※この作品はR-18です。

キヴォトスに墜ちた悪魔   作:やーなん

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勇者アリスの旅路

 

 

 

 翌日。

 

「作戦会議をします!!」

 

 ユズが部員の二人を集め、宣言した。

 

「私達の目標は、総合上位100位以上……。

 そうすれば、アリスの身体を作ってもらえる!!」

「でも実際、私達のスキルじゃまず無理だよね……。

 ミレニアムプライスがインターンなら、このフェスって世界大会みたいなものだし……」

「ミドリ、始める前からなに弱気になってるの!!」

 

 悲観的なミドリに、モモイはやる気満々だ。

 

「でも、どんなレベルの作品が出るのか、基準は必要だよね」

「なら、これを使いなさい」

 

 わざわざ事務室で会議をしている3人に、それを眺めていた女神が四角い物体を差し出した。

 

「こ、これ、エメラルドだよね!!」

 

 モモイが飛び上がる。

 それは、エメラルド製のタブレット端末だった。

 

「私のフェスに寄せられる作品は、ここで自由に観覧し、ダウンロードして遊ぶことができるわ。

 この世界は私の恩寵の届かぬド辺境だから、受信に苦労したわ」

 

 彼女がそんなことを言うのを聞いて、だからキヴォトスは田舎扱いなのかと思う先生だった。

 

「うわ、スゴイ、出場作品だけで二百万以上ある……これ全部、新作なんだよね?」

「今年に作られたゲームであることが出場の第一条件ってかいてあるでしょう」

 

 余りにも膨大な作品群に、画面越しに作品のリストを見るモモイも圧倒された。

 

「これ、本当にタダで遊んで良いの!?」

「これは神事よ。出場の第二条件に、参加作品で利益を得てはならない。参加者も、私も、利益の為にやってるわけじゃない。

 敢えて言うなら、大勢に目に留まることで知名度を得られることが見返りかしら」

 

 それを聞いて、ミドリとユズは顔を見合わせた。

 

「総合上位100位以上になっても、賞金は1000万円。

 企業で作るようなゲームじゃ、開発費用の補填にもならない。

 利益度外視……ゲームが本当に好きな人ばかりがここに居るんだ」

 

 二人は思わず息をのんだ。

 本気で、至高の神ゲーを作る為にこのフェスは多くの人間が血肉を捧げている事実に、身体が震えたのだ。

 

「あ、ユズ!! ゲーム製作だけじゃなくて、格ゲーの大会もやるみたいだよ!!」

「こっちの部門だと……総合優勝賞金、100億!?」

「やっぱり出展以外の部門もあるんだ」

 

 ユズがモモイに参加を勧められて青くなっているのを他所に、タブレット端末の画面を覗き込むミドリ。

 

「他にもテトリス部門とか、テーブルゲーム部門、シューティングでのスコアアタック部門、RTA部門、いろいろあるわよ」

「ふ、普通に参加したかった……」

 

 絶対見てるだけで楽しい、とミドリは肩を落とした。

 

「そして、総合優勝候補第一位は、このゲームね」

 

 女神が指をさすと、画面に一つのタイトルが表示された。

 

「これって、フルダイブ型のVRゲーム?」

「製作者の住んでいた世界そのものを解析し、ゲームに落とし込んだらしいわね」

「自分が住んでいる世界を、ゲームにしたの!?」

 

 ミドリは驚愕するが、それ自体は珍しい事ではない。

 この世界でもキヴォトスを題材にしたゲームは数えきれないほどある。

 だが、このゲームはそんなレベルでは到底語れない。

 

「私が少し前、文明の成長性や生産性が見込めないと判断し、滅ぼしたから、その当てつけかもしれないわね。

 優勝したら、私に故郷を元通りにしてほしいとでも願うつもりなのかしら」

 

 突然そんな剛速球を投げてくるので、子供たち3人はドン引きするほかなかった。

 株価が下がりそうだから手持ちの株を売った、そんな感覚で彼女はその判断を下しているようにしか見えなかった。

 

「このゲームの紹介画面、とってもキレイで、スゴイ所なのに。

 なんで滅ぼさないと駄目だったんですか?」

「それは、その世界が一番美しかった時代よ。

 そのゲームをプレイしてみればわかるわ。プレイ開始できる国が100か所もあるけど、実際はその8倍近くに分裂していて、小競り合いが最終的に連鎖的に世界大戦にまで至ったの。その結果、致命的な荒廃が目に見えていた。

