスの存在は、きっとモモイ達に迷惑をかけてしまいます」
今にも、川に飛び降りそうな儚さが、今のアリスにはあった。
「先生、アリスは皆にさよならをします」
「“アリス!!”」
涙を流しながら言うアリスに、先生は手を伸ばした。
「この世に、本当に魔法があるなら、どうかアリスを消してください!!」
「────それが、貴女の願いで良いんですか?」
アリスも、先生も、そちらを見た。
こつ、こつ、と一人の少女が歩いてくる。
その頭上に、ヘイローは無い。
とんがり帽子を被った黒髪の少女が、歩いてくる。
「あなたは、キョウコ?」
「ええ、いつもあなたと遊んでいる、キョウコですよ」
キョウコ、彼女はそう名乗って、これまでキヴォトスの生徒としてこの世界に存在していた。
「先生、帰り支度が終わったので、私は帰ります。
なので、改めてご挨拶を」
「“少し、今は忙しいかな”」
先生は引きつるように笑うほかなかった。
「あ、そうだ!!
アリスちゃん、実は私は魔法使いなんです。別の世界から来たんですよ♪
良ければ、一緒に私の世界に来ませんか?」
「別の、世界……」
「“アリス、耳を貸しちゃいけない!!”」
先生の叫び声。しかし、向かい合う二人にはずっと遠くにいるかのように、声は届かない。
「私の世界の住人になれば、貴女はこの世界から消え失せるでしょう。
記憶も、痕跡も、全て無くなるでしょう」
「アリスのことを、忘れる……?」
「ええ。私は、大きな苦難に直面した者の前に現れる存在。
貴女の助けになりましょう。その代わり、二度と友達の記憶に残ることはありません。どうしますか?」
「アリスは、アリスは……」
「さて、先生」
少女は語り掛ける。
「こんなことを想ったことはありませんか?
自分は、この世界の物語に、何一つとして影響を齎すことはできない、と」
くすくす、と少女は笑う。
「あなたは最初に、ある少女に大事なのは選択だと言われましたね?
ですが、あなたの指先が、一度として物語を動かしたことはありましたか?」
少女は先生に、いや、違う。
────彼女は、
「これはゲーム、いや、挑戦と言いましょう♪
この下に、アンケートを設置しました」
少女は、何も変えることのできないあなたを嘲笑っている。
「アリスちゃんが私の手を取るか否か、その選択です♪
あなたが本当に生徒の幸せを願う“先生”なら、否を。
それを選べば、きっと友情とか青春とかが何の意外性も無くアリスちゃんを救うのでしょう」
「逆に、私の手を取るならば、アリスちゃんに永遠の絶望と、それ以上の希望を示しましょう。
ですが、これは“先生”の在り方ではない。自分から、生徒を手放す。多くの可能性を観測する、読者の在り方でしょう。先生失格だと、自ら宣言するのと同じです♪」
それが、少女の示した選択肢。この少女を望まなかったという選択をした者達への、意趣返し。
「これはさしずめ、あまねく希望への分岐路。
選びなさい。キヴォトスの住人がそうするように。それに、あなた達もずっと傍観者でいるなんて、つまらないでしょう?」
少女の姿をした、運命の女神はあなたに問う。
「……さあ、あなたは、どちらを選びますか?」
アリスはどんな選択をする?
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手を取らない→王道ルート
-
手を取る→????ルート