 だから滅ぼした。それだけのことよ」

 

 その判断の是非を、子供たちは出せなかった。

 

「“魔王を遣わして、ですか?”」

「ええ。それがあれの仕事だもの」

「“なぜ、そんなことを……”」

「ひとつは、チャンスを与える為。

 もし彼らが滅亡の危機に一致団結して立ち向かい、魔王とその軍勢に勝てたのならその滅亡を取り消す。

 私はフェアな立場で判断しているつもりよ。レギュレーションも合わせている。理論的には勝ち目を与えているはずよ」

 

 それは間違いなく、女神なりの慈悲なのだろう。

 そこに住む住人にとっては、迷惑以外の何物でもないのだろうが。

 

「“でも、人間は感情の生き物……。

 いったいどれだけの世界が、そのチャンスを掴めたのですか?”」

「およそ、3%ほどよ」

「“たった、それだけ……”」

 

 100の世界に対し、97はそのまま滅ぼしているということだった。

 全体の3%。それは少ないのか、むしろ多いのか。

 

「“ならなぜ、魔王を創ったのですか?

 アップルマンは、最期まで人間として戦ったはずでは?”」

「では逆に聞くけれど、――人間の何が良いの?」

「“え?”」

「あなた達は機械の友人に人間の身体を与えたいと言った。

 だけど、それって人間と言う存在が素晴らしいというあなた達の前提で成り立っているわよね」

 

 女神の冷たい瞳が、全員を見渡す。

 

「私の本体は、時間や因果律から解き放たれた存在。

 私は人類文明の最果てを見渡す者。私が彼方の神座に座った時、私は全ての人間の醜悪さと矮小さ、下劣さを見た」

「でも、人間はそれだけじゃないよ!!」

 

 モモイは抗弁した。

 そうね、と女神は頷く。

 

「だから、そんなものを司るこの私は赦せなかった。

 私は、こんなものと同じであると言われているのと同じだった。

 矯正せねばならない、そう思うのは自然の事だった。

 どこから手を付ければ良いか悩んでいたところに、我が唯一対等なる盟友である邪悪の女神が言った。

 この世で悪は唯一ハッキリとしている、ならそれを統べる者を産み出そう、と」

「それが、魔王……」

「十戒にあるように、悪はハッキリしている。

 他人を殺してはいけない、盗みをしてはいけない、嘘をついてはいけない……。

 彼女は言った。正義や、宗教や、思想、自由、そのどれもがあやふやで、個々の身勝手な利益の為に語られる。

 であれば、秩序を齎す為に悪を管理し、悪を統べる存在を、ヒトの上に創るべきだと結論付けた」

 

 彼女は、女神は、自身から悪を切り離して運用を始めたのだ。

 

「マフィア、ヤクザと言った唾棄すべき社会悪の中には、その仕組みや関係性にロマンを見る者も少なくない。

 ならば、それを利用すれば良い。私の場合、魔王だった。それだけの話よ」

「“だから貴女は、公平なフラットな立場を維持しているわけですね”」

「そうね。私が人間そのものであるならば、私はもっと差別的で、嘘吐きで、暴力的であるべきだと思わない?

 私を神として崇めろと、人間に強要する存在のはずじゃない?」

 

 だが彼女はそうではない、と先生は思った。

 

「私は畏怖さえ不要だと思った。人類は未知を解明し、神と言う概念を普遍に墜とす。

 故に、私は道具(ツール)であり、システムである。

 私は人間による人間の為の、人間だけを贔屓する神であると己を定義した」

「“だから、何を質問しても答えてくれるんですね”」

「何かを隠すというのは、己が卑しいことをしてるって自覚があるからでしょう?

 私に恥ずべきことは何一つないもの」

「“では、二つ目の理由は?

 魔王を遣わせる理由のひとつが、チャンスを与える為なのですよね?”」

 

 先生の問いに、女神(ツール)は答えた。

 

「勇気とは、恐怖を我が物とすること。偉大な漫画家が描いた、マンガのキャラの台詞よ。

 では、私が死の恐怖を拭い去った人々は、皆が勇気に溢れ、死を克服した素晴らしい存在なのかしら?

 彼らは私によって、一つ上のステージに移行したのかしら?

 私は違うと判断した。人間の本来持つ強さや尊さ、その尊厳は他人に与えられる物ではないのだと。

 私と盟友は、それを確かめなければならないと、結論付けた」

 

 女神はテレビを指差すと、独りでに電源が点いた。

 画面に映っているニュースでは、アリスについて報道が行われていた。

 

「人間が本当に素晴らしい存在なら、我々の与える魔王と言う理不尽や脅威に己の意志で立ち向かう――勇者が存在するべきだと。

 私達は、それを確認せずにはいられなかった」

 

 これまでの話を聞いて、先生は思った。

 スワンプマンが言ったように、彼女にそれを辞めるという、そんな自由は無いのだろう、と。

 彼女と言う存在は、ただの舞台装置(マクガフィン)に過ぎないのだ、と。

 

「そう、私は証明しなければならないのよ」

 

 アリスの行動が、ニュースに映る。

 女神は、それをじっと見ていた。

 

 

 

 §§§

 

 

「アリスはお腹が空きました……」

 

 一晩中、スクーターで移動していたアリスは、昨晩から何も食べていないのを思い出した。

 ハイブリットなスクーターの燃料も心もとなくなってきている。

 

「導きの精霊よ、ご飯を食べられる場所を教えてください!!」

『はい、勇者アリス』

 

 スクーターを止めて、スマホを取り出したアリスがポーンマスのアプリを起動し、そう言った。

 

『ここから北に5キロ地点に、無料の食事イベントが開催されているようです』

「本当ですか!? さっそく行ってみましょう!!」

 

 情報を得たアリスは、早速そちらに出向いた。

 

 

 

 

 ゲヘナ自治区は、他校からすれば不良やスラム街のイメージが、大変自然が豊かな場所が多い。

 

 そんなゲヘナ自治区で一番大きな川が流れる河川敷に、幾つもの屋台が設営されていた。

 

「ハルナ様!! バーベキュー用の野菜の搬入が終わりました!!」

「わかりました、ご苦労様です」

「は、はいぃ、引き続き準備を行います!!」

 

 ハルナの親衛隊が、彼女に労われて頬を赤らめて作業に戻る。

 

「我々のファン感謝芋煮会まで、あと三時間ですわ!!

 皆さん、気合を入れて準備を致しましょう」

「はーい!!」

 

 ハルナの鼓舞に、スタッフ達が応じる。

 給食部も手伝いに来て、気合十分である。

 

「見てみて、こんなおっきな鍋で豚汁を作るんだね!!

 一体何人分作れるんだろう……」

「ざっと、千人分は作れるそうですよ」

 

 巨大な鍋を運んで、所定の位置に設置しているイズミとアカリがそんなことを話していた。

 

「会長、招致した出店に問題は無いみたい」

「わかりましたわ。本来なら、出店も無料にしたかったところですが」

「お店も商売だし、採算が取れないとどこの店も来ないしね……」

 

 初めてのイベントであるし、どれくらいの集客があるかもわからない。

 ハルナとジュンコが選定した選りすぐりのお店ばかりを招致したが、二人の胸には少しばかり不安があるのも事実だった。

 

「ハルナ様!! ちょっとお耳に挟んで頂きたいことが!!」

 

 その時だった、ハルナ親衛隊の一人が報告に来た。

 

「おや、なんでしょうか」

「ステージの設営に、遅延が生じておりまして」

「なんですって?」

「どうやら、設営を依頼した業者が道中で銃撃戦に巻き込まれたらしく……」

「まあ、困りましたわ」

 

 河川敷の使用許可が出たのは今日だけで、事前にステージの設営が出来なかったのが足を引っ張る形になった。

 ステージは簡易的な物だが、イベントの開催の挨拶は勿論、アカリも参加する大食い大会等も開催される予定だった。

 

「資材の搬入は終わっているのですが」

「あとは組み立てるだけ、ということですか。

 重機が必要ですわね。こういう時こそ、ポーンマスの出番ですわ」

 

 ハルナはポーンマスアプリですぐに来られる業者の依頼を出した。

 そして、すぐに通知音が鳴り、マッチングが成立した。

 

「おや、これまで無い早さですね。

 もうこちらに向かっているそうです」

「それならよかったわね!!」

 

 ハルナの言葉に、ジュンコがホッとしていると。

 

「ぱんぱかぱーん!!

 お助け勇者、アリスが現われた!!」

 

 アリスがスクーターに乗って、颯爽と登場した。

 

「あら、あなたが業者ですか? 可愛らしい方ですね」

「ここで美味しいご飯が食べられると聞きました!!

 アリスは力仕事は得意です!! 任せてください!!」

「ではお願いしますわ、ジュンコさん、案内してあげて下さい」

「わかったわ、会長!!

 あなた、こっちでお願い!!」

 

 ジュンコがアリスを設営予定地に案内する。

 

「は、ハルナ様、あいつ、昨日ポーンマスの通知で放送されてた……」

「何か問題でも?」

「ですが、なんだかヤバい破壊兵器だって話でしたし……」

「興味ありませんわ。美食を求める者に貴賤はありません。違いますか?」

「いえ、ハルナ様の仰る通りです!! 作業に戻ります!!」

 

 ハルナの言葉に感激した親衛隊のメンバーは感激した様子で戻って行った。

 

 

「す、スゴイ、あっという間にステージが完成しちゃった」

「これくらい、アリスには低ランククエストと同じです!!」

 

 アリスは腕力を駆使して、重い資材を持ち運びスタッフと協力し設営を終えてしまった。

 

「他に何かクエストはありますか?

 働かざる者食うべからずです!!」

「うーん、じゃあフウカの手伝いをしてお願いできる?

 調理担当は幾ら居ても足りないし」

「分かりました!!」

 

 ジュンコに指示され、調理中のスタッフの下へ向かうアリス。

 調理スタッフのいるテント。そこは、戦場だった。

 

「バーベキュー用の野菜はそっち!!

 豚汁用の野菜と豚肉は今のうちに鍋に!!」

「はい、フウカさん!!」

 

 絶え間なく、包丁がまな板を叩く音が響く。

 フウカを筆頭とした給食部とハルナの親衛隊が下ごしらえの真っ最中だった。

 

「あ、貴女、お手伝いさんですか?」

「は、はい!!」

「じゃあ、こっちでバーベキューの串を作るのを手伝ってください」

「わかりました!!」

 

 アリスはジュリと一緒に、串に野菜とお肉を刺していく作業をするのだった。

 

 そうして、アリスが手伝いに奔走していると、イベントの時間が始まった。

 

 

「か、会長……」

「これは、予想外ですわね……」

 

 ハルナ達の想定は、当初は多くても千人程度だった。

 だが、当日はその倍近い人数が会場になる河川敷に集まっていた。

 

 この日は休日だったのもあり、大勢がこの場に集まっていた。

 

「うわーん、このミニゲーム忙しすぎです!!

 ば、バーベキューの串が全然間に合いません!!」

「こうなっては、火力が必要でしょうか!!」

 

 バーベキューはサービスとなっているので、串を焼くのを手伝うアリスは凄まじい行列に悲鳴を上げる。

 列を整理しているジュリが、銃を取り出そうとする始末である。

 

「ああもうジュリさん、止めて!!」

 

 アリスと一緒にバーベキューの串を焼いていた親衛隊が、ジュリを止めに入る。

 

「ええと、あんた!!」

「はい、アリスです!!」

「これ、持っていきなよ」

 

 一緒に串を焼いていた他の親衛隊が、アリスに焼けた串を押し付ける。

 

「お腹空いてるんでしょ。遅くなって悪かったわね」

「あ、ありがとうございます!!」

「働かざる者食うべからずだからね!!

 こっちはもう良いから、あっちで豚汁を貰ってきなさい」

 

 スタッフってことで並ばずに融通してもらえるから、と彼女はアリスを送り出した。

 

 アリスは大鍋の方へ向かって歩く。

 会場内の出店はどこも長蛇の列。

 

 イズミがプロデュースしたというコオロギの粉末を使用した料理のコーナーまで行列が出来ている始末である。

 

「順番に並んでくださいませ!!

 ちゃんと全員分ありますわ!!」

「こんにちわ、豚汁を貰いに来ました!!」

「あら、貴女は。助かりましたわ、こちらをどうぞ」

 

 ハルナが直接豚汁を大鍋からよそうというファン垂涎の行列の横から、アリスが話しかける。

 

「フウカさんの愛情こもった特製豚汁ですわ。

 こういった鍋物は大量に作った方が不思議と美味しく感じられます。ぜひ堪能してくださいな」

「ありがとうございます!!」

 

 笑みを浮かべるハルナからアリスはプラスチック容器入った豚汁を受け取った。

 

 その時である。

 

「おい、横から入るなよ!!」

「あッ、ごめんなさい」

 

 並んでいた客がアリスに野次を飛ばしたのである。

 

「こっちは三十分以上並んでるんだぞ!!」

「彼女はボランティアのスタッフですわ。数時間前から、このイベントの為に尽くして下さっていますのよ」

「は、ハルナ様……」

 

 ハルナがアリスを庇うと、ファンはすごすごと引き下がった。

 だが、これは発端に過ぎない。

 

「あ、あいつ、昨日放送でやってた兵器じゃ!!」

「本当だ!! なんでヤバい兵器がここに紛れ込んでるの!!」

「なんでハルナ様のイベントにあんなのが居るのよ!!」

「あっちで見かけたって聞いたけど、本当だったのかよ……」

 

 アリスの姿は、もうキヴォトス中に広まっている。

 そして、その喧騒は波紋のように大きくなる。

 

「なんで兵器がモノを食べるんだ?」

「機械ならガソリンでも食ってればいいのに」

「俺達のイベントの邪魔するなよ……」

 

 そんな心無い言葉が、次々とアリスに投げかけられる。

 

「あ、はは……あ、アリスは機械ですから、おかしいですよね。お腹が空くなんて……」

 

 波風を立たせないためか、或いは悲しみからか。

 アリスは愛想笑いを浮かべる他なかった。

 

 その瞬間、銃声が迸った。

 ハルナが愛銃を空に向けて撃ったのである。

 

「は、ハルナ様?」

「ハルナ様がご乱心よ!!」

 

 行列に並ぶファン達が騒然となる。

 

「お腹が空き、美味しい食事を求める。

 生きているという証明に、これ以上必要なことはありまして?」

 

 ハルナの愛銃の銃口が、行列を舐めまわすように向けられる。

 

「ここに集う全ての者は、食を愛する者のはず。違うのなら、去りなさい」

「ハルナ、炎上するわよ」

「おや、フウカさん。私のチャンネルは炎上していない時間の方が短いですわよ」

 

 大鍋をかき混ぜているフウカが、ジト目でハルナにそう言った。

 啖呵と共に大見得を切ったハルナは、楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

 静寂。そして。

 

「は、ハルナ様、私を撃ってぇええ!!」

「ハルナ様の生銃弾よ!!」

「私も、私もご褒美をください!!」

 

 ファン達が目の色を変えて大騒ぎを始めた。

 アリスのことなど、もうどうでも良いかのように。

 

「ほら、ハルナが相手をしてる間に、あっちのスタッフ用のテントで食べてきなって」

「あ、ありがとうございます」

「気にしないで。こっちも色々と助かったから」

 

 そう言って、フウカがアリスを送り出した。

 

 

「ねえねえ、ハチの子の炊き込みご飯食べる?

 美味しいし栄養もあるんだけど、あんまり人気なくて」

「わぁ、食べてみたいです!!」

 

 その後、アリスはイズミに昆虫食を勧められたり。

 

「給料は出ませんが、何かお礼をしないといけませんわね。

 なにか出店で奢りましょうか?」

「それなら、スクーターの燃料を分けてくれると嬉しいです!!」

「では屋台の店主たちに掛け合って、分けて貰えるように手配しておきますわ」

「うわぁ、助かります!!

 

 アカリにそんな提案をされ、喜ぶアリス。

 

 イベントは、食材が無くなり次第終了となる。

 豚汁もバーベキューも、お昼前には全て品切れになってしまったのである。

 あとはステージでの催しや出店があるくらいで、何割かは既に帰ってしまっていた。

 

「今日は助かりました。

 クエストは完了の報告をしておきますわ。

 仕事内容以上に手伝って貰ってしまって、申し訳ありません」

「いえ、こちらも燃料とか、よくして貰いました!!

 良ければ片付けもお手伝いしましょうか?」

「それには及びませんわ。貴女には、まだやることがあるのでしょう?」

「……はい!! 今度、ゲヘナの食堂に食べに行きますね!!」

「ええ、フウカさん共々、お待ちしておりますわ」

 

 アリスはハルナと別れ、スクーターに跨る。

 勇者の旅は、まだまだ始まったばかりである。

 

 

 

 ゲヘナ自治区を走行するアリスは、すぐに次の騒動に直面した。

 

「こちら風紀委員会だ!!

 ただちにこのバカ騒ぎを終わりにしろ!!」

「ヒナは引退したんだ、今日こそ目に物みせてやれ!!」

 

 市街地で風紀委員会と暴徒が激突していたのである。

 

「これは、新しいイベントの予感です!!」

 

 加勢しようと、アリスがレールガンの電源をスタンバイしたその時であった。

 

 突如として暴徒達側が、爆発して吹っ飛んだのである。

 

「報告です、ヘルメット団らしき武装集団が作戦領域に乱入!!」

「ちッ、面倒なことになったな。このまま乱戦になるか」

 

 委員長代行として指揮を執るイオリが舌打ちをした。

 

「いえ、イオリ。様子がおかしいです」

「なに?」

 

 補佐に回っているチナツが、指差す。

 

 ヘルメット団の統率が、異様に取れているのだ。

 彼女らは暴徒を敵とみなし、攻撃を仕掛けていた。

 

 そして、瞬く間に暴徒を蹴散らし始めた。

 

「聞け、雑魚どもと風紀委員会!!」

「我らヘルメット団の総長がお出ましだ!!」

 

 趨勢が決しようとした頃、拡声器でヘルメット団が戦場に大声を挙げる。

 

「ヘルメット団に総長だって?」

「あのまとまりの無い連中に、ボスが居たんですか!?」

 

 イオリとチナツも驚愕する。

 ヘルメット団と言えば、分派が多すぎてその全容は誰も把握していない不良集団であり、極論言えば今日ヘルメットを買って被れば名乗れてしまうような集団なのだ。

 犯罪組織と言うより、最早ミームと化した犯罪集団なのである。

 

 それにボスが登場したと言うことは、高度な組織化がされるということでもあり、脅威度が跳ねあがることを意味していた。

 

「さあ、ボス、道を掃除しておきました!!」

「――ありがとう。相変わらず、ここはただ道を歩くこともできないわね」

 

 ヘルメット団がボスと崇める生徒は、戦国武将のような大仰で禍々しい角の装飾がされたヘルメットを被り、側近を侍らせ堂々と道を歩く。

 

「さあ、恐れ戦け。この御方こそ、我らのボス!!

 その名も、ファム様だ!!」

「そして私は側近のマッドカウです」

 

 露払いを部下に任せ、堂々と道を歩く二人。

 それを見て、イオリはこう言った。

 

「な、何をしてるんですか――ヒナ委員長!!」

「ヒナ委員長? いいえ、私はファムだけど?」

「その通りです!! この御方の名前を間違えるとは、相変わらず杜撰ですね、イオリ!!」

「アコちゃん!! アコちゃんこそ、相変わらず色々とはみ出てるじゃん!!」

 

 見覚えのある凸凹コンビの登場に、イオリのツッコミが追いつかない。

 

「な、なにをしているんですか、アコさん……」

「私はマッドカウだと言っているでしょう、チナツ」

 

 引退したと思ったら、犯罪集団に与してる元上司たちに唖然とするチナツだった。

 

「おうおう、うちのボスに何か文句でもあんのかぁ、ああん!!」

「うちらが怖いなら、引退した委員長を呼んでもいいんだぜぇ!!」

 

 二人を煽り出す、ヘルメット団にイラっとする二人だった。

 

「風紀委員会が、こんなに腰抜けだとは知らなかったわ」

「きっと、あの偉大な風紀委員長が居なければ何もできない連中だったのでしょう」

 

 そして当人たちまでそんなことを言い出す始末だった。

 

「ふ、風紀委員の公務を邪魔する奴は、全員敵だ!! 犯罪者どもを全員逮捕しろ!!」

 

 イオリの号令に、風紀委員が戦闘を開始する。

 

「さあ、ファム様。貴女のカリスマを示す時です!!」

「ええ」

 

 恭しく荷物持ちをしていた側近が、ボスの愛銃を差し出す。

 彼女はそれを受け取り、敵勢となる風紀委員達を示した。

 

「私の可愛い配下たち、私についてきなさい」

「了解、お前ら、ボスに続けぇ!!」

「お前らのデカい顔も今日までだ!!」

 

 最高潮の士気のヘルメット団と、風紀委員が激突する。

 

「付近の生徒に、援軍要請をします!!」

 

 チナツがポーンマスアプリで、クエストを依頼した。

 当然、その依頼はアリスにも届いた。

 

「任せてください、勇者アリスの登場です!!」

 

 そして開幕と同時に、アリスはレールガンをぶっ放した!!

 

 

 

 




アニメの風紀委員会が思った以上に人通りの多い市街地に攻撃しててワロタww
もっと人通りの無いゴーストタウンで戦ってるものだと……。

ヒナちゃんの登場、楽しみですねぇ!!

ではまた次回!!

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